No.764715

ALO~妖精郷の黄昏~ 第65話 最終幕、倒れ逝く巨体

本郷 刃さん

第65話になります。
ついに始まる最終決戦、ボス戦が終わります。

どうぞ・・・。

2015-03-15 21:40:56 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:6362   閲覧ユーザー数:5688

 

 

 

 

 

第65話 最終幕、倒れ逝く巨体

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

午後9時、その時刻に至った瞬間にある三ヶ所で一斉に戦闘が開始、いや再開された。

 

一ヶ所はロキ軍の領地であるスプリガン領とアルン高原を繋ぐ洞窟、その出口の場所だ。

二ヶ所目はロキ軍によって占領されたウンディーネ領とアルン高原を繋ぐ回廊、その出口。

最後もまたロキ軍によって占領されたノーム領とアルン高原を繋ぐ回廊の出口。

これらを考えて解る通り、侵攻停止時間終了による再開と同時にロキ軍は攻撃を再開し、

それを読んでいたオーディン軍がその出口で防衛を行ったのだ。

しかし、それはロキ軍も予想していたことであって焦りなどは見せておらず、攻撃を続けている。

 

だが、戦闘が再開されたのはこの三ヶ所だけではない、あくまで先に再開されただけだ。

現にその三ヶ所に続くように各地で戦闘が再開されていく。

 

アルン高原中に次々とポップする様々なMobは狼型、蛇型、アンデッド型、邪神型である。

Mob達は全てが世界樹のある央都アルンへ向けて進んでいき、

それに続くようにオーディン軍の防衛を突破出来たプレイヤー達も空を飛び侵攻する。

けれど、その侵攻を阻止するべく、オーディン軍の中間地点防衛組も応戦してロキ軍の侵攻を迎撃していく。

 

Mob達のポップはなにも離れた場所だけではない。

離れている場所に比べれば少ないが、アルンの傍でも出現していき、アルン防衛組は応戦して敵を倒す。

 

「敵の央都への攻撃は優先して防いでください! ヒーラー部隊はダメージを負った人をすぐに回復させてください!

 MPを消費したのならMP回復アイテムを使っても構いません! 央都への攻撃、並びに侵入への迎撃が最優先です!

 手におえない敵には連携して対処してください! 場合によっては数よりも質を考えて!」

「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」

 

アルン東門の中央で迫るMobを細剣で的確に斬り裂きながら声を張り上げるのはアスナだ。

指示というよりかは注意事項を戦場で再確認させているような感じだが、

凛として張りのある声のお陰なのか周囲の味方プレイヤー達は意気込み、

運良く到達できた敵プレイヤーはその迫力に思わず尻込みする。

隙が出来たロキ軍のプレイヤー、次の瞬間には目の前に水色が広がり、真下からの閃きに体を刻まれて、残り火となる。

そのプレイヤーを倒した水色、アスナはその場に立ち止まることなく動き回り、Mobを蹴散らしていく。

 

「おいおい…」

「どんだけ速いんだよ…」

 

その戦い様を見ていた味方のプレイヤー達が思わず口から言葉が漏れるが、動きが止まりそこへMobが集う。

不味いと思った時には既に遅く、囲まれてしまった……が、今度は黒が彼らの周囲を吹き飛ばした。

 

「余所見してるんじゃねぇぞ」

「……敵の出現は止まらないだろうからな」

「気を付けてくださいね」

「でも無理しないのが一番っすよ」

「俺はお前らが無理しないかが心配だよ」

「無理無茶が十八番だけどな」

 

ハクヤは大鎌、ハジメは刀、ヴァルは薙刀、ルナリオは棒、シャインは剣と盾、クーハは二振りの短刀、

それぞれの得物を振るいながらMob達が吹き飛んでポリゴン片と化して散った。

危うい状態となるはずだったが彼らのお陰で助かったのだが、礼を言おうとした時には他のMobを倒しながら去って行った。

 

「「「「「嵐みたいな人達だ…」」」」」

 

助けられたプレイヤー達は口を揃えてそう呟きながらも再び囲まれないよう戦い続けた。

そんなアスナと彼らを追うようにすぐに華やかな集団が駆け抜けていく。

 

「ハクヤ達もだけど、アスナもすっかり人外入りしてない?」

「え、アスナって元からじゃないの?」

「シノンさん、ナイスショットです。アスナさんも元はそうじゃなかったんですけど…」

「お兄ちゃんと好き合って、色々と吹っ切っちゃったんだと思いますよ」

「キリト君の影響力は凄まじいですから」

「クー君が『神霆流』でやる気出したのもキリ兄が来てからだし…。そういえば、カノ姉はクラ兄と一緒じゃなくていいの?」

「ええ。アスナちゃんと彼らを追ってくれって頼まれたのよ」

 

リズは鉄棍、シノンは弓、シリカは短剣、リーファは長刀、ティアはダガー、リンクは竪琴、カノンは細剣、

それぞれに得物を持ちながら仲間の男性陣を追い駆ける。

彼らが敗北することは滅多に無いが、その万が一を起こせる相手が敵軍に居る以上は彼女らも可能な

限り付いていくようにしている。現にヨツンヘイムで彼らは敗北したから。

時折、彼女らに対してMobが攻撃を仕掛けるが見事な連携でそれらを打倒しながら走っていく。

 

「「「「「今度は風が吹いていった…」」」」」

 

先程の閃光や嵐ほどではないが、それでも敵を倒しながら進む彼女らの勇ましさにまたも味方のプレイヤー達は呟いた。

恋人や家族ともなると血の繋がりに関係無く似てくるのかもしれない。

 

数は多くとも質や連携によってオーディン軍の方がやや優勢だと思われる中、助勢するようにそれは訪れた。

突如として周囲は影に覆われ、両軍共にプレイヤーが挙って空を見上げる。

そこには龍に似た海蛇のような存在が空を飛び、アルン上空を飛行していたのだ。

 

Bahamūt the Behemoth Emperor(バハムート・ザ・ベヒモス・エンペラー)〉、『海と空を統べる御子』がその巨体で天を覆っているのだ。

それが味方であると解り歓喜するオーディン軍に対し、ロキ軍には緊張が流れる。

しかし、動揺は見られず、その様子を見たアスナはなにかがあると感じ取った。

 

その直後、バハムートに応じるかのように5体の存在が彼を取り囲んだ。

全てを呑み込む巨躯の魔狼〈Fenrir the Wolf Lord(フェンリル・ザ・ウルフ・ロード)〉、世界を包み込む大いなる世界蛇〈Jormungandr the Snake Lord(ヨルムンガンド・ザ・スネーク・ロード)〉、

黄昏に羽ばたく黒き竜〈Nidhogg the Wrath Dragon(ニーズヘッグ・ザ・ラース・ドラゴン)〉、終焉に焼き尽くす者〈Surtr the Muspell Lord(スルト・ザ・ムスペル・ロード)〉、

炎の魔剣を預かる女巨人〈Sinmore the Muspell Queen(シンモラ・ザ・ムスペル・クィーン)〉、ロキ軍の生き残りである5体のボスが集結したのだ。

 

スルトとシンモラは西部方面から歩み、ニーズヘッグは東部の戦場から飛行して、

フェンリルは上空にあるアースガルズから跳び下り、ヨルムンガンドはアースガルズから未だにその長大な体を伸ばしている。

HPゲージが9本もあるバハムートに対して、ロキ軍側のボス達はHPゲージが2,3本だ。

数と質では5体のボスの方が上と言えるだろう。

 

「残るは余のみということか。よかろう、貴様ら全てを相手にしてくれる」

 

挑発的だが油断も余裕も見せずに語りかけるバハムート。

 

「残り少ないこの命、ここで懸けるというのもまた一興だな」

「僕達に出来る最後の仕事だね」

「因縁は終えた。ならばあとは敵を葬るのみ」

「世界を焼き尽くす炎は放たれた。俺もまたここで炎を放つだけだ」

「この宴も終わりが近い、妾も存分に楽しませていただこう」

 

フェンリル、ヨルムンガンド、ニーズヘッグ、スルト、シンモラ、

こちらも慢心なく戦いに臨むようだが、バハムートとは違い各々が笑みを浮かべている。

己の運命を知っているからだろう、自身が生み出された存在であり、

この行動も定められたものであることも理解している…いや、理解させられている。

それでも、だからこそ、彼らは己の命尽きようとも戦い続けることを選択する。

そして、その巨体を動かして命を削り合う。

 

 

 

 

アルン高原全体を巻き込んだ戦い、しかしアスナは違和感を覚えていた。

 

プレイヤー同士の戦いも、Mobの出現も、ボスの戦いも始まった……けれど、大本命(・・・)が居ない。

グランディや各地の戦闘で活躍していたプレイヤー達は既に全員がその姿を確認されているものの、肝心の黒の覇王が居ない。

アスナは移動を止めて東門の正面に立ち、相手の出方を窺う。

 

その時、アスナは圧倒的な威圧感と存在感を感じ取った。

彼女だけでなくハクヤ達もそれを感じ取っているが、精確な位置の特定が出来ない。

随分と近くにそれを感じるため、この戦場の何処かに居ることは間違いないのだが、如何せん周囲の敵味方含めて数が多い。

しかも一ヶ所に留まっているような感じでもないので余計に位置取りが難しい。

周囲に注意を向け、常に警戒を解かない、遅れて到着した女性陣も彼らの様子を見守る。

 

ただ、アスナだけは違った。彼女は周囲に気を配りながらも上空を見つめ、確かに感じる愛しい半身の存在を認識した。

 

「上に居る」

 

短く呟かれた言葉にハクヤ達も反応して上を見るが、そこにキリトの姿は無い。

けれどアスナの視線の先であるバハムート、そのHPが異常な速度で削られていっている。

5体のボスの攻撃を受けていない時もダメージを受け続けている、それに気が付いた時にはもう遅かった。

バハムートの9本あるHPゲージがボスと何かの攻撃によって削られ、8本になる。

 

そうなった瞬間にバハムートの背中から黒い影が現れ、流れに身を任せてそのまま落下してくる。

超速で落ちてくる影は動き、僅かに紅と蒼が煌いた。

アスナは咄嗟に下がり、アルンのメインストリートで影を『クロッシングライト』を抜き放ち受け止めた。

あまりの衝撃にアスナの周囲のプレイヤーは吹き飛ばされ、同時に彼女に攻撃を仕掛けた影に息を呑んだ。

 

「やっぱり、キリト君だったんだね。ボスと戦うことで対応しきれないバハムートの背に乗って、滅多切りにしていたんだ」

「隙だらけだからな、だけどアスナはすぐに俺に気付いた。いや、俺の居場所は解るようになっている、《同調》の恩恵だな」

 

バハムートの背で攻撃を行っていたのはキリトであった。

その手にはSAO時代に使用していた二振りの刀、紅い刀の『アシュラ』と蒼い刀の『ハテン』がある。

細剣一本で二刀の攻撃を受け止めるアスナだが、明らかに押されていく。

それを打破するように空いている左手を拳にしてキリトの顔に向けたが、

それを避ける為に体を捻るように動かしてアスナから離れて地面に着地した。

 

「《同調》って名付けたみたいだけど、《接続》以上のことだよね?」

「ああ、《接続》は時間さえかければ誰にでも至れる可能性がある。

 だが、《同調》はVR世界への高い適合率、《接続》の使用率、なによりも両者の思いが物を言う。

 言葉が無くとも意識で疎通が出来る《接続》とは違い、《同調》はそれ以上のレベルの意思疎通だ。

 意識による疎通ではなく感じ取るだけの以心伝心、互いの考えもそのまま曝け出される。

 科学の世界で狂気なまでのオカルトだ、そこら辺の科学者なら信じもしない現象だよ」

「でも私達はその域に居て、《同調》を体験している……どんな研究者なら信じるかな?」

「この世界の生みの親(茅場晶彦)とその恋人(神代凜子)、2人の後輩(比嘉健)くらいだろ」

 

それくらいは伝わっているだろう?と意地悪そうに言うキリトにアスナは笑みと意識で応じる。

どうやら深層意識までは伝わらないが、表面意識は隠せないようである。

現にアスナは徐々に瞳を潤ませ、涙を浮かべていく。

 

アスナには伝わった。

どれほどキリトに愛されているか、どれほどキリトが愛しているか、どれほど自身と愛娘と家族と仲間を想っているか、

彼が知った様々な真実から自身や大切な者を守るためにその身に真実と闇を抱えているか、守る為にどれほど傷ついてきたか、

キリトの優しさが深く、深く、アスナの心に届いた。

 

だが、それはキリトも同じである。

どれほどアスナに愛されているか、どれほどアスナが愛しているか、どれほど支えられてきたか、

どれほど心配を掛けてしまったか、どれほど癒されてきたか、アスナの想いが深く、深く、キリトに思い知らされた。

 

キリトの考えをアスナは全て理解した、意思を伝えあっているから。

 

「「さぁ、最後の戦争を始めよう」」

 

理解し合っているからこそ、ここで刃を交え合う。

 

圧倒的連撃と圧倒的速度、キリトの二刀流とアスナの閃光がぶつかりあい、周囲は手が出せない状況である。

キリトにはいままでに見られていた暴虐性や荒々しさが静まっており、二刀流で繰り出される連撃は舞うようである。

彼の『神霆流』での通り名【舞撃】に恥じない流麗さを醸し出している。

枷が嵌め直ったいまの彼の剣は集中し、そこに無駄な乱れはまったく生じていない。

対するアスナもキリトと《同調》しているからか流麗さに磨きが掛かり、剣閃しか残らないような速度で細剣を振るっている。

この2人の領域に足を踏み入れられる気概のある者は多くは無いだろう。

 

 

 

キリトがバハムートの背から降りた直後、アルンの中にもロキ軍の部隊が到着していた。

何処から現れたのか一瞬理解が及ばなかったオーディン軍の者達だが、上から着地したことは理解した。

では、どうやって来たのか。

 

そもそも、キリトも最初からバハムートの背に居たわけではない。

ただ、動く城がアルンの頭上に来ていたからそれを利用しただけだ。

そう、アインクラッドは現在央都アルン、いや世界樹の真上に来ている。

キリトが率いる部隊はそこで待機し、先んじてキリトはバハムートの背に降りてボスに紛れてダメージを与え、

先程アスナと戦う為に降りて行った。

それを合図として、キリトに率いられていた者達もアインクラッドから降下、滑空しアルンに奇襲を仕掛けたわけである。

 

突然の襲撃に混乱が生まれ、ロキ軍はそこを突いて攻撃を仕掛けていった。

勿論、降下部隊はアルンだけでなく、イグシティにも居る。

オーディン軍は正面からの攻撃に備え過ぎたのだ。

しかも降下部隊は降下途中にバハムートに攻撃を行っており、ボスの攻撃も相乗効果となってHPを次々に削られていく。

 

「これもキリトの策なんだろうな」

「……三方面からの大部隊、出現したボス、リポップするMobを囮にした最精鋭による奇襲。随分と手が込んでいる」

「しかも本人は嫁とサシで勝負ときたもんだ……見ろよ、さすがの俺でもついていけないレベルだ」

「……ALOでならアスナも私達レベルかもしれないな」

 

笑みを浮かべながら会話をするハクヤとハジメは仲間達と共に侵入してきた敵を迎撃する。

次々と降下してくる敵部隊、どうやら波状攻撃が狙いのようである。

 

「ま、早くここを終わらせてキリトのところに行きますか」

「……ああ、そうするとしよう」

 

仲間を守り、この戦いに勝つ、その為に彼ら彼女らも己の出せる全力を尽くしていく。

 

 

 

 

交戦の再開から1時間が経過した。

 

ボスとキリトの攻撃で1本、ボスと降下部隊の攻撃でさらに1本、

ボスと周囲の攻撃も受けまた1本を削られたことでバハムートのHPは6本となった。

 

だが、ボス達のHPも削られていることに違いは無い。

HPが1本だったニーズヘッグは半分以下になり、2本だったスルトとシンモラとヨルムンガンドは1本になり、

フェンリルは3本から2本になっている。

オーディン軍の攻撃も受けていれば当然だと言える。

故に彼らは最期の攻撃に出る、黒の妖精に任せたからだ。

 

まずはシンモラから前に出る。HPの低下に伴い、彼女は形態変化としてその身に纏うドレスが紅蓮の炎を纏っている。

 

「ロキのように本物を生み出すことなど出来はせんが、類似する物なら作れよう」

 

シンモラが両手を正面に出すと炎が現れ、徐々に形を変えていき、ついには剣の形になる。

それは彼女の夫であるスルトが振るう剣『炎剣レーヴァテイン』と類似している。

炎だけで出来ていることを除けば小型のレーヴァテインだと言える。

それを振るい、バハムートに向かって駆け抜けていく。

 

「せぇぇぇぇぇいっ!」

 

跳び上がってバハムートを斬りつけ、空いている左手で殴り、脚で蹴り、炎の塊を形成して投げつける。次々と命中してダメージを与え、けれどバハムートはそれを意に介さず、

水のブレスや長い尾を叩きつけて応戦し、彼女のHPを削る。

そして、バハムートが大きく口を開き、シンモラに迫る。

 

「この身全てはスルト様に捧げた物、貴様に奪われるつもりなど毛頭無い……吹き飛べ!」

 

口に呑まれた瞬間、シンモラの身体が劫火を放って爆散した。

爆発と劫火はバハムートの口内から喉を抜けて体内を駆け巡り、HPゲージを丸ごと1本削り切った。

特攻としか言えない攻撃に見ていたオーディン軍は驚くが、彼女だけでは終わらない。

 

続けざまにスルトが巨体を動かして前に進む。

彼の形態変化は全身から溢れ出る劫火の炎、周囲の全てを焼いていく姿はまさに世界を焼き尽くす炎の巨人だろう。

シンモラやロキが持っていた剣とは比べ物にならない大きさのレーヴァテインを構える。

 

「ふぅぅぅんっ!」

 

振り上げたレーヴァテインでバハムートを大きく斬りつけ、

さらには空いている拳で盛大に殴りつけ、炎のブレスを吐いてダメージを次々と与える。

バハムートも対抗して大きな鰭で叩きつけ、水のレーザーを吐き、尾で突き刺してくる。

ついに、スルトのHPが0になった時、バハムートの体をその手に掴んだ。

 

「この身が滅びようとも、俺の炎は全てを焼き尽くす…!」

 

瞬間、スルトが纏う炎が大きく膨張し、シンモラの時とは比較できないほどの大爆発が発生した。

スルトは劫火となって消滅し、しかしその劫火はバハムートを焼き、周囲も焼き、

飛び散った炎はブリュンヒルデの悲炎と相まって世界を焼き尽くしていく。

バハムートのHPを1本削り、さらに炎は世界樹にも及び、枝葉や幹を含めて世界樹を焼いていく。

ついに、世界樹の終焉も始まった。

 

スルトが遺した炎を絶やさぬ為、今度はニーズヘッグが続く。

最もHPが低い彼は形態変化として全身に黒い瘴気を纏い、空中を駆け抜けながら攻撃する。

 

「おぉぉぉぉぉっ!」

 

闇のブレスを吐きだし、爪で切り裂き、体当たりを行い、遂にはバハムートに噛み付いてダメージを与えていく。

だが、ニーズヘッグの噛み付きに対してバハムートも彼の体に噛み付き、長い体を巻き付け締め上げていく。

ニーズヘッグのダメージ量が大きく、HPが0になる時、彼も最期の一撃を放つ。

 

「フレースヴェルグとの因縁にケリは付けた、あとはこの世界との因縁を断つ…!」

 

全身で纏う黒い瘴気が膨れ上がり、闇のオーラとなってバハムートを包み込み、闇のブレスも放った。

自身の闇に呑まれるようにニーズヘッグの体は消滅し、バハムートのHPを1本削った。

 

残り3本となったそれを削る為に今度はロキの次男、ヨルムンガンドが迫る。

バハムートも体は長いがヨルムンガンドはそれ以上の長さであり、先程まではアースガルズに体を置いていたほどだ。

それがいまでは共に体を巻きつけ合い、締め上げていく。さらに両者共に首筋に噛み付き、毒と水のブレスを放ち合う。

だが、HPが削り切られたヨルムンガンドに勝ち目はない。それでも最期の一手を彼はぶつける。

 

「僕の黄昏はここまでだよ…!」

 

限界まで締め付けをやめずに全身から猛毒を滲ませ、バハムートを猛毒で包み込む。

丸々1本HPゲージを削ることは出来たが、バハムートも締め付けを行い、ヨルムンガンドはポリゴン片となり消滅して逝った。

 

これで残り2本のHPゲージをロキの長男にして神殺しの魔狼が務めるべく燃える大地を駆け抜けていく。

炎の巨人の長とその妻、黒き竜、それに弟である大蛇がやり遂げたことを繋ぐべく、フェンリルがバハムートに強襲を仕掛ける。

その鋭き爪と牙を振るい、太い尾で叩きつけ、口からは炎や氷のブレスを吐いてダメージを与える。

 

「悪狼として、悪足掻きをさせてもらうぞ!」

 

バハムートへ攻撃を与えていく中、彼の反撃もフェンリルは受けていく。

速く動けようとも、避けられない攻撃を受ければダメージを負う。

それでもフェンリルが止まらずに倒すべき敵へ攻撃を続ける。

 

だが、やはり広い戦場で戦うということはダメージも負い易いということだ。

オーディン軍の方が圧倒的に数が多いのでどうしてもフェンリルに向けられる攻撃の方が多く、HPゲージの減少も速い。

1本半もHPを削られ、残り僅かとなったフェンリルのHP、けれど止まらずに駆け抜けてバハムートと正面から渡り合う。

 

「世界よ、黄昏に染まれ!」

 

フェンリルの全身に冷気が集まり、口には炎が集束しながらバハムートに向かう。

そのバハムートは咢を開いて水を集束する。

そして、フェンリルの炎に氷が集束し、2つの力が混ざった弾丸が放たれてバハムートに直撃し、HPゲージを丸ごと1本削った。

しかし、バハムートが集束した水の弾丸に水のレーザーが覆うように放たれ、フェンリルにも直撃し、彼のHPを完全に0にした。

 

「く、はっ…あとは、任せたぞ……キリト…」

「あぁ。ゆっくりと眠れ」

 

巨体が倒れ、アルンに倒れ伏しながら街を破壊した。

彼が倒れた傍にはアスナと交戦していたキリトが居り、それに応えた。

フェンリルはそれを聞いて満足したのか笑みを浮かべながら瞳を瞑り、ポリゴン片となって消滅した。

 

これで戦場に出ているロキ軍側のボスは全滅したが、

オーディン軍のボスであるバハムートは未だHPゲージを最後の1本の半分ほど残している。

キリトはバハムートを睨みつけ、アシュラを持つ右手を上に上げる。

 

「っ、全員! ロキ軍の攻撃を阻止してください!」

「遅いぞ、アスナ……やれぇっ!」

 

キリトが手を下ろした瞬間、アルン攻めを行っていたロキ軍が一斉にバハムートに魔法や矢などで攻撃を行い、

それを合図として高原のプレイヤー達もバハムートに一斉に仕掛け、魔法や大規模魔法でHPを一気に削り切った。

火、水、氷、風、雷、土、闇、光、というあらゆる属性の魔法と矢が襲いかかったこともあり、バハムートのHPは0になった。

 

「余が、終わるというのか、ここで…」

 

海と空を支配していた皇帝の巨体が高原へと落下していき、高原を戦場としていたMobもプレイヤーも巻き込んだ。

ポリゴン片となって消滅したことで、戦場に出ているオーディン軍の部隊も全滅した。

 

これで戦場にあるボスは全滅した、午後10時半の出来事である。

 

 

 

キリトの考えが伝わったからこそ直前でアスナは気付くことが出来たが、それでも間に合うことはなかった。

彼は深層に作戦を押し込み、その時にそれを引き出すことを意図的にやってのけているため、

アスナでも察知が遅れてしまったのだ。

離れていた距離を詰め、アスナはクロッシングライトを最速で動かす。

 

「随分と激しいデートのお誘いだな」

「激しくて情熱的なお誘いはお嫌い?」

「まさか、アスナからのお誘いなら大歓迎さ」

「ふふ、嬉しい」

 

会話だけを見れば恋人同士の逢瀬としか感じられないだろうが、現在この2人は刀と剣を激しく交えている。

周囲からすればあまりにも凄まじい光景であり、そんな中で普通に話しているこの2人はおかしいと感じる。

だが、いまは戦争中、だからこそそれにワザと介入するのが彼らだ。

 

「2人で空気を作るのはいいけどさ、戦争中なわけだから横槍させてもらうぜ」

「……完全になった今のお前にアスナだけでは厳しいからな」

「さすがの僕達も本気で行くので」

「ま、覚悟してくださいっす」

「ヨツンヘイムじゃ惨敗だったからな、ここで少しばかり仕返しさせてもらうぞ」

「そういうわけでもっと腹に力込めてくれよ……というわけで…」

「「「「「「ぶっ潰す」」」」」」

 

ハクヤ、ハジメ、ヴァル、ルナリオ、シャイン、クーハの6人が揃い、全員から覇気が溢れる。

同時にアスナから覇気が溢れ、彼女に合わせるようにキリトからも覇気が溢れた。

 

「はっ、いいぜ……来いよ」

 

キリトの威風堂々とした挑発にアスナと6人の神霆流が一斉に飛び掛かる。

始まった最後の戦いも佳境になりつつあった。

 

No Side Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

な、なんとか今日も間に合いました・・・さすがに焦りました、はい・・・。

 

しかも前回の予告とは違って踏み台の話を組み込んでいません、申し訳ない。

 

まぁその代わり忘れていた《同調》の話は入れられたから良かったですが。

 

というわけで戦場に出ているボスは全滅しました、呆気無いと思われるかもしれませんが最初からこうするつもりでしたので。

 

次回こそは踏み台の話を入れます、それと本当の最後の戦いの前にみなさんのアバターも出します。

 

ただ、あくまでも次回は踏み台とそれを踏み越える少女の話ですのでアバターの出番は1人1回くらいですのでご了承を。

 

それではまた・・・。

 

 

 

 


 
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