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戦国†恋姫 三人の天の御遣い    其ノ十二

雷起さん

これは【真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第二章『三爸爸†無双』】の外伝になります。
戦国†恋姫の主人公新田剣丞は登場せず、聖刀、祉狼、昴の三人がその代わりを務めます。

*ヒロイン達におねショタ補正が入っているキャラがいますのでご注意下さい。

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2015-10-01 07:31:37 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:1895   閲覧ユーザー数:1611

戦国†恋姫  三人の天の御遣い

『聖刀・祉狼・昴の探検隊(戦国編)』

 其ノ十二 ~永禄の変~

 

 

 観音寺城への鬼襲来とその撃滅、そして六角承禎の恭順が岐阜城の下へ早馬で伝えられた。

 この報告を受けて早速久遠は上洛を開始し、三日で観音寺城に到着したのだった。

 

「祉狼、我は六角承禎まで調略しろとは言ってなかった筈だが?」

 

 観音寺城の城門前で出迎えた祉狼へ、久遠は挨拶よりも先にそう口にする。

 その口調は咎めるよりも身を案じている色が強かった。

 

「済まない、久遠。でも俺は可能性が一厘だとしてもそこに賭けずにはいられなかったんだ。」

 

 祉狼は久遠の瞳を正面から受け止め、堂々と胸を張って答えた。

 二人は黙って互いの瞳を見つめ合う。

 祉狼と一緒に出迎えに集まっているゴットヴェイドー隊の面々は息を飲んで二人を見つめていた。

 緊張感に満ちた空気に耐えきれなくなり詩乃が一歩前に出ようとした時、別の場所から声が上がった。

 

「織田の、そう良人殿を苛めるものではないぞ。」

「別に苛めてなどおらん!…………貴様………六角………承禎か?」

「如何にも。お初にお目に掛かる。儂が六角四郎承禎、通称を四鶴と言う。」

「いや、どう見ても五十を越えている様に見えんのだが………」

 

 久遠の言う通り、今の四鶴は三十半ばにしか見ない。

 

「それは祉狼どののお蔭じゃ♪按摩をしてもろうたら(すこぶ)る調子が良くなってのう♪」

 

 久遠は渋い顔で詩乃に振り返ると、詩乃も大きな溜息を吐いて頷いた。

 

「それで、我には降らず祉狼に降ると言い出した訳か。」

「儂を正気に戻してくれた恩人じゃからの。隠居して余生の全てを捧げても惜しくは無い。」

「正気に戻した?」

 

 四鶴は真顔になって久遠に頷く。

 そしてゴットヴェイドー隊と蒲生母娘にも振り向いた。

 

「儂は永らく病を患っておってな。その病が儂を狂わせておったのじゃ。これから少々昔話をしよう。三好三人衆と戦う上で聴いておいて損は無い話じゃぞ。」

 

 

 

 

 知っておるとは思うが、三好三人衆の三好長逸(ながやす)、三好政康(まさやす)岩成友通(いわなりともみち)と松永久秀は三好家の幼い現当主三好義継(よしつぐ)殿の重臣じゃ。

 三好三人衆は当時まだ年若かった一葉様も傀儡にして、幕府の実権も握ろうと画策した。

 それを知った儂は一葉様をお救いする為に畠山高政殿と共に三好三人衆相手に戦いを挑み、京から追い出してあと一歩という所まで追い詰めた。

 しかしその時、儂は高熱を出して倒れてしまったのじゃ。

 儂が動けなくなった為に畠山高政殿は教興寺の戦いで敗れてしまい、その悔いが心を蝕み病も悪化してしもうた。

 その時副将として連れてきていた後藤賢豊は、儂の病状を見て戦の続行は不可能と思い、有利な内に三好三人衆と和睦するのが得策と判断した。

 儂の名に傷を付けまいと真実を隠して撤退の指揮までしてくれたのじゃが、逆にそれが仇となった。

 明確な説明をしないまま和睦と撤退が行われた事に様々な憶測と良からぬ噂が立ち、娘の義治が真偽を糾そうと賢豊と密かに話をした。

 そこでどの様な会話が有ったのか儂は知らぬが、些細な行き違いがあの様な結果になってしまったのじゃろう。

 これが世に言う観音寺騒動じゃ。

 儂は重臣と跡取り娘を同時に失い、益々気鬱となり病も悪化した。

 (ちか)が奔走して城内を纏めてくれたと言うのに、儂は疑心暗鬼に囚われ慶を遠ざけた。

 慶が天主教に改宗したからと言うのは口実じゃ。

 松、竹、梅という娘に恵まれ、本人も若々しく美しい事を妬んだのじゃ。

 そんな時期に鬼が現れたとの報告が入り、時を同じくして三人衆から文が来た。

 

 鬼は放置せよと、鬼が儂を襲う事は無いので無視しろと書いてあったのじゃ。

 

 これが何を意味するのか、言わぬとも判ろう。

 しかし、その時の儂はそんな事にも考えが及ばず、ただ我が身が安全だとしか考えておらなかった。

 その後も三人衆の言う事を唯々諾々と聴いておるのだから、家臣から見放されて当たり前じゃな……………。

 

 

 

 

 語り終えた四鶴は自嘲の溜息を吐いて肩を竦めた。

 

「色々と問いたい事は有るが、今最も気になったのは三好が鬼に対して取った態度だな。金柑!ザビエルの事は話したか?」

「はい。現在は観音寺城でザビエルの野望を知らぬ者はおりません。」

 

 エーリカの答えに頷き、久遠は詩乃に顔を向ける。

 

「ザビエルが三好三人衆と松永にどこかで繋がりを持ったと見るのが妥当でしょう。ここは早急に二条館へ向かうべきと進言致します。」

「うむ、それは我も同意見だ。丹羽、滝川を既に船で大津へ向かわせ京の手前で陣を構える様に指示してある。」

 

「暫しまたれよ!」

 

 四鶴が手で征し割って入った。

 

「この鬼の件に松永久秀は関与してはおらん。」

「なんだと?」

 

 久遠は眉根を寄せて聞き返した。

 

「久秀は三好家前当主三好長慶(ながよし)殿の側室だった女じゃ。そして奴は養子で現当主に迎えられた義継殿の後ろ盾となっておる。外道の力を借りて三好の名を汚すなど、奴の最も嫌うところじゃろう。現に鬼に関する指示は三好三人衆からしか来ておらん。」

「ふむ……三好三人衆と松永の間には溝が有るという事だな。」

「溝どころか三人衆にとって久秀は目の上の瘤じゃ。屈服させたくて仕方ないのじゃろう。だから鬼の力を頼って、あわよくば久秀を排除しようとしておると儂は見ておる。」

「ならば早急に松永へそれを教えてやらねばならんではないか!詩乃!何か手は思い付くか!」

 

 久遠の剣幕に四鶴はほうと感心する。

 

「なんじゃ、聴いていた噂とは違って人情味が有るではないか♪」

「夫が優しさの塊だからな。感化されたのだ♪」

 

 織田家の者は全員が、久遠の元から持つ資質だと心の中で呟いていた。

 詩乃も口元が綻ぶのを抑えて久遠へ献策を示す。

 

「久遠さま、松永殿に報せるのは良いのですが、今の状況で我ら織田からの使者と会ったと三好三人衆に知れれば、その時点で松永殿の命が狙われます。」

「ならば草を使って密かに………いや、駄目だな。そんな事をすれば松永の様な奴は離間の計にしても理由が姑息と思うだろう……それなら一層の事、報酬を提示して三好を裏切れとやった方が奴は納得する。まあ、そんな事をすれば、後から一葉と幽が盛大な嫌味を言ってくるのが目に浮かぶが。」

「ですので一葉さまご自身にして頂きましょう。松永殿と三好義継様を二条館に呼び出して鬼の事を直接伝えて頂くのです。その時には義継様の身辺警護として軍勢も率いて来て頂き、二条館を包囲してもらいます。その会見の時に我らが全軍で二条館に向かうのです。三好三人衆は我ら織田が一葉様と組んでいる事は知っているでしょうから、我らと一葉様との合流を阻む筈です。そして二条館と我ら織田軍を比べた場合、戦力少ない相手を選ぶのが道理。合流前に二条館を襲撃し、義継様と双葉様を手中にしようと考える筈です。」

「今の一葉が大人しく傀儡になる筈なかろうからな。狙うならば双葉か………」

 

(あの妹を溺愛する一葉が、妹が危険に晒されると判っていてこの策に乗るだろうか?いや、一葉が絶対に首を縦に振る条件を付ければ良いのか。)

 

 久遠は祉狼を見て決意する。

 

「祉狼、お前に頼る事になるが………………やってくれるか?」

 

「いつも久遠は自分が一番の妻だと言ってるだろう♪俺も常にそう思ってる♪一番の奥さんの願いを俺が断る訳ないだろう♪」

 

 屈託のない笑顔の上に自分の言った恥ずかしいセリフを暴露されて、久遠は耳まで赤くなった。

 しかし、久遠のツンデレ属性が顔を見せ、口を尖らせてつい言い返してしまう。

 

「我がしなくていいと言った此奴の調略をしておるではないか。」

 

「ちょっと、久遠。二番目の妻としては祉狼を鬼となった人を救う為以外で危険な目に遭わせたく無いのだけど?」

 

 今まで後ろに下がっていた結菜が我慢しきれずに前へ出て来た。

 

「しかし、結菜………稲葉山城攻略の時の速度があれば祉狼、貂蝉、卑弥呼で二条館の一葉達を完全に守る事が出来る。我らも直ぐに駆け付けるのだから問題はなかろう!」

「問題無いって思ってるなら何でさっき祉狼に言い淀んだのかしら?」

「そ、それは…………」

 

 久遠は視線を漂わせてから逃げ口上を思い付かず白状する。

 

「頭では大丈夫だと判っていても心配なのだっ!」

 

「はい♪素直でよろしい♪と言う訳で聖刀。貴方にもお願いして良いかしら?」

 

 結菜がゴットヴェイドー隊の中に紛れていた聖刀を一瞬も探すこと無く、真っ直ぐに目を見て提案した。

 

「勿論♪祉狼を暴走させないし、一葉ちゃん達も守ってみせるよ♪さて、今後の方針も決まった事だし、結菜ちゃんは四鶴さんに自己紹介をした方が良くないかな?」

「え?あ、あら、私とした事が………コホン、私は斎藤利政の娘で織田久遠と華旉伯元の妻、斎藤帰蝶です。通称は結菜と申します。」

「お初にお目に掛かる。…………蝮殿とは何度も戦場でお会いしたが……成程、蝮殿が久遠殿に美濃を譲るつもりだったと言うのは結菜殿を見れば納得がいきますな。目の強さが蝮殿そっくりじゃ♪」

 

 蝮とは結菜の母斎藤利政の渾名で、四鶴が言っているのは斎藤利政の『美濃一国譲り状』の話である。

 結菜が御家流を継いでいる事からも利政は久遠に美濃を譲り、その妻に結菜、義龍を織田家の家臣として斎藤家の存続を考えていたと四鶴は読んだのだ。

 結菜は自分の母とかつて戦場でまみえた相手にそう言われて気恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。

 

「こちらにも久遠殿と結菜殿に挨拶をさせたい者がおりましてな♪」

 

 四鶴は蒲生母娘に手招きをして呼び寄せる。

 

「江南は既に久遠殿の物じゃ。この者達には久遠殿を君主と仰ぐ様に言い聞かせておる。存分に使ってやって下され。」

 

 慶とその後ろに並んだ松、竹、梅が久遠に深く頭を下げた。

 

「私は蒲生賢秀、通称は慶と申します。今後は織田上総之介久遠信長様に忠誠を誓い、粉骨砕身の覚悟でお役に立ちとうございます。この三人は我が娘達です。」

「蒲生氏春、通称は松と申します。」

「蒲生氏信、通称は竹と申します。」

「蒲生賦秀、通称は梅と申します。」

 

 久遠と結菜は慶の若々しさよりも、色違いで揃いのゴスロリ風な洋装よりも、四人の大きな乳房よりも、お揃いの巻毛が気になった。

 くせ毛ならば珍しく無いが、西洋風の巻毛が親姉妹で揃われるとこれが天然なのではないかと思えてしまう。

 

「既に詩乃殿からの手紙で伝わっているとは思うのじゃが、この者達を祉狼殿の愛妾にして頂ければ儂も肩の荷が下りるのじゃがな♪」

「うむ、此度の働きに対する褒美として許そう。結菜、そちらは任せる。」

「はいはい、承りました♪」

 

 久遠と結菜の快い返事に松、竹、梅は喜びに顔を輝かせ、慶は娘達の嫁ぎ先が決まった事に胸を撫で下ろした。

 

 見守っていたゴットヴェイドー隊の中でひよ子がこっそり昴の肩を突く。

 

「ねえ、昴ちゃん。久遠さま方は何でこんな城門前の開けた場所であんなに重要な事を話し合うのかな?」

「ああ、あれはね、間者を警戒してるのよ。こうして開けた場所で話をすれば不審な者が近付けば直ぐに判るでしょ。これは冥琳さま…周公瑾さまが昔に考案されて、孫呉では長く使われてきた間者対策なの♪きっと聖刀さまが久遠さまや四鶴さん達に教えたんでしょうね♪」

「ふえ~、大胆な策を考えるんだねぇ。私じゃ周りが気になってとてもじゃないけど会話に集中できないよ………」

「ひよちゃんだっていつかはあんな立場に立つ事になるかも知れないわよ♪それよりも、これからまた忙しくなるわよ!私の読みでは三、四日で京を舞台に三好三人衆と決戦だと思うわ。」

「そんなに早く!?」

 

 この後、各部隊で京への進軍準備が慌しく始まったのだった。

 

 

 

 

 まもなく日が沈もうという頃、観音寺城内の曲輪のひとつに在る蒲生屋敷に祉狼は招かれていた。

 結菜から許可を得た蒲生の三姉妹が初夜を迎える為である。

 

「お魚が焼き上がりましたわ。竹、梅、お米とお味噌汁はどうですの?」

「松お姉さま、お米は完璧ですわ♪」

「お味噌汁も最高の仕上がりですわ♪この蒲生梅に死角は有りませんわよ、松お姉さま♪」

「そうですわね♪一人一人でも完璧なわたくし達蒲生姉妹に恐れる物など何もありませんわ♪おーーーーーっほっほっほっほ♪」

「「おーーーーーっほっほっほっほ♪」」

 

 三人姉妹の高笑いが台所に響き渡り、外で鳴いていた秋の虫達が驚いて鳴き止んでしまった。

 

「さあ!早くハニーに召し上がっていただき、褒めていただきましょう♪」

「「はい!松お姉さま♪」」

 

 三人は手際良く膳を用意すると祉狼の待つ部屋へ意気揚々と向かう。

 

「ハニー、お待たせ致しましたわ。………あら?」

「「どうなさいましたの、松お姉さま?」」

 

 襖を開けた松が部屋に入ろうとしないので竹と梅が後から覗き込むと、部屋の中に祉狼の姿が見当たらなかった。

 

「「「ハ、ハニー!どちらに…」」」

 

「あ、済まない。縁側だ。」

 

 即座に返って来た声に梅達は安堵の息を漏らす。

 部屋を抜けて、声のした縁側に出ると胡座をかいた祉狼が空を見上げていた。

 視線の先に在るのはこれから新月に向かう半月。

 

「お月見をされていたのですか。」

「うん、虫の声を聴きながらね……」

「風流ですわね♪膳もこちらにお持ち致しますわ♪」

「ああ、ありがとう♪月は俺の生まれた世界と同じだなと思って見ていたんだ。」

「「「月は同じ………」」」

「外史の説明は聞いただろう………俺の母さんと伯父さん達がやはり月を見上げていたのを見た事が有るんだ………きっと今の俺よりも残してきた家族の事を思っていたんだろう。」

 

 祉狼の月を見上げる横顔に松、竹、梅は胸が締め付けられ、瞳に涙を滲ませた。

 

「わたくし達がこの江南を離れた事があるのは京や堺に赴いた程度ですが、今のハニーのお気持ちは判るつもりです。」

「ハニーは孝の徳も重んじられる方なのですね。でうす様の教えでも大切な美徳とされておりますわ♪」

「ハニーのお母様…………出来る事なら是非ともお会いしてご挨拶を申し上げたいですわ………」

「直接会う事は出来ないが、単文程度の手紙なら送る事が出来るぞ。」

 

 梅達は目を丸くして驚いた。

 

「ひよは初めて見た時に神通力の水晶玉だと言って拝んでいたけど、これも御家流の一種だと思えば納得出来るだろう♪」

「まあ♪ハニーの言う通りですわ♪」

「ハニーのお母様にご挨拶のお手紙をお送りしたいのですが………可能でしょうか?」

「竹お姉さま、単文ならとハニーが………そうですわ♪和歌にわたくし達三人の想いを込めれば♪」

「「それは良い考えですわ♪」」

 

 盛り上がる三姉妹に祉狼も笑顔で賛同する。

 

「文面が決まったら教えてくれ。直ぐに向こうへ送ろう♪俺は詩や歌が苦手だから羨ましいな♪」

「あら、ハニー。治療の時に仰ってましたのも素敵な詩でしたわよ♪想うがままを言葉にするのが詩の基本ですわ♪」

「そうか?聖刀兄さんと昴にも教わっているんだが、表現が直接的過ぎると言われるんだよなぁ……」

 

 照れて頭を掻く祉狼の少年らしい姿に梅達の顔も綻んだ。

 

「ああ!お食事が冷めてしまいますわ!」

「おっと、済まない!早速頂かせて貰うよ♪」

 

 祉狼は蒲生三姉妹の作った料理をいつもの様に旨い旨いとモリモリ食べた。

 祉狼は父の華陀と同じで、出された食事は基本的に『旨い』と言って食べる。それは作ってくれた相手の想いが氣となって料理から感じられるからだ。

 余談だが、そんな祉狼でも食べられない料理が存在する。

 

 お気付きだとは思うが、それは愛紗と凪の料理だった。

 

 食事を終えてから梅達は後片付けで台所に戻ったのだが、食事の用意をしていた時の様な会話が無くなっている。

 遂に初夜を迎えるのだと意識してしまうと、頭の中がそれで一杯になり緊張して来た。

 

「……………竹……梅……………わ、わたくし緊張してしまっていますわ…………」

 

 洗い物をしながら松がポツリと呟いた。

 

「松お姉さまもですの?…………実はわたくしも………」

 

 松の洗った食器を乾拭きする竹も俯き加減で応えた。

 

「松お姉さま!竹お姉さま!先程は恐れる物は何も無いって言っていたではありませんの!」

「そう言う梅だって手が震えていますわよ。それは武者震いでは無いでしょう?」

 

 竹の乾拭きした食器を片付ける梅の手が微かに震えていて、松と竹は梅が落として割らないかと心配になる程だった。

 

「梅、仕方ありませんわよ………わたくし達は夜伽の作法を教わっていないのですもの………」

 

 松が姉として梅に優しく言い聞かせると、梅はハッとなり震えが止まった。

 

「そうですわ!詩乃さんから助言を頂いていました!」

「今孔明さんからの助言ですの♪」

「ハニーの愛妾の先輩でもありますし、きっと素晴らしい助言ですのね♪詩乃さんは何と?」

 

「詩乃さんは『自ら求めれば祉狼さま応えてくれますよ』と言ってましたわ♪」

 

「自ら求める………」

「それはつまり………」

 

 三人は顔を寄せて頷く。

 

「「「ハニーに教えを請えば良いのですわっ♪」」」

 

 詩乃の思惑の斜め上の答えを導き出した蒲生三姉妹は、急いで片付けを終えて祉狼の待つ閨へと向かった。

 

「「「ハニー!恥ずかしながら、わたくし達は夜伽の礼儀作法を存じておりません!どうかわたくし達にご教授くださいまし!」」」

 

 部屋に入るなりスライディング土下座をする三人に祉狼も流石に驚いた。

 

「礼儀作法と言われても………」

 

 祉狼は今までの経験を振り返ってみるが統一性が無くて、どれが正式な作法なのか判断出来ない。

 しかし彼女達が年下の自分に教えて欲しいと言うのが大変な覚悟だった事は、その気迫で充分に伝わってくる。

 礼儀作法は後で結菜から彼女達に伝授して貰うとして、今はもっと根本的な性知識の確認から始めようと考えた。

 

「ええと………松、竹、梅はどうやったら子供が出来るか知っているか?」

「「「それは当然ですわ♪」」」

「具体的には?」

「「「えっ!?」」」

 

 三人は見る見る顔を真っ赤にしてモジモジし始める。

 

「そ、その………と、殿方の………アレを……」

「じょ、女性の………あ、あそこに…………」

「そ、そして………精を放たれる………のですわよね………」

 

「成程、三人共男性器の知識は殆ど無いんだな。俺自身が教材になろう。」

 

 祉狼は立ち上がって北郷学園の制服を脱ぎ始めた。

 

「「ハ、ハニー!?」」

「お姉さま!ハニーにだけ恥ずかしい思いをさせる訳には参りませんわ!わたくし達も!」

「「そ、そうですわね!」」

 

 蒲生姉妹もゴスロリ風の服を脱ぎ始め、室内の四人は全員が下着姿になる。

 梅は赤味の強いピンク、竹は若竹の様な黄緑、松は濃緑色で、全員がフリルの付いたブラとパンツだ。

 ブラに包まれた豊満な乳房、細く括れた腰、大きく張り出した尻。

 女としての完成された肢体を恥じらって手で隠す姿は、扇情的であり可愛らしくもある。

 

「よし、これから授業を始めるぞ!」

 

 祉狼は躊躇い無く最後に残ったトランクスを下ろした。

 

 

…………………

 

…………………………………………

 

…………………………………………………………………………

 

 

 襖の外から雀の鳴く声が聞こえてくる。

 

「「「おはようございます、ハニー♪」」」

「ああ………おはよう♪」

 

 松、竹、梅の三姉妹は祉狼とひとつの布団で朝を迎えた。

 

「んふ♪ハ・ニ・イ♥」

 

 梅は甘えた声で祉狼の胸に頬擦りをする。

 松と竹は左右から祉狼の頬にキスをした。

 

「ハニー♥とっても素敵でしたわ♥」

「もう、わたくし達はハニーから離れられませんわ♥」

 

 祉狼は柔らかな肉布団に手足を絡め取られて身動きが出来なくなっていた。

 

「ええと………そろそろ起きないと………」

「あら、まだもう少し良いではありませんの♪」

「わたくし何だかこの世が昨日までと違って見えますわ♪こんな素晴らしい気分の朝は初めて♪」

「ハニーに出会えた事をでうす様に感謝いたしますわ♪」

 

 祉狼は自分の事を愛してくれる三人を撥ね除ける訳にもいかず、されるがままにどうした物かと考えていた。

 その時、襖の向こうに人の気配が近付いている事に気が付く。

 

 

「松!竹!梅!祉狼さまはお忙しい身なのですから早く起きて祉狼さまの身仕度をお手伝いなさいっ!!」

 

 

「「「お、お母さまっ!?」」」

 

 慶の雷に三姉妹は飛び起きて全裸のまま、あたふたと着替えを胸に抱いて部屋の中を駆けずり回る。

 襖の向こうからは大きな溜め息が聞こえ、祉狼は悪いとは思ったが、つい笑いが込み上げてきた。

 

「申し訳ございません、祉狼さま………不束な娘達ではございますが、どうかお側に置いて可愛がってくださいまし。」

 

「ああ、任された、慶さん♪」

 

 祉狼は笑いながら襖に向かって返事をした。

 

 

 

 

 京にある三好家屋敷の一室に三好三人衆の三好長逸、三好政康、岩成友通が集まっている。

 そしてもうひとり、烏帽子の様に尖った白い頭巾の男が三人の前に座っていた。

 白い頭巾はそのまま体を覆う外套となり、顔を覆う布と外套の下の服は黒尽くめだった。

 それは始まりの外史で一刀の命を狙い、『白装束』と呼ばれた于吉の傀儡と同じ物だった。

 

「六角承禎を殺し損ねただとっ!」

 

 三好政康が白装束の報告に声を荒らげた。

 

「あと一歩という所で邪魔が入った。例の天の遣いを名乗る少年だ。」

 

 白装束は無感情に淡々と言葉を続ける。

 

「なんやて!っちゅう事は織田の小娘が遂に上洛してくるんか!」

 

 三好長逸が狼狽え始めた。

 

「そうだ。江南の鬼は全て織田の軍勢に殺され、織田信長は既に観音寺城に入った。」

「ちょい待ちぃや!聞いてへんで、そないな事!」

 

 岩成友通が怒りも露わに詰め寄るが白装束はやはり無感情で、まるで動じる様子がない。

 

「心配ない。これはザビエル様の策だ。貴殿らの本当の目的は何かお忘れか?」

「忘れてなどおらん!あの忌々しい女共を我らの足元に跪かせるのだ!」

「その通りだ。女が男の上に立つなど有ってはならない。その考え故にザビエル様は貴殿らを同志と認め協力しておられるのだ。」

「ほんなら何で江南の鬼を全部死なせてしもたんや!あれを京の守りに使うたらえかったやんか!」

「あの鬼は所詮、百姓や町人を鬼にした物に過ぎない。織田の奴らが鬼の力はあの程度だと油断を誘う為だ。三好家の武士ならば最低でもあの鬼の十倍は強くなるだろう。」

 

 白装束は懐から丸薬の入った紙包みを取り出した。

 

「わいらに鬼になれ言うんか……………」

 

 如何にして鬼を作り出すか、三好三人衆はかなり前から知っていた。

 

「知能の低下を恐れているのであれば心配無用。貴殿らならば上級の鬼となり、頭は今よりも冴え渡るだろう。何よりあの女共よりも膂力が強くなり、摩羅も逞しくなる。貴殿らの真の望みが叶うのだ。」

「「「望みが………」」」

 

 三人の脳裏に浮かんだのは、一葉を力尽くで捩じ伏せ、泣き叫ぶ相手を無理矢理犯す自分の姿だった。

 

「都合の良い事に明日、義継様と松永久秀殿が将軍足利義輝様の野点へ出席される。ひと纏めに襲うのにはこれ程の機会は無い。将軍が貴殿らの手に落ちたと知れば織田は手出しが出来ず、織田軍の士気も砕ける。」

 

 何かと自分たちを見下す松永久秀が、泣いて許しを請う姿を想像するだけで彼らは欲望に目を滾らせた。

 

(義継も所詮は養子のお飾り当主でしか無い。今は生意気な口をきく幼女のガキだが、ガキだからこそ男に(かしず)く様に教育、いや、男に情けを請う女に調教すればいい。)

 

 そんなどす黒い考えに歪んだ嗤いを浮かべる三好三人衆は既に心が鬼に変貌していたのかも知れない。

 

 

 

 

「おい、ワレ。こたびはお招きいただきまことにきょうえつしごくやんけ。」

 

 秋晴れの二条館の庭で催された野点の席。

 煌びやかな着物に身を包んだ幼女の挨拶に、一葉は口角をヒクつかせ歪んだ笑顔を浮かべていた。

 

「右京大夫よ………もう少し言葉遣いはどうにかならんか………」

「ほげ?なあ白百合、ワイのことばづかいはワヤなんか?」

 

 この幼女が三好右京大夫義継。河内国を治める大名である。

 三好家は今でこそ三好三人衆の所為で将軍家とは不仲となっているが、義継の『義』の字は一葉の『義輝』から一字を贈られたものだ。右京大夫への任官も一葉が後押しをしたから叶ったのである。

 

「ふふふ、公方様。河内のお国訛りであるぞ。熊さまはまだお子様である故、大目に見て下され♪」

「その言葉は身内が言う物ではなかろう、弾正少弼。」

「それを言う公方様も大人気があるとは言えませぬなぁ。」

 

 ムスッと突っ込む一葉に、幽が更に突っ込む。

 因みに熊とは義継の通称である。

 

「お姉さまも幽も今はその様な話をしている場合ではありません!早く弾正少弼殿に事情を説明しませんと!」

 

 一葉と幽を叱るのは双葉だ。

 祉狼と出会って以来、いや、一葉が祉狼にパンツをコッソリ渡して以来、双葉は一葉に対してハッキリと意見を述べる様になっていた。

 

「それならば問題は無い。白百合がここに来ておるという事は全てを理解した上ということじゃ。」

「ええ、義秋様。三人衆が異人と組んで鬼を操り、我と熊さまをもどうにかしようと目論んでいるという事であろう。」

 

 白百合こと松永弾正少弼久秀が双葉に微笑み掛けるが、それだけで妖艶な色気を醸し出す。

 

「その異人とは会ったのか?」

 

 一葉達は久遠と連絡を取り合っていてかなりの情報を手に入れていたが、三人衆が実際にザビエルと組んでいる証拠は何も掴んでいなかった。

 

「おう、会いもうした。熊さまへ謁見しに来た折にの。」

「あのワヤなべべ着たキモいヤツやな!仏さんが歩きまわっとるみたいでどえらいキモかったわ!」

 

「(幽、熊さんは何とおっしゃっているのでしょう?)」

「(その異人は奇妙な服を着ていて、歩き回る死体みたいで気味が悪かったと。)」

 

 一葉は懐から一枚の紙を取り出し白百合と熊に開いて見せた。

 それはエーリカの持っていたザビエルの肖像画の複製である。

 

「その異人とはこいつではなかったか?」

「どれ………ふむ、此奴も不気味で如何にも男色家の顔をしておるが、我の見た異人の男とは違うの。奴は何と言うか………特徴が無かった。」

「特徴が無いじゃと?」

「異人だから肌の色や顔立ちが違うておったが、この絵の男の様な印象を受ける相手では無かった。ふむ、ともするとこの絵の方が人らしく、あやつの方が絵か木像の様だったの。熊さまが死人の様だと例えるとおりよ。」

「其奴、本当に死人であったやも知れんぞ。」

「どうしてそう思われるのか、公方どの。」

「そうじゃな…………そもそもお主は鬼とは何なのか知っておるか?」

「異人が操れるのじゃから異人が船で運び込んだ獣だと思っておったが…………違うようだのぅ。」

 

「鬼とは外法を用いて人に感染させる病じゃ。全身を病魔に蝕まれれば異形の鬼の出来上がりよ。」

 

「成程、あの異人は鬼であったか………」

 

 その時、庭に使番の者が駆け込んで来た。

 

「ご注進!ご注進でござます!突如京の南方に鬼の大群が現れ桂川を越えてこちらに向かって来ていると報告が入りました!!」

 

「来よったか。」

 

 一葉はニヤリと笑って見せる。

 

「鬼っ!?ワイがここにおんのになして!?」

「熊さま、謀反にございまする。三人衆が我らを裏切り公方様共々亡き者にしようと牙を剥きました。」

「謀反……………長逸!政康!友通!あんのアホンダラのミミズチ○ポどもがぁあ!」

「何れこうなる事は予見しておりました。此度の二条館への訪問も奴らの手の内から逃がれる為の策。」

「ほ、ほんまか!さすが白百合や♪頼りになるやん♪うわははははーーーー♪」

 

 熊の態度に一葉は蟀谷を押さえる。

 

「こやつに義の一文字をくれてやったのは間違いだった気がしてきたぞ………」

「そう仰りますな、公方さま。相手は童でございますぞ♪」

 

 幽は一葉を柔らかに慰めた。

 白百合への先程の意趣返しも込めて。

 

「さて、細川の。織田の軍とは連絡が取れておるのだろうな。」

「当然でござる。援軍が来るまで暫しの辛抱。松永どのの連れてきた護衛の数は?」

「我が手勢五十のみ。しかし全て鉄砲を持たせてある。」

「それは心強うございますな♪雑賀衆と合わせて鉄砲が百でござるか。先ずは鉛玉の雨で敵の数を減らしますか♪」

「なんじゃ、幽。今日は気前が良いではないか。」

「弾薬をケチってここで死んでもあの世に鉄砲は持っていけませんからな。」

「じゃがその前に余が足利の力を見せ付けてくれよう♪」

 

 今度は白百合がニヤリと笑って一葉を見る。

 

「三千世界を使われるか。」

「それこそここで使わねば宝の持ち腐れじゃからな♪白百合、お主の兵を早く門内に入れよ!」

「承った。では熊さまと義秋さまを館の奥に…」

「いや、双葉と熊は余達の近くに居た方が良い。織田からの報告で草の様に動く鬼も確認されておる。忍び込まれる危険が有るなら余達の近くが一番安全じゃ。」

「成程、然り。では熊さま、義秋さまのお側を離れませぬ様に。」

「うむ、心得たで!義秋さまよろしくお願いするで♪」

「はい♪わたくしの事は双葉と呼んで下さいね♪わたくしも熊さんと呼びますから♪」

 

 これから激しい戦闘を迎えるのは判っていたが、双葉と熊の姿は一葉達の心を和ませた。

 

 

 

 

 迫り来る異形の怪物の群れを前に、剣豪将軍足利義輝が南門の上に立つ。

 鬼との距離はまだ二町(約220m)有り、鉄砲も弓も有効射程外だ。

 烏の持つ長身鉄砲『愛山護砲』ならば当てる事は出来るが、鬼相手では殺せるか微妙な距離である。

 

「須弥山の周りに四大州。その周りに九山八海。その上は色界、下は風輪までを一世界として、千で小千世界、その千で中千世界、更に千で大千世界。

全てを称して三千大千世界。通称、三千世界と云う。

三千世界は果ても無く、この世に在るとも、しかしながら、無いとも言える。現であり、幻でもある。

見るも醜き鬼どもよ!足利将軍である余の力!思う存分味わわせてやろう!

余のまだ知らぬ時より馳せ参じた銘刀よ。

足利の。日の本の敵を殲滅せよ!」

 

 百を超える異世界の銘刀宝剣が虚空より現れ、一葉の意思に従い鬼を刺し、斬り、刎ね飛ばす。

 この距離では反撃の手段を持たない鬼は、一方的に殺され塵に返っていく。

 ひと振りにつき十は屠り、千匹以上の鬼の数を減らした。

 しかし、鬼は怯む事無く只管に二条館へと近付いて来た。

 

「くっ………少しは怯む素振りを見せんか…可愛気の無い………まあ…元から可愛くなど無いか………」

 

 呼び出した刀達が元の世界へ返った後、一葉は全身から汗を流し荒い息を吐いていた。

 以前、祉狼達に三千世界を見せた時に感じた結界が、今も一葉の邪魔をしたのだ。

 本来ならば五百振り呼び出せる程の気力を振り絞って、少しでも鬼の数を減らそうとした結果だった。

 

「烏っ!」

 

「(コクリ!)」

 

 鬼までの距離は残り一町。

 ここまで来れば烏の鉄砲が鬼の頭を撃ち抜く事が出来る。

 

 ズドンッ!!

 

 通常の火縄銃より重い発砲音を響かせ撃ち出された弾丸は、三匹の鬼の頭を吹き飛ばし、四匹目の頭を貫通、五匹目の眉間に穴を開けて脳を破壊して止まった。

 

 ズドンッ!!

 ズドンッ!!

 ズドンッ!!

 

 早合を使用しているとは言え通常は三十秒以上掛かる装填を十秒程で終わらせ、確実に五匹以上の鬼を撃ち殺していく。

 しかし、一葉と烏の攻撃でも鬼の数を三分の一削ったに過ぎなかった。

 正面からしか敵を確認出来ない二条館の者達は幾ら殺しても鬼の数が減っている様には見えず、進軍速度も変わらない上に不気味な姿がハッキリと見える様になり恐怖を覚える者が出始める。

 白百合が敏感に空気を感じ取り、声を張り上げた。

 

「怯むでないっ!敵は異形のなれど不死身では無いっ!奴らの掲げる旗差物を見よっ!三階菱に五つ釘抜はここにおわす三好義継様の掲げるべき物っ!三好を騙る鬼共に天誅を下してやれっ!」

 

 白百合配下の足軽達はこの檄で闘志に火が点き、大声で鬼を殺せと叫び合う。

 

「八咫烏隊も負けないよーーー♪お姉ちゃんに続けーーーー♪パンパーーーン♪」

 

 雀の号令で幼女達の構えた鉄砲が火を噴き連続音を奏でた。

 集団の先頭を歩く鬼達がバタバタと倒れ塵に返っていく。

 八咫烏隊の奮戦と雀の鬼を恐れぬ明るい声に励まされ、弓隊も連射を始めた。

 

 それでも鬼の進軍は止まらない。

 

 遂に鬼が空堀を越えて壁に取り付き始める。

 塀の上から槍で突き殺す事で漸く鬼の進軍が堰き止められた。

 

「かーーーーかっかっかっかっ!足利の御家流とはその程度かっ!雑賀衆の鉄砲など雨垂れ程にも効かぬわっ!久秀ぇえええええ!貴様ご自慢の精鋭とやらも儂らの前では木偶人形と同じよぉおおおおおおお!!」

 

 声と共に鎧兜を身に纏った三匹の鬼が後方から突撃して来る。

 

 ズドンッ!

「(っ!?)」

 

 烏の撃った弾丸を鎧兜の鬼の一匹が片腕で弾き飛ばした。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁあああああああああっ!!」

 

 三匹の鬼は地を蹴って塀を越え、一葉達の前に降り立つ。

 

「久しいのう、小童将軍!」

「その声………三好政康か!」

「かっかっか!その名は捨てたわ!今の儂の名は釣竿斎宗渭!」

「人を辞めて名まで変えたか!」

「そうよ!儂らは人間を辞めたぞぉおおおおおおおおっ!!義輝ぅうう!これを見ろぉおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 鬼の股間から歪に捻じれ節くれ立った『角』が生えていた。

 

「この釣り竿の如き見事な名物が名の由来よぉおおおっ!」

「こ…小汚い物を見せおって………」

 

 『角』の正体を察した一葉は、双葉には見えない様に視界を遮った。

 

「この名物が小汚いだとぉ?その手に持つ『大般若長光』よりも遥かに良き名物であろう!貴様ら全員をこの名物の鞘にして可愛がってやるぞぉおお!」

 

 鬼となって歪んだ顔を更に歪めて嗤う釣竿斎宗渭は、口から涎を垂らしながら一葉の躰を舐める様に視線を這わせる。

 

「生憎と我が鞘に収まるひと振りは既に決まっておってな。そんな小汚い物は木の洞にでも突っ込んでおるがよいわっ!!」

 

 言い返しながら青眼に構えた切っ先は隙を覗っていた。

 

「くっくっく。息が荒いぞぉ、義輝ぅう!貴様が先程の『三千世界』で疲労しているのはお見通しよぉお!」

 

 幽と白百合も刀の柄に手を掛け加勢しようとしたが、残りの二匹の鬼が行く手を阻んだ。

 

「久秀ぇえ、今まで散々コケにしてくれよったなぁ。そんでもこれからはその男好きする体をいたぶってヒイヒイいわしたるでぇ♪長慶のクソオヤジなんぞ思い出せん様にしたるわぁああああ!」

「ふん、下郎が………貴様如きが先代様に敵うと思うなっ!長逸っ!」

 

「細川藤孝ぁ!そう簡単に音を上げるなや♪ワレの泣き叫んで抵抗するんを楽しみにしとるんやからなぁあああ♪」

「なんと悪趣味な………姿形のみならず、魂まで外道に堕ち申したか、岩成友通っ!」

 

 白百合も幽も一対一ならば鬼となった彼らにも引けを取るつもりは無い。

 しかし、一葉と双葉と熊の三人を守りつつでは分が悪いのは明白だった。

 

(僅かでも気を抜けませんなぁ………最悪でも双葉さまだけは落ち延びて頂きませんと………)

 

 三匹の鬼が間合いを詰めようと一歩踏み出した。

 

 その時!

 

 

「ほーーーーほっほっほっほっほっほ!!」

「がっはっはっはっはっはっはっは!!」

 

「何だ!この笑い声と気配はっ!?」

「何処やっ!何処におんねんっ!!」

「あ!あそこやっ!!」

 

 岩成友通が指差したのは二条館の屋根の上!

 そこには陽の光を背負った五つの影が立っていた!

 

「悪の徒花(あだばな)咲くところぉ、正義の華蝶の姿ありぃ♪」

 

「清き魂守るため!か弱き乙女を守るため!」

 

「美々しき蝶が今舞い降りる!」

 

「例え外史は違えども!」

 

「名乗る名前は唯一つ!」

 

(ひじり)華蝶!」「(ろう)華蝶!」「(すばる)華蝶!」「貂華蝶!」「巫女華蝶!」

 

 

「「「「「五人揃って!戦国華蝶連者隊(せんごくかちょうれんじゃたい)っ!!」」」」」

 

 

 五人がポーズを決めると華蝶の仮面がキラリと光る!

 

「「「「「漢者萬(カンジャマン)っ!!」」」」」

 

 

「かんじゃまん?」

「なんや、あのけったいな連中は…………」

「アホや…………」

 

 三匹のおっさん、いや、鬼は呆れて戦国華蝶連者隊・漢者萬を見上げていた。

 

「「「隙あり!」」」

 

サク!

 

「「「ほんぎゃあああああああああああああああああ!!」」」

 

 三匹の鬼は一葉、幽、白百合に刺されてあっさり絶命。

 サラサラと塵に返っていく。

 

「「「「「とうっ!」」」」」

 

 戦国華蝶連者隊・漢者萬が一葉達の元へ降り立った。

 

「一葉!双葉!遅れて済まない!無事だったか!?」

「祉狼さま♪お助け頂き本当にありがとうございますっ♪」

 

 双葉が姉よりも先に狼華蝶へ駆け寄り、その胸に飛び込んだ。

 

「うむ、大事無い。しかし、その仮面は何じゃ?とても強い力を感じるが。」

「華蝶の仮面だ♪」

「???」

 

 狼華蝶からはこれ以上の説明が無く、一葉は諦めて後で聖刀から聞く事にした。

 

「なんやワレ♪ごっつカッコええやんけ♪」

「はじめまして♪昴華蝶とは世を忍ぶ仮の姿。私の名前は孟興子度。通称は昴よ♪」

「ワイは三好義継!通称は熊や♪」

「クマちゃんっ♪可愛いわねぇ♪よろしくね♪」

「おう♪よろしくしたるわ♪」

 

 昴華蝶はさっさと仮面を外して熊と仲良くなっている。

 聖華蝶も白百合に挨拶をしていた。

 

「初めまして♪僕の名前は北郷聖刀。田楽狭間の天神衆のひとりと言えば判ってもらえるかな?」

「ほほう、お主が。その仮面、かなりの逸品であろう♪」

「判るの?」

「見縊るでないわ♪我は数寄に命を賭る、生粋の数寄者よ♪どれ♪」

 

 白百合は詳しく鑑定してやろうと聖華蝶から仮面をヒョイと取ってしまった。

 

「あ…………」

「あ…………」

 

 聖刀の素顔を見た白百合の顔に見る見る紅が挿していく。

 

 一方、幽は貂華蝶と巫女華蝶へ頭を下げていた。

 

「貂蝉どの、卑弥呼どの、いやはや助かり申した♪」

「んふふ♪これくらいお安いご用よ~♪」

「うむ、気にするでない♪だが、この仮面を着けておる時は私の事を巫女華蝶、こやつは貂華蝶と呼ぶが良い♪」

「ははは♪徹底しておいでですなあ♪しかし、その様な宝具までお持ちとは驚きました。」

「本当は使うつもりじゃなかったのだけどねぇ、仮面ちゃんの声が聞こえたのよん。」

「急がねば手遅れになるとな。まあ、その話は後だ。統率しておった鬼が居なくなって雑兵の鬼どもが好き勝手に暴れ始めておる。我ら戦国仮面連者隊・漢者萬の仕事はここからよ♪」

 

 挨拶を終えた戦国仮面連者隊・漢者萬が、遂にその真価を発揮する!

 

「我が身、我が鍼とひとつなり!一鍼胴体!全力全快!必察必治癒!病魔覆滅!

げ・ん・き・に・なれぇぇええええええええええええええっ!!」

 

 塀の中では戦いでの負傷者を回復させ!

 

「鬼の分際で幼女に近付こうなんておこがましいのよっ!!八咫烏隊のみんなは私が守るっ!!烏ちゃん!雀ちゃん!八咫烏隊の幼女ちゃん達!みんな安心してバンバン撃ちまくって♪」

 

 鉄砲隊に近付く鬼を蹴散らし!

 

「(グッ!)」

「わーーい♪おヌウちゃーーん♪ありがとうーーーー♪」

「昴さまぁーー♪後で一緒にご飯食べよーー♪」

「昴さまぁーー♪一緒にお昼寝してーー♪」

「昴さまぁーー♪一緒に水浴びしよーねー♪」

 

「ふぉおぉおぉおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 五十人の幼女の声援に昴華蝶は熱く滾った!

 

 別の場所では近付く鬼を片っ端から切り捨てている!

 

「ええい!汚い外道が聖刀さまに近付くでないわっ!!」

 

 白百合が!

 

「ええと…………僕は加勢に来てるんだけど………」

「聖刀さまに見られているだけで、この白百合、千人力!いやさ、万人力ですぞ♪もっと我を見つめて下さいませぇ♥」

「う~ん………不意打ちだったとは言え、責任は取らないと駄目だよねぇ…………ま、いっか♪」

 

 いつも通り軽いノリの聖刀だった。

 

「あらあら、こんなになっちゃてぇ~。おネエさんが優しく逝かせて、あ・げ・るぅ~~~ん♪ぶるぁああああああああ!」

「貂華蝶。あまり調子に乗るでないぞ。私達の仕事は鬼を二条館の中に入れない事だ。」

 

 塀に取り付いた鬼を次々と殴り飛ばした!

 

「巫女華蝶どの!お味方が到着されましたぞ♪こちらからも討って出て挟撃いたしましょう!」

「いや、それには及ばぬ。こちらの兵は疲れが出始めておるし、鉄砲も銃身が加熱してそろそろ使えなくなる頃であろう。それにこの鬼を本隊が蹴散らせぬ様では若狭に乗り込むなどとても出来ぬぞ。」

「成程、然り。……………おや、何やら別の部隊が鬼に横擊を掛けておりますぞ。」

「んん?………あの家紋は藤橘巴(ふじたちばなどもえ)だの。」

「流石は巫女華蝶どの。この距離で見分けますか♪藤橘巴は…姫路の小寺家ですな。」

「ふむ、騒ぎを聞きつけ駆け付けたか♪」

 

 

 

 

 姫路衆を指揮して鉄砲隊で横擊を掛けているのは、小寺官兵衛孝高(よしたか)である。

 

「鬼が散らばり始めていますが、織田軍の方々が追ってくれています!我らは気にせず鬼の数を減らす事に集中しなさい!」

 

 百人の鉄砲隊を二十五人ずつに分け、四段構えで連射を繰り返す。

 

「織田軍の鉄砲隊が呼応してくれてますね。十字砲火を知っているとは………もしかして今孔明の竹中殿♪うう!お会いしてお話したいです!」

 

 白い大きな帽子を被った官兵衛はゴットヴェイドー隊が気になったが、今は目の前の事に集中して指揮に努めた。

 一方、ゴットヴェイドー隊の方でも官兵衛率いる姫路衆鉄砲隊を気にしていた。

 

「詩乃ちゃん、よく初めて会った部隊と連携できるねぇ…………」

「私もひよとならある程度は打ち合わせも無しで連携出来るけど………」

 

 ひよ子と転子が目を丸くして驚いていた。

 

「それはあちらも呼吸を合わせてくれているからですよ。恐らくあの部隊を率いているのは旗指物から見て姫路の小寺官兵衛殿でしょう。戦巧者と聞き及んでいますから♪」

「詩乃ちゃん、なんか楽しそうだね♪」

「そ、そうですか?………そうかも知れませんね♪」

 

 自分と同じ考えをする人が居る。

 それだけで人は心強く感じる物だ。

 

(後で是非ともお話をしたいですね♪)

 

 詩乃も心の中で官兵衛と同じ事を呟いていた。

 

 そして久遠率いる本隊も二条館を目指して突撃を開始する。

 露払いは森衆とゴットヴェイドー隊鬼退治班と母衣衆が競って努め、柴田衆と丹羽衆は逃げ散る鬼を追いかけ掃討していた。

 

「ヒャッハーーーーーーーーー♪殺し放題、狩り放題だぜぇえええええええっ♪」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァアアアアアアアアアアアアアアアッ♪死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇええええええええええええええっ♪」

 

 森の母娘の通った後には、モーゼの十戒の様に道が出来上がる。

 これは鬼が塵に返るからであって、普通ならばバラバラ死体を敷き詰めた一本道というスプラッタな光景が広がる所だ。

 

「お母さんにも小夜叉にも負けないですよーーー♪」

「鞠も負けないのーーーー♪」

「黒母衣ぉーーーーーー!森の奴らに負けてんじゃねえぞぉおおおおっ!!」

「赤母衣も気張れぇえええええええ!」

「「昴さまっ!浮気してたら許しませんよっ!!」」

「メィストリァ!今参りますから、どうかご無事でっ!!」

「祉狼さまっ!歌夜が今、お側に参りますっ!」

「「「ハニーーーー!我々も参りますわよーーーーー!!」」」

 

 本隊が突撃する光景を見て、詩乃は頭を抱えた。

 

「はぁ………これでは牡丹園どころか羊の代わりに猪を連れている遊牧民の気分です………」

「ね、ねえ、詩乃ちゃん………このまま鉄砲を撃ってていいのかな?」

「味方に当たらない?」

 

 ひよ子と転子が流石に心配になって詩乃に訊いた。

 

「射線を久遠さまから外してあれば大丈夫でしょう。他の方は万が一当たっても祉狼さまが治して下さいます。」

「「ええっ!?」」

「冗談ですよ♪」

 

「「冗談に聞こえないよぉおおおおっ!」」

 

 後に『永禄の変』と呼ばれる三好三人衆の反乱は間も無く終わろうとしていた。

 その様子を鐘楼の上から眺めるひとつの影がある。

 三好三人衆と会っていた白装束だ。

 

「はい、ザビエル様。実験は成功致しました。この新薬ならば男の欲情を増加させた鬼とする事が出来ます。」

 

 虚空に向かって呟いているのは、ザビエルとの念話だからである。

 

「はい、では京の北の鬼は全て引き連れて越前へと向かいます。」

 

 念話が終わると白装束の姿が忽然と消えた

 ザビエルの張った罠にゆっくりと呑み込まれ始めている事に、織田の連合軍は誰も気付いていないのだった。

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

この小説を書く為に戦国時代を勉強し直しているのですが、忘れている事や新たに知る事が多くてちょと…いや、かなりのめり込んでます。

次のNHKの大河ドラマは見てしまうだろうなぁ………

 

 

では新キャラ紹介です。

 

白百合(松永弾正少弼久秀)

 この人も原作では殆ど登場しなかったですね。

 原作で初めて登場した時は、あのコスチュームを見て「痴女?」と思ってしまいましたw

 聖刀が担当する事は最初から決めていました。さて、狸狐をどう立ち向かわせましょうw

 三好長慶の側室だった事にしたのは、正史の松永久秀を取り立てて出世の道を作ったのが長慶だったからです。

 

熊(三好右京大夫義継)

 真名は幼名の『熊王丸』から持ってきました。

 コンセプトは『間違った河内弁で喋る美羽』w

 白百合が七乃化するかもw

 

三好長逸、三好政康(釣竿斎宗渭)、岩成友通

 三好三人衆です。

 原作よりも色々と陰謀を巡らせて頑張ってましたが、あんな最後にw

 ディオのパロまでさせましたけど、器じゃ無かったですね。

 正史では釣竿斎が一時期『大般若長光』を所持していたそうです。

 

雫(小寺官兵衛孝高)

 コスチュームの所為かロリっぽく見えますよね。

 クリスマス壁紙のかんたか様、ぎん太郎様、MtU様の描かれたサンタのエーリカとトナカイの梅と雫のイラストが大好きでかなり影響を受けてますw

雫と梅とエーリカで天主教絡みの会話をさせたいと思っています。(壁紙の再UP激しく希望!!)

 あ!慶と松と竹も加わりましたので天主教隊が組めそうですねw

 

おまけ

 

戦国華蝶連者隊・漢者萬

 いや、当初は出す予定は全然無かったんですよ!

 あのシーンを書く寸前で突然頭の中に「ぶるぅぁああああ!」っと降りて来てあんな事に………

 

『大般若長光』

 国宝として現存する刀ですね。

 大般若とは『大般若波羅密多経』の事で、当時の銭六百貫の値付けがされた事から大般若経六百巻になぞらえて付いた名前だそうです。

 因みに國綱が銭百貫、政宗が銭五十貫だったそうですから、どれだけ破格だったか判りますね。

 

 

さて、次回は幕間劇を中心にしたいと思います。

予定では京を出発する所までです。

 

 

Hシーンを追加したR-18版はPixivに投降してありますので、気になる方そちらも確認してみて下さい。

[pixiv] http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5867783

 

 

 

 


 
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