さてさて…。
「この世界にある筈なんだが…」
俺はとある無人の管理外世界に足を踏み入れていた。
……正確には俺だけじゃなく
「じゃあ2人共、特訓を始めましょうか」
「はーい!」
「お、お願いします」
長谷川家在住のメガーヌさん、ルーテシア、ジークの3人も一緒に来ていた。
着いて来た理由はメガーヌさんが2人の特訓に付き合うため。
ルーテシアも本格的に魔法について勉強していくと決めたみたいだ。
ジークに関しては少しずつだが『エレミアの神髄』を制御出来る様になってきていた。もっとも、完全ではないので途端にスイッチが入って破壊しまくる危険もあるけど。
今回は簡単な組手で留めるみたいなので暴走はしないと思うけど、いざという時のためにレスティアの入ったモンスターボールをメガーヌさんに渡してある。
メガーヌさんがジークを止められなくてもレスティアなら実力的に余裕で抑えられるしな。
サウザーは駄目だ。以前暴走した際のジークに対し、後頭部を掴んだかと思うと顔面を地面に叩きつけ、無理矢理意識を落とすという手段に出たからな。
流石は聖帝。蟻一匹の反逆も許さないと原作で言うだけあって、子供相手にも容赦しやがらねぇ。
その後説教したけど、ありゃ絶対に効果無いだろうなぁ。
「…じゃあ俺はこの先にあるっぽい違法研究所に行きますんで3人共、この付近からあまり研究所の方へ近付かないで下さいよ」
「ええ、十分に注意しておくわ」
「気を付けてねお兄ちゃん」
「兄さん、頑張って」
3人が返事してくれたのを聞き届け、俺は
これは以前ジェレミアに教えて貰った非合法の実験が行われているという違法研究所へ潜入捜査し、関係者全員をひっ捕らえるためだ。
首都防衛隊から誰かメンバーを引っ張って来たかったんだけど、皆別任務が入っていて連れて来る事が出来なかった。
かと言って先延ばしにするのもな…。
こういうのは相手側に感づかれたら尻尾を巻いて逃げられてしまう上に証拠も隠滅させられる。
故にスピード勝負なのだ。
一応サウザーの入ったモンスターボールは所持してるし、戦力としては申し分無いだろう。
……自重しない聖帝様を使わずに済むのが一番なんだがな。
しばらく飛んでいると
「おーおー……アレか」
見えてきましたよ。件の研究所らしき建物が。
特に大きい建物という訳ではないが、研究や実験とくれば地下で行われるというのがお約束みたいなもんだしな。
入り口に門番らしき人影は見当たらないが、監視カメラの類はあるだろうな。
もっとも
俺は出来るだけ音を立てずに正面入り口の扉を開け侵入した。
地上から見えた建物は3階層程の高さだった。
「(まずは上を見に行きますか)」
正面入り口近くの階段には上へ行く階段と地下に下りる階段がある。
俺は足音を立てない様、慎重に上っていく。
2階には大きな部屋が1つとトイレや各階直行のエレベーターがある。食料や調理室がある事からこの大部屋は食堂代わりに使われているとみて間違い無い。
一通り調べてみたがこの階に人の姿は無い。
「(次は3階だな)」
再び階段を上り、3階へ移動する。
3階には複数の個室があり、どの部屋も簡易ベッドや机、椅子しかない殺風景な部屋だった。
研究員の寝室というところか。
「(……この階にも誰もいない、か)」
まあ、人気を全く感じなかったので薄々そんな予感はしてたが。
て事はこの研究所にいる研究員は全員地下で研究中って訳ですか。
俺は階段を使って3階から2階、1階……そして本命の地下へと向かう。
地下のフロアに下りてすぐに人の気配を見聞色の覇気で感じ取る。
「(……人数は10人もいないな)」
建物の大きさとは裏腹に意外に人の気配が少ない。
他の研究員は何処か外出してるのだろうか?もしそうだとしたらメガーヌさん達と遭遇しないか若干不安になるな。
まず階段から一番近い部屋に侵入する。
「お、端末発見」
俺は部屋の一室に設置されていた端末を見付け、近付いて早速操作する。
まず確認するのはこの研究所で何を研究しているのかをだ。
よくあるパターンは人体実験とか合成獣の作成とか。
ま、局員として働いている以上、そういう現場には何度か赴いた事あるし。
で、端末を起動して最初に表示されたのはパスワードの入力画面だった。
こんなもんアフロディーテ使えば余裕だけど、魔法を使うとなると
姿を現すと研究員達に見付かるリスクがあるのだが、自分で適当にパスワードを入力して解除出来る可能性なんてどれだけ低い事か……。
俺は多少思案してから、リスクを承知で
パスワードを解除して情報収集を始める。
「ふむふむ……」
端末を弄りながら画面に表示される情報を読み漁っていく。
どうやらこの場所では人体実験、合成獣の類の研究ではなく、とある場所で発見されたデバイスをサンプル代わりに様々な実験を行い、その結果を元に新たなデバイスを非合法に生産するという内容だった。
ただそのデバイスというのが普通のデバイスではなくユニゾンデバイス……それもレプリカ品ではなく純正オリジナルの古代ベルカ式のものだという事だ。
識別個体名は『烈火の剣精』とされている。
………アギトやん。
「(つまりこの研究所にアギトが捕えられているって事か)」
原作でゼストさんとルーテシアが襲撃した研究所がまさかここだったとは…。
「(流石に見て見ぬフリは出来んな)」
この研究所が何をしようとしてるのか分かった以上、早急にアギトを救出するか。
ここで俺がこうしている今も非道な実験が行われているんだろうし。
端末を切り、アギトが捕獲されているであろう部屋を探す事にする。
気配を探ってみるとほとんどが同じところに集まってる。気配の正体はおそらくこの研究所で研究してる研究員達だろう。
魔力っぽいものも感じない以上、全員が非魔導師の様だし。
これなら研究所にいる連中に関しては一気に捕獲出来そうだ。
俺は再び
侵入者迎撃のためのトラップとかも設置されてると先程端末をアフロディーテでハッキングして読み取った情報に記されてあったが、ハッキングの際にトラップが作動しない様、プログラムを弄っておいたので警戒する事無く廊下を歩く事が出来る。
人の気配が無い部屋は全て無視して目的の部屋の前まで辿り着く。
……さて、制圧は迅速に行いますか。
「「「「「「「「「「っ!!?」」」」」」」」」」
乱暴に扉が開けられたことに驚いているのであろう白衣を着た連中。
「時空管理局だ!!全員無駄な抵抗はせずに大人しく投降しろ!!」
部屋の出入口には即座にサウザーを配置し、この部屋から誰も逃げられない様にする。
「馬鹿な!?何故管理局員がこの世界に!?」
「情報が漏れる事など有り得なかった筈だ!!」
「ぐっ!!外に出ている研究員達に護衛を全てつけたのが仇となったか!!」
慌ただしくバタバタし出す研究員達だが、この部屋唯一の出入口である扉の前にはサウザーを陣取らせているため、逃げるに逃げられない状況だ。
「フハハハハ!!!偉大なるお師さんと聖帝である俺が自ら出向いたのだ。誰1人生きて帰れるとは思わん事だな」
「聖帝だと!?まさかヤツが『管理局史上最凶のユニゾンデバイス』とまで囁かれる聖帝サウザーか!?」
「これまで数多もの犯罪者の投降を認めず、非殺傷設定であるのを良い事にやりたい放題の帝王!!」
「対峙した犯罪者は必ず病院送りにされ、精神が壊されるか一生病院のベッドがお友達になってしまうという『
「そして犯罪者が女子供、老人であっても一切躊躇しない非情さを持つ『出会いたくない管理局員ランキング』においてブッチギリでNo.1に輝くユニゾンデバイス!!」
最凶……間違っちゃいねえわな。
しかし『
犯罪者や違法研究員達の間では、余程サウザーが恐ろしい存在として認識されていると推察出来る。
「その聖帝ですら頭の上がらない唯一の存在……」
「表向きでは『レジアス・ゲイズの懐刀』『地上の切り札』と呼ばれているがその実、『管理局地上本部の真の黒幕』『犯罪者を
「「「「「「「「「「長谷川勇紀!!!」」」」」」」」」」
「ちょっと待てやああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!!!」
何だその後半の2つの呼び名は!!?
俺は黒幕でも無いし犯罪者をどこぞの自称・天才みたいに
「フハハハハハ!!!お師さんの実験台になれるのだ。光栄に思うがいいネズミ共!!!」
「お前も嘘が真実味を増す様な事言ってんじゃねーよ!!!」
俺が怒声を発してもサウザーはフハハハと意にも介してないかの様に笑う。
「も、もう駄目だ……管理局の『2大絶望』に遭遇するなんて……」
「俺達の悪運もここまでか……」
次々と雰囲気を暗くし、絶望感に打ちひしがれる研究員達。
てか『2大絶望』の内の1人て俺の事ッスか!!?
だとしたら勘違いも甚だしい!!俺は絶望を与える程犯罪者達に酷い事をした事なんてねーから!!
「お、俺はまだ諦めないぞ!!お前達を殺して生き残ってみせるんだ!!」
研究員の1人が懐から取り出したのは拳銃。
こりゃ質量兵器の不法所持も罪状に加わるな。
「し、死ねぇ!!」
『パンッ!』と乾いた音が室内に響いたが、研究員の手に持つ拳銃から放たれた銃弾はダイダロスが咄嗟に展開したイージスに阻まれ、俺に届く事は無かった。
危ない危ない。
すかさず部屋にいる全員をバインドで拘束する。
「貴様……ネズミの分際でお師さんを殺めようとしたな?」
その一連の出来事を見て高笑いを止め、憤怒の表情を浮かべる聖帝様。
「あ、ああぁぁぁ……」
その場にへたり込み、ガタガタと震えながらゆっくりと近づいてくるサウザーを見上げる研究員。
「あー……サウザーさんや。俺は無事だった訳だし、いくら相手が犯罪者とはいえ、あまり威圧するのはどうかと……」
「そうですか?ではどうしましょうか?」
…ここで俺が出す指示次第で震えあがっている違法研究員達の未来が決定すると言っても過言では無いのかもしれない。
「コイツ等の背後にいる黒幕について聞いておいてくれ。ただし、鳳凰拳使うなよ」
「むぅ……鳳凰拳を使わずにネズミ共から情報を引き出せば良いのですな?」
「そうそう」
物分かりが良いじゃないか。
これで研究員達の五体満足は約束出来ただろう。
俺は俺でアギト救出に向かいますか。
この部屋とはまた別の部屋にいるっぽいし。
部屋を出て更に廊下の奥の方へ進んでいく。
「《……か…………て……》」
ん?
俺が向かっている方向の先から弱々しい念話が聞こえた。
「《だ……か……た…………て……》」
奥に進むにつれ、念話が少しずつ聞き取れてくる。
「《だれ……か……たす……け……て……》」
間違い無い。この先にアギトがいる。
俺は駆け足で一気に念話が送られてきた部屋へと向かう。
やがて廊下の最奥にこれまでとは違った重厚な扉が視界に入る。
念話もこの扉の向こうから発せられているのでこの向こうに…
「オラアアアァァァァァァッッッッ!!!!」
クリュサオルで有無を言わさず扉をブッタ斬り、室内へ足を踏み入れる。
大きな部屋にはいくつもの細かいコードが散乱しており、その先端全てが1つの小さな人影らしきものまで伸び、繋がれていた。
「(見つけた!!)」
人影の正体……アギトは顔をやや俯き気味で瞳は虚ろ、呼吸も弱々しかった。
度重なる実験で肉体、精神共に疲弊しきっているのが一目で理解出来る。
「せいっ!!」
コードを斬り伏せ、アギトを拘束している錠を外すと、彼女はゆっくりと倒れてきたので浮遊魔法で受け止め、治療魔法で肉体に掛かっていた負担を取り除く。
治療魔法を施している間、アギトの瞼は段々と閉じていき、やがて意識を手放して呼吸音しか聞こえなくなった。
「……治療はこんなもんかな」
アギトの外傷に関しては綺麗サッパリと無くなった。
後は目が覚めた時の精神状態が心配だな。極度の対人恐怖症になってないと良いんだけど。
アギトを回収し、来た道を引き返す。
先程の研究員達がいた部屋に戻ってくると
「フハハハハハ!!どうだ?素直に喋る気になったか?」
「ぎっ!!がああぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
「「「「「「「「「「……………………」」」」」」」」」」(ガクガク)
研究員の背後からうなじの部分に指を突き刺し、そのまま持ち上げている聖帝様の姿があった。
何コレ?どういう状況?
いや、サウザーが研究員に暴力を振るってるっていう事は分かるんだけどさ。
「サウザー……何やってんの?」
「おお、お師さん。そちらの用事は済みましたか?」
「うん。目的は果たしたけど…」
「お師さんをお待たせする訳にはいきませんな。ならコチラも早急に済ませます」
そういって指を更に深くねじ込む。
「ぎいいいぃぃぃぃっっっっ!!!!!!」
研究員の悲鳴も大きくなる。
「さあ言え。貴様等の背後にいるドブネズミの親玉の名を」
「があああぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」
「正直に言わねば痛みは更に増すだけだ。貴様に突いているのは『解唖門天聴』という秘孔よ」
あぁ……北斗の拳原作で拳王様がジュウザに突いた秘孔ですね。黙秘を貫けば激痛が増すっていう……。
ウチのサウザー、北斗の拳に出て来る拳法は全て使えるらしいし、秘孔の位置も把握してるとか。
自白の強要技としてはエグい技だぜ。
てか秘孔を突くサウザーの姿は違和感あるなぁ。やっぱコイツには南斗鳳凰拳が一番似合うわ。
「フハハハ!!お師さんの命令で南斗鳳凰拳の使用は禁じられているからな。俺が南斗鳳凰拳以外の拳を振るうのは滅多に無い事だぞ。光栄に思うがいいドブネズミ」
成る程。俺が鳳凰拳の使用を禁じたから拳王様が突いた秘孔で自白させようとしてるのか。
………あれ?
今目の前で研究員が秘孔突かれて苦しんでるのってもしかしたら俺のせい?
「(……『拳法自体使うな』って言えば良かったな)」
俺は心の中で苦しんでいる研究員に謝罪する。
「《ユウ君、見てるヒマがあるなら止めてあげなよ》」
おおぅ。確かにダイダロスの言う通りだ。
もう研究員の人は口から泡を吹き、意識を失う寸前だ。
俺が止めようとした瞬間、研究員が必死に力を振り絞り、口をパクパクさせる。
自白するのか?この非合法な研究員達を使役していた本局上層部の黒幕の名前を。
「……せ……い……て……い……の……ク……ソ……ば……か……や……ろ……う……」
……何という度胸のある研究員なんだ。必死になって絞り出した言葉がサウザーの罵倒とか。
「ふっ…言う気は無いか。ならば死ねぃ!!!」
トドメをさそうとするサウザー。
「まてサウうおぉっ!!?」
慌てて止めようとした際、足元のコードに足を引っ掛けてしまい、転びそうになる。
何とか踏ん張って耐えたおかげで転ぶ事は無かったが、俺の手からクリュサオルがすっぽ抜けてしまう。
そのままクリュサオルはサウザーが持ち上げていた研究員の腹部に直撃。研究員は意識を落とす。
「……………………」
意図せずしてトドメをさしてしまった。
「な、何てヤツだ……弱っているのにも関わらず全力で剣を投擲するなんて…」
「管理局員のする事とは思えない…」
研究員達は更に顔を青褪め、俺への恐怖心を露わにする。
「違うから!!ワザとじゃないから!!」
「流石はお師さん!!死にかけのネズミ相手に容赦の無い一撃!!こやつ等には慈悲を与える必要など無いという事ですな。このサウザー、感服致しました」
「おい!!そんな事言うな!!」
しかし時既に遅し。
サウザーの言葉を鵜呑みにした研究員達には『断罪者だ』とか言われ、恐れられる始末。
何で違法実験行っていた研究員達の誤解を解く様な事してんだ俺は………。
「……何があったんだ?」
違法研究員を捕縛し、管理局員に引き渡すまでの間、研究所の一室にバインドで雁字搦めに縛り上げ、身動きを取れない様にして閉じ込めた後、一旦メガーヌさん、ルーテシア、ジークのいる場所へ戻って来たんだが、俺の目に飛び込んできた光景は戦闘が行われたと思われる痕跡だった。
訓練ではなくガチの戦闘があった感じだ。しかも…
「あ、お兄ちゃんおかえりー」
俺に気付いたルーテシアが軽い調子で言ってくる。
「ただいま。ルー、ここで何があったんだ?」
俺が向ける視線の先にはバインドでグルグル巻きにされたり、顔以外の部分が氷漬けにされてたり、普通に気絶してたりと様々な様子の連中と、何だか大人しく整列してるこの星の生物達らしき姿が。
「ママとジークちゃんと訓練してたらあの人達が襲ってきたからやっつけたの」
「へー。じゃあ、あっちの生物達は?」
「右からガリューにインゼクトに地雷王に白天王だよ。私と契約して召喚獣になってもらったんだ♪」
向こうの連中は研究所にいた研究員達の仲間で間違い無いだろう。魔導師もいるっぽいけど見事に捕えられてるし。
で、原作でルーテシアが使役してた召喚獣達が大集合。
この星はアレですか?ルーテシア専用のサファリパークだった訳ですか?しかも契約済みだとか。
氷結人間で召喚魔導師のルーテシア。えげつない幼女が誕生したもんだよホント。
「
「そっかぁ。偉い偉い」
「えへへ~//」
ご褒美と言わんばかりに頭を撫でてやる。
しかしアレだね。ジークが戦力として戦わなかったという事はアルピーノ母娘だけでこの連中を倒したって事だよね。しかもレスティア使わずに。
メガーヌさん……主婦に専念してるせいで俺よりも訓練する頻度あまり無いのに全く魔導師としての腕が鈍っていないと推察する。
「それで勇紀君の方はどうだったの?」
「研究所にいた連中は全員捕まえましたよ。管理局の方にも連絡はしたんで後は局員の到着待ちです」
「…じゃあ私達はここにいない方が良いわよね?」
「局員に見付かる訳にはいかないですからねぇ」
公式に死亡扱いされてるメガーヌさんがいたら大騒ぎだ。
俺はメガーヌさんにレスティアの入ったモンスターボールを返して貰い、3人を地球の自宅へと転移させた。
その後、到着した管理局員に連中を引き渡し、俺も事情聴取に付き合った後、地球へ帰還する。
メガーヌさん達が捕えた連中の記憶に関しては多少改竄させて貰った。……サウザーに秘孔を突いてもらって………。
~~???視点~~
「う……うぅ……」
あたしはゆっくりと目を開ける。
「……ここは?」
真っ先に目を開けて映った光景はあたしを閉じ込めていた部屋なんかじゃなく見知らぬ部屋の天井だった。
背中にはフカフカした感触。
ゆっくりと上半身を起こして下を見るとクッションの様な物が敷かれていた。
で、あたし自身には布が掛けられており、ここで寝かされていた事が判明する。
誰がこんな物を準備して寝かせてくれたのだろうか?
「……アイツ等がこんな事する筈ない」
脳裏に浮かんだのはあたしを実験動物扱いし、毎日毎日全身を弄ってくる白衣の連中だ。
今まで散々な扱いをしてきた奴等がしてくれる事とは思えないし。
あたしは部屋を見回す。
なんかぬいぐるみとか模様のついたカーテンとかがある。
部屋の出入口のドアは1つ。窓の外は暗くなっているので時間帯は夜って事か。
ガチャッ
「っ!!」
突然ドアが開いたのであたしは身構える。
「あっ!良かったぁ。目が覚めたんだね」
部屋に入って来たのは紫色の髪を生やした見知らぬ子供だった。
「身体の調子はどう?痛い所とかは無い?」
「……問題はねぇ」
笑顔を浮かべて尋ねてくる子供の言葉にあたしは返す。
てか誰だ?
「お兄ちゃんの治療魔法は効果抜群だからねー」
「お兄ちゃん?」
まだ他に誰かいんのか?
「貴女をあの研究所から助け出してここに連れてきたのはお兄ちゃんなんだ」
「あたしを!?……そういや、ここは何処なんだ?」
「お兄ちゃんの家だよ。本当は管理局の医療施設に連れて行くのが良いらしいんだけど、お兄ちゃんが自分の権力使って自宅療養する様に手を打ったんだって」
まだ上の人捕まえてないから拉致られる可能性があるんだよ、と言葉を付け足して。
「そっか……何だかあたしの意識が無い間に随分世話になったみたいだな」
「気にしなくても良いと思うよ。元々お兄ちゃんはあそこにある研究所潰すつもりだったし、貴女を見付けたのは偶々だよ」
「けどその偶々のおかげであたしはアイツ等から解放されたんだ。感謝の言葉しか出てこねぇよ」
研究所をブッ潰したお兄ちゃんっていう人にちゃんとお礼を言わないといけないよな。
あたしは目の前の子供に頼んでその人の元へ連れて行って貰う。
研究所を苦も無く潰せるって事は相当強いんだろうなぁ。
…あたしのロードになってくれないかな?
~~???視点終了~~
「この通りだ!!あたしのロードになってくれ!!」
……困った。
アギトが目覚めたかどうかルーテシアが様子を見に行って少ししたら、目覚めたアギトを連れてルーテシアがリビングに戻って来た。
その後、アギトが意識を失ってる間に治療を施した事や、連中を捕縛した事、自分の権力を使ってそのまま家に連れ帰って来た事等伝えるべき事は全て伝えた。
もっとも、ある程度はルーテシアが話していたみたいなんだが。
その後助けた事に礼を言われリビングにいる俺、ルーテシア、ジーク、メガーヌさんが自己紹介するが、アギトは
『あたしに名前なんて無いよ。あたしを捕えてたアイツ等は『烈火の剣精』なんて呼んでたけど…』
という事だったので急遽皆で名前を考える羽目に。
もっとも、原作通りにルーテシアが『アギト』と命名した事で名前が決定し、アギト本人もこの名前が気に入った様子。
それから俺について尋ねられた事に答えると、すぐさまアギトに頭を下げられ、懇願された。
今アギトが言った様に自分のロードになってほしいと。
まあ、剣使えるし、炎も操れる。アギトからすれば俺は理想のロードの可能性が高いという認識なんだろう。
けど、正直そこまでユニゾンの相性が良いかと聞かれると何とも言えない。何故なら…
「俺って『ミッド式』の魔導師だから『古代ベルカ式』のユニゾンデバイスである君とは適合率良くないかもしれないよ?」
この術式の違いがユニゾン時の邪魔になりそうな気がするんだよねぇ。
「お兄ちゃん、この子とユニゾン出来ないの?レスティアちゃんやサウザーのおじちゃんとは出来るのに?」
「ルーよ。あの2体は俺専用に作られたユニゾンデバイスだから融合事故も起こさずユニゾン出来るんだ」
後、リンスは古代ベルカ式だが俺のリンカーコア使ってるんでミッド式、古代ベルカ式の違いはあれど例外としてユニゾン出来る。
「じゃ、じゃあさ!あたしとユニゾン試してみてくれよ!」
「うーん……融合事故起きたらシャレにならんのだけど…」
ひたすらに頭を下げ、ユニゾンを願うアギト。
原作通りシグナムさんとなら文句無い適合率叩き出せるだろうになぁ。
とは言え、アギトとのユニゾンにも興味が無い訳じゃ無いのも事実。
事故が起きない事を祈りつつユニゾンしてみようかな。
「お願い!!!」
「……あまり期待しないでくれよ」
俺が了承の意を示すとアギトの表情がパアッと明るくなる。
アギトがフワフワ浮いて俺の頭の上に降り立つ。
一応余所様に家の中を覗かれない様カーテンを閉めてあるのを確認して俺は小さく深呼吸。
じゃあ早速……
「「ユニゾン・イン!!」」
俺とアギトの声が重なるとリビングに眩い光が発せられる。
もっとも光は一瞬で収まり、俺は融合事故を起こしてないか不安を抱いていたが、その考えは杞憂に終わる。
自分の意思で手足はちゃんと動かせるし、魔力が暴走したりもしていない。
ユニゾンは成功か。
「お兄ちゃんの髪の色真っ赤っ赤ー」
「瞳の色は薄い紫やなぁ」
「アギトちゃんの容姿の色が色濃く出てるわね」
ルーテシア、ジーク、メガーヌさんがアギトとユニゾンした俺の容姿について一言漏らす。
鏡を見て確認した。確かにアギトの赤い髪、薄紫の瞳の色が前面に出ている。
後は……
「メガーヌさん、ちょっと強度の高い結界張って貰えますか?」
身体能力、魔力にどれぐらいの補正が掛かっているのか確かめないとな。
メガーヌさんが結界を張ってくれたので俺は庭に出て、まずは剣を振り始める。
「アギト、感覚が可笑しかったりしないか?」
「《大丈夫!コッチは問題無いよ》」
ユニゾンしてるアギトの方にも問題は無いとの事。
剣を振っていて思うが、通常時より身体が軽く感じる。身体能力の向上は俺が思ってる以上の効果が出ている様だ。
「じゃあお次は炎を使ってみますか」
「《うっしゃ!!制御はあたしに任せてくれよ》」
張り切ってるなぁアギト。
でもレアスキルである
それ以前に俺が使う炎の技について何も知らないよな?
そんな疑問を胸に抱きながら俺は周囲に炎を展開する。
普段通りに展開したつもりなんだが
「(いつもより炎の勢いが強い?)」
炎の燃え盛る勢いがやや強く感じる。
「《うおっ!?炎から魔力が感じられねーぞ》」
「これは魔力じゃなくレアスキルで発現させた炎だからな。で、どうアギト?今は単純に炎を出しただけだけど制御出来そうか?」
「《おう!魔力の炎じゃなくても制御出来そうだよ》」
本人曰くでは
俺とユニゾンしてる影響かな?
「カイザーフェニックス!火銃!神火不知火!蛍火!邪王炎殺黒龍破!」
立て続けに炎の技を連発して放つ。
……うん。制御も通常時よりも精密性が多少上がってるな。
技の威力に強弱をつけて一通りブッ放してからリビングに戻り、ユニゾンを解除してからメガーヌさんに結界を解いて貰う。
「勇紀君、炎の制御がいつも以上に正確だったわね」
メガーヌさんも気付いていたか。
「今回はアギトに制御を全て一任してましたけど」
「アタシとの相性は悪くないって事だよな?」
アギト自身もご満悦の様子だ。
「確かに威力、制御は申し分ないけど技を放つまでの時間が
そう……炎を用いて放つ技の発動が僅かだが通常時よりも遅いのだ。
これは、自分が対峙してる状況によっては致命傷となるかもしれない。
この分だと通常の魔法発動にも影響してる可能性がある。
「うぅ…完璧じゃなかったのか…」
「しょうがないだろ。コレが
今度は落ち込むアギトだが、融合事故を起こさずユニゾン出来ただけでも充分だと思う。
「(……やっぱシグナムさんと会わせておいた方が良いかもな)」
アギトは俺をロードとして認めてくれたけど、有事の際には俺以外の誰かとユニゾンした方が効率が良い場合もある。
原作通りシグナムさんとのユニゾンなら俺以上に相性が良い筈だし。
俺はアギトを近い内シグナムさんに紹介しておこうと考えていた…。
後日、あの研究所で行われていたアギトに対する実験について裏から手を引いてたのはやっぱり本局上層部の人間だった。
俺が頼んで逮捕してくれたフェイトからの通信で知った事だ。
全く……法を護るべき組織の人間が法を破るなんて本末転倒もいいところだよホント………。
~~あとがき~~
アギト登場。で、保護しました。
勇紀とのユニゾンの相性はそれなりに良いです。
アギトは原作通り八神家の一員にするつもりです。
勇紀にはユニゾンデバイスが既に2体いるからなぁ…。
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神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。