No.821215 真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」第八十四話(最終話)2015-12-27 19:39:30 投稿 / 全9ページ 総閲覧数:5379 閲覧ユーザー数:4012 |
「陛下、おめでとうございます!」
「ありがとう…しかし、ようやくこれで妾も皆と同じに子を授かる事が出来た。まさか此処まで
かかるとは思わなんだがな」
大陸に平和が戻って五年の月日が流れ、戦いの日々が昔語りになりつつあるこの日、漢におい
てさらに吉事となる出来事…皇帝陛下である命に子が産まれた事に官民挙げて祝賀ムードに包
まれていたのであった。無論、その父親は…。
「そう言われてもなぁ~…俺だって色々試したんだぞ?」
「妾とて一刀が何も考えてくれなんだと思っているわけでは無いぞ?でも…他の皆は二年位で授
かったというのに、妾だけ五年もかかったのじゃ。少し位愚痴を言わせぬか」
命は子供の父親であり、最愛の夫でもある『大将軍・北郷一刀』とそんな軽口を叩きあってい
たのであった。
命の言う通り、戦いが終わって二年以内に輝里を皮切りに北郷組の面々・月・瑠菜・樹季菜・
凪・華琳・小蓮と次々に一刀の子供を授かり、挙句の果てに何時の間にやら白蓮・仄・雫まで
も子供を授かっていったというのに、命にだけはなかなかその兆候が無く、一時期本気で自分
は石女なんじゃないかと悩んだ時期まであった程だったので、こうして自分も子を授かった事
に命は人一倍喜びを感じていたのであった。
ちなみに、夢は既に第二子を妊娠中・空も最近一刀の子供を出産し、現在静養中である。
「しかしそう考えるとお主もほんに罪作りな男よのぉ。一体後何人子を作るつもりじゃ?市井の
者達も『何時の日かこの国は北郷様の子供で埋め尽くされるに違いない』などと言っておるそ
うじゃしの」
「…返す言葉もありません」
「ふふ、しかしのぉ…妾はお主に感謝しておるのじゃ」
「感謝?」
「ああ、本当にもしあの時、一刀が妾達の前で行き倒れておらんかったら…一刀が妾達に力を貸
してくれなんだら、今頃漢という国は無くなっていたかもしれんし、妾達もこんなに幸せな気
持ちで過ごせなんだかもしれんしの」
命のその言葉は心の底からの物であった。一刀は命を始め皆のそういう顔を見る事にまた幸せ
を感じていたのであった。
・・・・・・・
「ところで…及川は今どの辺りにおるのじゃ?もうかなりの間帰って来ておらんのじゃろう?」
「この間一時帰国した人和の話だと、五胡の部族の中でも最も北方にいる部族の所でコンサート
をやっているって事だったし…早くても後一年はあっちの方にいるんじゃないかな?」
「それはまた遠い所まで行ったものじゃのぉ」
「随分と地和が張り切っているらしい…途中で一年半程の中断を余儀なくされたからそれを一気
に取り戻すって」
「そうかそうか、まさか地和も自分が双子の母親になろうとは思いもよらなかったじゃろうしの
…歌い手の仕事と母親の両立も大変そうじゃがな」
「子育ての方は父親がかなり率先してやっているみたいだけどね」
「ほぅ…確かに及川はなかなかこまめな奴じゃからな。夫婦仲が良くて何よりじゃ」
「でもまだ喧嘩ばかりらしいけど」
「まさに『喧嘩する程…』とかいうやつじゃろう。あの二人を見ていると良く分かるぞ」
命はそう言って笑っていた。そして今話にあった通り、及川と地和は三年程前に夫婦となって
双子の女の子を儲けていた。及川は三姉妹のマネージャー業と父親と主夫の三足のわらじ状態
で忙しくも充実した毎日を過ごしているらしい…これは全て閨で人和から聞いた話ではあるの
だが。
(ちなみに天和は『みんなの天和』とかいうフレーズで目下アイドル稼業に全身全霊である)
「そういえば、二日前に鈴音から手紙が来ておったぞ」
「ああ、こっちにも来てたよ。李厳さんと摩利さんが祝言を挙げたって…事前に言ってくれれば
駆け付けたのに。もしかしたら命が臨月だったから気を遣ってくれたのかもしれないけど」
「じゃとしたら少々悪い事をしたかの?もう少し体調が回復したら益州にドカンと祝いの品を送
り届けねばな」
お祝いの品か…なかなか益州まで行けてないし、直接持っていくのもありかな?なかなか鈴音
や一音の顔も見れないし。
「一応言っておくが…もしお主が直接益州まで行こうというのなら、せめて妾が起き上がれるよ
うになってからじゃぞ。さもないと、妾は生きたままお主を呪い出すやもしれんからのぉ」
…心の中を読むのはやめて欲しいのだが。それとも俺は顔に出やすいのだろうか?
「ところで、話は変わるのじゃが…三日前に葵がお主の家に来たらしいのぉ?仄と雫の子の様子
でも聞いておったのか?それとも蒲公英の子の顔を見に来たとかか?」
「それもあるんだけど…葵さんが俺に是非にとお願いしたい事があるって」
「お願い?お主に直接とは珍しい話じゃな?」
「ああ、一体何事かと思ったら…『翠の事ももらってやって欲しい』って」
「なぬ?」
「何でも最近、翠がすっかり男ばりにガサツになっていく一方だから、子供でも出来れば多少は
マシになるんじゃないかって…蒲公英と仄と雫をもらってくれたんだから三人も四人も変わら
んだろうとか…」
「そんなにひどいのか?」
「最近一人称が『俺』になって、服装も男物ばかり着るようになってるらしい。このままじゃ顔
に髭が生えてくるのも時間の問題じゃないかって本気で悩んでいた」
「…それはまた。髭は本当に生えてきそうな気がして怖いのぉ。それで?一刀はその話を受ける
のか?」
「俺は『あくまでも翠本人の気持ち次第』と答えたんだけど…」
「けど?」
「そうしたら、葵さんは『だったらすぐに翠を連れて戻って来る』と凄まじく張り切って武威に
帰っていった」
「…葵の事じゃから本気で連れてくるじゃろうな」
そう言う命の顔はひきつり気味になっていた。
ちなみに一ヶ月後、本当に葵さんは翠を連れて…というよりほぼ無理やり首に縄を付けて引き
ずるようにして戻って来て『それじゃ後はよろしく』と言って翠を置いて帰っていったのであ
った。とはいえ、いきなりそうなるわけでもなく、しばらくは蒲公英の居候状態で滞在という
事になり、結局俺と翠がそうなるのはさらに一年近く後の事であった。
・・・・・・・
「ちちうえ~!」
そう言ってひょっこり顔を出したのは照刀であった。
「何だ、照刀も妹の顔を見に来たのか?」(命が産んだのは女の子である)
「うん!ははうえと命おb『ギロッ!』…命さまの様子を様子を見に来たんです」
(命は伯母上と呼ばれる事を嫌がっている為、照刀がそう言いかける度に怖い眼で睨んでいたり
する)
「姉様の顔色も随分と良くなってきましたね。出産前後はあんなに青い顔をしていたというのに」
照刀の後ろから夢も顔を出す。
「ああ、この通りじゃ。しかし夢こそ安静にしておらんで良いのか?」
「華佗から許可は出ています。むしろ少し位動いた方が身体にもお腹の子にも良いとの事ですし」
「何だ、夢も来ていたのか」
そこに産まれたばかりの子供を抱いた(しかもこちらは双子である)空様もやってくる。
「空おばあさま、こんにちは。お身体は大丈夫ですか?」
「おお、照刀。ばばの心配をしてくれるとは何時もながら良い子だな」
空様はそう言って嬉しそうに眼を細めながら照刀の頭をなでる。ちなみに空様はおばあさんと
呼ばれる事に特に嫌悪感は感じていないらしい(孫が産まれれば、ばばあになるのは当たり前
だというのが本人の言葉である)。
「しかしこうやって照刀が自分の足で歩いて来るのを見ると、随分と時間が経ったと感じるのぉ」
「はい、何せ一刀の一番初めの子ですから」
夢はそう言って少し誇らしげに胸を張る。
「むぅ…少々早く子を授かった位で」
「早く、だけじゃなくて此処に二人目がいるのも今は私だけです」
「それを言うなら私には既に二人いるから私の勝ちだな」
夢と命の軽口の応酬に空様がそう言って加わると、二人は少しムッとした顔をする。
「母様、別に私達は子供の人数で競っていたわけではありませんけど?」
「そうです、それに妾とてまだまだ一刀の子供を産むのですから。仮に人数だけというのなら十
年後には逆転とて有り得ますから」
「ほぅ…ならば私はもう年寄りだから子供は産めないとでも言うのか?」
「年寄りなどとは…でも母様ももう少しご自分のお身体の事をお考えになられた方がよろしいの
ではないかと。のぉ、夢?」
「はい、子供を産むのはこれからは私達にお任せを」
「ちちうえ…おばあさま達は一体何の話をしているのです?」
「とりあえず照刀はまだ知らなくて良い話だから少し散歩に行こうか?」
「はい!」
何やら険悪な雰囲気を漂わせる三人から避難する形で俺は照刀を連れて外に出たのであった…
っていうか、子供の前でよくあんな話を…そしてその雰囲気の中ですやすや寝ている赤ん坊達
も並みの神経じゃない。さすがというべきか。
・・・・・・・
「さて、着いたぞ。此処で良いのか?」
「うん」
照刀に乞われるがままにやってきたのは、城壁の上であった。そして照刀は着くなり眼下に広
がる洛陽の街をジッと見つめていた。
「何か面白い物でもあるのか?」
「この街はちちうえや命さまやははうえ達が守ってきた街なんですよね?」
「ああ」
「此処から見える人達の顔は皆楽しそうにしています。僕もみんなにああいう顔でいてもらえる
ようになりたい…どうすればなれますか?」
照刀はそう言ってジッと俺の顔を見つめる…少々予想外の質問にびっくりするばかりだ。まだ
まだいたいけな子供だとばかり思っていたけど、照刀は照刀なりに皇族としての矜持が育ちつ
つあるようだ。
「どうすれば、か…まずは勉強、そして武の鍛錬だな。そして後必要なのは…自分の側に常に耳
の痛い事を言ってくれる者を置く事だ」
「耳の痛い事を言う人…王允のじいのような?」
「ああ、耳ざわりの良い事だけを言う者ばかりを置いた権力者は遠からず滅ぶ。耳の痛い事を言
う者の言葉に耳を傾ける事が上に立つ者として必要な事だ…なかなか難しい事だけどね」
照刀に言っておきながら、自分自身何処まで実行出来ているのか自信の無い話なのではあるが。
「うん、ちちうえの言う通りにがんばる。そして妹が皇帝になったらそれをささえる」
何処まで理解したのかは分からないが、照刀はそう力強く言っていた。その顔を見ながら俺は
照刀達がこの国の舵取りを担う時が来るまでしっかり頑張っていく事を心に改めて刻んだので
あった。照刀の言葉ではないが、洛陽そしてこの国の皆が心から楽しそうな顔で過ごせるよう
に…まだまだ道のり半ばだけど。そう思いながら俺はしばらくそのまま照刀と共に街とそこか
ら広がる景色を眺めていたのであった。
・・・・・・・
その後の話を少しだけしておくと、命の次に皇帝になったのは照刀であった。何故かというと、
命の子は生まれつき眼が見えない事が発覚したからである。眼が見えないのであれば皆でそれ
を支えれば良いという意見もあったのだが、とりあえずはという形で照刀が即位する事になっ
たのであった。照刀自身もそれを生涯気にかけ、折に触れて命の子に譲位しようとしたのであ
ったが、本人が最期まで自分が即位する事を拒んだ為、照刀の後は照刀の子・孫と夢の血統が
継いでいく事になる。(その後、俺と命との間に子供が産まれる事は無かった)しかし、命の
子は眼が見えないながらもその代わりになるようにと付けられた北郷組直属の諜報部隊の長と
して常に大陸全ての情報をその手に握り、照刀の補佐に徹した生涯を過ごしたのであった。ち
なみに命の子は義真さんの子と結婚し、その間に産まれた子が成人すると同時に諜報部隊も引
き継がせ、命の血統はそのまま漢直属となった諜報部隊の長として代々続いていく事となるの
である。
(余談ではあるが、命の子が産んだ子は照刀にあまりにも似ていた為、実の父親は照刀ではない
かというまことしやかな噂が流れる事になるのだが、それはまた別の話である)
「一刀、照刀、此処でしたか」
「ははうえ~」
少々物思いにふけっていた所に夢がやってきて、照刀はすぐさま夢の所に駆け寄る。そういう
所はまだまだ子供だな。
「一刀、姉様が『妾が動けん事を知っておりながら何処をほっつき歩いておるのじゃ』とかなり
ご機嫌が悪くなっていますから戻りましょう」
「ああ、わかった。産後間もない陛下を怒らせるわけにはいかないからな。夢も無理はするなよ。
大事な身体なのは一緒なんだから」
「ふふ、ありがとう…さあ、行きましょう。姉様と母様が待っていますよ」
そして俺は夢と照刀と共に命達のいる部屋…俺達の居場所へと戻って行く。
でも、これで全てが終わるわけでは無い。これからの人生まだまだ色々な事が起きてその度に
一喜一憂したり大騒動になったりするのだろう…でも、きっと大丈夫。命達と出会って此処ま
で過ごした日々がそれぞれの糧となってこれからの苦難も乗り越える力となる、俺はそう信じ
ている。ただ一つだけ願わずにいられないのは…。
‐これからも、我々家族と仲間達が幸せに暮らせますように‐
「何か言いましたか?」
「いや、何も」
「一刀、何をやっておった。妾は動けんのじゃ、勝手に何処かへ行くでない」
「そうだ、次は私も連れて行け」
俺は命と空様の言葉に少しばかり苦笑いを浮かべながら、家族の所へと戻って行くのであった。
真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」 完。
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
我ながら色々と中途半端な状態のような気もしますが、これでこの外史に
おける一刀や命達の話は終わりです。
無論、この後も一刀達の生活は続いていくのですが…それは皆さまのご想
像にお任せいたします。
本当は全員登場させたかったのですが、そうすると何ページあっても足り
なくなってしまうので、最後はメインヒロインのみの登場とさせていただ
きました。
それと、命や空の子供達の名前を付けなかったのはわざと…だったら良か
ったのですが、すぐには思いつきませんでしたので、此処では少々ぼかし
た表現にしてしまい申し訳ございません。もしかしたらその内発表したり
するかもしれませんが…リクエストがあれば、ですけどね。
さて、次回作なのですが…全然ネタが思いつきません。次回も一刀主人公
でいくか、オリ主にするか…ヒロインを誰にするか…長編にするネタが出
来たらまた発表させていただきますので。それとは別に偽予告的な物を二
つばかり発表させていただきます。あくまでも偽予告ですのでお間違えの
無きように。
それではまた会う日まで。
追伸 及川と地和の事はご不快な方もおられるでしょうが、ご容赦の程を。
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お待たせしました!
二年以上に渡ってお送りしてきましたこのお話も
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