~トールズ士官学院 旧校舎前~
その頃、フィーを探しにルドガーがたどり着いた場所……それは、旧校舎前であった。そして、目的の人物でもあるフィー・クラウゼル本人は、旧校舎の前にあるベンチに体育座りで一人いた。
「こんなところにいたのか。」
「ルドガー……何か用?」
「……ここんところ、ちゃんと園芸部に顔を出していなかったようだからな。そのお説教も込めて、だよ。別に怒るわけじゃないけど。」
特に怒っているわけではない。そう言いつつ、ルドガーはフィーの隣に座った。そして、ルドガーは一番聞きたかったことを問いかけた。
「フィーは、どうしたいんだ?ラウラと、どう向き合うか……」
「……よく、解らない。私という存在が、受け入れられるかどうか……」
その気持ちは解らなくもない……その言葉を聞いたルドガーはまるで、思い出を話すかのように話し始めた。
「―――昔、一人の少年がいました。その少年は災厄という名の運命に巻き込まれ……それでも、その少年を受け入れてくれた人に感謝しました。けれども、少年の中の災厄は消えず……その少年は、周りの人達の制止を振り切り、その災厄を止め……世界を平和にしました。」
「……その少年は、どうなったの?」
「命と引き換えに、世界を平和にした……ま、よくあるお伽話の顛末の一つだよ。何が言いたいのかって言うと……世界は広い。嫌う奴もいれば、好む奴もいる……それだけの話だよ。簡単に言えば、難しく考えるなってこった。」
それは、ルドガー自身の経験も含んだ話なのは、フィーも知らないことだ。執行者として……使徒として……あらゆる人間を見て来た彼だからこそ言える経験談を内に秘めた話。それには、フィーも納得はしたようだ。
「……解りあえるかな?」
「信じなきゃ。でないと、叶わないことだ。」
「だね。団長も言ってた……『願うだけなら叶わない。信じる奴が叶えられる』って。」
「成程。……ま、俺からは頑張れとしか言えないが。」
こちらの方も一先ずフォローは出来たようで……ルドガーはフィーに別れを告げ、探しているであろうエマを探すことにした。気配を辿ればあっさりと見つかったのだが……ルドガーはエマが“妙な猫”を抱えていることに気付いた。
「委員長。」
「あ、ルドガーさん。フィーちゃんの方は……」
「そっちは見つけてフォローはした。……で、エマの方は猫の飼い主さがしか?」
「え……あ、えと、そうですね!何か迷い込んじゃったみたいで……外に連れていきますね!」
「お、おう…………(あの猫、“霊力”からすればアイツの同類か?……となりゃ、俺の“正体”にも気付いてそうだな……)」
何かに慌てていたエマは猫を連れてそのまま旧校舎の方へと向かっていった……それを不思議に思ったルドガーであったが……グラウンドから現れたリィンの姿を見て、納得した。
「あれ、ルドガー。フィーを探していたんじゃ……」
「そっちは済んだんだが……出会い頭に委員長と会ってな。」
「ああ。俺は気になる会話らしき声を聞いて……委員長と黒い猫がいたけど。」
「そっか。」
どうやら、グラウンド裏で会話しているのをリィンに聞かれ、慌てて取り繕ったのだろう。その光景が容易に目に浮かび、内心苦笑したルドガーであった。その頃、旧校舎の物影に辿り着いたエマは抱えていた猫を地面に降ろした。
『もう、焦らすんじゃないわよ。というか……何で同じクラスに『結社』の人間がいるのよ?』
「え……セリーヌ、知ってるの?」
『“長”から聞いた程度の話はね。けれど、使徒第一柱“神羅”……しかも、“守護騎士”の人間と知り合いって、そんなの非常識よ。』
「!?……で、でも……あの“印”は……見たことがなかった。」
『“本質的な力”は変わっていないようだけれど……どうやら、あたし達ですら知らない“事実”が向こうにはあるようね。』
エマとその猫―――セリーヌは、話に挙げた二人―――アスベルとルドガーについて話していた。その二人は“長”がセリーヌに伝えていた人物。自分たちとは異なる視点で裏側を見ている者。彼らが何故この学院にいるのか……それは、この二人でも“長”と呼んだ人間ですらも解らないことであった。
『正直言って、彼等が敵に回らない保障はない。なら―――』
「『いっそのこと、消してしまう』」
「……とでも言うつもりかな?」
「え……!?」
『ア、アンタら……!?』
セリーヌの言葉を遮る様に言い放ったのは、一人の少年―――アスベル・フォストレイト。そして、旧校舎の屋根にいるもう一人の少年―――ルドガー・ローゼスレイヴの姿。先程まで気配を全く感じさせないその身のこなしにエマとセリーヌは警戒するが、一方の二人は警戒するそぶりを見せていなかった。寧ろ、その反応に呆れていた。
「……どうやら、大方の“素性”は知られているようだから、こちらから先手を打つことにした。ああ、ちなみにエマの“目的”に関しては触れるつもりもないから。正体を明かすのは自分の口からの方がいいだろ?」
「………え、えっと。」
「よっと……ま、俺が“使徒”だってこととアスベルが“守護騎士”だってことは知ってたようだからな。……言っとくが、第二柱は“すぐ傍にいる”。あ、別にエマとアイツの邪魔をするつもりは毛頭ないから。(邪魔したら、既成事実作られかねん……)」
『―――何が目的なの?』
セリーヌの言葉も尤もであった。邪魔をするわけでもなく、ただ身の内を明かしただけ……何かの対価を求められるのかと身構えるのも無理はない。だが、彼らの要求は至ってシンプルであった。
「何、互いに秘密を知ったから、ここは互いの胸の内にしまおうってことだ。」
「それと、俺の親友や大切な人を命の危険にさらすようなことに巻き込んだら……その時は容赦しないから、覚悟しておけって忠告。―――そんなことで命の殺生はしたくないから、お仕置き程度のものだけれど。それで手を打つって提案。」
「そ、そんなことでいいんですか?」
「こちらとしては学生生活を謳歌したいんでな……お互い、面倒なのは御免だろう?約束さえ守れば、干渉はしない。」
あっさりとした要求……無理難題を言っているわけではない。これにはエマも納得したのだが、セリーヌの方は一つ納得できないことがあった。
『一つ疑問があるわ。どうして“使徒”と“守護騎士”―――『結社』と『教会』の人間が一緒の場にいるのよ。そんなこと、おかしいじゃない。』
「セリーヌ!!」
まぁ、古くからの歴史を知る人間ならば、その疑問に至っても無理はない。それを聞いたアスベルは笑みを零した。
「その論理から言えば、元“執行者”と“守護騎士”が一緒にいるのもおかしいというのも疑問だと言いたそうだが………警戒心を向けられて、そう簡単に“信用”のおけない対象に語れるほど、お人好しでもないんだよ。ただ一つ言えることは……そんな“枠”に囚われるような生き方はしていないだけさ。俺もルドガーもな。」
使命・運命・宿命……結論から言えば、定められた生き方を決める権利なんて誰にもない。ただ、その柵によってそう生きざるを得ない人が多すぎるのだ。別に否定しているわけではない。血の繋がりや家柄、職業……環境から人はある程度の枠に嵌ってしまうのは致し方のないことだ。それも、生きる上での一つの指針なのだから。だが、その指針を自分の進むべき道としてしか見れないのが多い……それも、一つの現実を指し示している。ルドガーは生まれて『結社』の人間に拾われたから……アスベルは戦役中に『聖痕』を発現したことから……それぞれの組織に身を置いているだけの話だ。その方が色々融通が利くという利点も大きい。無論、上司諸々に対する礼儀は忘れていないのだが。
「委員長だって、別にリィン等に対して危害を加えるつもりなんてないだろ?」
「え……ええ。それは間違いなく断言できます。」
「なら、ここでのことは秘密にしておく。ただ、それだけのことだ。―――じゃあな。」
エマの言葉を聞いて、それに嘘偽りがないことを確認して離れていくアスベルとルドガーの二人。その場に残されたエマとセリーヌは……互いに黙る他なかった。もし、このままこちらから攻撃を仕掛ければ……次の瞬間に、自分たちの命が無くなっていたことは確実であった。
「はぁ……セリーヌ、確かにあなたの疑問は理解できるけれど……一歩違えたら、私達が召されてたわ。」
『………確かにね。敵にならないというのなら、敵にしないほうがマシだものね。』
エマの言葉に対して、セリーヌの出した答えは黙るという選択以外なかったのは……明らかであった。その頃、ルドガーと別れたアスベルは生徒会館の二階奥にある生徒会室に来ていた。そして、真っ先に彼の目に飛び込んできたのは……山となった書類であり、それに隠れてしまいつつも書類相手に奮闘している知り合い兼先輩の姿であった。
「って、アスベル君じゃない。もうHRは終わったんだ。」
「まぁね。というか……相変わらずの書類の数だな。」
「これでも、前よりは減った方なんだよ。スコール教官とラグナ教官には感謝かな。」
「さいですか………っと、これ。あまり気を詰め過ぎると、いつか倒れるぞ?」
どうやら、そこに出てきた名前の関係者―――十中八九あの教官が仕事を押し付けたに違いない。後でスコール教官に伝えることを思い出しつつ、知り合い―――トワに先程作ったフルーツパイの入った箱を渡す。これにはトワも表情を綻ばせたが、気になることがあって問いかけてきた。
「わぁっ、ありがとう!………ところで、アスベル君のお手製?」
「久々なので、味は保証……何ですか、その表情は?」
「アスベル君、絶対に性別間違えて生まれて来たよね?」
「………」
「ひゃわっ!?あ、頭をペシペシしないでよぉー!!」
親しき仲にも礼儀あり……言ってはならない言葉を述べたトワに対し、彼女の頭を軽くたたくような感じでペシペシしていた。一通り仕置きが終わると……これにはトワも軽く泣き顔になっていたのであった。
「うぅ~……アスベル君、ひどいよぉ……」
「その禁句でその程度で済んでいるだけマシです。レイアのようにならなかっただけありがたいと思うべきです。」
ちなみに、レイアの場合はというと……超絶ハードコース(10秒×10セット)のマッサージであった。その仕置きが終わった後の惨状はというと……半日ぐらいは、意識があるのに身体が動かなかった状態であった。それを知っているだけに、トワの口からこれ以上何も言えなかった。
尚、このフルーツパイ……アスベルと入れ違いになる形で入ってきたアンゼリカがトワとのティータイムで食し……
『……フフフ……何なのだ、この敗北感は……』
『うぅ……美味しいんだけれど……あれ?目から汗が………』
軽い御通夜状態になっていたのを知るのは、そこにいる人たちだけであった。
辺りはすっかり夕方となっており、アスベルはそろそろ第三学生寮に戻ろうかと歩いていると、正門の方から聞こえてくる声……その様子を遠目から見たアスベルは、そこにいる面々―――トマス教官、ナイトハルト教官、サラ教官、スコール教官、そしてラグナ教官を見て、大方の事情を察した。このままいけば巻き込まれかねない……そのことを本能で察し、校舎の方へと引き返す形でやり過ごす羽目となった………
その頃、アスベルと別れたルドガーはというと……
「はい?……まぁ、暇なので、買い物に付き合うぐらいならいいですけれど。」
「良かったです。流石に一人で帝都は危険だと両親に止められてしまいましたので、助かります。」
エーデルに話しかけられ、明日の自由行動日の予定を聞かれたので話すと……明日、帝都へ一緒に付いてきてほしいとのことだ。まぁ、無駄に広い帝都の中を女性一人で歩かせるのは危険だと言う彼女の両親の言葉はご尤もだろう。……同学年の人間ではなく、何故自分に話しかけたのかは疑問が残るのだが。いや、先月の事からして、そういうことなのではないかと薄々は思っているのだが…明日ならば問題ない……そう思ったルドガーの思考は、浅はかだった。
「それじゃあ、行きましょうか。許可は既に貰っていますので。」
「へ?行くって……これからですか!?」
「いいではないですか。……その、責任、取ってもらうんですからね。(ごにょごにょ)」
「ちょっと、心の準備をさせてください。」
いつものぶっきらぼうな喋り方は、先輩相手にも出来ず………30分だけ準備の時間を貰い、彼は連絡を取って校舎内に残っていたアスベルを呼び出した。
「で、何やらかした?ついに先輩と事実に踏み込んだか?」
「……俺の中の本能が、その危険性の警鐘を鳴らしている。」
「………はぁ。ま、お前の人生だから干渉はしないけれど。」
たったそれだけのやりとりで大方の事情を察してくれるアスベル(親友)をルドガーは有り難く思った。その為の必要なことを全て教えてもらう代わりに、ルドガーはアスベルに一本の太刀を渡した。
「駄賃替わりで済まない……こっちの“理”で出来てる奴だ。魔刀“村雨”。」
「ま、ありがたく貰っておくよ。」
この世界に来て、貰った刀が三本……使えるものは貰っておくに越したことはないと思い、素直に受け取る。そして、アスベルは一言呟いた。
「まぁ、その……世界が消えない程度に頑張ってくれ。」
「リアルに笑えないから、困るぜ………」
冗談をいくら言っても、冗談に聞こえないというのは………関わっている人物達が“常識外”ということの表れなのかもしれない。
久々更新ですいません。リアル仕事のせいです。
少なくとも今月はずっとこんな感じ。
エマ絡みはあんな感じでいいと思った結果がコレです。
で、ルドガーのほうは………好意を寄せている人間たちが、皆が皆マイペースですので。“鋼”だって女性ですから。詳しいことは指定(マテ
vita買いました。ソフトは無双のほうですが(ぇ
まぁ、軌跡シリーズは追々と言うことで………
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第67話 乙女たちの心