No.670873

【F-ZERO小説】LAP.2 Narcotism ~彼方へ…~ 

【F-ZERO GX ~Story Mode~ 奴らは“神”で武装する】
・と言う訳で、多分原作を知らなくても読むのに支障は無い、二次創作としてそれはどうなんだ?的なF-ZERO小説(笑)ちょっぴり長めですが、宜しかったらどうぞです。

Prologue KILL ALL ~所詮それは“駒”だった~ http://www.tinami.com/view/668883
LAP.1 Distortion ~今はまだ…~ http://www.tinami.com/view/668886

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2014-03-15 07:53:02 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:672   閲覧ユーザー数:672

【F-ZERO GX ~Story Mode~ 奴らは“神”で武装する】

LAP.2 Narcotism ~彼方へ…~

 

「すぐに現場は封鎖したから、誰も荒らしてはいない。目撃者も、俺たち以外には恐らくいないだろう。状況を確認したいのなら、常に撮影しているQQQの画像データがある。それを見れば事の顛末くらいは分かる筈だ」

「そう、ありがとう。貴方はその辺の部下より使えるから助かるわ」

 

 俺は、たまたまそこに居合わせた銀河連邦のジョディと言う女性に事件現場を明け渡す。

 俺も確かに警察官だが、あいにく管轄が違う。

 その当時に起こった事件は、その当時の人間が調査するのが筋だからな。

 

 俺たちは今、ミュートシティのサーキットの地下駐車場にいる。

 あのレースが終わった後、俺たちは次のレースが行われるミュートシティに飛んだ。

 サンドオーシャンが古代遺跡が立ち並ぶ観光地なら、こちらのミュートシティはこの時代一番の発展都市と言っても過言ではない。片田舎から一気に大都会に来た感じだ。

 

 ……いや、サンドオーシャンの一件は解決した訳じゃないんだが……

 

 しかし、あれから本当に被害が何も無く(警備が強化された為、そんな所に行く人がいなくなったおかげもあるだろうが)何かあるかと睨んで見張っていたレースはデスボーンを見かける事もなく無事に終了。パイロット達はみなサンドオーシャンを離れてしまったから、あそこで俺が粘る理由が無くなってしまった。

 何故なら、繋がりがあるであろうブラックシャドー達も、レースが終了した後は姿を消してしまったからだ。

 だから、次に何か起こるとすれば、次のレースの開催地であるミュートシティじゃないかと……それで来てすぐにサーキットの下見に来てみたら…ご覧の有様だ。

 

 レースが行われる前のコースは練習用にパイロット達に解放されている。

 だが、そこにいるのは練習熱心なパイロットと、彼ら目当ての熱狂的なファンくらい。

 いわゆる反社会的勢力のパイロットは、基本的に練習には姿を表さないらしい。

 

 だから都心のサーキットと言えども、サンドオーシャンのレースが終わったばかりなのもあり、今はまだかなり閑散とした雰囲気だ。

 

 そんなサーキットの地下駐車場…

 その一番奥の一番隅っこに、俺のマシンは停めてあった。

 

 レース開催時は停める場所も無くなるんだろうが、今日は至ってガラガラだ。

 空いてるんだからこんな隅っこに停めなくたっていいんだろうが、なんとなく、全体を見渡せる所にポジションを取りたくてな……職業病だと言われれば、俺は敢えて否定はしない。

 

 この近辺では今の所、特に“歪み”は観測されていない。

 かと言って、ここで何もせずにボーっとしているようでは仕事にならない。

 BS団とデスボーンの関係を疑って、先ずはこの辺でBS団がどう暗躍してるか…その辺を調べるか?と、マシンの中でQQQと話をしていた…

 

 その時だ。

「あれ…?」

 俺は思わず声を上げる。

 

 視界の中に入って来た少年の様子がおかしかったからだ。

 

 俺のマシンから約100mくらい先にサーキットに行く為の歩行者用通路とエレベーターがあり、薄暗い地下の中でも、そこだけはほんのりと明るい。

 だが……その歩行者用通路を歩いている少年の様子が、どこかおかしい。

 少年…と言っても人間ではない。

 灰色の体毛に覆われた、いわゆる獣人と呼ばれる者だ。

 だが、別に俺は、そこが“おかしい”と言った訳ではない。多種多様な種族が入り交じるミュートシティのような場所では、そう言った人間以外の者がいてもおかしくはない。寧ろ普通だ。

 

 なら、何がおかしいのかって?

 おかしいのは少年の“様子”だ。

 

 遠目で分かる程に挙動がおかしい。

 仮想望遠で拡大してみると、背中を丸め、よだれを流しながら荒い息を吐き出している。

 目の焦点だって合っていない。

 時折何か声を上げているが、俺の翻訳プログラムが反応していないと言う事は、何の意味も持たない言葉の羅列でしかないようだ。

 

 しかも、彼が手にしているのは小型の機関銃だろうか……

 

 ……嫌な予感しかしないんだが……

 

 レースの開催期間なら、こんな場所でこんな奴がウロウロしてたら警備員がすっ飛んで来るだろうが、この閑散とした今の時期はそうはいかないかも知れない。

 少なくても、混雑している時より警備は手薄だろう。

 そして実際、この時点で誰も来ていないし警報も鳴っていない。

 

 だから俺は、QQQに遠隔操作でエレベーターの制御システムに入って一般人がこの階に止められないようにしてもらいつつ、警備棟に連絡を入れて、怪しい奴がいる事を知らせてくれと頼む。

 

 俺はその間に相手の動きを止めようと思った。

 いきなり銃で足を撃つと言う乱暴な手段しか取れなさそうだが、相手が真っ当に話を聞ける状態にあるとはとても思えず、やむを得ない。

 

 そうして手短に手筈を整えて、俺がマシンから下りようとしたその時だ。

 少年が一際大きな声を上げた……異様な金切り声が地下に響き渡る。

 そんな雄叫びを上げながら、少年は手にしていたライフルを俺たちの方に構えた。俺たちを狙っているのかは分からなかったが、その答えがどうであれ、危険な状況にあるのは変わらない。

 

「おい、待て!!」

 俺は思わず叫んだ。

 叫んでも無駄な事は、俺が一番よく分かってはいたのだが……かと言って、何もしないと言う選択肢は思いつかなかった。

 叫びながら俺は動いていた。

 無意識のうちにマシンから飛び降り、少年の方へ走っていた。

 少年はそんな俺の様子に気付いたのかどうか…それは分からない。

 だが、少年の行動は止まらなかった。

 

 少年は狂ったかのような表情で、こちらに向けて引き金を引いた……

 

 銃器独特の炸裂音。

 その音が地下と言う閉鎖空間に響き渡る。

 

 そうして血祭りにあったのは…

 俺ではなく少年の方だった。

 

 言っておくが、俺はまだ何もしていない…相手の元に駆けつけようとしただけだ。

 

 歩行者用通路とエレベーターの踊り場、そしてマシン用の通路……

 歩行者とマシンの通路を隔てているのは、透明な強化ガラス。

 万が一、マシンが暴走した時には歩行者を守る為に…また、エレベーターから溢れた歩行者がマシン用の通路に出て敷かれない為に…その間を隔てるように強化ガラスが設置されている。

 

 マシンが突っ込んでも壊れないタイプのガラスに向けて銃を乱射したら……

 …そう、言うなれば、彼は……自殺したようなものだ。

 至近距離で強化ガラスに大量に弾丸を打ち込み、それが全て自分に向けて跳ね返って来たのだから……

 

 強化ガラスや通路が血に染まり、少年はピクリとも動かない。

 仰向けになり、目を見開いて……その目で彼は最後に何を見ていたのか……

 

 俺の後に下りて来たQQQは、俺が頼んだ通りにエレベーターのシステムを緊急停止させ、ついでに警備室に連絡を入れてくれたようだ。最も、これだけの銃声が響けば流石に誰かしらの警備員が来るとは思うが……

 

 そうして偶然レースの練習に来ていたジョディが誰よりも早くここに来てくれた…と言う訳だ。

 

「最近流行ってるのよ」

 現場を俺から譲り受けたジョディが、ため息混じりにそう零している。

「状況から察するに麻薬中毒なんでしょうケド……こう言った事件は以前からあったわ。でも最近は……露骨に人に危害を加えるケースが多くて……痛ましい話だわ……」

 

 俺はその後も一応現場にいたのだが、他の警備員や銀河連邦の捜査員が来てくれたので、残念ながら俺に出来る事は無さそうだ…そう思い、ジョディに一言断ってからその場を後にした。なに、用があれば連絡くらいはくれるだろう。

 

 因みに、俺が立ち去ったのは別に早く帰りたかったとか、そう言った理由ではない。もしも、この検案が“俺の管轄”だとすると、彼女に話を聞かれるのはマズい。だから俺は現場を後にして、適当な場所にマシンを止めた。

 

 現場を荒らしてはいない。

 確かにジョディにはそう言ったし、それは99%間違いではないのだが……

 いや、大それた事はしていない。ちょっとだけ、死亡した少年の体液をQQQに採取させて成分を調べさせてもらっただけであり、あちらの捜査の支障にはならない筈だ。

 

 …で、その結果なのだが……

「新型IGS……」

「厳密ニ言ウト少シ違イマスガ…」

 

 新型IGS……

 こいつは未来の世界でちょっとした問題になる薬物だ。

 ただ、俺の知るこの薬は、麻薬ではなく筋肉増強剤…いわゆるドーピングみたいなものだ。

 

 摂取した者の身体能力を、限界以上に増強する……

 

 こうやって言うと単に便利なものに聞こえるが、限界以上にすると言う事は、どこかしらに無理を強いる事になるらしく、打たれた者の寿命は極端に短くなる…3年生きればいい方らしい。

 元々は兵士を“兵器”として利用する為に開発され、それを摂取させた者を高値で売買していたとか言う話を聞いたことがある……

 本当かどうかは知らないが、全身に弾丸を数百発浴びても死ななかったらしい。

 ……何とも、えげつない話だ。

 勿論、薬物を使っていなくても人身売買は国際法的には禁止されている。だが、生命をそんな風に扱ってしまう連中が一々法律を守る訳が無い。残念ながら、ブラックマーケットみたいな形で市場は残っている。

 

 ちなみに、本家本元の新型IGSは作り方がかなり面倒くさい。

 対象者に合わせて薬を調合する必要があり、その為にDNAを調べたりしなければ完璧なものは作れない。

 それを怠ると、誰の命令も聞かず、ただ理性を失った凶戦士のように暴れ回るだけになる。それでは戦争の時に兵器として使えない。制御出来ない道具程、やっかいなものはない。

 

 しかも今回は……

「少し、違うもの…?」

「ハイ、恐ラク個体ニ真面目ニ適合サセズ、麻薬成分モ無調整ノママ……」

「要するに手抜きか?」

「恐ラク、質ヨリ量ヲ優先サセタノデショウ」

 

 新型IGSは、何故対象者を個々に解析して調合しなければならないのかと言うと、心身の増強を図るには、どうしても無意識にかけている心のリミッターを外さなければならず、その為には少量の麻薬成分が必要になるらしい。それは精神を壊さず、且つ、気を大きくするだけに量を留めないとならない。

 微妙な調整が必要なのだ。

 それを怠ったら、単なる麻薬と大差がない。

 

 確かに新型ではない、旧型と言うか、出来たばかりのIGSは単なる麻薬だった。

 

 だが、IGSは本来ここで蔓延している薬ではない。

 作られた場所も、時代も、ここではない……もう少し先……百年くらい後の時代、しかも別の惑星だ。

 だから、ここで発見される事自体が正直おかしいんだ。

 

 俺は仮想モニターにIGSのデータを映し出す。

 旧型なら、確かに技術的にはこの時代……26世紀でも作れなくはないだろう。

 だが、平和なこの時代では作る必要が無く、故に研究開発されなかったのだろう。

 麻薬なら他にもある……だから生体兵器のような物騒な薬を開発する理由が無かったと言う事か。

 

 それなのに、わざわざそれを教えた奴がいる。

 作るようにそそのかした奴がいる……

 

 まぁ“アイツ”だろうな……

 

 本来その時空に無い、過去や未来から飛来したモノが存在する場合、時空間に“歪み”を発するものだが、時空渡航者が作り方を現地の人間に入れ知恵した場合……材料も設備も現地で調達した場合……“歪み”が発生しないため、探す俺たちの方から見ると厄介な物だ。歴史に癒着し、それを大いに歪めてしまう危険性が高い。

 

 しかも、この手の犯罪は珍しいケースではなく、割とポピュラーなものだ。

 過去に行き、自分達の作った強力な麻薬を蔓延させてしまえば、当然それを欲しがる連中は多くなるし、多くなれば資金を得るのも簡単な話になる。おまけに、それによって治安が悪くなれば暗躍出来る場所も増えるし、支配するのも楽な話になる。

 

 デスボーンは恐らく、BS団にその技術を渡したんだろう。

 もちろん、無料で無目的にホイホイ渡すとは考えにくく、利害の一致があったんだろうがな。

 

 BS団的にとっては、強力な麻薬は利用のしがいがある物だろうが……

 デスボーンの方は何だ……?

 金か?

 人手か?

 情報網か?

 あいつのやっている事はいつも脈絡が無く、意図があるのかないのか、そこからして正直よく分からない……露骨に敵意丸出しの連中よりある意味タチが悪い……良くも悪くも、奴からは悪意すら感じない。おかげでこちらはいつも振り回されっぱなしだ。

 

 考えながら、俺は軽くため息をついた。

 ただ放浪しているだけでした…なんてオチは勘弁してもらいたいのだがな。

 

 

 そして翌日になり……

 ジョディから連絡が入った。銀河連邦の方に顔を出してくれと言う事だったから、恐らく、昨日の事件に何か進展があったのだろう。

 

「惑星ズー?」

「ええ、昨日の子、どうやらそこから連れて来られたらしいのよ」

 銀河連邦の方に到着すると、挨拶もそこそこにジョディからそう切り出される。

 

 惑星ズーか……今から10年くらい前に大きな戦争があった所、だとは聞いているが……

「そうね…10年以上経過して、そんな戦争があった事もこの辺の人達は忘れているでしょうね…でもまだ傷跡は深くて復興したとは言い難いし、政治基盤も弱い所よ」

 

 失踪届けでも誰か出していたのか?と尋ねてみたが、案の定そんなものは出ていなかった。

 政治基盤も弱く、治安も悪いなら、誰がいつ行方不明になってもおかしくないし、誰も感知しないから誰も気付かない。身近にいた連中が「最近あの子見かけないよね」と思う程度で終わってしまうだろう。

 大変残念な話だが、それが普通だと言えてしまう環境は確かにある……いつの時代でも。

 

「しかし、失踪届けも何も出てない状態で、よくそんなに早く身元が分かったな…」

 俺は思わず声に出してそう言った。

 それを聞いたジョディは苦笑いをしながら答える。

「それは、情報提供者……と言うか、ちょっとオバカさんがいてね……」

「おばかさん??」

「市民の相談窓口から連絡があったのよ……人身売買の代金を踏み倒された上、ブツにも逃げられたんですって訴えてる人が相談に来ていると……」

「…は!?」

 

 市民の相談窓口と言うのは、普段なら詐欺とか通販のトラブルとか、そう言った割と身近な事件の相談を受け付けている所なのだが、昨日……俺たちがサーキットでワタワタしていた頃に、そこにわざわざ出向いて相談しに行った奴がいるらしい。

 

『ドン・ジーニーと言う男の元に、惑星ズーで誘拐して来た少年達を「欲しい」と言われて連れて来たのに、金銭面で揉めに揉め、交渉が長引くうちに誘拐した少年達は凶暴化し、気がつくと檻を壊して逃げてしまいました。

 欲しいって言っていたから連れて来たのに、満足な代金を支払おうとしないなんて詐欺だ!!』

 

「…だ、そうよ」

「……えーっと……それ、相談ではなくて……自首では……???」

「いいえ、あくまで相談で、ジーニーに代金を請求する方法が知りたかっただけみたいね。

 実際、今はその人は留置所にいるケド、何で自分が逮捕されるのか全く分からない!!!と叫びまくってるらしいから…」

「…………;;;」

 ジョディは軽く肩をすくめ、俺もどういう表情をしていいのか正直分からなかった。

 

 いやあの、誘拐も人身売買も、この世界では普通に犯罪なんだが……

 それにしても自覚が無いと言うか、罪の意識が無いって恐ろしいな……

 

 ちなみにドン・ジーニーと言うのは、この時代では有名な商人の一人。それもどちらかと言えば悪い意味で有名な商人だ。表向きは貿易商社を運営しているが、裏向きは資源や兵器を密売し、逮捕される度に高額の保釈金を払って出て来ている。裏向きの顔ってのは普通はこっそりと、文字通り裏でそうするものだが、こいつはある意味堂々としているので始末が悪い。

 密売の相手は主にBS団だし、ジーニーは既にその事実を伏せる気も無いらしい。

 だから人身売買や誘拐、麻薬の話の中にその名前が出て来ても全然違和感がない。

 

「生産の人手でも欲しかったのかしらね?」

 そう言いながら、ジョディはあごに手を当てて考え込んでいる。

「私たちの方でも、まだ概要が掴めてないんだケド……通称『S』と呼ばれている新型の麻薬は、若者を中心に急速に広まっている…」

「それはつまり、どこかで大量生産してるって事だよな……」

 そう間の手を入れながら、俺も同じようにあごに手をあてて考える。

 

 ああいった薬を大量に作ると言う事は、意外と大掛かりな施設と人手が必要になる。

 もしかしたら、誘拐した人たちを、そこに使おうとしているのか……?

 合法的なものを作ろうとするなら、普通に求人を出せば済む話……

 それが出来ないと言うのなら、作ろうとしているのはやはり……

 

 

 そんなやり取りの後、俺は一旦ジョディと別れ、自分のマシンに戻っていた。

 惑星ズーの誘拐沙汰の件は、相談窓口の職員が相談を聞いてあげる振りをして、監禁場所等、粗方重要な事を聞き出せた為、それはもう銀河連邦の方で何とか出来るだろうとの事で、後は現地の人である銀河連邦の方におまかせする事にしよう。

 ……いやそれにしても、罪の意識が無いって本当に恐ろしいな……

 

 まあ呆れるのはこれくらいにして、俺には俺のすべき事がある…先ずはソレをこなさなければ…

 

 大量の麻薬、それを生産する為の大掛かりな施設と人手、それらは一体どこに……

 

 そんな事を考えていると、フと、俺の頭の中に、ある仮説が浮かび上がる。

 

 銀河連邦の連中は、証拠と言うか確証が無いと動けない。それが大きくなった組織の弊害でもある。

 だが俺は、銀河連邦からは切り離されているから、確証が得られてない場所へも飛んで行ける。

「QQQ、こっち来たばっかりでアレなんだが、サンドオーシャンに戻るぞ」

「…エ??アノさんどわーむノ件デ……デスカ?」

「ああ…まあな」

 

 色んな事を考えているうちに、砂漠のあの大きなサンドワームの事を思い出した。

 

 あのサイズなら、例の麻薬で凶暴化させる事も出来た筈……

 なのに何故、頭の中にチップを入れると言う手間のかかる方法を取ったのか……

 

 ただ暴れさせ、現地の人に被害を加えたいだけなら、麻薬の方がずっと手っ取り早い筈。

 だが、奴はその方法を取らなかった…それは何故か。

 

 制御する必要があったからだ。

 必要以上に暴れられては困るからだ。

 チップなら、生体の本能に関与して、特定の範囲から外に出ないとか、特定の人物は襲わないとか、そう言った制御が可能になる。でも麻薬は……そう、制御出来ない道具は、ただ、やっかいなだけだ。

 

 サンドワームは言わば番犬だ。

 だから街を襲ったりせず、その工場を守ればいい。

 関係者は無事に通し、そうでない者は追い払えばいい。

 何人かが襲われれば、砂漠に行こうとするバカもいなくなるだろう。

 

 確かにあそこには、広大な砂漠しか無い…

 少なくても見た感じは広大な砂漠しか無かった。

 

 だが、地下は…?

 

 確かに“歪み”はサンドワームにしか残っていなかった。

 だがもし、その地下の工場をBS団だけで材料を仕入れて組み立てていれば…?

 

 そう、現地のものは“歪み”を発生させない。

 

 ああ、全て推測だよ。

 証拠と呼べるものは何も無い。

 

 だが俺は……

 今の俺は、その推測だけで行動出来る立場にある。

 

 俺はマシンのアクセルを踏み込み、惑星間移動ポートに急ぐ。

 再び、あの砂漠に足を踏み入れる為に……

 

 

 そうして半日後、俺は交通網を駆使して、再び砂漠の真ん中に降り立っていた。

 最初にサンドワームと戦った、あの場所に。

 

 既に日は傾きかけている。

 今の所は、周囲には生命の息吹すら感じない……

 敵とか味方とか、そう言った概念すら無く、誰も何もいない……ように感じる。

 そこにあるのは大量の砂だけだ。

 

 それでも俺は、マシンのコックピットの中で仮想スクリーンを広げ、この辺一帯の状況をスキャンする。

 ……別に今の所は、何の異常も無い。

 その時代にある、その時代のものが、何の変哲もなく存在しているだけだ。

 

 最も、表面上だけをサラリと調べて終わったんじゃ、わざわざ戻って来た意味が無い。

 スキャンする範囲を少しずつ広げてみる。

 

 出力を少しずつ上げて行く。

 もっと奥へ、もっと下へ、もっとずっと深層部へ……

 

 その作業の途中で……

 計器の操作をしていたQQQの動きが、止まった。

 

「……ん?」

 俺はモニターを見据える。

 

 ……本当に奥深い、ここから地下約五千キロの所に……

 “歪み”ではない……

 “歪み”すらない……

 “何もない”……

 何の数値も拾えない、何も観測出来ない、明らかにおかしい場所があった。

 

 ……本当に奥深い、ここから地下約五千キロの所に……

 物質と言う概念も、時間と言う概念も無く……

 ただ“何も無いだけ”の空間がある。

 広さは、ちょっとした体育館くらいだろうか……

 

 「意味が分からないから無理矢理他の物に例えろ」と言われたら……

 物を吸い込まない、ただそこにあるだけのブラックホールと言う穴が、この真下にあると言えばいいだろうか……

 

 “物質”と“時間”の概念が無い、いわゆる「この世」では無い、別の次元の概念…

 “時空の狭間”。

 こういった空間が、偶発的に、自然に出来る事はまず有り得ない。

 

 何者かが……時空を操れる何者かが、この時間の空間を切り取り、彼方へ飛ばしたとしか……

 

 となると…

 思い当たる人物は一人しかいない……

 

「あっ」

 俺が奴の名を口にしようとした瞬間、スクリーンの中の反応が消えた。

 

 “何もない”状態が“無くなった”。

 

 つまり、元の状態に戻った……

 砂漠の地下にあった時空の狭間が、ただの砂漠の砂に戻っていた。

 “歪み”も無く、ただ、この時代の物質と時間が流れている。

 

 “時空の狭間”にあったものは完全に切り離され、狭間の彼方に飛ばされてしまった…?

 

 いや、俺にはそうやって思案に暮れる時間すら無かった。

 スクリーンから目を離すと、目の前の砂丘の上に……

 

 “奴”が、いた……

 

 俺は慌ててマシンから飛び降りる。

「デスボーン!!」

 俺は思わず奴の名を叫ぶ。

 この砂漠のど真ん中では、逃げるだの隠れるだの小細工は出来ない…

 いや、俺はどのみち逃げる気も無いがな……

 それは奴も一緒だ。だが、奴は逃げも隠れも動揺もせず、ただ、砂丘の上から俺を睨むだけだ。

 

「ここで何をしている!?」

 俺は大声で奴に尋ねる。

 勿論、奴は答えはしないだろう。

 

 そう問いかけるのと同時に、嫌な思考が俺の中に沸き上がる。

 

 奴が何故ここに出て来たのか。

 

 それが何を意味するのか……

 

 身の毛がよだつ。

 俺は歯を食いしばり、荒れた息づかいで奴を睨む。

 

 俺の予感が正しければ……!!

 

 この“時空の狭間”は跡地みたいなものだ。

 ほんの数分前まで、何かしらの物体があった跡地だ。

 恐らく、何かしらの工場があった跡地だろう。

 それがどのくらいの規模だったのか、もはや知る由もない…

 

 そう……知る、由も、ない……

 

 ここに工場があったと思われる。

 状況的に考えて、それは間違いないだろう。

 歪みを発生させない為に26世紀の資材を使って、この地下奥深くに、地上との通路が無い“脱出不可能の監獄”を作った。

 地上にワープポイント的なものも見当たらない所から、恐らく、行き来出来たのは、時空を曲げてどこにでも現れる事が出来るデスボーンと、奴に連れられて来た連中だけ……

 

 俺はこの時代に降り立った時、サンドワームに残る僅かな歪みを感知してここに来た。

 だが、それを回収して帰ってしまったから、デスボーンも特に危機感を抱く事なく工場を稼働させていた。

 だが、ミュートシティでの事件を受け、一度立ち去った筈の俺が、再びここに戻って来てしまった。

 奴はそれで、俺がある程度の確信を持って戻って来た事を察したのだろう。

 

 こんな手間のかかる場所に工場を作ったのは、もちろん、誰にも見つからないようにする為だ。

 だが、隠してあるものは、一度見つけられると隠してある事にならない。

 つまり、意味をなさない。

 

 だから不要になったと言う訳だ。

 

 工場で生産される麻薬の収入源が無くなる事は奴やBS団にとっては痛手だろうが、奴にしてみれば、それ以上に俺に見つかった事がネックだったのだろう。俺に見つかれば、銀河連邦の手も入って話がややこしくなる可能性も高いしな。

 

 だからあっさりと時空の狭間に投げ捨ててしまった。

 

 中で働かされていたであろう、工場の人員達……誘拐されて、不本意でそこにいた人達……

 デスボーンが彼らに対して配慮したとはとても思えない……彼らが脱出しているとはとても考えられない……

 しかも、この世から切り離され、完全に隔離された時空の狭間では、生命体は生きて行けない……

 死ぬだけならまだマシだ。

 この世に普遍的にある法則から切り離された時、生命体は個体を維持出来ず、お世辞にも、まともとは言えない状態になる……仕事柄、俺はその事をよく知っている……

 

 奴はそんな俺の様子に構わず、横目でこちらを見遣るだけだ。

「フンッ、貴様には知る必要など無い……」

 奴はボソリとそれだけ言い残すと、右手を天に掲げ、頭上の空間を切り開き、その中に吸い込まれるようにして消えて行った。

 

 超空間転移……

 

 と同時に、俺の背後から激しい電極が走るような光が!!

 

 振り返ると、マシンの中にいたQQQに激しく電極が走っている!!

 

「オイ、QQQ、やめろ無理だ!!」

 俺がマシンを下りた時、QQQはマシンと自身のシステムをコネクトして結界を貼っていた。

 そう、入っていた相手をどこにも逃さない為の、あの結界だ。

 

 確かに、普通の時空間移動のシステムが相手なら、足を止める事くらいは出来る。

 だが…奴が相手ではそれは無理だ。

 原因は分からない。

 生身で時空移動出来るイレギュラー的な存在を、普通のシステムで何とかしようとする事自体が無理なのかも知れない。出力にかけるパワーが桁違いなんだ。

「やめるんだ!!お前のシステムの方が持たない!!」

 くやしいが分かっていた……前に一度実行し、マシンもQQQもシステムに酷い損傷を受けた。あの時は他の連中に助けてもらえたから良かったが、今、同じような損傷を受けたって誰も助けに来られない。

 

 言って聞かせてもQQQは止まらない…いや、既にハングっているシステムは、QQQの方からでは止められないのかも知れない。

 

 こんな方法は取りたくなかったが、もはや仕方がない。

 俺は大急ぎでマシンに戻り、手動で、マシンとQQQのコネクトを強引に外す。

 

 一際大きな火花が散った後、二つのドライブが回転する音が、徐々に小さくなっていく…

 後は無事に再起動する事を祈って待つしか無い。

 

 そして数十分が経過した頃だろうか…

 俺には数時間のように感じられたが……

 

 やっと、QQQのシステムが静かに再起動する。

 マシンの方も、ざっくり調べた感じは何でも無さそうだ。

 

 しかし冷や汗をかいた…

 流石にQQQが壊れてしまうと、俺としても困るんだよな色々と……

「お前さぁ…何でそんな無茶したんだよ…」

「イエ、チョット試シテミヨウカト思ッタンデス」

「……試すなよ……」

 まるで何事も無かったかのようなQQQの受け答えを聞いて、俺は深いため息をつきながら頭を抱える。

「まあ気持ちだけは受け取っておくが、無茶はしないでくれ……」

 

 勿論、QQQの気持ちも分からない訳ではない。

 絶対的に不利な状況であったとしても、やはり何もしないよりは、何か出来る事はないか模索したくなる…それがどんなに博打でも、万が一にも良い方向に傾ける事が出来たなら……

 それは俺も同じ。

 状況的な事を考えれば、俺たちの方が絶対的に不利だ。かと言って、全てを諦めて投げ出す事もしたくない……

 

 ……全てを救えなくても、救える者は救いたい……

 そうは思っているが…結局、ここに来てから誰も助けてやれていない……

 ミュートシティの少年の事も、あの工場にいた人達の事も…

 

 ……分かってはいる。俺がどんなに突っ走ったって、全てを救う事は出来ないと。

 

 ナーバスになっている訳にはいかないと言うのも分かっている!!

 

 奴らはこれから何をするつもりだ…?

 何にせよ、繋がりがあるブラックシャドーがレースに出ると言うなら、そいつを追いかけ回していれば、何か掴めるかも知れない……

 

 疲弊した頭の中で、俺は無理矢理そう纏める。

 惑星ズーに捜査しに行ったであろうジョディの事も気になるし……

 

「…取り敢えず、ミュートシティに戻ろう…」

「ソウデスネ、早クココカラ離レタ方ガ良イデスネ」

「…?別に他に敵がいる訳じゃないだろ?」

「僕ハ貴方ノ精神状態ヲ気ニカケテイマス」

 

 QQQにそう言われて、俺は再びため息が漏れる。

 お前には全てお見通しと言う訳か……

 

 そして俺はハンドルを握り、アクセルを踏み込む。

 再び来た道を戻る為に。

 これ以上、奴の好き勝手にさせない為に……

 

 

To be continued.→http://www.tinami.com/view/672651


 
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