No.721346

快傑ネコシエーター9

五沙彌堂さん

41、聖人と呼ばれた者
42、大和撫子交遊録
43、チキンライス玉葱抜き
44、自動人形1号事件
45、美猫と子猫

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2014-09-24 10:58:48 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:601   閲覧ユーザー数:601

41、聖人と呼ばれた者

 

亜人街に最後の聖人と呼ばれる不思議な神父があらわれた。

強い神通力で医者の治療も受けられない薬も買えない貧しい亜人の心身の治療を

行い、救世主とまで呼ばれ、亜人たちの尊敬を集めた。

その名をシナコジン神父といい、突然姿を現し亜人街の外れの廃教会に住み着いた。

毎週決まった日に廃教会で神の教えを説き、信者の数を増やしていった。

 

塗仏の鉄は評判の聖人とやらの素顔見るため廃教会の集会の日に遠くから観察していた。

「へぇ、大した人気だね、俺には神の教えとやらはさっぱりわからないがなぁ。」

「ケッ、罪滅ぼしのつもりかい胸糞悪い、酔いが冷めちまった、飲み直しじゃ。」

いつの間にか隣で神父の様子を見ていた提灯屋の源さんが吐き捨てる様に言った。

「源さんどうんしたんだい、詳しく俺に話を聞かせてくれよ」

早足ですたすた歩く源さんの後を鉄は一生懸命ついて行った。

 

いつものご機嫌な源さんではなくかなり憤慨している様子で酒を煽りながら鉄に

昔話を始めた。

源さんが人間の支配する社会の理不尽さに腹を立て酒びたりになって50年は立って

いたころの話だった。

亜人社会を代表して亜人の待遇改善を求める運動の先頭に立っていた者がいた。

亜人維新と称し亜人だけの政府を作り現政府と対等の権利を勝ち取ろうと訴えた。

当然現政府にとって目の上の瘤であったが現行の法律の中で運動する限りは下手な

手出しは出来なかった。

現政府はありとあらゆる手段を用いて、運動を妨害し、運動員を別件逮捕で検挙した。

しかし過激な分子は過剰反応し人間社会に対して無差別テロで対抗した。

やがて穏健な指導者層と過激なテロリストに分裂し組織を守るため指導者層は過激な

考えを持つものを排除して現政府に売ってしまった。

亜人の過激な革命分子は見せしめとして処刑され、亜人維新の指導者たちは彼らを

犯罪者として除名した。

現政府と亜人維新の指導者たちの間で持ちつ持たれつの関係が出来、亜人維新は

亜人たちの支持を失い弱体化しいつの間にか消滅してしまった。

「そうその先頭に立っていたのがあそこにいたシナコジン神父と名乗っていた男だよ。」

「どの面下げて戻ってきやがったんだ、あいつの正体は年を取った

高位のライカンスロープで奴がやっている奇跡とやらはただの幻術さ、

死病が治ったわけじゃねえ、ただの暗示さ。」

「あいつが何を考えているかはわからねえがちゃんと裏を取った方がいいぞ。」

「いざとなったら、みやちゃんかやっさんに相談した方がいいじゃろう。」

 

「って源さんかなりおかんむりだったんで慎重に調べてみたらあの廃教会に入ったきり

出てこない行方不明者がかなりいる様で家族が追求しようにも周りにいる信者共が

神父様を疑うのかとすごい剣幕で攻められるんでどうにもならないそうなんだ。」

鉄は周りに気を遣いながら打ち明けた。

「その行方不明者の特徴とか共通する条件とか、」

「死病で余命幾ばくもないものだけならともかく若い女性も多数行方不明になっていて

全く足取りが負えないんだ。」

「その若い女性というのがかなり怪しいな、まさか生贄にでもしているのでは。」

「背後に黒魔術師のデミバンパイアがいるんじゃないか、廃教会はデミバンパイア

の寝床にふさわしいからな。」

雅と大和警部補は鉄の情報を分析しいざという時、魔力、幻術の類の影響を受けない

雅が潜入することになった。

大和警部補は美猫と共に魔術武器を持って待機した。

雅は貧相な容貌を活かして悩める苦学生に化けて潜入することにした。

丸腰で潜入するのは不安だと美猫が自分の聖別された銀の細身のナイフを雅に持たせた。

 

「悩める者よ、神の言葉を聞きなさい、神は・・・」

神父の説教が始まったがもともとノンポリで説教嫌いの雅は欠伸を一生懸命

かみ殺していた。

やがて、おかしなことが始まった、全く無抵抗で神父の言いなりにトランス状態の

信者たちのうち死病で余命幾ばくも無いもの達が空井戸の中に身を投げ入れ始めた。

「彼らはとても幸せです、今苦しみから解放され神の下へと旅立っていったのです。」

その時大声で

「それは嘘だ、みんな騙されている目を覚ませ。」

エリカだった。

どうやら、滅殺機関も内偵していたようだった。

「そのものは悪魔に憑かれている、取り押さえるんだ。」

エリカは精一杯抵抗したが多勢に無勢、また催眠状態の一般人を殴り殺すわけにも

いかないのでとうとう捕まって荒縄で拘束されてしまった。

雅はこっそりとエリカの側にいき荒縄をナイフで切って自由にした。

「エリカ、しばらく捕まっているふりをしていてくれないか。」

「本当の首魁がお出ましになるまでの辛抱だ。」

神父は何も知らずに信者の若い女性を選び、

「神の身元に遣わす名誉なお役目を与える。」

催眠状態の女性はそのまま神父の前まで歩いて立ち止まった。

すると照明が消え、生臭い臭いがしてきた。

その時、照明弾が投げ込まれ炸裂して神父の前に黒衣のデミバンパイアの姿があった。

「みやちゃん。」

天窓を破って美猫が飛び込んで入って来た。

「日輪の十字架だよ。」

美猫から日輪の十字架を受け取ると神父の前の黒衣のデミバンパイアの胸を串刺しにした。

日輪の十字架の大日如来の梵字が眩しく閃き黒衣のデミバンパイアは指先から

塵に変わっていった。

滅殺機関の制圧部隊が強力な照明を携えて現れ、現状を把握した。

催眠状態の信者たちは直ぐにディプログラムが施され正気をとりもどした。

「雅、済まない、冷静な対応が出来ずに迷惑を掛けた。」

「いや、エリカが死病で余命幾ばくも無いもの達とはいえ

自殺を強要させるのを我慢できなかったのは人間として当然の感情だよ。」

「ネコありがとう、とても役に立ったよ。」

雅は美猫に聖別された銀の細身のナイフを返した。

「しまった、シナコジン神父がいないぞ。」

エリカが悔しそうに言った。

 

「今晩はシナコジン神父、これからどちらへ行かれますか。」

「君は何者だ。」

「警視庁保安局亜人対策課の大和と申します。」

「何の用だ私はこれから急病人の下に行かなければならないんだ。」

「あのご存知ですか、自らデミバンパイアの支配下にはいったライカンスロープは

どうなるか。」

「知らんよ、だからそこを通してくれ。」

「では、お教えいたします、斬首です。」

「えっ」

ザンッ、ゴトッ

大和警部補は魔剣でシナコジン神父の首を刎ねた。

素面の源さんが出てきて神父の死体を確認した。

「こいつが死んだことは隠しといたほうがいいだろう、ここで荼毘に付してやろう。」

「思えば、こいつも罪深い奴じゃ、亜人維新のときといい今回といい、善人面して

多くの人を欺き続けてきたんじゃからのう。」

 

最後の聖人は行方不明のまま、そのうち人々の記憶から忘れられた。

 

42、大和撫子交遊録

 

「実はお父さん、お願いがあります。」

大和撫子は改まって父親の前に正座して頭を下げて言った。

「猫又(半人半猫)になって下さい、お願いします。」

「またどうしてそんな恥ずかしいことお父さんに頼むのかな。」

大和龍之介も娘から改まって堂々と頼まれるととても断りにくかった。

「本日、殿方から恋文を直に手渡され、交際を申し込まれたのです。」

「なんだと、それはけしからん奴だ。」

「それで断りたいのです。」

「そこで私の理想の男性は猫又(半人半猫)のお父さんなので実際に理想の男性に

会わせれば諦めると思いまして。」

「わかった、喜んで猫又(半人半猫)になってやろうじゃないか。」

「ありがとうございます、お父さん。」

 

「で美猫さん、お父さんを連れて待ち合わせ場所に行ったら。」

「その殿方一目散に逃げてしまったのです。」

「失礼だと思いませんか。」

美猫は何と言ったらいいか思い浮かばず、

「そうだね、ははは、」

と笑って誤魔化すしかなかった。

大和撫子は一事が万事少しいやかなり感覚のずれた女の子であった。

 

さすがの銀も彼女に悪戯を仕掛けたり冗談を言ったりは絶対にしなかった。

むしろ彼女の希望を積極的に叶えようとさえ思っている位である。

彼女自身とても真面目で学校での人望も厚く誰一人悪口を言ったりする者は居なかった。

彼女の感覚がずれていると指摘するものは居なかった。

ずれていることのさえ気づいて居るものが学校には皆無で彼女が学校の正義だった。

彼女の言動にみんなが賛成してしまうというかそういう雰囲気が出来ていた。

彼女が理想とする古き良き良妻賢母が学校の校風そのものだった。

学校を上げて全校生徒が交代で献血するようになったのも彼女の発案であった。

当然のことながら彼女の貞操観念が学校の基準になるわけであるから、

処女率100%で羽目を外して遊んでいる女生徒は皆無である。

 

「さつきさん、後で少し時間を頂きたいのですが宜しいでしょうか。」

「今日は午後3時までだから、上がったら相談に乗るよ。ちょっと待っていてくれる。」

「ありがとうございます。」

さつきは、大好きな(血の味が)大和撫子からのお誘いなので内心大喜びであった。

「ごめん、待ったちょっと後片付けに手間取って遅れちゃったよ。」

「いいえ、私のわがままを聞いて頂けるだけでもありがたいです。」

「実は、美猫さんのことでお聞きしたいのですが、美猫さんに好きな殿方が

いらっしゃるのでしょうか、やはり同族の猫又の方が好みなのでしょうか。」

さつきは困ってしまった、多分雅のことが好きなのだろうと思うが本人に自覚

があるのかどうか、撫子相手に下手なことは言えないのである。

さつきは少し暈して言うことにした。

「たぶん、猫又、猫又ハーフだからって同族が好きとは限らないと思うよ、強いて

言うなら、亜人差別をしない人、亜人種別で差別をしない人が好みじゃないかな。」

「まあ、そうなのですか必ずしも同族が好きというわけではないのですね。」

「美猫ちゃんはどちらかといえば奥手で色気より食い気の方だと思うよ。」

「さつきさん、面白そうな話題ですね、私も混ぜて貰って良いですか。」

ちょうど通り掛かった妖子であった。

「さつきさん、こちらの方は、」

「逆神妖子ちゃん、私同様美猫ちゃんに助けてもらったのが縁で友達になったの。」

「妖子さん、初めまして私美猫さんの友達で大和龍之介の娘の大和撫子と申します。」

「撫子さん、初めまして。」

 

さつきは美猫の男性の好みというデリケートな危険な話題をなんとか回避できたので

ホッとしていたが、妖子と撫子という奇妙なコンビの誕生の瞬間に立ち会うことになる

とは思っても見なかった。

噛み合って居るようで噛み合って居ない微妙にずれている2人なのだがそのずれている

ことに本人たちは大真面目に気づいて居ないのであった。

まず妖子は撫子が猫又あるいは猫又ハーフだと思い込んでいた。

龍之介と撫子は血縁関係が無いことを説明しなかったのがいけなかったのだが、

さつきにしてみれば今更説明するまでもないと思ったのが間違いだった。

また撫子は妖子が高位のライカンスロープで化け狐であることに気がついておらず、

デミヒューマンあるいは猫又ハーフ位に思っているようであった。

これもさつきがきちんと説明しなかったのが間違いだった。

しかし微妙にずれていながらも意気投合している2人を見ているとまあいいかと思う

さつきであった。

「美猫さんはチキンライス玉葱抜きが大好物で物凄い拘りがあるのですよ。」

「長葱、玉葱は猫族にとって猛毒で食べられないから抜かないといけないのですね。」

「でも味付けはきちんと再現しないといけないわけですよ。」

「オムレツも半熟がいいかと言うとそうでもなかったり。」

「美猫さんの気まぐれをいかに予想して作るかが大事なのですよ。」

「では妖子さん、今度実際に調理場でチキンライス玉葱抜きの極意を教えてください。」

さつきは話題がチキンライス玉葱抜きで決着がついたことで安心した。

 

結局、さつきは美猫にそれとなく2人のずれの補正を頼んでおけば大丈夫だと思った。

撫子、妖子には亜人差別または亜人種別で差別をしないという大きな共通点があるので

後から事実が判明しても2人の友情に変化はないことは今までの付き合いからも明らか

だった。

 

43、チキンライス玉葱抜き

 

このメニューは元々にんにく、玉葱が嫌いな雅が作った料理だった。

バンパイアハーフとして覚醒する前からにんにく、玉葱が嫌いでただ抜いただけだと

味がいまいち美味しくなかったのでいろいろと調味料を工夫してにんにく玉葱抜き

シリーズとしてレシピを作っていったのであった。

美猫が転がり込んできた時、偶然作ったのがこのチキンライス玉葱抜きでよほど空腹

だったのか美猫にとって忘れない味になってしまった。

それから事あるごとにリクエストして作ってもらう大好物になった。

さらに料理好きというか料理マニアの妖子もこの料理を会得して美猫好みに作れるように

なったのである。

これは元々玉葱自体が猛毒で食べられない猫族にとって福音をもたらす料理であった、

銀と一緒に雅の部屋に一時居候していた猫又ハーフの娘たちもこの料理に魅了されいま

では居酒屋銀猫の定番賄い料理になっていた。

そして大和龍之介、撫子親子もこの料理にはまっていた。

大和龍之介は酔いつぶれて雅の部屋に泊まった翌朝、美猫と一緒にこの料理を食べて

気に入り、娘の撫子が妖子に教わって作れるようになったので大和家の食卓にも進出した。

雅家元、妖子師匠、撫子と受け継がれ、ただ美猫の舌を満足させるためだけに進化して

いった。

 

そしてついに大和撫子の作ったチキンライス玉葱抜きを美猫が試食することになった。

「美猫さんこれが私の作ったチキンライス玉葱抜きです。」

「まだ、お父さんにしか食べさせていないのですが

お父さんは美味しいって言ってくれました。」

「へへ、なんか緊張するなあ、あたしの好物をあたしのために作ってくれるってとても

嬉しいなあ。」

美猫はスプーンで一口分よそって頬張った。

「おいひい!」

美猫はパクパクと食べあっという間に完食した。

美猫は食べ終わって、撫子の手を握って言った。

「撫子ちゃんのチキンライス玉葱抜きとってもおいしかったよ、ありがとう。」

撫子は誉められたのが嬉しいのかはしゃぎ回って喜んでいた。

雅は照れ臭そうに、

「僕の好き嫌いがこんな大事になるとは夢にも思わなかったなあ。」

「雅さんの〇〇抜きシリーズのレシピはライカンスロープに

とってとても価値のあるものです。」

妖子は雅のレシピが亜人界の料理の福音のように誉めた。

さつきは小声でぼそりと、

「雅さんのお母さん化がまた一段と進んでしまうよ。」

「さあ今日は元祖家元、師匠、免許皆伝のオールスターキャストでチキンライス玉葱抜き

大会の開催ですよ、みんなじゃんじゃん作ってじゃんじゃん食べましょう。」

銀が無責任に変な大会をでっち上げ盛り上げていった。

 

居酒屋銀猫が洋食屋銀猫になっていた。

店に入るといきなりチキンライス玉葱抜きが出てお客さんは皆ワシワシと食べていた。

大抵の人が必ずお代わりをして2杯ぐらい多い人で3杯は食べていた。

皆、満腹になって満足して帰っていった。

当然店の客の回転が速いため、いつもの倍以上の客を捌いていた。

そのうち行列が出来て、評判店の名物料理のようになってしまった。

 

店の閉店時間になるころにはとんでもない数のお客さんを捌き切り、

売上がいつもの4倍以上あった。

流石に料理の材料も尽き、3人のシェフたちも疲労困憊であった。

銀は3人のシェフたちを労い薬膳料理で賄った。

「今日は本当にご苦労様、雅さん妖子ちゃん撫子ちゃん頑張ってくれてありがとう。」

「銀さんどうしてよりによって玉葱生産農家から苦情の来そうな企画を考えたんですか。」

雅は不思議な企画をでっち上げた理由を銀に訊ねてみた。

銀は愛おしげに視線を向けて優しく小さな声で本人に聞こえないように言った。

「座敷で寝ているあの子がどんなにみんなに愛されているか

自覚しているかどうか確認するためよ。」

みんなの視線の先にすやすやと気持ちよさそうに寝息を立てている美猫がいた。

 

44、自動人形1号事件

 

魔力と科学の融合を試みようとしている科学者というより錬金術師がいた。

腐敗しないゾンビというか完全に意思を持ったホムンクルスを作成しようと考えていた。

材料に新鮮な死体というより部品として腐敗する前に手に入れ合成していた。

対魔力を持ち、バンパイアやライカンスロープ以上の怪力を持つ人間型の生命体を作る

ことを目標としていた。

バンパイアハーフと同等のスペックが目標であった。

ただ普通の人間を部品に使ったのでは材料の耐久性に問題があり

実現には困難が立ち塞がっていた。

そこでバンパイアハーフの細胞を培養して素体を合成することを考えた。

さらに拒絶反応が起きない新生児の脳を組み込み、普通の赤ん坊に偽装して自動人形

1号は完成し孤児として養父母の下で育まれていった。

しかし、錬金術師は自動人形1号の完成を見届けた後、本来のスペックを発揮できるか

を確認することが出来なかった。

墓場荒し、死体損壊、殺人、傷害などの罪で裁かれ、無期懲役中に獄死した。

その錬金術師の恐ろしい研究記録は封印され、自動人形1号の行方も不明である。

のちにアバルーの収容所の叛乱で焼損したため、すべてが闇の中である。

この記録のコピーの一部分が滅殺機関の手で偶然発見されたが一切閲覧禁止である。

 

この事件の後バンパイアハーフの血統の管理確認が厳しくなり、政府の特別な承認が

無ければ行動の自由も制限され政府の管理下に置かれることになったのである。

 

四方野井雅の場合は両親がはっきりわかっている上、父親が英国で侯爵位を持ち

英国政府を通じて強い圧力をかけているため、自由に行動が出来るのであって、

普通のバンパイアハーフは国外に脱出して他国で国籍を持つのが普通でこのような

住みにくい国には居ないのである。

 

マルクス・エルメキウスはこの行動制限にかなり不満持っていた形跡があったが

自身の起こした事件は発作的、衝動的なもので直接は関係ないのであった。

 

エクスタミネーター、ネゴシエーターとして大変有効な亜人種別でありながら、

この自動人形1号事件の影響でこの国において大変暮らしづらくなり、他国への永住

を選ぶバンパイアハーフがほとんどを占め、皮肉にも国内におけるデミバンパイアの

跋扈など治安に大きな問題を抱えることになったのである。

 

45、美猫と子猫

 

みゃー、みゃー、子猫が鳴き声を上げて付いて来る。

生後3か月のキジトラの子猫だ。

雅は目があった瞬間ヤバいと思ったがやっぱりついて来てしまった。

中央公園を通ってマンションに向かう途中「拾ってください。」と書かれた

段ボール箱に彼女はいた。

うちには手の掛かる猫又ハーフを既に1匹飼っているので多頭飼いは難しい。

しかし、彼女は雅を飼い主に選んだらしく、ずっとついて来ている。

抱き上げたりしたら絶対離れなくなるのは目に見えているので敢えて気づかぬふりを

しているが立ち止まると足にスリスリしてくる、足に前足を掛けて抱っこして欲し

がったり、本人は飼ってもらうつもり満々である。

遂にマンションの前まで来てしまった。

マンションの前で子猫に家にはもう猫がいるから飼えないよと説得を試みてみたが

無駄だった。

「みやちゃん、子猫だあ、可愛い、可愛い、この子飼ってもいい。」

当の先住猫の美猫が受け入れてしまった。

子猫も美猫に猫族の挨拶をして懐いてしまっている。

雅の今までに苦労は全く無駄だった。

自分も抱っこして愛でてやればよかったと後悔した。

さてどうするか、雅は悩んでいると銀が後ろから肩をポンと叩いた。

「雅さん、可愛い子猫ちゃんですね、しかも雅さんの性格を見抜くところなんか美猫に

似て賢い子だわ、このまま家で飼ったらどうですか、昼間の留守の間は、私の所で面倒を

みますよ。」

「わかりました、この子は家で飼うことにします。」

「銀さん、昼間の留守の間この子の面倒はよろしくお願いします。」

「というわけだから、ネコが名前を付けて面倒を見ること。」

「じゃこの子の名前はキジコちゃんにします。」

さてキジコと名付けられた子猫を美猫が食事の世話、トイレや爪とぎのしつけをきちんとして、

まるで母親の様に愛情を注いで可愛がった。

キジコはとても賢く、しつけられたことはきちんと守り雅と美猫の子供の様に懐いていた。

猫又と猫はコミュニケーションがとれるので意思の疎通が可能だった。

キジコから見て美猫がママで雅がお母さんだった。

雅はキジコを獣医院へ連れて行き予防注射や健康診断を受けさせきちんと健康管理をした。

雅と美猫が事務所へ出勤するとキジコは居酒屋銀猫で銀と妖子、猫又ハーフの娘たちと

過ごすのであった。

キジコはこういう環境で育っているためか普通の猫以上に人語を解し

普通の猫以上の知能を身に着けてしまった。

さらに普通の人間の前では韜晦すらするようになってしまった。

人間でも大和撫子の様に猫にとてつもない愛情を示す人間にはきちんと対応する

賢さまで身に着けていた。

キジコ自身何か自分に出来ることをして雅や美猫を喜ばせたいのだが銀はまだ子猫の

うちは思い切り甘えなさいと言って、遊ぶことに専念させるのでその通りにしていた。

キジコはせめて近所の猫会議で聞き込んだ情報で役立ちそうな情報を美猫に報告していた。

キジコは猫会議で亜人街の南西部の寂れた廃鉱街でネズミの化けものに襲われて命を

落とした不運な老猫の話を聞き込んだので美猫に報告した。

美猫はブラウンジェンキンではないかと思い、塗仏の鉄に亜人街の南西部の寂れた

廃鉱街の調査を依頼した。

鉄はブラウンジェンキンの食事の痕跡を見つけ足跡から廃坑に

数匹のブラウンジェンキンと数体のゾンビ、数体のデミバンパイアの寝床を見つけた。

報告を受けた雅、大和警部補、美猫は魔術武器を装備して襲撃の準備をした。

鉄から入手した坑道の図面から立坑に照明弾を数十発炸裂させ坑道から追い出し出口で

待ち伏せして仕留めることにした。

坑道も1本を除いて爆破して道を塞ぎ他に逃げ道を残さないようにする作戦である。

爆破と同時に炎の中から出てきた黒衣のデミバンパイア達を雅は次々と魔剣で護符を

破壊して44口径改造自動拳銃で魔弾を胸に撃ちこんでいった。

黒衣のデミバンパイアは指先から塵に変わっていった。

最後に出てきた黒魔術師のデミバンパイア全身の護符を魔剣で切り裂き,額と胸に

44口径改造自動拳銃で魔弾を撃ちこみ完全に止めを刺すと指先から塵に変わっていった。

大和警部補は特注の中銃身の357マグナム用の魔弾でブラウンジェンキンを

矢継ぎ早に射殺した。

美猫は残り全てのブラウンジェンキンを魔剣で切り捨てた。

使役されていたゾンビは黒魔術師のデミバンパイアが滅びると同時に土に還った。

彼らは追いつめられ、廃屋よりも安全な廃坑に潜んでいたようだがブラウンジェンキン

のつまみ食いが元で全滅した。

不運な老猫もこれで浮かばれるというものである。

キジコの大手柄であった。

美猫はキジコの好物のクジラの尾の身の刺身をたらふく食べさせ功を労った。

満腹のキジコは子猫らしくマイペースで雅に甘えて膝の上で居眠りをはじめた。

 


 
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