「・・・はぁ」
ほぼ毎日行われている蜀の将軍たちを先生に迎えて行われる一刀の子供たちの勉学の時間中、この日の先生を務める公孫賛こと白蓮の雷が1人の子の上に落ちた。
「こらっ!劉永様!聞いてるのか!?」
「ん・・?ああ、白蓮さん。答えはもやしです」
「誰がもやしが答えの問題を出した・・・」
劉永のぼけた答えに思わず脱力する白蓮。異母兄弟姉妹の爆笑が上がる教室を見ても劉永のぼんやりとした顔は変わらない。
(劉永様はどうしたんだ・・・?)
「と、ゆーわけで!」
バンバンッと玉座の間に桃香が机をたたく音が響き渡る。
「ただいまより緊急会議を行いたいと思いますっ!」
宣言した桃香は出席しているメンツを見渡す。出席しているのは夫の一刀に愛紗・璃々・星・白蓮。
「どうも最近、劉永様のご様子がおかしい・・・と愚息関興から聞いております。どこか物憂げなご様子で、遠くを見てはため息をおつきになっているとか」
「今日の授業でもそうだったよ。なにかこう・・・遠くを眺めている目だったな・・・」
愛紗に続き、白蓮もうんうんとうなずいている。
「そういえば白帝城下で追いかけっこして劉永ちゃんを捕まえた時にあの子、なんかボーっとして、お説教してる時もなんだかうわの空でした。それが何か関係するんでしょうか・・・?」
璃々が心配そうに頬に手を当てて報告する。すると一人黙っていた星がポン、と手を打ち合わせた。
「主、桃香様。解りましたぞ、劉永様の不調の理由が」
「えっ」
「本当、星ちゃん!」
キラキラとしたまなざしで桃香が手を組み合わせて見詰めてくる姿に若干苦笑しながらも、星は主君夫妻に提言する。
「劉永様もお年頃。気になる異性の一人や二人いたところでおかしなことではありますまい?」
「恋か!」
一刀が合点がいったとばかりにパチンと指を鳴らす。
「左様。劉永様は白帝の街で見目麗しい女子と出会い、御心を奪われたのでしょう。ただ・・・」
「ただ、なんだ?」
「劉永様はおそらくその女子とは、ほんの少しだけお言葉を交わしただけで、その娘の名すら知らぬでしょう。それ故どうやって・・・ええと、『あぷろぉち』するべきか途方に暮れている状態だと思われます」
「そっか~、永ちゃんも恋をするような年になったんだね~♪」
桃香はわが子に春が来たことがとにかくうれしそうだ。「しかしなぁ」と白蓮。
「劉永様が食い気よりも色気が出てきたのは喜ばしいが、その娘の名も分からないんだろう?『あぷろぉち』のしようがないじゃないか」
「それだよなぁ・・・その人が白帝の街の人っていう訳じゃないし」
「あそこには魏軍の方も呉軍の方もいましたから・・・」
せっかく訪れたかもしれない弟分の初恋が、実りそうにないことにため息をつく璃々。
一方そのころ魏国首都・許昌では、『魏の三羽烏』と呼ばれる楽進こと凪、李典こと真桜、于禁こと沙和が行きつけの飲食店の卓を囲んで、かのじょたちと親しい一人の兵士の様子が最近おかしいことについて話し合っていた。
「凪、最近朱莉(あかり)、なんかおかしくないか?やけにボーっとしてたり、溜息をついとったりしとるで」
真桜が魏の盟友である蜀王達の夫『天の御遣い』が発明したという『マーボー丼』に舌鼓を打ちながら、凪に質問をぶつけると、彼女も唐辛子ビタビタのマーボー豆腐を喉に流し込んでから答える。
「ああ。楽仁は、どうもあの三国会談が行われた時からおかしいんだ。指を唇に合わせてなぞっては頬を赤く染めたり、遠くを眺めてはため息をついたり・・・」
彼女も姪の不調は気にかけているようではあるが、その原因は分かっていないようだった。
ちなみに『朱莉』が楽仁の真名である。
「きっとそれは恋だと思うのー!」
瞳をキラキラさせながら立ち上がったのは沙和。彼女は色恋沙汰が大好きなのだ。
「恋ぃ~!?あの伯母に似た頭ガチガチ娘がか~!?」
「別に私も朱莉も頭ガチガチじゃないと思うけど・・・それと沙和、座れ。行儀が悪いぞ」
真桜が目を丸にして驚けば、凪は自身と姪の『頭ガチガチ』を否定しつつも沙和を窘める。
しかし沙和は聞く耳がないようで、『チッチッ』と指を振る―――。とりあえず座りはしたが。
「いい、凪ちゃん?朱莉ちゃんもお年頃なんだよ?しかも凪ちゃんに似てとってもかわいいし、恋の一つや二つもしてもおかしくないの。でもいままでそんな話は聞いたことがないでしょ?それはなぜか?その答えはすでに出ているの!」
「その答えはなん(だ)(や)!?」
興味津々の体で身を乗り出す2人。親友2人を見つめて沙和は言い放った。
「恐らくだけど~・・・今まであったことのない種類・・・ええと『たいぷ』の男の子に恋したんだと思うの」
「へ?」
「どういうことだ、沙和?」
「いままで朱莉ちゃんの周りの男の人って言えば、年上のおっさんたちとか、同年代でも筋骨隆々の汗臭い玉無し野郎どもぐらいだったとおもうの。そこで朱莉ちゃんが出会ったのは間違いなく高貴な身分のスーパー美少年なの!」
「いや・・・それはないやろ」
「そもそもあいつは蜀であれ呉であれそんな高貴な方に会える身分じゃないぞ」
親友2人の白けた様子に沙和は不満そうに頬を膨らませた。
「え~、絶対そうだって!」
のちに沙和のこの『親友の姪の思い人鑑定』は的を射ていたものだと判明するのだが、それは次回以降にお話しさせていただく。
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劉永と楽仁の恋の行方は!?今回は周りの大人たちのお話です