No.664042

恋姫OROCHI(仮) 序章・下~戦国~

DTKさん

DTKです。
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、第4話目です。
これで序章も終了。次からはいよいよ本編?となります。
序章を読んで、何となく世界観を掴んで頂ければ幸いです^^

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2014-02-17 01:56:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:6529   閲覧ユーザー数:5710

その少女は、にこやかだった。

 

「……ごめんなさい。よく聞こえなかったの。もう一度言ってもらっていいかしら?」

 

長尾家当主、長尾美空景虎は、自分の一段下、正面に座る織田家からの使者である雛を笑顔で見据えていた。

脇には家老の秋子、柘榴、松葉が控えているが、雛のことを犬に噛まれた娘のように見ていた。

 

(うぅ……貧乏くじだったよぅ……)

 

龍の視線で針の筵な雛は、心の中で後悔をしていた。

 

 

 

 

 

……

…………

………………

 

 

 

 

 

織田が駿河消失を伝えるべき同盟国は、将軍家・浅井家・長尾家の三つ。

この三家を麦穂と雛で手分けして回ることにした。

距離や方角から、一人は将軍家と浅井家。もう一人が長尾家を回ることにし、

 

「雛ちゃんは、どっちに行きたい?」

 

と麦穂に聞かれた雛は、少しの逡巡の末、じゃあ長尾家の方でー、と答えた。

 

行ったことがない所へ行ってみたい、という尤もらしい理由もあったが、本音を言えば、顔見知りとはいえ大名や将軍と二回も謁見するのは面倒くさい。

それに、剣丞のことを報告するなら、まだ一葉より美空のほうが楽だろう、という非常に緩い理由で越後行きを選んだのだが…

 

 

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

 

 

「……ひぃ~なぁ~?」

「ぴっ!」

 

一睨み。

雛の正面に御座すは、越後の龍と渾名される武人。

龍に睨まれては、雛はひとたまりもない。

 

「もう一回、言って、くれるわよ、ね!?」

「は、はひっ!」

 

圧倒的な圧力を感じながらも、雛は恐る恐る口を開いた。

 

「え、えぇ~っと…ですから、数日前に駿河が消えちゃったみたいでー

 どうやら剣丞くんたちも、そのとき駿河にいた、かもしれない…って感じなんです、けど……」

「…………」

 

笑顔。

 

「…………」

 

笑顔。

 

「「「…………」」」

 

 

 

「ぬわんですってぇぇええぇ~~~!!!!」

 

 

 

絶叫と同時に上段を飛び出し、雛に飛びつく美空。

 

「ちょっとそれどういうことよっ!?剣丞はっ?剣丞はどうなったのっ!!?」

 

雛の両肩をむんずと掴み、がくがくと前後に揺さぶる。

首が据わっていない子供のように雛の頭が激しく揺れる。

 

「で~す~か~ら~~…駿河の国が~~……」

「駿河なんてどうだっていいのっ!剣丞!!剣丞は無事なのっ!!?」

「けけ、剣丞くんは~…駿河と一緒に~…消えちゃったんじゃ、ないか、と~…」

「――――っ!?そ、そんな……」

 

顔を真っ青にし、膝から崩れ落ちる美空。

両頬を押さえ、絶望的な表情に変わる。

 

「スケベさん消えちゃったっすかー?」

「…スケベ、消える、ウケる」

 

部屋の端っこで聞いていた柘榴と松葉が口を開く。

(あるじ)との温度差が激しく激しい。

 

「ちょあ…アンタたちねぇ…!ちょっとは心配じゃないのっ!?」

 

あまりの態度に、美空は青い顔を赤くする。

 

「心配。秋子が心配。折角もらってくれそうなスケベだったのに…」

「これで行かず後家確定っすねー」

「ちょっ!余計なお世話ですーー!!それにそれを言ったら、あなたたちだって同じでしょうに!」

 

秋子が諸手を挙げて反論する。

 

「松葉たちは、まだ若いから大丈夫」

「でも秋子さんは年だから、スケベさんが最後の機会だったっすー。可哀想っす~…」

 

松葉と柘榴は憐憫の眼差しを秋子に向ける。

 

「くうぅ……若いからまだ大丈夫、ってのがあとあと悔やむ一番の言葉なんですからねーー!

 松葉ちゃんも柘榴ちゃんも、私くらいの年なんかすぐに来ちゃいますよ、すぐにー!!」

「あ、アンタたち……」

 

家老の秋子まで加わってのドタバタに、美空は怒りを通り越して呆れ果てる。

が、そのおかげで冷静さを取り戻せた事に、どうも釈然としない表情になる。

軽く嘆息しながら、気持ちを落ち着かせるように、ゆっくりと上段へと戻り、腰を下ろした。

 

「で、その駿河が消えた理由とか、剣丞たちの行方とか分かってるわけ?」

「その辺は全く分かってないみたいです。今は武田と松平が調査してるみたいなんで、何か分かったら追って連絡が入る手筈になってるらしいですー」

「なるほどね。で、長尾家はどうすればいいの?」

「とりあえずは治安維持に努めてほしいとの事です。特に長尾家は、その……」

 

雛は言い難そうに口ごもる。

直近もあったように、連合国中で家中に最も火種を抱えているのは長尾家だろう。

姉の晴景の存在は言わずもがな。

また、国内の引き締めに剣丞との婚姻を利用した手前、この状況はあまりよろしくはない。

 

「そうね。この連合や私のことを快く思わない連中にとって、何かを起こすのにちょうど良い状況ね……秋子!空と愛菜は?」

「あ、はい!今日は織田家からの使者がいらっしゃるとの事でしたので、愛菜がいるとまた面倒なことになると思いまして、空さまと一緒に城下の方へ遊びに出てもらっています。もちろん、護衛はつけています」

「そう。念のため、すぐに連れ戻しておいて」

「はいっ!」

 

パタパタと秋子が間を後にする。

それと同時に、厠に行ってくるっすー、と柘榴も退出した。

それで何となく、謁見、という公式な空気が解ける。

最初からなかったと言えなくもないが…

 

「はぁ……まったく!鬼の騒ぎが一段落したと思ったら、今度は国が一つ消える!?

 しかも剣丞まで一緒に消えたかもしれないなんて…あぁ、もう!!!」

 

美空は頭をわちゃわちゃにする。

 

「そういえば葵さまが、剣丞くんは元の世界に帰ったっていう推察を立ててたんですけど…」

「何よそれ!?私を差し置いて剣丞隊の連中だけ連れ帰ったってことっ!?」

「いえ、あの…」

「落ち着いて御大将。もしスケベが帰るだけなら、国が一つ消えるのはおかしい」

 

松葉が冷静に突っ込む。

 

「わ、分かってるわよ。それくらい…」

 

そう言いながら美空は、右手を額を鷲掴み、眼を閉じて深くため息をつく。

取り乱すのは、真剣に惚れている証左なのだ。

鬼を一掃し、駿河を解放したら今度こそ、一時かもしれないが平和な時が訪れる。

美空はその時、剣丞と空と自分、三人でゆっくりと温泉にでも……

そんなささやかな幸せを胸に描いて、日々を送っていたのだ。

その矢先の急報だった。

 

「御大将……出家、したい?」

 

松葉が、先ほどとは打って変わって、真面目な声色で美空に問う。

心労や面倒事、嫌な事があると、すぐ出家すると言い出す癖がある美空。

空を養子に迎えてからは幾分収まってるとはいえ、昔から美空を見ている者からすれば、充分に癖が出ても致し方ないほどの出来事だ。

しかし…

 

「そんなこと…出来るわけ、ないでしょう?私には…もう、捨てる事のできないものが、出来ちゃったんだから……」

 

頭を振るうと、すっと胸に手を当てる美空。

そこにある『絆』に触れるように、優しく…

その顔は、越後の龍でも関東管領長尾家当主でもない。

美空という一人の少女のそれだった。

…と、

 

「あ、そ、その…違うわよ!?空!空がいるんだもん!別に剣丞がどうとか、そんなことは全然!まったく!関係ないんだからっ!」

 

顔を真っ赤にし、両手をぶんぶんと横に振るう。

 

「いやぁ、さすがにそれは…」

「御大将、いくらなんでも無理がある」

「……うっさいわよ」

 

雛と松葉の呆れ顔を見まいと、ぷいっと顔をそっぽに向ける。

その様子に、松葉はわずかに相好を崩した。

 

(良かった。御大将、少し元気、出た)

 

口下手で不器用な松葉だが、心から美空のことを心配しているのだ。

軍神と呼ばれる長尾景虎は尊敬に値するが、惚れた男のために喜怒哀楽を自由に表現できる美空という大将を、心から護りたいと。

そう思っているのだ。

 

 

…………

……

 

 

 

場の空気が緩まったところに、ダンダンダンダンッと、廊下から激しい足音が聞こえてきた。

と思いきや、スパーンと部屋後方の襖を勢いよく開き、柘榴が現れた。

 

「雛、雛ー。ちょっと聞きたいことがあるっすけど?」

 

用足しを終え部屋に入ってくるなり、能天気な声を上げる。

 

「なに~?」

「スケベさんが田楽狭間に現れたとき、近くに居たっすー?」

「雛?ううん、近くには居なかったけど…」

 

どうしてそんなこと聞くの~?と聞こうとしたとき、柘榴から後光が射した。

 

「ざ、柘榴?あんた、それ…」

 

護法五神を召喚し、自身も毘沙門天の化身と呼ばれる美空も、その光景には絶句する。

そんな神秘的な光景、

 

「もしかしてスケベさんが現れたときって…」

 

…というわけではなかった。

その強い光は柘榴の後方、城の外から発せられていた。

そしてそれは室内にも侵入し、全てを真白に染め上げる……

 

「こんな感じじゃなかったっすかね~?」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょーーーー…………」

 

 

 

 

 

この日、越後が消えた。

 

もはや他人事ではない。

武田から伝えられたその報せは、連合国を震撼させるのであった。

 

 

 


 
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