No.69053

女の子として、覇王として 2

komanariさん

今回も少し短いですが前回の続きです。

今回は距離とか移動速度とかが少し出てくるのですが、もしかしたら間違っているかもしれません。

その辺のことがお分かりになる方がいらっしゃいましたら、ご指摘いただけると嬉しいです。

続きを表示

2009-04-17 00:16:14 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:14592   閲覧ユーザー数:11279

西涼への行程の半分を行ったところで、私たちは近くの城に入り、大休止を取っていた。そんな時、霞が私部屋を訪ねてきた。

 

「華琳!今回のことについて一言言っときたいことがある!」

 

そう言うと霞はスゥーっと大きく息を吸った。

 

「華琳が一刀を戦いの場に連れきたないって気持ちは、よーわかる。せやけどな。一刀の気持ちもちゃんと考えぇ!一刀が何で一生懸命うちや凪と鍛錬しとると思ってるんや?一刀は自分の力で華琳を、そしてうちらを守りたいって、役に立ちたいって思って、がんばっとるんや!そう言う一刀の気持ちもちゃんと汲んだれや!華琳は確かに一人の女の子やけど、覇王でもあるんやろ!!」

 

そう言い終わると、霞はふぅと一息ついた。

 

「うちが言いたかったんはそれだけや。臣下やのうて、同じ男を好いとる一人の女としての言葉やけど、無礼な言い方してすまんかった。」

 

霞はそう言って頭を下げた。

 

「・・・・」

 

自分の選択が覇王としての選択でないことは分かっていたけど、霞の言ったとおり、一刀の気持ちを考えていなかったのも事実だった。

 

でも、私は一刀に消えてほしくなかった。

大切なものが消えてしまった悲しみをもう一度味わうことなんて耐えられないと思った。

 

そうなるかもしれない危険性がある以上、私は一刀を戦いに参加させたくはなかった。

 

そう考える自分の中に、覇王としての自分はいなかった。

 

そう考えている間に、霞は部屋から出て行っていた。

 

「・・・」

 

一刀が消えるまで「覇王でもあるんやろ」って言われるなんて、思ってもいなかった。

 

 

何度も泣いて、何度も一刀を呼んで、それでも帰ってこないことに絶望して・・・

 

一刀によって自分が一人の女の子であることを自覚して、その一刀がいなくなったことで、自分の中の「女の子」の部分を抑えることが難しくなった。

 

一刀が消えてしばらく時が過ぎてから、何とか「覇王」としての自分であることに戻ることができた。

 

けれど、「女の子」としての自分が消えた訳じゃなかった。

 

一刀のような温かい日の光に照らされている昼間には、前向きなことを考えることができても、一刀が消えていった夜になると、一刀を名を呼び、涙する日もあった。

 

 

一刀が戻って来てからは、前のように泣くことはなくなった。

 

けれど、一刀が消えてしまったときの痛みは、私の心に深く残っていた。

 

そんな折の、今回の出兵。

 

「覇王」としての決断よりも、あの時泣いていた「女の子」としての気持ちの方を優先したのは、このときの私にはそれしかできなかったから。

 

「・・・・ふぅ。」

 

どうすればいいのか答えが出ないままだったけれど、私は考えるのをやめた。

 

「今は五胡をどうにかする方が先ね。」

 

私は先ほどまで揺れ動いていた自分に少し気合いを入れて、「覇王」として、再び行軍の途に就いた。

 

 

 

 

 

 

 

数日後、私たちは五胡の勢力を抑えるために西涼に設置していた砦に到着した。

 

蜀の軍は、私たちより少し早く到着していたようで、崩壊しているだろうと思っていた防衛線はまだ形を成していた。

 

「華琳殿。思ったよりも早い到着でしたな。」

 

そう言って私たちを迎えたのは、蜀軍の総大将として今回の遠征軍を率いてきた関羽だった。

 

「えぇ。でもあなたたちに少し負担をかけてしまったようね。」

 

「いや。こちらの方が西涼には近いのだから、先に到着するのは当たり前のこと。」

 

愛紗の到着が早かったからこそ、防衛線がここまでもっているのだろうけど、そのことも当り前のことと言えるだけ、三国の関係は深まっているのだと、改めて実感できた。

 

「それでも、礼を言うわ。ありがとう。それで状況を教えてもらえるかしら?」

 

恩を受けたのなら礼を言う。それはあたり前のことだけれど、その当たり前のこともできないようでは覇王でなどいられない。

 

「は。我らが到着してからほんの数日しか経っていませんが、これまで敵からの大々的な攻勢はありません。攻撃があったとしても、単発的なもので、我らの軍だけでも食い止めることができる程度のものでした。」

 

そこまで聞いて私の中に少しの疑問が浮かんだ。

 

なぜ五胡は絶好の好機に攻撃を仕掛けてこなかったのか。

 

洛陽にいたときの報告に会ったように、五胡の軍勢は80万という大群で、いくら蜀の精兵30万と言っても、その圧倒的兵力差で押しつぶすことは容易であっただろう。

 

仮に、そこまではできないにしても、この状況下で攻勢に転じないなど、不自然過ぎた。

 

 

 

 

「我らも不審に思っていたのですが、何ぶん兵力差がありましたから、こちらから出ていくこともできず、詳しいことはわかっておりません。」

 

私が不審に感じていることを感じ取った愛紗がそう言った。

 

「そう・・・・。桂花どう思う?」

 

「は。はっきりとは言えませんが、あれだけの大軍を用意しておきながら、大攻勢を仕掛けて来ないというのは不自然過ぎます。何か策があるのでしょが、これまで攻勢をかけてこなかった以上。今後もあちらから仕掛けてくることはないと思われます。そして、敵がこのような状況を作ったということは、おそらく、このまま対峙したままというのは敵の望むところだと思われます。」

 

桂花の意見はほぼ私のものと同じものだった。

 

「稟と風は?」

 

「は。私も桂花と同意見です。」

 

「私もそう思うのですー。」

 

「では、敵が望まないことをしましょうか。」

 

我が軍の三大軍師全員の同意を受けて私はそう言った。

 

「というわけで、私たちは攻勢に出ようと考えているのだけれど、そちらの意見はどうかしら?」

 

私は、愛紗の方を向いた。

 

「こちらとしても、雛里とその話をしておりましたので、異論はありません。」

 

「では、早速行動に移るわよ。全軍の指揮はこちらでしたいのだけど、それでいいかしら?」

 

答えはわかっているけれど、一応愛紗に確認を取った。

 

「は。かまいません。」

 

愛紗の返答を頷きで返し、私は軍の配置についてなどの指示を出した。

 

 

 

陣形を整え終えたところで、私は全軍の前に出て、大きく息を吸った。

 

「聞けい!!魏ならびに蜀の精兵たちよ!我らがようやく手に入れた平和を脅かす者ども我らのいる!我らはやつらを野放しにしておいていいのか!!??」

 

私の言葉が兵の中に入っていく間を少し置いた。

 

「答えはもちろん否である!我らがすれ違いを乗り越え、ようやく手にした平和を、やつらごときに脅かされることなどあってはならない!!ではどうする!?我ら三国の民を守る者はどうすればよい!?そんなことは決まっている。敵を倒し、我らの平和を、我らの民を、守ればよいのだ!!」

 

兵たちを見渡し、私は力をこめた。

 

「魏の精兵たちよ!敵を殺し、根絶やしにせよ!蜀の精兵たちよ!敵を倒し、民を守れ!我らが刃でやつらを滅ぼし、我らの盾で民を守る!!全軍。この戦いに命をかけよ!!!!」

 

「「「・・・「「「おぉーーーーーー!!!!!!」」」・・・」」」

 

静まり返った兵の中から、地響にも似た雄たけびが響き渡った。

 

「全軍!攻撃開始!!」

 

私の声に従って、軍が動き始めた。

 

 

 

 

戦いが始まって数刻。やはり敵の動きはおかしかった。

 

私たちの攻勢を受けた五胡の軍勢は、まともな反撃をせずに、ただ防戦をし続け、時間稼ぎをしているように思えた。

 

また、防戦している敵軍には覇気がなく、侵略を目的にしているようには思えなかった。

 

「やはり、時間稼ぎが目的なのかしら・・・。」

 

「はい。ここまで来るとそうとしか思えません。その目的については「申し上げます!!!」・・・・。」

 

桂花がその続きを話そうとした時だった。洛陽の警備隊の格好をした兵が私たちの前に走り込んできた。

 

「どうしたの!?」

 

警備隊の格好に、何かとてつもない不安を感じながら、私はその兵に聞いた。

 

「は!皆様が洛陽を出られてからしばらくして、北の蛮族を抑えていた長城が破られ、騎馬民族の軍勢、約10万が洛陽に向けて進軍しているという情報が入りました。私は隊長の命を受け、援軍の要請をしに参りました!!」

 

私の中の何かが、スーっと冷たくなっていくのがわかった。

 

「それはいつのことなの!!?一刀たちは無事なの!!!???」

 

私は思わず兵にそう詰め寄っていた。

 

「・・・は。私が洛陽を出たのが、10日ほど前でございます。」

 

「と、10日前って・・・」

 

「ですから、なにとぞ性急な援軍を・・・・」

 

そこまで言うと、その兵士は倒れ込んでしまった。

 

「たぶん。寝る間も惜しんでここまで来たんだと思います。」

 

近くにいた流琉が衛生兵を呼び、その兵士を救護所まで下げて行った。

 

「か、華琳様・・・・!」

 

桂花が私を見た。

 

「・・・・っく!」

 

「華琳!!大変や!!うちら敵の策にはめられとる!!」

 

そう言いながら霞がかけ込んできた。

 

「さっき、うちが生け捕りにした敵軍の将軍を尋問したんやけど、この80万が囮で、洛陽をねらっとる別の部隊がいるって吐いたんや!!」

 

完全に敵の策に嵌められていた。

今回の大軍勢はあくまで囮。本来の狙いは我ら魏の首都洛陽。

今相手にしている敵に覇気が感じられないのは、策に従って戦うということに慣れていないために、自分たちの好きなように動けなかったことに対しての士気の低下。

 

敵の大軍勢という餌に、まんまとおびき出されてしまった。

 

敵の狙いはおそらく洛陽を攻め落とし、三国の中に拠点を作ること。それができない場合は、洛陽を破壊し、魏の国力を落とすこと。

 

これまでと同じ五胡だと侮った報いだった。

 

 

「一刀・・・!!」

 

 

 

私は戦の土煙が舞う中、東南の空を見た。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

どうもkomanariです。

 

前作に多くの支援・コメントをいただきありがとうございました。

 

一刀の行動になどに期待をしていてくださった方々。

 

ごめんなさい。まだ華琳のターンでした。

 

あぁ。非関西人が関西弁を書こうとすると難しい・・・

その辺を不快に思った方がいらっしゃいましたら、すいませんでした。

 

 

でも、次の話は一刀もちゃんと行動を起こすので、それまでお待ちいただけると嬉しいです。

 

 

まえがきにも書きましたが、今回は距離とか時間とかがちょっと入ってきます。

 

僕としては一応調べて書いたのですが、間違っている可能性が高いです。

その辺が気になられた方がいらっしゃいましたら、この場でお詫びいたします。

 

さて、僕の予定では次で、この話は完結です。

 

まだまだ稚拙な文章しか書けませんが、それまでお付き合いいただけると嬉しいです。

 

 

それでは、今回も閲覧していただき、ありがとうございました。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
114
2

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択