No.772023 リリカルなのはZ 第十一話 最初の一歩たかbさん 2015-04-18 18:26:00 投稿 / 全3ページ 総閲覧数:2062 閲覧ユーザー数:1926 |
使徒をあと一歩で仕留めきれそうになった場面で黒いロボット。メディウスの横やりを受けて、太平洋沖へと連れ去られるように海上へと連れて行かれたガンレオン。
その操者である高志はガンレオンを操作して、腰にタックルを入れているような体勢のメディウスの背中を力任せに何度も殴りつける。
「くそっ、あのままじゃ使徒が町に入りこんじまう!」
何度か殴りつけても離れようともしないメディウス。
ダメージが無いのか、それともダメージを受けてでも自分をどこかに運びたいのか。
どちらにしても、これ以上使徒から自分が離れるのはマズイ。
「くそ!このままじゃ大災害になるってのにっ!」
ガンレオンは一見するとロボットだがタカシが扱うガンレオンは原作と似て非なる物。
ガンレオンは魔力の塊で再構築されているもの。いわば、巨大なバリアジャケットでもある。
メディウスの頭の部分を左脇で固めるようにした後、右手にガンレオンの射撃武器。ギークガン。釘打ち銃を召喚した高志は目メディウス腰の部分にその銃口を押し付けて引き金を引く。
「これを喰らって、平気でいられるかぁあああ!!」
ドガンドガンと鋼鉄を砕く音が鳴り響き、初めてメディウスがよろめき、苦しそうに悶え始めた。
ギークガンをこのまま受け続けたらまずいと感じ取ったのか、ガンレオンを突き放そうとしたが、がっちりと頭を押さえつけられた状態の所為か離れることが出来ない。
「また邪魔されても困るからなっ、このままぶっ壊してやる!」
「スポンサーさん達には聞かせられない台詞は言わないでよー。まあ、同感だけどね」
アリシアの許可も貰った。
本腰を入れて破壊しようとした更に力を込めて逃げられないように締め上げていく。
メキメキと鋼がひしゃげる音。鋼を打ち貫こうとする音が鳴り響く。そして…。
ぶちゃあっ!
メディウスのパイロットが乗り込んでいるだろう、腹部を避けての絞め技と下半身部分にある裂けての攻撃を繰り出すガンレオンの攻撃にとうとうメディウスの頭がトマトのように潰れていった。
「うえっ?!もしかして巨人が中に入っていたの?!」
「あ~、もしかして見かけはロボだけど、新型のEVAでした。とか?」
だとしたら、パイロットの頭部も頭の潰れたメディウスにリンクして・・・。
嫌な事を想像した高志はいやなイメージを浮かべた。
ガンレオン越しにビクビクと細かに振動しているメディウスの胴体から頭に視線を向けると、
『・・・コードATA。起動。』
「ATA?」
高志がメディウスから奇妙な音声が聞こえたと同時にアリシアの表情が青ざめる。
「高エネルギー反応?!もしかして、自爆する気?!」
「じば」
ズドオオオオオオオンッ!!!
く。と、高志が言う前にメディウスはガンレオンに組みついたまま轟音と共に自爆を敢行した。
ガンレオンの分厚い装甲のおかげで大破は免れたものの、ガンレオンと身体感覚をリンクさせている。
アリシアへのダメージは高志がほとんど受け止めているもののないわけではない。
「・・・かふっ」
「ぐぅうううううっ」
口から小さな息の塊を吐き出しながらも、どうにか意識を保ち、ガンレオンの背中に収納している鋼鉄の翼を展開。炎の翼だけを出現させるように操作したアリシア。
高志はというと、アリシアのダメージの何割かを負担している分ダメージが大きい。
そんな状況でもスフィアと魔力の放出を途切れさせないように歯を食いしばり、メディウスの自爆に耐えた。
二人のうちのどちらかが意識を失えば、マグナモードの一部。
炎の翼が展開できなくなるとガンレオンは海に落ちてしまう。そうなれば、今もなお進行しているだろう使徒の迎撃に間に合わなくなってしまう。
「…だ、大丈夫。おに、じゃなくて、タカシ」
アリシアは幼少時からこの世界に転移してくる少し前まで高志の事を『おにいちゃん』と呼んでいた。
その名残なのか、恋人同士になったとはいえ、今でもたまにそう呼んでしまう事がある。
「…こんな時ぐらい。お兄ちゃんでいいと思うぞ」
「もう、茶化さないでこんな非常事態なのに」
「ははは、まあ、そう言うな。なにせ・・・」
強襲はまだ終わっていないのだから…。
「・・・またさっきの同じ奴。しかも二機」
「・・・なんで、量産化されてんだよ」
先程、自分達の目の前で自爆したメディウスと全く同じ形をした機影が二つ。
そのどちらもがこちらをロックオンしており、ガンレオンのセンサーがそれを知らせている。
「一応、こっちは敵じゃないという事と使徒がいるから急がないといけない。話し合いをしよう。って、メッセージ入れたけど反応無し、か」
アリシアは、こちらに敵対意志はない。使徒が市街地に迫り多くの人間の命が危険晒されている。その救援に向かう。と、接近してくる二機にメッセージを送るが反応無し。
手に持った剣から弾丸をぶっ放して攻撃してくる始末だ。
「これ以上、時間を取らせるわけにもいかねえ。ここは幸い、人っ気のない海のど真ん中、全力全開でいく!」
「スティグマを刻まれても恨まないでよね!」
スティグマ。
それはスフィアを奪い合う戦い巻き込まれる呪い。
スフィア・リアクターである高志とアリシア。リニスは既に魂に刻まれている。それにそのスフィアの力を放出した際、その近くにいた人間にもそれが刻まれる可能性がある。
今も展開している炎の翼を展開しているのもマグナモードの一部であり、可能な限りスフィアの力。周囲の人間にスティグマを刻まないように放出を押さえて展開している物だ。
だが、こちらを攻撃。その上、使徒が暴れまわるのを助長している行動を取る輩にそんな気遣いはいらない。
「やるぞ!マグナモード!」
「全開だぁあああああああ!」
ガンレオンの手の甲足の甲にあたる装甲が開き、その奥から翠色に輝く光。
ガンレオンの頭部を覆っている装甲の前部。顔の部分の装甲が開き、その奥には両手足に灯った光と同じ色を放つ光で象られた凶悪な顔つき。重圧感を醸し出していた全身の装甲も荒々しく展開され、その姿はまさに荒ぶる獅子だった。
『ガンレオンの反応ロスト!衛星からの映像もロスト!完全に見失いました!』
「そんな?!あの使徒の攻撃を耐えたアレが?!あの人が?!」
最初のメディウスが自爆すると同時にNERV本部に映し出されていたモニターが砂嵐に埋め尽くされた。
使徒迎撃の為のエヴァを直接戦闘に出ずに済んだ。と、安堵していたシンジは殆ど強制的に乗せられた初号機の中で慌てだした。
自分を戦場に出さないために怒り、怯えるシンジに逃げてもいいと自衛隊の皆で庇ってもらった。
NERVでは自分に戦え、戦えと言われてエヴァに乗っているのに…。
高志は乗らないでいい。自分が出来る物を。自分が成りたい自分に成れと言っていた。
『・・・初号機と零号機を出撃させろ』
そんな状況でも冷酷に命令する存在があった。
通信回線でNERVに向かっている父、ゲンドウの言葉だった。
高志が熱血漢なら、ゲンドウは冷酷そのものだった。
『まだ、管理局なる魔法使い。いえ、魔導師達が戦っていますが…』
『彼等の攻撃は未だに未知数です。自衛隊のロボットもこちらに来ています。初号機のパイロットを出すのはまだ早いのでは・・・』
『無駄だ。ATフィールドを貫けたとしても倒すことは出来ない。…レイ。シンジ。出撃だ』
モニター越しにオペレーターのマヤとミサトが司令であるゲンドウに進言するが通信越しにそれを断り、使徒迎撃の為にエヴァを出すように仕向ける。
『…シンジ君。レイ。出撃できるわね』
「・・・僕は」
「いけます」
ミサトの言葉にシンジは戸惑い、レイは率直に返した。
「綾波?!」
「・・・私は行くわ。エヴァ以外、何もないもの」
シンジと初対面した時も重症だった少女。
今でこそ立って歩けるほどまでには回復した彼女だが、そこまででそれ以上は回復していない。
文字通り、立っているだけで精一杯のはずの少女は死地に赴くことを何とも思っていない様子だった。
出撃体制をとる零号機に対して、初号機の方はパイロットであるシンジは足元に視線を落として自問自答していた。
(逃げてもいいじゃないか。まだ、戦える人達がいるんだ。僕は戦いたくない、戦いたくない。あんな怪物なんかと戦って怖い思いなんかしたくない・・・。逃げてもいいって、言っていたじゃないか。だから、僕は…)
出撃するのを拒もうとしたシンジだった。だが、
オオオオオオオオオオオオオオオンッ
小さく頭の中に直接響くような声が聞こえた気がした。
それは鋼鉄の獅子。ガンレオンの雄叫び。
自分以外の人間には聞こえていなかったのか周りの人達に変化は見られない。
不意に顔を上げるとモニターには相も変わらず砂嵐のモニターと、使徒と戦っているはやて達の姿を映し出すモニターがあった。
「……僕は」
女の子を危険な目に会わせて逃げてもいいのか?
「…僕は」
怪物と戦う自分と怪物から戦わない自分。成りたいのは後者だ。
だけど、
『お前が成りたいお前の為に頑張れ!』
(僕が成りたい僕はっ!)
「…行きます。僕もあの怪物と、使徒と戦います」
『…シンジ君』
シンジ自身が戦うことを決めた光景にミサトは驚いた。
自分達がどれだけお願いしても戦おうとしない少年が自ら戦おうとする心境に変化を与えた存在。それは…。
「僕が成りたい僕になる為に、戦います!」
戦える力があるのに、女の子が傷つくのを見過ごす自分だけには成りたくない!
奇しくもそれは、幼少時の『傷だらけの獅子』が初めて強大な敵。『知りたがる山羊』と戦うと決意した光景に酷似しているものだった。
『キリエ!トランザムは使っちゃいけないと言ったはずでしょう!まだ、Dエクストラクター六号機と七号機は試作段階でいきなりフル稼働させたら壊れるかもしれないとあれほど』
「あ~、ごめんね、ユーリ。でも、あそこで使わないとこのお姉さん方を助けきれなかったし」
私は既に煙を上げて活動限界に到達しそうなD・エクストラクター六号機。
高志とアリシアのスフィア『傷だらけの獅子』とガンレオン。リニスのスフィア『揺れる天秤』とSPIGOTを参考に作り上げた、人の想いや感情を力にする兵器。
ヴァリアントザッパー(レッドフレーム)を腰のホルスターに入れ直すと使徒の攻撃を避けるために更に距離を取りながら自分の後ろを振り向いた。
そこには自分が標的にしていた二人がいなくなったことに困惑しているのか辺りを見渡している使徒の姿があった。
『ってぇ!アミタまで!ヴァリアントザッパーには飛行能力と高速移動。それに対応するだけの防護機能しかないのに、何出撃してるんですかー!』
使徒の頭上付近でパッパッと照明弾のような物が映し出されている。
どうやら自分の姉であるアミタが自分達を発見させないためにかイベントに打ち出すスモーク弾やむやみやたらに光る照明弾を打ち込んでいる。
そう、Dエクストラクター六号機、七号機はあくまでイベント用としての機能しかつけていない為、どう頑張っても足止めか撤退ぐらいしか出来ない。
だが、そんな兵器としては、いや、兵器と呼ぶのも怪しい物でもこうして時間を稼ぐことはできる。
ほら、アミタに気を取られているうちに使徒の真横から自衛隊のコクボウガーが突っ込んでいく。右腕にガンレオンの持つライアット・ジャレンチにも似た物を着けて。
はやて達に逃げろと叫んだのは他でもない、自衛隊。コクボウガーのパイロットだった。
「『ガトリング・ドライバー』を喰らえぇえええええっ!!」
コクボウガーの接近にようやく気が付いたのか使徒はATフィールドを展開する。
殴りつけられた形でジャレンチもどきをATフィールドに押し付けたコクボウガーの目が光ると同時に『ガトリング・ドライバー』本体に備え付けられたランプが点滅する。
そのランプの一つ一つが高速で点滅していくたびに撃ちこまれる十字の切れ込みの入った鉄杭。
一度使えば武器本体はおろかコクボウガー本体の運用にまで支障をきたす分、威力は自衛隊の持つ物の中で最強を誇る一撃。いや、連撃。
ガトリング・ドライバーの三つ目のランプが点灯した瞬間にATフィールドは金属音のような音共に破壊され、四番目から六番目の全てのランプが点灯した瞬間。
はやて達が使徒を貫いた時よりも大きな風穴を開けた。
「っっっ」
ズズン。と、地響きを立てて再び地面に倒れ伏す使徒から距離を取ったコクボウガーとアミタ。
また使徒が起き上がるのではないかと警戒していると、使徒の一部がブクリと歪な膨張を見せた。
『高エネルギー反応?!いけません、そこから離れてください!』
ヴァリアント・ザッパー越しにユーリの声が聞こえた瞬間にウナギの形をした使徒はみるみる膨れ上がり、空に十字の炎を描く大爆発を巻き起こした。
その爆音で辺りにあった窓ガラスは砕け散り、バリアジャケットやロボットに施された防音措置が施された装甲があったとしても、鼓膜は破れ、その場にいる人間は全員ショック死していただろう。
その熱波は超高熱。音の衝撃に耐えられたところで半径一キロメートルという狭い範囲で発生したその爆発で生み出された熱、衝撃波自衛隊のコクボウガーやDエクストラクターで構成されたバリアジャケットを容易に溶かすこととなり、当然中にいる人間はたちまち死んでしまうだろう。
二体のエヴァが展開したATフィールドが無ければ。
「はあ、はあ、はあ・・・。間に、あった?」
「・・・使徒の消滅を確認。後ろにいるコクボウガー。及び、グランツ研究所関係者の無事も確認とれました」
少年の『こんな自分にはなりたくない』という、前を向いて進むのではなく、後ろを向いて後ろに歩くという、ややこしいながらも前に進みだした一歩。
その一歩を踏み出した少年が見たのは、魔導師達が地面に使徒を落し、グランツ研究所の人間が使徒を撹乱させ、自衛隊が使徒にとどめをさした光景だった。
その光景に自分なんかが出ても意味は無かった。と、思ったがエヴァを通して使徒が何かする気配を感じたシンジは気が付けばエヴァ初号機を走らせていた。
それに続いて零号機も走り出す。使徒の体が膨れ上がった瞬間、シンジは更に初号機を走らせる。そして、コクボウガーとその後ろにいるアミタの前に初号機を移動させた。
そして、ATフィールドを展開。イメージしたのは父親とは正反対の男の姿。
シンジが知っている中で一番熱く、自分の事を思っての言葉を投げかけた男の姿。
彼の繰り出すガンレオンの頑丈さ。それをイメージして展開したATフィールドはイメージ通り堅く頑丈な障壁となった。
(すこしは僕も、高志さんみたいに男に成れたかな)
ただ、使徒が怖くて嫌々ながらにも乗り込んだエヴァだが初めて自分の意志で、自分で決めたことを、やりきったシンジはエネルギー切れに成り、稼働限界を迎え、だらしなく地面に倒れ伏したエヴァ初号機。
その姿を真似るようにシンジは体中の力を抜いた。
初めての死地でのエヴァの操縦。そのプレッシャーから解放されたシンジは、レイの『お疲れ様』という言葉を最後に深い眠りにつくのであった。
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第十一話 最初の一歩