No.666736

友達チョコと哀れみチョコ

ツァイさん

バレンタイン企画、秋津からの友チョコと哀れみチョコ。
タイトルはもう考えつかず←

登場偽り人:秋津茜、企鵝、八雲魅夜、海牛零

2014-02-28 03:12:31 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:520   閲覧ユーザー数:513

 異国の催し物、バレンタイン。馴染みのないものだが、面白そうではある。調べてみると、チョコレートという甘味の他にも、フォンダンショコラやチョコパイなど、様々なものがあることがわかった。

「ふうん、色々あるんだな」

 秋津はパラパラと本をめくっていく。本当に様々な甘味が載っている。

「アタシが食べるわけでもないけど迷うな。ま、これでいいか」

 ブラウニー、と書いてある頁で手を止める。斜め読みしてみるが、ピンと来ない。作り方と絵が載っていても、実際に食べたことがあるわけでもないので想像もしづらいのだ。

 必要な材料を覚え、街に出る。渡す相手は決まっている。同じ偽り人である魅夜と企鵝だ。この二人とはいくらか親交があるため、友チョコを渡すつもりだ。余ったブラウニーは当日適当な相手に渡してしまおう。

 

「卵に、砂糖に、小麦粉」

 一通り買い揃えた。多めに買ったから渡す前に練習できるだろう。

 

 

 

 作り方を見ながら練習し、味見もした。我ながら美味しく出来たものだ。あとは包んで渡すだけだ。

これでも、料理はそれなりに出来る方なのだ。男を誑かす偽り人をしているが、だからこそ手料理を食べさせて胃を掴んでおくこともある。

 

 片付けを済ませ、紫の包みを赤い紐で飾ったものは魅夜に、白い包みを水色の紐で飾ったものは企鵝に渡す分だ。余ったブラウニーは青い包みに白い紐で飾った。

「準備はこれでいいか。本場のものなんて食べたことないし、本当にこれでいいんだか分からないけどなあ」

 不味くはないからいいか、と包みを巾着にしまった。

 

 

 

 バレンタイン当日、茶屋に集まったここのつ者と偽り人の面々を見渡す。人が多く、目当ての人物がなかなか見当たらない。どうやら魅夜はこの場には来ていないようだ。また後日渡すことにしよう。

「哀れみチョコはどうすっかなぁ」

 周りをぐるりと見る。誰か渡すような相手はいるだろうか。関わりがある相手を思い浮かべる。熊染には、別に贈り物を用意している。鶸は……贈り物の準備の際に少し関わったが……癪に障る。トカゲ? ないない、ありえないと思考を打ち切る。

 

 

 壁際に置いてある大量の哀れみチョコを、みな美味しそうに食べている。交換も盛んだ。本命に渡すだけならなかなか難しいのだろうが、家族チョコや友達チョコ、哀れみチョコもあるから渡しやすいのだろう。

 ふと、視界にある人物の姿が映った。青い髪に、傷だらけだが綺麗な顔をした同業者、海牛零だ。そういえば、彼ともいくらか付き合いはあるのだ。

「チョコレートなぁ……哀れみチョコでもよければ、海牛、いるか?」

 青い包みのチョコを取り出す。全く意識していなかったが、この包みの色と白い紐の配色は、彼にぴったりではないか。

「え!? くれるのか?」

 心底意外そうな声が返ってきた。

「ああ、他の奴らの余った分だからちょっと小さいけどな。チョコレートっていうか、チョコレートを使った焼き菓子だよ。ブラウニーっていうらしい」

「こんな手の込んだものをか……! 哀れみチョコなのに……こんなに手の込んだ……!」

「え、落ち着けよ海牛……さっきも言ったけど、他の奴らの余った分だからな?」

 なんか、感動してる? と、予想以上の反応の大きさに少し引き気味になってしまう。

「なんだか人生最大の勝ち組期が来ている気がする……」

「落ち着け海牛……これで人生最大の勝ち組期ってアンタ……」

 だってこんなオッサンが、べっぴんさん二人からチョコを貰えるなんて(先ほど鯱からも貰っていたようだ)とか何とか続ける。だが、その容姿はどう見てもオッサンではない。本人はよく自分のことをオッサンと言うが、むしろ8歳年下の秋津よりも若く見えるほどだ。それを指摘すると、自らをオッサンと言うわりには随分と大人げない、手で耳を塞いで何も聞こえないという主張してきた。

 

 

 海牛と別れ、企鵝の姿を探す。声が聞こえたような気がした。

「お、企鵝いるのか?」

 呼びかけてみる。

「はい、いますよ」

 返事が返ってきた。やはり、いた。甘いものが好きらしい企鵝なら、この催しにも参加しているだろうと思っていた。巾着から白い包みを取り出す。

「ちょうどよかった。ほら、ブラウニーってやつ作ったんだよ。甘いもの好きなんだろ?」

「手作りですか……ふふっ、ありがとうございます。食べるのが楽しみですよ」

「一応それ友チョコの括りな。アタシと企鵝だとトモダチっていうよりは同業者だけどな」

 

 

 後日、茶屋に魅夜を呼び出した。

「よう、魅夜」

「茜、こんなところに急に呼び出してどうしたのかしら?」

 相変わらず、実年齢に見合わない幼い外見をしている。年上とは思えないな、とぼんやり考えながら、紫の包みを取り出す。

「これを渡そうと思ったんだよ」

 魅夜の前に差し出すと、不思議そうな視線を投げてきた。

「何かしら?」

「ここの茶屋で異国の催しがあってさ、その時に魅夜の分として作った甘味だよ。ブラウニーってやつ」

「わたくしに? 茜が?」

 意外だ、と顔に書いてある。受け取らない魅夜の胸に、ずいっと包みを押し付ける。ようやく受け取った。

「そ。本命と家族と友達、あと哀れみチョコってやつがあってさ。魅夜の分は友達チョコな」

「……!? とっ、と」

「ん?」

 秋津の顔をじっと見て、次に包みをじっと見る、というのを2、3回繰り返し、固まった。ああ、そういえば魅夜からは意外と好かれているんだったな、と思い出した。少しからかいたくなってくる。

「と、も、だ、ち、チョコ、だよ。魅夜」

 すっと顔を近づける。

「と、友達、チョコ!? 友達チョコですって!」

「そうだよ」

 にまにまと効果音が付きそうな顔で見つめる。普段なら何をにまにましているのかと言われそうなものだが、今はそれどころではないらしい。珍しく動揺した様子でチョコを抱きしめている。

「も、も、貰ってあげなくもないですわ! かんっ感謝しなさい茜!」

 叫ぶように言うと、脱兎のごとく走り去っていく。

「倍返しで頼むなー」

 ひらひらと右手を振る。

 

 

 

「なンだ、もう帰っちまったのかい? はい、注文の茶と団子だよ」

 背後から茶屋の店主、茶毒蛾久が少々残念そうに声をかけてきた。この店主もなかなかにがめついことは知っている。金ヅルを逃した、と思っているのだろう。

「どーも。友達ってのが恥ずかしかったみたいだなぁ?」

 くつくつと笑うと、腰掛けに置かれた茶をすすり、団子を頬張った。


 
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