No.663384

恋姫OROCHI(仮) 序章・中~戦国~

DTKさん

DTKです。
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、第3話目です。
まだまだ序章。なんのこっちゃ分からないと思いますが、お暇ならお付き合いくださいm(_ _)m

なお、戦国†恋姫をクリアした人用に作っています。

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2014-02-15 00:56:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:6324   閲覧ユーザー数:5631

京、二条御所。

 

「なんじゃと…?どういうことじゃ!?」

 

一葉の声が響く。

謁見の間、御簾を上げた状態の上座に、一葉、双葉が並ぶ。一段下には控えるように幽と、帰省の途上であった雫の姿がある。

下座正面には織田家からの使者、麦穂が居た。

その麦穂が今まさに、駿河消失を伝えたところだった。

 

「そ、それは本当なのですか?」

 

双葉は青い顔をして、麦穂に尋ねる。

 

「はい。駿河が消失したことは、松平家、武田家双方からの情報ですので、間違いはないかと」

「剣丞さまはっ!剣丞さまはご無事なのですかっ!?」

 

御前である事も忘れ、雫は身を大きく乗り出す。

しかしそれは全員の関心事だったのだろう。この場の全ての耳目が、麦穂に集まった。

 

「…残念ながら、駿河にいた剣丞どのの所在は、剣丞隊の面々も含め……未だに不明です」

「そ、そんな……」

 

がくんと、腰が抜けたようにへたり込む雫。

ほんの数日前まで一緒に居た仲間たちの、大事な人の行方が知れない。

目の前が真っ暗になった雫を絶望感が襲う。

 

「で、でも…もしかしたら剣丞どのの事ですから、異変を事前に察知して、きっとどこかで無事に…」

「気休めはよせ」

 

ぴしゃり。

一葉は、最近耳にしなかった、将軍としての威厳ある声で麦穂の言葉を遮る。

 

「武田、松平からの報せの中に主様の所在がなかったということは、その領内に主様は入っていないということ。

 仮に北条領へ逃げ込んだとしても、身の危険に変わりは無い。それに、もし主様が消失の前兆を感じ取ったとて、駿府館に居ったとしたら、駿河のど真ん中。どこへも逃げられん。それくらい、お主とて分かっておろう」

「はい……申し訳、ありませんでした」

 

平伏する麦穂に、一葉は面を上げよと一言。

 

しかし、上げた麦穂の顔は沈痛としか表現できない表情で、一葉から目をそらす。

双葉は全身から血が抜けたような、真っ青を通り越して真っ白な顔をし、身体を凍らせる。

逆に雫は、全身の力が弛緩し呆け、(まなこ)は曇り、その焦点は合っていない。

幽は一人、姿勢を乱さず目を閉じている。

 

そして上段中央、一葉はしばし瞑目。

と、突として目をカッと見開く。

 

「……幽よっ!」

「はっ」

「主様なき世に未練はない。余は切腹するっ!介錯せぃ!!」

 

がばっと前垂れを外し、艶やかな腹部をあらわにする。

 

「お、お姉様!?」

「かしこまりました。では僭越ながら、それがしが介錯つかまりましょう。辞世の句はいかがなさいますかな?」

「そうじゃの…………『主様や あゝ主様や 主様や』……うむっ、名句が出来たな」

「……下の句がございませんが?」

「…おぉっ!」

「ちゃんちゃん、と。……さて皆々様、少しは落ち着かれましたかな?」

 

幽は座を見渡す。

主従漫才に笑う者は誰一人無く、全員呆気に取られていたが、肩に力が入ったり悲愴な顔をする者も無くなっていた。

 

「さて麦穂よ。駿河消失についての調査等はどうなっておる?」

「は、はい…松平・武田両家による追跡調査と、織田家独自に調査隊を派遣する手筈となっております。

 また時機を見て、諸国の当主が一同に会し、それまでに集めた情報を元に細かな所を詰めたいとの、我が主よりの提案です」

「うむ。それについては良きに計らえ。して、我ら足利家は何をすればよい?」

「我が主、織田上総介は、一葉さまには畿内の安定をお願いしたいと…」

「あい分かった。幽!」

「はっ。万事、手配しておきましょう」

 

と、幽は諸々の指示を出すため、間を後にする。

 

「それから、雫の処遇はいかがする?」

「…………え?」

 

雫の所属は、慣れてしまっているので忘れがちだが、複雑だ。

元々は小寺家の将であるが、一葉が請う形で将軍家預かりとなっており、そこから雫の意思で剣丞隊の所属になっている。

しかし現在、剣丞隊は所在不明。

こうなった以上、元来の主家に戻る、預かり先の将軍家に仕える、あるいは所属先の主家である織田家を支える。

いくつかの選択肢が雫にはあった。

 

「久遠さまは、雫本人に任せる、と申しておりました」

「そうか…どうする、雫よ」

「わ……私は………」

 

呆けていた瞳に光が戻り始める。

ピシャッと両頬を一叩き。大きく深呼吸を一つ。

新鮮な空気が体内の澱んでいた血を廻らせ、雫の灰色の脳細胞を動かしだす。

 

(しっかりしなきゃ!しっかりしろ私!…今……今、私が為すべきことは…)

 

「私は……公方さまの元に残ります。元々私は公方さまのお預かりという立場ですし、いま私が為すべき事は、いつ剣丞さまがお戻りになられても良きよう、畿内安定のためのお手伝いをさせて頂きたく思います」

「うむ。良い目じゃ」

 

今の雫の眼は先ほどまでの光なき眼ではなく、智恵者の小寺官兵衛の眼だった。

 

「そういうことだ。久遠によろしく伝えておいてくれ」

「承知いたしました」

「連絡は密にしよう。頼りにしておるぞ、麦穂よ」

「はっ!」

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

麦穂が部屋を辞してしばらく、幽が戻ってくる。

と同時に、

 

「ごめんなさい……失礼しますっ」

 

と、双葉が部屋を駆け出る。

その目には光るものが見えた。

 

「双葉さまっ!」

 

その様子に、雫は慌てて立ち上がる。

追って良いものか逡巡していると、

 

「頼む。妹の側に居てやってくれ」

 

一葉が言葉で雫の背中を押す。

 

「は、はいっ!」

 

パタパタと軽い足音が遠ざかる。

残されたのは一葉と幽の二人。

 

「やれやれ、しかし困ったことになりましたな。もし他国に剣丞殿の不在が知れれば、畿内もきな臭く…」

「ふっ…幽よ、分かっておらんな」

「はぁ……と、申されますと?」

「きな臭くなるからこそ良いのではないか!久遠は再び呆けるじゃろうし、美空・光璃はさしてやることもなかろう?ならば重要な任務があるのは余だけじゃ!」

 

武田家は調査があったと思いますが、という言葉は飲み込んでおく。

 

「それが貧乏くじだと、それがしは思うのですが…」

「だから分かっておらんというのじゃ!畿内の安定という苦難を余が見事乗り越えればじゃ、主様が帰ってきた暁には、正妻の中で余だけが褒められるのじゃ!こんなに嬉しいことがあるか!?」

 

いっそのこと、誰か謀反でも起こしてくれんかの?

と不穏当な発言をする主に対し、幽は呆れとも感嘆とも取れる溜め息をつく。

 

「しばらくは主様を独り占めじゃ!…まぁ、双葉には少し分けてやっても良いがの」

 

自分に都合の良い未来を夢想し、よろしくない笑みを浮かべる一葉。

 

「…剣丞どのを、信じておられるのですな」

「当然じゃ。余の主様であるぞ?例え国が一つ消えようと、その身が砕けようと、最後には必ず、余の元へ帰ってくるに決まっておる!」

「そうですか…」

 

幽はその言葉を聞くと、すっと立ち上がる。

 

「さて、それがしも双葉さまのところへ顔を出そうかと存じます」

「うむ。双葉は余と違い気の弱い女子じゃ。支えてやってくれ」

「えぇ。一葉さまとは似ても似つかぬ、素直で純真な方ですからな。誰かがお側で支えて差し上げねばなりますまい」

 

そのまま所作鮮やかに、足音一つ立てず、滑るように部屋を出ようとする。

が、敷居のところで、ギッ、と床を鳴らして立ち止まる。

 

「そうそう。只今、それがし以外の幕臣は諸所へ出払っておりまして。それがしが去りますれば、御殿には誰もいなくなりますので、あしからず…」

 

そう言うと、ギッ、ギッ、と床を踏み鳴らしながら部屋を出る。

やがてその音は小さくなり、聞こえなくなった。

 

「うっ……うぅっ……」

 

一葉以外誰もいなくなった御殿に小さく、息を引く音が響く。

 

「主様……主様ぁ………っ!」

 

一葉は上体を折ると、己が身を抱くように、小さく、小さくなる。

 

自分の半身とも言える剣丞が消えた。それ即ち、世界の半分が消えたと同義。

この世界は、自分一人には大き過ぎるから、小さく、小さくなる。

 

三千世界と繋がる一葉には分かってしまう。

『この世界』から剣丞が『消失』してしまったことが。

他の者は、状況証拠からの推測で事態を受け止めているが、一葉だけは確信を持ってしまっている。

 

しかし、逆にこの事も分かる。

ここではない『別の世界』で、剣丞が確実に生きているということが。

その確信だけが、彼女の心の灯火を、わずかに残していた。

 

その灯火を護るように、今は小さく在り、小さく泣く。

泣いた後で、再び種火を強く燃え上がらせるために。

いつもの強気な自分に戻るために……

 

 

 

 

 

 


 
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