No.722879

快傑ネコシエーター10

五沙彌堂さん

46、大和撫子の母
47、美猫まっしぐら
48、侯爵渡来
49、無責任侯爵
50、子猫物語

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2014-09-27 14:57:21 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:584   閲覧ユーザー数:583

46、大和撫子の母

 

大和撫子の母は大和一葉といい古き良き良妻賢母の典型のような人だった。

撫子が乳飲み子の時警察官だった夫が殉職し女手一つで撫子を育てていたのだが

撫子が4歳の時夫の上司だった大和龍之介に一目惚れし夫の7回忌を機に大和龍之介に

嫁いできたのだ。

大和龍之介は自分が危険な仕事についていることから結婚をせず家族を持たない主義

だった。

しかし、一葉の猛烈なアタックに根負けして妻に迎えることにしたのだ。

家族を持ってみるとやはり心が癒され仕事に張り合いが出来るようになった。

一葉も撫子同様とてつもない大の猫好き、猫又フリークであった。

マタタビ酒に酔っぱらって大きな黒猫の姿で帰るととても大事に抱き座布団の上に

寝かして優しく愛おしそうにブラシをかけ毛並みをつやつやにしてから優しく一晩中

撫でているのである。

龍之介は一葉の亡夫を大事に思い家族全員での墓参りを欠かさず月命日には必ず花が

供えられていた。

龍之介は一葉の亡夫も含めて家族に迎えたような気持だった。

一葉は亡夫とはお見合い結婚で積極的に結婚したわけではなくなんとなくだった。

撫子が生まれてなんとなく幸せな気持ちでいた。

しかし、夫が殉職して娘を抱えて一番大変な時、こっそりと2人を守り支えていたのが

龍之介で、龍之介と結婚して初めてそのことが判り一葉の喜びもより大きいものになった。

一葉の今一番のライバルはお父さん大好きを公言し理想の男性として尊敬している撫子で、

朝いちばん最初にどちらが先に龍之介と言葉を交わすかを競い合っている。

龍之介は娘の撫子同様にいつまでも娘時代の気持ちを持ち続けている一葉を愛している

のだった。

 

龍之介が居酒屋銀猫に通うようになって黒猫の姿で帰宅することが多くなり、

余程遅くならない限りは四方野井雅が背広を綺麗に片手に吊るして抱っこしてつれて

還ってくることが多くなった。

居酒屋銀猫の女将が25才の美人の猫又と聞いてちょっと心配になっていた。

一葉は18歳で亡夫と結婚して19歳で撫子を生み、今年で34歳だった。

しかし子供っぽい性格と見た目でとても高校生の娘がいるようには見えなかった。

撫子と一緒に買い物に出かけて姉妹に間違われてはしゃぎ回って喜んでいたこともあった。

娘の撫子が居酒屋銀猫の女将や従業員の猫又ハーフの娘たちと記念写真を撮って来たのを

見て、自分も行ってみたい衝動に駆られ、ついに魔窟居酒屋銀猫デビューを飾ろうとしていた。

 

「ここが居酒屋銀猫ね、まだお店はやっていないのかしら。」

挙動不審な様子で居酒屋銀猫の様子を窺がっていると、

肩をポンと軽く叩き、

「不審者見付けた。」

例によって銀であった。

「あなたは、居酒屋銀猫の女将さんの銀さんですか、初めまして夫龍之介、娘撫子が

大変お世話になっております、私は龍之介の妻の一葉と言います、よろしくお願いします。」

「まぁ、これは大変失礼いたしました、大和警部補の奥様でいらっしゃいましたか、

こんな所ではなんですからお店の方に上がってください。」

銀は一葉を店の中に案内した。

 

銀は一葉を座敷にあげて、お茶とお茶菓子を奨めた。

奥からトコトコと子猫のキジコがやって来て一葉を一目見てみゃーと鳴いて一葉の膝の上

に乗ってスリスリして甘えた。

「奥様も大変な猫好きでいらっしゃるようですね。」

「ええ、この子は大変賢い子のようですね。」

一葉はキジコを優しく撫でていた。

キジコは喉をゴロゴロ鳴らしていた。

「主人がいつも猫になるまで呑んでくるお店に興味がありまして、

実は娘の記念写真を見て是非ここへきてみたいと思ったのです。」

「この間主人があれほど人に見せるのを嫌がっていた猫又(半人半猫)で娘と一緒に

帰宅したのを見て正直羨ましかったです。」

銀はふと疑問に思って一枼に、

「御主人は家では晩酌とかされないのですか。」

「私、お酒が全く飲めないものでどうやら遠慮している様なのです。」

「では私が奥様のために一肌脱いで協力しましょう。」

 

「みやちゃん、さあ、呑みに行こう。」

事務所が定時になる前から大和警部補が雅の隣の空き机で待っていた。

大和警部補はこれから何が起こるかも知らず、

雅をお供に魔窟居酒屋銀猫に向かっていた。

格子戸をあけると「いらっしゃいませ。」元気な猫又ハーフの娘たちの声がした。

続いて「いらっしゃいませ。」と落ち着いた声で白猫銀が挨拶した。

店内は結構混んでいたが、銀は大和警部補と雅を座敷に案内した。

しばらくは2人だけで飲んでいた、だがいつの間にか銀が座敷に上がっていた、

「聞きましたよ、大和さん、家では晩酌とかされないそうですね。」

「カミさんは酒が飲めないのにつきあわせるのは可愛そうだからなあ。」

「まあ、お優しいですわね。」

「でもお酌することにも意味があるのだから奥様が飲まなくてもいいと思いますよ。」

「そこで、スペシャルゲスト大和一葉さん、どうぞ。」

襖が開いて一葉が座敷に入って、龍之介の隣に座った。

「ぎ、銀さんこれは、」

「たまには、いいえ初めてではないですか奥様のお酌は。」

「では旦那様どうぞ、」

妻一葉のお酌に耳まで真っ赤になって照れる大和警部補。

心なしか緊張してお猪口を持つ手が震えている様であった。

緊張しながらもお酌をする一葉。

「ありがとう。」

かなり緊張してお酌を受ける大和警部補。

雅が小声で銀に、

「これってかなりの羞恥プレイですよ。」

緊張しながらお酒を飲み干す大和警部補。

こんなことを数回繰り返していると

「ぶっ、」

雅は思わず失礼とは思いながらも耐え切れず吹いてしまった。

「どうしたんだ、みやちゃんなんか嫌な予感がするぞ。」

「やっさん、やっさん、耳が、耳が、」

「えっ」

大和警部補は雅の様子がおかしいので気になって頭に手をやって、固まってしまった。

そこには有るはずのない猫耳が生えていたのである。

「キャッ、旦那様、とっても素敵。」

大和警部補に妻の一葉が抱き着いてきたのである。

喜びのあまりはしゃぎ回る普段見られないような妻の姿に、

恥かしいやら、照れ臭いやれ、うれしいやら、と複雑な思いの気の毒な大和警部補に

掛ける言葉が見当たらない雅だった。

大和警部補はそのままの姿で腕に妻の一葉が思いっきり抱き着いている状態で帰宅

する羽目になったのであった。

「実は、おくさまも旦那様の逞しい猫又姿をじっくり見てみたいとおっしゃられる

からついリクエストにお応えしたんですよ。」

悪びれずに銀は言った。

 

47、美猫まっしぐら

 

逆神妖子と大和撫子は友人として付き合い始めて一か月が過ぎようとしていたが

未だにお互いの認識のずれに気づいて居なかった。

別に認識にずれがあっても全く問題があるわけではないのでそのままに

なっていたのである。

お互い美猫が大好きで美猫の友人でもあるため美猫の話題で盛り上がっていることが

殆どだった。

「美猫さんのスレンダーな綺麗な体形がとても羨ましいです。」

「実は「ゴメンネ!」吸血鬼事件の時私の制服を貸したのですが本当に綺麗に

着こなしていらっしゃいました。」

「制服のボタン、ファスナーどこも破綻せずに綺麗なラインが出ていて羨ましかったです。」

本人はそのスレンダーな体形、特に胸のあたりが寂しいことを気にしているのだが。

「それも美猫さんあれだけ健啖なのに全然体形が変わらないなんて羨ましいです。」

「あの見事なくらい豪快な食べっぷりを見ているだけで幸せな気分になれますね。」

「雅さんの手料理も見事ですよね、健康を考えて栄養バランスやカロリー計算をして

美猫さんの朝昼晩の食事を作られるのですから。」

「雅さんは美猫さんの服を全て選んでいるそうだし、洗濯や裁縫も得意でボタン付けなど

もされていて、美猫さんの服のボタンがとれかかっていたりとか、服の裾が解れていた

りとかしないように気を配っているし。」

「とてもまめな方でいらっしゃるわ、

私も良妻賢母の鏡として見習わなければなりませんわ。」

「ところで異性として、恋愛の対象として雅さんのことをみたことがありますか。」

ここで初めて妖子の本音がでたのであるが撫子との違いが出るのである。

「お父さんは雅さんのような娘婿が欲しいというのですが私の理想の男性はあくまで

お父さん本人ですからそういうことを言われると困ってしまいます。」

「では撫子さんは雅さんを恋愛の対象とみてないのですね。」

「そうですね、尊敬の対象であって、恋愛の対象ではないですね。」

「私は雅さんに憧れています、まだ私自身は恋愛の対象としてか

どうかはわからないのですが。」

妖子はまだ美猫と奪い合ってまで雅を所有したいとは思っていないのである。

2人が熱く美猫について語り合っているところへ、

「お姉さんも混ぜてくれない、私も美猫が大好きだから。」

銀だった、2人の美猫愛にうずうずしていたようである。

「銀さんは雅さんのことを恋愛の対象と見做していますか。」

撫子はど直球を思い切り投げてしまった。

銀は真っ赤になって照れながらも、ここは大人の余裕を見せようと、

「私は誰よりも雅さんを愛していますよ。」

銀もど直球で返してきた。

「ただ、美猫がもっと大人になって雅さんを愛していると行動で示したら

少し考え直しますけどね。」

「美猫さんは雅さんのことが好きなのですか。」

撫子は驚いて銀に聞いた。

「今の美猫はまだ子供で恋愛というものを深く考えていないでしょう。」

「ただ漠然と雅さんが好きと言っているだけで実際には

ただ雅さんに甘えているだけでしょう。」

銀は今の美猫をバッサリだった。

「妖子ちゃんは美猫に遠慮なんかいらないから、堂々と勝負した方がいいわよ、

今の女子力で比較したら全ての面で圧倒しているのだから自信を持った方がいいわ。」

「私なんか美猫さんに及びも尽きませんよ、今のままで充分美猫さんは可愛いですから。」

暗い過去もあり美猫に引け目を感じ、あくまで謙虚な妖子だった。

「確かに美猫は可愛いけど、現在の女子力ははっきり言ってゼロよ。」

「撫子ちゃんは雅さんを恋愛の対象として見てないのはある意味正解かもしれないわ。」

「今だって、恋敵が沢山いて競争率も高いし、これから新規参入するのは難しいわよ。」

「では、私は美猫さんの恋が成就するよう応援致しますわ。」

「撫子ちゃん、美猫を甘やかしたら駄目よ、もっと本人の自覚と自立が必要なんだから。」

「今の美猫では恋の成就は覚束無いし、その前に私が立ちはだかっているわけだし。」

「それ以前に雅さんは難攻不落の唐変木の朴念仁だし、余程努力して気持ちを伝えない

と恋愛の対象として見て貰えないわけだしね。」

「今の所雅さんに恋愛の対象の異性と見做されているのは誰もいないわけだし、

当の雅さんから見た美猫は保護すべき対象でまるで自分の娘みたいに思っている節が

あるぐらいで、愛情自体は深いけど方向が斜め上ね。」

「また、雅さん誰にでも優しいから、優しくされた女の子はみんなかなり深く好意を

持つから恋敵が多いわけだけど、一応美猫は方向が違うけど一番愛されているみたいなの。」

「大体一つ屋根の下に一緒に若い年頃の男女が半年以上同居していて何もない

プラトニックな関係って何かおかしいと思うわ。」

途中から銀の本音が出ているのだが天然ものの2人は気づいて居ないようだった。

「美猫は確かに可愛いけどそれは同性から見ての話しで、はっきり言ってあの子には

色気が無いわ、最近やっと貧乳を気にしているようだけど、今のあの子はたとえ

巨乳になっても雅さんに異性として意識してもらえる可能性はないわ。」

「雅さんのことだから下着を新しく買い替えるぐらいじゃないかしら。」

「大体雅さんは私の17歳バージョンしかもスリーサイズは今と一緒で迫っても冷静に

紳士的でいつもと同じように接していたのよ、信じられる、私女としての自信無くしそう

だったわ。」

かなり、銀は愚痴のような本音を暴露し暴走し始めたが天然2人はあくまで静聴していた。

「そうだ、私、美猫巨乳バージョンに変化して雅さんに迫ってみましょう。」

「もし押し倒されたら正体を明かして責任を取って貰えば良いのだから。」

「いいアイデアだわ、早速実行しましょう。」

 

5分が経過して、2人の前に美猫巨乳バージョンに変化した銀が現れた。

「なんかとってつけたような不自然な感じの美猫さんです。」

「美猫さんのスレンダーな美しさがなんか下品になった感じです。」

「あら、お2人には不評のようね。」

「要はこれで雅さんをものにすればいいわけだから。」

「いや、無理だと思いますよ。」

「美猫さんかなり怒ると思います。」

「本人にばれなければ大丈夫よ。」

「絶対、ばれると思います。」

「だって後ろに美猫さんが立っていますよ。」

「えっ、」

妖子と撫子は美猫巨乳バージョンに変化した銀の後ろを指差した。

「ぎ、銀ねぇ~ 一体何をするつもりだったんだ、あんたは。」

怒りで全身を震わせている美猫が般若の形相で立っていた。

 

48、侯爵渡来

 

英国の高位の真祖バンパイア、スレート大侯爵は実の息子の四方野井雅の成長した姿

を一目見たかった。

ただ、養父母に任せきりにして自分は今迄何もしていない引け目もあって、いまさら

堂々と面会を申し込んでも多分断られると思い、お忍びでやって来たのだった。

雅の養父母から現在の住所教えられたもののどうしたものかと悩んでいたがとりあえず

全ての魔力を遮蔽して普通の人間の振りをしてマンションの近くのベンチに腰掛けていた。

 

侯爵の足元に子猫がじゃれ付いてきた、キジコであった。

侯爵はキジコを膝の上に乗せ優しく撫でていた。

キジコは喉をゴロゴロと鳴らし甘えていた。

「キジコ知らないおじさんにじゃれ付いたらダメでしょう。」

叱られたキジコは侯爵の膝から降りて少女の足元にじゃれ付いた。

「これは大変失礼しました。」

「この子があまり可愛らしかったものでつい愛でてしまったのです。」

「私は四方野井雅の遠縁で四方野井瓦と言います、一目会いたくてここまで来たのです。」

「あたしは竜造寺美猫、みやちゃんのアシスタントなんだ。」

「みやちゃんなら大和警部補と一緒に官庁街の方で大きな仕事があるとかで夕方まで

戻らないんだ。」

「そうかそれは残念だなぁ。」

「瓦おじさん、時間つぶしに亜人街を案内するよ。」

「ここがカオスな品ぞろえが自慢の古着屋さん。」

侯爵は折角なので普通のおじさんらしい服を買い求め着替えてしまった。

黒のスーツは美猫に頼んで雅の部屋に預かってもらった。

美猫は侯爵を焼鳥屋に連れて行った。

偶然提灯屋の源さんに出会ったが侯爵を見るといきなり素面に戻ってしまった。

侯爵はお忍びだからいつものようにしてくれと頼んで酔っぱらってもらった。

「美猫ちゃんこちら様は。」

「みやちゃんの遠縁の瓦おじさん。」

源さんは美猫が侯爵を普通のおじさんと思って扱っているので脂汗が垂れて来ていた。

侯爵は美猫に勧められるまま焼鳥に舌鼓を打っていた。

さらに鶏肉丼を平らげていた。

腹ごなしに中央公園を二人で散歩していた。

「私は堅苦しいのが大嫌いでよく遠足とか集団行動で脱走するのが大好きなのだ。」

二人は公園でクレープを食べておしゃべりをしていた。

「もうすぐ居酒屋銀猫が開くからそこで待っていればみやちゃん必ず来るから。」

2人は居酒屋銀猫に移動した。

「まぁ、雅さんの遠縁の四方野井瓦さんですか、雅さんにはみんなお世話になっている

のですよ。」

銀は侯爵を手厚くもてなした。

 

雅と大和警部補は英国よりお忍びで重要な立場の高官が渡来しているので注意するよう

外務大臣から護衛と警備を臨機応変にするように依頼を受けていた。

その高官は政府からの護衛警備を一切拒否したそうでその立場からテロリストに

狙われる可能性があった。

 

散々クドクドと外務大臣の話を聞かされいい加減嫌気がさしていたので2人は居酒屋銀猫に直行した。

「みやちゃんにお客さんだよ、今座敷にいるよ、誰だかはまず会ってみてからだよ。」

雅が座敷の襖を開けるとフグの刺身に舌鼓を打っていた普通の格好のおじさんは

雅の姿を見ると涙を流し絶句した。

雅は一目で自分の本当の父親である侯爵であることを認識した。

涙を流す侯爵の側に座り両手を握って誰にも聞こえないように小さな声で、

「お父さん。」

侯爵は感激のあまり嗚咽した。

「薄情な父を許してくれるのか。」

「真祖バンパイアが全ての魔力を遮蔽して普通のおじさんの格好で僕のためだけに

会いに来てくれたら許すも許さないもないです、その気持ちがとても嬉しいです。」

「お父さんは僕のためのいろいろとお骨折り下されたことは養母から聞いています。」

「せっかくお忍びで来たのだからこのままお芝居を続けましょう。」

「では私のことは瓦おじさんと呼んでくれ。」

「ネコ、感動の対面は終わったからみんなを呼んでフグちりを食べよう。」

 

雅の親戚が遠くから訪ねてきたとあって、みんな興味津々であった。

座敷には銀、大和警部補、美猫が入ってきた。

「今日は外務省から大きな仕事の依頼があってみやちゃんを連れて行ったから、

瓦さんとの感動の対面が遅くなってしまって本当に申し訳ない。」

大和警部補は護衛対象の侯爵とは知らずにお詫びをしていた。

「外務省とは穏やかではありませんなあ、では重要なお仕事だったのではありませんか。」

侯爵は自分のこととは気が付かずに答えていた。

「瓦さんだから打ち分けますが外務大臣直々に依頼がありまして、」

「ほう、それは大変な依頼ですなあ。」

「英国のある高官がお忍びで来ているらしいんです。」

「外務大臣からクドクドと護衛と警護を依頼されまして。」

「あれ、瓦さんどうしました。」

「いやなんでもないです。」

「雅君とちょっと話が。」

侯爵は雅と部屋の隅で周りに聞こえないように、

「もしかして、その高官って私のことかな。」

「もしかしなくてもお父さんのことです。」

「おかしいなぁ、ばれない筈だったのになぁ。」

「いや、絶対ばれますよ。」

「でも、ここにいる限りは僕がお父さんを守りますからご安心下さい。」

「おや、何をこそこそ話しているのですか。」

こういうことにはとても鋭い銀が首を突っ込んできた。

「いや、今晩の宴会の費用を瓦おじさんが半分持つっていうからご遠慮願ったんですよ。」

「そういうことならお姉さんに任せなさい。」

「遥々遠方から雅さんを訪ねてくる親戚なんてめったにいないんだから全部私が奢ります。」

「いや、銀さんそれじゃ、」

「いいの、私の奢り決定ね。」

「は~い、今日は私の奢りですからじゃんじゃん飲んでじゃんじゃん食べて。」

銀は勘がいいのか、侯爵に手厚く接待をしていた。

「瓦さんおひとつどうぞ。」

「いや、申し訳ない。」

「いいえ、いつも雅さんにみんなお世話になっていますから。」

「瓦さん、お酒がとても強いのですね、雅さんとよく似ていますね。」

侯爵は銀の勘の鋭さにいつ正体がばれるかと内心冷や冷やしていた。

突然襖が開いて提灯屋の源さんがあらわれたが、

侯爵の姿を見ると素面に戻り帰りそうになった。

侯爵は源さんを必死になって止めて、

「ここで素面になって帰られたら怪しまれるから頼むからいつものようにしてくれ。」

源さんは渋々酔っぱらって座敷に入って来たがなんか様子が変だった。

酔ってはいるものの何か変な汗をかいていた。

「さあ、最後は仕上げのフグ雑炊ですよ。」

銀は点数を稼ぐ様にみんなに給仕していた。

宴会はお開きになり、みんなそれぞれの家路についた。

侯爵は雅の部屋に泊まることになり居間のソファーに雅と向かい合うように寝た。

寝室のベッドを美猫が遠方からのお客様だからと侯爵に譲ろうとしたが紳士として

淑女に迷惑を掛けるわけにはいかないと言って丁寧に申し出を断った。

キジコが侯爵にくっついて離れなかったので一緒に寝ることになった。

「雅、楽しそうだな。」

「はい、人生を謳歌しています。」

「ただ、この国の歪みの根の深さはかなりのもので、お父さんの力が無かったら、

今のような生活は無かったです。」

「今回はお前の顔を一目見るだけで満足するつもりだったが、

このようにおまえと語り合えるなんて望外の幸せだ。」

「私はダメな父親でお前の母さんに先立たたれ途方に暮れていた。」

「私は自分のことですら何もできない駄目な男で

母さんの妹さん夫婦が全部やってくれた。」

「当然お前を育てるのも母さんの妹さん夫婦が引き受けてくれて、

お前をここまで立派に育ててくれた。」

「魔力など何の役にも立たない。」

「今のお前は、魔力なしで自活できている、これも母さんの妹さん夫婦のおかげだ。」

「ところで、お前の本命はどっちだ。」

「えっ、なんのことでしょうか。」

「銀さんと美猫ちゃんの二人とみたが。」

「いぇ、まだ僕はそういうことに鈍くて。」

「そうか、美猫ちゃんだって、いつまでも子供でいるわけではないのだから。」

「美猫ちゃんはいい娘さんだと思うぞ。」

「まぁ、急いては事をし損じるともいうからなぁ。」

 

侯爵の朝は早い、雅とキジコを起こさぬように黒のス-ツに着替えて

置手紙をして、空港へ向かい朝1番の飛行機で英国へ帰った。

雅は侯爵がいないのでちょっと慌てたがテーブルの上の置手紙に気付き開いてみると

 

雅、

楽しかった、

また来る。 

父より

非常に簡単な内容の手紙だった。

 

「なんかとっても人騒がせな人だったなぁ。」

雅が感慨に耽っていると膝の上にキジコが乗ってきた。

人差し指を唇に当てて、

「昨夜の話は内緒だよ」

キジコはみゃーと返事をした。

 

49、無責任侯爵

 

英国の高位の真祖バンパイアスレート大侯爵の1泊2日の無断大冒険の影響は大きかった。

配下の高位の真祖バンパイアガード伯爵は国内に戒厳令を出すことまで考えていた。

ガード伯爵は黒魔術使いのデミバンパイアの撲滅の責任者で常に黒衣のデミバンパイア

に命を狙われていた。

特に上司のスレート大侯爵の身に何かあればただでは済まないのであった

「侯爵様2日間一体どこで何をしていらしたのですか。」

ガード伯爵は侯爵に厳しく回答を迫った。

「内緒。」

侯爵は簡潔に呟いた。

「侯爵様はご自分のお立場をもっと自覚なさるべきだ。」

「侯爵様、魔力を遮蔽するなど言語道断です。」

「魔力を遮蔽しても、高位のデミバンパイア、高位のライカンスロープには

侯爵様の正体はばれてしまいますよ。」

「魔力を遮蔽している時に不意打ちを受けたらどうするつもりですか。」

「もし侯爵様の身に何かあったら女王陛下に会わせる顔がありません。」

伯爵は手厳しかった。

矢継ぎ早の小言に侯爵は正直うんざりだった。

「伯爵、でも私の行き先はちゃんと把握していて某国の外務大臣にかなり強硬に

護衛と警護を頼み込んだみたいだね。」

侯爵は伯爵の手配りの良さを皮肉っぽく言った。

「そこまでわかっていらっしゃるなら少しはご自愛ください。」

伯爵に皮肉は通じなかった。

 

侯爵は1週間大人しくしていた。

しかし、そぞろ悪戯心が疼き出してまた雅の下に遊びに行くことにした。

 

翌日伯爵が書類の決裁のため侯爵の執務室に行くと侯爵は不在で机の上に手紙があった。

嫌な予感がして手紙を開くと

 

ガード伯爵、

後は頼んだ、

出かけてくる。

スレート大侯爵より

非常に簡単な手紙だった。

 

伯爵はホットラインで某国の外務大臣に例によって、強硬な申し入れをした。

 

「源三ちゃん、源三ちゃん起きてくれないかな。」

提灯屋の源さんはどこかで見たような人に起こされた。

源さんの目が覚めてくるとそれは普通のおじさんの格好をした侯爵だった。

「ひゃぁ~ 。」

と源さんは飛び起き土間に土下座した。

侯爵は源さんを畳に上げて優しく囁いた。

「来ちゃった。」

「ひ~。」

ほとんど逃げ腰の源さんに逃げないでどうか協力して欲しいと頭を下げた。

「そんな勿体無いことはやめてくだせい、あっしはただの歳を取った化け狸でごぜえます。」

実は源さんはこの腰の低い真祖バンパイアとは古馴染であった。

源さんは魔力を遮蔽している侯爵の正体に酔っぱらって気が付かず意気投合して

家に泊めて、翌日酔いが冷めて、侯爵の正体に気付いて仰天したのであった。

「源三ちゃん実は私が四方野井雅の父親なのだ。」

「みやちゃんのお父さんなんですか、なるほど道理で合点がいきます。」

珍しく腰の低い真祖バンパイアの子息がこれまた

珍しく腰に低いバンパイアハーフだったとは。

「なるほど遺伝か」

源さんは小声で呟いた。

「わかりました、この源三狸におまかせくだせえ。」

 

当然の様に雅と大和警部補はまた英国よりお忍びで重要な立場の高官が

渡来しているので注意するよう外務大臣から護衛と警備を臨機応変にする

ように依頼を受けていた。

 

「一体何者なんだろう。」

「そんな重要な国賓クラスの高官が度々お忍びで渡来してくるなんて。」

大和警部補は不思議そうに言った。

雅は苦笑しながらもあの人騒がせな実の父親に会うのが楽しみだった。

 

源さんと合流した侯爵は源さんの幻術で酔っぱらった普通のおじさんに

化けていた。

居酒屋銀猫の開店時間まで亜人街を遊び歩いていた。

居酒屋銀猫に2人が近づくと侯爵目掛けてキジコが走って来た。

侯爵はキジコを抱き上げると

「良い子にしていたか、愛い奴、愛い奴。」

と優しく撫でて可愛がった。

「瓦おじさん。」

美猫が手を振りながらやって来た。

「また、みやちゃんに会いに来てくれたんですか。」

「やあ、美猫ちゃん、こんにちは。1週間ぶりのお無沙汰だね。」

侯爵は美猫がすっかり気に入ってしまい、雅の将来の嫁候補暫定1位に入れていた。

「源さんとすっかり仲良しですね。」

「実は今日また会ってすっかり意気投合して亜人街を飲み歩いていたのだ。」

「いやーここに来ると嫌なことが皆何処かに行ってすっきりしていい気分なのだ。」

 

「あら、瓦さんまた雅さんに会いにいらしたんですか。」

「せっかくですからお店に上がって一緒に雅さんの帰りを待ちましょう。」

卒の無い銀は侯爵を店に招きいれた。

「おひぃさんや、瓦さんの正体に気付いておるじゃろう。」

源さんは銀の様子が怪しいのでかまをかけてみた。

「あら、なんのことかわかりませんわ。」

いつもなら源さんが都合の悪いことを口走ると強引に口を封じる銀だったが

珍しく何もせずにあくまでしらを切り続けていた。

 

雅と大和警部補が居酒屋銀猫につくと座敷では侯爵を囲んで源さん、銀、美猫が

手厚くもてなしていた。

「瓦おじさん、いらっしゃい。」

満面の笑みで雅は侯爵に挨拶した。

「瓦さん、こんばんは。」

「すっかり、ここのメンバに溶け込んでいますね。」

大和警部補も数少ない雅の親戚でこの人懐っこい人物に好意をもって接していた。

「瓦さんおひとつどうぞ。」

銀は侯爵にお酌をして、

「お刺身何がいいですか私がとりましょう。」

銀は侯爵のかゆい所に手が届くように献身的に尽くした。

銀のこのような努力もあってか、侯爵は雅の将来の嫁候補暫定2位に入れていた。

そこへ妖子がチキンライス玉葱抜きを持って入って来た。

「はい、美猫さんどうぞ。」

「おや、美猫ちゃんそれ美味しそうだね。」

侯爵がチキンライス玉葱抜きに興味を示した。

「妖子ちゃん、瓦さんにも作ってあげてくれる。」

銀は直ぐに反応した。

「妖子ちゃん紹介が遅れたけど僕の遠縁の瓦おじさん。」

雅は妖子に侯爵を紹介した。

「私は雅の遠縁で四方野井瓦と言いますよろしくお願いします。」

妖子は侯爵の正体に気付いたが同じライカンスロープの源さんのアイコンタクトで

気付かぬ振りをした。

聡い妖子は調理場に戻って身近な真祖バンパイアは雅の父親の爵位の真祖バンパイア

しかいないことから雅の父親が訳あってお忍びで息子に会いに来ているのだということ

が分り、雅のオリジナルのチキンライス玉葱抜きを作ってもてなそうと調理に気合を

入れた。

妖子は雅のオリジナルのチキンライス玉葱抜きを持って侯爵のもとに給仕した。

侯爵は一口食べるとなぜか懐かしい味がして、ひとこと、

「うまい、うますぎる。」

そしてワシワシとじっくりと味わいながら食べ終えるとおもわず、

「おかわり。」

と言ってしまい、言った後で妖子に謝りそんなお手間を取らせるようなこと

言って済まないと謝った。

妖子はお気になさらず何杯でもお代わりして大丈夫ですよと言って、調理場に戻った。

侯爵は妖子のことも気に入り雅の将来の嫁候補暫定3位に入れていた。

 

鋭い銀は四方野井瓦の正体が雅の父親の爵位の真祖バンパイアであることに

初見で気づいていた。

ただ本人が正体を隠していること、空気の読めない源さんが前回おかしな行動を取った

のに今回はあくまで四方野井瓦の正体に気付かぬ振りをしていることから2人の間に

何か話し合いがあったと読んで、自分も気づかぬ振りをしながら、自分を雅の父親に

売り込んでおこうという魂胆であった。

 

四方野井瓦の正体に気付いている高位のライカンスロープは源さん、銀、妖子だった。

同じ高位のライカンスロープでも気づいて居ないのは大和警部補だけだった。

この差は微妙な物だったが化け狸、化け狐と猫又のスペック上の差で猫又の場合年齢と

経験が必要であった。

 

さて、今回の宴は侯爵がチキンライス玉葱抜きを気に入り3杯お代わりしたところで

お開きになった。

前回同様雅の部屋に侯爵は泊まることになり、美猫が寝室に入り就寝した頃を見計らって

親子水入らずの会話を楽しむことにした。

 

「父さん今度は朝早くこっそり一人で帰るような水臭い事は止めて下さいね。」

「大丈夫、今回は当分帰らない予定だから。」

「えぇっ。」

「私の部下は優秀だから私がいなくても何とかしてくれるだろうし。」

「いいんですか、そんな無責任でも。」

「英国大使館から母さんの妹さん夫婦に問い合わせが行って最悪ここが

突き止められても大丈夫なように秘密基地を準備したから。」

「それって、提灯屋の源さんの所でしょう。」

「あれ、そんなに簡単に分っちゃった。」

「前回脂汗かいて顔色が悪かった源さんが打って変わってお父さんとがっちり

スクラムを組んでいるから、どう考えても怪しいと思うでしょう。」

「何時からそんなに仲良くなったんですか。」

「実は、源三ちゃんとは昔馴染みで私の正体がばれてから一寸避けられるように

なっちゃったのだけど、今朝、源三ちゃんに全てを打ち明けて力を貸してもらうことに

なったのだ。」

「でも、やっぱり僕は父さんの息子だなと思いましたよ。」

「父さん、妖子ちゃんのチキンライス玉葱抜きを気に入って3杯もお代わりして、

そんなにあの味が気に入りました、そのあとお代わりするたびに妖子ちゃんに

何度も頭を下げてこんなに腰の低い真祖バンパイアは初めて見ました。」

「僕もこんなに腰の低いバンパイアハーフはいないって言われますが

僕の場合バンパイアハーフだと判明して半年で人間生活が長かったから

腰が低いものだと思っていましたが実は父さん似なんですね。」

「いやおまえの几帳面な所は母さん似だと思うぞ。」

「美猫ちゃんに聞いたがお前炊事洗濯家事を何でも熟す上、美猫ちゃんの服を全て

選んでいるそうだし、美猫ちゃんの服のボタンがとれかかっていたりとか、

服の裾が解れていたりとかしないように気を配っているそうじゃないか。」

「お前、いつでもお嫁に行けるぞ。」

「嫁で思いだしたがお前の嫁さん候補に妖子ちゃんを加えようと思うがどうかな。」

「そんなにチキンライス玉葱抜きお気に召しましたか。」

「あの料理のレシピは元々僕が作ったのですよ。」

「お前、あれは母さんの得意料理だぞ、味も見事に再現されていたぞ。」

「それじゃ、僕は母さんの得意料理を知らず知らずに再現してたなんて。」

「それじゃさっそく明日の朝飯はあれな。」

キジコは侯爵のことが余程気に入ったらしく侯爵の枕の上で眠っていた。

 

翌朝朝食はチキンライス玉葱抜きだった。

美猫も侯爵も朝から2杯平らげ、朝からご機嫌だった。

外務省からの依頼は侯爵の護衛なので雅は事務所を休んで自宅で侯爵と過ごすだけで

任務を果たしていることになるのであった。

自宅に籠って居るのも何なので雅は侯爵と美猫とキジコを連れて散歩に行くことにした。

3人と1匹は中央公園をぶらぶらしていた。

 

「おーい、みやちゃん。」

遠くの方から大和警部補がやって来た。

「どうかしました。」

「英国からまた別の高官が渡来してそっちの警護と護衛が必要だって。」

「今度はしかも本人が外務省に来ているそうだ。」

「ガード伯爵といって黒魔術使いのデミバンパイアの撲滅の責任者だそうだ。」

「げぇっ。」

「どうしました、瓦さん顔色が悪いですよ。」

 

「手緩い!」

ガード伯爵は外務大臣を罵倒した。

電話でエカチェリーナ・キャラダイン少佐ことエリカを呼び出した。

「少佐、事情は察してくれるな。」

「大侯爵閣下をなるべく穏便に連れ戻してくれ、頼むぞ。」

「大侯爵閣下の実子がこの国にいるそうだ、多分そこにいるはずだ。」

エリカは内心困ったことになったなと思っていた

大侯爵閣下の実子とは四方野井雅のことで自分が親子水入らずの所に

土足で入るような真似をしたくなかった。

エリカは美猫に雅の親類縁者を名乗るものが現れていないか確認の電話を入れた。

美猫の返事は雅の遠縁の四方野井瓦さんが訪ねてきているとのことだった。

エリカは雅の下に行って、本人と接触して何とか説得を試みることにした。

 

雅は挙動不審の侯爵と2人きりで無条件降伏するべきか、

少しは抵抗すべきか検討していた。

「お父さん、優秀な部下が実力行使に出ることはもちろん想定内ですよね。」

「いやぁ、残念ながら想定外だ、自分の職務を放棄してまで私の身柄の確保を

優先するなんて、流石はガード伯爵だ。」

「どうするつもりですか、この期に及んで源さんに迷惑を掛けられませんよ。」

「お父さん、大人しく戻った方がいいですよ、外務省には僕も一緒に行って

ガード伯爵に頭を下げますから、それで何とか許してもらいましょう。」

「すまん、雅、私にも譲れない意地と言う物が有るのだ。」

侯爵は真祖バンパイアの能力全開で姿を消した。

エリカが美猫、大和警部補、キジコと一緒に雅の所にやって来た。

エリカは雅だけに聞こえるように

「大侯爵閣下の身柄を穏便に確保するために来た、協力して欲しい。」

雅は首を縦に振るしかなかった。

美猫と大和警部補とキジコを雅の自宅に残してエリカと提灯屋の源さんの工房へ向かった

源さんの工房には誰もいなかった。

「これは厄介なことになったな、あくまで徹底抗戦のようだ。」

「真祖バンパイアの魔力遮蔽に源さんの幻術を使われると見つけようがない。」

 

ふと雅はキジコのことを思い出し自宅に戻りキジコに優しく話し掛けた。

「キジコちゃんの大好きな瓦おじさんはどこにいるかわかるかい。」

キジコは居酒屋銀猫に向かって走り出しいつもの座敷に上がっていった。

雅は失敗かと思ったがあくまでキジコを信じてついて行った。

いた、侯爵と源さんが飲んだくれていた。

「お父さん、作戦失敗です直ぐに出頭してください。」

「キジコちゃんせっかく再会できたのにまた遊びに来るからね。」

みゃー、みゃー。

キジコは少し寂しそうに鳴いた。

「源さん本当に父が迷惑を掛けまして申し訳ございません。」

雅は源さんに丁寧にお詫びした。

「みやちゃん気にすることはないよ、こちとら昔馴染みと悪ふざけが出来て楽しかったよ。」

「お父さん、直ぐに外務省に出頭しましょう。」

「真祖の能力はもうだめですよ。」

雅は侯爵に念を押した。

流石に侯爵も諦めて雅とエリカに付き添われて外務省に出頭した。

 

「申し訳ございません、この度は父が大変ご迷惑を掛けて

父に代わって私がお詫び致します。」

雅は平身低頭でひたすらガード伯爵に謝っていた。

「いえ、頭を上げて下さい、あなたのお父上が悪いのであってあなたに責任はありません。」

ガード伯爵も雅の誠実な所に好感をもったのでこれ以上侯爵を責めずに済ますことにした。

「さて大侯爵閣下、私はこれで英国へ戻りますが閣下はどうなされますか。」

「どうなされますかって私に選択権などあるのかね。」

「それは閣下次第ですよ。」

「では、もう1日滞在してもいいかね。」

「閣下のお心のままに。」

ガード伯爵はこの無責任侯爵の操縦のコツを覚えたらしく満足そうに微笑んだ。

 

50、子猫物語

 

キジコは4匹の兄弟たちと共にこの世に生を受けた。

生まれてから3か月の間に他の兄弟は早逝したり、拾われたり、いつの間にか

母猫と2匹になった、その母猫が急に居なくなって、一人ぼっちで生きて

いかなければならなかった。

親切な人間が拾ってくださいと書いてある段ボール箱をキジコに用意してくれた。

キジコは感のいい子だった。

貧相な人の好さそうな、いかにも猫を家族の一員に迎えてくれそうな人間を見つけた。

猫族の臭いがする、多分優しい人だと思った。

目があったがすぐ逸らすのはねこ族の習性を理解しているようだ。

キジコは直ぐに行動した。

その人の後について行った。

立ち止まるたびその人の足に匂い付けをしたり、足の上に乗ってみたり精一杯自分の

存在をアピールして、その人の気を引いてみた。

やがてその人の家の前についた。

その人は何か難しいことを言っているようだけど何が問題なのかはまだわからなかった。

いきなり抱きあげられ吃驚したが、同じ猫族の猫又の人だった。

猫又の人はキジコにとても優しく母猫と別れて以来の暖かい温もりだった。

お互い猫族の挨拶をして仲良しになった。

猫又の人は美猫という名前でまだ名前の無かった私にキジコという名前をつけてくれた。

美猫は食事の用意、トイレの使い方、爪とぎの場所などここで一緒に住んでいくために

必要なことを全て教えてくれた。

キジコをお風呂に入れてくれたり、ブラシを掛けてくれたりしてくれて

毛皮がふさふさで綺麗になった。

このうちの主は雅と言ってキジコの体の調子をいつも心配してくれた。

予防注射は物凄く痛かったけど雅がキジコを優しく慰めてくれた。

人間の言葉難しかったが美猫がキジコにも分るように教えてくれた。

昼間一人ぼっちで留守番をさせるのは可愛そうだと居酒屋銀猫と言うところに

預けられ、猫又の人や狐の人と仲良くなった。

大きな猫又の人が人間についていろいろと教えてくれた。

キジコはみんなの役に立ちたいと思い大きな猫又の銀にどうしたらいいか聞いてみた。

銀はキジコはまだ子猫なんだから思い切り甘えてればいいと優しく言ってくれた。

キジコは自分に出来ることを考えた。

そうだ、近所の猫会議で何か役に立つかもしれない話を聞いてこようとキジコは決意した。

 


 
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