No.678337 真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」第三十五話2014-04-12 22:01:15 投稿 / 全11ページ 総閲覧数:8067 閲覧ユーザー数:5594 |
「劉焉さんと連絡が取れないですって?」
袁紹はその報告にそんな素っ頓狂な声をあげる。
最初に張松から『董卓が洛陽で暴政を働いているのでそれを討伐すれば褒美は思い
のまま』という話を持ちかけられ、それならばと河北四州の領土と大将軍の地位を
要望すれば快諾され、もうすぐにでも大将軍になれる気になって準備を進めて早や
一か月余り、そろそろ次の段階に入る連絡が来るはずなのにまったく来ず、痺れを
切らしてこっちから連絡を取ろうとしたら劉焉の行方が分からなくなっているとい
う話を聞き、袁紹は混乱に包まれていた。
「はぁ…張松様のお屋敷と伺っていた場所には空き地となっており、思い切って成都
の城を訪ねてみても『劉焉などという者はいない』と追い返される始末でして…」
その報告を聞いた袁紹のこめかみには青筋が走っていた。
「どういう事ですの!?劉焉様といえば、桓帝様の御代から益州の州牧を任されてる
お方ですわよ!?それが何故知らないというのです!!あなたは本当に成都に行っ
たんですの!?」
ちなみに袁紹の使者が成都に着いたのは、一刀によって劉璋が救出され共に洛陽に
旅立ってから十日程経った頃だったので、この時には既に張任より『もし劉焉を訪
ねて来る者がいてもいないと言って追い返すように』との命令が出ており、その手
先であった張松の屋敷も解体されていたのだが、その情報は袁紹もこの使者も知ら
なかったので、現状が分からずただ混乱していただけであった。
「ねぇ、文ちゃん…もしかして私達とんでもない状況になってるのかな?」
「あたいには良く分からねぇけど…何だか嫌な感じはする」
顔良と文醜は自分達の置かれているであろう状況を思い浮かべ、揃って暗い顔をし
ていた。その時、
「申し上げます!袁術軍が…」
「どうしたのです?わざわざこちらに迎えに来たとでも?」
「いえ、袁術軍がこちらに攻めて来ています!!その後ろに曹操軍もいます!!」
「な、な、な、何ですってぇ~~~!?」
此処で話は少し前に遡り、洛陽にて。
「袁術、面を上げよ」
王允のその言葉で袁術と張勲は顔を上げる。
二人は揃って洛陽に来ていた。というのも、命からの直接の召喚状が届いたからで
ある。
「よう来たの、袁術。聞く所によると董卓を討つとお主は大将軍になれるとの話じゃ
が、一体それは誰から聞いたのじゃ?」
「あ、あ、あ、そ、そ、そ、そそそ…そのような事はまったく根も葉も無い話で……
ガクガクブルブルガクガクブルブル…」
「あ、あの~、お嬢様はもうそんな話は忘れたとの事でして…これからは陛下の御為
に働かせていただく所存でございますので、此処は一つ穏便に…」
「じゃから穏便に済ます為にも何処の誰にそのような話を聞いたのかを思い出しても
らわなくてはならんのじゃ。もう一度聞くぞ、誰に聞いたのじゃ?」
命の圧力に袁術はすっかり怯えていた。というのもやはり親子というべきか、命の
気は空と良く似ているので、その圧力を受けている袁術の脳裏には空の姿が映し出
されていたからである。
「あ、あ、あ、あの…ですから、わr…私はもうそんな大将軍などという大それた話
など、ま、ま、ま、ま、ま、まったく、あ、あ、ありえない事でして…」
「そのような事は聞いておらん。誰がそんな事を言ったのかと聞いておる」
「そ、そ、そ、それは、その、た、た、確か、ちょ、ちょ、張…張…張…『張松か?』
は、はい!そうです!その張松という者です!」
「そうか、そうか、ならこの男の事じゃな?」
命がそう言った瞬間、霞と孫策によって連れて来られたのは縛り上げられた張松で
あった。
「そ、そうです!こ、こ、こ、この男が、わ、わ、私に『董卓を討てば大将軍になれ
る』と言ったんです!」
「だそうじゃが…張松、申し開きはあるか?」
命にそう問われた張松はただ唇を歪めるだけであった。
「ならば張松、お主は劉焉の手先としてこの大陸にいらぬ動乱を起こそうとしたその
罪、正に万死に値する。よって死刑を申し渡す。孫策、そやつの処刑はお主に任せ
る故、よろしく頼むぞ」
「はっ、仰せのままに…さあ、行くわよ?」
そのまま張松は孫策に連れて行かれ、その半刻後に斬首となりその遺体は黄河に捨
てられたのであった。
・・・・・・・
「さて、袁術よ。お主は確かに劉焉に踊らされていただけのようではあるが、だから
いってお主が袁紹と結託して徒党を組んで洛陽に攻めようとしていたのもまた事実。
このまま無罪放免というわけにもいかないのは分かるよのぉ?」
(そうなのか、七乃?悪いの妾達ではなく劉焉と張松ではないのか?)
(お嬢様…さすがにそれでは通じませんよ~。此処は私にお任せを)
「何をこそこそ話しておる?」
「い、いえ…袁術様が仰られますには、その罪を償う為にも是非袁紹攻めの先鋒を承
りたいとの事でして…」
「ほえっ?妾はそんなk『そうか、それは殊勝な心がけじゃな!よし、それを許すぞ。
そなたらの武功、楽しみにしておるからな!』…えっ?どういう事じゃ、七乃?妾
が何故麗羽を攻m『はい、仰せのままに。それでは準備がありますので私達はこれ
で一旦失礼しま~す』…ほえっ!?これはどういう…おお~い、七乃ぉぉぉぉぉ…」
袁術が事態を理解出来ないまま、張勲に連れられて部屋を出て行ったのであった。
「大丈夫なのか、あんなのに先鋒を任せても?張勲は一応やる気にはなっているよう
だけど…」
「案ずるでない、手は打ってあるでな」
・・・・・・・
「それで私達が袁術軍の監視を…というわけですか?」
「そういう事。厳密には北方より公孫賛・西方より劉備・南方より袁術が攻めるから
私達はその後詰という形を取りつつという所ね。しかもその背後から禁軍も来ると
いうのだから…やられたわ、完全に」
曹操は少しつまらなさそうな顔で荀彧にそう話す。
曹操が何故そのような顔になっているのかというと、彼女は元々ただ単に命に従う
というつもりではなく、劉備と公孫賛を自分の支配下に入れて、命達が益州の方に
かかりきりになっている間に袁紹を攻め、その功を以て自らが政の中枢に入り込む
事を考えていたのであったが、予想より遥かに早く益州が陥落したのと劉備・公孫
賛の両軍が何時の間にやら洛陽の指揮下に入ってしまった為に、完全にあてが外れ
た形になってしまっていたのであったからだ。その為、結局はただ普通に勅命に従
い行動するしかなくなってしまったのが彼女にとっては不満の種であったのである。
(しかし、こちらに付きかけていた劉備と公孫賛が何故こうも…特に劉備は洛陽と連
絡を取るのを嫌がっていたはずなのに…?)
その頃、劉備軍。
「桃香様、袁術軍が袁紹軍と交戦を始めたようです」
「そ、そう、なら私達はこのまま袁紹さんの牽制を続けます…で、いいんですよね?」
「はい、良く出来ました」
諸葛亮の報告を受けた劉備の横には何と瑠菜がいたのであった。ちなみにその後ろ
には恋とねねもいたりするのだが。
何故瑠菜が此処にいるのかというと、及川の報告と公孫賛からの文により劉備が曹
操の庇護下に入った事を知った彼女が命の許可を得た上で恋とねねを引き連れて平
原に乗り込んだからである。当然、彼女を恐れる劉備がその言葉に従わないわけは
なく、さらに関羽・張飛・趙雲の三人が恋一人に抑え込まれる状況であった為、こ
の時点では既に劉備軍は瑠菜の支配下になったと言っても過言では無かったりする
のであった。
「劉備様、公孫賛様が盧植様を訪ねてお越しになられてます」
「雛里ちゃん、こっちまで来てもらうよう伝えて」
・・・・・・・
「ご無沙汰です、先生」
「はい、白蓮も変わりないようで何よりね」
公孫賛は入ってくるなり瑠菜の前でそう言って礼を取ると、瑠菜も機嫌良く返す。
「最初に先生が桃香の陣にいるって聞いた時には驚きましたよ」
「あなたからの手紙で桃香が曹操殿に助けを求めた事が書いてあったから、このまま
では桃香も白蓮も曹操殿に良いように使われかねないと思ったからね。陛下からも
許可は貰ってるわ」
瑠菜がそう言う横で劉備の眼は泳ぎっぱなしになっていた。
「ところで、このまま私達は麗…袁紹軍の牽制で良いのですか?この期に及んで袁紹
のやった事はもはや明白ですし、此処は一気に押し包めば…」
「良いのです。袁紹軍の相手は袁術軍にやらせる、これが陛下のお考えです。私達が
動くのは袁術軍が敗れるか袁紹軍の兵がそれぞれの陣へ向かって来た時のみ。です
から何時動いても良いように常に戦場の動向に気を配っておきなさい。もし別命が
ある場合はまた連絡します」
それを聞いた公孫賛はそのまま自陣に戻り、瑠菜の言う通りに牽制に徹していたの
であった。
・・・・・・・
「進みなさい!袁紹軍を壊滅させるのです!!」
張勲の号令一下、袁術軍は正面から袁紹軍へ突撃する。そこに、
「てめぇ、七乃!これはどういうつもりだ!?お前らはこっちに味方じゃなかったの
かよ!」
文醜が大剣を振り回しながら突撃してくる。
「皆の者、文醜に向かって一斉射撃!!」
「くそっ、進めねぇ…七乃の野郎、本気であたい達を討つつもりかよ!!」
「文ちゃ~~~ん!」
「斗詩、あそこに七乃が!」
「七乃さん、どういう事ですか!?」
「黙りなさい!此処であなた方を討たなければ私…いえ、美羽様の首が飛ぶんです!」
張勲はそう叫ぶと顔良にも矢を向けさせる。そのあまりの多さに二人はそこから先
に進む事が出来ない。その間に、袁紹軍の兵士は次々に討ち取られていき、一刻後
にはその数は三割近く減っていたのであるが、袁紹軍の反撃にも遭い、袁術軍も二
割余りの犠牲が出ていたのであった。
「かずピー、陛下の思惑通りどっちもいい感じに減ってるみたいやで」
「まあ、兵の数は袁術軍より袁紹軍の方が少し多いわけだし、当然だな」
その頃、一刀は命より禁軍を率いて戦場に向かうよう命を受け、曹操軍の後方およ
そ三里の位置に陣取っていた。
「北郷、何故我らがこのような後方なのだ?月様を反逆者呼ばわりした奴などこの際
一気に捻り潰してしまえば良いではないか!というより私に叩き潰させろ!」
そう言っていたのは俺と共に派遣されてきた華雄さんだった。
「華雄さん、もう何回も説明したと思うけど今回はあくまでも袁術軍が陛下に対して
本当に異心無く行動するかと曹操軍が変な動きをしないかを見る為の行動なのだか
ら、こっちは無闇に損害を出さない事が第一なわけだから突撃は無し。それは月か
らも言われてたよね?本当は霞が来るはずだったのを半ば無理やり割り込んだ代わ
りにそれを徹底する事が条件だって」
「しかしだな、北郷…『華雄さん、ちょっと良いですか?』…な、何だ、龐徳?」
「一刀様は衛将軍です。あなたの口の利き方は無いんじゃないですか?それとそんな
に暴れたいのなら私がお相手しますけど?」
尚も食い下がる華雄さんだったが、沙矢にそう言われると途端におとなしくなる。
実は華雄さんは沙矢が俺の所に来た時の最初の手合わせで負けて以来、何だか苦手
意識がついたのか、その後何度か手合わせしてもまったく勝てず、今のように沙矢
に何か言われるとまったくといって良い位におとなしくなってしまうのであった。
なので『華雄が暴れ始めたら龐徳を呼ぶ』というのが洛陽における皆の認識となっ
ていたりするのであった。
「まあ、とりあえずは袁術軍のご活躍を拝見させていただきましょうという事で」
俺がそう言うと皆の眼は再び戦場の方へと向けられる…あれ?
「なあ、輝里?あそこにいるのって…」
「私の眼がおかしくなっていなければ、多分一刀さんと同じ物が見えているのではな
いかと…」
また勝手にあの人は戦場に来ているのか。命、何とかしとけよ、あの人の事を…。
・・・・・・・
「誰です?此処は私達袁術軍が…『お前の目的は袁紹であってこいつらでは無いんだ
ろう?』…は、はい、そうですけど…?」
「ならこいつらは私に任せて袁紹の所へ兵を進めろ。とりあえず左翼の敵兵の大半は
私が薙ぎ払っておいたぞ」
そう言われた張勲が眼をやると、確かに袁紹軍の左翼は半ば壊滅していた。
「こんな事が…あなたは一体?」
「おや、南陽で会っただろう?もう忘れたか?」
「えっ…まさか?」
「さあ、早く行け!」
張勲は言われるままに兵を纏めて手薄になった袁紹軍の左翼方面を突破して南皮へ
兵を進める。
「さて、それじゃお前たちの相手はこの李通だ」
ちなみに言うまでもなかっただろうが、突然現れたのは空である。
「一人であたいらを相手するってのか?へん、いい度胸だ!斗詩、さっさとこいつを
やっつけて張勲の後を追うぞ!」
「うん!」
文醜と顔良はそう言って武器を構える。
「ほぅ、私をさっさと倒す、か…ふふ、ははははは、はっはっはっはっは!」
「何が可笑しい!」
「いや、若いというのは良いものだな。その勇気に免じて少し手加減してやろう」
「なっ!?舐めるな!行くぞ、斗詩!!」
「うん、でやあぁぁぁーーー!」
・・・・・・・
半刻後。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、な、何だよ、こいつ、何でこんなに…あたいら二人がか
りで互角なんて…」
「はぁ、はぁっ、文ちゃん、互角なんかじゃないよ…あの人、こんなに戦って息一つ
切れてないし、しかもあの重そうな斬馬刀を右手一本で揮ってるし…」
二人が言った通り、一見すると良い勝負をしているように見えなくもなかったのだ
が、空は完全に手加減モードであり、二人はこれ以上事態を好転させる事も退く事
も出来ずにいたのであった。
「さあ、どうした?もう終わりか?」
「このままじゃダメだよ…此処は私に任せて文ちゃんは麗羽様の所に行って。その位
の時間は稼ぐから」
「何言ってるんだ、斗詩!それを言うならあたいが此処に残るからお前が『言い争っ
てる暇は無いの、早く!』…と、斗詩…分かった。七乃をぶっ飛ばして麗羽様助け
たら戻って来るからな、それまで頼んだぞ!」
文醜はそう言って顔良の事を気にしながらも後方に下がっていった。
「終わったか?とりあえずお前らの麗しい友情に免じて待っていてやったぞ。とりあ
えず此処からはお前一人で私の相手をするという事で良いのだな?」
「正直、無理があるのは私にも分かってます。でも…私だって袁紹軍の二枚看板の一
人と言われてるんです、このままでは終わりません!」
そう言って武器を構えた顔良からはそれまでとは比較にならない程の闘気があふれ
出してくる。
「ほぅ…これはこれは。ならば少し本気でやろうか」
空はそれまで右手一本で揮っていた斬馬刀を両手で持つ。
「行きます!てやあぁぁぁーーーーー!」
「はぁぁぁぁーーーーーー!!」
二人の影が交錯する。そして、その後立っていたのは空一人であった。顔良は空の
一撃で武器を破壊され、その攻撃をまともに喰らって倒れていた。攻撃を受ける瞬
間に僅かに体を捻ったので辛うじて死んではいないが、瀕死の重傷といって良い程
の怪我は負っている。
「ほぅ、まだ息があるか…誰ぞ、こいつを陣へ運んで手当をさせておけ!」
(ふふ、運が良ければ助かるかもな…さて、後は袁紹の方だな)
空はそう思いながら袁紹がいるであろう方を眺めていた。
続く。
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
とりあえず今回は袁紹フルボッコの巻でした。
厳密にはまだフルボッコは終わっていませんが。
一応次回はこの続きからです。袁紹の断末魔の
叫びと最後の悪あがきをお楽しみに。
それでは次回、第三十六話でお会いいたしましょう。
追伸 空様の事を誰か止めて!我ながらあまりにも
フリーダム過ぎる感が…。
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一刀達が劉焉を追い落とした事でもはや袁紹
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