No.679126

島津一刀と猫耳軍師 2週目 第30話

黒天さん

今回は久しぶりに華琳さん登場です。あと桂花さんのお話もあります。

2014-04-15 23:36:23 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:8627   閲覧ユーザー数:6074

「予想外だわ……」

 

暗殺に行くって言ってたわよね、確か。

 

こちらに来た紫苑から、一刀は真正面から本陣に殴りこみをかけて目につく物を片っ端から殺して回り、

 

たった一人で袁紹軍2万を潰走させた。袁紹の首こそとれなかったものの、その片腕を奪ってきた。

 

なんていう話しを聞いて目が飛び出るかと思ったわよ。

 

……、絵巻か何かだったら確実に飛び出してるでしょうけど。

 

というか、戦利品代わりにって、転がってた袁紹の腕を持って帰ってくる紫苑もどうなのよ。

 

あと、紫苑の兵が担架に乗せてつれて帰ってきた一刀を見てもう一回驚いた。

 

死んでるかと思ったのよ!

 

だって死装束を着て血まみれで気を失ってるのよ!?

 

普通死んでるって思うわよ!

 

皆してそれ見て真っ青な顔してるし!

 

あと紫苑も悪ふざけしすぎなのよ……、胸の上で手を組ませてあるし……

 

「ご自分の足で歩けない状態なので担架で運ばせていますから、到着までもう少し時間がかかります」

 

なんて微妙な表現で言うから。その時点で紫青も朱里も真っ青。多分私も顔が真っ青になっていただろう。

 

まぁ一刀自身が死装束を着て出陣したっていう話しは後から霞に聞いたのだけど……。

 

ついてた血はほとんど返り血みたいだったし。

え? 驚いてどうしたかって?

 

卒倒したわよ!

 

するかと思ったっていうより実際したわよ!

 

おかげで私まで担架で運ばれるハメになっちゃったし、ああ恥ずかしいったら……。

 

「いい加減機嫌直してくれよ……」

 

今は一刀と仕事の合間に2人でお茶を飲んでいる。

 

現在地は前線の街。お茶飲む暇がある程度にのんびりできてるのは袁紹の本隊が潰走したおかげだけど。

 

幸いにも、一刀は運ばれてきてから半日も経つ頃には目を覚ました。

 

多少手傷は負ってたものの、かすり傷がいくつかある程度で、首を殴られてるけど、特に体に違和感は無いらしい。

 

だからほっとしてるけど、無茶をしたことには腹を立ててるわけだし。

 

今日は朝から一緒に仕事をしてるけど会話らしい会話はロクにしてないし。

 

「暗殺に行かせるだけでも正直イヤでしょうがなかったのに……」

 

ため息を一つ、これも事実。どうにか、忍者隊を数人つれていくっていう事で妥協したけど、一人で行ったっていうし。

 

「うぅ、ちゃんと帰って来たんだしそこを一つ……」

「私が……、私がどれだけ心配したか分かってるの!?

 

理由は聞いたわよ! あなたが麗ちゃんを我が子同然にかわいがってたのも知ってるわよ!

 

だからって何でたった一人で! 死装束を着て! 2万を相手に殴りこみなんてかけたのよ!

 

馬鹿じゃないの!? っていうか馬鹿よ馬鹿、大馬鹿よ! はっきりいって正気を疑うわよ!

 

あなたが死んだら何にもならないじゃない!

 

しかもよりによって死装束を着ていくなんて、霞じゃなくても死ぬ気だったんじゃないかって思うわよ!

 

ちゃんと帰って来たなんて言っても紫苑が居なかったらあなた今頃首が無いのよ!?

 

それに帰ってきてからもまた一刀が無茶するんじゃないかって皆気が気じゃないのが分かってる!?

 

分からないっていったら殴るわよ!? その足りない頭が良くなるまで!」

 

机に握りこぶしを叩きつけ、一気にまくし立てて一刀を睨みつける。

 

「……ごめん」

 

「はぁ……、もういいわ、皆からも散々怒られてるでしょうし」

 

「でも桂花に叱られるのは一番堪える」

 

「そりゃ本気で怒ってるもの。堪えてくれなきゃ困るわよ」

 

もっとも、私も含めて皆が怒ったのは私情。

 

戦果は凄まじいし、正面から殴りこみをかけた他はほぼ予定通りの行動だったし、

表向きには良い方向で評価されてる。

 

袁紹軍の本隊が潰走したおかげで張った罠の一つは無駄になったけれど、

 

武具や兵の消耗を考えれば無駄になったのはむしろ良いことだし。

「そうそう、話しは変わるけど、麗ちゃんが目を覚ましたそうよ、今朝報告がきたの」

 

「マジか、良かった」

 

「でも、妙な事を言ってたらしいのよね。なんでも、知らないおじさんが夢に出て来て

 

まだこちらに来るべきじゃない、現世まで送って行こう、なんて言ったらしいのよ。

 

そのおじさんの特徴を聞いたら、馬騰そっくりだったんですって」

 

「馬騰……か。もしかしたら天華のために麗ちゃんをあの世から追い返したのかもしれないなぁ……」

 

「……、あなたの時の事があるから、そんなばかな、とも言えないわね。ともあれ、麗ちゃんも目を覚ましたんだしもう無茶しちゃだめよ?」

 

「ハイ。……さて、そろそろ仕事に戻るか」

 

今の仕事は今後の方針案のまとめ。

 

「桂花は袁紹のこの後の動きをどう見る?」

 

「華琳の所に派遣した忍者隊からの報告では、既に袁紹軍が撤退をはじめているらしいし、

 

となればすぐにこちらに仕掛けてくるわよ。

 

天華様に袁紹から書状が届いたらしいけど、

 

許可も無しに真名を呼んだ島津北郷を引き渡せって。

 

当然、天華さんは取り合わないで、最大限の挑発でもって返せって言ったそうよ」

 

「最大限の挑発、ね」

最大限の挑発といえばアレしかない。

 

……使者の首を刎ね、首を送り返す。多分一刀も分かってる。

 

少し渋い顔をしているから。

 

きっと、天華様にそんなことはさせたく無かったんだとおもう。

 

「だから動きは早いと思うわよ」

 

「基本迎え撃つ形で戦う事になる、かな?」

 

「そうね、それが無難だわ。

 

ここまで馬鹿にされたら行動を起こさないと周囲の諸侯どころか、自分の家臣や兵にさえ舐められる。

 

そうなれば国の瓦解にすらつながりかねない

 

一刀の身柄の引き渡しだけでもさせればまだマシだったのでしょうけどね。

 

認めても居ない相手に真名を呼ばれて、訂正もさせず、相手がのうのうと生きている、何てありえない話しだし。

 

それもあの袁紹よ? 一刀みたいなおおらかな人柄の人間じゃない

 

普段の行いがアレだから、尚更に報復という行動に出せざるをえないのよ。

 

だから仕掛けて来ないというのは、考えなくていい。

 

問題はどこへ誘い出すかよ」

 

机に地図を広げて小銭をその上に並べる。

 

もっとも、どこに誘い出すかの候補は決まってるから、あとは一刀への説明だけ、という感じ。

 

小銭を軍勢に見立てて、なるべく噛み砕いて説明する。

 

といっても、はじめて出会った時ならともかく、最近はこういうことにもずいぶん慣れてきたようだから、

 

そこまで詳しく説明する必要はなかったかもしれないけれど。

 

最初の時は本当にひどかった。たいして悩むような案件でもないのに、頭を抱えて……。

「桂花?」

 

表情に出ていたらしい。

 

「ちょっと出会ってすぐの事を思い出してたのよ。あの頃もこうして細かく説明してたと思って」

 

「桂花に教わるとわかりやすくて助かってる」

 

「褒めても何にもでないわよ?」

 

はいはい、なんて言いながら私の頭に手を乗せてなでなでと。

 

ほんと、人の頭を撫でるのが好きよね。

 

昔は結構イヤだったけど、今は嬉しくてしょうがない自分がいる。

 

「とにかく、細かい所を詰めるわよ」

 

私の頭から手が離れてからそういって、地図と小銭を使っての説明を再開する。

 

……無理をしないように、といいつつも最前線に立ってもらわざるをえないのが心苦しい。

 

ただの一人であれだけの戦果を上げたのだ、袁紹軍の兵にとって少なからずトラウマとなっているはず。

 

それを利用しない手は無いんだから。

───────────────────────

 

「おひさしぶりですー」

 

「ええ、久しぶり、あなた達が来てくれて嬉しいわ?」

 

「孟徳さんも元気そうでなによりです」

 

一刀が戻ってからすぐに街を出て、天泣、天梁、そして紫青の3人は華琳のもとを訪れていた。

 

紫青の言葉に、華琳はため息をつく。

 

「今までどおり、華琳でいいわ。あなた達のおかげで私の命はあるといっても間違いではないし

 

虎牢関での離反を責める気はないのだから」

 

「いえ、私達は……」

 

「いいのよ。あなた達が一刀の忠臣だっていうのは分かっていたから。さて、それじゃあ今日の用向きは何かしら?」

 

「はい、これを。一刀様からです」

 

紫青が懐から手紙を取り出して華琳に手渡すと、

 

華琳は短刀でゆっくりとその封を切り、手紙を広げる。

 

「……、やはり、左手の具合は良くないですか?」

 

その緩慢な動作に違和感を覚えた紫青が遠慮がちに問いかければ華琳はすぐに返事を返す。

 

「ええ、でもあなた達や一刀を責める気は無いわ、ワザと当たりに行った結果だもの。

 

もっとも……、戦の最中に無理をしてここまで悪化するとは思わなかったけれど。

 

まだ肩より上に手が上がらないし、握力も以前と比べるべくもない。時間をかければ治るそうだけど、今は筆を握るのも一苦労よ」

 

手紙に目を通しながら、紫青の言葉に返事を返す。

手紙を読み終わればそれを丁寧にたたんで大事そうに懐へとしまう。

 

「……一刀らしいわ」

 

そういって薄く笑みを浮かべる。

 

「あの、手紙には何てかいてあったんですかー?」

 

「別段特別な事は書かれてないわ。

 

要約すれば、袁紹を共に打ち破ろう、援軍としてあなた達をつける、と。それだけよ」

 

ただ、前の世界でたてた誓いについて匂わせる事は書いてあった。

 

華琳もそのことは当然覚えていたし、そうでなくとも、断る気は無かった。

 

それと華琳が口に出さなかった事が一つ。

 

華琳が必要だから、今回の戦で汚名を返上し、俺の下へ来てくれ、と。そんな意味合いの事が書いてあった。

 

華琳は虎牢関での大敗で一刀を失ってから、ずっと一刀を思っていた。

 

手紙で少し弱音を吐いた事も一度や二度ではない。

 

戻ってきてこそくれないものの、そのたびに一刀は返事を返してくれて、出来る範囲で援助してくれた。

 

嬉しかったが、そのたびに会いたい、傍にいたいという気持ちは強くなった。

 

「ねぇ、紫青、ちょっと内密に聞きたい事があるのだけど……」

 

「はい?」

 

片手で合図して後ろに控えていた春蘭、秋蘭を下がらせる。紫青も、天泣と天梁に部屋から出るよううながす。

「……、一刀は、私の事について何か言ってたかしら?」

 

天泣や天梁ではなく、紫青を残したのは、華琳が知る限り、桂花の次の一刀に近い人物だから。

 

それに、こちらで一刀に出会う前に、結構な期間一緒に居たために気楽だった事もあった。

 

「いつも、気にかけていましたよ? 呉より、袁紹より、劉備より、気になるのは華琳さんのようでしたし。

 

自分に何かできることはないかとずっと悩んでらっしゃいました。

 

袁紹の侵攻の話が出た時は本当に心配してましたし」

 

「そう……」

 

「嬉しそうですね」

 

紫青の言葉に華琳は小さく笑う。

 

「……、間が悪いわよね、離れ離れになった後に全部思い出すなんて。あなたは、全部思い出したかしら?」

 

「ええ」

 

「今は……、以前と同じように、一刀の下につくのも、悪くないと思ってるわ。

 

今、一刀はどれぐらいの立場にいるのかしら?」

 

「表向きは一介の将兼文官ですけど、劉協様と仲良しですし、月さんも信頼してます。

 

実質的には一番力が強いといっても良いんじゃないでしょうか?

 

立場は下ですけど、一刀さんの言葉は、劉協様も月さんも容易に動かしてしまいますから」

 

「相変わらずの女誑し、いえ、人誑しなのかしらね」

 

「ふふ、否定はしません」

 

この後、しばしの間お互いの近況報告をしてから、2人は徐々に本題……、対袁紹軍への対策へ話題を移していった。

あとがき

 

どうも黒天です。

 

今回は戦闘の合間のお話、な感じです。

次回は多分戦闘回になります。さてさて、袁紹の運命やいかに……。

 

さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。

 

また次回にお会いしましょう。

 

 


 
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