第66話 踏み出す一歩
No Side
アルン高原を中心としたボス同士の戦いに決着がつき、残るはプレイヤー同士の戦いにMobが介入する形となった。
アルン高原ではロキ軍のMobを中心とした戦闘が行われている一方、
央都とイグシティでは完全にプレイヤー同士による戦いとなっている。
高原のMobとプレイヤーはオーディン軍の戦力をアルンから引き離す役割を見事に果たし、
世界樹直上にあるアインクラッドからキリト率いるロキ軍降下部隊による奇襲作戦が成功した。
高原は当然ながら央都とイグシティでも激しい戦闘が繰り広げられており、
HPが消滅しては復活して戦闘をやり直すなど苛烈さは増していくばかりだ。
その中でもキリトが直接率いてきた降下部隊の第一陣は激しい交戦を続けている。
「アインクラッドを使って直接襲撃を仕掛けるなんて思わなかった、よ!」
「そうですね、確かに良い作戦ですよ!」
片手剣を持つクルトと刀の『風刃アーネス』を持つセインは互いに得物を振るいオーディン軍と戦っていく。
2人の周りでも同じく第一陣降下部隊メンバーが共に戦っている。
「この乱戦こそ拙者達の真価が発揮される時、各々奮起するでゴザル!」
「「「「「応!」」」」」
短剣系統の小刀『忍者刀・龍刃』を使い、自身が率いるギルド『風魔忍軍』のメンバーと共に乱戦を利用して敵を倒す。
移動速度と《隠蔽》スキルなどを使い味方を支援しつつ敵を攪乱する、多対一や多対多の戦法を行っていく。
「俺だって乱戦が本領だからな、後衛の奴らの為に前で気張るしかない!」
彼の本分は味方を守る為の前衛なので乱戦もお手の物である。
「それでいい、俺の元に来い……これで、終わりだ!」
「止めは俺の役目ってハナシだ!」
シラタキが刀の『四神刀・青白朱玄』を用いて相手を引きつけ、
彼に数人が集まったところで瞬く間に矢が降り注いで敵を一掃した。
前衛のシラタキが敵の中心に入り込んで気を引いて倒しやすいほどにダメージを与え、
止めとしてゼウスが白のボウガン『ガリュウ』と黒のボウガン『ホウスウ』で矢を放ち倒したのだ。
「まだまだ足りないぜ、次はどいつだ!」
「頼むから、これでやられてくれ!」
短剣の一種であるダガーを二刀流として使い、最速で駆け抜けながら次々に敵を斬りつけていくレオ。
それを援護するように麻痺効果付きのナイフを投げまくって止めを刺し、または動きを止めるのはシャークだ。
「後続の降下部隊が降り易いようにどんどん攪乱するのですぞ!
メイジ部隊は魔法で建物ごと攻撃を、弓部隊は前衛部隊を援護するのです! 回復はミケ達に任せるのですぞ!」
「指揮官から倒せば勝てると思ってるのか? 甘いんだよ!」
既に居る部隊と次々に降下してくる部隊へ指揮をしつつ、ダメージを負っている者達を回復させるミケ。
彼女を倒そうと接近してくるオーディン軍のプレイヤー達だが刀の『無明』を振るい、格闘術も交えてくるトキヤに阻まれる。
「レイナ、ファム、合わせろ!」
「はい!」「キュク~!」
ガイは武器を太刀の『逆鱗』からSAO時代に使用していた最上級の太刀『天羽々斬剣』へ変え、
彼をサポートするようにレイナは短剣の『麒麟』を持って従い、
〈フレイムリドラ〉のファムが2人を守るように火弾を吐いて援護する。
「さぁて、もっと楽しんでいこうぜ! let's dancing time!」
ベリルは両手剣である『ギガッシュ』を振るい、
OSSである衝撃波を幾つも発生させて敵を倒し、味方に有利になるように攪乱を行っていく。
「貴方達の信じる道を私に示してください!貫こうとするその信念を!」
補充しておいた無数の片手剣をストレージから放出し、周囲のオーディン軍プレイヤーに投げつけていくサイト。
投げられた剣は寸分違わず敵に突き刺さり、接近してその剣を振り抜いて切り裂き、
敵の攻撃のダメージは《自動回復》スキルによって全て回復する。
「突撃分隊、突貫するぞ! 俺に続けぇっ!」
「軍楽分隊、各分隊をサポートするぞ! 演奏開始!」
「突撃分隊と遊撃分隊は敵の殲滅と攪乱を最優先! 遠隔分隊と魔装分隊は矢と魔法で前衛組を援護!
鉄壁分隊は中衛を担当して前衛を援護しつつ後衛を護衛! 軍楽分隊は全分隊の支援!
我らの
「「「「「「「「「「Yes! My lord!」」」」」」」」」」
ギルド『キリアス親衛隊』は総力を挙げてアルンを攻めている。
突撃分隊長のリョウトウが自身の得物である『ツヴァイハンダー・インフェルノ』を振るいながら前衛組を率いて攻撃を行い、
軍楽分隊長のサージは角笛の『ヘルズホルン』を同分隊のメンバーと共に音楽魔法を奏でて強化による支援をし、
各分隊長、並びに隊員達も苛烈な攻撃を仕掛けていく。
数でも質でも優勢なオーディン軍だが、それでもロキ軍のキリト率いる降下部隊による奇襲は虚を突かれ、
さらに続々と降りてくる部隊の攻撃には戦況を五分五分にされた。
それでもアスナ達を筆頭に優秀なプレイヤー達が応戦し、他のプレイヤー達もそれに続いて抗戦していく。
特に苛烈な攻撃を仕掛けてくる降下部隊第一陣にはそれ相応のプレイヤーが対応していく。
「リオちゃん、ハク、行くわよ!」
「はい、ライさん! ハクは遊撃をお願い!」
「ウォンッ!」
ライは短剣の一種であるソードブレイカーの『ギルティー・レイ』で敵を斬りつけ、
リオは愛用の斧槍を力強く振り回して吹き飛ばし、テイムモンスターであるハクは2人のHPを回復させながら敵に攻撃を行う。
「この最後の大舞台、領主様や将軍のご期待に添えてみせます! ふふ、戦いは良いですね!」
刀の『霊刀ラングレン』を振るいロキ軍のプレイヤーを斬り裂いていくメラフィ。
ついに彼女も乱戦に身を置く中で“戦闘狂”という本性が現れ始めた、
最後ということもあり周囲を気にする必要が無くなったからだろう。
「おらぁっ、吹き飛びやがれぇっ!」
『魔斧コンカラー』を全力で振るって敵を問答無用で薙ぎ払い、吹き飛ばしていくロスト。
強力な攻撃をまともに受けた者は一撃でHPを削り切られていく。
「潰れていろ!」
「俺の動きに付いて来れるか?」
トキトはハンマーで殴り飛ばしていき、時には溜めに溜めた一撃で叩き潰し、
タクミは槍を振り回しながら縦横無尽な移動を行い、敵を翻弄しながら倒す。
「死 ぬ が よ い !」
クラウ・ソラスの付加効果により強化された魔法の威力は大きく、降下してくるロキ軍の部隊を蹂躙していった。
「ヤタ、《
「カァッ! カッカァ!」
小太刀の『逆鱗・光牙』を二刀巧みに操りつつ、投擲アイテムの『苦無』を周囲の敵に投げつけていくファルケン。
相棒の〈ヤタガラス〉のヤタは指示に従い、味方のステータスをUP、敵のステータスをDOWNさせるスキルを使い、支援を行う。
「こうも味方が入り乱れていたら、さすがに一掃するのは難しいな!」
ディーンは伝説級武器である『壊剣アロンダイト』と『血剣フルンディング』による二刀流で戦っていく。
一対多を得意としている彼、多対多も行えるとはいえ乱戦状態では味方も攻撃しかねず、
街中ということもあり使い勝手のいい二刀流で攻めているのだ。
ALOで一番大きな都市のアルンといえど、場所は街中。
様々な戦場で戦ってきた彼らは最後の決戦として央都でもぶつかり合う。
オーディン軍とロキ軍、互いに譲れないものを心に掲げながら…。
キリトとアスナ達が戦っている場所のほど近いところでリーファ達も戦っていた。
「くっ…!」
「リズ!? この、落ちなさいよ!」
「回復を行います、他の皆さんも!」
「牽制はあたし達がやります!」
「てぇやっ!」
「ステータスを上げるよ!」
攻撃を受け苦戦していたリズベットを助けるように、相手へ向けてシノンが弓から矢を放つ。
非常に高い命中率を誇る彼女が放った矢は見事に敵を貫き、HPを0にした。
ティアは回復魔法を発動してリズやダメージを受けた者達を回復させ、その間にシリカとピナがフォローに入る。
リーファは長刀を振りかざして敵を斬りつけ、リンクが音楽魔法で支援を行っていく。
「まったく、全然減らねぇなっ!」
「ええ、むしろ増えているのが解ります!」
「サポートするのも楽じゃないけど、やるしかないな!」
「「「「うん(おお)!」」」」
「カバーはしてやるから、しっかりやっていこうぜ!」
『風林火山』のメンバーと共に連携していくクラインとカノン。
ケイタ達『月夜の黒猫団』もサポートしつつ奮戦しているがかなりの乱戦に手を焼いている。
エギルはみなをカバーしながら戦う。
「次の相手、行きますよ!」
「了解だよ、シウネー!」
「このまま倒していこう!」
「ノリさん、大丈夫ですか?」
「タルこそ、無茶するんじゃないよ!」
『スリーピング・ナイツ』は各々の能力を前面に出して戦場を圧倒していく。
味方が窮地に陥れば助け、次々に優勢に変えていく。
アウトロードを除けば最高クラスのプレイヤーが揃っているからこその情勢変化だ。
「シリカ、リーファ、リズ、シノン!」
「ルクスさん!」
その時、サクヤによって連れられてきたルクスが彼女達の名を呼び、シリカがそれに応じる。
共にレコンも来ており、2人を合わせて戦闘を再開する。
ルクスの剣技は低いものではなくむしろ上の方に入り、レコンの魔法も援護面で見れば相当なものだ。
2人の応援もあってやや押し始めていた時、そこへ黒が降り立った。
「くそ、さすがに一対七は厳しいか…」
「お、お兄ちゃん!?」
「ん、リーファ達か。どうだ、ここで一手打ち合うか…?」
自身の兄が来たことに驚いたリーファだが、彼の戦うかという問いかけに周囲の仲間共々緊張する。
幾度か見たことがあるとはいえ、今のキリトは覇気を使っている本気の状態だ。
慣れてきたとはいえさすがの彼女達でも動揺し、僅かに恐怖する。
ふと、キリトの視線がリーファ達から離れ、ルクスへと向いて彼女へと歩み寄った。
「キリト、様…」
「意外だな、まさかこんなところで再会するとは思わなかったぞ。
『
「っ、なん…で……貴方まで、それ、を…」
キリトの言葉に戦慄し、全身が震えるルクス。これこそ彼女がハジメにも指摘された事実。
周囲には関係の無いことなので誰も止まりはしないが、彼女と親しいシリカ達は違った。
「キリトさん、何を言ってるんですか……ルクスさんが、ラフコフって…」
「そんなわけないじゃない! その子は、友達を亡くしたのよ…!」
「アンタねぇ、言って良い冗談と悪い冗談があるのよ…!」
シリカは動揺し、リズベットとシノンは友人を侮辱されたと思い怒っている。
だが、リーファだけは反応していない、彼女はかつて一瞬だけ見え、消えていく印を思い出したのだ。
また、キリトがこういうことに関しては嘘も冗談も言わないのを家族として知っている。
「嘘でもないし冗談でもない。俺は俺の大切な者に危害が行く可能性があるのなら、それを排除させてもらう。
お前はどうだ、ルクス? ラフコフが行った“蠱毒”によって生き残らせてもらえたお前は、俺の仲間を害するか?」
「…い、や……いや…ごめん、なさ…い…」
威圧感に押し潰され、恐怖に身体が震えていくルクスはキリトの詰問に言葉が詰まる。
そこでキリトの背後から矢が飛来し、躱すと同時に長刀と短刀と鉄棍が振り下ろされた。
シノンが矢を放ち、リーファとリズベットとシリカが同時に攻撃を仕掛けたのだ。
キリトは特に表情を変えず、彼女達と言葉を交わす。
「庇いたければ好きにすればいい。だが、危険性がある以上は俺も行動するし、なによりそいつの為にもならない」
「だからって、こんな風に追い詰めなくても…!」
リーファはルクスを庇うように傍に付き、キリトの厳しい視線を向ける。
「甘い。SAOの呪縛から解き放たれても、未だに自分がしたことから目を背けている。
シノン、お前ならそいつの気持ちを理解できるだろう?」
「それは……解る、わよ…」
「キリト、アンタもしかして…」
「キリトさん…」
キリトが語る言葉に彼女達も理解が出来てきた。
ルクスが行った“殺し”が望んでいないものであったのなら、シノンにとってそれは共感できるものである。
恋人であるハジメにかつて“殺し”をさせてしまったことを悔いている彼女だから。
そして、リズベットとシリカはキリトの思いが解った。
彼が『嘆きの狩人』であることを知る彼女達は自分の恋人がそれについて悩んでいたことも、
キリト自身が悩んでいたことも思い出す。
そして、キリトがルクスを気に掛けていることも、察することが出来た。
そこへ、無用な乱入者がやってきた。
「リーファァァァァッ!」
「えっ、きゃっ…!」
乱入してきたのはサクヤへ復讐を行おうとしたシグルドであり、思わぬ攻撃にリーファはバランスを崩しながらも長刀で防御した。
しかし、リーファも強くなったとはいえ執念で強くなって戦っているシグルドの実力と気迫に押されていく。
彼女を助けようとシノン達が動こうとしたが、キリトが攻撃を仕掛けて行く手を阻んだ。
「悪いが行かせるわけにはいかない。このチャンスを逃すわけにはいかないからな」
「でも、リーファが「やられないさ、ルナリオの恋人で俺の妹だぞ」あ、あんたは…」
「そういうわけでアスナ達が来るまでの間、俺と戦ってもらうぞ」
見捨てているような発言をしたかと思えば、信頼しているからこそだと主張するのだから、
リズベットも他の面々も何も言えず、そのままキリトとの交戦に移っていく。
一方、リーファはシグルドとの戦いで押されたまま、ダメージを負っていく。
「もうサクヤには復讐できそうにないが、俺が追放されることになったのはリーファ、お前がサクヤ達に知らせたからだよな!
だから、お前も俺の復讐の対象だぁっ!」
「っ、アンタの自業自得でしょ! そんな逆恨みで復讐されるのは、真っ平御免よ!」
けれどリーファとて負けてはおらず、シグルドに刃を当ててダメージを与える。
そんな友の近くで未だに怯えているのがルクスだ。
リーファはシグルドにやられるかもしれず、シリカ達はキリトの相手をしていて助けに行くことが出来ない。
「(わ、わた、しが…行か、ないと……でも、体が…)」
憧れの人に自身の過去を知られていたこと、キリトの威圧感を受けたこと、
シグルドの執念がラフコフの者達に似ていたこと、これらがルクスの体の動きを止めていた。
「(シリカちゃん達と会って、SAOのことは振り切れたと思ってた……でも、本当は逃げていただけなんだ…)」
自分はあの時と何も変わっていない、そう悟ったルクス。そこでリーファの悲鳴が聞こえた。
見れば、武器を弾かれて隙が出来ており、攻撃を受ければHPを0にされかねない。
「終わりだ、リーファ!」
リーファは目を瞑り、ルクスは剣を握って駆け出そうしたが間に合わない。
その時、リーファの前に誰かが飛び出した。
「シグ、ルドォッ!」
「な、レコン!?」
シグルドの剣を掴むようにそらし、レコンの肩を切り裂いたがHPは0にならない。
その隙を突いてさらにレコンはシグルドに掴みかかり、短剣で斬りつける。
彼の姿を見ていたルクスは、SAOで自分を庇った友の姿を思い出した。
「(もう、誰も無くしたくない!)」
その意思と共にしっかりと立ち上がり、ルクスは一気に駆け出した。
シグルドはレコンを振り払い、リーファを狙おうとするが彼女も既に体勢を立て直している。
そこへルクスが剣を振るい攻撃を仕掛けた。
「また、お前達かぁっ!」
「レコン、ルクスさん、ありがとう!」
「ルナリオ君が居ない間くらい僕にも守らせてよ」
「友達を無くしたくない。だから、もう真似ることはやめます……私は、ルクスだから!」
シグルドはサクヤの時同様にレコンとルクスに妨害されたことに怒り、リーファは2人の友人が助けてくれたことに喜ぶ。
レコンは友であるリーファを、同じく友であるルナリオの為に守ろうとし、
ルクスは友の為に、そして自分が前に進むために立ち上がった。
「お前達は、俺の邪魔ばかりをっ!」
「全部アンタの自分勝手が原因でしょ!」
「大人しく、やられていろ!」
「シルフの人達への闇討ち、卑劣な手段を私は許しません!」
「ぐぁっ!?」
シグルドの執拗な攻撃が行われるが、リーファとレコンとルクスの連携に追い込まれていく。
レコンの魔法によって強化されているリーファとルクスの攻撃、
レコン自身も短剣や魔法で応戦しているためシグルドは攻撃に移れない。
リーファがシグルドの剣を受け止め、レコンが風系捕縛魔法の《
そして、ルクスが剣を振り抜き、シグルドの体を斬り裂いてHPを0にした。
「くっ、そぉぉぉっ!?」
真っ二つにされたシグルドは叫んだ後に
「やったぁ、やったよ、ルクスさん!」
「あ、ありがとう、リーファちゃん///」
「レコンもありがとう!助かったわ!」
「どういたしまして、間に合って良かったよ」
変化した様子のルクスに喜びを露わにするのはリーファでレコンも間に合ったことにホッとしている。
そこへシリカとリズベット、シノンにティアが駆け寄ってきてリーファの無事に安堵する。
「あれ、お兄ちゃんは…?」
「キリトなら、あそこよ」
彼女達と戦っていたはずの兄の姿が見えず、訊ねたリーファにシノンが位置を指して応えた。
そこにはアスナ達7人と交戦しているキリトがおり、凄まじい戦いに呆然とした。
そんな戦いの中、少しだけキリトが彼女達の方を向き、微笑を浮かべた。
「やっぱりアイツ、最初からルクスに手を出すつもりはなかったのね」
「え…そう、なんですか…?」
「キリトさんも、SAO時代に色々あったんです。だから、ルクスさんのことを気に掛けていたんだと思います」
「勿論、本当に危害が及ぶ可能性があったら、動いていたと思うわよ」
「ルクスさんの手助けになればと、ショック療法を行ったみたいですけどね」
リズベットの言葉にルクスは驚きながら訊ね、シリカとシノンとティアが応じる。
自分は本当にキリトの外面しか知らないのだと感じ、
同時に自分だけでなく周囲を利用して自分を前に進ませたキリトに尊敬と畏怖の念を覚えた。
「レコン君って凄いね、あの強い人に立ち向かうなんて」
「リーファちゃんが居たからだよ。僕1人だったら無理だし、なによりルナリオ君との約束だからね」
「ふ~ん、そういうことなんだね。うんうん、僕決めちゃった!」
「え、なにを決めたの? リンク、さん?」
「んふふ~、秘密だよ。それと片っ苦しいのは無しだよ、レコン君」
「え、うん、解った…」
一方、なにやらレコンと話しをしているリンク。
幾度かリーファやルナリオから聞いていたこと、そして自身の目で見て確かめたレコンのこと。
1人で納得しているリンク、なんのことかさっぱりなレコン、そんな2人を見てまさかと思う女性陣。
なにはともあれ、1人の少女が新たな一歩を踏み出すことができた。
「ウオォォォォォッ!」
「セェェェェェイッ!」
紅い刀の『アシュラ』と蒼い刀の『ハテン』を振るい《二刀流》を駆使して凄まじい連撃を行うキリト、
それに対し細剣の『クロッシングライト』を用い連続で高速突きを放つのはアスナ。
その激しい攻防は周囲の戦闘よりも一層際立っており、下手に手を出せば巻き込まれることは間違いないだろう。
故に他の普通のプレイヤーは手を出さない、普通ではない者を除くが…。
「「「「「「ハァァァァァッ!」」」」」」
キリトの『神霆流』と同門の6人がアスナの隙を補いつつ、キリトの隙を突くように攻撃を仕掛ける。
ハクヤはSAO時代に使っていた大鎌の『アイスエイジ』と『コロナリッパー』を使い二刀流を行い、
ハジメもSAO時代に愛用していた『カミヤリノマサムネ』を使い、
ヴァルも同じくSAOの時の薙刀である『神龍偃月刀』と魔槍『アルスライベン』による変則的二刀流を実行し、
ルナリオは対人戦向けである古代級武器の棒『神珍鉄』を振るい、
シャインもSAO時に使っていた片手剣『ダークリパルサー』と神盾『アイギアス』で全員の壁役を務め、
クーハは短刀の『宵闇』と『常闇』による二刀流で連撃を重ねていく。
キリトの強さに比例するように動きが良くなる“狂気”のアスナ、何処までも冷静に動きを処理していく“冷徹”のハクヤ、
最高の集中力で確実にキリトを追い詰めていく“極致”のハジメ、ALOへの愛ゆえに静かな怒りを表す“憤怒”のヴァル、
折れない強い心で立ち向かうのは“剛毅”のルナリオ、仲間を守る為に己の身で立ち塞がる“勇壮”のシャイン、
そしてどんな時も諦めずに進む“不屈”のクーハ。
7人の『覇気』を展開した状態での波状攻撃にキリトは防戦が主である。
だが、キリトとて伊達で王と呼ばれているわけではない。
アスナが《同調》でキリトの思考を感じ取っているように、その逆も然りだ。
また、圧倒的な威圧感と集中力を兼ね備える“覇王”の覇気の下、全ての攻撃を凌いでいく。
数に対してキリトは使用しているマシンが『
どちらも全力かつ本気であるため、中々にダメージを与えることが出来ない。
少しでも気を抜けば一気にやられるのは間違いないわけで、それでも彼らは楽しんで戦っている。
「ははっ…楽しすぎるなぁ、これはっ! 肉体の心配も要らず、本当に全力が出せる!」
喜色満面な様子で笑いながら二振りの刀を振るうキリト。
流麗な刀の軌跡は彼に向かう武器を悉く防いではいなし、彼の【舞撃】の二つ名に違わぬように舞を踊る様である。
また、キリトは防ぐだけではなく攻撃も行い、2つの刃はアスナ達へ襲い掛かる。
時折、彼の覇気に呑まれるかのように2つの刃がアスナ達を掠め、僅かにダメージを与える。
「枷が嵌め直っても、本気と全力が同時に出せるのは、本当に嬉しいみたい、だね!」
クロッシングライトで剣閃の残る高速の連続攻撃を行うアスナだが、キリトの攻撃の時には防御に徹せなければならない。
鋭い一撃、まともに受ければ大勢を崩されかねない。
だが、そんなアスナも笑みを浮かべ、声からも喜びの色が感じられるのはキリトが楽しんでいるのが伝わっているからである。
彼女にとってはキリトとユイの幸せこそが自身の最上の幸せで喜びなのだから。
「お前がここまでになるのは解るぜ、俺も同感だしな!」
どれだけ冷静で冷徹になろうとも、根本にある戦いへの喜びは隠すことは出来ないハクヤ。
『
氷の鎌のアイスエイジと炎の鎌のコロナリッパー、2つの大鎌がキリトの首を狙っていく。
「……一度斬ることが出来れば、それでいい!」
本気で全力というキリトとの戦いに覇気の使用を以て極限まで集中力を高めて刀を振るうハジメ。
彼もまた楽しみながらも集中力を途切れさせることはなく、キリトの攻撃を確実に捌いていく。
時折、一度鞘に収めた刀による抜刀、居合抜きを行いキリトに強襲を行う。
「多対一とはいえ、ここら辺で一度は勝たせてもらいます!」
自分達でキリト側に付かず、詳細を聞かないことを選択したとはいえ、やりきれない思いがあるヴァル。
男性陣の中で最も優しいが故に、怒れる時は最も怒り狂う彼。
いまの戦いに向ける思いはやりきれなさを持つ自身への怒りからであり、その思いを力に変えてキリトとぶつかる。
薙刀と槍、2つの武器を使い最速の連続突きを放っていく。
「ここまでキリトさんの掌の上っすからね、ここで一矢報いるっすよ!」
棒を縦横無尽に振り回してキリトの攻撃を防ぎ、さらに攻撃まで行っていくルナリオ。
年下組の中でキリトと最も多く接してきた彼、それは恋人である
親しい者達はキリトとルナリオを義兄弟として認識しており、2人もそう思っているのだ。
尊敬するキリトに応える為、ルナリオは己を示す為に力を揮う。
「俺も兄貴分としての意地を、この辺で見せておかないといけねぇな!」
剣と盾で確実にキリトの攻撃を止め、なおかつ反撃ということでカウンターをするシャイン。
いままでは兄貴分としてキリトや他の弟分達を守ってきたが彼らも1人の男となり、
守られるだけの存在ではなくなった。だからこそ、ここで最後の見極めを行うつもりだ。
「覚悟は出来ても実力が伴わないといけない、だから俺はアンタと戦い力を磨く!」
キリト達とは違い、当然ながら人を殺めたことのないクーハは“人を殺さない覚悟”決めた、どんな敵であっても。
けれど、それを為すには結局のところ力がなくてはならない。
ならばと、自身の力を磨き高める為に、強者であるキリトとの戦いに全力を尽くして臨む。
キリトもアスナ達も互いに一歩も譲らない激戦を繰り広げていく。
キリトの得物はアスナ達の体を僅かに掠り、小さなダメージを徐々に与える。
一方、キリトもダメージを負い始めていた。
完全に息が合ってきている7人の覇気使いの連携と同時攻撃にはさすがのキリトも完全な対処が出来ず、
こちらも少しずつだがダメージを受けていく。
その時、アスナの胸ポケットからユイが頭を出した。
「ママ、わたしが一瞬だけパパに隙を作ります」
「ユイちゃん、一体何をする気なの?」
愛娘の真剣な表情での突然の申し出にアスナは少しばかり焦りを覚える。
危険なことをしようとしているのなら、絶対に止めなくてはならない。
だがユイは表情を崩すことなく、真剣なままにアスナに話す。
「話せません、話したらママは反対します。それに、パパと繋がっている今のママでは、わたしの考えが悟られてしまいます」
「でも…」
「ママ! わたしは、パパとママの娘です。わたしも、わたしに出来ることをしたいです」
「ユイちゃん…」
ユイの言っている通りでいまの状態で彼女の行動が露見すれば、間違いなくキリトに止められる。
ただでさえいまの会話も筒抜けなのだ、警戒されているだろう。
それでも、大切な両親を誇りに思うからこそ、自分もやれることをやる、ユイの思いはそれだけだ。
「解ったわ、ママ達に力を貸して…!」
「ハイ!」
娘の真摯な思いを受け止めたアスナは思考をキリトと通い合わせ、ユイの意志を汲み取ることを決めた。
ユイは早速飛び出して小さな体で精一杯飛行し、キリトに向かっていく。
アスナは愛娘を守るように駆けていき、ハクヤ達はユイがキリトに向かったことに驚いたが、
それを即座に抑えて援護するように動いた。
「ユイは俺に何を見せてくれる?」
愛する娘が為す行動に期待するキリトは油断なくそれを迎え撃とうとする。
ユイは小さな体を必死で動かし、キリトの足元に辿り着いた。
そこへアスナがキリトに斬り掛かり、続け様にハクヤ達も連続し、ほぼ同時に攻撃を仕掛けた。
包囲するように攻撃をされたため防御に専念したキリトだが、そこで脚に違和感を覚える。
視線を僅かに脚へ向けると常備している3本のピックの内1本が無くなっていた。
アスナ達の攻撃を二刀で防ぎながら思考を動かすキリト。
「(さっきまで居たはずのユイが居ない、ピックも減った、位置は…)くっ!?」
直後、キリトの胸にピックが突き刺さり、僅かながらダメージを負った。
普段のキリトであればそれで動きが止まることはない、けれど今回だけは違った。
愛娘であるユイの攻撃を受けたことで、キリトは激しく動揺した。
アスナや仲間とは手合せということで戦ったことはあっても、娘であるユイと戦うなど考えたこともなかった。
結果、彼女の小さくとも大きな一撃により、彼は動きを止めてしまう。
「わたしだって、パパとママの娘です…! だから、だから…」
「泣かないでくれ、ユイ……良くやった…」
元々ユイはカウンセリングを目的としたAIだった。
その影響もあって負の感情を苦手とし、誰かを傷つけることなど出来ない性格でもある。
けれど、彼女は勇気を振り絞って愛する父のキリトへ攻撃し、VR世界とはいえ彼を傷つけてしまったことに涙する。
だがキリトは彼女を責めることなどせず、むしろ成長への一歩を踏み出したことを褒める、娘の成長が嬉しかったのだ。
そこへ、7人が一斉に飛び掛かってくる。
ユイが未だ傍に居るために下手な反撃は行えず、動きが制限されている。
アスナとルナリオが各々の得物を振るい、アシュラとハテンで防ぐ。
動きを完全に封じられたところで残る5人が刃を振るい、キリトに襲い掛かる。
「「「「「神霆流殺技《
相手の首と四肢を斬る神霆流の殺技《
ヴァルが神龍偃月刀で右脚を、ハジメがカミヤリノマサムネで左脚を、クーハが宵闇と常闇で右腕を、
シャインがダークリパルサーで左腕を、そしてハクヤがアイスエイジとコロナリッパーで首を斬る。
凄まじいダメージがキリトを襲うが、HPが僅かに残る。
本来ならばこの攻撃で首と四肢が切り落とされているはずだが、キリトの首と四肢は付いたままだ。
キリトは体をずらすことで切断を避け、ダメージだけで済ませたのである。
だが攻撃はまだ止まらない。アスナとルナリオが二刀を弾き、キリトに完全な隙が出来る。
ルナリオが神珍鉄を勢いよく振るい、キリトの腹部に直撃して彼の体は上空に上げられた。
それを追ってアスナが飛び上がり、細剣を煌かせる。
「これで終わりよ、《マザーズ・ロザリオ》!」
「さすが、だな……
ユウキより受け継いだ11連撃OSS《マザーズ・ロザリオ》がキリトに命中し、彼は言葉を残しながら地面に吹き飛ばされていった。
彼が落下した場所では土煙が上がっており、HPも0になったことはアスナも確認したので無事ではないだろうと彼女は判断した。
地上では戦いを見ていたオーディン軍のプレイヤー達が歓声を上げている。
それでもロキ軍は止まらず、戦いは続いている。
キリトの敗北は間違いなく決定打となり、最後の戦いは完全に佳境へと至る。
No Side Out
To be continued……
あとがき
まずは投稿が2日も遅れてしまったことを謝ります、大変申し訳ないです。
難産も難産で書きたいことがたくさんあり、下手をすれば2話編成になりそうな感じでしたが1話にまとめました。
一応、踏み台(シグルド)を利用しつつ、ガルオプで明らかになっていないルクスの過去を捏造して、彼女は見事飛びましたw
書いた際の詳しい経緯は最終話後のあとがきで説明しようと思います。
そしてキリトの敗北、これはみなさんそこそこに予想外だったと考えています、覇王が負けるなんて思いはしないでしょうし。
しかし、これにて黄昏内における書きたいこと書きました、あとは締めだけです。
次回で黄昏が終わり、次々回が最終話になります・・・黄昏編も残り僅か、もうしばしお付き合い願います。
それでは・・・。
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第66話です。
踏み台によって少女が前へ進む話、になっていると思いますw
どうぞ・・・。