No.676742 真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」第三十四話2014-04-06 13:43:58 投稿 / 全14ページ 総閲覧数:8543 閲覧ユーザー数:5856 |
「私は北郷、劉弁陛下の遣いで参った者です」
「陛下の?…それでは既に父のやろうとしている事を陛下はご存知なのですね?」
「はい、袁紹達をたきつけようとしているのも、五胡にまで攻め込ませようとして
いる事もね」
俺がそう言うと、劉璋さんは苦々しげに口を歪ませる。
「だから言ったのに…絶対成功するはずはないって。なのに父上は絶対うまくいく
とばかりの一点張り…そもそも武官や文官のほとんども反対しているのに張松の
甘言ばかりに耳を傾けて他の誰の話も聞こうとしない。もはやそんな人が何かを
成功させられるはずもないじゃない」
ほとんどが反対してるって…良くそんな状況であんな大それた事をしようとする
とは。もはや周りが見えていないって事か?
「それで何故あなたは此処に?」
「陛下におかれましては劉焉を止める事の出来る者は劉璋様しかいないとの思し召
しにございます。それで此処からお助けいたすべく参った所存にて」
「でもどうやって?此処からの出口は一つしかないはずです。しかもそこには屈強
な門番が…『門番ってあれですか?』…えっ!?」
劉璋が一刀の指差す方を見ると、そこには門番の大男が口から泡をふいた状態で
縛られていた。
「あの男をあそこまで…あなたはお強いのですね」
「ありがとうございます。さぁ、まずは此処から出ましょう」
「待って、此処には他にも父上に連れて来られた女の人が…」
「それなら問題ありません。あなたが此処から出た後で救出の手が入りますから」
・・・・・・・
「張任殿!劉璋様が城外に出られましたぞ!」
「よし!ではこれより成都の大掃除に入る!皆、我らに続け!」
張任と李厳の号令一下で城外に待機していた軍勢が成都の城内になだれ込む。
その頃、劉焉は王累の屋敷で泥酔して深い眠りに入っていたが、喧噪で眼を覚ま
して辺りを見ると場は混乱に包まれており、事態を理解出来ないままに身一つで
行方をくらませていたのである。張任達がそれに気付いたのは劉焉が逃げてから
二刻程後であり(泥酔していたので捕縛までする必要は無いと判断していたのが
裏目に出たのであった)、すぐに捜索の兵を出したが結局見つける事が出来なか
ったのであった。
・・・・・・・
「そうですか…父は何処にも」
「申し訳ありません、そんなに遠くへは逃げていないはずなのですが…益州全土に
すぐ捜索の手を広めますれば」
「いえ、この期に及んであの人に何か出来るとは思えません。一応、人相書きは出
しておきますが、わざわざ探し出す必要まではありません」
劉璋がそう命じた事によって、それ以上劉焉を積極的に捜索する事を打ち切られ
たのであった。
「ありがとうございました、北郷殿。あなたがいなければこうまでうまくいかなか
ったでしょう。何とお礼を言って良いやら…」
「いえいえ、そんなお礼を言われるような事は…あくまでも陛下の命で来ただけで
ございますれば」
劉璋さんに深々と頭を下げられてそうお礼を言われると何だか照れくさくなって
しまう。
「ふふ、そうですか?なら陛下に北郷殿を益州に遣わしてくれた事を感謝しなけれ
ばなりませんね。でもそれはそれとしても、北郷殿にもお礼をしなければなりま
せん。お礼にもならないかもしれませんが、私の真名である『鈴音(すずね)』
をあなたにお預けします。これからは鈴音と呼んでください」
「鈴音様には及ばないかもしれないが、この張任の真名『摩利』も預けよう。気軽
にそう呼んでくれ」
「私も真名の『燐里』をあなたにお預けします。何卒よしなに」
いきなり劉璋さんと張任さんと法正さんに真名を預けられて俺の頭は少々混乱し
ていた…いいのかな、これで?
「え、ええっと…ありがとう。俺の事は一刀と呼んでください」
俺はそう言うのが精一杯であった。
しかも何だか輝里が頭を抱えながらジト眼でおれを睨むし…どうしたら良いんだ
ろうか?誰か教えてくれ…。
その次の日、鈴音によって益州全土の各武官・文官に召集がかけられ、数日後に
は主だった者が成都に集まっていた。
「北郷殿、今回の働きも見事じゃったようだな」
その場にいた俺に真っ先に声をかけてきたのは厳顔さんだった。
「いえいえ、むしろ俺の行動を読んで色々やってくれた摩利さん達のおかげですよ」
「ほぅ、既に摩利からも真名を預かったか…そちらも見事だな。あやつは真名に関
しては人一倍厳しい奴なのだがな」
「それは鈴音様が一刀をお認めになったからだよ」
そこにやってきた摩利さんがそう厳顔さんに言う。
「ならば鈴音様も既に?」
「ああ、珍しいだろう?今まで殿方に真名を預ける事など一度も無かったあの鈴音
様がね。何せ李厳ですらまだ預けてもらっていない位なのにな」
「なるほどのぉ。そこまでのお人なれば、儂も北郷殿に真名を預けよう。これから
は『桔梗』と呼んでくれ」
「あ、ありがとうございます、桔梗…さん。俺の事は一刀で良いです」
…次から次へと、この状況に少々ついていけないのだが。俺に真名を預けるだけ
の価値も働きも無いはずなのだが?
「一刀さん…鈍いのはもはやどうしようもないのは分かりますが、さすがに少しは
自覚してください。そこまで鈍いのは逆に罪ですよ」
輝里がため息をつきながらそう言うが…結局、俺には理解出来なかった。
「皆、静粛に。これより劉璋様よりのお言葉があります」
摩利さんの一言でその場が一気に静まり返る…そこはさすがだな。
「皆さん、今日は集まってくれてありがとうございます。この度は我が父劉焉、並
びに私自身の不手際により、皆さんに多大なる迷惑をおかけした事を深くお詫び
します」
鈴音はそう言って深々と頭を下げる…少々不謹慎な事ながら、その瞬間にフラッ
シュが沢山たかれる場面を想像してしまった。
「父劉焉は自ら皇帝にならんと欲し、陛下の信任厚い董卓殿を逆賊扱いにして袁紹
達に討伐させようと画策しておりました。もしかしたらこの中にも父に従って行
動していた者もいるのかもしれません。しかし私はこれ以上余計な動乱をこの大
陸に起こす事を好みません。よって私は持てる全ての力を以て劉弁陛下に忠節を
尽くし、この大陸に平穏を取り戻す為の一翼となる覚悟です。もしそんな私に従
えないという者がいるのであればすぐに申し出てください。例え次に会うのが戦
場になろうとも、その結果私が命を失う事になろうとも決して恨みには思う事は
ありません」
鈴音のその言葉に場は静まり返る。集まった者達の中にはバツの悪そうな顔をし
ている者もいるが…おそらく鈴音の言う『劉焉に従って行動していた者』なのだ
ろう。しかしこの場で鈴音に従えないなどとはおそらく言えないだろうな…劉焉
に従っていた事自体が己の私利私欲っぽい感じがするしな。
それから小半刻程、鈴音は何も言わずにじっと見つめていたが、結局誰一人申し
出る者はいなかったのであった。
「劉璋様、どうやら皆あなたに従うようです」
摩利さんがそう言うと鈴音はふぅと一つ息をついて、
「そうですか…良かった。皆、ありがとう。これからもよろしくね」
そう言ってニコッと笑う。その瞬間、その場に居並ぶ文官・武官達(特に男共)
の顔が一気に耳まで赤くなる。そして、
『劉璋様の御為に!!』
一斉にそう言って跪く。
「凄いな…あんなに一斉に」
「あれが鈴音様のお力です。益州に住む者は皆あの笑顔が好きなのですよ」
「へぇ、じゃ燐里も?」
「ふふ、そうですね。主君としてとても敬愛してますけど…でも、私は一刀様の笑
顔も好きですよ」
燐里はいきなりそう言って微笑む。えっ!?…もしかして、いきなりの告白?
「ちょっ、燐里!いきなり何言ってるのよ!?一刀さんは私の…」
「まだ違うんでしょ?それに私は側室でも妾でも気にしないから」
燐里がそう言ってすました顔をしている横で輝里がとんでもなく険しい表情をし
ていた…この場合、俺はどうしたらいいのだろうか?
「一刀殿、本当にありがとうございました。改めまして我ら益州劉家一同、お礼を
申し上げます」
それから半刻後、別室に移った俺の前に鈴音以下益州の重臣一同が並んで礼を取
る…変に緊張する場面だな、これ。
「あ、あの…本当にそこまでしてもらわなくても大丈夫だから」
「いいえ、本当ならばこの程度で済むものでは無いですから」
「そうだぞ、一刀君。本来ならばもっと盛大なもてなしと沢山の贈り物をする位の
物なのだよ。私があと五~六歳若ければこの身を一晩差し出す所なのだがな」
えっ!?…摩利さんが一晩俺と…ゴクリッ『ドゴッ!』
「痛っ!?何するんだ、輝里!?」
「そんなの自分の胸に聞けば良いんです、ふんっ!」
突然輝里が俺の脇腹に肘打ちをしてくるので抗議の声をあげたのだが、輝里は不
機嫌な顔でそっぽを向いてしまっていた…俺、何か悪い事したのか!?
「はっはっは、若いな輝里殿は。一刀君程の良き男ならばもっと多くの美女が周り
にいるのではないのか?」
「いえいえ、そんなに女性にモテた経験なんてありませ『ガンッ!』…痛っ!?」
俺がそこまで言いかけると輝里は今度は俺の足の甲を思い切り踏みつける。俺が
涙目で抗議の視線を送っても仏頂面のままそっぽを向いているままであった。何
故俺がこんな目に…誰か教えて!?
「え、ええっと…お話を続けてもよろしいでしょうか?」
それまで展開についていけずにいた鈴音がおずおずとそう聞いてくる。
「は、はい、申し訳ありません。どうぞ」
「コホン、それでは…我ら益州劉家一同は皇帝陛下に対し改めまして忠節を誓う所
存です。しかし父のやった事を考えれば、ただ言葉や書状で伝えた所で納得され
ない方々もいらっしゃるかと…そこで、私自らが洛陽に趣き陛下に直接拝謁を願
いたいと思っております。一刀殿にはその仲介をお願い致したいのです」
「俺が!?…でも鈴音の立場なら別に俺が仲立ちしなくとも…」
「一刀さん、鈴音様はあえてあなたの仲立ちを頼む事によって陛下に対しての敵意
の無さを証明しようとしているのです。此処はお受けするべきです」
輝里にそう言われるのなら仕方無いか…本当に俺で良いのか分からんが。
「分かりました。ならば洛陽までのお供させていただきます」
こうして俺と輝里は鈴音を連れて洛陽へ赴く事となったのであった。ちなみに鈴
音に従うのは桔梗さん・李厳さん・燐里・王累さんの四人である。
(摩利さんと黄権さんと魏延さんは益州に残って劉焉の息がかかった者が残ってい
ないかの調査にあたるらしい)
「…というわけで、此処に劉璋様をお連れ申し上げた次第です」
「うむ、ご苦労じゃったの一刀。鈴音、面をあげよ。我らの仲じゃ、何時までもそ
うかしこまる必要も無かろう」
「いいえ、親しき仲だからこそ、つけなければならないけじめという物もあるので
すよ。命様は昔からその辺りに無頓着なのですから」
鈴音がそう言いながら面をあげる。そうか、元々知り合いだったのか。
「鈴音の母と我が母は従姉妹同士じゃから我らは又従姉妹という事になるのじゃ」
…これはまた親切なご説明どうも。
「鈴音、お主の父がやった事は確かに重大なる反逆じゃが、それはあくまでも劉焉
一人の罪。お主や部下達にその累を及ぼすつもりは無い。これからも妾の力にな
ってくれるな?」
「はっ、皇族の末端に連なる者の使命として陛下に対し変わらぬ忠誠を誓う事を此
処に宣言します」
二人は居住まいを正してそう応対する。命も普段からもっとそうしてれば、なか
なか凛としてるのにな。
「うむ、これで終いじゃ。益州の州牧はそのまま鈴音に任せるでな、よろしく頼ん
だぞ」
「はっ、粉骨砕身職務に励む所存です」
そして話がそこで終わるのかと思ったその時、
「命様、一つお願いの儀がございまして…」
鈴音がそうおずおずと話し始める。
「ほぅ、何じゃ?」
「我々が陛下に従うにあたって一つ問題があります。それは益州があまりにも洛陽
から離れているという点です。普段の政であればさしたる問題にもならないので
しょうが、変事が発生した場合に連絡する手段が無くあまりにも対応が後手後手
に回る可能性があります。そこで我が配下の法正と李厳を洛陽に駐屯させる事を
お許し願いたく…」
「ほぅ、確かに連絡役というのは重要かのぉ。分かった、許可する。一刀、その二
人に関してはお主に任せる。良きにはからえ」
えっ!?…いきなり俺?
「いやいや、いきなり良きにはからえと言われても…それに俺は月の客将で『それ
はもう良いのです』…へっ?」
そこに現れた月の言葉に俺は戸惑いの余り、気の抜けた返事を返してしまう。
「どういう事です、それ?」
「一刀さん並びに北郷組の面々は、既に私の客将から命様の直属に変わっています。
だから、これからは私と一刀さんは対等な立場としてよろしくお願いしますね♪」
「そういう事じゃ。ちなみにお主には衛将軍の地位を与えたのでな。これは決定事
項じゃぞ」
ええーーーーーっ…何それ?いきなり俺将軍様って…色々おかしくない、それ?
「そうなんですか?一刀殿ならその位当然だと思ってましたけど…それなら安心し
て二人を預ける事が出来ます。よろしくお願いしますね」
鈴音もそれはそれは嬉しそうな顔でそう言ってくる…今更断るとかもう無理そう
なんですけど、これ。
・・・・・・・
「…というわけで、新たに加わる二人だ」
「私は法正、字は孝直、真名は燐里です。よろしくお願いします」
「俺は李厳だ。まあ、よろしく頼むよ。とりあえず…おじさんの寝床どこ?」
(一応言っておくと、李厳は三十ちょうどである)
「おやおや、北郷組も随分大所帯になるんですねー」
「でもでも、人が増えるんだからたんぽぽ達の仕事の量が減るって事じゃん」
「蒲公英さん、人が増えればそれだけ新たな仕事が増えるという事ですから、そん
なに楽にはなりませんよ」
確かに沙矢の言う通り、将軍になった俺の仕事は増えるのだろうし…楽にはなら
ないよねー。実際、俺の横にいる輝里は実際に北郷組の実務担当として少々悩ん
だ顔を見せていたりする。
「おお、どうやら無事に挨拶は済んだようじゃな」
そこに現れたのは桔梗さんだった。その後ろには、何と璃々と黄忠さんの姿もあ
った。
「あっ、璃々!お母さんに会えたんだってね。おめでとう!」
「ありがとう、蒲公英お姉ちゃん!」
「でもそうなるともう一緒に遊べないのか…ちょっと残念だなぁ」
蒲公英がそう言うと、
「そんな事も無いぞ」
桔梗さんがそう言ってくる。
「えっ?…まさか?」
「ああ、黄忠がどうしても一刀殿に恩を返したいと言っててのぉ。黄忠は正式に儂
の部下というわけでも無かったわけじゃし、此処は是非願いを叶えてやりたいと
思ってのぉ…どうじゃろうか?」
「北郷様、私如きでは大してお役に立てないかもしれませんが、何卒…娘を助けて
くれたこの恩、我が一身と一生をかけてお返し申し上げたいのです」
一生って…そんな大げさな。
「一身と一生って…それじゃ何でもしてくれるって事?」
「はい…北郷様が私をお望みならば…ポッ」
黄忠さんがそう言って頬を赤らめるのと同時に、周りから何やらどす黒いオーラ
が『またか…』という言葉と共に漂ってくる。ええっと…これはどうしたらいい
んだ?
「え、ええっと…ま、まあ、黄忠さんがそう言うのであれば、これからもよろしく
お願いします。俺の事は一刀で良いです」
「ありがとうございます!私の真名は『紫苑』です。よろしくお願いしますね、ご
主人様♪」
ご主人様!?…それも悪くないかな?
俺がそう思ったのが顔に出たのか、皆の顔がますます険しくなる。
「ほほぅ…これはこれはなかなか楽しい所みたいじゃなぁ、李厳?儂も巴郡の太守
でなければ参加したい所じゃな」
「当事者にならない限りはね。まあ、そっちは俺には関係の無い話だけどね。俺は
俺で楽しく過ごさせてもらうさ」
李厳さんはそう言ってそれはそれは面白そうに俺達を眺めていた。
こうして俺達北郷組に三人の新メンバーが加わった。しかし…軍師に徐庶・程昱
法正。武官に龐徳・馬岱・李厳・黄忠。諜報部隊に文聘(+及川)って、えらい
豪華メンバーだな。何だかこのまま独立勢力になっても結構やっていけそうな気
がする位だ。色々大変な毎日にもなりそうだが。
俺はそんな事を考えていたのであった。
続く。
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
今回は、劉璋救出劇と北郷組拡張のお話でした。
しかし本当に北郷組は豪華メンバーになりました。
このままいったら何処かに領地とかもらって本当に
独立勢力とかになったり…まだ未定ですが。
とりあえず次回からは袁紹一派(もはや反董卓連合
とは言いません)との戦いになります。もはや勝負
は決したような気もしますが。
それでは次回、第三十五話にてお会いいたしましょう。
追伸 劉焉の出番はまだありますので。
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お待たせしました!
囚われの劉璋の所に辿り着いた一刀。
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