No.77054

真・恋姫†無双~江東の花嫁~(壱壱)

minazukiさん

一日、魘されながら書き上げてしまいました!
というわけで避けては通れない雪蓮と一刀の運命の時です!

2010.07.08 修正

2009-06-03 17:51:34 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:36834   閲覧ユーザー数:23029

(壱壱)

 

「遠乗り?」

 

 久し振りに夜を共に過ごす雪蓮からの突然の誘い。

 

「明日は一刀もお休みでしょう?だから付き合って欲しいの」

 

「それは別にかまわないけれど、急にどうしたんだ?」

 

 ただの遠乗りをするだけならば別に気にするほどでもなかった。

 

「う~んそんな気分になったっていえばいいかしら」

 

 王として責務は一軍師の一刀からすれば想像以上の重圧だということは、近くで見ていると分かっていただけに息抜きも必要なんだと思っていた。

 

「それに夜の相手だって最近してくれないもんね」

 

 わざとか拗ねているのかそれとも本気で拗ねているのか判断が難しい雪蓮に一刀は苦笑するしかなかった。

 

 ほぼ毎晩のように誰かが一刀の部屋を訪れては朝までいる。

 

 そして次の日の朝議ではその者は皆、肌艶がよかった。

 

「自分で言ったこと覚えている?」

 

「覚えているけれど、なんだか捨てられた気持ちになるもの」

 

 自分から言い出した天の血と孫呉の血の結合。

 

 だが実際にしてみれば雪蓮の不満が増えるだけだった。

 

「そのお詫びに明日一日、付き合いなさい」

 

「どうせ断れないんだろう?いいよ。何処にでも付き合うよ」

 

「一刀ならそういうと思ったわ♪」

 

 嬉しそうに杯を傾ける雪蓮。

 

「でもいいのかな。曹操が攻めてくるかもしれないんだろう?」

 

 隠密として明命が各国の情報を収集した結果、曹魏が官渡で袁紹を打ち破ったと知らせが呉にも入ってきていた。

 

 そして曹魏の次の目標が徐州の劉備かこの揚州なのは明白だった。

 

「冥琳達が目を光らせているから大丈夫。それに何かが起こってもすぐに対処できる手は打っているわ」

 

 この辺りはさすが呉王としての責務を果たしているといえる。

 

「だから~いこう♪」

 

「はいはい」

 

「うんうん♪」

 

 よほど嬉しいのかその日の雪蓮は普段よりも酒を飲んだ。

 夜も更けていき、寝台の中で二人は寄り添っていた。

 

 部屋の灯りはとっくに消えており、月明かりだけが微かに照らしているだけだった。

 

「そういえば蓮華とは上手くいっているの?」

 

 心地よい気だるさに身を委ねる中で雪蓮はふとそんなことを言った。

 

「まあ、なんとかね」

 

 以前のような嫌悪感はなく今では夜の付き合いをするまでになった。

 

 それは雪蓮にとって喜ばしい事だった。

 

 一刀に対する蓮華の気持ちも素直になったことに姉としては満足していた。

 

「ねぇ一刀。私と蓮華、どっちがよかった?」

 

「な、何言うんだよ?」

 

 あいかわらずとんでもない事を質問していく雪蓮。

 

「だって女としては気になるじゃない。で、どっち?」

 

「あ、あのね……」

 

 一刀からすれば雪蓮や蓮華だけではなく思春を除く全員とすでに肌を重ねており、比べようもないほど魅力的な女性ばかりだった。

 

 その為に、誰がいいのかなんて決められるわけがなかった。

 

「もう優柔不断ね、一刀は」

 

 一刀の考えている事を見透かしている雪蓮はひどくおかしく笑う。

 

「優柔不断ですいませんね」

 

 拗ねてみせるとさらに笑いを誘った。

 

「でも一刀らしくていいわ」

 

「とても褒められているようには思えないんだけど?」

 

「気のせい♪気のせい♪」

 

 呉王としての威厳など何処にも感じさせないありのままの雪蓮に一刀もつられて笑ってしまう。

 

「でも一刀と出会えて色々あったわね」

 

「そうだな」

 

 天の御遣いとして打算から生まれた二人の関係は黄巾の乱、反董卓連合、孫呉独立を得て少しずつ変わっていた。

 

 雪蓮は一刀を天の御遣いと同時に一人の男として見るようになった。

 

 一刀も初めは破天荒な雪蓮に戸惑っていたが、彼女の真の強さに触れていくにつれてそれに惹かれていた。

 

 男女の関係になってよりいっそう雪蓮を意識していた一刀。

 

 誰かと肌を重ねている時も無意識に雪蓮を思っている自分がいたことに気づいた時は、その時の相手に物凄く失礼な事をしているなと心の中で反省していた。

 

「これからだって色んなことがあるさ」

 

 一刀の言葉に雪蓮は答えなかった。

 

 安らかな寝顔をしている雪蓮。

 

「お休み、雪蓮」

 

 今夜はただ彼女の温もりだけを感じて一刀は眠りについた。

 その日はいつになく澄んだ青空で心地のよい朝だった。

 

「それじゃあお留守番よろしくね♪」

 

 雪蓮のご機嫌に蓮華と冥琳はやれやれといった感じで見送った。

 

「一刀、お姉様が呑み過ぎないようにきちんと見ておいてくれ」

 

「たぶんそれは無理だと思いますよ、蓮華様」

 

 冥琳はよく分かっていた。

 

 一刀であればなんだかんだといって一緒に呑むはずだということを長年の盟友を見ればすぐに分かる事だった。

 

「もう~今日はお酒はなしよ、なし♪」

 

「その割には腰にぶら下げているものは何かしら?」

 

 冥琳の言葉に笑みを浮かべる雪蓮。

 

「さっすが冥琳♪」

 

「何年、貴女と一緒にいると思っているの?」

 

 二人の会話を一刀と蓮華はおかしく思えた。

 

 これほど息の合ったコンビは三国時代でも類を見ないほどお互いを理解しあっている。

 

「夜までには戻るからそれまでお願いね♪」

 

「わかったわ。とりあえず何かあればすぐに報告するわ」

 

「は~い。それじゃあいってくるわね♪行きましょう、一刀♪」

 

「それじゃあ、行ってくるよ」

 

 蓮華と冥琳にそう言って一刀も雪蓮と並んで馬を走らしていった。

 

 二人が視界から消えてもその場に残った蓮華と冥琳。

 

 どちらも一刀と遠乗りが出来る雪蓮が羨ましくもあり、次の休みにはぜひ自分がと思ったことは口に出さなかった。

 

 出さなくても顔を見れば分かっていた。

 

「そういえば、冥琳。お姉様と一刀がどこにいくか知っているの?」

 

「ええ。大体の見当は付いています。何をしに行ったかも」

 

「凄いわね、冥琳」

 

「こう見えても断金の交わりですから」

 

 冥琳は親愛なる盟友との仲を誇れるような優しい笑みを浮かべた。

 

「蓮華様も北郷殿と断金の交わりの関係になってみてはどうですか?」

 

「なっ!?」

 

 いきなり一刀の名前を出されて慌てる蓮華だった。

 

(お姉様達みたいに一刀と……)

 

 考えるだけで身体が火照っていく。

 

 たしかに幾度か夜を共に過ごしたこともあり、出来たらそうなってほしいと密かに想う蓮華だった。

「蓮華様!冥琳様!一大事です」

 

 そこへ後ろから明命が慌てて走ってくる。

 

「どうしたの、明命?」

 

「曹操の軍が国境付近に現れたとのことです。その数およそ三十万!」

 

「「なんですって!」」

 

 予想していたよりも早い曹魏の侵攻に驚く二人。

 

 それも国境付近まで攻め寄せている。

 

「さすがは曹操といったところかしら。油断ならない相手ね」

 

「それと先行として三百ほどの敵部隊が別の方角から進行しています」

 

「見つけ次第、殲滅するよう指令を出しなさい」

 

 警戒をしていただけにすぐに行動に移れるようにしていたことが不幸中の幸いだった。

 

「あと未確認ですが許貢の残党が紛れ込んでいるらしいです」

 

「許貢……だと?」

 

 その言葉に冥琳は胸騒ぎを覚えた。

 

「蓮華様、明命、今すぐにあの二人を連れ戻します」

 

「冥琳?」

 

「何か嫌な予感がします。明命、すぐに馬を連れてきなさい」

 

「は、はい」

 

 明命は慌てて馬を連れに行く。

 

「あの許貢の残党は確か曹操に下に逃げ込んだはず……」

 

 自分の予感が外れてくれることを祈りながら冥琳は馬がくるのを待った。

「う~~~~~ん気持ちいいわね」

 

 城から飛ばして数里離れた小川が流れる場所で、馬を止めて二人で空を見上げていた。

 

「久し振りに外に出ると気持ちいいな」

 

 祭の鍛錬以外で外に出る事がほとんどなかっただけに一刀も気分がよかった。

 

「少し歩かない?」

 

 雪連の提案に乗り、馬を下りた二人は並んで歩く。

 

 川のせせらぎに森の音。

 

 清々しい空気。

 

 何もかもが気持ちよいものであり二人は自然とその中で手を握りあう。

 

「ここよ」

 

 そう言って止まった場所は石の墓の前だった。

 

「これは?」

 

「私や蓮華、小蓮の母だった女性(ひと)のお墓」

 

 それを聞いて一刀は背筋を伸ばした。

 

 三姉妹の母、孫家の土台を作り上げた偉大な英雄、孫堅文台。

 

 その人の墓は現代日本の墓に比べて質素なものだった。

 

「母様、遅くなったけれど、ようやく母様の夢の一歩を踏み出せたわ」

 

 手を離した雪蓮の表情は寂しさを滲ませていく。

 

「そうそう。こっちにいるのが天の御遣いの北郷一刀。彼のおかげで凄く助かっているわ」

 

「ほ、北郷一刀です」

 

 墓に向かって礼儀正しく緊張した面持ちで頭を下げる一刀。

 

「蓮華も小蓮も元気にしているわ。二人とも一刀が凄くお気に入りなの」

 

「し、雪蓮……」

 

 改めて墓前報告されると恥ずかしくなる一刀。

 

「あら、それとも一刀はいや?」

 

 意地悪そうな笑みを浮かべる雪蓮に両手を挙げて降伏する一刀。

 

「こんな一刀だけど凄く頼りになるの。母様も一度話せばきっと気に入るわ」

 

 懐かしむように話す雪蓮。

 

「あ。でもいくら母様でも一刀はあげないから♪」

 

 あくまでも一刀は自分、自分達のものと主張する。

 

 それがおかしくて一刀は苦笑してしまう。

 それから「三人」で心ゆくまで色んなことを話した。

 

 まるで雪蓮の惚気話を面白おかしく孫堅が聞いているかのように穏やかな空気が流れる。

 

 陽がちょうど真上に来る頃になると、雪蓮が持ってきていた酒は空になっていた。

 

「少し酔っちゃった♪」

 

 母親の前で酔っ払う雪蓮に呆れる一刀。

 

 甘えるように一刀の腕に寄り添う雪蓮を見ると何も言えなくなったのもまた事実。

 

「一刀」

 

「うん?」

 

「もし、平和になったら二人で旅をしない?」

 

「旅?」

 

「そう、旅」

 

 今だ戦乱の中で未来の話をする。

 

 それは生き抜くための希望であり強さになる。

 

 だが今の雪蓮はそれとは違う想いがあった。

 

「一刀と二人で見て、聞いて、感じて、そして想いを残したいの」

 

 ささやかな願い。

 

 だがそれがこの時代にはどれほど貴重なものか、一刀は彼女と過ごし中で実感していた。

 

「ダメかしら?」

 

「そんなわけないだろう」

 

「本当?」

 

「俺だって雪蓮と一緒に旅をしたいさ」

 

 改めて自分が雪蓮に惹かれていることに気づいた一刀。

 

「じゃあ約束よ♪」

 

「ああ、約束」

 

 そう言って二人は笑う。

 

 穏やかな一時の中で見せる笑み。

 

「さあて折角のお休みなんだからもっと楽しみましょう♪」

 

「そうだな」

 

 二人は立ち上がり孫堅に「また来るから」と言って踵を返した。

 その時だった。

 

 風が吹いているわけでもないのに森のほうがざわめいた。

 

(何だ?)

 

 何か獣でもいるのかと一刀が音がするほうを見ると、そこには幾人かの男がこっちを見ていた。

 

「一刀?」

 

 先に歩いていた雪蓮が一刀を振り返る。

 

 それと同時に一人の男が弓を構えた。

 

(まさか!)

 

 一刀の脳裏にあることが思い浮かんだ。

 

「雪蓮!」

 

 声と同時に一刀は彼女に飛びつく。

 

「か、一刀!?」

 

 いきなり押し倒された雪蓮。

 

「もう~痛いじゃない。いくら誰もいないからっていきなりはダメよ」

 

 雪蓮が文句を言いながら起き上がろうとすると、一刀は動こうとしなかった。

 

「一刀?」

 

 視線を動かすと一刀の右腕には矢が刺さっていた。

 

「一刀!?」

 

 なんとか下から抜け出し矢を引き抜く。

 

 それと同時に一刀は苦痛のこもった声を上げた。

 

 そして森のほうのざわめきに気づいた雪蓮がそれを見るとそこにいた男達が狼狽しているのが見えた。

 

 一人の男が弓を持っているのを見た途端、雪蓮は全身から怒りがこみ上げていった。

 

「キ……サ……マ……ら……」

 

 雪蓮の怒りに満ちた視線に男達は悲鳴を上げて逃げていった。

 

「し、しぇ……れ……」

 

「一刀!」

 

 地に伏せる一刀を抱き起こし素早く制服を脱がしていく。

 見た目はただの矢傷。

 

 だがよく見ると刺さった場所は紫色に変色していた。

 

(毒!?)

 

 苦痛を浮かべる一刀の表情を見て確信した。

 

「待ってて。すぐに医者を」

 

「ダメ……だ……」

 

 走り出そうとする雪蓮を止める一刀。

 

 医者のところに連れて行く余裕などないことぐらいは毒に犯されていく一刀でもわかっていた。

 

「でもこのままでは一刀が!」

 

 初めて見る雪蓮の狼狽する姿に一刀は不謹慎にも笑みを浮かべた。

 

 無駄に時間だけが過ぎていけば助かるものも助からなくなる。

 

 意を決した雪蓮は腰に提げていた小刀を抜き小川の水につけ、

 

「一刀、少し我慢してね」

 

 そう言って一刀の口に自分の腕を噛ませ小刀を傷口に突き刺した。

 

「ウグハッアアアウウブガア……」

 

 傷みを紛らわすかのように雪連の腕をかみ締めていく。

 

 その苦痛にも耐え、小刀を動かしていきその周りを抉った。

 

 小刀を放り投げた雪蓮は苦痛にもがく一刀に優しく諭した。

 

「大丈夫。何があっても私が一刀を助けるから」

 

 そう言って小刀で抉った場所に口を当てて肉塊を引き千切っていく。

 

 迸る鮮血によって雪蓮は紅く染まっていく。

 

 それすら気にすることなく引き千切っては吐き出すを繰り返す。

 

(死なせない。一刀を……私の一刀をこんなところで死なせたりしない!)

 

 ただその想いだけが紅く染まっていく雪蓮にあった。

 

 あらかたの肉塊を引き千切ると布で傷口を縛って応急処置を施した。

 

 気を失ったのか悲鳴すらあげなくなった一刀を抱きしめる。

 

「一刀……」

 

 頬には一筋の雫が零れ落ちていく。

 

 母の死を目の当たりにしても流さなかった熱い雫。

 

「お姉様!」

 

「雪蓮!」

 

「雪蓮様!」

 

 遠くから蓮華と冥琳、それに明命が馬を飛ばしてきた。

 馬から下りた三人が二人に近づく。

 

「よかった。無事だったのね」

 

 安心する冥琳の言葉に反応しない雪蓮。

 

 それを不審に思った蓮華達。

 

「お姉様?一刀?」

 

 様子を見ようと二人の横から顔を覗かせると蓮華は言葉を失った。

 

「雪蓮?……北郷殿!?」

 

 三人が見たものは紅く染まった二人だった。

 

「な、何があったの?雪蓮!」

 

「……」

 

「「「えっ?」」」

 

 何を言っているのか聞き取れない三人。

 

 ゆっくりと顔を上げる雪蓮。

 

 その表情はこれまで三人が決して見たことのない凍りついた笑みを浮かべていた。

 

「かずとが……かずとが私を守ってくれたの……」

 

 声が小さく、震え、誰かにすがるような弱々しい雪蓮。

 

「蓮華……冥琳……明命……。助けて……私の一刀を助けて!」

 

 触れるだけで壊れそうな雪蓮に何も言えない三人。

 

 母の死でも涙を見せなかった雪蓮がたった一人の男のために頬を濡らしている。

 

 蓮華と冥琳にはそれが大きな意味を持っていることに否応に気づかせた。

 

(北郷一刀は孫伯符にとってかけがえのない存在)

 

 いくら肌を重ねても雪蓮には遠く及ばない。

 

 及ばないが故に、自分達が今しなければならないことを思い出させた。

「雪蓮、北郷殿をこのような目にあわせたのはおそらく許貢の残党よ。そしてその残党の先には曹操がいる」

 

「そう……そう……?」

 

「そうよ。北郷殿は今すぐにでも城に連れて帰る。だから貴女は貴女のできる方法で北郷殿を助けてあげなさい」

 

 涙によって覇王としての化粧が流れ落ち、ただの女性となっている雪蓮に冥琳は力強く言う。

 

「でも……一刀がもし死んだら私は……」

 

 覇王の面影などそこにはなかった。

 

 そしてそれが冥琳には悔しく、また一刻の猶予もないことを思い出させた。

 

 力を込めて握っていた手を緩め、そして、

 

「いい加減に目を覚ませ、孫伯符!」

 

 冥琳の遠慮のない平手打ちを二度、雪蓮の頬に叩き付けた。

 

「「冥琳(様)!」」

 

 蓮華と明命は突然のことに対応できなかった。

 

「貴女は何のために生きているの?何のために呉の王となったの?」

 

 自分に言い聞かすように声を荒げる。

 

「めい……りん……」

 

 呆然とする雪蓮を見下ろし、冥琳はさらに続けた。

 

「今の貴女を北郷殿が見れば呆れられるわよ。それでもいいの?」

 

 心を鬼にする冥琳。

 

 本当ならば抱きしめて慰めたい気持ちが溢れていたが、それを許せる状況ではなかった。

 

「……冥琳」

 

「何かしら?」

 

 涙を拭い盟友を見上げる雪蓮の表情に光が戻っていく。

 

「一刀をお願い」

 

 愛しく一刀を抱きしめている雪蓮の声にも力が戻っていく。

 

「任せなさい。周公謹の名に懸けてきちんと貴女の満足出来るようにしてあげるわ」

 

「お願いね」

 

 ようやく復活した雪蓮に笑みを浮かべる冥琳はすぐに明命に先に戻り、解毒の準備と医者を用意するよう命令した。

 城に戻った四人はすぐに一刀を孫家代々の医者に診せた。

 

「毒自体は雪蓮様の荒治療のおかげでほとんど抜けておりますな。ただ微量ほど体内に流れているのですぐにでも解毒剤を調合いたしましょう」

 

「助かるの?」

 

 一刀の血を浴びたままの雪蓮に臆することなく老医者は穏やかな笑顔を見せる。

 

「もちろんです。そうでなければとうにこの婆の頸は飛んでおりますわい」

 

 そう言って笑うためにようやく雪蓮も安心できた。

 

「ご主人さま……!」

 

 中から月がこれまで見たことのない真っ青な表情を浮かべ詠に支えられながら出てきた。

 

 その後に続いて出てきた恋と華雄に音々音、それに美羽に七乃までもが悲壮感を漂わせていた。

 

「大丈夫よ、月。今は気を失っているだけだから」

 

「……雪蓮さん」

 

 まるで妹のように優しく言う雪蓮に月は小さく頷く。

 

「月、一刀の傍にいてあげてね」

 

「……はい」

 

 安心させるように笑顔を向けると、横から恋と華雄がやってきた。

 

「雪蓮……ご主人さまを傷つけたの……誰?」

 

「そうだ。一刀様をこんな目に合わせた奴は見つけ出して八つ裂きにしてやる」

 

 二人の殺気に雪蓮も真面目に答えた。

 

 共に命を救われただけはなく生きる意味を教えてくれた大切な一刀が傷つくことは、自分が傷つくよりも遥かに苦痛を感じさせるに十分過ぎていた。

 

「矢を射掛けたのは私が呉を平定するときに討伐した許貢の残党。そしてそれを動かしたのは曹操よ」

 

「……」

 

「アイツか」

 

 自分達の主を傷つけられて黙っていられるはずがない。

 

 普段は何かと文句を言っている詠や音々音ですら運ばれていく一刀を心配して付き添っている。

 

(みんなにこんなにも愛されているのね)

 

 そう思うからこそ、雪蓮は恋と華雄に言った。

「貴女達のご主人様の仇を討ちたい?」

 

「コクッ」

 

「当然だろう!」

 

 初めからそのつもりの二人に笑みを浮かべる雪蓮。

 

「なら一緒に行きましょう。そして後悔させてあげるのよ」

 

「コクッ」

 

「当然だ」

 

 雪蓮は頷き、そしてその場にいた全員にこう叫んだ。

 

「これより曹操を迎え撃つ。遠慮などいらない。奴らに自分達の犯した罪の重さをその身に知らしめてやろうではないか!」

 

「「「「「オーーーーーーーーっ!」」」」」

 

 雄叫びが大地を揺らす。

 

「雪蓮、着替えを」

 

「嫌よ」

 

 拒絶したがその口調は穏やかなものだった。

 

「これは一刀のもの。だからこの戦が終わるまではこのままでいいわ」

 

 紅く染まった自分を戒めるように雪蓮は言う。

 

「しかしそれでは士気に関わるわ」

 

 冥琳の言い分は痛いほどわかっていた。

 

 だが雪蓮はこれだけは譲れなかった。

 

 左腕には一刀に噛み千切られる寸前で血が流れているがそれはどうでもよかった。

 

 ただ自分を染めているものだけは一刀に対するせめてもの償いとしてこの戦いの間だけでも残さなければならない。

 

「わかったわ。皆にもそう伝えておくわ」

 

「お願いね」

 

 冥琳に言われた自分のすべきことをこれから成しにいく。

 

(一刀……こんなことぐらいで私を置いて逝かないでね。元気になったらあなたのために私は戦う)

 

 国や民のためではなく一人の男のために戦う。

 

 命がけで自分を守ってくれた一刀に対しての謝儀を超えるもの。

 

 そのためにも曹操を叩き潰す。

 

「皆の者、我に続け!」

 

 馬上の人となった雪蓮は先頭に立って城を出た。

 

 その後に続くように孫呉の旗が大きく風に揺れて大地を走り始めた。

(座談)

水無月:人間やれば出来るものです!なんとか一日使って書けました!

 

穏  :あらあら、おつかれさまです~。

 

亞莎 :本日は雪蓮さまたちの代わりに私たちでお送りいたします。

 

水無月:しかし自分でも思いますが大切な人を傷つけられるのは確かに我慢できませんね。

 

穏  :そうですね~。私も我慢は出来ませんね~。

 

亞莎 :私も無理です。

 

水無月:さてさて後半戦はいよいよ曹操こと華琳さんとの激突(?)ですね。

 

穏  :雪蓮さまをはじめとする皆さんが大暴れですね~。

 

亞莎 :頑張ってください。

 

水無月:というわけで前半戦も残りわずか。この調子で頑張っていきますのでどうぞよろしくお願い致します。

 

 

 

 


 
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