No.77206

真・恋姫†無双~江東の花嫁~(壱弐)

minazukiさん

曹魏軍との激突!
一刀のために戦う雪蓮が反董卓連合以来の曹操と会いまみれるお話です~。

2009-06-04 16:22:53 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:35867   閲覧ユーザー数:22391

(壱弐)

 

 誰かの為に何かを成す。

 

 それは無限の可能性と無限の力を与えてくれるもの。

 

 今まさに、雪蓮はその二つを糧にして曹魏軍の真っ只中を斬り込んでいく。

 

 それに続く呉の将兵達。

 

 曹魏軍三十万に対して孫呉軍五万。

 

 数で圧倒しているはずの曹魏軍は明らかに押されていた。

 

「曹操、出て来い!」

 

 馬上から南海覇王を振るたびに兵士の屍が増えていく。

 

 一刀の血をその身に刻み込んでいる雪蓮はまるで戦場に咲く一輪の紅薔薇のように美しく咲き誇っていた。

 

「何て奴だ」

 

 彼女の後姿を見ていた華雄は思わずそうつぶやくほどだった。

 

「雪蓮……綺麗……」

 

 恋も華雄と同じ感想を持っていた。

 

 それほどまでに雪蓮は激しく舞っている。

 

 そこへ、一騎、真正面から雪蓮に向かって突き進んできた。

 

「おもしろそうやな。うちが相手や」

 

 馬上から飛び上がり一直線に雪蓮目掛けて飛龍偃月刀を構え突っ込んでいく。

 

 だがその刃は雪蓮に届く前に防がれた。

 

「誰かと思えば懐かしいな」

 

「あ、あんた……」

 

 刃同士を弾き二人の女傑は距離を置いてお互いをけん制しあう。

 

「孫策、ここは私が抑える。先に行け」

 

「頼むわね、華雄」

 

 短く華雄に答えて先に進んでいく雪蓮。

 

 そして華雄の名前を聞いて驚いたのは対峙している女傑だった。

 

「あんた……華雄……生きてたんか?」

 

「おかげさまでな。今は北郷一刀様の家臣、華雄だ」

 

「へ~、あの兄ちゃんの家臣とわな」

 

 華雄の相手、それはかつての同士であった張遼文遠だった。

 

「だからお前とは敵ということだ」

 

 金剛爆斧を構える華雄に張遼は改めて飛龍偃月刀を構えなおす。

 

「そっか~。なら手加減はいらんってことやな」

 

「当然だ」

 

 お互いの武器を持つ手は力を込めていく。

 

「あの頃と同じだと思うと痛い目にあうぞ」

 

「それはこっちの台詞や」

 

 二人は不適な笑みを浮かべ正面からぶつかった。

 華雄と張遼が激闘を繰り広げている間でも雪蓮達は進んでいた。

 

 すでに混戦状態に持ち込んだおかげで有利に進めているが、それでも絶対数においてまだ不利なのは確かだった。

 

「策殿」

 

 馬を飛ばして隣にやってきた祭を見ることなく前に進む雪蓮。

 

「いったん陣形を立て直してはどうかの」

 

「無用よ」

 

「じゃがこのままでは」

 

「どれだけ数がいようと曹操の頸を刎ねればそれでおしまい。ただそれだけよ」

 

 曹操以外の敵など目もくれない雪蓮。

 

 その思いを知っているだけに祭も強くは進言しなかった。

 

 と、その時、幾本の矢が雪蓮めがけて飛んできた。

 

「邪魔よ!」

 

 それらを南海覇王によって叩き落していく。

 

 そこへさらに矢が飛んでくる。

 

「邪魔だって言っているのよ!」

 

 雪蓮の目の前で南海覇王によって矢をすべて叩き落とされた。

 

「そこか!」

 

 隣にいた祭は弓を引き絞り矢を放った。

 

 だがその矢は円盤のような何かによって弾かれた。

 

「悪いがここで終わりだ、呉の王」

 

 右目を髪で隠しいる将、夏侯淵とその傍に典韋が雪蓮達の前に立ちふさがった。

 

「策殿、ここは儂に任せてもらえるかの」

 

 何も言わずに前だけを見据える雪蓮。

 

 答えるまでもないということだった。

 

「ほれ、儂が相手じゃ。楽しませてくれよ」

 

 そう言いながら祭は矢を放つ。

 

 夏侯淵はそれを軽々と避けながら反撃の矢を放つ。

 

 と同時に典韋が円盤、伝磁葉々を祭にめがけて飛ばす。

 

「甘いもんねぇ~~~~~~♪」

 

 そう言って伝磁葉々を弾きとばしのは金色の月華美人を放った小蓮だった。

 

「おや小蓮様、このようなところでなにをなさっておるのかの?」

 

 矢を避けつつ笑みを浮かべる祭に、さも楽しそうに月華美人を手に戻す小蓮。

 

「シャオの大切な一刀をあんな目に合わせた奴らにお仕置きだよ♪」

 

「なるほど。では油断めさるな」

 

「もちろん♪」

 

 二人は笑みを浮かべながらそれぞれの相対する将に向かっていく。

 曹魏軍の前衛をまだ突破できない苛立ちが雪蓮をさらに戦の神如く昇華させていく。

 

「覚悟~~~~~!?」

 

 雪蓮の上空から七星餓狼をかざし振り下ろしていくのは夏侯惇。

 

「うっさいわね」

 

 七星餓狼と南海覇王がぶつかりあう。

 

 本来なら互角のはずだが、この時、夏侯惇が相手した者は覇王の闘気が溢れで続ける雪蓮だった。

 

 わずかに押された夏侯惇は舌打ちをして距離をあけるように後ろに下がった。

 

「この~~~~~~!」

 

 変わりに鉄球を投げ飛ばしてくるのは許緒。

 

「ちっ」

 

 今度は南海覇王では少し難しい大きさに舌打ちする雪蓮。

 

 だがそれを軽々と弾き飛ばした者がいた。

 

「……」

 

 片手に方天画戟を携え悠然と雪蓮の前に立つのは飛将軍呂布こと恋だった。

 

「雪蓮……さきいく。ここは……恋にまかせる」

 

 恋の来た道には曹魏軍の兵士が幾多も倒れていた。

 

「頼むわね、恋」

 

「コクッ」

 

 再び馬を飛ばしていく雪蓮。

 

「ま、待て!」

 

 追いかけようとする夏侯惇に恋が立ちふさがる。

 

「……行かせない。お前達……恋が倒す……」

 

「ふん、ほざけ!」

 

 七星餓狼と許緒の岩打武反魔の同時攻撃を方天画戟と片手で受け止めた。

 

「お前達……恋に……勝てない」

 

「ふざけるな!たかが一人で我らを止められると思っているのか!」

 

「そうだそうだ!」

 

「恋……誓った……ご主人さまを傷つけたやつら……殺す」

 

 一瞬、戦場の風が止まり、静かに一つの流れを作り変えていく。

 

 それはまるで大気の風が彼女を包み込むかのようだった。

 

 刹那、恋からは激しい闘気が放たれ夏侯惇と許緒は後ろに飛ばされた。

 

「……死ね」

 

 天下無双の呂布奉先が大切な人の為に全力を出す瞬間だった。

 さらに突き進む雪蓮の前にまたもや立ちはだかる者達がいた。

 

 魏将、楽進と李典、于禁の三人だった。

 

「……ここからは行かせない」

 

「ウチの螺旋であんたも終わりや」

 

「だから大人しくここで討たれてほしいの~」

 

 三方から同時に突撃してくる。

 

 だが、そこにもまた邪魔をするものが現れた。

 

 楽進の拳を思春が、李典の螺旋槍を明命が、そして于禁の二刀を蓮華がそれぞれ受け止めた。

 

「お姉様、ここは我らが食い止めます。だから先に行ってください」

 

「蓮華……」

 

「呉の国のためにも……一刀のためにも、早く!」

 

 必死に防戦しながら叫ぶ蓮華に雪蓮は大きな声で言った。

 

「無事に帰れたら一刀を貸してあげるわ!」

 

 そう言って単騎で斬り込んで行く。

 

「訳の分からないこと言わないの~」

 

 口調とは違い攻撃が鋭くなっていく于禁に苦戦する蓮華。

 

「蓮華様!」

 

 すぐ助けにいこうにも楽進と李典の猛攻を防ぐのに必死な思春と明命だった。

 

「貴様の相手は私だ!」

 

 拳を構える楽進に思春は鈴音を鳴らす。

 

「ならば……この鈴の音を黄泉路に誘う道しるべとして逝け」

 

 思春の殺気に楽進はさらに拳を握り締めて真正面から突っ込んでいく。

 

 明命は幾度も繰り出される李典の攻撃を交わしつつ、隙をうかがっていた。

 

「そんな逃げ回ってたら勝てるわけないやろうが!」

 

 李典の挑発にも乗らずただひたすら隙を伺う明命。

 

 そして蓮華は于禁のでたらめとも思える攻撃に苦戦をしていた。

 

「このまま倒れてほしいの~」

 

 于禁の二刀を弾いて蓮華は叫んだ。

 

「我は孫仲謀。貴様ごときに倒れる私ではない!」

 

 蓮華の中に流れる孫家の血が目覚めようとしていた。

「なかなかやるじゃない」

 

 まるで戦を楽しむかのように眺めている曹操。

 

 数で勝っていながらもこうも有利に進めない事に驚きつつもまだ余裕の笑み浮かべていた。

 

「しかし時間の問題でしょう。ほどなく我らの勝利に終わります」

 

 冷静に戦場を分析する軍師の郭嘉。

 

「そうありたいものだったわ」

 

 曹操は愉快に笑う。

 

「華琳様?」

 

 その答えはすぐに現れた。

 

 前方の軍勢がまるで何かに押されるようにして道を開け、そこから単騎で飛び込んできた呉将がいた。

 

 すでにそのほとんどを紅く染めた雪蓮、その人だった。

 

「呉の王は小覇王と呼ばれているそうだけど、その名に恥じぬものね」

 

「そう。本来ならば喜ぶべきものかしらね。でも今、私が欲しいのは貴女のその頸一つ」

 

 南海覇王の刃先を曹操に向ける。

 

 一点の曇りもない鋭い眼を向けられてなお、曹操は笑みを浮かべていた。

 

「取れるかしら、貴女に?」

 

 そう言いながら愛用の武器、絶を手にする曹操。

 

「卑怯者に負けるつもりはないわ」

 

「卑怯者?」

 

 雪蓮の一言に眉をひそめる曹操。

 

「あら、その年でもうボケが始っているのかしら?」

 

「だから何のことかと聞いているのよ」

 

 その言葉に雪蓮は怒りを増した。

 

「自分が指示したことを忘れるとは曹孟徳の名も地に落ちたものね」

 

 今度は曹操が怒りを静かに表していく。

 

「どういうことかしらないけれど、その減らず口を今すぐ黙らせてあげるわ」

 

「そう。なら貴女は後世まで卑怯者として名を残す事になるわね」

 

「な、なんですって!」

 

「知らないみたいね。なら教えてあげる」

 

 そう言って曹操の前に一本の矢を放り投げた。

 

「これは?」

 

「貴女の部下が私の狙った毒矢といえば身に覚えはあるかしら?」

 

「毒矢?貴女を狙った?私の部下が?」

 

 何のことかまったく分からない曹操は初めて困惑する。

 

「そう。そして本来なら私がその毒矢を受けるはずだった……でも」

 雪蓮の脳裏に今も苦しんでいる一刀の姿が思い浮かんでいた。

 

 唇をかみ締め、自分を抑えようと大きく息を吐き、曹操に言い放った。

 

「天は……天の御遣いが私を守ってくれた。自分の身を挺して……」

 

「……天の御遣い……」

 

 雪蓮は悲痛の想いでそれを口にした。

 

「私の……私の心から愛する北郷一刀が貴女の薄汚れた野望から守ってくれたわ」

 

 それは曹操にとって衝撃的なことだった。

 

 曹操にとって確かに謀略というものは天下を治めるためには必要であり、この乱世を収めるために誰もが使う常套手段。

 

 だが、謀略と卑怯とは別次元の事だった。

 

 ましてや毒矢を使っての暗殺など彼女が望むはずもないこと。

 

「貴女のところに許貢の残党どもが転がり込んだわね」

 

「まさか……!」

 

「そう。そのまさかよ」

 

 曹操の表情は恥辱に塗れていく。

 

「稟、すぐに戦をやめさせなさい」

 

「し、しかし……」

 

「命令よ」

 

 曹操の鋭い視線に郭嘉は従うしかなかった。

 それからしばらくして戦は止まった。

 

 華雄と張遼は一歩も引かない激闘を演じ、共に全力を持ってぶつかったが勝負がつかなかった。

 

 祭達と夏侯淵も矢が尽き、小蓮と典韋は遠距離と近接戦闘を繰り返したが結局、お互いに傷一つつけることなく終わった。

 

 恋と夏侯惇達は恋の全力を受け止めるだけで精一杯であり、もう少し戦いが止まるのが遅ければ確実に夏侯惇達は死んでいた。

 

 そして蓮華達と楽進達は一進一退の攻防を繰り広げ、大小の傷をそれぞれ受けていた。

 

 両軍の兵士も死闘を止め、それぞれの陣に戻り傷の手当てを始めた。

 

 曹操はその間に雪蓮からさらに詳しく事情を聞きだし、許貢の残党がいる部隊を全員集めさせた。

 

 その数は三百。

 

 どの表情も何かを隠しているかのように落ち着いていなかった。

 

 曹操は馬上から許貢の兵士を見下ろす。

 

「お前達、そこにいる孫呉の王を狙ったのは本当かしら?」

 

「な、何を言っているんだかわかりあせんぜ」

 

 明らかに動揺しているのが分かっていたが、曹操はそこまで追及しなかった。

 

「あら、別に貴方達を責めているわけではないわよ。この乱世、奇麗事では済まされないこともあるわ。逆に感謝しているぐらいよ」

 

 その言葉に許貢の兵士達は安堵の表情を浮かべる。

 

「貴様!」

 

 それを聞いた蓮華が怒りをあらわにしたが雪蓮に止められた。

 

 彼女には曹操が何をしようとしているのか分かっていた。

 

「ではそんなゲスどもには褒美をあげないとね」

 

 笑みを浮かべながら曹操は雪蓮達の方に馬頭を向けた。

 

「孫策。このゲスどもを貴女に渡す。そしてその後、正式に謝罪をするわ」

 曹魏軍の将兵はざわめく。

 

 自分達の偉大な主君が敵国の王に対して頭を下げたからだった。

 

「か、華琳様、なにもそこまですることでは……」

 

「黙りなさい稟。私の覇業には卑怯という言葉はなくてよ」

 

「しかし……」

 

 曹魏軍が激しく動揺している中で、雪蓮は呆れたようにその様子を見ていた。

 

(こいつらに私の気持ちが分かるわけないでしょう?)

 

 いくら謝罪をしたからといって起こった事実は変えられない。

 

 消せない事実なだけに雪蓮には曹魏軍の動揺など茶番でしかない。

 

「孫策、こういうことでどうかしら」

 

 おそらく曹操にとって最大限の譲歩だったのだろう。

 

 だが雪蓮は冷たくあしらった。

 

「それは貴女自身の謝罪に過ぎないわ。だから謝罪も不要」

 

「なっ」

 

「貴様!華琳様の謝儀を断るというのか!」

 

「うっさいわね。自分のための謝罪なんていらないのよ。私が言いたいのは……」

 

 雪蓮は言葉を止め俯く。

 

 静寂が生まれそれが広がっていく。

 

「そうね。確かに貴女の言うとおりだわ」

 

 曹操の方を雪蓮以外の者が見る。

 

「心より非礼をお詫びするわ、孫呉の王と天の御遣いに」

 

 再び頭を下げる曹操。

 

 今度は誰も何も言わなかった。

 

「せめてもの謝儀を受けてもらえるかしら?」

 

「……いいわ。ただし余計な手出しは無用。手を出したら貴女のその頸をもらうわ」

 

「……春蘭、秋蘭、このゲスどもに武器を与えなさい」

 

「「ハッ」」

 

 夏侯姉妹は命令どおりにありとあらゆる武器防具を許貢の兵士の前に転がした。

 

「ゲスどもにはもったいないほどの武具よ。それをつかってせいぜい生き残ることね」

 

 冷たく言い放った曹操はそのまま陣の奥に下がっていった。

 

 そしてそれに従うかのように魏の将兵も許貢の兵士を残して引き下がっていく。

 

「さあて、せっかくのご好意を無にするのは失礼ね」

 

 馬から下りて前に一歩踏み出す雪蓮に恋と華雄が遮る。

 

「もちろん一人でってわけじゃあないだろう?」

 

「……恋もいく」

 

 張遼との激闘で体中に傷を負っている華雄と無傷の恋。

「一刀様は私達の主。その主を傷つけられて黙っているほど私も呂布も気が長いわけじゃあないからな」

 

「コクッ」

 

 不適な笑みを浮かべる華雄に雪蓮も同じように笑みを浮かべる。

 

「いいわよ。ただし私の視界には入ったらダメよ。間違って斬っちゃうから♪」

 

「無用な心配だ」

 

「コクッ」

 

 三人は頷き、許貢の兵士達に向かって歩き出す。

 

「お姉様」

 

 後ろから蓮華達が追いかけてくる。

 

「私達も行きます」

 

 三人が振り向くと、そこには蓮華をはじめとする主だったものが揃っていた。

 

「シャオもいく~~~~~♪」

 

「一刀さまを傷つけた報いわ受けてもらいます」

 

「絶対に許せません」

 

「当然じゃ」

 

「雪蓮様を救った礼です」

 

 蓮華だけはなく小蓮、亞莎、明命、祭、思春、穏、そして冥琳までもが頷いている。

 

「まったく……」

 

 呆れるように彼女達を見渡す雪蓮。

 

「帰ったらきちんと一刀に浮気しないように言わなきゃ♪」

 

 再び前を見据える雪蓮は南海覇王を抜き、高々に掲げた。

 

「それじゃあ、いくわよ♪」

 

「「「「「「「「「「はい(ハッ)(コクッ)」」」」」」」」」」

 

 十人の女傑はもはや武具を拾い上げるだけの気力も残されていない許貢の兵士達に飛び込み、一方的な戦いを展開していく。

 もはやどうすること出来ないと悟った許貢の兵士は持っている槍で、まさに「無駄な抵抗」を試みた。

 

 蓮華は怒りを込めて、小蓮は楽しそう倒していく。

 

 冥琳は手に持つ白虎九尾を軽やかにまるで楽曲にのせて舞うように振るっていく。

 

 祭は二本の矢を同時に放っていき、その横では亞莎と穏がそれぞれの武具、人解と紫燕を使って次々と倒していく。

 

 明命は隠密任務に長けている分、背後に回り一撃を加えると軽やかな動きで翻弄していく。

 

 思春の持つ鈴音の音を聞いた許貢の兵士は瞬く間に倒れていく。

 

 華雄は張遼との戦いで消耗していたが、それでも圧倒していた。

 

 恋は夏侯惇と許緒を相手したとき以上に容赦のない攻撃をしていく。

 

 そして雪蓮は一人、また一人と斬り捨てていき、最後に残った者に気づいた。

 

 三百もいた許貢の兵士は気がつけば一人まで討ち取られていた。

 

「よかったわ。最後に残ったのがお前で」

 

 それは毒矢を射掛けた男だった。

 

 周りには蓮華達が取り囲む。

 

「た、た、た、た……すけ……」

 

「あら。今更、慈悲を願うなんて素敵ね」

 

 そして南海覇王を一振り。

 

 転がり落ちる頸と噴水のように飛び散る鮮血。

 

「でもね、私の大切な人を傷つけた罪がどれほど重いか黄泉の世界で考えなさい」

 

 赤く染まった刃を振り払い、鞘に収める。

 

 踵を返し雪蓮は静かに陣に戻って行った。

 その様子を見ていた曹操はあそこまで苛烈な雪蓮に驚き感じていた。

 

 小覇王と呼ばれる者が感情に任せて動いた。

 

 それは人としてはある行動だが、一国の王がすることではない。

 

 ましてや自分の前に現れた時の悲痛に満ちた表情が印象的だった。

 

(天の御遣い……たしか北郷一刀だったかしら?)

 

 一度だけ会ったことがあったが、有能な人物には見えなかった。

 

 見たことのない衣服を身に纏っているという以外に特にこれといった特徴もなかったために、気に留めることもなかった。

 

 『小覇王動くところに必ず天の御遣いがあり』

 

 そして戦の勝利と導いている。

 

 それでもなお、何かの冗談だと思っていた。

 

 雪連の実力ならば袁術からの独立もそう時間をかけずに起こすだろう。

 

 その実力からいえば自分の方が上だという自負もあったからその勢いで攻め込んできても勝てると思っていた。

 

 何も心配もないし気にかけることもない。

 

 だがその考えが間違っていたことを今日、曹操はその身をもって感じた。

 

 おそらく雪蓮と戦えば自分が負けていたかもしれないと冷静に考えていた。

 

「会ってみたいわね」

 

 一人笑みを浮かべる曹操に夏侯惇ら魏将は不思議に思った。

 

 その言葉どおり、曹操は一刀と出会うことになるがまだこの時はただの独り言だった。

 陣に戻った雪蓮は祭と明命に曹魏軍の撤退を確認してから戻ってくるよう命令をした。

 

 そして一刻も早く一刀に会いたいという気持ちを抑えることなく、単機で城に向かって馬を飛ばした。

 

 蓮華達もそれに続いたが引き離されるばかりで、結局、城に着くまでに追いつけなかった。

 

「一刀!」

 

 馬を下りそのままの姿で一刀が運び込まれた部屋の扉を開けた。

 

 そこには月や詠、それに美羽に七乃、音々音達が静かに寝台の前にいた。

 

 誰もが悲痛な表情を浮かべていることに気づいた雪蓮は嫌な予感を覚えた。

 

「かず……と……?」

 

 雪連は体が震え始める。

 

 言葉では言い表せない喪失感が彼女を包み込んでいく。

 

 一歩、また一歩。

 

 力なく歩み寝台の前で膝をついた。

 

「一刀……いやよ。私を置いて逝くなんて許さないわよ」

 

 眠っている一刀にすがる雪蓮。

 

 曹操を追い払い、許貢の残党も一掃した。

 

 あとは一刀が元気になれば雪蓮は何もいらなかった。

 

 それが目の前の一刀は彼女を残して……

 

「ぷっ……」

 

 誰かの笑う声が聞こえてきた。

 

「お、お嬢様!」

 

 慌てて口を押さえるがすでに遅かった。

 

 ゆっくりと後ろを振り返った雪蓮が見たのは美羽の口を手で押さえている七乃の姿だった。

 

「なぜ笑えるわけ?」

 

 感情のこもらない声が二人を突き刺していく。

 

「うぷっ……こんな芝居にも気づかぬとは孫伯符もまだまだよの」

 

「お、お嬢様、それはダメですよ!」

 

 七乃の忠告も時遅しだった。

「どういうことかしら?」

 

 雪蓮に睨まれた美羽と七乃は急激に体温が下がっていくのが感じられた。

 

「ま、ま、まずいぞ、七乃。本気で怒っておるぞ」

 

「だ、だからダメっていったんですよ~」

 

 二人は身体を庇うように抱き合う。

 

 そんな様子を見て呆れたようにため息を漏らしたのは詠だった。

 

「ほら、何時まで狸寝入りしているわけ?早くしないとこの子らがどうなっても知らないわよ」

 

 ほぼ呆れたように言う詠に雪蓮は感じた。

 

 寝台のほうから音が聞こえる。

 

 起き上がっていく音が確かに聞こえていく。

 

「かず……と?」

 

 再び寝台のほうを見ると、罰の悪そうな表情をしている一刀の姿があった。

 

「え、えっと……お、お帰り」

 

 本人と雪蓮を除く全員が思った。

 

(もっと気の利いたこと言いなさいよ)

 

 雪蓮はゆっくりとだが確実に視線が鋭くなっていく。

 

「か~ず~と~」

 

「い、いや、少し驚かせようかな~って……ま、待て、落ち着け。そんなもの抜いたらダメだ!」

 

 一刀は目の前の雪蓮が南海覇王に手をかけて鞘から抜いていくのを必死になって止めようとする。

 

 

「月、詠、ねね、美羽、七乃さん、と、とめて!」

 

 他の者に助けを求めたがそれは無駄だった。

 

「だからダメですって言ったんですよ」

 

「自業自得ね」

 

「もう一度痛い目にあうのですよ」

 

「七乃、蜂蜜をなめに行くぞ」

 

「はい、お嬢様♪」

 

 月達は逃げるようにして部屋を出て行く。

 

「ま、まっ……」

 

「か~ず~と~。覚悟はいいかしら?」

 

 怒りの笑みを浮かべながら南海覇王を構える雪蓮に一刀は外にも聞こえるほどの悲鳴を上げた。

 

 そしてそれは遅れて着いた蓮華達にしっかりと聞かれた。

(座談)

水無月:というわけでお送りいたしました、雪蓮と一刀の運命の時。いかがでしたでしょうか。

 

詠  :どうみても最後のは自業自得ね。

 

音々音:大馬鹿者なのですよ。

 

月  :……ご主人様、かわいそうです

 

水無月:まぁ死んだふりも時と場合ですからね~。

 

美羽 :馬鹿は死んでもなおらん

 

七乃 :お嬢様も同じぐらい馬鹿で可愛いですよ~♪

 

美羽 :そうじゃろう、そうじゃろう。もっと褒めてたもう♪

 

二人を除く全員:はぁ~~~~~……

 

水無月:と、とりあえず、次回は平和な日常をお届けいたします~。

 

詠  :ボク達のことももう少しは書きなさいよ?

 

水無月:じ、じゃあ、この衣装(巫女服)を!

 

詠&音:「「えい(ちんきゅう)きぃ~~~~~~っく!!」」

 

水無月:ぐべらぼっ!?

 

月  :へぅ……そ、それでは皆さん、また次回をよろしくお願いします。


 
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