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戦国†恋姫 三人の天の御遣い    其ノ十一

雷起さん

これは【真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第二章『三爸爸†無双』】の外伝になります。
戦国†恋姫の主人公新田剣丞は登場せず、聖刀、祉狼、昴の三人がその代わりを務めます。

*ヒロイン達におねショタ補正が入っているキャラがいますのでご注意下さい。

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2015-09-15 03:15:23 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:1933   閲覧ユーザー数:1660

 

戦国†恋姫  三人の天の御遣い

『聖刀・祉狼・昴の探検隊(戦国編)』

 其ノ十一 ~風雲!観音寺城!!~

 

 

 江南の五個荘(ごかしょう)に建つ天主教の教会で、祉狼とエーリカから話を聞いた梅は礼拝堂へゴットヴェイドー隊を迎え入れた。

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああっ!!」

 

 そして梅は漢女を目にして乙女にあるまじき声を楳図かずお調の顔で叫んだ。

 

「なんですのっ!?なんですのっ!?なんですのっ!?アレはいったいっ!?」

 

 怯えて涙を流しながら震える指で貂蝉と卑弥呼を差す梅に、エーリカは落ち着いてその手を握り、口の前で人差し指を立てた。

 

「(梅殿がこちら側の方で安心しました……それはさて置き、あちらのお二方は貂蝉さまと卑弥呼さまです。祉狼さまの噂をご存知の梅殿ならばお名前を聞いた事がお有りでしょう?稲葉山城に祉狼さまと突入したのがあのお二方です。)」

「(アレがっ!?わたくしが聞いた話では美しく凛々しい戦乙女でしたわよっ!)」

 

「あ〜らどうしたの、エーリカちゃ〜ん?」

「何やら私達の事を話しておった様だが?」

 

 貂蝉と卑弥呼の地獄耳がしっかりと会話を捉えた様だ。

 

「いえ、こちらの蒲生賦秀殿が『あちらの美しく凛々しい戦漢女はどなたですか』と尋ねられていたのですよ。」

 

 エーリカもすっかり漢女の扱いに慣れて、こんな言い訳がスラスラ出て来る。

 

「あぁ〜ら♪そんな本当のコト、コソコソ言わなくってもいいのよぉ〜〜♪」

「がっはっはっはっ♪うむ、良い目をしておる♪見込みのある娘だの♪」

 

「は……はあ……」

 

 引きつった顔で曖昧に答える梅に、祉狼が笑顔で肩を叩いた。

 

「貂蝉と卑弥呼は俺を生まれた時から見守ってくれてるんだ♪梅も困った事が有ったら頼りにするといいぞ♪」

「え、ええ………そ、その時が万が一にも来たらお願いする可能性が有るかも無いかも…ゴニョゴニョ…………」

 

 出来れば関わりたく無いが祉狼の言葉は否定したくない梅は、自分でも何を言っているのか判らない返事をした。

 

「それじゃあ、梅♪みんなに自己紹介をしてくれ♪」

「は、はい、ハニー♪」

 

 気を取り直して礼拝堂の中を見渡せば、二十近い人数が自分を見ている。

 その中に祉狼と同じ服を着た男性と、似た感じの白い服を着た少女を見付け、この二人が聖刀と昴であろうと目星を付けた。

 梅は恋人の家族に挨拶をする気持ちで居住まいを正し、胸を張って自己紹介を始める。

 

「初めまして、織田家中ゴットヴェイドー隊の皆様。この度はようこそおいで下さいましたわ♪わたくしは蒲生忠三郎賦秀。通称は梅ですわ♪」

 

 しっかりと挨拶が出来た事で落ち着いた梅は、自分のペースを取り戻して更に言葉を続ける。

 

「お話はハニーとエーリカさんからお聞きしました。我が母蒲生賢秀(がもうかたひで)と、観音寺城城主六角承禎様を説得して織田久遠さまに降らせるおつもりだと。」

 

 梅は意気込んで話しているが、聞き手の殆どが『ハニー』の意味が判らず首を傾げて、話が頭に入っていなかった。

 これでは埒が開かないと、代表して雹子が前に出て梅に問い掛ける。

 

「梅殿、『埴井(はにい)』殿とはどなたの事でしょう?」

「あら♪申し訳ありません♪ハニーとは西洋の言葉で『愛しの君』の事ですわ♪ねえ、エーリカさん♪」

「正確にはイングランドの言葉で『蜂蜜』の事ですが………まあ、間違っておりません。」

 

 雹子の眉がピクリと反応する。

 

「その『愛しの君』とは…………祉狼さまの事と受け取って間違いございませんか?」

 

 怒りを堪えて雹子は声を絞り出した。

 そんな相手の様子に気付かない梅は、ニコニコと笑顔で返事をする。

 

「ええ♪それは勿論♪」

「梅殿はついさっき祉狼さまと初めてお会いしたばかり!それが祉狼さまを『愛しの君』と呼ぶ理由をお聞かせ願いたい!」

 

 梅は目を輝かせて我が意を得たりと語りだす。

 

「わたくしは蒲生賢秀の三女ではありますが、以前から織田久遠さまに憧れておりましたの♪数々の革新的な政策や軍略で尾張清州を治め田楽狭間で今川義元公を打ち破られましたわ♪そしてその田楽狭間で降臨された天人衆を保護されるなど慈愛も持ち合わせておいでです♪頭の固い老人では決してその様な決断を下さないでしょう!それに皆様ゴットヴェイドー隊の発足!その活動はこの江南の地にも届いておりますわ♪大きな慈悲を以て病に苦しむ民を救って回るなんて、正にでうす様の教えの具現ではありませんの♪しかも墨俣に一夜で城を築き!たった三人で稲葉山城を陥落なさる武力をお持ちの方が、この様に愛らしき少年だなんて!お慕いするに決まっているではありませんの♥」

 

 一気に捲し立てられて雹子は少々たじろぐが、それが本心だと理解する。

 普段から森の母娘を相手にしているので、目の動きや表情や仕草から気持ちを感じ取る事に長けていた。

 

「成程、梅殿のお気持ちは判りました。ですがっ!」

 

 梅はまさか否定の言葉が出るとは思っておらず、驚いて硬直する。

 

「祉狼さまの偉業はそれだけに留まらず!鬼にされた人間を元に戻してみせたのですっ!それに祉狼さまを愛らしいと仰いましたが!その程度の表現では足りません!祉狼さまは超絶可愛く!超絶逞しく!雄々しくっ!ご立派な方なのですっ!私など何度も極楽に導かれました事か♥」

「雹子っ!何を言っているのですかっ!!」

 

 エーリカが真っ赤になって雹子の口を塞いだ。

 

「極楽に?」

 

 首を捻る梅に祉狼が口を開き掛けた所で、詩乃が慌てて飛び出した。

 

「梅殿!今からゴットヴェイドー隊の事をご説明致しますが!その前にひとつだけ確認したいのですが宜しいでしょうか?」

「はい、なんですの?」

 

「我等がここに訪れた目的は祉狼さまとエーリカさんがお話した通りですが、梅殿は久遠さまに降って下さるのですね?」

「ええ♪今の六角承禎様では、将来江南の民が苦しむのは火を見るより明らかですわ。わたくしは最悪、母と袂を分かつ覚悟を以てこの場におります!」

「その覚悟、しかと伺いました。私の名は竹中半兵衛重治。通称を詩乃と申します。」

「あなたが『今孔明』の!」

「それは後にしまして、ゴットヴェイドー隊の現状をお話致しましょう。」

 

 詩乃は久遠が進めている祉狼を元の世界に返さない方策も含めて説明をした。

 

「…………では、ハニーのお嫁さんは久遠さまを筆頭に現在十二名いらっしゃいますのね………」

「はい。梅殿が祉狼さまに憧れているのは解りますが、いずれは愛妾にとお考えでしたら受け入れて下さらねば話が進みません。どうでしょう、考えを改められますか?」

 

 当初の久遠の考えでは十人も居れば大丈夫と見ていたのだから、数の上ではその目的はもう充分に達成していた。

 それにまだ梅には伝えていないが、京には一葉と双葉が待っている。

 そして祉狼にも伝えていない計画が一葉との婚姻の後に動き出す事になっていた。

 

 鬼と、いやザビエルと戦う為に、諸大名が団結する要を祉狼と昴にしてもらうのだ。

 

 公方の夫となる祉狼は勿論だが、昴もその役を担うのは、鞠の夫となった事で『足利家と姻戚関係にある天人』となったからだ。

 下手をすると日の本の勢力が将来『祉狼派』と『昴派』に分かれる危険性も在るが、聖刀と相談して善後策が現在も練られている。

 梅がもし、祉狼にこれだけの嫁の居る事が不快だと言い出たなら、それは仕方の無い事だと覚悟を決めてある。

 後で『騙した』と言われて祉狼の名に傷が付くよりは、蒲生賢秀に渡りを着ける別の方法を模索する方が何十倍も気が楽だと詩乃は考えていた。

 

「ではわたくしもハニーの愛妾にして頂く事はできます?ハニーがこの日の本に留まって頂く為の楔のひとつになれるのなら、こんなに栄誉な事はございませんわ♪」

 

 どうやら詩乃の考えは杞憂に終わった様だ。

 しかし、それはそれで恋敵の増加を意味するのだから複雑な想いの詩乃だった。

 

「奥を管理されていらっしゃるのは、第二夫人の斎藤帰蝶さま、通称は結菜さまです。結菜さまのお許しを頂くまでは、私の権限で『愛妾候補』とさせていただきますが、宜しいか。」

 

「愛とは耐え忍ぶ物ですわ♪むしろ何の手柄も立てずに愛妾にして頂くなど、この蒲生忠三郎の矜持がゆるしません!必ずや、我が母蒲生賢秀を説得してみせますわ♪おーーーーーーっほっほっほっ♪」

 

 この高笑いを見て、昴が聖刀へ耳打ちする。

 

「(聖刀さま………この人、麗羽様だけではなく、美羽様の要素も持ち合わせていませんか?祉狼を蜂蜜に例えるなんて。)」

「(ははは♪まあ、悪い子じゃないみたいだから良いんじゃないかな♪)」

 

 

 

 

「梅殿、賢秀様の説得は我々が致しますので、人知れずお会いする場を設けて頂けないでしょうか。」

 

 詩乃の提案に梅は少し考え込む。

 

「これだけの人数と密かに会うのは難しいと思いますわよ?」

「いえ、こちらは祉狼さまと私とエーリカさん、後二名くらいのつもりでいます。他の者はこの地で鬼退治と病に苦しんでいる民の治療に向かいますので。」

「鬼退治ですの!?それならわたくしもご一緒したいですわ♪」

「あの…………梅殿が居て頂かないと賢秀様にお会い出来ないのでずけど…………」

「あ、あら………そうでしたわね…わたくしとした事が、お恥ずかしいですわ♪」

 

 今のは腹芸でも何でも無く、武人として反射的に出た言葉だと理解して、詩乃は梅がそっち側の人間だと心の中で区分した。

 

「鬼退治は鞠達がするから、梅ちゃんは祉狼お兄ちゃんのお手伝いをして欲しいの♪」

 

 割って入って来た小さな姿に、梅は少し驚いてから昴の噂を思い出す。

 

(この子はもうひとりの天人様のお嫁さんなのですわね。こんな小さな子でも武家の娘の覚悟が出来ていますわ。)

 

 腰を落として鞠の目線に合わせ、大人の余裕で微笑み掛ける。

 

「良い覚悟ですけど無理は禁物ですわよ♪」

「うんなの♪」

「良いお返事ですわ♪お名前は何と仰いますの♪」

 

「鞠はね♪今川治部大輔彦五郎氏真って言うの♪よろしくね、梅ちゃん♪」

 

 

「今川っ!?治部大輔さまあっっ!?」

 

 

 梅は腰を落とした状態から、まるで『身分』と言う名の圧力に押し潰される様にひれ伏した。

 

「し、知らぬ事とはいえ失礼を致しましたっ!」

「ああん!そんな畏まらないでなのっ!」

 

 鞠が困って祉狼達を振り返る。

 詩乃が苦笑いで頷き、膝を着いて梅に説明した。

 

「梅殿、鞠さんは駿府屋形を武田信虎殿に乗っ取られ、昴さんを頼って落ち延びられました。現在は一介の武士として織田家に仕え、ひとりの女性として昴さんに嫁がれています。鞠さんが祉狼さまを兄と慕っていますので、私達は鞠さんを義妹として扱う事に致しました。梅殿も祉狼さまの愛妾となった時の為にそうして下さい。」

 

 梅が顔を上げると、鞠がニッコリ笑って手を取った。

 

「妹…………わたくし末っ子ですので妹が欲しかったんですの♪鞠様、いえ、鞠さんの様な妹でしたら大歓迎ですわっ♪」

 

 梅は早速態度を改めて鞠を抱きしめた。

 

「と、それではわたくしの事ももっと親しく呼んで下さいませんこと?詩乃さん♪エーリカさん♪」

「「はい、梅さん♪」」

 

 梅は詩乃とエーリカに受け入れられた事に嬉しくなり、もっと他の人達とも挨拶をしようと振り返ると、聖刀と昴が近くまで来ていた。

 

「初めまして、梅ちゃん♪僕は北郷聖刀。祉狼の従兄です♪」

「はじめまして、梅さん♪私は孟興子度。通称は昴。鞠ちゃんの良人よ♪」

 

「はじめま「昴さまは鞠さまだけのお婿さんじゃないのですぅっ!」」

「そうですよ!昴さま!」

「小百合達を忘れないで下さいっ!」

 

 綾那が割り込んで昴にしがみ着くと、桃子と小百合も続いて昴に抱き着いた。

 小さな子に慕われる昴を見て梅は微笑んだ。

 

「ふふふ♪仲が良いのですわね♪昴さま♪」

「みんな可愛いお嫁さんだもの♪あ、私の事は昴ちゃんって呼んでね♪」

「ええと……昴さんでも宜しいですわよね………でも、女の子ばかりでは世継ぎの問題がございませんこと?」

 

「あ♪梅ちゃんも鞠と同じで間違えてるのっ♪」

「昴さまは男の人なのですっ♪」

「お世継ぎは桃子が産むから大丈夫です♪」

「あっ!ずるい!小百合だって負けないよ!この前ので孕めてるかも知れないんだから♪」

 

 梅は笑顔のまま固まった。

 昴が男だという事実と、目の前の『子供』だと思っていた年下の女の子達が女として自分より『大人』だと察したからだ。

 

「お………お盛んですのね…………」

「みんな可愛いお嫁さんだもの♪」

 

 さっきと同じ言葉が返って来たが、その意味の捉え方が大きく変わっていた。

 

 この後、全員が梅に自己紹介をしてから拠点とする宿へと移動する事となった。

 

 

 

 

 宿に着いたゴットヴェイドー隊は、落ち着く間もなく三班に分かれて行動を開始する。

 

「それでは昴さんを隊長とする鬼退治班は鞠さん、綾那さん、桃子さん、小百合さん、歌夜さん、雹子さん。」

 

 七人が頷くのを確認してから詩乃は続ける。

 

「情報収集班は祉狼さま、エーリカさん、ひよ、ころ、不干、夢、小波さん、美衣さん、貂蝉さま、卑弥呼さまです。そして私と聖刀さま、狸狐の三人は宿で指揮と本国への連絡を行います。梅さんは賢秀殿との会合日時が決まりましたら連絡をお願いします。」

 

 全員が頷いて立ち上がった。

 

 

 

〜情報収集班〜

 

 宿の玄関を出た所で小波が祉狼に声を掛ける。

 

「ご主人様、情報収集でしたら私に任せていただければ、子細調べてまいりますが……」

 

 小波は祉狼から三歩程離れた場所で背中と膝を若干曲げて恐縮しながら立っていた。

 不自然な姿勢の理由は、跪かないでくれと祉狼が言ったので、勝手に跪きそうになる体を頑張って立たせ、合わせて少しでも身体を小さくしようとしている所為だった。

 その姿を見たひよ子は身に覚えが有るので、力になってあげようと声を掛けた。

 

「あのぅ……小波ちゃん。もっと背筋を伸ばして♪それから情報収集はお頭のやり方を知って貰いたいから一緒に居てくれるかな♪」

「は、はぁ…………了解しました………」

 

 戸惑う小波に微笑んでからひよ子は祉狼に振り返る。

 

「それではお頭♪お願いします♪」

「ああ♪任せろ!はぁあああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 祉狼が往来の真ん中で氣を練り始めた。

 祉狼の氣を初めて見る小波はその強さに目を見開く。

 

「感じるぞ………病魔の気配……………病魔は…………こっちだっ!!」

 

 祉狼が指さした先は今出て来たばかりの宿だった。

 ひよ子がすかさず玄関に戻り、宿の人間を呼び止めた。

 

「すいません、今病気か怪我をしている人が居ませんか?」

「え?い、居ませんよ!」

 

 女中の少女は否定するが宿の奥をちらりと見た。

 宿屋の中に病人が居ると知られれば客足が遠のくので隠しているのだ。

 ひよ子は真剣な顔で女の子に詰め寄った。

 

「今から私達のお頭が治しますから案内してください♪」

 

「………は、はい…………こちらです………」

 

 女中の少女はひよ子の押しに負けた……訳ではなく、後ろに見える貂蝉と卑弥呼の姿に気圧されたのだった。

 

 

 

「ゴットヴェイドォオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 宿の主人が風邪を引いて寝込んでいたのを、祉狼が一発で完全に治療した。

 回復した宿の主人は畳に額を擦り付けて感謝し、謝礼をしようとしたが当然祉狼は笑って固辞し、次の患者を探しに宿を出て行ってしまう。

 ここからがひよ子や転子の出番だ。

 

「あの、本当にお代とかはいりません。ただ、この宿に居る間、治療を求めて人がやって来ると思います。そんな人が現れたら真夜中でも構いませんから、必ず私達の部屋に通してあげて下さい。ご迷惑とは思いますけどお願いします。」

 

「そんな事でよろしいのですか?……………もしや、あなた様方が美濃の五斗米道隊…」

 

 ひよ子は宿の主人の発音に祉狼が部屋を出て行った後で良かったと内心ホッとしていた。

 

「あ、やっぱり旅の人が噂とかしてます?」

「ええ♪それはもう♪まさか私が天人様に治していただけるとは………」

「私達が何の為にこの五個荘を訪れているかは………察してますよね。」

「そ、それは……………」

 

 宿の主人はどう答えた物かと躊躇った。

 織田軍による観音寺城攻めの偵察なのは、戦国の世で生きる者ならば誰でも察しが着くという物だ。

 

「江南でも鬼が現れていると美濃でも噂になっています。ですけど六角承禎様が鬼退治の指示を出されないので村々の人達が苦しんでいると聞いて、織田久遠さまは戦になるのを覚悟で私達を派遣したんです。」

「織田様はそこまで私共の様な下々の事をお考えくださっていらっしゃるのですか………」

「はい♪でも、うちのお頭は六角承禎様を説得して、和睦したいと考えていらっしゃいます。戦になればこの五個荘も影響が出ますよね。鬼が現れているのに人同士が争ってる場合じゃないんです!どうか協力して頂けないでしょうか!」

「協力と申されましても………私にできる事など………」

「六角承禎様を説得する材料が欲しいんです!その為に鬼退治と病気や怪我の治療を我々が行います!なので鬼と戦う兵や薬なんかの物資が大量に美濃から入って来るのを受け入れてくれるだけで良いんです!」

「………判りました。私ひとりでは大した役に立ちませんので、街の皆に声を掛けましょう。」

「お頭が今みたいに病気を治して回っているので、先ずはその人たちに話をしに行きましょう♪」

 

 宿屋という仕事上、人を見る目の肥えている主人はひよ子の笑顔に祉狼へ対する絶対の信頼を感じ取った。

 

「畏まりました。しがない宿の主人ではありますが、少しでも五斗米道隊のお役に立とうと思います。」

「ありがとうございますっ♪あ、あと、五斗米道じゃなくてゴットヴェイドーなので練習しといてくださいね♪」

「は?……………ご…ごっとべ………え?」

 

 後にこの主人は思い出話をする度に『最大の難問はこの発音だった』と語った。

 

 この様にして祉狼とゴットヴェイドー隊は次々に病気や怪我を治して協力者を増やし、情報を集めていった。

 

 

 

 

~鬼退治班~

 

 昴達は五十人の足軽を連れて南に向かい、伊賀との国境付近の山へと入った。

 

「歌夜ちゃんはこっちでよかったの?」

 

 昴が隣で手綱を握る歌夜に声を掛ける。

 鬼退治班で祉狼の嫁なのは歌夜と雹子だけで、雹子は元々森一家を纏め桐琴と小夜叉の世話をしなければならないので最初からこっちに組み込まれていたが、歌夜は希望すれば情報収集班に行くことも出来たのだ。

 

「正直に言うと祉狼さまと一緒に居たかったです。でも、結菜さまから出された禁で欲求不満が溜まっているので、ひと暴れして解消しようと思って♪」

 

「え?」

 

「ふふ♪冗談です♪家の者達に鬼との戦い方を慣れさせないとこれから先お役に立てません。」

「そ、そうよね。でもビックリしたぁ♪歌夜ちゃんからあんな言葉が出るとは思って無かったんだもん。」

「それは昴さんともっと仲良くなろうと思いまして♪これから長いお付き合いになるんですから、宜しくお願いしますね♪」

「うん♪たくさんお話してお互いよく知り合いましょう♪」

「ねえ、昴さん。綾那って小さい頃から恐い物知らずで勝手にどこかに行っちゃう子だったんですよ♪縁側から落ちて庭の池にはまったり、土手から落ちて川で流されたりしてましたけど、掠り傷ひとつ負わない子でした。」

「綾那ちゃんって今も肌に傷跡ひとつ無くて凄く綺麗なのよね♪」

 

 論点はそこでは無いのだが、ツッコミ役が居ないので会話はそのまま続く。

 

「祉狼は結構甘えん坊で泣き虫だったわよ♪お城で迷子になった時とか、皇帝陛下の人形を見て亡くなったと勘違いしてとか♪」

「はぁ♥泣いている小さな祉狼さま♥抱きしめて慰めたいです♥」

 

 話題がお互い自身の事では無いが、相手の一番喜ぶ話題を選ぶのだからロリコンとショタコンで通じ合う物が在るという事なのだろう。

 

「あ!ちょっと待って!全隊止まれ!」

 

 昴の号令で行軍が止まり、雹子が何事かと昴の所に馬を寄せた。

 

「どうしました、昴さん?」

「小夜叉ちゃんの匂いがするわ。」

「匂い?」

 

 雹子は気配の事かと思った。

 小夜叉が山に潜んだら雹子でもその気配を探る事は不可能だった。

 小夜叉が殺気を放っていれば見つけるのは容易いが、ここで殺気を放つと言う事は鬼と戦っているという事になる。

 しかし、そんな小夜叉の殺気は感じられなかった。

 

「クンクン………うん!風上はこっちね!総員下馬!これより森に入って小夜叉ちゃんと桐琴さんと合流するわよ!」

 

 本当に匂いで見付けたらしい事に雹子と、そして歌夜も驚いた。

 

「昴さん、鼻が利くんですね………」

 

 歌夜の呟きに綾那は意外そうな顔で振り返った。

 

「歌夜には昴さまが鞠さまを見つけた時も匂いで見つけたって話したですよ?」

「それは…………確かに聞いてたけど…………」

 

 普通は信じられないのが当然だろう。

 しかし、昴の自信に満ちた目を見て真実なのだとやっと理解した。

 

(私も祉狼さまの匂いで居場所が判るくらいにならなきゃっ!)

 

 人として何か間違った方向へ進もうとしている歌夜が森の中へ足を踏み入れた時、雹子に肩を掴まれた。

 

「お待ちなさい!全員声を出して桐琴さんと小夜叉を呼びながら進んで!そうじゃないと出会い頭に首を刎られるわよっ!」

 

 綾那と鞠なら問題は無いが、桃子と小百合、そして足軽達は青い顔をして慌てて桐琴と小夜叉を大声で呼び始めた。

 森の中に五十人からの声が響いて、鳥や獣の逃げ出す音が周りから聞こえてくる。

 そんな音に混じって急速に下草を踏み倒し近付いて来る音が有った。

 

「「うるせぇえええええっ!!」」

 

 それは槍を振り上げた桐琴と小夜叉だった。

 

「お母さん発見なのです♪」

「小夜叉も元気そうなの♪」

 

 暢気な事を言いながら綾那と鞠は得物で二人の槍を受け止める。

 

「(ねぇ、桃子………綾那と鞠さまが居なかったら小百合達どっちにしろ殺されてたんじゃないの?)」

「(う、うん………)」

 

 桃子と小百合、そして五十人の足軽は桐琴と小夜叉の殺気の篭った怒鳴り声だけで腰を抜かしてその場にヘタリ込んでいた。

 

 

 

「桐琴さん、小夜叉、鬼はどうでした?」

 

 雹子の問いに二人は晴れ晴れとした顔をして大声で笑った。

 

「がっはっはっはっはっ♪余裕で百は殺してやった♪いやぁ、スカッとしたわい♪」

「ホントだぜ♪長久手じゃろくに殺せなかったからなあ♪」

 

 昴は鬼が美濃尾張に近い場所にそれだけ居た事の意味を考えた。

 

(もしかして数が揃ったら一気に攻め込んで来るつもりだったのかしら?)

 

「桐琴さん、小夜叉ちゃん。鬼はみんないつものヤツ?」

「おう、鬼子はおらんかったぞ。」

「それがどうかしたのかよ?」

「うん、エーリカさんの話だと中級とか上級の鬼が居るらしいのよ。そいつらが居ると下級の鬼を兵隊として纏めて組織的な行動をする様になるって。」

「なんだそりゃ?あのバカな鬼にそんな事できんのかよ?」

「ちょっと黙れ、クソガキ。」

 

 小夜叉は馬鹿にした物言いだったが、桐琴は昴が言った意味を理解して真面目な顔になる。

 

「それでそこの兵共に鬼との戦いを経験させようという訳か………よし!ワシが纏めて面倒を見てやる!今ウチの若い奴らが鬼を探しに行っとるからもうじき戻って来る筈じゃ。それをお前らが狩れ。」

「ああぁっ!?なんだよ!オレの殺す分がまた減るじゃねぇかっ!」

「やかましいっ!もう遊びは終わりだ!組織立って動かれた上に鬼子が出たら殿の身が危うくなる!ワシらだけじゃ対応しきれんくなるんじゃ!」

「なに弱気なこと言ってんだよ、母?」

 

 どういう事態になるか想像できない小夜叉は不満タラタラで納得出来ない。

 そこで昴が説得を始めた。

 

「小夜叉ちゃん、鬼子は強かったでしょ?どうせ相手するなら雑魚百匹より鬼子一匹の方が面白くない♪」

「そりゃそうだな。」

「でも、鬼子を相手にしてる時に雑魚に邪魔されたら面白くないでしょ♪」

「ああ♪それで雑魚は兵共に殺らせんだな♪」

「そうそう♪だけど今のままじゃ兵のみんなは雑魚も殺せないのよ。」

「なるほど、そんじゃしょうがねぇな。判った、オレもそいつらの面倒を見てやるよ♪」

 

 小夜叉がニカッと笑うのを見て、桐琴はニヤニヤしだした。

 

「母であるワシよりも旦那の言う事を聞くとは、はっ♪色気付きおって、このクソガキが♪」

「なっ!そんなんじゃねぇってのっ!!」

 

 いつもの親子ゲンカが始まり掛けた所で、森衆の若いのが数人集まって来た。

 彼らは桐琴が言った通り、鬼の姿を発見して報告に来たのだった。

 

「ようしっ!今から鬼退治を始めんぞっ!もたもたしやがったら鬼と纏めててめぇらもぶった斬るから覚悟しとけやあっ!!」

 

 桃子、小百合、足軽達にとって『前門の虎、後門の狼』ならぬ『前も鬼、後ろも鬼』の進退窮まる状況に追いやられた。

 

「桃子ちゃん、小百合ちゃん、私が守るから安心して戦って♪足軽のみんなも綾那ちゃん、鞠ちゃん、歌夜ちゃんが守ってくれるから、心配しないで♪」

 

 こうして足軽の『鬼退治特訓』が始まった。

 

 

 

 

 観音寺城の数多有る曲輪のひとつ、蒲生屋敷で梅は母の蒲生賢秀と二人の姉を前に説得を行っていた。

 

「お母様、松お姉様、竹お姉様。これがお館様を説得する最後の機会です!このままでは公方様を蔑ろにする三好、松永の駒となって捨てられるだけですわ!」

 

 激昂する梅を賢秀、通称(ちか)は真正面から受け止め黙している。

 今年で四十になった慶の纏う凰羅は観音寺城の名家老に相応しく、織田家の半羽、壬月、麦穂に引けを取らない。

 しかもその姿は若々しく、三人の娘と並べば四姉妹と間違われる程だ。

 その慶が重々しく口を開いた。

 

「梅、貴女はお館様に裏切り者となって生き恥を晒せと言っているのですよ。判っているのですか?」

 

 鋭い眼光に松と竹は自分に向けられた物では無いのに冷や汗が出た。

 梅も一瞬怯んだが、それでも目を逸らさず母の目を睨み返す。

 

「以前のお館様は公方様にお味方していたではありませんか!一度は京から三好一党を追い出したのに、突然和睦したのですよ!あれは公方様への裏切りではないと仰るのですか!?それが原因であの観音寺騒動が…」

 

「お黙りなさいっ!!」

 

「いいえっ!言わせていただきますわっ!!お館様が三好三人衆と密通を行ったと噂が流れ!真実を知る後藤賢豊様を六角義治様が惨殺してしまい!義治様も返り討ちにあい命を落とされました!跡継ぎの義治様を失って悲しむお館様を助けたお母様を、今は遠ざけようとしているのですよ!このままでは本当にお館様は本当に!」

 

 梅は堪えきれずに顔を伏せて奥歯を噛み締めた。

 

「……………………本当に心が壊れてしまいますわ…………」

 

 伏せた顔は髪に隠され見えないが、涙の雫が畳に落ちるのを慶、松、竹は見た。

 梅は承禎がまだ義賢と名乗っていた頃、幼女時代に優しい笑顔で遊んでもらった記憶が残っている。

 賢秀の名も義賢から一字を貰った物だ。昔日の承禎はそれくらい慶を信頼していたのに、今の様になってしまった事を慶は自分の不徳と後悔していた。

 

「お母様!先ずはその信長の良人という方とお会いするべきです!」

「そうですわ!お母様がどの様な人物か鑑定してから今後をお決めになってもよろしいでしょう?」

 

 松と竹の言葉に慶は目を閉じて深く考えてから口を開いた。

 

「貴女達の言う事も尤もですね。会って話をしてみましょう。」

 

「お母様っ♪」

 

 梅は涙に潤んだ笑顔で慶を見上げる。

 慶は末娘のこんなに嬉しそうな顔を見るのはいつ以来だろうと思い、それ程梅が今の六角家を憂いていたのだと改めて気付かされた。

 

「それで、その信長殿の良人君はどの様な方なのです?」

 

 慶はそんな心の内を見せず、淡々と話を進める。

 しかし、梅は待ってましたとばかりに目を輝かせた。

 

「田楽狭間の天神衆のおひとりだと言うのはご存知ですわよね♪お名前を華旉伯元さま、通称は祉狼さまですわ♪お年は十四、背はわたくしの胸の辺です♪とても可愛らしくも凛々しいお顔立ちで本っっっっ当に素敵な方ですわ♪祉狼さまは超絶可愛く!超絶逞しく!雄々しくっ!ご立派な方なのですっ!」

 

「…………………梅、貴女は何を言っているのか判っているのですか?」

 

「祉狼さまの燃える瞳とあの身のこなしを見れば、わたくしよりも強い武人だと判りますわ♪それなのに人々を病から救うお医者様として身を粉にされるなんて♪なんてご立派な方なのでしょう♪愛妾のおひとりが仰っておられた言葉ですが、わたくしにもそれくらいは判りますわ♪」

「そんなに素晴らしい方ならわたくしもお会いしたいですわ♪」

「松お姉さま、ずるいです!竹もお会いしてみたいですわ♪」

 

 娘が三人とも男を知らず、言葉の意味を正しく理解していない事に慶は頭を抱えた。

 祉狼の話で盛り上がる娘達を見て、大事に育ててきたが少々箱入りにしすぎたと後悔するのだった。

 

 

 

 

 ゴットヴェイドー隊が五個荘に到着して三日後、宿泊している宿とは別の宿で会談が行われる事がきまった。

 祉狼、エーリカ、詩乃、ひよ子、転子、小波の六人が先に来て慶を待っている。

 

「うぅ〜………偉い人に会うのって、何度やっても緊張するよぅ〜………」

「ひよぉ…いい加減なれようよ。私達って一葉様にお会いしてお話までしてるんだよ♪一葉様より上のお方はもうかしこき所におわす方しか居ないんだから、そう考えれば気が楽でしょ♪」

 

 今はこんな感じのひよ子と転子だが、美濃攻略の時の実績を知っている詩乃はかなり頼りにしていた。

 エーリカの天主教司祭の立場と祉狼がこの三日で治療した人数。

 そして鬼退治班が狩った鬼の数とその範囲。

 これだけ揃えればこちらの切り札を使わなくて済むのでは、いや、詩乃は出来れば切り札を使いたくはないと思っていた。

 因みにその切り札とは何処かに潜んでいる小波の事ではない。

 

「梅ですわ。開けてもよろしくて?」

 

 襖の向こうから聞こえた声にはエーリカが応えた。

 開いた襖からからは正座をする梅しか見えなかったが、陰からは威圧感がヒシヒシと伝わってくる。

 慶は明らかに部屋の中の人間を試している。

 しかし、部屋の中の気配に変化は無い。

 祉狼、エーリカは元々気にしていないし、詩乃と転子とひよ子は貂蝉と卑弥呼の氣に慣れていた事が幸いした。

 慶は感心を隠し、梅の横で正座をして襖を開く。

 

「初めまして、俺が織田久遠の名代の華旉伯元。通称は祉狼です。」

 

 慶は自分が礼をする前に祉狼が名乗った事に驚いた。

 それ以上に詩乃達が驚いた顔で祉狼に振り返っている。

 

「(し、祉狼さま!この中で一番身分の高い祉狼さまは最後に挨拶をなさるものです!)」

「ん?そうなのか?年下の俺が年上の相手を敬うものだろう?」

「(祉狼さまは大名である久遠さまの良人であり、彼の地の皇帝のお血筋なのですよ!)」

「う〜ん、聖刀兄さんもそうだが、一刀伯父さんたちもそう言うのを気にしないんだが………」

 

 慶は祉狼と詩乃の遣り取りに思わず頬が緩んでしまう。

 

(私の氣を受けても平然としている程肝が据わっているのに、この無邪気な物言い。梅が夢中になるのも頷ける♪)

 

「所で梅、賢秀さんはまだ来ないのか?」

「え?ハニー、こちらが母の賢秀ですわよ?」

「これはご挨拶が遅れ、申し訳ございません。わたくしが蒲生賢秀、通称は慶と申します。」

 

「えっ!?確か半羽より年上だよな?俺は梅のお姉さんのひとりだとばかり………」

「(お頭…それ、半羽さまの前で絶対に言わないでくださいよっ!)」

 

 祉狼の母と伯母達も見た目はかなり若い。

 特に貧乳党員はその傾向が著しく、祉狼はそういう物なのだと思い込んでいた。

 しかし、目の前に居るのは梅の母親で、梅の体型は母親から遺伝した物に間違い無かった。

 

「ふふふ♪祉狼さまは正直なお方ですのね♪」

「馬鹿正直なだけで詩乃に面倒を掛けてばかりなんだ。済まないな、詩乃。」

 

「い、いえ…………お気になさらずに………」

 

 今正に面倒を掛けられている詩乃は引きつった笑いで返事をする。

 詩乃が考えていた切り札とは祉狼本人であり、本当は祉狼に一言も喋らせずに会談を終わらせるつもりでいたのだ。

 それがいきなり祉狼から挨拶を始めるので、段取りをすっ飛ばして慶の好意を先に手に入れてしまった。

 詩乃は祉狼の笑顔も『北郷家御家流』の一部だと認識している。無意識に発動する女殺しの御家流に抗えないのは自分が良く判っているので、ライバルを増やさない為にも出来るだけ祉狼を前に出したくはなかった。

 こうなっては用意した民の治療も鬼退治の実績もエーリカの存在も全ておまけだ。

 詩乃はこの後、サクサクと交渉を進めて、蒲生家の全面的な協力を取り付けた。

 祉狼の新たな嫁候補三人という付録まで付いてしまったが。。

 

 

 

 

 祉狼と慶の会談の結果、六角承禎との会談が三日後と決まった。

 詩乃は会談までの間も鬼退治と民の治療を行って今度こそ交渉材料にしようと心に決める。

 鬼退治も民の治療も詩乃が指示しなくても進んで行われるので、詩乃は聖刀と狸狐と一緒に本国への報告書と人員と物資の移動指示を中心に行い始めた。

 そして六角承禎との会談前日。

 鬼退治班はこの数日間と同じ足軽の訓練に勤しんでいた。

 

「よく聞けウジムシどもっ!お前らがする事は鬼というクソにたかって食らいつくす事なのっ!」

 

 訓練教官は沙和…………ではない。

 儀仗を振り上げて怒鳴っているのは鞠だ。

 

『サー・イエッサーッ!!』

 

 二十人の足軽達は一糸乱れぬ挙動で鞠に敬礼をする。

 海兵隊式訓練を教えたのは当然昴だ。

 

「ねえ、昴……『ウジムシ』と『クソ』ってなぁに?鞠の知らない言葉なの………」

 

 カンペを開いて鞠が昴を見る。

 その昴がどこに居るかと言うと。

 

「サー!『蛆虫』とは自分の事であります!サー!」

 

 足軽に混じって鞠の罵りを恍惚とした顔で思う存分浴びていた。

 

「じゃあ、『クソ』は?」

「サー!『糞』とは自分の事であります!サー!」

「???………それだとこの文の意味がわからないの…………」

 

 鞠は困って昴を見上げるが、昴は変態丸出しの顔でトリップしている。

 

「何やってんだ、お前ら?もうすぐ鬼が来んぞ。」

「あ、小夜叉なの!あのね、昴が『やる気の出るおまじない』ってこれをくれたの。」

 

 小夜叉は鞠からカンペを受け取って読んでみる。

 

「なになに?『短小!包茎!早漏!役立たずのムダチ○ポ!グダグダやってっとケツの穴から腕突っ込んでハラワタかき混ぜんぞっ!ゴラァッ!!』って?なんだよ、ただの挨拶じゃねぇか。」

「小夜叉スゴイの!鞠には全然意味が判らなかったの!」

 

 昴と二十人の足軽は一緒に股間を押さえて地面をのたうっていた。

 

「こ、昴さま………さ、最高っす…………天国ってこんな所に有ったんすね♪」

「そ、そうよ♪さあみんな!ロリ女王様に満足していただく為に!今日も鬼を狩りまくるわよっ!」

 

『ぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』

 

 昴の所為で変態集団が出来上がり、徐々にその数を増やしていた。

 

 

 

 二時間後、鬼との戦闘を終えて足軽達に休息を取らせている時、小夜叉が昴の所にやって来た。

 

「よう♪あいつらも使えるようになってきたじゃんか♪」

「ええ♪この調子でどんどん教えて行けば、江南の鬼の掃討も早くなるわ♪でも、小夜叉ちゃんは殺せる鬼の数が減ってつまらないんじゃない?」

「まあなぁ………でも殿を守れる奴らが育たねえとオレが若狭で暴れられねえしな。」

 

 小夜叉が成長している事に、昴は感心して目を細めた。

 

「でもやっぱり暴れたりねえや♪」

 

 そう言って笑うと、突然昴の顔を掴んでキスをする。

 

「ん………ぅん…んちゅ………はぁぁ♪」

 

 口を離した小夜叉は、舌なめずりをして獲物を狙う獣の目で昴を見た。

 

「なあ、我慢できねぇからここでするぞ♥」

「え…でも、足軽の人達に気付かれちゃうわよ………」

「あいつらだって戦った後で気が昂ぶってるのわかるだろ。女の隊も合流したから男と女が同じくらいになったし、オレらが始めりゃ気兼ねなくできんだろ♪それに…」

 

 小夜叉は昴のスカートの裾から手を入れた。

 

「こいつはその気になってるじゃねぇか♪」

「あん♪小夜叉ちゃん♪…………」

 

 宿に戻ると祉狼の嫁達に遠慮して出来ないと言うのも有るが、昴には幼女の誘惑を断る選択肢は元から存在しない。

 

「それじゃあ、いただきま~す♪」

 

「あ!小夜叉ずるいのっ!鞠もして欲しいのっ!」

「綾那もまぜるのですっ!」

「桃子にもしてください!」

「小百合も我慢してたんですよ!」

 

 木の陰から四人の幼女が飛び出して小夜叉に混じって昴へ抱き着き、そのまま昴を押し倒した。

 

 

………………………

 

…………………………………………………

 

………………………………………………………………………………………………

 

 

「おらぁあっ!クソガキ共!遊びの時間は終わりじゃ!いつまでも盛っておらんで出発の準備をせいっ!!」

 

 桐琴に突然怒鳴られ、全員が慌ててパンツを履いた。

 

「なんだよ、母ぁ。まだやり足りねえのによぉ………」

「ほう、ならば現れた鬼はワシが全部狩ってしまうか♪」

 

「もう見つけたんですか!?桐琴さん!」

 

 昴は四連続で射精したのに既に復活している。

 いや、昴の場合はどんなに射精しても常に幼女から『幼女力エネルギー』を補給し続けるので枯れる事が無いのだ。

 現に今も始める前より氣が充実していた。

 

「おう、しかも現れたのは観音寺城付近じゃ!」

 

「ええっ!?」

 

 

 

 

 鬼襲来の知らせは宿に居る詩乃、聖刀、狸狐の下に街の人から知らされた。

 直ぐ様小波の御家流『句伝無量』で祉狼に伝えられ、鬼退治班には早馬が出された。

 祉狼達はここ数日と同じに五個荘の村々を回って治療を行っている最中だったので、急いで観音寺城へ向かった。

 

「ご主人様!私が先に行って状況を調べます!鬼を見つけ次第句伝無量でお知らせ致します!」

「頼む、小波!総員、防具着用!鬼退治班が戻るまで持ち堪えればいい!無理をするな!行くぞっ!!」

 

『応っ!!ゴットヴェイドーーーーーーッ!!』

 

 情報収集班の足軽達は拳を振り上げて祉狼に続いた。

 

 

 

「何故じゃ!何故鬼がこの観音寺城に………」

 

 城主六角承禎は自室で報告を聞いて青ざめた。

 

「お館様!今はその様な事を言っている場合ではございません!一刻も早く城の防備を固めませんと鬼が城に侵入します!」

 

 慶の進言も耳には届いていない様で、ブツブツと独り言を繰り返す。

 

「三好め……儂を切り捨ておったか………」

 

 慶は耳を疑った。鬼と三好にどの様な繋がりが有るのか、問い質したいが今は観音寺城の防御が最優先だ。

 慶が承禎の代わりに指示を出し城の防御を始める為に評定の間へ向かう。

 

「お母様!鬼の数はおよそ百ですがまだ増えそうだとの報告です!途中の村を無視して真っ直ぐにこちらへ向かっているそうですわ!」

 

 途中の廊下で松が駆け寄って現状を報告すると、慶は眉を顰めた。

 

「真っ直ぐに?」

 

 今までの鬼は手近な村を襲っては直ぐに引き上げて行くのを繰り返していた。

 なのに今回は近隣の村に見向きもしない。しかも数が百匹以上。

 これ程の数がまとまって行動するなど、江南では今まで無かった事だ。

 

「お母様!鬼がもう池田丸に迫っていますわっ!!」

 

 今度は竹が走って来て、慌てて報告をした。

 

「何ですって!?昼間は鬼の動きが鈍いのでは………言っても事実は変わらないわね………早急に鉄砲と弓で先制攻撃をかけさせなさい!」

 

「それは梅がもう初めていますわ!ですけど矢ではそれ程致命傷にはならず、鉄砲も数がまるで足りませんわ!」

 

 慶は溜息を吐いて眉間を押さえる。

 日頃から鉄砲を揃える様に承禎へ進言していたが、承禎は慶が天主教の奉教人だから南蛮商人に甘い顔をするのだと、頑なに鉄砲の導入を拒んだのだ。

 

「主よ………我が不徳をお許し下さい………」

 

 慶は十字を切って心を落ち着けてから再び評定の間へ歩き始める。

 その時、外から銃声の連続音が聞こえて来た。

 

パパパパパーーーーーーーーン!

 

 評定の間の在る本丸から南の池田丸までは結構な距離がある。

 にも関わらずこれだけ大きな銃声が聞こえると言う事は、相当な数の鉄砲を一斉に撃ったという事だ。

 

「これは…………祉狼さまの隊かっ!」

 

 

 

 ゴットヴェイドー隊の鉄砲隊は池田丸の城門の東側から横擊を掛ける形で支援に入った。

 

「構え!………撃てーーーっ!!」

 

パパパパパーーーーーーーーンッ!!

 

 転子の号令で鉄砲隊の斉射が鬼の群れに吸い込まれる。

 

「やはり、頭を撃ち抜かないと一撃では倒れませんね。」

「これだけ動く敵の頭を狙うのは相当の腕じゃなきゃ無理だよ、詩乃ちゃん。」

 

 詩乃、聖刀、狸狐が鬼の動きを見ていた。

 

「構え!………撃てーーーっ!!」

パパパパパーーーーーーーーンッ!!

 

「だからこうして三段構えで鉄砲を連続で撃てる様にしたんだろう?大丈夫だ、詩乃。これなら確実に鬼の数を減らせるって♪」

 

 現代では信長の三段撃ちは有名だが、現在はまだ詩乃が鉄砲の運用方法を模索している段階で、数もまだまだ少ないのが現状だ。

 

「しかし、これでは鬼が池田丸に取り付くのは時間の問題です。」

「それもそうだね。僕も少しは働いて数を減らそう。」

 

 そう言って聖刀は長弓に矢を三本番える。

 

ヒュンッ!

 

 一度に三匹の鬼の頭に命中させた。

 その腕前に詩乃と狸狐、そして転子、ひよ子、エーリカ、不干、春が驚き目を見張った。

 

「聖刀さま、弓の腕も凄いんですね!」

 

 興奮するひよ子に聖刀が笑った。

 

「師匠が良いからね♪五人の師匠が居るんだけど、あの五人なら数分であの鬼を全滅させるよ。僕はまだまだ修行が足りないな。」

 

ヒュンッ!

 

 話しながらまた三匹の鬼の頭を撃ち抜いた。

 因みに五人の師匠とは、紫苑、桔梗、秋蘭、祭、璃々の事だ。

 

「拙いな、鬼が壁に取り付いて叩き壊し始めた。」

 

 聖刀は優先的にそんな鬼を狙うが、次々と取り付く鬼に狙撃が間に合わなくなる。

 

「聖刀兄さん!俺は城壁を越えて梅の加勢に行く!」

「うん…………判った、貂蝉と卑弥呼はいつもの様に祉狼の護衛に!小波ちゃんも祉狼の護衛に付いて!」

「了解よぉ~ん♪」

「うむ、そうと決まれば急ごうではないか!」

「御意!ご主人様は命に代えましてもお守り致します!」

 

 祉狼、貂蝉、卑弥呼、小波は手近な城壁に向かって飛び上がり、そのまま城壁の上を梅の居る城門まで走って行く。

 その間にも鬼が城壁に取り付き、力任せに壁を破壊しようと殴りつけていた。

 そんな鬼を鉄砲隊と聖刀が数を削っていくが、後から後から集まって来ていて減った以上に数を増やしている。

 

「小波ちゃんの言った通り、まだまだ集まってきそうねぇ~。」

「一直線にこの観音寺城を目指して来るとは、何処かに操る者が居るに違いないな。」

 

 敵の増援は小波が偵察で確認していて、それを踏まえてゴットヴェイドー隊は挟撃されない位置を選んで鉄砲による掃討戦を行ったのだ。

 

「ご主人様!その鬼を操る者を私が見つけ出し倒してきましょうか?」

「いや、今の状態でそいつを倒したら鬼が城下町や五個荘で暴れまわる!ここは先ず出来るだけ鬼をこの観音寺城に引き付けるべきだ!」

 

 しかし、祉狼の思惑以上に鬼の動きが素早い。

 鬼が遂に城壁の一箇所を叩き壊し中へと侵入した。

 

「鬼と成り果てた貴方達には同情しますが!ここは成敗させて頂きますわよっ!」

 

 駆けつけた梅が入り込んだ鬼に向かって刀を振り下ろす。

 

「ゲギャアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 一匹二匹と梅はどれも一撃で切り伏せた。

 梅に従う足軽達も近江の強者。次々と鬼を倒して行く。

 そこへ新たな鬼が壁を叩き壊して更に侵入して来た。

 

「ぎゃぁああああああああああっ!!」

 

 その悲鳴に振り向けば足軽のひとりが鬼に肩口から喰い付かれ絶命していた。

 鬼は口に足軽を咥えたまま梅に向かってゆっくりと振り向く。

 

「ひっ!」

 

 バキバキと骨を噛み砕く音がした。

 ドサリと地面に落ちた足軽の体は、肩から首にかけてごっそりと食いちぎられ鮮血を噴き出した。

 凄惨な光景に梅の顔が青ざめる。

 その鬼がゴクリと嚥下すると、血に濡れた顎で大きく吠えた。

 

「ゲシャアァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 鬼に負けない気合で祉狼が吼えて、鬼を正拳で殴り飛ばす!

 

「梅っ!しっかりしろっ!!」

「え?……ハ、ハニー?どうして…………」

「梅を助けに来たに決まってるだろうっ!」

 

 祉狼が自分の為に来てくれた。

 そうハッキリ言われて梅の気力は一気にフルブーストされ、瞳に♥マークが浮かんだ。

 

「まあ♪ハニーが来て下されば、わたくし勇気百倍ですわ♪」

「俺だけじゃない!貂蝉と卑弥呼、小波も来ているぞ!」

 

 祉狼と梅が話している間にも三人が鬼を次々と倒していた。

 

「梅!もう少しで鬼の増援は途切れる!それにゴットヴェイドー隊の鬼退治班ももう直ぐ到着する!頑張ってここを守りきるんだっ!」

「はいっ!ハニー!!」

 

 祉狼の瞳の炎が燃え移ったが如く、梅も瞳の♥マークに炎を燃やして刀の柄を強く握り締めた。

 

「忠三郎さま!鬼が数匹本丸に!」

 

 足軽の声に梅と祉狼は咄嗟に走り出していた。

 

「貂蝉と卑弥呼はここを頼む!梅!小波!」

「はっ!」

「はい!ハニー!」

「梅!道案内を頼む!」

 

 祉狼は本気で走る為に、梅を走りながらお姫様抱っこする。

 

「ハ、ハニー!?そんないきなり………」

「すまん!急がないと鬼がまた人を襲う!怖いかっ!?」

 

 梅はこれまで経験した事の無いスピードで城内を移動していた。

 

「いいえ……………ハニーの腕の中に居るのですもの。ここより安心できる場所は他に有りませんわ♪」

 

 梅はまるで自分が鳥になって宙を飛んでいる気分だった。

 

〈ご主人様。鬼を見付けました。右に二つ、左に三つ。〉

「よし!右は小波に任せた!梅!左の三体を倒すぞ!」

「はい!ハニー!!」

〈はっ!〉

 

 小波の句伝無量に答えた祉狼は鬼を追う。

 鬼が向かう先に走る人影が見えた。

 

「お母様!お姉様!」

 

 それは慶、松、竹の三人だった。

 三人は池田丸に向かう最中だったのだ。

 

「梅!右端のを頼む!」

「はい!」

 

 祉狼は梅を鬼に向かって放り投げた!

 

「破ぁああああああああああああああああっ!!わたくしとハニーの愛の合体技!その身でとくと味わいなさいましっ!」

 

 その勢いで鬼を背後から刀で刺し貫く!

 慶、松、竹も気付いて梅が貫いた鬼を刀で切り伏せる!

 何の打ち合わせも無いのに見事な連携で鬼を四分五裂にしてしまった。

 残る二体の鬼に、祉狼は二本の鍼を抜いて氣を込めた。

 

「今はお前たちを治療してやる腕が俺には無い!せめて人として逝かせてやる事しか出来ない事を許してくれっ!!」

 

 鬼の攻撃を掻い潜り、両手に構えた鍼をそれぞれ鬼の腹のツボに打ち込んだ!

 

「病魔覆滅っ!!」

 

「「ギャァアアアアあああああぁぁぁ!」」

 

 祉狼の倒した鬼は人の姿を取り戻し、安らかな顔で倒れた。

 覚悟はしていたが、また自らの手で命を奪った事に祉狼は僅かに涙を流す。

 

「祉狼さま!我らを助けにここまで来てくださるなんて!ありがとうございます♪」

 

 祉狼の技を初めて目にした慶、松、竹は興奮して駆け寄った。

 しかし、梅がその前に立ち塞がる。

 

「お母様!お礼の言葉は後で!今は一刻も早く池田丸に向かって指揮をお願いいたしますわっ!」

「ええ!判りました!」

 

 慶は祉狼の活躍に、武人の血が滾るの感じていた。

 

〈ご主人様!先程の二匹は倒しましたが、その間にもう一匹侵入されました!追っていますが足が速く本丸に入られます!〉

「小波!直ぐに行く!」

〈はっ!鬼の狙いは六角承禎様と思われます!〉

 

 突然祉狼が独り言を叫び出した様に慶達には見えたが、おそらく御家流なのだろうと直ぐに察した。

 

「梅!六角承禎は本丸の何処に居る!?鬼が一体向かった!」

「ご案内します!」

 

 祉狼は再び梅をお姫様抱っこして本丸へ走り出す。

 そして慶も承禎の危機と聞いて駆け付けずにいられない。

 

「松!竹!貴女達は池田丸へ向かい指揮をしなさい!私はお館様の下へ戻ります!」

「「はい!お母様!!」」

 

 

 

 

 鬼退治班が池田丸に到着して加勢に入っていた。

 

「ヒャッハーーーーーー♪鬼は皆殺しだーーーーーー♪」

 

 小夜叉が喜々として人間無骨を振り回して、次々と鬼を狩って行く。

 

「おらおらおあらぁああああ!どんどん寄って来い♪ワシをもっと楽しませんかぁあい♪」

 

 桐琴もこの数日鬼をあまり殺せなかった憂さ晴らしに、満面の笑みで蜻蛉止まらずを振り回していた。

 

「くっくっくっ♪正に飛んで火に入る夏の虫♪一匹残らず狩ってあげましょう♪」

「これを乗り切ればきっと祉狼さまとの伽も解禁になるわっ!ほらほら!さっさと死になさい!」

 

 雹子と歌夜は欲求不満を鬼にぶつけて狩りまくっている。

 実は昴と幼女達の情事を覗いてしまい、リミッターが完全にはずれていた。

 

「今日の歌夜はスゴく強いのです♪」

「雹子も凄いの♪」

「ねえ、小百合……………ここで出て行ったら桃子達、鬼と一緒に狩られちゃうんじゃないかしら………」

「うん……………ここは大人しく補佐に回ろう………」

 

 

 雹子と歌夜の戦い振りに他の祉狼の嫁達は少々引き気味だ。

 

「雹子さんと歌夜さん………鬼気迫る物がありますねぇ………」

「姉上、あの二人は何であんなに荒れてるのですか?」

 

 夢の問いに不干はその妹の顔をジッと見る。

 

「夢………あなたがまだ昴さんのお嫁さんになってなくて良かったわ。」

「???…………どういう意味なのですか?」

「私がああならなくて良かったわねって意味よ♪」

「…………………………と、とっても良かったと思うのです………」

 

 そんな姉妹のやりとりを横目に転子は苦笑した。

 

「雹子さんと歌夜ちゃんの気持ちは判るけどねぇ………ねえ、詩乃ちゃん、観音寺城との和睦が成立したら……その………」

 

 転子が恥ずかしそうに詩乃へ上目遣いで訊いてみた。

 

「そうですね、結菜さまにはその旨のお願いを手紙で伝えて有りますから、早ければ今日中にご返事が来るでしょう。」

「手回し早!」

「私だってそろそろ限界ですから………」

 

 そんな二人の会話をエーリカは耳を(そばだ)てて聞いていた。

 そして何も聞いていなかった振りをして二人に振り返る。

 

「さ、さて、私もそろそろ加勢に向かいます。」

「はい。ご武運を!」

「鉄砲での支援も乱戦になって来たので出来ませんから、私達は救護の仕事に入ります!」

「はい。負傷者の誘導も行いますからお願いします。」

 

 エーリカは闘志を漲らせて戦場へと駆け出した。

 そこで宝譿が胸元から顔を出す。

 

「エーリカ、良かったな♪これで夜中に布団の中でこっそり慰めなくてもよくなるぜ♪」

 

 エーリカは宝譿を掴んで、鬼に力一杯叩きつけた。

 

 

 

 鬼襲来の報を受けた者。鉄砲の音を聞き付けた者。

 城外の近江武士達が駆け付けて目にした物は、見知らぬ赤十字の旗を立てて鬼と戦う百人程の部隊だ。

 

「何や、あいつらは!?」

「あの旗差物、噂で聞いた五個荘で人助けしとる連中やないか?」

「あれがか!?」

「名前は確か………」

 

『ゴットヴェイドーーーーーーー!!』

 

「五斗米道?一向宗みたいなモンか?」

「そうやなくて、織田のモンらしい。」

「織田あっ!?何で織田のモンがこんな所で戦しとるんやっ!」

「そんなん俺が知るかいっ!」

「それよりどうすんのや!織田の奴らを攻撃するんか!?」

「阿呆かっ!ああしてお城のモンと連携して鬼と戦ってくれとるんやぞ!そんなん武士の名折れやぞ!」

「おい!ここで俺らが指咥えて見とる場合か!?近江武士の心意気、ここで見せんでどないすんのやっ!」

「そうやっ!俺らがお城を守らんでどないする!鬼共を蹴散らすんやっ!」

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』

 

 近江武士の参戦により、城外の鬼の殲滅は時間の問題となった。

 残るは小波の追った鬼だけである。

 

 

 

 

 小波は本丸の天守内部でその鬼と激しい戦闘を繰り広げていた。

 

(くっ!この鬼!力と皮膚の硬さは無いが!速い!)

 

 鬼は小波と同じくらいの身長で小型の部類に入る。

 膂力と防御力を犠牲にして速度を上げたスピード特化型とでも言った鬼だ。

 忍の小波と戦闘スタイルが似ているので攻撃を予測しやすいが、防御するのが精一杯でなかなか反撃の糸口が掴めないでいる。

 鬼の爪の攻撃を小太刀と苦無で弾いているが、ジリジリと廊下を後退しているのが現状だ。

 

(この奥に人の気配がする。多分六角承禎様だ。ここを抜けられる訳にはいかない!)

 

 小波は相打ち覚悟で鬼の息の根を止めるしかないと決断する。

 

(祉狼さま………もっと早くお会いしたかったです……祉狼さまの強さと優しさを知れば知るほど、貴方様に惹かれていました…………出来れば死ぬ前に頭を撫でて頂きたかったな………)

 

 鬼が腹を狙って来たらそのまま受けて首を刈ろうと、わざと腹部に隙を見せた。

 

「小波っ!!命令だっ!生きろっ!!」

 

 突然聞こえた祉狼の声に、鬼が狙った腹部への攻撃も咄嗟に弾き返した。

 

「伏せろっ!!」

 

 次の命令にも反射的に反応した小波。

 その上を鬼が!そして祉狼が文字通り飛び越えて行く!

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 祉狼は活歩で鬼に体当たりをして、そのまま奥の部屋を突き抜け、鬼と一緒に天守の最上階から落ちて行ってしまった。

 

「ご主人様っ!!」

「ハニーーーっ!!」

 

 廊下の奥から梅も現れ、小波と一緒に祉狼と鬼の開けた壁の穴から外を覗き込む。

 そして二人は血の気が引いた。

 

 鬼に鯖折りをした状態で石垣の岩に頭から突っ込み、そのまま倒立でもしているかの様に突き立っている。

 

 しかし、祉狼が腕を離して立ち上がり、鬼が塵になって崩れて行くのを見て小波と梅は大きく息を吐いて床に崩れる様にヘタリ込んだ。

 祉狼は塵になっていく鬼に手を合わせてから、二人の居る場所にジャンプして戻って来た。

 

「小波、よく堪えてくれた。礼を言うぞ♪」

「そ、そんな、勿体無きお言葉です!あれは私に与えられた役目です!」

「小波がそういう性格なのは判った。だからさっきの命令は今後最優先にしてくれ。」

「さっきの…………死ぬな…ですか?」

「ああ♪俺の事を好きだと言ってくれる人が死ぬのは悲しいじゃないか♪」

「え?…………わ、私はその様な事を口にしておりません!」

 

 小波は慌てて否定するが、その頬は赤くなっていた。

 

「口に出して言ってはいないけど、句伝無量で伝えて来たろう。」

「ええ!?そんな、まさか…………い、いえ!私はその様な恐れ多い念も送っては…」

「いや、さっきから普通に小波の心の声が聞こえてるんだけど…………もしかして俺と小波の氣は相性が良いのかもしれないな♪」

 

 今度は耳まで真っ赤になって俯いてしまった。

 

「お守り…返そうか?」

「い、いえ!私の偽らざる気持ちを常に知っていただけるのであれば、そのままお持ち下さい!」

 

 真っ直ぐに祉狼を見つめて、想いも句伝無量で伝えた。

 祉狼は微笑んで頷く。

 

「小波さんったら………羨ましいですわ…………あっ!」

 

 梅が祉狼と小波から視線を逸らした先に、六角承禎が腰を抜かしてヘタリ込んでいた。

 

「お、お館様!」

「う、梅?………梅か!そやつらは何者じゃっ!」

「あちらは…」

 

「自己紹介しよう!俺は華旉伯元!通称は祉狼!織田久遠の夫だ!」

 

「おぬしが………」

 

「まだ自己紹介は終わって無いぞ。俺は医者だ!今からあんたの病気を治すっ!」

「ハニー?お館様はご病気なんですの!?」

「ああ!俺にはハッキリと病魔が診えるっ!行くぞっ!」

 

 祉狼は手甲から鍼を抜き、氣を込める。

 

「はぁあああああああああっ!我が身、我が鍼とひとつなり!

 一鍼同体!全力全快!必察必治癒!病魔覆滅!」

 

 承禎、梅、小波は祉狼に後光が射して見えていた。

 

「ゴットヴェイドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!

 げ・ん・き・に・なれぇぇええええええええええええええっ!!」

 

 

 

 慶が大急ぎで天守に戻って来て見た物は、鬼の爪で傷だらけにされた廊下だった。

 更に階段を駆け上がり、最上階では承禎の部屋の扉が在る筈の場所から青空が見えていた。

 

「ひぃいいいい!や、やめてぇえ!ゆ、許してえっ!!」

「逃げるなっ!これからもっと気持ちよくしてやるぞ♪」

 

 声は承禎と祉狼の物。

 慶はギョッとなって扉の無くなった部屋に飛び込み、目にした物は!

 

 祉狼が承禎に按摩をしている所だった。

 

「え?」

「あら、お母様。池田丸の鬼はもう大丈夫ですの?」

 

 声に振り返れば、部屋の隅で梅が正座をして慶を見上げている。

 

「梅………これは………」

「ハニーがお館様のご病気を治療されたのですけど、再発防止の為に按摩をして血行と氣の流れを正しているそうですわ♪お館様が見る見る若返って、正に神の御技ですわ♪」

 

 再び承禎を見ると、本当に肌が張りを取り戻し艶々と輝き、髪まで艶やかで白髪も無くなって見事な黒髪となっていた。

 

「ち、慶!助けてくれ!祉狼殿は容赦が無くて!」

「だから逃げるんじゃない!完全に終われば爽快でとても気持ちが良くなるんだぞ!」

「そ、そこはいかん!あっ!あっ!あぁああああああああああぁぁ!」

 

 承禎が按摩以上の快感を感じているのは明らかだが、祉狼には全くそんな下心が無いのも良く判った。

 

「わ、わたくしも後でして頂こうかしら………」

 

 

 

 

「はぁ………はぁ………まったく…孫ほどの童にいい様にされてしまうとは………」

 

 そう言いながらも、顔には笑が浮かんでいる。

 承禎は五十を越えているのだが、今の姿は三十半ばに見えるくらい若返っていた。

 

「儂の完敗じゃ♪我が名は六角承禎。通称は四鶴(しづる)。華旉伯元祉狼さまに降りましょうぞ♪」

「そうか♪久遠に降ってくれるのか♪」

 

 祉狼はこれで戦が回避出来ると心の底から喜んだ。

 

「いいえ。儂は祉狼さまに降るのであって、織田の小娘に降るのではございませんぞ♪」

 

 四鶴の意図が判らず今度は首を捻った。

 

「慶、やはり儂は隠居するとしよう。南近江の当主として最後の仕事は、この観音寺城を織田の小娘にくれてやる事じゃ♪」

「お館様!」

「よい♪儂は家臣から見放されておる。おぬしがあれだけ骨を折ってくれていたと言うのに………ははは♪これでは織田の小娘をうつけと笑えぬわ♪だから儂は祉狼さまの直臣となってお世話をする事で余生を過ごそうと思うのじゃ。おぬし達は織田久遠殿を主に仰ぎ忠誠を尽くせ♪」

「ははっ!そのお言葉…………しかと胸に刻みました…………」

 

 慶は床に額を擦り付ける程頭を下げ、流れる涙を隠した。

 

「さあ♪池田丸へ勇者達を見に行こうではないか♪」

 

 

 

 本丸から池田丸へ向かう途中、梅は思い出して祉狼に小言を言い始める。

 

「祉狼さま、あの天守での戦い方は心の臓が止まるかと思いましたわ!」

「全くです。ご主人様があの様な無茶をなされるなら、死ぬなという命令を聞く訳には参りません!」

 

 小波も梅と一緒になって祉狼を攻め始めた。

 小波の気持ちは黙っていても伝わるのだから、もう隠す必要が無いと開き直っているのだ。

 むしろ自分がどれだけ心配したかを知って貰おうと有りっ丈の気持ちを込める。

 

「いや、俺だって死ぬ気は無かったぞ。あの鬼は人に戻せなくて悪い事をしたと思っているが…………」

「あの高さで頭から岩にぶつかれば普通は死にますわっ!」

「あれは『飯綱落とし』という技で、一刀伯父さんたちに教わったんだ。」

「ええっ!?皇帝の護身術ですの!?………にしては物騒な技ですわねぇ………」

 

 勿論一刀たちが実際に使える訳ではない。

 漫画で仕入れた知識を語って聞かせただけである。

 

『えい!えい!おおおおおおおおお!えい!えい!おおおおおおおおお!』

 

「勝鬨ですわっ♪」

 

 まだ池田丸へは幾つかの曲輪を抜けなければいけなかったが、喜びに満ち溢れた勝鬨は祉狼達の所にまで誇らしく届いた。

 

『ゴットヴェイドーーーーーーーー!!』

 

「ん?あれは………」

「お館様、ゴットヴェイドーとは祉狼さまの修めた医術の名前です♪」

 

 慶が四鶴に総説明した後、更に池田丸から声が届いた。

 

『ごっとべいどうううう!』

『違う!ゴットヴェイドーーーーーー!っだ!!』

『ご…………ごっと…べ………?』

『ゴットヴェイドーーーーーー!っだ!!』

 

 祉狼は笑顔で頷いた。

 

「うんうん♪みんな偉いぞ♪名前は正しく言わなければな♪」

 

 その様子に四鶴は冷や汗を流して慶に耳打ちをする。

 

「(慶………後で儂の発音の練習に付き合え!)」

「(はい♪四鶴さま♪)」

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

真・恋姫†英雄譚2やってますか~!

自分もやってますよ!

 

と、今回の遅くなった言い訳ですw

しかもまだ終わってません。

「俺、これを投稿し終わったら真・恋姫†英雄譚2の続きをするんだ…………」

なんて死亡フラグじゃないですよ。

 

 

前回の予告で『北郷家御家流は六角承禎も落とす事が出来るのか!?』と書きましたが、あの時は本当に落とさせるつもりは有りませんでしたw

しかし結果はお読み頂いた通りです。

作者の思惑すら捻じ曲げる北郷家御家流!恐るべし!

 

 

今回もオリキャラが増えました。

 

慶(ちか) 蒲生賢秀

松(まつ) 蒲生賢秀の長女

竹(たけ) 蒲生賢秀の次女

三姉妹で松竹梅w

慶は松竹梅は慶事を表すという事で。

読み方はわざと一番馴染みの無い物を選びました。

因みに巨乳家族ですw

松と竹の名前は調べたんですが見付けられませんでした。

どなたか知っている方が居れば教えて下さい!

 

四鶴(しづる) 六角承禎

六角氏の家紋『隅立て四つ目』と『鶴の丸』から。

葵と同じ形式で採用しました。

 

 

次回は鬼が攻めてきた理由と四鶴の過去と一緒に明かせると思います。

出来れば京に到着する所まで行きたいですが果たして行けるでしょうか………。

 

 

Hシーンを追加したR-18版はPixivに投降してありますので、気になる方そちらも確認してみて下さい。

[pixiv] http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5801686

 

 

 


 
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