No.69212

女の子として、覇王として 3

komanariさん

3作目です。

予告ではこれで終わるはずだったのですが、書ききれませんでした。すみません。

なので、もう1話あります。

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2009-04-18 01:22:36 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:13860   閲覧ユーザー数:10559

華琳たちが出発してからしばらくして、北方の異民族防衛線である長城から、早馬が来た。

 

「申し上げます!北方より異民族の軍勢約10万が長城に進撃してきました!!!」

 

その報告を受けた俺は、すぐ様華琳たちと、南方で華琳たちに物資を送っている呉に援軍要請の伝令を出した。

 

早馬の人の話では、長城に向かってくる大量の土煙が確認され偵察を出すと、異民族の(この時期に動いてきたということは、おそらく五胡の軍勢だと思われるが)軍勢であったということだった。

 

五胡の軍勢であるなら、おそらく目標はここ洛陽。その目的は洛陽の占領か破壊か、そこまでは分からないけど、軍勢が現れた長城からまっすぐ南下したところにあるここが目標であることはほぼ間違いないだろう。

 

報告によれば、敵がここに到着するまであと4日というところだった。

 

今回の敵の狙いが洛陽陥落にあるとするなら、民の人たちを逃がすことができるのは3日後まで、しかし、この読みが間違っている可能性もあるから、慎重に考えると、明後日までは民の人たちの避難を行える。

 

おそらく明後日までで洛陽のすべての民を避難させることはできないだろうけど、それでも、少しでも避難させておくことにこしたことはない。

 

そう考えた俺は、洛陽に残っていた武官・文官の人たちにそのことを相談した。

 

文官の人たちについては、通常の政治を行うために洛陽に多く残っていたが、武官については、警備隊の部隊長を含めても、あまり多くいなかった。

 

彼ら(彼女ら)に相談して、民の人たちの件は了承してもらい、明後日までに出来る限り避難させることが決まった。

 

次に考えたのは、どうやって防衛するかについてだった。

 

援軍の要請は華琳、それに呉に対して送ってあるが、おそらく早く到着するであろう呉の軍であっても、到着するのは早くても6日後以降。華琳たちに関しては20日後以降だろう。

 

つまりは、少なくとも敵の軍勢が洛陽に到着してから、2日はここを守らなくてはならない。

 

今洛陽に残っている兵力は正規軍、警備隊、予備役を含めてもおよそ3万弱。

 

はっきり言って厳しいとしか言いようがなかった。

 

魏の精兵3万弱ならまだそこまで悲観しなくてもよかったのだけど、今回は畑違いの警備部隊と、退役後、そして軍に入りたての人たちなどの寄せ集めの軍隊だから、実際どうなるか分からなかった。

 

「御使い様・・・」

 

そう不安そうにまなざしで皆が見つめてきていた。

 

「大丈夫。3日間守りきればきっと援軍が来てくれる。それまで何とか持ちこたえよう。」

 

先の戦時中に華琳から学んだこと、援軍が来る時期は若干遅めに伝えておくということ。

そうすることで、援軍が遅れたときの士気低下を起こさせないようにする。

 

そのことを踏まえて、3日と言ったけど、実際3日でさえ援軍が来てくれるかどうか不安だった。

 

 

話がまとまると、早速準備に取り掛かった。

 

文官・武官の人たちに軍の編成や城壁の補修などを頼み。俺は民たちを落ち着かせるために、町の長老たちを集めて、話をした。

 

「知っての通り、ここ洛陽に向けて現在敵軍が進撃中だ。おそらく、ここに来るのは4日後になると思う。」

 

長老たちは少しざわついたけど、すぐに俺の話に耳を戻してくれた。

 

「そこで、すべての人たちは無理だけど、出来る限りここから避難してもらいたい。その期限は明後日まで、それ以降は避難中に戦闘に巻き込まれる可能性があるから、城内に避難してもらうことになる。出来る限りみんなを戦闘に巻き込みたくはない。かといって、我さきにと城門に人が集中してしまっては、避難できる人数が少なくなってしまう。」

 

俺はそこまで言って、少し間をおいた。

 

「だから、今回は俺たちの指示に従ってほしい。そのことを民のみんなに説得してほしいんだ。頼む・・・」

 

そう言って俺は頭を下げた。

 

「・・・わかりました御使い様。皆の説得はわしらがやりましょう。」

 

「いつも御使い様にはよくしてもらっておるしな。それに、今回の件も皆を思ってこそのお願いじゃ。それを聞かぬわけにはいくまい。」

 

「わしも御使い様のお願いを断ったなどと孫に知られたら、一生口を聞いてもらえなくなってしまうわい。」

 

「はっはっは。確かにそうじゃな。」

 

長老の人たちは口々そう言って、説得を引き受けてくれた。

 

「ありがとう。」

 

俺はもう一度頭を下げた。

 

 

 

次の日の日の出とともに、避難は開始し、町ごと順番に避難してもらった。

 

長老たちの説得のおかげでこれといた混乱もなく、スムーズに避難は進んで行った。

 

また、昨日の段階で長老の話を聞いて、洛陽に残ると言ってくてた人々が多数いたおかげで、計算上、それ以外の人々はすべて避難できるようになった。

 

そうした人々にも礼を言いに行ったところ。

 

「いつも世話になってる御使い様が頑張ってるんだから、これぐらいしなきゃ罰があたりますよ。それに、人手はあっても困らないでしょう?」

 

そう言ってくれる人たちに、少し目頭が熱くなった。

 

華琳が守ろうとした民たちの平和。その民たちの温かさに触れて、俺は「この人たちを守ろう。」という決意を新たにした。

 

 

 

 

 

 

華琳の、いや曹魏の民たちの温かさに触れて、俺はふと華琳のことを思った。

 

民たちのことを思って行動していた覇王としての華琳。

 

その華琳の中にいる女の子としての華琳。

 

その存在を知って、その女の子を愛し始めたのは今から何年前のことだったか。

 

一度は彼女を、女の子としての彼女を泣かしてしまったけど、またこうして戻ってくることができた。

 

今度は前みたいに守ってもらうだけじゃなくて、守りたくて、役に立ちたくて、がんばって稽古を積んだ。

 

けれど、実際に守ろうと、役に立とうと思った戦いに俺は連れて行ってもらえなかった。

 

言い寄ったとき、華琳は覇王の口調で、俺は使えないからと言ったけど、頭を冷やして考えれば、あの言葉は覇王としての華琳の言葉じゃなかった。

 

自慢ではないけど、一応部隊の指揮は先の戦争の時もやっていたし、武芸だって最近では沙和に勝つこともできた。

 

それを使えないと言った華琳。覇王の言としては矛盾点が多すぎる。

 

そう考えればあの言葉は、女の子としての華琳が、俺を遠征に参加させたくないと、必死で駄々をこねていた。そんな言葉だったのだとわかった。

 

じゃあ。その理由は何なのだろう。

 

あの華琳が覇王としての判断をすべきところで、女の子の駄々を優先した理由。

 

考えこんだ俺の頭に浮かんだ答えは、うぬぼれが過ぎるものだった。

 

 

 

華琳が俺を参加させたくなかった理由。

俺の頭が出した答えは、「俺がまた消えることを恐れたから」だった。

 

 

 

前に閨で秋蘭から聞いたことがある。(もちろん、秋蘭からこのことを聞いたということを、華琳に悟られないようにという約束付でだけど。)

 

華琳は俺がいない間、何度となく涙を流して俺を呼んでいたらしい。

 

それも、一人のときだけでなく秋蘭の前でも涙を流していたということだった。

 

それがたとえ秋蘭であったとしても、あの華琳が人前で涙を見せるなんて考えられなかった。

 

「一刀がいなかったことが、それだけ華琳様の御心を傷つけたのだ。そのことを忘れずにいてくれ。・・・もちろん、私もお前がいなくなって悲しかったがな。」

 

それを聞いた時は、華琳を傷つけてしまったことを償うために、もう2度と傷つけないために、ずっと一緒にいよう。とただそう思っただけだったけど、今考えれば、それだけの心の傷があったら、「俺が消える」ということに敏感になっている可能性は十分にあった。

 

俺が消えたときの理由は、俺が自分の知っている歴史を変えたこと。

 

その直接的原因は、定軍山の戦いと赤壁の戦いのときに、俺が華琳に俺の知っている歴史を話したことだけど、トラウマを持ち、「消えるかもしれない」という可能性に敏感に反応するのであれば、大きく歴史を変える可能性のある「戦い」そのものから、俺を遠ざけようと考えてもおかしくはない。

 

これが、俺が考えた理由だった。

 

 

 

(もし、俺の考えてる理由で正しいのであれば、今回の防衛戦を成功させれば、少なくとも戦いに参加することで俺が消えることはないって証明になるな。)

 

好きな人のことを考えていると、楽観的な意見がでてきた。

 

俺が消える、消えない以前に、ここで守り切れなければ俺は2度と華琳に会うことができなくなる。

 

そうなってしまったら、こっちに帰って来た時に華琳と約束したこと。そして、秋蘭の話を聞いた時に心に誓ったことを守れなくなる。

 

(そうならないためにも、とにかく頑張らないと。)

 

俺は自分の頬を叩いて気合いを入れた。

 

(大事な民の人たちのために、それに俺の大好きな人たちのために、踏ん張ろう!)

 

俺の心の中にあった華琳へのしこりを取ることができて、一層気合いが入った。

 

 

 

 

「警備隊、予備役、その他各兵力の再編と武具の点検、終わりました。」

 

「うん。ありがとう。」

 

そう言って受け取った報告書にうれしい誤算が書いてあった。

 

それは、洛陽に残っていた少数の正規軍の中に工兵部隊が若干いたことと、真桜の工房に、防衛戦の時に使う兵器がいくつかあったことだった。

 

中には、前の戦争の時に呂布に綱を切られた兵器の改良版もあったようだった。

 

「これなら、何とかなりそうだな。」

 

うれしい誤算が、俺の気持ちを明るくした。

 

 

 

 

 

敵の進撃の報告を受けてから、3日目。

 

昨日までで予定していた通り、避難する民たちはすべて避難を完了し、今洛陽に残っているのは、文官、武官、兵、それに残ると言ってくれた人たちだけだった。

 

その数は、民も含めて約5万。

 

残った民たちは自ら資材の移動や、炊き出しなどの手伝いを買って出てくれ、正規軍を中心に警備隊、予備役の兵たちへの防衛戦に向けた訓練などが行われた。

 

 

 

 

 

4日目、ついに敵軍が姿を現した。

 

報告にあったと通りその数はおよそ10万。

 

部隊編成は、ほとんどが騎馬部隊で、ここまでの移動速度を第1に考えたといった感じだった。

 

「みんな!いよいよ戦いが始まる!!敵は俺たちより多いが、こちらには難攻不落の城壁と真桜が作った防衛用の兵器がある。それに、俺たちが耐え忍べば必ず援軍が来る!!だから、それまで、何としてもここの守るぞ!大丈夫!こちらには天の加護がある!みんながあきらめない限り、俺たちは決して負けない!!!!!」

 

いつもなら、自分から「天の加護」なんて言わないけど、この場合は少しでも士気を上げるために、使える要素はすべて使うしかなかった。

 

「「「・・・「「「おぉーーーーーーーー!!!!!!」」」・・・」」」

 

兵と残った民たちの雄たけびが響き渡った。

 

 

 

「報告!敵軍。陣様を整え、間もなく攻撃を開始する模様です!!」

 

先ほどの団結式のあとしばらくして、物見の兵からそう報告があった。

 

「くるか。・・・全軍!戦闘準備!!!」

 

俺がそう叫ぶと、兵のみんなが弓をもった。

 

敵はここまでの行軍に使った馬から降り、おそらく攻城戦のために持って来たのであろう破城鎚を中心においた陣形をとった歩兵の部隊を東西南北かく1の計4部隊をおき、さらにそれらの部隊の前に、ひと部隊ずつ騎馬射手と思われる騎馬部隊を配置していた。

 

陣様から見るに、騎馬部隊の機動力を生かし、こちらの弓兵に狙いを絞らせないように町の周りをぐるぐると回りながら、だんだんとその輪を狭め、こちらの戦力を削ぎ、その後に破城鎚で城門を破壊するといった作戦のように思われた。

 

「敵軍!来ます!!!」

 

物見からその声が聞こえたかと思うと、馬蹄の音を響かせながら騎馬部隊が、城壁の周りを回り始めた。

 

「やっぱりか・・・。みんな!!敵は機動力を生かしてこちらの矢をよけつつ射かけてくるつもりだ!!敵は部隊で動いているから、無理に各自が狙うのではなくて、俺の指示で、敵部隊が正面を通る時をねらって一斉に矢を放つんだ!!それまでは、無駄に矢を打つな!!」

 

俺は北門付近で指揮をしていたので、南、東、西、各部隊長に同じ指示を伝えるように伝令を走らせた。

 

そうこうしているうちに敵はだんだんと輪を狭めてきて、とうとう、矢が届く距離まで近づいてきた。

 

シュッ!!

 

1本目の矢を射かけ始めたかと思ったら、一斉に敵の斉射が始まった。

 

「まだだ!まだ打つな!!」

 

敵部隊はやっと、3分の1がこちらの正面に入ったところだった、放ってから矢が届くまでの時間も考えて、敵の3分の2が正面に入ったところまで待たなくてはいけなかった。

 

「うあぁ!!」

 

近くの兵が、敵の矢にあたり悲鳴を上げた。

 

「負傷者はすぐにさがれ!衛生兵!けが人を運べ!!」

 

そうこうしているうちに部隊の半分が、正面に入っていた。

 

「隊長!!まだですか!!!!」

 

警備隊の兵から催促が来たが、まだ打たせるわけにはいかない。

 

「・・・・」

 

こちらは最小の動きで、敵に最大の痛手を与えなくては、洛陽を守り切れない。

ただでさえ、攻城戦の基本である守る側の3倍以上の兵力を持っている敵軍に対して無駄な動きを見せれば、そこから攻め崩されてしまう。

 

「隊長!!」

 

その時、敵部隊の3分の2が正面に入った。

 

「今だ!!全員正面に向かって一斉射せよ!!!」

 

ビュンッ!!!

 

無数の弦を放つ音とともに、一斉に矢が放たれた。

 

「全員、次の斉射まで物陰に隠れよ!!」

 

そう指示を出してから、城壁の外を見ると、ちょうど、敵部隊のすべてが正面に入るところだった。

 

そして、敵部隊が正面に入った瞬間。それまで整然と走っていた騎馬部隊のうち、3分の1ほどの数が、その場に落馬し、辺りを赤く染めた。

 

「よし!効いているぞ!!」

 

その光景に、兵たちの士気が上がった。

 

だが、そう何度も同じ手が通じる相手ではなかった。

 

1度目の一斉射ののち、3回斉射を行ったが、はじめほど敵騎馬部隊を減らすことはできず、むしろ、こちらの一斉射のタイミングを読んだ敵の攻撃によって、こちら側も多くの死傷者が出た。

 

「敵主力部隊。突撃してきます!!」

 

物見からの報告が入るとすぐに、敵軍の雄叫びが聞こえた。

 

見ると、破城鎚を中心とした部隊が、門に向って突撃して来ていた。

 

「みんな!破城鎚が来るぞ!!至急火矢と投石の準備をせよ!!」

 

「「「は!!」」」

 

指示を出したあと、少ししてから敵の先陣が城壁取り付いてきた。

 

「投石部隊!投石を開始せよ!!」

 

その言葉とともに、城壁の上から、いくつもの岩が敵の頭上に落とされていった。

 

「ぐふぅ!」

 

投石を行った兵のうち何人かが矢に倒れた。

 

「なにがあった!?」

 

見ると、先ほどまで、歩兵部隊の前にいた騎馬部隊が、今度は歩兵部隊の後方を回りながら、こちらに矢を射かけていた。

 

「くっ!弓矢隊!投石部隊を守るため、火矢を準備する者以外は後ろの騎馬隊を狙え!!」

 

先ほどまでは、正面に入ったところで一斉射をしていたから、狙いをつけなくても良かったが、今回は投石部隊を守るために射かけるために、狙いを定めなくてはならなかった。

 

そうなると、騎馬部隊の機動力は最大の効果を発揮する。

 

「ぐあぁ!!」

 

こちらからは、狙い難くても、もともと騎乗射をしていた敵部隊はこれまでと変わらない。

 

投石部隊の人数が減っていくばかりだった。

 

「ちっ!作戦を変更!火矢を準備している以外の弓矢部隊うち、半数は盾を持ち、その盾と城壁で壁を作れ!」

 

現代でいうトーチカのように、ジグザグになっている城壁の低い所に盾を備え、石を落す隙間以外からは矢が投石部隊に届かないようにした。

 

「敵、破城鎚!門にとりつきました!!!」

 

その報告があった次の瞬間。

 

ドゴォーン!!!

 

門を突く破城鎚の音がこだました。

 

「弓矢部隊!!火矢の準備は!!!?」

 

「・・・・整いました!!!」

 

少し間をおいてから、そう返事があった。

 

「よし!投石は一時やめ!!先ほど盾で作った隙間から敵の破城鎚を狙え!!3・2・1、斉射!!!」

 

赤く燃える炎に風を受けながら、火矢が破城鎚をめがけて放たれた。

 

サクッ!!

 

いくつもの火矢が破城鎚に突き刺さるとともに、破城鎚に炎が広がった。

 

炎が広がった破城鎚はすぐ様、敵陣の奥に下げられ鎮火作業が行われていた。

 

ふと、空を見ると、太陽がもう沈みはじめていた。

 

「みんな!!あともう少しだ!あともう少し耐えれば今日の攻撃は終わる!!!」

 

「「「「おう!!!」」」」

 

破城鎚を退けられた敵は、しばらくは城壁に取り付き攻撃を仕掛けていたが、夕日にあたりが染まり始めると、今日はこれまでと言ったように、引きあげて行った。

 

 

その夜。東西南北の各部隊の被害報告を聞いたところ。

 

我が軍全体の死傷者はおよそ2万5千。そのうち死者が3000人というのは、まだ救いだったが、あとの2万2千のうち重傷者が5000人で、明日の戦闘には参加できそうなのは負傷者も合わせて2万2千だった。

 

また、報告の中に投石用の岩が不足してきているというものがあった。

 

そこで、俺は小麦粉を水にといた物を鍋に入れ火にかけて熱したものを用意させた。

 

糧食については、あと2年分ぐらいあったので、それぐらいの小麦粉を使っても問題はなかった。

 

「御使い様。これをどうするのですか?」

 

西門を守っていた部隊長がそう不思議そうに聞いてきた。

 

「これを、敵兵にかけるんだ。熱く熱したこれをかけられたら、敵はおそらく大やけどを負って戦えなくなる。」

 

日本の戦国時代。徳川の大軍に攻められた真田昌幸が行った方法を真似たものだけど、こっちはあんまりお米がないから、小麦粉で代用した。

 

「なるほど。」

 

部隊長は納得した様子でうなずいた。

 

俺は、そのようにして作った鍋をいくつも用意させて、各門に配置した。

 

また、今日は使わなかった真桜が作った兵器も夜のうちに、各城壁に設置させた。

 

 

 

 

 

次の日。太陽が東の空の中腹まで上がったところで、敵軍は再び攻撃を始めた。

 

昨日とは違い。最初から歩兵部隊を前に、騎馬部隊を後方において、城門へと突撃を開始した。

 

「全部隊。特殊兵器使用開始!!!」

 

敵兵が城門にといついた時点で、俺はそう指示を出した。

 

この兵器は、蜀との戦いのときに使ったものに真桜が改良を加えたもので、前回恋(一応、真名は許してもらった。)によって切られた綱の部分が鎖に変えられており、また、巻き取りの時に必要な人数も前より少なくなっていた。

 

ドォーン!!

 

轟音とともに下に落とされる丸太。

 

そしてそれを巻き上げるときに丸太にしがみついている兵に向かって、昨日から用意していた熱い小麦粉汁をかける。

 

そうすることで、かけられた敵兵を落とし、また、丸太にしがみつき難くすることができた。

 

「破城鎚!来ます!!」

 

ドゴォーン!!!

 

物見からの報告のあと、昨日と同じ音がこだました。

 

「火矢部隊。破城鎚を燃やせ!!!」

 

その号礼とともに、破城鎚に火矢が射かけられた。

 

サクッ!!

 

昨日と同じように、火矢が破城鎚に刺さった。

 

しかし、昨日と同じ様に燃え広がることはなく、突き刺さった点でのみ燃えているだけだった。

 

「破城鎚燃えません!!」

 

昨日の失敗の後、おそらく破城鎚の全体を濡らすことで、火矢対策をしてきたようだった。

 

「くそっ!工兵部隊をよべ!!大至急北門に破鎚を設置させろ!!」

 

破鎚とは、真桜の工房で見つけたもう一つの兵器のこと。

 

なんで俺がそう呼んでいつかというと、真桜が使っているドリルをそのまま大きくした物に鎖をつけて、城壁から下に落下させ、破城鎚を破壊するという兵器で、その名の通り、鎚を破壊する兵器だからだ。

 

なぜはじめから使わなかったのかというと、この破鎚は丸太のものと違い、たった一つしかなく。また、その設置に今いる工兵部隊全員を要するために、火矢で対処できる場合は火矢で破城鎚に対処しようと考えていたためだった。

 

「工兵部隊到着しました!!」

 

「よし。投石部隊!半数を工兵部隊の援護に回せ!!工兵部隊に敵の攻撃を当てさせるな!!」

 

岩自体が少なくなってきていた投石部隊の半数を工兵の部隊の護衛に回した。

 

「弓矢部隊の半数は槍を持て、はしごとかけてくる敵兵をたたく!!」

 

工兵部隊の守備に充てた分の穴埋めを弓矢部隊にさせなければならないのは、やはり厳しいが、ここで押さえなければ、敵兵の侵入を許してしまう。

 

「どぉりゃあー!!」

 

俺も自ら槍をもって、はしごを上ってくる敵兵をついた。自らの手で初めて人を殺めた。

 

人を殺す覚悟は、こちらに戻ってくるときにして来てきたが、実際に行うのと覚悟を決めただけでは、全く違う。

 

「はぁあああ!!」

 

そうした思考すらもする暇がなく。俺はただ、上ってくる敵兵を突きつづけた。

 

「破鎚。準備整いました!!」

 

工兵部隊からのその報告を受けて、俺はすぐにその使用を指示した。

 

「ここの破城鎚を壊した後に速やかに破鎚を撤収し、他の門での使用に備えよ!破鎚・・・落下!!」

 

俺の号礼とともに破鎚がドリルが回転する轟音とともに、落下した。

 

バキッ!!!

 

落下と同時に下にあった破城鎚が破壊され、速やかに破鎚が巻き上げられた。

 

「破壊完了!速やかに撤収します!!」

 

先ほどの指示の通りに、工兵部隊が撤収作業に入ったとき、伝令が走り込んできた。

 

「南門より報告!!敵軍の後方、約20里に砂塵あり!!」

 

「南方ということは・・・・」

 

俺がそう考えていると、さらにもう一人伝令が飛び込んできた。

 

「み、南門より報告!敵後方の砂塵は軍勢であることが判明。旗は赤地に孫!!援軍です!!!」

 

「やった!!」「援軍が来たぞぉ!!」

 

それを聞いていた兵たちから歓喜の声が上がった。

 

「よし。お前たちは東門、西門にこのことを伝えてくれ!みんな!あと少しだ!!踏ん張れ!!!」

 

「「「「おう!!!!」」」」

 

援軍が来たことによる士気向上のおかけで、何とか俺たちは門を守りきることができた。

 

 

 

その後、援軍として駆け付けた雪蓮(こっちも真名は許してもらいました。)率いる呉軍5万に不意を突かれた敵南門部隊が壊滅。その後、攻城戦のために歩兵中心の部隊に変更していたことがあだとなり、敵兵は、孫呉の軍勢に蹴散らされていった。

 

 

 

 

 

「かーずと!おまたせ~。」

 

敵を蹴散らしたあと、雪蓮たちを洛陽に迎え入れると、雪蓮が声をかけてきた。

 

「雪蓮。ありがとう!援軍が早く来てくれたおかげで、何とか守りきることができたよ。」

 

「えへへ。まぁあたしたちは同盟国同士なんだし?助けに来るのは当然よ。」

 

雪蓮はそう言いながら笑った。

 

「あと。感謝するなら、私たちに援軍を要請しに来たあなたの部下に言いなさい。寝る間も惜しんで私たちのところまできて、“隊長を助けてください”って援軍を要請したあと倒れちゃったんだから。」

 

緊急のことだったから手近にいた警備隊の人に伝令を頼んだんだけど、そんなに頑張ってくれていたなんて、思ってもいなかった。

 

「あとで、彼にはちゃんと礼を言っておくよ・・・・。それより雪蓮。何で君が援軍に来たんだい?襄陽で物資を運んでる呉の部隊に援軍を頼んだから、たぶん祭さんか冥琳あたりが来ると思ってたんだけど・・・」

 

「うーんとねぇ。せっかくの戦いなのに今回は呉が不参加だったから、暴れられないなぁって思ってたんだけど、せめて物資の運搬ぐらいはやってれば、もしかしたら暴れられるチャンスがあるかなぁーって思って、私が来てたの。」

 

「来てたのって、雪蓮は呉の王様でしょ!?政務はどうしたの??」

 

「へ?政務??そんなの、冥琳と蓮華に任せてきたわ。」

 

そう言って悪びれもせずに、けたけたと笑う雪蓮を見て、俺は心の中で冥琳と蓮華に手を合わせた。

 

(冥琳、蓮華・・・頑張って!!)

 

 

 

 

俺たちは、敵を退けてから、負傷者も多かったこともあって呉の兵たちにも手伝ってもらいながら、洛陽の復興作業を始めていた。

 

避難していた民たちも呼び戻し、その人たちの協力もあって、洛陽は元に姿に戻っていった。

 

もちろん、華琳たちには無事に敵を撃退したことを伝令で伝えた。

 

そして、異民族侵略の報が入ってから約1ヶ月後、華琳たちが洛陽に帰って来た。

 

 

 

俺はある決意をもって華琳たちを迎えた。

 

 

 

 

 

あとがき

 

どうもkomanariです。

 

えぇ。まずお詫びから。

 

予告では今回で完結する予定だったのですが、戦いのシーンなどに予想以上に手間取り(初めてちゃんとした戦いのシーンを描いたので・・・)完結させることができませんでした。

 

予告と違ってしまってすみませんでした。

 

前作に多くのコメント・支援をくださった皆様。本当にありがとうございます。

 

毎回ですが、支援やコメントをしていただく度に「よし!頑張ろう!!」って気持ちになって次の作品を書くことができています。

 

 

さて、今回初挑戦した戦争のシーン。

 

はっきり言ってうまく書けてる自信がありませんが、お目汚しにならなければ幸いです。

 

今回はずっと、一刀のターンだったのですが、次はちゃんと華琳と一刀のふたりがメインになります。

 

次回こそは、ちゃんと完結させます。

 

あと、今回は「女の子として、覇王として」なのに、全く華琳が出てこなくてごめんなさい。

 

 

それでは、今回も閲覧していただきありがとうございました。


 
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