孫呉の未来を担う若手の将のひとり、周欽こと海は休暇を利用して建業郊外の平野にやって来ていた。
「いつ来てもこの場所はいいなぁ~!」
う~んっと背伸びをして凝り固まった体の力を抜く。見渡す限り緑色の草原が広がるここは彼女のお気に入りの場所だった。しばらく草原の澄んだ風をその身に浴びていた海は右腕を横に伸ばして、指笛を鳴らす。すると風を裂く音と共に一羽の鷲が彼女の右腕に止まった。
「弥八郎、綺麗な青空だろー」
彼女は周家の邸宅で鷲や鷹といったような猛禽類を数羽飼育している。周家の主である明命は最後まで反対したのだが「お猫様を食べないようにしっかり教育してください!」と半泣きで言われて飼い始めた猛禽類達。現在連れている弥八郎はそのうちの一羽である。
「ふー。やっと追い付いたよ、海さん」
今日海は一人ではなかった。後ろから蜀の皇子である劉永が今日のお供だ。彼は馬から降りると手拭いで額にかいた汗をぬぐう。
「劉永様、本当に朝早起きしてきましたねー」
「猛禽類が自由に羽ばたく姿って見てみたかったからね~」
それは昨日の昼の事だった。
「へぇ、海さんって鷲を飼育しているんですか」
そんな会話は建業城下の飲食店で行われた。街をぶらぶら歩いていた劉永は警邏を終えて城に戻ろうとしていた海と偶然出会って、彼女を昼食に誘ったのだ。そこで海が飼育しているペットの話で盛り上がっていたのだ。
「うん。家に7羽くらいいるんだ。みんな凛々しくていい子達だよ。そうだ、劉永様。明日の朝な、鷹狩に行くんだ。一緒に行かないっすか?」
「あ、それいいね。僕も連れて行ってよ」
と言う訳で今に至る。
「なんて言うか・・・」
「?」
ぽつりと漏らした劉永に振り向いてキョトンとした顔を見せる海。劉永は照れくさそうに頭をかいて
「なんか早朝デートって結構いいものだなって思ってた」
「んなっ!」
劉永の『デート』発言にボッと真っ赤になる海。彼女の右腕に止まっている弥八郎はいきなり大声を出した飼い主に抗議するようにバタバタと羽をはばたかせて少し暴れた。
「なななな、何言ってんですか!?一軍の将にすぎないあたしと殿下がデートなんて・・・」
最後の方が尻すぼみになって劉永にはよく聞こえなかったが、彼は明らかに父の種馬遺伝子を引き継いでいるという事は明らかになった。
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今回は超短編、海ルートです。
ちょっとネタ切れ気味・・・