No.660395

恋姫OROCHI(仮) 序章・上~戦国~

DTKさん

DTKです。
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、第2話目です。
まだまだ序章。なんのこっちゃ分からないと思いますが、お暇ならお付き合いくださいm(_ _)m

なお、戦国†恋姫をクリアした人用に作っています。

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2014-02-04 02:42:40 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:24289   閲覧ユーザー数:22253

 

「駿河が消えた、だと?」

 

織田家本城、岐阜城。

三河からの早馬によってもたらされた報を、久遠は驚きと共に受けた。

 

「どういうことだっ!?仔細説明せいっ!」

「それが……使い番も仔細伝えられてはいないようでして…」

「どうやら、葵さまの先触れのようで、まもなく葵さまご本人が直接お越しになり、事情を説明しにいらっしゃるとの事でした」

 

家老である麦穂、壬月も事情は飲み込めていないようだ。

 

「そうか…」

 

目を閉じ、黙考する久遠。

奥歯を強く噛み締め、耐える。

考えることは、一つだけ…

 

「殿……」

 

駿河を奪還し、復興のため駿河に駐留している剣丞隊のこと。

いや、剣丞のこと。

剣丞は……?

 

「…いや、今あれこれと考えても詮無きこと。葵を待とう。壬月、三若に召集をかけておけ!

 麦穂は葵の出迎えを。葵が到着次第、すぐに軍議を開くぞ。疾く動けぃ!!」

「「はっ!!」」

 

二人が退出し、広い評定の間で、一人になる。

考えても詮無きこと。

考えても詮無きこと。しかし……

 

「――――っ!!」

 

胸の奥が締め付けられる。心の臓の真ん中を火縄銃で打ち抜かれたような感覚。

前に一度体験した、あの痛み……

 

「………剣丞…」

 

自分の良人を想い、久遠は少し、哭いた。

 

 

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

 

 

一刻もしないうちに松平家から葵、悠希、綾那、歌夜の四人が着到。

時を同じくして、武田家から一二三と湖衣が岐阜城を訪れ、軍議に加わりたいと申し出てきた。

三若、そして結菜も登城し、総勢十三名での軍議が開かれることになった。

 

 

 

岐阜城、評定の間。

上段には久遠、その斜め後方に結菜。

久遠から見て右手、手前から壬月、葵、悠希、綾那、歌夜。

左手は麦穂、犬子、和奏、雛、そして一二三、湖衣と並んでいた。

 

まず、軍議の口火を切ったのは悠希だった。

 

「織田上総介久遠信長さまに置かれましては、ご機嫌麗しゅう…」

「おけぃ。さっさと本題に入れ」

「……畏まりました。では僭越ながら、この本多弥八郎正信から今回の事態、ご報告させて頂きたく思います」

 

どこまでも慇懃無礼に振舞う悠希。

それを正すこともなく、隣では涼しい顔で葵が鎮座している。

後ろでは、綾那がそんな二人に不満気な顔を覗かせ、その隣に居心地悪そうに歌夜が座っていた。

 

「一昨日早朝、当家武将……いえ、『剣丞隊所属の武将』である本多平八郎、榊原小平太の両名が、三河から駿河へ向かい、遠江を越えようとしたところ、駿河の『消失』を確認」

「綾那と歌夜が?」

 

はいです!と悠希を押しのけ、ずずいと前に出る綾那。

 

「駿河奪還の後、綾那たちは剣丞さまから三河への里帰りを勧められたです。折角なので一通り故郷を回って、一昨日、剣丞さまのところへ合流するはずだったですが…」

 

駿河は消失していた。

 

「そこだ。その『消失』というのが良く分からん。詳しく説明してくれないか?」

「はいですっ!こう、国境を越えようとしたら、ずーんっていう穴が、どどーんと広がってて、綾那さっぱり分からなかったです!」

「……歌夜」

 

矛先を歌夜に向ける。

 

「……私もうまく説明できません。ただ、そこにあるはずのものが無くなっていた、としか…」

 

申し訳ありません、と自分の力なさに肩を落とす歌夜。

二人の説明が途切れた頃合を見計らい、悠希が咳払いを一つし、口を挟む。

 

「二人からの通報を受け、同日午の刻までに松平家として消失を確認。領内での聞き込みを行ったところ、前日の日暮れ前に駿河から遠江に入った行商人が居りましたので『消失』は夜の間に起こったものと、当家では判断しております」

 

あとは武田の者に任せたいと思います、と席を下がった。

 

「それじゃあ、ご指名を受けたことだし、ここからは私たちが引き継ごう」

 

と、久遠から見て左手下座に座っていた一二三と湖衣が久遠に身体を正対させる。

 

「武田も、何か情報を掴んでいるのか?」

「えぇ。残念ながら、松平より少々詳しい、といった程度ですが…」

 

湖衣が申し訳なさそうに肩をすぼめる。

そんな湖衣とは違い、一二三は堂々と言葉を継ぐ。

 

「我が方が『消失』を確認したのは、一昨日の子の刻。国境沿いの城詰めの不寝番です。その者らによると、突然、駿河方面が昼間のように(まばゆ)く光り輝きだしたそうです。そして光の収束の後、何故か遠方に海らしきものが見えた、ということです」

 

すなわち、駿河が丸々無くなった、と言うことだ。

 

「その後、吾妻衆に調べさせましたが、駿河の国が、というより『駿河という土地そのもの』が消え去った、というのが結論ですね。

 山や川は刃物で切り取られたかのようにすっぱりと無くなっております。不思議なのは駿河があった場所は穴であるのですが、川の水は闇に消え、海の水も穴に落ちることは無いことようです。

 駿河の跡地に海が流れ込んでくれれば、甲斐にも海が出来たのだけどね」

 

湖衣は、一二三ちゃん、と軽口をたしなめると、

 

「私の金神千里(こんじんせんり)で見える範囲は隈なく探索しましたが、駿河一国ことごとく消失したとみて間違いないでしょう」

「…ならば、剣丞は……剣丞隊の皆は…」

「……恐らく、消失に巻き込まれたのではないかと」

「「「…………」」」

 

沈黙、静寂。

座の誰もが、沈痛な面持ちをしていた。

…ある二名を除いて。

 

「もしかしたら……」

 

ぽつりと、しかし独り言にしては大きく、他人の気を引くような声色で、葵が呟いた。

 

「どうした、葵。なにか思いついたことでもあるのか?」

「いえ、つい…声を出してしまい、失礼致しました。ふと思いついたことはあるのですが、愚考で御座いますので、久遠さまやご列席の方々に聞かせるようなことでは…」

「構わぬ。恥ずかしながら、我は何一つ考えが浮かばぬ。何でも良いから話してくれないか」

「はぁ……それでは」

 

姿勢を正し、一度目を閉じる葵。

一つ大きく息を吐くと、その目と口を開いた。

 

「これはあくまで推測に過ぎませんが、剣丞さまはもしかしたら、元の世界にお戻りになられたのではないでしょうか?」

「……なん、だと?」

「武田晴信公のお考えによれば、確か剣丞さまこそ、かの鬼騒動の発端にして終端。駿河の一件が終焉し、鬼の脅威も一段落。

 故に、剣丞さまのこの世界での役目が終わったのではないかと、そう考えるに至ったのです」

「なるほどっ!そう言われてみれば、剣丞どのが田楽狭間に現れた時も強い光と共に現れたと聞き及びます。

 武藤どのの言に拠れば、今回の駿河消失の瞬間も強い光が発せられたとか?葵さまの推察は、まこと理にかなったものかと!」

 

悠希は立ち上がると、身振り手振りを加え、白々しいほど大仰に、葵の推察を補完する。

さもそれが真理であるかのように。

そんな悠希に、

 

「いい加減なことを言うなですっ!!!」

 

綾那が飛び掛かると悠希の襟を引き絞り、額をぶつけんばかりに詰め寄る。

 

「証拠はっ!?証拠はあるですか!!?何を根拠に剣丞さまが元の世界に戻ったなどと!!」

「それは私の考えではないですよ?殿のお考えです。文句があるなら…ほら、殿に直接言ったらどうですか?

 大体、明確な証拠など無いから、推察をしているのです。まったく、これだから学のない武一辺倒の愚か者は…」

「なにおう!!!」

 

完全に頭に血が上った綾那は拳を振り上げる。

ここに至り、さすがに不味いと歌夜も止めに入るが…

 

「二人とも止めなさいっっ!!!!!」

 

場に鳴り響く、葵の一喝。

立ち上がり、二人の間に入ると、二人を引き剥がす。

 

「悠希!私の考えはあくまで愚考。軽率に話を広げるでない!」

「はっ。出過ぎた真似を致しました」

「綾那も、三河武士の品位を下げるような行動は慎みなさい」

「……はい。ごめんなさいです」

 

主の、普段は見られない激高ぶりに、さすがの綾那も小さくなる。

葵は久遠に向き直ると、平伏し叩頭する。

 

「申し訳ありません。久遠さまの御前にて家臣が無礼を働きまして…お叱りは私が如何様にも受けますれば……」

「よい。面をあげぃ葵。お主と悠希の推察は至極もっとも。可能性の一つとして含み置くべきだろう」

「はっ…」

 

葵が上体を起こす。

 

「しかしそうなると、剣丞だけでなく、何故駿河一国を巻き添えに消えてしまったのか。その意味が分からん。

 そういう意味では、鬼のように各地で同じような現象が起きんとも限らん、と我は考える」

「仰せの通りかと」

「我が織田家としても調査隊を編成するつもりだが、松平・武田両家には、追跡調査と駿河方面の警戒、監視をお願いしたい」

「はっ!」「承知しました」

 

こうして、三家による軍議は終了。

松平、武田両家の武将は退出した。

 

 

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

 

 

「剣丞さま、大丈夫かなぁ……」

 

軍議中、一言も発しなかった犬子が、犬子らしくない、小さく沈んだ声色で、そう言った。

 

「だ、大丈夫に決まってんだろっ!?剣丞は金ヶ崎の時だって無事だったんだ!きっと、今度だって……」

「でもでも、今度は国が一個まるごと消えちゃったんだよね…さすがの剣丞くんも……」

「それは……」

 

雛の言葉に閉口する和奏。

剣丞の生死が不明という点では金ヶ崎と同じだが、鬼という目に見える敵がいるわけではなく、国が一つ消えるという事態の大きさ。

目に見えない恐怖。

得も言われぬ不安感がのしかかる。

重鎮である壬月、麦穂。そして久遠も口が重たい。

 

 

…………

 

 

パン、パンッ!

重苦しい雰囲気を乾いた音が切り裂く。

 

「はいはい、黙ってても何も始まらないわよ」

 

結菜が二回、手を叩いたのだ。

 

「久遠、今後の方針は?私たちはどう動いたらいいのかしら?」

「あ、あぁ……そうだな…」

 

結菜に促され、

 

「先ほども言ったとおり、織田家も独自に情報を集める。そしてこの事を他の連合国にも伝えねばなるまい」

 

止まっていた頭を動かし始める。

 

「壬月は調査隊を編成し、松平・武田両家と連携し『消失』の仔細、調べ上げよ!」

「御意っ!」

「麦穂は同盟諸国にこの事を伝達。諸国との繋ぎを務め上げろ!雛はその補佐に当たれぃ!」

「承知!」「はーい」

「犬子、和奏は母衣衆を使い、領内の治安維持と、何か変事が無いか、目を光らせておけ!」

「はーいっ!」「了解です!」

「剣丞の不在が不満分子に知れれば、良からぬ事が起こるやも知れぬ。情報は厳重に秘匿し、些事あらば即連絡し、臨機応変に対応せよ」

「「「はっ!」」」

「よし。ならば各員、奮励努力せよっ!!」

「「「応っ!!」」」

 

 

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

 

 

皆が任務の準備のために退出し、評定の間には、上段に二人。

 

「…久遠」

 

小さな…本当に小さな背中に、結菜は声を掛けずには居られなかった。

あくまで気丈には振舞ってはいたが、間近で見ていた結菜には見えていた。

その細い肩は、ずっと震えていた。

だから結菜はその肩を、

 

「久遠……」

 

その身体を、そっと、優しく包み込んだ。

 

「うぅ……結菜っ…結菜ぁあぁ……っ!!」

 

彼女を、すんでのところで押し止めていたものが、壊れた。

結菜の腕に縋りつき、童のように泣きじゃくる。

 

「怖い…私は怖い……剣丞!!剣丞えぇぇ………」

 

最愛の人の喪失の予感。

一度目、金ヶ崎の時に感じた、胸にぽっかりと穴が開いた感覚。

 

一度、越えられた恐怖。

一度、埋まった心の穴。

 

二度目ならば恐怖も痛みも軽くなるかといえば、然に非ず。

 

一度、恐怖を識っているだけ、

一度、埋まった充足感を得ただけ、

 

二度目の恐怖は倍々に増し、久遠の心を蝕んでいった。

 

「…嘘つきっ………もう、私と離れないと……離れないと…そう、言ったではないか……剣丞…ばかぁ……ばかぁあぁ…」

 

結菜の腕の中にいるのは、日の本の中心を治める大大名、織田信長ではない。

ただ想い人を想い、ただ恐怖に咽び泣く、一人の少女だった。

 

「大丈夫。大丈夫よ、久遠。剣丞は私たち二人の夫なのよ?必ずまた、戻ってくるわよ」

「…ひっ…っく……本当、か?結菜?剣丞は…戻ってくるのか?また私のことを、抱きしめて、くれるのか?」

「えぇ、抱きしめてくれるわよ。そしたら久遠は、思いっきり力を入れて、剣丞の背骨を折ってやりなさいな」

「……く…くくっ…あっはっは!な、なんの冗談だそれは?」

 

泣き顔だった久遠の顔に、笑顔の花が戻る。

 

「あら、冗談に聞こえたかしら?私が今度剣丞に会ったら、間違いなくやってやるわよ?よくも久遠と私に心配かけたなー!って」

「ふっ…蝮の娘ならやりかねんな」

「そうよ。だから剣丞が帰ってきたら、私より先に剣丞に抱きつかないと、手遅れになるかもしれないわよ?」

「そうか…そうだな。なら私が真っ先に剣丞の元へ走らねばな」

 

冗談を返せる程度には落ち着いたようだ。

無理矢理ではあるかもしれないが、笑えている。

もう大丈夫だろう。

 

「……すまんな。毎度、苦労をかける」

「夫を支えるのが妻の役目ですもの。それは言いっこなしよ」

「…ありがとう、結菜」

 

今度は久遠の方から、結菜を抱きしめる。

自分は一人じゃないということを感謝するように、優しく、強く、抱きしめる。

 

 

 

そんな久遠の腕の中で、結菜は思う。

 

私の分まで、久遠は泣いてくれる。

私の分まで、久遠は苦しんでくれる。

だから私は、久遠を支えよう。

久遠を少しでも、苦しみから救えるように。

久遠を少しでも、笑顔に出来るように…

 

……って、これじゃどっちが夫だか分からないわね。

 

 

 

「ふふっ」

 

思わずこぼれる笑み。

何だ、何か可笑しいか?と聞く久遠には、なんでもないわよ、と応え、

 

 

 

無事、なんでしょ?剣丞。

早く、早く私たちに顔を見せなさいよ、馬鹿剣丞……

 

 

 

結菜の心の呟きは、岐阜の空へと吸い込まれていった。

その空は高く、どこまでも青かった。

 

 

 


 
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