No.667522

機動戦士ガンダムSEEDDESTINY 運命を切り開く赤と菫の瞳

PHASE10 アスランの立ち位置

2014-03-02 23:08:56 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:5894   閲覧ユーザー数:5809

「え、でもさあ、ミネルバの修理ってもうじき終わるんでしょ?」

 

「ああ、まあね」

 

買い物籠を提げたメイリンとルナマリアの会話が聞こえてくる。そこはカーペンタリアのドラッグストアだった。店を出ようとしていたシンは少し足を止め、ホーク姉妹に目をやる。

 

「じゃあ、何時出向命令出るかわからないじゃない?やっぱ、今のうちに勝っとかなきゃ!」

 

そう言って棚に手を伸ばしたメイリンの籠には、すでに化粧品らしきものやシャンプーなどがずっしり入っている。

………………………………女の子って、大変なんだな。あれを全部どうやって使うんだろう。

シンは圧倒されながらも考え、ルナマリアも呆れた表情になった。

 

「あ、そう?…………何がなんでそんなに要るんだか知らないけど」

 

軽そうな籠を提げて、すたすたとレジに向かう姉を見送り、メイリンはむくれた表情になる。シンとしては、ルナマリアもせめてもう少し、女の子としての自覚を持つべきだと思う。それにしても、姉妹といっても性格は違うものだ。

シンはルナマリアにてを振った後、ドラッグストアを出た。基地の内部とはいっても、この辺りはちょっとした商店街のように見える。日用雑貨、本やゲームなどのメディア、衣料品等の店が並び、レストランやバーもある。

終戦後、カーペンタリア基地はジブラルタルと並んで、ユニウス条約の監視団常駐基地及び在地球公館としてザフトに残された。表向きは軍事拠点ではないという事だったが、実際の所は、格納庫の中に並んだモビルスーツの数を見れば解るだろう。さきのオペレーション・スピア・オブ・トワイライトで、プラント攻撃と同時にここを包囲していた地球連合軍を斥けた後は、さらに軍備が増設されている。

しばらくあちこちの店を覗いた後、シンは昼食でも買って帰ろうとファストフードの店に向かう。ハンバーガーとドリンクを買い、包みを抱えてぶらぶらと歩く。ピアノの音が聞こえきて、シンは何気なく準備中らしいレストランの内部に目をやった。そこでぴたりと足を止める。ピアノの前に座った背中は、レイのものだ。長い指が楽々と鍵盤の上を走り、繊細な音色を奏でる。シンは声を掛けようとしたが思い直し、しばしその音色に耳を傾けた。

気品のある彼がピアノを弾く姿は、とても絵になっている。でも普段の淡白な言動からすると、ピアノ演奏が趣味というのは何となく不思議な感じだ。

演奏を続けるレイをそのままに、シンはそっと立ち去った。ひとまず皆、束の間のオフを楽しんでいるようだ。

格納庫の間を歩いてミネルバに向かいながら、シンはつらつらと考える。

それにしても、ミネルバは修理が終わった後、どこへ配備される事になるのだろうか?まだ何も通達されていないらしいが、当初の噂通り月軌道だろうか。月には地球連合軍の軍事基地がある。元々宇宙用に建造されたのだから、そこが本来の行き場だろう。

包みからドリンクを取り出して飲みながら歩いていると、上空を降下してくる航空機に目が行った。それは見慣れぬ形状の、真紅の機体だった。輸送機の類には見えず、戦闘機というよりモビルアーマーのようだ。と、その機体は空中で素早く変形した。

 

「モビルスーツ!?」

 

あんな機体は見たことがない。しかも降下していく先はミネルバのドックだ。シンはドリンクを掴んだまま走り出した。

息せき切ってハッチの中に駆け込むと、格納庫の中にはやはりあのモビルスーツがあった。ディアクティブモードの灰色に変じた機体から、搭乗者が降りてくるのがちらりと見え、周囲を取り囲んだスタッフにすぐ隠されてしまう。シンはヴィーノに駆け寄って、口を開き掛けた。

 

「なあ、さっきの……」

 

そこで、人々の隙間からパイロットスーツの人物が見え、彼は息を飲んだ。

 

「え?」

 

深い紅のスーツを身に付けた搭乗者は、オーブで別れたアスラン・ザラだった。

 

「認識番号285002、特務隊FAITH所属アスラン・ザラ。乗艦許可を」

 

アスランはIDカードを提示して、イチカに向かってそう言った。

 

「はい。ミネルバ所属FAITHイチカ・オリムラ、乗艦を認めます」

 

イチカは直立不動の姿勢で返礼し、そう言った。その様子に動揺は見られない。彼はアスランが来ることを知っていたのだろうか?

 

「艦長は艦橋かい?」

 

一度敬礼の姿勢をとってからアスランは気さくな口調を気取って、そう言った。

 

「おそらくはそうだと思われます」

 

イチカがそう答えると、その脇から、

 

「私が確認してご案内いたします」

 

メイリンが目を輝かせながらそう言った。

 

「あの!」

 

艦橋に内線をつなげる為、端末に向かったメイリンと入れ替わるように、マユが進み出てアスランに声をかける。

 

「何?」

 

アスランはキョトン、としてマユに聞き返す。

 

「申し訳ありません、私、オーブでアスハ代表の拉致を……阻止できませんでした」

 

困惑の混じった表情で、マユは謝罪するようにそう言った。隣でイチカもマユに習って静かに頭を下げる。

 

「ああ……聞いてはいるよ。あれは気にしなくても良い」

 

「ですが……」

 

「フリーダムのパイロットの事は良く知っている。アークエンジェルのクルーもね」

 

「え……?」

 

アスランの言葉にマユは驚いたように目を円くした。

 

「大きな声ではいえないが、オーブは政情が不安定だったからね。フリーダムのパイロットはカガリ……アスハ代表の実の弟だし、間違いなく代表の立場と安全を考えての行動だろう。心配は要らないよ」

 

笑ってもいないが深刻そうでもない口調で、アスランはマユに言い聞かせるように言った。

 

「ですが……」

 

「マユちゃーん!ちょっといいですかー!?」

 

「イチカもこっち来てくれー!」

 

アスランにさらに何か言おうとしたマユの言葉を、ガイアの方からユーリが、ゲルググからはヴィーノが遮る。

 

「すみません……この話は後で」

 

「ああ」

 

マユはそう告げて、アスランと別れた。イチカもヴィーノに呼ばれるままにゲルググの方へと向かった。

 

「お待たせしましたー」

 

マユたちが立ち去ったところへ、うきうきとした様子のメイリンが戻ってきた。

 

「?どうかされたんですか?」

 

マユの立ち去った方向を見つめていたアスランにメイリンがきょとんとして訊ねる。

 

「あ、いや、なんでもない……」

 

「えっと、艦橋へご案内いたします」

 

メイリンはアスランの態度に戸惑いを覚えつつ、そう言った。

 

「ありがとう、よろしく頼むよ」

タリアはアスランが預かってきたデュランダルの命令書に黙って目を通していた。隣にはアーサーが控えている。今更だがアスランは彼に目で礼をした。が、相手は無視するように視線を外す。どうも前回この艦に乗り込んだ際の遺恨をまだ忘れて貰ってはいないようだ。

ややあって、タリアが小さく溜め息を吐く。彼女は命令書と共にアスランが携えてきた小箱を手に取り、開いた。そこにはもう一つFAITHの徽章が輝いている。

 

「あなたをFAITHに戻し、最新鋭の機体を与えてこの艦に寄越し……私までFAITHに?」

 

その意向はアスランも聞かされていた。タリアは用心深げな目で彼を見上げる。

 

「一体、何を考えてるのかしらね。議長は?……それにあなたも」

 

「……申し訳ありません」

 

アスランはただ頭を下げた。周囲が自分の扱いに困るだろうという事は予測していたからだ。疑惑と隔意を呼ぶのも仕方ないだろう。だが、タリアは小さく肩をすくめただけだ。

 

「別に、謝る事じゃないけど……しかし厄介な事になったわね。ひとつの艦にFAITHが3人か。ややこしい事にならなければいいけれど」

 

ケースに入ったままのFAITH襟章を前に、タリアはそう言った。

 

「それほど面倒な事にはならないと思いますが……自分はモビルスーツ隊の指揮を任されていますから、艦長は艦を、という形で」

 

艦長席の傍らにいるアスランは、そう言った。

 

「そう……それで、この命令内容は?あなた知ってる?」

 

「いえ、自分は聞かされておりません」

 

「そう?なかなか面白い内容よ」

 

タリアは皮肉っぽい口調で言い、書面に再び目を落とす。

 

「ミネルバは出撃可能になり次第、ジブラルタルへ向かい、現在スエズ攻略を行っている駐留軍を支援せよ」

 

彼女が命令書を読み上げると、アーサーが呆気にとられた顔になる。

 

「スエズの駐留軍支援……ですか?我々が!?」

 

アスランも議長の意図がよく理解できない。南半球のオーストラリアにいる彼らが、何故わざわざジブラルタル━━ユーラシア大陸とアフリカ大陸の境界にまで出向く必要があるのだろ?ジブラルタルに増援が必要ならば、直接宇宙から送る方が寧ろ早いのではないか?

タリアが副長に頷き返す。

 

「ユーラシア西側の紛争もあって、今、一番ゴタゴタしているところよ━━確かにスエズの地球軍拠点は、ジブラルタルにとっては問題だけど、何も私たちがカーペンタリアから行かされるようなものでもないと思うわ」

 

「ですよね……ミネルバは地上艦じゃないですし。一体また何で……?」

 

タリアとアーサーの会話にアスランは遠慮がちに口を挟む。

 

「ユーラシア西側の紛争というのは?」

 

タリアが怪訝そうな目を彼に向ける。アスランはきまり悪い思いで詫びた。

 

「すみまけん。まだ色々とわかっておりません」

 

「常に大西洋連邦に同調し…………というか、言いなりにされている感のあるユーラシアから、一部の地域が分離独立を叫んで揉め出したのよ。…………つい最近の事よ。知らなくても無理ないわ」

 

タリアがすぐ彼の状況を理解し、デスクトップにニュース映像らしきものをピックアップしてくれる。それは紛争、というよりも虐殺ともいうべき映像だった。ライフルや機関銃で武装したゲリラが、ダガーLやウィンダムの敵になるはずがないからだ。凄惨な映像にアスランは眉を顰める。タリアの横でアーサーが補足した。

 

「開戦の頃からですよね?」

 

「ええ」

 

アスランは自分がとてつもなく世情に疎い愚か者のように感じられてきた。いや、最近の情勢があまりに目まぐるしく変化しているのだろうか。

 

「確かにずっと火種はありましたが……」

 

アスランは新たな情勢にまだ少し違和感を覚えながら呟く。

 

「開戦で一気に火が付いたのね。徴兵されたり、あれこれ制限されたり、そんな事はもうごめんだ、というのが抵抗している地域の言い分よ」

 

地球連合、と一言に言っても、そこに加盟している国全ての足並みが揃っているわけではなく、また大戦前と後でも勢力図はかなり変化している。ユーラシアは大戦を経てすっかり弱体化し、前大戦開戦時は中立であった国々も━━オーブも含め、今は連合に加盟している。地球全体を見ると大西洋連邦の一国支配のような雲行きだ。大西洋連邦の力が強くなったというより、その力に対抗できる国が不在なのだろう。それだけに、大国の専横に不満を抱く勢力が多く、火種は世界中にあった。アスランが知らないうちに、その火種の一つが火を噴いたという事らしい。

 

「それを地球軍側は力で制圧しようとし……かなり酷い事になっているみたいね」

 

アスランは眉を顰めた。

ここにも戦いの形がある。ユーラシアで蜂起した人々にとっては、敵はコーディネイターではなく、自分の国とその背後にある大西洋連邦という事だ。

 

「そこへ行け、という事でしょ、つまりは?」

 

タリアの言葉にアスランは現実に引き戻される。

 

「我々の戦いはあくまでも、積極的自衛権(・・・・・・)の行使である。プラントに領土的野心は無い……そう言っている以上、下手に介入は出来ないでしょうけど」

 

タリアは意味ありげに言い、アスランを見上げた。

 

「行かなくてはならないのは、そういう場所よ。しかもFAITHである私たち三人が」

 

議長直属のFAITHは軍の指揮系統から独立した存在だ。その彼らに議長が求めている事が何か、タリアは彼女の考えをほのめかそうとしている。

 

「覚えておいてね」

 

「はい!」

 

タリアの言葉にアスランは軽く姿勢を正して明瞭な返事をした。完全に空気になりきる前に、アーサーは部屋を退出する。

 

「ところで……」

 

アーサーが退出したのを見計らってからタリアはそう言って、話題を変えた。

 

「フリーダムの事、何か知っていたら話してもらえるかしら。ああ……公式な詰問のつもりはないから、良かったらでいいのだけど」

 

「さあ……すみません、自分にも寝耳に水のことでしたので」

 

アスランは申し訳なさそうに、そう答えた。実際、アスランが一度オーブに戻ろうとした時にスクランブルをかけられた際、ムラサメのパイロットからカガリがフリーダムに誘拐されていると聞かされるまでアスランは知らなかったのだ。

 

「そう……」

 

タリアは少し気落ちしたように、そう言った。

 

「正直言って、ニュースを知ったときは驚いたのです。その……自分はアスハ代表の近くにいましたが、セイラン親子が進めていたのは大西洋連邦との同盟のはずだったんです」

 

「それは……」

 

タリアは一度、周囲を見渡すようにしてから、

 

「いまさら隠してもしょうがないから言うけれど、それはアスハ代表御自身の考えだったそうよ」

 

と、言った。

 

「えっ、カガリが……!?」

 

アスランはタリアの言葉の内容に衝撃を受け、目を円くして立ち尽くした。まさか、あのカガリが!?

 

「大西洋連邦とは同盟しない。中立が無理ならまだしも義を重んじてプラントと組む、イチカが誘拐される前日に本人からそう言われたそうだわ」

 

「そんな……」

 

アスランは搾り出すように言い、そのまま絶句する。父・ウズミの残したオーブの理念に頑なだったあのカガリがよもやそんなことを言い出すとは、アスランにとっては信じられなかった。

 

「当然といえば当然ね、前の戦争で大西洋連邦は問答無用でオーブに攻め込んだんですもの」

 

「それは……そうですが」

 

「それを快く思わなかった一派による政権乗っ取り……なのは理解できるけど、問題はなぜフリーダムがそれに加担するようなことをしたのか、ね。しかもそのまま行方不明」

 

「キラと……いえ、キラ達のことですから、アスハ代表の身に危険はないと思いますし、何か考えがあってのことだと思うのですが……」

 

アスランはキラとラクス、と言いかけて、それを濁した。今ラクスは公式には議長の元にいるのだから。

 

「彼は元連合兵よね。大西洋連邦に味方したって事は?」

 

「それはないと思います。連合にとっては……ですから」

 

裏切り者、という言葉を出せず、アスランは濁すように言った。

 

「そう……どっちにしても代表が戻られない限り、プラントの対オーブの問題は解決されないわね……ごめんなさい、今貴方に言ってもしょうがない事だったわ。忘れて」

 

「いえ……」

 

アスランは答えつつも、未だ愕然としたように半ば立ち尽くしていた。

「ええっ、マジで!?」

 

シンが入ってきた時、レクリエーションルームにヴィーノの素っ頓狂な声が響き渡った。

 

「ホントのホントに、艦長もFAITH担ったの!?」

 

ドリンクを抱えて椅子に座ったメイリンが、こっくり頷く。

 

「うん。いずれ正式に通達するけどそうだって、副長が。なんかすっごい嬉しそうだったよ」

 

「うっひゃあ!」

 

何故だかヴィーノも嬉しそうだ。シンはこの新情報に内心驚きつつも、むっつりとそっぽを向いた。

 

「……副長、関係無いじゃん」

 

「うん、だよな」

 

ヨウランが呆れた声を出し、イチカがそれに同意する。

 

「ところでFAITHってどのくらい偉いんだ?俺、座学苦手でさ……」

 

「あんたの場合は寝てばっかで試験も一夜漬けだったからね」

 

「そんなに寝てねぇだろ。一夜漬けなのは否定しないけどさ」

 

ショーンが座学が苦手だと言いながらそれを茶化すデイル。そこにマユがGARDIANとして調べてる最中に改めて知ったFAITHについて説明する。

 

「国防委員会及び評議会議長に戦績、人格と共に優れていると認められた者が任命されるザフトのトップエリート。その上、個々において行動の自由を持ち、その権限は通常の部隊指揮官より上位みたいで作戦の立案及び実行の命令権限までも有している、みたいだよ」

 

「「へえ~」」

 

ショーンとヴィーノがほば同時に声を上げる。どうやらこの二人、座学の方の成績は宜しくないようである。

 

「ってことはさ、これからどうなんの?最先任のFAITHはイチカだからこれまで指揮してたけど、アスランさんもFAITHの場合はどうなっちゃうわけ?」

 

アリサがふと思い付いたようにイチカに尋ねる。そもそもFAITHが一つの艦に複数搭乗する次点で、イレギュラーなのだ。タリアは艦長として動くが、モビルスーツ隊の場合はそうはいかない。何せトップエリートが二人いるのだから、指揮も当然どちらかがとる事になる。

 

「イチカだろ?今まであいつの指揮下にあったのに、下ろされた訳でもないのにいきなり交代なんて、なぁ?」

 

「それに、いきなり指揮官交代なんてしたら間違い無く部隊の志気は下がるだろうし、何より任せて大丈夫なのか?って不安になるのが当然だしね」

 

ショーンに続いてデイルが指揮官はイチカ、と自分なりの考えを出す。シンもマユも、口には出さなかったが、今後も出来るならその方向で行きたいと密かに願っていた。

 

「でも、前大戦で英雄なんて呼ばれるくらいの凄腕パイロットなんでしょ?なら絶対この艦で一番強いんじゃないの?」

 

そこに異を唱えたのは、メイリンだった。彼女が言いたいこともシンにだってよくわかる。アスランにはイチカ以上に経験も、実力も、指揮力……はひとまず置いておくとして、とにかくイチカより秀でている部分が多いのは誰もが承知の事実だ。

 

「そりゃあ、そうだろうけど……」

 

アリサが空のドリンクをゴミ箱に捨てながらどうにか上手く説明しようとして、口ごもる。こういったちゃんとした説明が彼女は苦手のようだ。

 

「いくら強くたって、よくも知らない人の言うことを聞けだなんて、そんなの無理に決まってるじゃない」

 

ルナマリアがアリサの代わりに割って入って答える。メイリンは側のイチカに「そうなの?」と尋ねる。イチカは苦笑気味に「まあ、普通はな」と答える。

 

「ま、そういうのはパイロット全員で話し合って、それで納得のいく所に穴を埋めようぜ。…………噂をすればなんとやらも言うしさ」

 

その言葉に、イチカを除く一同が「えっ?」とキョトンとした顔になっていると、レクリエーションルームに噂の新たなFAITH、アスラン・ヅラの姿があった。

「明朝、ですか」

 

ブリッジでアーサーがタリアに聞き返した。

 

「ええ。カーペンタリアの基地の方にも命令が出たわ。ボズゴロフ級を1隻、護衛につけてくれるそうよ」

 

「1隻、ですか……」

 

タリアはあっさりと言ったが、アーサーは少し残念そうに言った。

 

「オーブと大西洋連邦の正面だから仕方ないわね。それに輸送船の事故で水中用モビルスーツの納入が何機かなくなったらしいし……1機だけでも間に合ったのが幸いかしら」

 

「パイロットに不安が残りますが……」

 

タリアはさばさばと言うが、アーサーは納得しきれない様子だった。

 

「無理とも言えないでしょう。ほら全艦に通達。準備始めて」

 

「あ……は、はい」

 

アーサーは返事をすると溜め息をついてから艦橋を出て行った。


 
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