No.666927

親愛なる友へ

ツァイさん

バレンタイン企画、鶸からの友達チョコです。

登場ここのつ者:黄詠鶯花、蒼海鬼月、犀水陽乃、砥草鶸

2014-02-28 23:06:30 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:403   閲覧ユーザー数:394

 自分がいた国ではなくとも、異国の催しがあるとなると、何となく気になるものだ。本命以外にも、家族としてや友人として気持ちを込めたものを渡すというのはいい機会だ。

 渡せる数に制限があるため、誰に渡すか思案する。兄と呼ばせてもらっている熊染には、やはり家族チョコだろう。親友の鶯花と、よく話をさせてもらっている陽乃には、友達チョコ。さてもう一人の親友、鬼月にはーー

「消去法で哀れみチョコですね」

 これを言えば、鬼月が突っ込んでくることは目に見えているが、からかいがいのある相手だからこそやっている節がある。

 さて、何を渡そうかと思考を巡らせる。チョコレート以外でも構わないらしいが、どうせならバレンタインらしくチョコレート菓子にでもしようか。他の者も用意してくる可能性のある、普通のチョコレートや菓子では面白みがない。かつて過ごした国では何があったか思い出す。

「鶯花君と陽乃さんにはあれで、鬼月さんにはあれで、よし、そうしよう」

 何にするか決まり、必要ものを求めて街に出た。

 

 

 買い揃えたものは、チョコレート、ココナッツ、人参、ピスタチオなど。おおよそ菓子に使うとは思えないものも含まれている。

 まずは、鬼月の分を作ることにした。あまり手間のかからないものを作るため、先に済ませてしまおうと思っていた。哀れみチョコとはいえ、他の相手には作らないものだ。特別といえば特別なのだが、取り立てて言うことでもないだろう。

 チョコレートを溶かし、ピスタチオにまぶしていく。固まるのを待つ間に、他の二人の分を作る準備をする。

「料理が得意な二人に贈るには、ちょっと珍しいくらいがいいかな」

 鶯花と陽乃の姿を思い浮かべながら、調理に取り掛かった。

 丸く形を整えたチョコレートに、ココナッツと千切りにした人参をまぶす。簡単ではあるが、甘味としてはあまり見ない組み合わせだ。きっと興味を持ってくれるだろう。珍しいものではなくとも、あの二人なら素直に喜んでくれるだろうが。

 哀れみチョコと友達チョコ、どちらも固まるのを待って包装する。鬼月の分は蒼い包みに白い紐を、鶯花の分は鶯色の包み、陽乃の分は桃色の包みに赤い紐を選んだ。

 

 

 

 

 

 バレンタイン当日、陽乃の姿はなかった。残念だが仕方がない。また今度、時間のある時にゆっくりと渡すことに決め、鶯花を探した。

「鶯花君、いますか?」

「鶸さん呼びました~?」

「鶯花君、チョコを渡したかったんですよ。陽乃さんに渡すものと同じなんですけど、人参とココナッツを使ったチョコボールです。人参を使っていると分からないくらい馴染んでますから、食べてみてください」

 鶯花の顔が、パアァァと効果音が付きそうなほど明るくなった。興味津々に包みを開けると、感嘆の声を上げた。

「うわぁあ……!色合いが綺麗ですね! 友達チョコでいいんでしょうか? 俺、親友、親友と勝手に言ってるので申し訳なくて……」

「もちろん、友達チョコですよ。俺だって、あまり口に出していないだけで、鶯花君のことを親友だと思ってますよ」

 鶯花と和やかな時間を過ごし、親友としての親睦を深められた気がした。

 

 

 

 次は鬼月だ。人が多い中でも、飛び抜けて高身長の鬼月は見つけやすい。

「鬼月さん」

「お、鶸か。どうした?」

「これを渡しに。はい、どうぞ」

 蒼い包みを渡す。嬉しそうな顔で受け取ってくれた。

「おう、ありがとな! 友達チョコだろ?」

「……。開けてみてください。中身はピスタチオ入りのチョコですよ。あまり固くないから、チョコにも合うんです」

 友達チョコかどうかという部分にはあえて触れずに、にこりと微笑みを返した。鬼月が一瞬、あれ? という顔をしたが、別な質問を返してきた。

「ぴすたちお……って何だ?」

「異国の木の実ですよ。この辺りでは採れない、珍しいものなんです」

 鬼月が包みを解き、ピスタチオ入りのチョコボールを取り出す。

「へえ、よくそんな珍しいもん手に入ったな! お、これうめぇな!」

「ちょっとツテがありまして。おいしいですか? よかったです」

 

「鶸……結局このチョコって友達チョコだよな……?」

「ああ、鬼月さんの分は、哀れみチョコですよ」

 にこり、と微笑む。

「っ?!!! な、なんでよりによって哀れみなんだよ? チクショウやっぱテメェ俺のこと哀れそうに思ってたのかよ!」

 予想通りの反応が返ってきた。先ほどよりも深い笑みを浮かべる。

「哀れそうに思ってなんて、そんな。まず、熊染兄さんに家族チョコ。鶯花君と陽乃さんには友達チョコ。鬼月さんにも渡したかったので、残るは哀れみチョコ、というわけです。納得していただけましたか?」

 悪びれずに言ってみると、腑に落ちないという顔をしながらも、わかったと返事が来た。

 

 

 

 後日、ここのつ者のいるところに向かうと、相変わらず大量の本に埋もれて読書をしている陽乃がいた。

「陽乃さん、こんにちは」

「え、あ、と、砥草さん……」

 座っている陽乃の目線と合うように、畳に膝をつく。

「陽乃さん、渡したいものがあるんです」

「渡したいもの……ですか?」

 きょとんとした様子が可愛らしい。袂から桃色の包みを取り出す。不思議そうな顔をしている陽乃の前に、そっと差し出した。

「受け取っていただけますか? 先日、峠の茶屋でバレンタインという異国の催しがありまして。出来ればその場で渡したかったんですが、陽乃さんは来ていなかったので、今日渡しに来ました。友達チョコです」

「と、友達……チョコ、ですか? ありがとう……ございます……」

 おずおずと受け取る陽乃に、いつもの笑顔を向ける。平然と渡したものの、もし陽乃からは友人とは思われていなかったら少し寂しいと考えていた。受け取ってもらえて一安心だ。

「これからも、よろしくお願いしますね、陽乃さん」

 陽乃と大量の本の間に、ゆっくりと腰を下ろした。

 


 
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