No.665969

機動戦士ガンダムSEEDDESTINY 運命を切り開く赤と菫の瞳

PHASE9 振るわれる拳

2014-02-25 08:39:13 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2437   閲覧ユーザー数:2335

そのニュースは、電撃的に世界を駆け巡った。

 

タツキ・マシマを首班とするオーブ臨時連合政府は、宰相の地位にあったウナト・エマ・セイランを外患誘致の罪で逮捕拘束し、その全権を剥奪したと発表した。

セイラン親子はカガリ・ユラ・アスハ代表に奸言を呈し、オーブとプラントの同盟を成立させ、オーブを安全保障上きわめて危険な状態に置いた。

そう報道されていた。そしてウナト内閣の下で進められていたプラント・オーブの安全保障協定を一方的に白紙撤回すると、再び大西洋連邦の呼びかける世界条約への参加を表明したのである。

一方の大西洋連邦は、一度オーブに世界条約参加を事実上拒否されていたにもかかわらず、タツキ臨時政権に対しては歓迎の意向を伝えるとともに、テロリストによって誘拐されたカガリ・ユラ・アスハ代表の捜索に出来る限り協力する事を確約した。

 

「見ろ!お前らが勝手な真似をしたせいで、オーブはメチャクチャにされてしまったじゃないか!」

 

元地球連合大型特装戦闘艦『アークエンジェル』

公海上を行くそのブリッジで、カガリは激昂して怒鳴った。正面のスクリーンディスプレイにオーブと大西洋連 邦の海外向けテレビ放送が流されていた。

 

「でも、僕達が止めに入らなければオーブはプラントと同盟していたんでしょう?セイランの思い通りにさ」

 

キラは悪びれた様子も無く、手振りを加えながらそう言った。

 

「違う!プラントとの同盟は私が決めたことだ!」

 

「えっ!?」

 

感情的な怒声で、カガリが言い返す。するとキラは軽く驚いて、目を円くした。

 

「ウナトもユウナも、最初は大西洋連邦との同盟を進めていたんだ!だが、私の言葉に理解してくれて、プラントとの同盟を認めてくれたんだ!」

 

カガリはさらに、まくし立てた。

 

「で、でもプラントは……ザフトはラクスを殺そうとしたんだよ!?」

 

「要領を得ない言い方をするな。一体何があったんだ?」

 

カガリはいくらか声のトーンを落とし、キラに問いただした。するとようやく、キラは事の次第を詳しくカガリに説明し始めた。

 

キラやラクス達が生活していた、マルキオ導師の孤児院を突然モビルスーツを装備した一団が襲ってきたこ と。彼らの目的がラクスの殺害にあったこと。戦う為にフリーダムとアークエンジェルの封印を解き、彼らを撃退したこと。撃退した一団が使用していたモビルスーツがザフトの 最新鋭水陸両用モビルスーツ、UMF/SSO-3アッシュだったこと。

 

「おいこら、待て」

 

キラの説明が終わったところで、カガリは不機嫌そうな口調でツッコんだ。

 

「そいつらがザフトだって客観的証拠が無いじゃないか!それとも誰か捕まえて、聞き出したのか?」

 

「そうじゃないけど……でも、ザフトの最新鋭モビルスーツを装備してたんだよ!?」

 

キラは困惑気な表情をしつつ、そう言い返した。それを聞いてカガリは頭を抱えた。

 

「あのなぁ、キラ。いまやテロリストがモビルスーツを横流ししたり密造したりは日常茶飯事なんだよ。ユニウスセブンを地球に落とした奴らも、密造モビルスーツを使っていたんだぞ!それに私は目の前で、モビルスーツが強奪されるのを2度も見ているんだからな!大体、ヘリオポリスのときはお前だって一緒だったじゃないか!」

 

「そっ……それは、そうだけど……」

 

カガリの指摘にキラは言葉を詰まらせる。

 

「カガリさん、落ち着いてください」

 

艦橋へ入ってきたラクスが、キラを問い詰めるカガリの背後から穏やかに声をかけた。

 

「この際、わたくしが狙われたと言う事は置いておいて頂いて構いません。重要なのは、セイラン親子がカ ガリさんの意向を無視して、国を動かそうとしていた事ですわ」

 

「だが、あの2人は私の言葉を解ってくれたぞ!」

 

ラクスは静かに、しかしはっきりとした口調で言う。それに対し、カガリは荒く声を上げて言い返した。

 

「本当にそうでしょうか?」

 

ラクスは軽く眉を下げ、問いかける。

 

「何?」

 

「そもそも、カガリさんが守りたかったのは、お父上の、ウズミ様の理念だったのではないのですか?」

 

聞き返すカガリに、ラクスはそう指摘した。

 

「それが理想だとは思ってる。でも、今の状況じゃあそれは無理だろ」

 

カガリは軽くラクスを睨むようにしながら、低い声で言い返す。

 

「まず、決める。そしてやり通す。一度決めた事、望んだ理想を、簡単に手放してしまっても良いのですか?」

 

「その為に国民を犬死させろと言うのか!?」

 

ラクスはカガリに説いて聞かせるが、カガリも即座に言い返す。

 

「そんな事はさせないよ、カガリ」

 

そう言ったのはキラだった。カガリが振り返り、ラクスもキラに視線を向ける。

 

「その為に、僕はフリーダムに乗ったんだ。もう誰も、失いたくないから」

 

次の瞬間、カガリはキラを殴り飛ばしていた。本来ならナチュラルであるカガリより、運動能力は遙かに高いはずのキラだったが、想定外の出来事に、綺麗に右ストレートを喰らい後ろに吹っ飛ばされた。

 

「カガリさん!?」

 

「カガリ!?」

 

尋常ではない事態に、艦長席のマリュー・ラミアスと司令官席のバルトフェルドが驚いて声を上げた。

 

「誰も失いたくないだって!?ユウナをあんな目に遭わせておいて、良くそんな事が言えるな!」

 

カガリはさらに激昂し、へたり込んだキラに向かってそう怒鳴りつけた。

ユウナの生存を確認してはいなかったカガリとキラだが、メディアはユウナが意識不明の重体と報じていた。

 

「あれは……仕方なかったじゃないか。そもそもは彼が悪いんだし、それにいつまでもカガリを離さないから……」

 

「国家元首が連れ去られようとしてるんだぞ!必死に止めようとするに決まってるじゃないか!」

 

うじうじと言い訳をするキラに、カガリは怒鳴りつけた。

 

「カガリさん」

 

「何だ!」

 

ラクスに声をかけられ、カガリは乱暴に答える。

 

「過ぎた事を今言っても始まりません。これからどうやってオーブを取り戻すか、オーブをあるべき姿に戻すのか、それを考えるべきなのです」

 

ラクスはそう、カガリに向かって説いた。

 

「簡単だ。私をオーブに戻せ。そうすれば、お父様の頃からの支持者がいる。タツキなんかに好きなようにはさせない」

 

カガリは険しい表情のまま、声のトーンは抑えてそう言った。

 

「ですが、それでは何の解決にもなりません」

 

「は?何でだよ!」

 

ラクスの言葉に、カガリは一瞬呆気にとられ、そして聞き返す。

 

「今カガリさんが戻ったとしてもオーブの立場は変わらない……大西洋連邦との同盟を続けるか、プラントと新たに同盟を結び直すかのどちらかになるのでしょう?」

 

「当然、今の条約は無効だ。デュランダル議長もそのことは解ってくれるだろう」

 

「それではいけないのです。オーブのあるべき姿を取り戻さなければ意味が無いのです」

 

「カガリだって、本当はオーブの理念を守りたいんでしょ?」

 

ラクスの言葉に、キラが追従した。

 

「ああ、本当のところはな」

 

カガリは険しい顔のまま、そう言った。

 

「でしたら……」

 

「だが、お前たちの力を借りる気はまったく無いぞ!」

 

ラクスの言葉を遮り、カガリは声を上げて断言した。

 

「どうして!?」

 

キラが驚き、心外だというような声で聞き返す。

 

「当たり前だ!お前たちはユウナを殺し掛け、私を拉致して勝手放題やっているだけだからだ!そんなお前たちと一緒に戦うなんて、アスハの名にかけて絶対にしない!!」

 

「困りましたわね……」

 

子供にわがままを言われた母親のような、緊張感に乏しい表情で、ラクスは言った。

 

「カガリさんは少し、疲れているのかもしれませんね。少し休んで落ち着いて考えてください。カガリさんとオーブのために、本当に何をすべきなのかと」

 

「私は冷静だぞ!」

 

「バルトフェルドさん、カガリさんをお部屋にお連れしてあげてください」

 

カガリの反論を無視するかのような態度でラクスはバルトフェルドに向かって、そう言った。

 

「あ、ああ……」

 

バルトフェルドは気まずさを感じつつも、指揮官席から立ち上がると、カガリの腕を取った。

 

「まぁ、いろいろあるだろうけど、今は休むといいよ。疲れが取れればいい考えも浮かぶよ」

 

「休んでる暇なんかあるか……こら、離せ馬鹿虎!私はオーブに戻るんだ、このままじゃオーブが!!」

 

なおも抵抗するカガリをしかしバルトフェルドは軽々と引き、アークエンジェルの士官室へと連れて行った。

ミネルバは、オーブを出航しカーペンタリア基地に向けて南下していた。

そんな中、士官食堂にてミネルバクルーの少年少女たちが集まって何かを話し合っていた。

 

「……ホント、思い出すだけでイラっとくるよな!オーブは」

 

先日のオーブ領海前での連合軍との戦闘について、オーブのした事に今だ許せないショーンが言い出す。シンもそうだったが、オーブに対して不満を抱いていたのは彼だけではなかったのだ。

 

「全くだよ。あんな状況であたしたちに攻撃してくるなんて……連中、頭イカレてんじゃないのかい?そんなにミネルバを入れたくないならそうさせてる連合軍を攻撃しろって話だっての」

 

姉御肌な性格だからか、普段はあまり怒ったりはしないデイルでさえ、オーブには頭がきていた。誰だって好きで入ろうとしてたわけでもないのに、攻撃をされたら文句の一つでも言ってやりたいと思うのが普通だ。

 

「あれ、相当ギリギリの所で当たりそうになってたわよね。マユちゃんが助けてくれなかったら私、海に落っこちてたわ」

 

デザートを美味しそうに頬張り、一息ついてそう言ったのはルナマリアだ。そのルナマリアの膝の上には彼女に苦笑気味にぬいぐるみのように抱かれているマユの姿があった。ちなみにこの光景はアカデミーの時からずっとこうであったりする。

 

「………………」

 

そんな中、イチカは何か考え事を抱え込んでいるような顔をしながらドリンクを口に付けていた。

実はイチカはカガリが誘拐される前日に、タリアと共にカガリ本人からプラントと同盟をするという話を聞いていたのだ。そしてその翌日に起こったフリーダムを使ったカガリの弟、キラ・ヤマトによるものと思われる誘拐事件。そして今の前で放送されているオーブの状況を知らせるニュース。

これらを見合わせて、イチカは何となくそれらが繋がりを持っているような、そんな気がしてならなかった。

 

例えばの話だ。もしもカガリのプラントとの同盟をタツキ・マシマが良しとせず、キラ・ヤマトに大西洋連邦の同盟し、オーブの理念を守らせるためにカガリを誘拐させたとしたら?

もしそうなら、フリーダムがカガリを誘拐したのも納得がいく。

こういった場合、殺害してしまえば手っ取り早いと感じやすいが、犯人がバレて仕舞うとそれ以上にリスクが大きい。しかし誘拐ならばそういったリスクは最小限に抑えられる。なにせ誘拐犯は自分と近い考えにあり、頑固なカガリなら断固としてプラントとの同盟を変えようとはしないだろう。そうなると、キラ・ヤマトたちはカガリを決してオーブに帰さないよう、遠くに離れようとするだろう。

一人では決して逃げきれないような所に……

 

「そういえばさ」

 

ふと思い出したかのように突然、食事を終えたアリサが口を開いた。

 

「オーブの艦隊砲撃、あれってなんか可笑しくなった?」

 

アリサの発したその言葉に、一同が疑問を抱いた。ルナマリアたちは必死に記憶を辿りながら不可解な点がないか探し出す。

しかし、アリサの言うような可笑しな点など見つけることは出来なかった。

 

「別に、可笑しな所なんてなかったと思うけど?」

 

ショーンの言葉に、アリサはふるふると首を横に振って否定する。

 

「いやさ、ミネルバとオーブ艦、砲撃するのに距離はそんなに無かったじゃん?それなのにどうして外したのかなぁ、って思ってさ」

 

アリサの一言に、一同はあっ、ようやく気付いたような顔になる。

言われてみればそうだった。よくよく考えてみれば、オーブの護衛艦があんな距離で砲撃を外すなんてが普通は有り得ない。となると、あそこにいたオーブ護衛艦は少なくとも大西洋連邦と手を組み、ミネルバを撃つことに反感を抱いていたということである。

 

「……まさか」

 

そこでシンが呟いた。一時期モルゲンレーテの技術者であった両親に連れられて、軍に何度か行った事があったのだが、オーブ軍人は忠実で堅実な人が大半で、また命令には絶対と考える人で殆どだった。が、シンの知る中で唯一の例外がいた。

トダカ一佐だ。

二年前の戦争で両親を失った自分たちを保護し、イチカの左腕の義手を手配してくれた上にプラントへの移住の手引きまでしてくれた謂わば三人にとって恩人以外の何者でもない人物だ。

確かに彼ならば例え攻撃しろと命令されてもそれが恩知らずだと感じて、わざと砲撃を外すよう命令するに違いない。

 

(じゃあ、まだ俺はオーブに裏切られたわけじゃないのか……?)

 

あの時はオーブが本気でミネルバを沈めるつもりで砲撃を開始したと思ったから、自らオーブを捨てようと決断したのだ。が、実際には沈ませるつもりはなく、ただ攻撃したけど外したという言い訳を作るためだったとしたら……

 

「…………」

 

裏切られたとばかり思っていたのに、本当は裏切られてなんていなかった。

シンは突きつけられた真実にどうすればいいのか一人悩みながら食堂を後にした。

数日後、カーペンタリア

 

「AMA-953/M『バビ』です」

 

カーペンタリアの整備員がミネルバに搬入予定の資材が並べられている倉庫の一つでそれを見せた。

 

「やったぁ!新型機ー、新型機ー♪」

 

ショーンは子供の用にはしゃぐ。 傍らで、マユが整備員の差し出したクリップボードの上の納品書にサインを書く。カーペンタリア基地に配備される予定だった物だが、例によってショーンが、

 

「今度こそゲイツR、ゲイツR、ゲイツR……」

 

と、マユの傍らでもはや念仏の様に繰り返すので、マユがイチカにお願いしてカーペンタリア基地側に頼み込んで貰ったところ、ゲイツRの余裕はないがこちらならという事で、都合してもらったのである。

 

「へっへー、デイルには悪いけど、一足先に乗り換えさせてもらうもんねー」

 

そう言って小躍りしたかと思うと、マユに抱きついた。

 

「むぎゅ」

 

「マユちゃん、ありがとー。やっぱGARDIAN様さまだね!!」

 

一気に抱き締められて苦しそうにするマユ。

 

「げはげほ……よ、喜んでくれて嬉しいよ……」

 

ようやく解放されたマユはキャットウォークの手すりに掴って咽ながら、笑みを作ってそう言った。

 

「武装は右下腕部に装備された高分子振動対装甲セスタス、それにパワーローダー付155mmランチャーとビームのコンボライフル、頭部の20mmガトリングライフル2門、それに上翼部のペイロードに12発のAAMを装備可能です」

 

ショーンのはしゃぎ様を見て唖然としていた整備員は、ようやく気を取り直したかのように2人に対してバビの武装を説明した。

 

「あれ?」

 

マユはキョトン、としてバビを見上げてから整備員に顔を向ける。

 

「なんか、武装がだいぶ違ってませんか?アカデミーで聞いていたやつと……」

 

「ええ、初期型はドッグファイト向けの武装が充実していたんですが、なんか開発中に駄目出しされたとか現行の生産型は武装が大幅に変更されたんです」

 

マユの問いに、整備員はそう答えてから、呆れたようなため息をついた。 

 

「それが笑っちゃう話で、なんでも駄目出ししたのがアカデミーの生徒だったらしいですよ」

 

「う」

 

「へぇ、アカデミーにも気概のあるやつがいたもんだ」

 

ショーンは感心したようにそう言ったが、傍らにいたマユが硬直した。 

 

「?マユちゃん、どうしたの?」

 

ショーンはキョトン、としてマユに問いかける。

 

「な、なんでもないデスよ?」

 

ぎこちない笑顔で、じとりと汗をかきながらマユはそう答えた。

 

(まさかそれって、私?)

 

心の中で、気まずそうに思う。最終研修過程で制式化が決まったばかりのAMA-953バビを他のザフト・レッド候補と共に見学した。そこで「この機体について感想を書け」というレポートが課されたので、マユは躊躇わず素直に『モビルスーツなのに格闘戦武装がなく利点が半減している。射撃兵装だけではドッグファイト主体の戦闘機が生産されれば出力重量比で不利は否めない』と、書いて提出した。 もっとも、その時は教官から大目玉を食らったのだが……

 

「まさかね、アハハ……」

 

「?」

 

いかにザフトとは言え、11歳の子供にツッ込み入れられてモビルスーツの兵装見直しました、なんてことはな いだろう。そう思いたい。どこぞの二次創作のように外見はティーンでも中身が30過ぎのオッサン、とか言うならまだしも。

 

「?」

 

ショーンは事情が理解できず、小首をかしげていたが、

 

「ま、いいや。セスタスか。ビームサーベルじゃないのは残念だけど、シグーとかで格闘戦やるよりはマシでしょ」

 

と、にへら、と笑ってそう言った。 

 

「マシなんてもんじゃないですよ。ま、大気圏内に限定するならGタイプ相手でも互角ぐらいは張れるんじゃないですか?」

 

整備員は笑ってそう答えた。

 

「それとなんかもう1機、ミネルバには新型モビルスーツが補充されるらしいですよ?パイロット付で」

 

「新型?それって、ガイアの改修の事じゃなくてですか?」

 

整備員の言葉にマユははっと我に返って聞き返した。

 

「ええ、なんでもやっぱりGタイプの新型らしいですけど……」

 

「へぇ、大盤振る舞いだね」

 

整備員が答えると、今度はショーンがおどけたような口調でそう言った。

 

「ああ、そうだ、それそれ」

 

答えてから、整備員は思い出したように言う。

 

「ガイアの改修、そろそろ終わってるんじゃないですか?」

 

「うわぁ!」

 

今度はマユの方がそれを見上げて、満面の笑顔になった。ビームブレイドをオフセットして、背面にバックパックの要領で灰白色の翼が装備されてい た。それに伴って背面スカートが小型の物に付け替えられ、ヴァジュラ・ビームサーベルが収まるサイドスカートも一部切り取られている。

 

「完全な固定翼ではなく切り離し可能なシーリングリフターです。X56Sの換装システムのインターフェイスを流用したものでガイアからも、母艦からも遠隔操作が可能です」

 

改修を担当した女性の技術官はそう言った。妙齢の女性である技術官は、なぜか白衣の下にレースクィーンのようなレオタードスーツを着ていたが、もはやマユにはそんなものは目に入ってもいない。

 

「すごいすごい!」

 

マユははしゃぐ様な声を上げる。 

 

「X09A『ジャスティス』が積んでいたファトゥムに近いものになりますか。ただ、独自の兵装は分離時の機首部に装備されたビームラムとミサイルペイロードだけになりますが……」

 

「それでもすごいですよ! 空を飛べるようになるだけでも充分なのに!」

 

興奮したマユは、無自覚に大きな声でそう言った。

 

「ただ、ソフトウェアの方が完全じゃありません。急な改造でしたから。飛行する為の基本動作しか組み込まれていない、赤ん坊のようなものだと思ってください」

 

「あ、はい。それは、なんとか」

 

ガイアを初起動したときは本体がその状態でいきなり戦闘になったのだ。それからすれば大したことはないとマユは思った。

 

「不具合の確認はしてありますがカーペンタリアにいる内にマユさん自身の手でできるだけ飛ばしておいてください」

 

「はい!」

 

マユは威勢の良い声で返事をした。

 

「それからこれも急造品だからですが、リフターはPS装甲ではありません。もちろんそれなりの対弾性は与えてありますが」

 

「了解です。大丈夫だと思います」

 

こくん、とマユは頷いてそう答えた。

 

「それでは早速試してみていただけますか?」

 

「はい!」

 

技術官につれられてマユはタラップを上がり、コクピットに向かった。技術官がハッチの傍らに立ち、マユがコクピットのシートに収まる。

 

「ん」

 

いかにも後付、といった感じの液晶ディスプレイと簡易的なコンソールが増設されていた。

 

「操作に問題はないと思いますが手、引っかかったりしませんか?」 

 

技術官はコクピットを覗き込み、そう訊ねてくる。

 

「えーと……」

 

マユはシートで再度姿勢を正すと、元からのサブコンソールに手を伸ばしてキーボードを操作したり、レバーをから操作してみたりした。

 

「大丈夫です」

 

「それでは起動させてみてください」

 

「はい」

 

マユはイグニッションキーをONに倒してから、起動スイッチを入れた。

 

Generation

 

Un subdued

 

Network

 

Drive

 

Assault

 

Module

 

COMPLEX

 

 

ZGMF-X88S/Custom GAIA

 

「X88S改……」

 

マユは興奮した表情のまま、起動画面の形式表示を見て呟く。

 

『行きます、退避してください』

 

タラップをガイア自身に上げさせながらマユは外部スピーカーでそう言った。技術官やフロアにいた作業員達が慌ててコントロールルームに駆け込んでいく。スラスターを静圧モードに設定したまま、マユはまずは歩行させてハンガーから外に出た。

 

「それじゃあ早速……」

 

にんまりと口元で笑いながら、増設コンソールのキーを押して軽く設定すると操縦桿に手を戻した。

シーリングリフターの4基のスラスターが咆え、ガイアは一気に空中に出る。

 

「ぐぅっ!」

 

一気にかかったGに、マユは一瞬、くぐもった声を出した。

 

『大丈夫ですか?』

 

無線越しに、技術官の心配そうな声が聞こえてくる。

 

「大丈夫、ちょっと驚いただけです」

 

マユはそう答えた。モビルスーツ戦用の演習地に着地。そこで4脚体勢に入れ替える。

 

「ぐっ!」

 

ガイアを4脚で駆けさせながらリフターのスラスターを吹かした。ガイアの走りが一気に増速する。再び2脚形態に変換、スラスターの出力を上げ、再び空中に躍り出る。マユはニヤリと笑うと、コントロールルーム側には聞こえないように小さく呟く。

 

「この推力があれば……フリーダムだって……!」

一方その頃、時を同じくしてイチカもゲルググに乗って宙を駆け回っていた。その背中には、飛行用バックパックとして蒼を基調とした連合のスカイグラスパーのような飛行機型のモビルアーマーが装備されている。

ビルドブースターと呼ばれるそれは、大気圏内で飛行による戦闘を行えないゲルググやザクの為に開発されたグゥルとは別の飛行用バックパックである。モビルアーマー形態時から装備されている二門の大型ビームキャノンも使用可能なので、ガナーでなくても火力は飛躍的に高まる上に、キャノンそのものは軽量なので重量を気にせずに扱うことが出来るという優れものだ。

動かした当初は突然のGに驚きはしたものの、そこはFAITHと言うべきなのか、じきに慣れるとすぐさま己の手足のようにトリッキーな動きを加えられるようになっていた。

しばらくそうして動かしていたが、やがて時間になったゲルググが地面のゆっくりと降り立つ。コクピットから顔を出したイチカには満足感で満たされていた。どうやらビルドブースターによるゲルググ飛行は正解だったようだ。

 

「ふう……」

 

「お疲れさん」

 

ゲルググから降りたイチカに、そう言ってドリンクを放り投げてくれたのはデイルだった。ゲイツRから新型のザクウォーリアに乗り換えた彼女もビルドブースターの試験飛行に協力してくれていたのだ。

余談だがイチカより先に降りたデイルにショーンがバビの事で自慢に来ていたようだが、ビルドブースター付きのザクウォーリアを見せ付けられて落ち込んでいたらしい。

 

「凄かったね、ビルドブースター。やっぱ宇宙とは全然違うもんなんだねぇ、飛ぶってのは」

 

デイルはビルドブースターを装備したゲルググとザクウォーリアを眺めながら不意にそんな事をぼやきだした。

 

「そうだな。こっちじゃ重力があるからな」

 

プラントにいた時でももちろん疑似重力の中でモビルスーツの訓練は何度もした。が、それでも宇宙メインの訓練が殆どだったし、使っていたのだってジンやゲイツと言った独立飛行の出来ない機体ばかりだ。

イチカはゲルググに取り付けられたビルドブースターをじっと見据える。

蒼を基調としたその翼とビームキャノンは、どこかシンたちの両親を殺したフリーダムを思わせる形状だった。

 

━━これなら……フリーダムとも……

 

互角に渡り合えるかもしれない。少なくとも、あんな一方的になにもできず、軽くあしらわれるような事にはならないだろう。

日の光がモビルスーツたちを照らす中、イチカはそう考えていた。

書きためていたのが切れたので、次回から更新が遅くなります。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
2
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択