……ホテル・ベイシティ。
その一室に俺達は案内されていた。
「…で、関係の無い一般人達は呼んだ覚えはありませんが?」
室内に入り彼女…神宮寺くえすは開口一番に言った。
本来呼ばれたのは俺とクラスメイトの天河だけなんだが、女性陣も着いて来た。
てかくえすよ。着いて来てほしくないなら正門前で追い払えば良かったんじゃないのか?
もっとも飛白さんと飛鈴ちゃんに関して言えばくえすと無関係ではないんだが…。
「所詮は末席ね。同じ鬼斬り役の姉様の事すら知らないなんて」
やや見下してる様な言い方で飛鈴ちゃんが反論する。
ただ、その態度か台詞のいずれか…あるいはその両方に対してか、くえすがピクッと反応する。
けど何かを言い返す前に飛白さんが自らの立場を明かす。
「初めまして『黄昏の月』。鬼斬り役序列
「各務森飛鈴よ」
「……へぇ。貴女方があの各務森家の……」
……何だかちょい険悪ムードだなぁ。
と、クイクイと服の裾を引っ張られる。
隣に座っていたアリサに小声で尋ねられる。
「ねぇ。鬼斬り役って何なの?」
あー……そこから説明せんといかんよなぁ。
俺と一緒に着いて来たメンバーで鬼斬り役の当人達を除いて知ってそうなのってすずかぐらいなもんだし。
「鬼斬り役っていうのは退魔師や妖怪ハンターの別の言い方だな。和風版
ま、那美さんや薫さんの実家である神咲家みたいに鬼斬り役と称されてはいないものの退魔師を生業とした家系も世の中には存在するが。
「ただ、アレだ。鬼斬り役って時の権力者の管理下に置かれてる立場だから悪い言い方をすれば、政府の狗とも見て取れるよな」
その分地位や金銭等、ある程度の見返りは約束されてるんだけど。
「…その言葉には反論出来ませんわね。もっとも、政府の管理下に置かれていようが、私にとってはどうでもいい事ですけど」
くえすは特に気にしてない様子で俺の言葉に割り込んでくる。
「…で、その鬼斬り役様が優人に一体何の用なのよ?」
九崎がジト目でくえすを睨みながら言う。
「大した事ではありませんわ胸の薄い一般人。未だに鬼斬り役として目覚めてもいない天河優人と、ドラキュラ伯爵、ブラドを倒した長谷川勇紀。私は貴方達2人の今後について確認したいだけですの」
だからその呼び方止めてあげろって。
九崎がブルブルと怒りで震えてるじゃんか。隣に座っている天河が必死に宥めているから辛うじて襲い掛かったりはしていないが、これ以上刺激したら暴れ出すのは時間の問題だろう。
「天河優人。貴方はどうしますの?」
「どうしますって言われても…」
「てかホントに彼が鬼斬り役の天河家の血を継いでるのか?」
俺は疑問に思った事を口にする。
世の中に『天河』なんていう苗字を持つ人は他にもいるだろうし、これで『間違ってました』じゃゴメンで済まん様な気が……。
そもそも彼からは何も感じないんだけどなぁ。
「それは間違いありませんわ。私は幼少の頃、野井原の地で幼かった頃の彼に会っています」
「へ?」
「もっとも、貴方は覚えていないんでしょうけど」
目が点になる天河。
そういや正門の時にそんなやり取りしてたね。
「未だ自分の中にある
「
天河がその単語に反応する。
天河家が鬼斬り役として備えている
「光渡し…」
飛白さんがボソリと呟く。
「光渡し?」
その単語を聞いた九崎は首を傾げる。
「対象に強化を施したり、能力の増幅を行ったりする天河家固有の能力…」
ゲームで例えたら完全な補助魔法だよなぁ。
ていうか俺だって身体強化やブースト系の魔法は使えるから光渡しと似た様な事は出来るし。
使用する力が魔力か霊力の違いって事だけだな。
「ふーん…つまり優人はその光渡しっていう
「自分の事と言っても実感こないなぁ…」
「てかさぁ…」
俺が口を開くと皆の視線が集まる。
「そこの天河が鬼斬り役の天河なら『護り刀』は?」
天河家は時の権力者に背いてまで、妖の討伐よりも、慈悲を与え、従わせてた筈。
その時の盟約だか何だかで天河家の当主を己が身体を張ってでも護り抜く妖がいる筈なんだが。
俺が尋ねてみたら天河を除く鬼斬り役の面々の表情が変わる。
「そういや、あの駄猫いないわね」
「おそらく己自身を高めるためにまだ野井原の地に留まっているのでしょう」
「天河優人の持ってる御守りの効果がまだ持続してるから焦って来る必要は無いのでしょうね。それでも護るべき対象の側にいないというのは『護り刀』としてどうかと思いますが」
言いたい放題だな。
俺は天河家に行った事無いからその『護り刀』と呼ばれる妖がどんな妖なのは知らないんだが。
「しかし長谷川勇紀。貴方意外にも天河家について知ってらっしゃるのね」
「父さんに色々教えられたから……てか叩き込まれた」
あの人の息子だからこそ、裏の世界に関わる可能性が高いと思って幼少期の俺を連れだって色んな所に回ったり、教えられたりしたんだけど普通に考えたら子供にやらせる事じゃないッスよ。
「そうですか。博識なのは良い事ですわ。知識というのは持っているだけで有効な武器にもなり得るのですから」
くえすに褒められた。
「……で、結局天河はアレだろ?鬼斬り役の血を継いでるんだから裏の世界についてもっと知れって事だろ?ついでに鬼斬り役にもなれっていう意味もあるんだろうし」
「ちょ!?俺はその鬼斬り役ってのになる気なんて無いぞ!!」
即座に否定する天河だが、そうは問屋が卸さないだろう。
「別に鬼斬り役に専念しろというつもりはありませんわ。でも鬼斬り役として働いてもらう事にはなるでしょうけど」
「そんな勝手な!!」
「そうよ!!優人がやりたくないって言ってるんだから別に放っといてもいいじゃない!!」
まあ、いきなりコッチ側の人間になれなんて言われて納得出来ないのは当然だ。けど…
「天河優人。貴方が『天河家』の血を継ぐ者としてこの世に生を受けた以上、それは逃れられない宿命となるでしょう」
「恨むならアンタを産んだ親を怨みなさい」
鬼斬り役っていうだけで妖から狙われる確率は高いんだよな。それも戦う事すら出来ない素人なら格好の獲物になる。
その旨をくえすが説明すると天河は顔を青褪めさせていた。
「そんな…」
「今の所はその御守りの効力で貴方が鬼斬り役という事実は妖達にも気付かれていませんがもし、その効力が切れた時は…」
「…まあ『護り刀』がそれまでに来てくれるんじゃね?」
「駄猫に期待し過ぎてもアレだけど…」
ホント、どんな妖なんだろうね?飛鈴ちゃんは駄猫って言って嫌悪してるっぽいけど過去に何かあったのか?
「……さっきから私達、蚊帳の外ですねぇ……」
「仕方ないわよアミタ。私達からすればチンプンカンプンな話なんだから」
フローリアン姉妹の言葉に頷くのは鬼斬り役と俺を除く皆さん。
魔法関連なら多少はついてこれるんだろうけどね。
「ていうか鬼斬り役の事よりも私達が知りたい事って許嫁の事じゃ無かったかしら?」
テレサの言葉でハッとする面々。
「そうよ!!私達が聞きたいのは何でアンタが勇紀と許嫁なんていう関係になってるのかって事よ!!」
アリサが早口気味に吼える。
それに続いて九崎も。
「それに優人もってどういう事!?」
「先程学校前で親同士が決めた事だと申した筈ですわ」
……何で許嫁になったのかは知らんが父さんは面倒な事をしてくれたもんだ。
………あ、何でそんな事になったのか当人に聞けば良いじゃん。
俺はポケットから携帯を取り出して早速父さんに電話を掛ける。
『勇紀か?何の用じゃ?』
「あ、もしもし父さん?少し聞きたい事あるんだけど今いい?」
『うむ。丁度、休憩してる最中だからな』
ナイスタイミングだ。
「父さん。俺がくえすと許嫁になってるってどうゆう事さ?」
『くえすとな?』
「神宮寺だよ。神宮寺くえす」
『……おお!!神宮寺の嬢ちゃんの事か?』
「そうそう」
『懐かしいのぅ。お前が嬢ちゃんと出会ったのは4歳の時じゃったな』
「うん。で、その時に何かあったんでしょ?」
でなきゃ許嫁なんて関係にならんだろうし。
『特に無いぞ』
「無いんかよ!!」
電話を片手に俺は叫ぶ。
周囲の連中が一瞬ビクッと反応するが俺は父さんの言葉の続きを待つ。
『まあ、正確に言えばお前の将来を心配しての事じゃな』
「将来?」
『うむ。お前が産まれた時、秋奈の奴がお前に伴侶が出来るかどうかを大層気にしておってのぅ』
『秋奈』というのは俺の母さんの事だ。
てか母さん……気にするの早過ぎだろ。産まれたばかりの乳児だった俺にどんな不安抱いてんだよ。
『そこでお前と旅に出た時立ち寄った神宮寺家の跡取り娘の嬢ちゃんとお前が仲良ぅしてるのを見た神宮寺家の当主がワシに許嫁の話を持ち掛けてきたんじゃ』
「……で、その話にOKを出したと?」
『まあの。しかし許嫁はあくまで形だけのものじゃぞ。本当に好き合ってる者同士が結ばれんとお互いロクな事にならんじゃろうしな』
「つまり絶対に結婚したりする必要は無いと?」
『神宮寺家の方もそれで納得しとったしな。お前じゃって好きな女子と添い遂げたいじゃろ?』
「……まあね」
そんな子いないのが現状なんだけどさ。
……このままだと前世同様の高校生活を送る事になりそうだ。
そんな事を思いつつ、一通り聞く事を聞いて通話を切るとこの部屋にいる全員が俺の方を注視していたので、今し方父さんと話していた内容を暴露する。
「……という訳で俺の方はアレだ。そこまで強制力がある訳じゃ無いんで無理して結婚する必要は無いって事だ」
「そ、そうだったのね。まあ、当然よね(良かったぁ)」
「うんうん。好きでもない人と無理矢理なんていけない事だよね(本気で心配したよ)」
「やっぱりこういうのはお互いの気持ちが大事ですよね(久々に再会して早々敗北とか無残過ぎます)」
アリサ、すずか、アミタの言葉にキリエ、テレサ、各務森姉妹も頷いている。
「つ、つつ、つまり貴方はわわわ、私との関係を解消すると?」
逆にくえすは超動揺。
「まあ俺は自分が好きになった子と結婚して家庭を築きたいからねぇ」
そう言って天河に視線を向ける。
「だからくえすと天河が結婚するっていうなら止めはしないし」
寧ろ応援しても良いですよ。
「お、俺!?」
「おう。天河的にはどう思ってるんだ?この許嫁候補っていう関係について」
「…ていうか俺が神宮寺と許嫁なんていう関係にしたのは俺の両親なのか?」
「……貴方の
「えっ?じっちゃんが?」
天河が聞き返すとくえすが小さく頷く。
「本来ならもっと早く貴方に会って鬼斬り役の何たるかを教えるつもりでもあったのですけど…」
曰く『天河の両親が祖父母に住んで居る場所を教えなかったため、連絡が取れず仕舞いだった』との事で。
「…まあ、これから貴方は身を持って知る事になりそうですから私からこれ以上言う事はありませんわね」
投げやりだなぁ。
「しかしこれでハッキリしましたわね」
???何がハッキリしたんだろうか?
「今現在、私の許嫁に相応しいのは天河優人ではなくは、長谷川勇紀、貴方ですわね//」
「いや、だからね…」
俺は辞退しますよ。許嫁候補から。
「何故ですの!?」
拒否する理由さっき言いましたやん。
「好きな人と結婚したいって事ですわよね!?な、なら私を好きになりなさい!!これは命令です!!////」
「命令っていう時点で俺の意思無視してるよね!?」
「な、ならどうすれば私を好きになってくれますの!?こう見えて自分の容姿やスタイルには自信ありますのよ!!」
確かにくえすの容姿は美少女の部類だしスタイルも良いけどさぁ…。
「十数年ぶりに再会したばかりだからなぁ…。仮にくえすの事を好きになるとしても、もっとくえすの事を知ってからになるかな」
見た目だけじゃなく中身も大事でしょ。
「「「「「「「……………………」」」」」」」
何か天河と九崎を除いた女性陣の視線が凄く集まっている様な気がしてならないんですけどね…。
「そ、そうですか。私の事をもっと知れば…//」
「…まあ、くえすの事を知っても必ず好きになるって訳でも無いけど」
そう付け加えたのだが、目の前のお嬢様の耳には届いていない様子。
人の話は最後までちゃんと聞こうぜ………。
「あーー……疲れた」
自宅に帰って来て服を着替え、リビングのソファーの上でグッタリしてる俺。
何つーか……今日は朝からアミタ、キリエと再会するわ、飛白さん、飛鈴ちゃんと再会するわ、くえすと再会するわ……挙句の果てにくえすと許嫁なんていう関係になってるわで色んな事があり過ぎた。
「お帰りなさい勇紀君。お昼食べるでしょ?」
「いただきます」
俺は即答し、メガーヌさんの姿がキッチンへと消える。
ルーテシアとジークは俺よりも先に家に帰って来て、昼食を食べ終え、遊びに出掛けて行った。
まあ、くえすに呼ばれて寄り道してたから帰宅するのが遅くなったのは仕方ないと言えよう。
「はいどうぞ」
メガーヌさんが運んできてくれた昼食を食べ、空腹を満たしていく。
「そういえば今日は何かあったの?式だけの割には随分と遅かったけど」
「モグモグ…ゴクン。はは…色々ありました」
俺は帰って来るまでにあった出来事について話す。
「…成る程ねぇ。それでその子との関係は解消したの?」
「俺的にはその旨を伝えたつもりなんですけどね…」
あのお嬢様、時折精神がトリップしてたからな。俺が言った事を全て聞いていたのかはちょっと不安だ。
「……にしてもメガーヌさん、嬉しそうですね」
「そ、そう?」
「はい」
モグモグと昼食を頬張りながらメガーヌさんの方を見る。
くえすとの間柄を話してた辺りは何か不機嫌そうだったのに、今はニコニコと笑顔を浮かべている。
「ふふ…」
…やっぱり嬉しそうだ。
「ゴクン……ふぅ。ご馳走様でした」
「お粗末様です」
空になった皿をメガーヌさんが回収し、キッチンに行ったのを見届けてから再びソファーにグデ~っと身を埋める。
あ~……何だか今日はダラけていたい気分だな。あまり外出する気にすらならない。
テレビのチャンネルを適当に変えながらダラダラしていると
ピンポーン
ん?
誰かが玄関のインターホンを鳴らす音が聞こえた。
誰だ?誰か呼んだ覚えは無いんだが。
もしかして新聞やらセールスの勧誘か?だとしたら居留守を使うんだが、テレビの音量が玄関まで聞こえてたら居留守は使えない。
……出るだけ出てみるか。
メガーヌさんは食器を洗っている最中なので、俺はソファーから身を起こし、立ち上がって玄関へと向かう。
「はいはーい。どちらさんですかー?」
ガチャッと鍵を外してドアを開けると
「やぁ勇紀君、久しぶりだねぇ」
管理局で指名手配中の
「……何でお前が
「隣に引っ越してきたからだよ♪」
隣?
片方はフローリアン一家がエルトリアから引っ越してきて、もう片方は某反逆王子と同姓同名の『ジェレミア・ゴットバルト』さんの筈。
「ああ…それは私が名乗った偽名だよ。管理外世界とは言え、本名を名乗って足がついてはいけないからね」
そ、そんな……。
本物のジェレミアが見れるかもと思って凄い期待してたのに…。
いくら中の人が同じだからってこの仕打ちはあんまりじゃないか。
「???どうかしたのかね?」
「……現実の非情さを目の当たりにして軽い絶望感に苛まれた」
「ふむ……何があったのかは知らないが元気を出したまえ。世の中悪い事ばかりではないんだよ」
ジェイルに慰められてもあまり嬉しくない。
「……ていうかお前、地球の戸籍はどうしたんだよ?」
「当然偽造しているよ」
何つーか…予想通りの返答だな。
「家の隣に住むのは良いけど本当に大丈夫か?一応この街に管理局員住んでるんだけど?」
テスタロッサ家とハラオウン+エイミィさんの住んで居たマンションの一室は解約されていない。
フェイト、アリシアを除いて本局での仕事が忙しくない限りは俺みたいに地球に帰って来てるからだ。
「その時はフォローの方よろしく頼むよ」
他人任せかい!!
バレたらヤバいリスク背負うぐらいなら他の管理外世界にでも引っ越せばいいのに。
「いやー…ウチの娘達が『引っ越すなら絶対に地球が良い!』というもんでねぇ」
娘のお願いは断れないという事ですか。
「ドクタードクター。いつまで立ち話する気ッスか?」
おや?
俺達以外の第三者の声が…。
「あー…済まないねウェンディ。引っ越しの挨拶と君達の紹介を兼ねてお邪魔させて貰ったのに、すっかり目的を忘れるところだったよ」
ドアの影に隠れて見えなかったが、ヒョコッと顔を覗かせたのは濃いめの赤い髪の毛を後ろで纏めていた少女だった。
「勇紀君紹介しよう。私の新しい娘のウェンディ、そしてノーヴェだよ。ノーヴェ、君もコッチ来なさい」
ジェイルに促されてもう1人の少女もドアの影から姿を現す。
こっちの子は今見せた少女よりは薄めの赤い髪のショートカットでスバルに瓜二つな顔をしている。
「どうもー、あたしの名前はウェンディって言うッス。ドクターからお兄さんの事は聞いてるッスよ」
「ノーヴェです。あたしもチンク姉達から聞いてます。これからよろしくお願いします」
テンションの高い元気な挨拶と礼儀正しい挨拶を受け、俺も頭を下げる。
「挨拶どうも。長谷川勇紀です。何か困った事があれば言って下さい。お隣さんとして微力ながらお力添えしますんで」
しかし……そうですか。遂にウェンディとノーヴェが起動しましたか。
後残ってるのってセッテ、オットー、ディードだったよな?
「そう言えばそのチンク達は一緒じゃないんだ?」
「他の皆は街の散策に出て行ったよ。多分帰って来たらここに挨拶しに来るんじゃないかな?」
納得。
極稀に翠屋にシュークリームを買いに来るチンク以外の面々からしたらここは見知らぬ土地だし、チンクも海鳴にそれ程詳しい訳じゃないから、散策しながら土地勘を養う気なのだろう。
「失礼。少し通して貰えないかな?」
ここで新たな第三者の声が。
この場にいる全員の視線が声の主に向けられる。
「昨日、隣に引っ越して来た者なんだけど……久しぶりと言うべきかな勇紀君」
「お久しぶりですグランツさん。そちらもお元気そうで何よりです」
もう1組のお隣さん……フローリアン姉妹の保護者の姿がそこにあった。
今朝2人に聞いた時には寝てたという事だったが。
「つい先程まではグッスリだったけどね」
グランツさんの背後にはキリエもいた。
さっきぶりと言いながら小さく手を振ってくる。
アミタはいない様だ。何処かへ出掛けたのだろうか?それとも家で留守番か?
「隣に引っ越して来たから挨拶しに来たのだが……取り込み中だったかな?」
「いえいえ。こっちの3人もグランツさんと同じ用件で来てますから」
フローリアン一家と反対の隣に引っ越して来たジェイル…もといジェレミア。
「ふむ…どうやら勇紀君の知り合いの様だが……初めまして。ジェレミア・ゴットバルトと申します。私も彼とは多少縁がありまして先日、隣に引っ越して来たのですよ。こちらは私の娘達でウェンディ、ノーヴェと言います」
「これはこれはご丁寧にどうも。グランツ・フローリアンと申します。この子は私の娘のキリエと言います」
両隣の保護者同士が挨拶を交わす。
この2人、どっちも研究者なんだから案外気が合うんじゃないだろうか?
「…失礼ですがグランツさんは科学者だったりしますか?」
「良く分かりましたね。……もしかしてお宅も?」
「名が売れてる程の者ではありませんがね」
そりゃそうだろう。地球出身じゃないんだから。
「ふむ…もし良ければ何を専攻しているのか教えて頂いても?」
「構いませんよ。私は遺伝子工学についての研究ですね。そちらは?(さすがにプロジェクトFやら戦闘機人やらと言う訳にはいかないだろうしね)」
「植物が世界に及ぼす環境についての研究をしていますよ(まさか異世界の星の病気の治療法について研究してたとは言えないしね)」
…どちらも本当の事は言わないんですねぇ。嘘を言ってる訳でもないけど。
俺からすればお互い共魔法関係者だからこの場でバラしても良いんだがなぁ…。
ま、いずれ言えばいいか。
「グランツさん、何やら貴方とは気が合いそうだ」
「私もそう思いますよジェレミアさん。今度どこかで一杯やりながらお互いの研究について議論を交わし合いませんか?」
「良いですなぁ」
……やっぱりな。
早速意気投合してるし。
人の家の前で握手しながら盛り上がる2人を見て俺は小さく溜め息を吐く。
てか盛り上がるなら余所でやってくれないかなぁ………。
「いやー、ご近所さんに気の合う人が君以外にいて良かったよ」
あれから少し時間が経って、俺はジェレミア宅へお邪魔していた。
ジェイルの事はとりあえず偽名のジェレミアと呼ぶ事にした。
「…で、俺を呼んだ理由は?」
「君の耳に入れておきたい事があるんだよ」
何だ?
「これは君に黙っていた事なのだが、実は数年前にドゥーエを聖王教会に忍び込ませていた時があってね。その時に聖王の聖遺物を盗んだという事を先日思い出したんだよ」
「はあ…」
「元々は評議会の連中に対抗する切り札のために盗んだ物だったんだが、私の命は君に救われたんでね。もう必要無いと思ったから君経由で聖王教会に返してもらおうと思ったんだが……」
おいおい……そんな事に俺を使うなよ。
聖遺物を見付けた経緯とか考えるの大変なんだぞ。
「その聖遺物を保管していた私の研究所が何者かに襲撃されたみたいでね。聖遺物を盗まれてしまったんだよ」
「…つまりその聖遺物は今何処にあるか分からないと?」
「うむ」
盗まれた聖遺物か……。
盗んだ奴が何処の誰かは知らんが聖遺物の価値を知ってんのか?
てかマジでヴィヴィオ誕生はどうなんの?
盗んだ奴が生み出すのか、この世界ではヴィヴィオ自体存在しなくなるのか……。
存在しないならしないでStsやViVidの原作の流れが完璧に狂うよね。
「…何だか面倒な事になりそうだなぁ」
「いや、ホント済まないね」
「…良いよ。ここでどうこう言っても聖遺物が戻ってくる訳じゃねーし。そっちについては極秘に調べるしかないか」
盗まれた物が物だしな。原作知識のある亮太、椿姫、澪の誰かに頼んでおくか。
「あともう1つ。実はとある管理外世界で非合法の研究が行われていると思われる研究所があるんだよ」
「…よくそんなの見付けたな」
「発見したのはクアットロなんだがね。どうやら管理局の上層部が一枚噛んでるみたいなんだよ」
「……マジ?」
「うむ。誰が裏で手を引いてるのかまでは知らないがおそらく本局の上層部だと思われるよ。地上本部でそんな事やらかす馬鹿はいないだろうからね」
そりゃそうだ。
数年前から地上本部の上層部で黒い連中は俺、亮太、椿姫、澪、シュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリで徹底的に調べ上げ、一斉にブタ箱へ放り込んだからな。
今地上本部にいる上層部は綺麗な連中しかいない。
この一件も俺達が地上本部上層部の人達から崇拝と言ってもいいぐらいに信頼されてる原因の1つなんだが。
「…まあ誰が背後にいようと、違法研究は放っておけんな。近い内に捜査するか」
問題は何の研究をしているか何だが……非合法である以上、ロクな事じゃないのは火を見るより明らかだ。
「戦力が必要なら娘達の誰かを連れて行くかい?」
「いや……必要無いかな」
首都防衛隊にいるメンバーの中から1人連れて行くだけでも充分だろう。
俺はジェレミアから違法研究所の所在を記されたデータをダイダロスに送信して貰い、適当に雑談を交わしてから自宅へ戻った………。
~~くえす視点~~
「ええ…そうですわお母様。本日、長谷川勇紀と天河優人の2人に接触しました」
『そうですか…。それでどうでした?』
「天河優人に関しては鬼斬り役の知識も経験も無く、周囲に猫の影もありませんわ。長谷川勇紀は…その……」
『どうしました?』
「…一目見た感じでは相当の修練と経験を積んでいる事も推察は出来ましたが、正直『ブラドを倒した』ぐらいしか彼に関する情報が無いというのは疑問に思いますわ」
正直、ゆうちゃんの実践経験に関する情報がブラドだけと言われても納得出来ませんわ。
ゆうちゃんは相当な
絶対にブラド以外の敵と対峙し、実践経験を積みながら培われたというのが私の見解ですのに、彼の実践に関する情報は『ブラドを倒した』という情報以外一切見付からない。
他にもあって良い筈なのに…。
「(ゆうちゃん。貴方は私に何を隠してるんですの?)」
私は考えるが、答えが出る事は無かった。
『……す……くえす、聞いていますか?』
「えっ?…あ……す、済みませんお母様、。少し考え事をしていまして」
『…どうやら聞いていなかったみたいなのでもう一度言います。一旦実家に戻って来なさい。神宮寺家の跡継ぎに掛けている封印の確認を行います』
「すぐにですか?出来ればもう少し後にしていただきたいのですが…」
折角ゆうちゃんに再会出来たのに…。
『別に貴女の許嫁候補である2人がいなくなる訳でも無いでしょう』
「それはそうですが…」
『とにかく実家に戻って来なさい。分かりましたね?』
「……了解しましたわ」
私は携帯を切り、この身をベッドに投げる。
「(ゆうちゃんには色々と聞かないといけませんわね)」
彼が私に隠している事や、ゆうちゃんの側に居た一般人達の事。
…いえ、一部の者はただの一般人じゃありませんでしたわね。
「(あの紫色の髪の女は事前に調べていたから『月村』の者だという事は知っている。けど、おさげ髪の女とピンク色の髪の女…)」
あの2人の女は普通の人間とはどこか違う……そんな気がする。
かと言って妖でもないみたいだし……。
とりあえず、鏑木さんに情報を集めて貰って
「(もしこの世界に害をもたらす存在なら即座に私が
そんな事を想いながら私は目を閉じ、意識を闇に沈めていった………。
~~くえす視点終了~~
~~あとがき~~
くえすとフローリアン姉妹……バトらせようか思案中です。
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神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。