No.80008

真・恋姫無双after~蜀の日常・その7~

久しぶりの投稿です!
今回はどのヒロインの娘が出てくるのかナ?
魏にいるあの娘も出て来ます!

2009-06-20 01:29:55 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:9437   閲覧ユーザー数:7193

一刀が扉をあけると、そこは木屑の山が広がっていた。

「紹(しょう)?今日もまたすごいね・・・」

「・・・パパ」

木屑に山の部屋の主である少女は父の声に振り向いた。赤い髪に相手に深い印象を与える母そっくりの触角のような2本の癖毛。どこかぽやっとした見る者を癒す瞳―――少女の名は呂紹。飛将軍と謳われた呂布こと恋と一刀の間に生まれた娘である。

 

「パパ、見て」

呂紹の呼びかけで、一刀は娘が握っている物体に目をやった。

「・・・熊さん」

彼女が握っているのは、木を彫って作られた熊が獲物である魚を口にくわえている勇姿。

この木彫りの熊、実は呂紹の作品なのだ。彼女は物心ついたころから木彫りに興味を持ち、以来様々な作品を作って魏の隠れ木彫り職人夏候惇こと春蘭にも絶賛された腕前で、呂紹は彼女を『ししょー』と呼んでいる。

「ますます腕が上がってるなー、紹は」

日を追うごとに腕前が上がっていく娘が嬉しくなり、頭を撫でる。嬉しそうに目を細める呂紹のお腹の虫が鳴き始めた。

「・・・お腹すいた」

「はははっ、紹はほんとにママそっくりだな~。じゃ、食堂に行こうか!」

「・・・(コクリ)」

製作途中の熊を置いた呂紹は一刀の手を握り、一緒に食堂に向かって歩みを進めた。

「おや、親父様に紹ではありませぬか」

食堂にはすでに先客がいた。母そっくりの長いパープル色の髪の毛を無造作に伸ばした少女が星特製と思われるメンマを片手に酒が入った徳利を手に酒を飲んでいる。

「こーら、封(ほう)。また桔梗のお酒と星のメンマを持ち出して。怒られても知らないよ?」

彼女の名は厳封。厳顔こと桔梗の娘であり、一刀の子供たちの中では一番の酒豪である。まだ10代前半なのだが・・・

一刀が窘めると、厳封は慌てたようにメンマの入った壺に蓋をして皿の上に乗ったメンマを口に放り込む。

「お、親父様、お袋様はともかく星様に言うのは勘弁してくだされ!」

「ほらほら、じゃあ早く蔵に戻さないと」

一刀が急かしてメンマ壺を食堂奥にある保管庫に戻させる。星は子供たち、特に厳封達悪戯っ子にとっては敬愛する相手であると共に、大の苦手なのである。

「・・・封姉」

「むっ、紹!」

厳封はメンマ壺の処理に気を取られてすっかり忘れていた異母妹の存在を思い出した。

「・・・ごはん」

「そうだ、封。紹にご飯作ってやってくれないか?」

実は一刀も料理は作れないことはないのだが、ここは子供たちの中でも一番の料理上手である彼女に調理を依頼した。

「おぉ、いいぞ紹よ!たくさん作ってやろう!この姉に任せておけ!」

彼女は胸を張ると飛ぶように調理場に走った。その張り切りように一刀は彼女の意図に気がついた。

呂紹はとても母同様素直な子で嘘がつけないし、つかない。その為一刀の悪戯っ子たちは悪行が呂紹にたまたま見つかってしまうと、口封じの為に食べ物を奢る、もしくは今の厳封のように料理を作ってご機嫌をとり、黙っていてもらうのだ。そのせいか、いたずらっ子たちは料理が上手な子が多い。食べ物を奢ると莫大な金がかかるため、おこずかい確保のために必然的に料理が上手になっていくのだが・・・

「ほーら、親父様、紹。出来ましたぞ」

「おおー!さすが封だ!すっげー美味しそう!」

「・・・じゅるり」

卓に置かれた中華料理を前に一刀は感嘆の声をあげ、呂紹は舌舐めずり。母同様の深紅の瞳は目の前の料理にくぎ付けである。

「じゃ、食べようか、紹。封も一緒に食べよう」

「いいのですか?」

「・・・封姉も一緒に食べる。そのほうがもっと美味しい」

父と一緒に呂紹も姉を食事に誘うと、厳封も箸を持って来て席に着いた。

「それじゃ、2人とも手を合わせて」

『いただきまーす!』

「それで、朱莉」

「は、はいっ」

朱莉はこの日、警備隊の総指揮を執る夏候淵こと秋蘭の自室に招かれていた。秋蘭は緊張する朱莉に苦笑気味に茶を勧める。

「そう緊張するな。何もお前に処罰を下そうというわけではない」

「は、はぁ・・・」

(じゃぁ、なんで自分はここにいるのだろう・・・?)

小首をかしげながら、朱莉は上司が入れてくれた茶をすする。自らも茶碗から唇を離し、秋蘭は口を開いた。

「凪から相談を先日受けたのだが・・・」

秋蘭は、『朱莉の様子が最近おかしい』と姪を気遣う伯母・凪の相談を受けた。曰く、『溜息が多くなった』・『明後日の方向を向いては頬を赤くしている』等といったもので、沙和は『朱莉ちゃんの初恋なのー!』だと言って騒いでいること・・・

それらの事を朱莉に話すと、彼女は頬を赤くして俯いてしまった。

「・・・沙和様の言う通りなのです、秋蘭様。私はその男の子に・・・その、恋をしてしまったのかもしれません。で、ですが私は彼の名も知りませぬし、見たところ高貴な身分の方のようでしたから、私などが釣り合うはずも―――『朱莉』――ふぇっ!?」

真っ赤な顔をしてネガティブに話していた朱莉の口を、秋蘭は手で塞いだ。少し咎めるような眼で、彼女を見つめる。

「いいか、朱莉。お前はその少年に間違いなく恋をしている。その子がどんな身分なのかは私にもわからぬ。だがな」

朱莉の口から手を離し、秋蘭は彼女の肩をつかむ。

「『恋』という戦が始まる前から、身分の違い等という下らぬ言い訳を盾に逃げる者があるか!」

「っ!」

上司の厳しい一喝にビクッと背筋を伸ばす朱莉。その瞳に闘志の炎がともるのをしっかりと見た秋蘭は優しく語りかける。

「高貴な身分の子息となら、私も幾らか面識がある。その男の子の特徴を教えてくれないか?」

「秋蘭様・・・」

「我が娘に等しき子の初恋を叶えてやりたいのだよ。協力させてくれないか?」

「・・・ありがとうございます!」

朱莉は感動したように眼を潤ませて立ち上がり、頭を下げた。秋蘭に促されて座りなおすと思い人の容姿を思い浮かべながら、言葉に表す。

「・・・身長はそれほど高くはありませんでした。瞳の色は緑、髪の色は栗色で―――」

ふむふむと頷きながら、秋蘭は竹管に特徴を書き記していく。そして、ひとつの特徴を朱莉が言ったところで、彼女の筆が止まった。

「そうそう、首飾りをしていたのですが、後で思い出してみると、その首飾りは象牙製でした」

「ふむふむ・・・象牙の首飾り!?」

「何か御存じなのですか、秋蘭様!?」

上司の豹変ぶりに驚く朱莉。

「朱莉、お前は知らぬかもしれぬが、象牙の首飾りは蜀王・桃香殿―――劉備殿に御子息が誕生した時に、華琳様がその御子息に贈られたものなのだ。その御子息の名が、劉永殿だ」

「えっ・・・?蜀王様の、御子息・・・?」

朱莉は霧が晴れた気分から、一気に暗闇に突き落とされた気分になった。

三国同盟の一角を担う魏国の一警備兵と、魏の盟友たる三国同盟の一つ、蜀の皇子。

身分違いの2人が結ばれることは、果たしてあるのだろうか―――


 
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