一刀がいなくなってから1年後。
三国の平和式典の日に、一刀が帰って来た。
一刀は少し大人っぽくなっていて、体つきも前よりしっかりしていた。
「ただいま。」
そう言った一刀に、私は、
「ずっと私のそばにいなさい」
と、そう言った。
「わかった。ずっと離れないでいるよ。」
そう一刀は私の言葉に返した。
その後一刀は警備隊長として復帰。
魏のみんなも一刀が帰ってきたことをすごく喜んでいた。
民たちも一刀が帰ってきたことを喜び、毎年一刀が帰って来た日に祭りを開くことが決まった。
そうして、幸せな時が過ぎ、一刀が帰って来てから、2年が過ぎようとしているときだった。
突然、西涼の西から、五胡の大軍勢が攻めてきた。
それまでも、小さな侵攻は何度かあった。
でも、今回のような大規模のなものは初めてだった。
それを受けて、魏ならびに蜀はただちに迎撃部隊の派遣を決定し、魏が50万。蜀が30万を派遣し、呉が後方から兵糧などの物資の輸送と三国が協力してこの事態に当たることとなった。
そして、出立を明日に控えたある日。
「どういうことなんだ!」
そう一刀が怒鳴り込んできたのは、午後の軍議中でのことだった。
「なんのことかしら?」
一刀が言いたいことは分かっていたけど、私はあえてそう聞いた。
「何で、五胡撃退への遠征軍に俺の名前がないんだ!」
「北郷は警備隊だろう?遠征にお前の名前がなくても、おかしくないのではないか?」
秋蘭がそう、一刀に言った。
「じゃあ、何で華琳、それに3軍師を始め、魏の名だたる武将は全員参加してるんだ!?」
「何?」
秋蘭が厳しい顔をして私の方を見てきた。
「華琳様。それは一体どういうことなのでしょうか?」
私は瞳を閉じて一息ついたあと、秋蘭からの問いかけに答えた。
「どうということもないわ。一刀の仕事は警備隊の隊長。だから今回の遠征には参加させない。ただそれだけのことよ。」
私は出来るだけ冷徹にそう言った。
「じゃあ、何で凪や沙和は参加するんだ。あいつらだって警備隊じゃないか!」
一刀は私の方を睨むようにして言った。
「あの子たちは、ちゃんと武将として使えるもの。使えるものは連れて行くわ。なんて言ったって今回は敵の数が多いからね。」
そう。今回の五胡の侵攻は、これまでで最大規模で、偵察の報告では80万を超えるといわれている。いくら蛮族を相手にするといっても、敵は騎馬民族。こちらも本気で行かなければ、やられてしまう。
「それなら、俺は使えないって言うのか?」
一刀は悔しさのあまり、握った拳を震わせながら、そう言った。
「あら。あなたは凪のような武芸があるの?それとも沙和みたいにきっちりと軍を動かすことができるというの?出来ないでしょ!?出来もしないのにしゃしゃり出ようとするんじゃないわよ!」
私は一刀の目を見据えて、言った。
「・・・あの時。・・・俺が帰って来た時にずっとそばにいろって言ったのはウソだったのか?」
胸が締め付けられた。
「・・・・・・話はそれだけね。ならあなたは自分の仕事に戻りなさい・・・。」
震える声をなんとか悟られないようにして、私は一刀に言った。
「・・・」
一刀はしばらく私を見つめていたけれど、しばらくして、
「・・・・わかった。」
そう言って部屋を出て行った。
その後ろ姿は悲しそうで、切なそうで、少し震えているように見えた。
「・・・」
その場にいた秋蘭や桂花、稟に風、その他の文官たちは私がしゃべるのを待っているように押し黙っていた。
「・・・さて、軍議を続けるわよ。」
私は出来るだけ落ち着いて聞こえるように、そう言った。
その日の夜。秋蘭が私の部屋にきた。
「華琳様。少しよろしいでしょか?」
そう言った秋蘭の声は、少し暗く。
これからなされるであろうやり取りに、私は気が重くなった。
「開いているわ。」
そういうと、秋蘭が扉を開けて入ってきた。
「失礼します。昼間の件についてお尋ねしたく、参りました。」
秋蘭はそう言って頭を下げると、私がいる寝台の前まで歩いてきた。
「北郷・・・いえ、一刀のことについてです。」
わかっていたことだけど、その言葉は私の気を重たくさせた。
「何かしら。一刀が不参加の理由はあの時ちゃんと言ったはずよ。」
自分の言ったことが矛盾していることは分かっていたけど、私は、秋蘭にそう答えた。
「華琳様・・・。わかっておられるとは思いますが、あえて私の口から言わさせていただきます。」
秋蘭は一息入れると、話を続けた。
「華琳様はあの時、一刀の武芸、軍の指揮能力が劣っているから、今回の遠征には連れて行かないとおっしゃいました。確かに一刀の武芸はまだ未熟ですし、指揮についても同じくでしょう。しかし、一刀はこちらに戻ってきてから、凪や霞などと武芸の稽古を続けておりますし、今では沙和に勝つほどの腕前です。指揮についても、目を見張るほどの活躍こそ見せませんが、先の三国での戦いの時の様に、無難に指揮もこなせます。」
秋蘭はそこまで言うと、私の目を覗き込んだ。
「華琳様もそのことはお分かりになっていたはずです。今回の遠征で、一刀を参加させない本当の理由は何なのですか?」
そうやさしく言う秋蘭の声に、必死に私の中に抑え込んでいた感情が溢れ出そうになった。
「・・・」
私は必死に、その感情を抑え込んで、秋蘭の問いに答えようとした。
「・・・もう。いやなのよ・・・・。」
声が震えていた。
「・・・もう。一刀が消えるのはいやなの!」
感情を抑え込むことができなくなっていた。
「もう、前の時みたいに一刀が知っている歴史が変わると言ったことはないかもしてないけど・・・・だけど・・・。一刀を大きな戦いに出したら、それがきっかけでまた一刀が消えてしまうかもしれない・・・。そんなの・・・そんなの嫌なのよ!!」
一刀が消えてしまうかもしれないという不安を、止めることができなかった。
「戻って来た時、一刀はもう、離れないって言ったけど、そんなのどうなるか分からないじゃない・・・。もし・・・もし前みたいに消えてしまったら・・・。消えてしまったら・・・私は・・・・。」
抑えることができなくなった感情が、目から溢れて来た。
秋蘭は、そんな私を抱きしめて言った。
「・・・だから、今回の遠征には一刀は参加させないのですね?」
「・・・・えぇ。そうよ・・・。」
それは、覇王としての私ではなく、女の子としての私のわがままだった。
それが分かっていながら、秋蘭の腕の中で私は涙を拭いながらそう答えた。
「・・・わかりました。他の武将たちには私から話しおきます。」
「秋蘭!一刀には・・・!!」
「わかっています。皆にも一刀には言わぬよう、言っておきます。」
一刀がいない間、自分もつらいのに私や春蘭を慰めてくれていた秋蘭にまた甘えてしまった。
「・・・秋蘭。今夜は閨をともにしなさい。」
甘えてしまった自分への恥ずかしさから、私はそう言った。
「・・・ふふ。御意。」
秋蘭は微笑みながらそう答えた。
今日は秋蘭への感謝の気持ちをこめて、うんと可愛がってあげよう。そう思った。
次の日、私は一刀と話をしないまま、遠征へと出立した。
・・・続く
あとがき
どうも、komanariです。
恋姫のSSは前作「白蓮のメルト」から少しあきましたが、やっと新しいのが書けました。
多くの他のキャラなどへのリクエストもいただいていたのですが、
今回は華琳のお話を書かせていただきました。
とは言ってもまだ完結してないんですけど・・・
えっと、出来るだけ早く書きあげたいと思っています。
もしかしたら、皆様のお持ちになっている華琳様へのイメージと少しキャラが異なるかもしれませんが、多めに見ていただけると嬉しいです。
僕なんかの作品に期待をしてくださっている皆様を裏切っていないかとても心配ですが、
頑張って書いていきたいと思います。
今回も作品を閲覧していただきありがとうございました。
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何番煎じかわかりませんが、魏ルートのアフターを華琳様メインで書いてみました。
少し短いですが、書いてみたので投稿します。
もしかしたら、他の方のお話とかぶってしまっているかもしれませんが、そうだったらご指摘をお願いします。
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