No.668886

【F-ZERO小説】LAP.1 Distortion ~今はまだ…~

【F-ZERO GX ~Story Mode~ 奴らは“神”で武装する】
・と言う訳で、多分原作を知らなくても読むのに支障は無い、二次創作としてそれはどうなんだ?的なF-ZERO小説(笑)ちょっぴり長めですが、宜しかったらどうぞです。

Prologue KILL ALL ~所詮それは“駒”だった~ http://www.tinami.com/view/668883
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2014-03-07 22:51:31 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:695   閲覧ユーザー数:695

【F-ZERO GX ~Story Mode~ 奴らは“神”で武装する】

LAP.1 Distortion ~今はまだ…~

 

「こうゆうのって、本来は別のチームの仕事なんだがな……」

 まぁそんな事を言っても始まらないんだが…

 俺はため息まじりにボヤきながらマシンのハンドルに肘をつき、仮想ワイドスクリーンと外の風景を交互に見やる。

 

 一面に広がる広大な砂漠……

 観光客も住民も滅多に近づかない辺ぴな場所……

 

 そんな中にポツンと佇む一台の赤いマシン……

 

 異様な程に目立つが、今、俺が相手にしようとしているのは知的生命体では無いからな……

 感知出来る“歪み”はそんな大きなものではない。スクリーンに映るそれは、本当に極めて小さな“点”でしか無い。と言う事は、普段俺たちが相手にするような“犯罪者”と言う者ではない。

 

 “点”は徐々に俺たちの方に近付きつつある。

 

「あ、お前は乗ってていいや。ここじゃ動き辛いだろうしな」

 俺はナビゲーションロボのQQQにそう告げ、風防を開けて外に躍り出る。

 まだ春先で、こちらの常識で言えば暑いという気候ではないらしい。だが、それでも雲一つない空からの光と砂の照り返しで結構ジリジリと来るものがある。

「暑ぃ……」

 うんざりはするが、それでも対峙するのが凶悪犯ではないだけ、今日はまだ心理的に余裕はある。

 俺は軽く舌なめずりをすると、前方に視線を向ける。

 下りて来る時に既に仮想スクリーンは畳んであったが、そんなものを見なくても、相手がその方向から来るのは大体分かっていた。

 

 …足元に妙に鈍い振動が走る…

 

 ズルズルと、足元の砂がうごめいているのを感じる。

 視線を向けていた数メートル先の砂が徐々に盛り上がって山になり、それがどんどん高さを増して行く。

 

 そのうち、そのうごめいていた鈍い振動が、砂山が崩れ落ちる音に変わってゆく。

 

 裂けた砂山の頂上から出て来たのは、体長5メートルくらいはあるであろう巨大な白い芋虫のような生命体。現地の人達は「サンドワーム」と呼んでいるものだ。普通なら砂の中に身を潜め、滅多な事が無い限り地上に出て来ない筈なのだが……

 

 地中深くから現れたサンドワームはその巨体をしならせ、俺を食らうと言わんばかりに巨大な口を向けて突撃して来る。俺はQQQが周囲に“結界”を張った事を確認しつつ、大きく横に飛んでその攻撃を回避する。

 攻撃をかわされたサンドワームは、大きな音と砂埃を舞い上がらせながら砂地に顔を突っ込んでいく。再び深く潜って体制を整えようとするも、その行く手を予め俺たちが仕込んであった“結界”に阻まれる。

 

 “結界”……

 マシンを中心に円を描くように並べたポールの回りを、サンドワームが突入したのと同時に『KEEP OUT』と書かれた黄色いテープが張られるようにしている。これが俺たちの言う“結界”というものだ。時空警察の特殊回線で起動させるプログラムの一種で、こいつにテーピングされている空間は隔離され、外側から突入する事も出来ないし、中にいる者が外に出る事も出来ない。透明なボールの中に閉じ込められているようなものだ。

 

 ……つまり、このサンドワームも、砂に潜ったって俺たちから離れる事が出来なくなると言う訳だ。

 

 行方を阻まれたサンドワームは、仕方なく再び地上に再び姿を表すだろう。

 俺はブラスターを起動させ、まだ地面に潜っているそいつの頭に狙いを定める。

 ……こいつが何か悪い事をした訳じゃない、いや、寧ろ被害者と呼べるものだ。

 だが、“未来に汚染”された生命体を、助ける術を俺は持っていない。

 せめて一撃で、楽に逝かせてやる事しか出来ない。

 

 本来サンドワームは大人しい性質で、人間が近付くと逆に砂に潜って出て来なくなるような生物だ。

 体はデカいが、普段食べているのは砂の中にある有機物……

 

 そんな奴が、何故か観光客に襲いかかった…

 そんな話が舞い込んだのは数日前の事だ。

 

 そいつは突如街中に現れた……訳ではなく、何故か観光ルートを外れて砂漠の真ん中をほっつき歩いていた連中が襲われただけだ。幸い、命からがら逃げ出して大した被害も無く、そんな所に行く方が悪い的な話の流れで片付けられようとしていたのだが……

 

 今の今まで、サンドワームが人間を襲ったケースなんか無い筈だ。

 

 俺は何となく“嫌な予感”がして、現場に行ってみたらビンゴだった。

 本当に小さな“歪み”だが、それでもサンドワームの性格を豹変させる事くらいは容易く出来る。

 

 そう、間違いなく、このサンドワームは“未来の物質”で汚染されている。

 

 再び足元の砂が動く感覚……

 あのサンドワームが、再び俺の方に向かって来る予兆……

 次に飛びかかって来たその時がチャンスだ。

 

 再び砂が持ち上げられ、その突端から奴を顔を出す……その瞬間だ!!

 奴の顔がこちらを向いたのと同時に、俺は狙いを定めてトリガーを引く。

 

 俺が放った弾丸は奴の口から入り、そのまま脳天を突き抜ける!!

 サンドワームは声にならない声を上げながら体液を吹き出し、暫くのたうち回っていたが、その後ピクリとも動かなくなった。

 

 …ふぅ…

 相手が事切れた事を確認すると、俺は軽くため息をつく。

 状況的に仕方がないとは言え、正直、あまりいい気分はしない……

 

 かと言って、感傷に浸っている時間は無い。

 俺がすべき事は感傷に浸る事ではなく、この犠牲を無駄にしない為に次のステップを踏む事だ。

 だから俺は、事を片付けようとサンドワームの頭部に飛び乗り…………

「…………?」

 そこにナイフを入れようとしたのだが、本来なら砂漠に響き渡らない筈の「音」を察知し、俺は思わず作業に取りかかるのを中断してサンドワームの上から飛び降りる。

 

 何かの音…

 これはマシンの走行音だ。

 もちろん停止している俺のマシンじゃない、他の誰かの走行音だ。

 それが徐々に、こちらに近付いて来る。

 

 こんな砂漠の真ん中に誰が…?とは思うが、聞いた感じ一台しかいないようだし、“歪み”も特に感じられない。悪党がちょっかい出しに来た…と言う訳でも無さそうだ。なら、わざわざ未来の装備品を不必要に見せる事は無いだろうと、俺はQQQに結界を解除させ、敢えて黙って立ち尽くしたまま、音のする方に視線をやる。

 

 暫くして視野に入って来たのは、見覚えのある青いF-ZEROマシンだった。

 

 マシンの先端にあるNo.07の表記……

 ああ、あれは……

「キャプテン・ファルコン、か……」

 

 キャプテン・ファルコン……

 この世界……26世紀において最も有名な、優勝経験もあるF-ZEROパイロット……そして賞金稼ぎの一面も持っていて、この辺をウロウロしているのも恐らくその関係だろう。警備を頼まれたのか、サンドワームの退治を頼まれたのかまでは知らないが。

 

 なぁに、心配は無用。実は全く知らない仲と言う訳ではない。実は数日前に顔は合わせている。

 

 俺がこの時代を初めて訪れた時に、銀河連邦に足を運んで簡単に挨拶はしている。

 いや、仕事に入る前に予め挨拶しておくものなんだよ。別にこの時代に限った話ではなく、どこに行ってもこれは鉄則事項。大体、捜査の為にあちこちに足を踏み込むのに、その度に現地の治安部隊に悪者と間違われては困るし仕事にならないからな。

 

 ファルコンとはその時に会った。紹介してもらった……と言うより、偶然彼が立ち寄ったと言った方が正しいが。

 メットのバイザーで顔は分からなかったし、俺とは特に言葉を交わす事もなかった。

 だが、その身にまとっている雰囲気で、彼がただ者ではない事は俺にも分かった。

 事前に目にしていた資料によって彼がレースでも闘争でも腕が立つ事は知識的な意味で知っていたが、その張りつめた空気に触れ、それが初めて体感的に分かったような気がする。敵に回したら、容易に殺される事も覚悟する必要がありそうな…そんな空気だ。

 

 くどいようだが、ファルコンとは顔を合わせただけであって言葉を交わしてはいない。

 だが、銀河連邦の建物の中で会ったのだから、少なくても、俺は公安側と言うか悪党ではないと分かってくれていると思いたい。それを鵜呑みにする相手かどうかまでは知らないが……

 

 そんな事を考えながら事態を静観していると、その青いマシン…ブルーファルコンは徐々に速度を落とし、俺のマシンの隣に止まる。

 ファルコンはそのままマシンから下りるでもなく、風防越しに俺の姿とサンドワームの死骸を交互に見遣る。

 

「いるのは俺たちだけだ。ちょっと調べたい事があっただけだ…今日はもう引き上げるさ」

 俺はそう伝えたが、ファルコンは黙ったまま、俺の方を見ているだけだった。

 別に俺の事を拒絶している訳ではなく、単に彼なりに状況を見据えているのだろう。

 下手を打てば死んでしまう事も珍しくない世界で生きているんだ。それくらい慎重に見据えるようでなければ身が持たない。それは俺も分かっている。だから簡潔に状況は伝えても、特に返答を求めるような事はしない。

 

 それに今、俺がすべき事は、ファルコンと話す…事ではなく、自分の任務を全うする事。

 その為に今、取り敢えず俺に出来る事は「時間稼ぎ」。

 QQQが「仕事」をするだけの時間を稼ぐ事だ。

 

 QQQはファルコンがここに来る前にこっそりとマシンを下り、俺と、俺のマシンの影に隠れながらサンドワームの口から入って目的の“物”を漁り出してくれている筈……

 そうしてまたこっそりと、俺のマシンのコックピットの後ろに戻って来る筈だ。

 

 何やら、俺の後ろでモソモソと這い回る音がした後にQQQから通信が入る。

 と言っても短いアラートが鳴っただけだが、言わんとしている事は十分に分かる。

 

 なら、これ以上の長居は無用だ。

 

「…じゃあな」

 俺は一言断ってから足早に自分のマシンに戻り、風防を閉め、アクセルを踏み込んでその場を後にする。

「……」

 彼は結局、一度もマシンを下りる事なく、俺たちの方を見遣るだけだった。

 

「サンキューQQQ、例の物は採取出来たか?」

 俺はマシンを走らせながら左の手のひらだけを後ろに回し、真後ろにいる筈のQQQから採取したモノを受け取る。パッと見、ドロドロの血の塊にしか見えないが……恐らくこれがそうなんだろうと、俺は受け取った塊をハンドルの下にあるトレイもとい引き出しに放り込む。

 そうして空になった左手でハンドルを掴……もうとしたが、視界に入った状況を見て思わずためらう。流石にこの……べっとりとした血がついた手では……

 

 と、なると……現場を離れる事に集中してたのでロクに確認してないんだが、後ろにいるQQQも、ひょっとしてかなりエラい事になっているんではないかと……

「マァ、色々想定外ノ事ガアリマシタカラネ」

 一瞬、妙に空気が固まった事を察してか、QQQがそれだけ回答を寄越す。

 

 想定外……そうだな……

 当初の予定では、俺がもっとスマートにサンドワームの頭を上からかっ捌く筈だったのだが、流石に誰かが見ている前ではやりにくい……俺が何をしようとしているのか、その当時の人……現地の人間に状況を説明する訳にいかず、した所で理解されるとは思えず、怪しくありませんと言った所で十分に怪しい行動で、突っ込み食らうのは目に見えていて……かと言って、証拠品を放置して立ち去る訳にもいかず……

 となると……

 隠れながら作業をするしか無い。

 と言ったら、パッと見では分からない口の中に入って捌くしかないだろう……

 ……あーそうか、口から入ったから血液以外の体液もかぶってき……

 

 …………

 

 ……まぁ、どのみち事が起こった後だから仕方がない。いくら砂漠が多いと言うサンドオーシャンでも観光都市だし、QQQを洗える水くらいはあるだろう。

 俺は軽く息を吐くと、一番近い街を目指してマシンを飛ばしていった。

 

 

「はぁ~………」

 とにかく街まで移動して、洗車場でQQQの身体を洗ってやるも、ある意味、サンドワームと対峙している時より神経使ったような気が……

 見た目の古くささに反して、ちょっと砂が入ったり濡れたりした程度で壊れるようなヤワな奴じゃないと言うのは俺が一番良く分かっているが……って、俺も適当な所でやめときゃ良かったんだが、洗ってるうちにここも気になるとかあそこも気になるとか……ともかく、せっかくだからキチンとやっておきたくてだなぁ……

 

 いやしかし実に疲れたくたびれた……

 気がついたら日もどっぷり暮れている……

 

 これで収穫が何も無い一日だったら本当にがっかりものだが、少なくても今日はそうではなかった。それは素直に喜ぼう。

 

 そうそう、申し遅れたが、俺の名前はフェニックスって言うんだ。こっちはナビゲーションロボのQQQ(キュースリー)。外身は20世紀後半レベルの超型遅れ品だが、中身は最先端技術の集まりなんだぜ。

 

 俺たちは愛機レインボーフェニックスを駆って29世紀から来た時空警察官だ。

 

 ……と、言った所で、大半の人は信じないから……その辺の真偽はまぁ、聞き流してもらっていい……

 

 そんな29世紀の人間が、ここ、26世紀に訪れた理由は……ある出来事の調査の為だ。

 

 この世界は、4つの次元で成り立っている。

 縦と横と高さ、いわゆる3つの空間の次元と、時間と言う流れの次元。

 俺たちが管轄しているのは、その時間と言う流れの方の次元だ。

 

 通常なら延々と流れ続けている筈の「時間」が26世紀…今、俺たちがいる時間の数ヶ月の後に何故かピタリと止まる事が時空管理局の方で観測された。

 

 止まると言うより「壊れる」と言った方が言葉的には正しい。

 

 滞りなく流れていたものが突如止まる。

 次に当たり前のように来る筈の「1秒先」が永遠に訪れない。

 その場に居合わせたものは生きる事も死ぬ事もなく…それ所か、自分達が動けない、異常が起こっているんだと言う自覚すら持てない状況の中に永遠に閉じ込められる。

 

 時間が止まってしまった理由は何だって?

 残念ながらそれは分からない。

 分かっているのは起こりうる事実だけだ。

 分からないから調べに来たし、それを阻止する為に俺たちと言う存在があるんだ。

 

 その原因について……実は心当たりが全く無い訳ではない。

 

 この時代…26世紀の時空間に、時々“歪み”が観測されている。

 本来その時代にいる筈が無い者、ある筈が無い物体……

 そう言った“当時(現地)に無いもの”があると、時空間に僅かだが“歪み”が生ずる。つまり“歪み”がある所にタイムトラベルしてきた“何か”があるって事だ。

 

 俺がさっき対峙してきたサンドワームもそうだ。

 

 …いや、サンドワーム自体はこの時代の生物なんだが…

 奴の頭に密かに埋め込まれたであろう生体用チップ……あれがこの時代のものではない。

 さっき俺たちがゴタゴタに末に取り出したのがソレだ。

 

 このチップは仕込まれた者の脳に直接作用し、おかしな本能を組み込まれたり、その気になれば意のままに操る事だって出来る。対象の生物も限定されず、その気になれば人間に仕込む事だって可能だ。

 

 さっき俺がQQQが採取したチップをマシン内部のトレイに入れたが、あれはちょっとしたワープ装置になっていて、時空警察の本部の方に繋がっている。証拠物件として掴んでおかないとな。

 本部から来た話では、やはり26世紀製の物では無いと言う事、更に言うと時間が経過すれば生体に馴染んで癒着し、そのまま取り込まれて証拠物件すら残らなくなる、“歪み”が消えてしまう、やっかいな物だって分かった。

 

 何者かがこの時代に訪れて、自ら仕込んだか、現地の人に仕込むように頼んだかしたんだろう。

 

 ん?犯罪者はどうしてそんな間接的と言うか、面倒な手段を取るのかって?

 確かに何かを操るより、未来人が現地に無い技術を駆使して直接行動した方が色々と話は早い。

 しかし、それでは大きな“歪み”も発生する。

 それではあまりに目立ちすぎる。

 目立てば、俺のような取り締まる者も来てしまうからな。

 

 だから、間接的に、歪みを生まない現地のもの(この場合は26世紀にあるもの)を利用するんだ。

 これなら何があっても“その当時に起こった事件”で片付けられるからな。

 

 俺たちが降り立ったのは“歪み”が一際大きくなる少し前の時代……1~2ヶ月前と言う所だ。時間が崩壊してしまうのは、それから更に数ヶ月後と言った所だろうか。

 実はその前から、ちょくちょく“歪み”が観測されている。

 本当に一瞬の事で掴みきれないのだが……

 

 ちょいちょい時空移動が出来ると言うか、三次元世界から消える事が可能なのは……

 

「まぁ、あいつだろう、な……」

 俺はあごに手を乗せて小首を傾げる。

 

 俺たち時空警察が長年に渡って追跡している奴がいる…

 それはデスボーンと名乗る一人の男……

 外見ですら、生身の人間なのかサイボーグなのかももはや分からない、異様な雰囲気をたたえ、何度殺しても死なず、不死身と称される男……

 

 俺たちのいる29世紀だって、誰だって気軽に時空旅行が出来るような時代じゃない。

 このマシン…レインボーフェニックスにだって、時空移動の為のデバイスが大き過ぎて詰め込めなかった。だからマシンの方は移動に突起し、時空移動の為のデバイスはQQQの方に積んである。

 

 俺たちですらそんな状況だと言うのに、奴はそんな物を用いずに時空移動が出来る……一歩踏み出して歩く…ただそれだけで、次元の彼方へ行く事が可能なのだ……

 

「ただ…あいつは何がしたいんだろうな…?」

 

 本当にデスボーンと言う奴の事は何も分からない。

 生まれはどこか、地名も時間も分からない。

 どこから来たのか、何が目的かも分からない。

 どの時代にも観測されず、存在したと言うデータも無い。

 

 何も分からない。

 と言うより、行動に脈絡が無いのだ。

 

『世界の全てを手に入れる』

 そう言ったとか言わなかったとか、そんな話もあるが…

 確かに、ありとあらゆる時代に現れ、色んな時代に干渉しようとした形跡がある、しかし……それが何を意味するのか、奴が何をしたいのか、何をしようとしているのか、誰も何も分からなかったのだ。

 

 今回だってそうだ。

 仮にデスボーンがサンドワームにチップを仕込んだとしても、その理由が分からない……

 ロクな被害も出てないし、この辺を制圧したいのなら、やり方が手ぬるいんじゃないか?

 いやこれは俺の台詞じゃないが……

 

 それに、この世界の時の流れが破壊されると言う件に関しても……

 そこまで奴に力があるだろうか?

 

 時の流れを破壊する…

 大体そんな事が可能なのか……?

 

 いや、別に時空管理局の観測にいちゃもんをつける気は無い。

 ただ、全ての時の流れをせき止めようと言うのは、ありとあらゆる時空において、その流れを破壊し、葬り去る…葬り続ける事を意味する……

 俺の知る限り、そんな事が出来るのは時空管理局くらいだし、本気でやろうとしたら国家プロジェクトクラスの人員と費用がいる筈…そんな事を、あいつ一人で出来るのか…??

 

 ……

 俺は暫く思案した後、軽く頭を左右に振る。

 

 俺がやるべき事は、ここで推測を繰り広げる事じゃない。

 原因はともかく、俺は時空間の破壊を阻止しなければならない。

 

 俺たちだってその現場に立ち会ってしまったら……助からないからな。

 時間の中で生きる生命体は、全て時間の中で存在出来ると言うか、時間の中でしか存在出来ない……だから、時間が止まった世界には誰も干渉出来ない。干渉出来ないと言う事は確認する事も出来ず、確認出来ない事は存在していないのと同じだからだ。だから救援の手を差し出す事も出来なくなる。

 

 そんな事情があって、俺たち以外の別のチームも現場(ここ)に入れないんだ。

 さっきのサンドワームのようなものの相手をするのは、本来なら警察官ではなく駆除班の仕事だ。

 だが、ただでさえ時空間があやふやな上、一歩間違うと死ぬ事も出来なくなりますよって現場には必要以上に人を入れない方がいい。俺だって、逆の立場なら足を踏み入れる事を躊躇する。

 

 それにしても、思案しても仕方がない…って、さっきも自分で似たような事を言ったような気がするな…

 今日の戦闘は悪党と対峙するよりは楽だったとは言え、何の緊張も無く気楽だったかと言われればそうではない。

 多分俺は疲れてるんだな。

 なら、日も暮れたし、休めるうちに身体を休めた方がいい。

 

 そう思った俺は、マシンに乗り込もうとした…

 のだが、フと耳に入ってきた聞き覚えのあるエンジン音に足を止める。

 

 音の方に視線を向けると、見覚えのある青いマシンが一台、こちらに向かって来る。

 そう、昼間に砂漠で見たあの青いマシン…ブルーファルコン。

 

 ファルコンは俺たちのマシンの隣に止まり、風防を開けてこちらを見ている。

 マシンから降りて来る気配はない。

 

「……何か用か?」

 俺は思わず声をかける。

「いや、用と言う程の用は無い。ただ、そのロボットが何やら大変な事になっていたようだからな」

 ファルコンの方からは、あくまで淡々と、事務的な感じの返事が返って来る。

 

 俺は思わず苦笑いを浮かべる。

 QQQは確かに頑張って動いてくれた。

 けれどやっぱりと言うか案の定と言うか、その行動はバレバレだったようだ。

 

 昼間は敢えて黙っていた、敢えて見逃したと言う事か。

 

 そんな必要最低限の会話だけして、後は黙ったまま、互いを見つめるだけだった。

 まあ何度見てもメットの下のファルコンの視線は分からないし、ファルコンも同じようにメットの下の俺の視線は分からないだろうが。

 

 大体察しはついていた。

 ファルコンがここに来たのは、別にQQQの事が心配だったからじゃない。

 口ではああ言っても、それは方便にしか過ぎない。そんな事くらい俺だって分かる。

 

 QQQがその行動を起こした結果、収穫はあったのか……

 

 彼が知りたがっているのは恐らくそこだ。

 そして、俺が“何か”を掴んだ事も、恐らくもう察していると思う。俺たちの様子や雰囲気で。

 

 なら、何故その事を尋ねて来ないのか?

 彼は分かっているからだろう。

 尋ねられた所で、俺が答える訳が無いと。

 実際、守秘義務もあって俺は聞かれても答える事が出来ない……そういうものなのだ。

 

 彼は彼なりに気になって行動しているのだと思う。

 サンドワームの暴走が単なる自然現象的なものなのか、それとも、何者かが裏で手を引いているのか……それを知りたがっているのだろう。

 

 この時代の治安維持を担当するのは主に銀河連邦の仕事だ。

 だが、銀河連邦に限った話ではないが、大きくなりすぎた組織は小回りが利かない。だから何かがあっても、とっさに動けない。

 だからファルコンのように敢えて銀河連邦に所属せず、フリーの賞金稼ぎのような形で立ち回っている連中もいる。個人で勝手に立ち回っているから、本人の生死くらいしか責任問題が無い。

 

 まぁ俺も、形式的には銀河連邦の別働隊と言ってもらって構わないだろう。

 表立って連携は取ってないが、裏では色々とやっているしな。

 実際、銀河連邦の上層部には俺たち時空警察の存在が知られている。あくまでトップシークレット扱いで、だが……

 

「所デふぁるこんサン、れーすト賞金稼ギデハ、ドチラガ優先ニナルノデスカ?」

 お互い黙ったままでいたせいか、突如QQQが場を取り繕うように声を上げる。

 そんな事しなくていいんだが、俺たちの間に流れる妙な沈黙が耐えられなかったのだろう…

 だから中身は最先端技術が詰まってるって言っただろ?時々、物凄く変な所でそれが発揮される…

 

「明後日ノれーすガ終ワッタラ、次ハみゅーとしてぃ二行ク事ニナリマスガ……ココノ見回リトカハドウスルノデスカ?」

 何だ、そんな事を気にしているのか?

 そう言わんばかりにファルコンは軽く肩をすくめる。

「そうだな、どちらが優先か…と聞かれれば『時と状況次第』としか言いようがないが、今回に限って言えば、レースが終わったらミュートシティの方に向かうさ」

 

 あれ?ここでの調査や警備はいいのか?

 

 俺はそう言いかけたが、ファルコンは俺が口に出す前に先回りして、俺が声を発する前に疑問に答える。

 

「私が出回っていたのは調査の為というか、囮のようなものだったからな」

「囮…?」

「今回は残念ながら、相手が乗ってくれなかったが……」

 

 そう言いながらファルコンは俺たちから視線を外し、くいっと、自分の背後を見遣る。

 俺も怪訝な表情を浮かべながら、ファルコンの背後に目をやると……

 

 ……あっ……

 あれは……

 

「そんな訳だ。お前も、嗅ぎ回るのは別に構わないが気をつけた方がいい」

 それだけ言い残すと、彼は風防を閉め、そのまま走り去った。

 

 だから俺も、敢えて彼の方を振り返らず、黙ったままマシンに乗り込み、その場を後にする。

 

 そう…敢えて“今見えていた者”を追わず、何も知らない、何も見ていない振りをして。

 

 相手が仕掛けるなら、もうとっくに仕掛けている筈…今はまだ、監視しておくか泳がせておくかするつもりなのだろう。

 なら俺たちも、敢えて相手を泳がせておこう。まだ確証がない以上、下手に動かない方がいい。

 

 ファルコンの背後……サンドオーシャンの観光名所である古代遺跡群が遠くに立ち並んでいるのが見え……その中に、ブラックシャドーとブラッドファルコンの姿が、微かにだが見えた。

 この時代の資料には予め目を通していたが、実在するのを見たのは今日が初めてだ。

 

 26世紀…惑星間で大きな戦争もなく、一応平和と呼べる時代…

 そんな中で暗躍していたのは、BS団と呼ばれる組織……ブラックシャドーを筆頭に、世界を裏から牛耳ろうと言う者たち……ブラッドはファルコンのクローン人間で、シャドーの右腕的存在らしい。

 

 連中は今は何もせず、ただ、俺たちを監視していたのだ。

 いや、厳密に言うとファルコンの方だけかも知れないが……

 

 類は友を呼ぶと言うか、犯罪者は犯罪者同士でつるむ傾向がある……未来から来たものは“歪み”の痕跡を極力残したくないから現地の彼らを利用し、現地にいる連中は未来の技術=力を得る事が出来る…そう、利害の一致で結託している事も珍しくない。

 もし、彼らとデスボーンが繋がりを持っていたとしても、何一つ驚くような事ではない。

 

 ……彼らもF-ZEROと呼ばれるレースに参加する。

 この時代では一番人気のレースだと言っても過言ではない。

 信じられない話だが、F-ZEROサーキットの中は治外法権で、国家権力者だろうが治安部隊だろうが悪党だろうが指名手配されてようが参加出来てしまうのだ。そう言った連中がマシンを飛ばして走り去る異様な光景が、この場所なら当たり前の事なのだ。

 元々大富豪達が平和な世界にスリルを求めた結果、始まったのがF-ZEROと言う娯楽だった。だからレースを面白くしてくれれば経歴は無視しますと言う事だろう。そんな無茶な言い分が通せるだけ、F-ZEROの実行委員会は下手な国家並に財力も権力もあるのだ。

 

 F-ZERO参加に必要な物は、F-ZEROマシンたった1台(と簡単に言ってみたが、一般人が買える値段じゃないので敷居は物凄く高い……)基本的にレース期間は2週間、最初の週末と次の週の土曜日に予選を行い、次の日に本戦をやると言うのが大まかな流れだ。

 その為、本戦に出るチームの入れ替わりが激しく、結果的に一発屋で終わってしまったり、遠征費用が無いなどの理由で転戦に応じず、敢えて一カ所のサーキットだけで頑張ろうとするチームもある。

 

 ……だから、マイナーなチームが突然無くなってしまっても、あまり気にかける人もいない……

 

 マシンを流しながら、俺はフと思い出す。

 そう言えば、数年前に失踪して事実上解散扱いされていたチームがあったと。

 その時期に、デスボーンの“痕跡”が観測されていたなと。

 ……いや、まだ証拠も何も無い……

 でもちょっと引っかかるんだよな……

 

 脳裏に焼き付くブラックシャドーの姿……

 奴もF-ZEROに参戦してファルコン達と争うような立場だが、本当に奴らは、レースの為にこの惑星に来た…

 だけなのか?

 

 …………

 

 まだ分からない。答えようがない。

 

 でも、ともかく油断だけはするな。

 俺は自分にそう言い聞かせる。

 いくら未来から来たと言っても、俺は全てを見通せる訳じゃない。

 事の渦中にある俺には、己の未来は見いだせない。

 運命は常に流転している最中なのだから。

 

 だから、ともかく、油断だけはするな。

 

 

To be continued.→ LAP.2 Narcotism ~彼方へ…~ http://www.tinami.com/view/670873


 
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