────これはなんだ?これは誰だ?
一刀の頭に『また』思い浮かぶのはこの言葉。
先程と意味は同じだ。
目の前の彼女のいつもとの違いに、困惑しているのだから。
──だが感じていることは違う。彼の感情の問題が。
まず、桂花に対しては、歓喜。
それは、今までとは違い彼女がデレているから。
それに反し、流琉は違う。
流琉が部屋に入ってきて、話した台詞は3つ。
そう、たった3つだ。
この3つの台詞だけで彼は今、
────恐怖という感情が彼の心に生まれてしまっている。
なぜ、恐怖が生まれるのか?
『例えば』だが、この態度は桂花と瓜二つ。
彼は普段の桂花の態度に恐怖はしない。
今の流琉と同じであるのになぜか?
──それは初見から今まで、いつも同じ態度だから。
そう、桂花に対しては慣れ───耐性ができている。
初めからあの態度ならば、慣れれば流すこともできるようになる。
それに、理由もある。
桂花は男が嫌い。華琳が好き。北郷一刀が嫌い。
理由は2つに見えるが、理由は3つ。
男であり、北郷一刀であり、華琳に気に入られている。
だから、一刀を嫌う。
だから、あの態度。
だが、流琉は違う。
少なくとも、彼女は一刀が好きであるはずだ。
兄として慕い、男としても慕い、季衣と共に体を許した。
それなのに、この罵倒、視線、態度。
ありえないだろう。
彼女を知る者ならば、十人に十人が『偽物だ』というであろう。
だが、それはあくまで第三者が見た場合の話だ。
当事者。───特に関係の深い北郷一刀に『偽物』と言い切れなかった。
なぜか?
それは、たった一言の理由。
『ありえないから』
これに対して『矛盾している』ととる人が多いだろう。
────ここで、例を挙げてみよう。
『例えば』の話だが、未知の生物──宇宙人でもいい。
それらを目撃した、会った、等としよう。
写真や噂ならば『偽物』、『悪戯』、『幻』等の意見が出て、信じないだろう。
だが、その未知の生物は自分の目の前で『ありえない』行動をしているとする。
その時、人はどう思うか。
それは、文献等でしか見たことのない生物が『存在する』と、納得するのだ。
────いや、納得せざるを得ないのだ。
────それが、目の前で起こってしまっているから。
だから信じてしまう。
例ではなく、有名な諺で表してみよう。
『百聞は一見に如かず』という言葉がある。
その言葉通り、自分の目で見たものは信じてしまうのが、人である。
全ては知らないだけ。知れば納得する。それが人だ。
では、これらのことを流琉に置き換えてみよう。
目の前の流琉の姿は本物だ。間違いなく。
体を重ねたからこそ分かる。この彼女は本物だと。
態度が違うだけ。
そして、今の一刀はこう考えている。
────流琉は内心では、言葉通りに考えているのでは?
今までその内心を知らなかっただけなのかもしれない。
考えたくはない。だが、その考えが頭から離れない。
だが、こうして彼女は目の前でこの態度。
信じられない。
普段の一刀ならば、『病気』や『事故』など要因を考えたかもしれない。
────だが、無理なのだ。
なぜ?
────それは、先刻の桂花のことがあったから。
桂花も同様、いつもの桂花からは『ありえない』彼女だった。
だが、目の前にその彼女はいた。
このときも一刀はこう考えた。
────桂花は内心では、言葉通りに考えているのでは?
そう考えてしまっている。
いつもの言葉とは裏腹の態度。それが先程まであった。
それが原因となっている。
今の一刀は『内心がわからない』。という現象に陥っている。
ここで、始めの原因の話に戻ろう。
『ありえないから』。これ原因だった。
だが『ありえない』ことは二度目だ。しかも、一度目を信じてしまっている。
だからこそ、二度目を信じようとしてしまっている。
────これは、混乱だ。
一刀の心の中は、混乱が混乱を呼び、まともな思考回路をしていないのだ。
それでも、一刀は訊かなければならない。
─────────今の流琉の態度の理由を…………。
一刀「……な、なぁ」
流琉「だ……なによ?」
流琉はまだ言葉を続けようとしていたのに、邪魔されたのが気に食わないのか、一刀を睨む。
これだけで一刀は挫折しそうになった。
─────それでも一刀は続ける。
一刀「な、なんでいきなりそんな態度なのかなぁって…」
一刀は弱腰だ。
内心、びくびくしながら訊いている。
流琉「…はぁ?なに言ってるの?」
流琉は呆れ顔だ。
流琉の呆れ顔を見たことがないわけではないが、これは馬鹿にしたような呆れ顔だ。
彼女は言葉を続ける。
流琉「こんなの、いつものことよ」
一刀「(いつも!?ま、待てよ。じゃ、じゃあ、こんなことを誰かに愚痴ってることか!?)」
そうは言っていない。が、そう考えるのが妥当かもしれない。
一刀「……………………」
一刀は少しの間、無言になってしまった。───少し、身体を震わせながら……。
そして、流琉はその一刀に気付いた。いや、気付いてしまった。と言ったほうが正しいだろう。
そして、流琉は口端を上げほくそ笑む。
更に、目にも笑みを浮かべている。
─────そう、獲物を見つけた狩人の様に……。
流琉「この際だから、言わせて貰いますけどね、あんた節操無さ過ぎよ!」
一刀「う!」
事実だ。事実だからこそ、彼にこの言葉は突き刺さる。
流琉「華琳様は王よ!分かってるのかしら!?」
一刀「わ、分かってるよ!けど、あれは同意の上であってだな…」
流琉「同意!?はっ、あなたいつもそれじゃない。向こうからだ、とかいって逃げて!節操無しなのは変わらないじゃないですか?」
馬鹿にしたかのような態度なため、敬語で罵倒する流琉。
一刀「いや、それは……だ…な…」
一刀は語尾が小さくなっていく。
流琉はこれを好機と見たのか、さらに責め立てる。
流琉「……侍女にまで手を出そうとしたわよね、『北郷』」
一刀「ぐぅ!それを持ち出すか。……いや、まぁそうだけどさ…」
これも事実だ。
ある朝、一刀の部屋に侍女が書簡を持ってきたことがあった。その時一刀は暇だったため、侍女を部屋に留まらせ、話相手になってもらっていたのだ。
だが、それで終わらないのが『魏の種馬』。
話続けて、気付けば夕刻。その侍女も他の侍女に言伝を頼んだとはいえ、そろそろ仕事に戻らねばならない。
そう言って、侍女は立ちあがったのだが、急ぐあまり勢いよく立ちあがったためか、立ちくらみを起こしてしまった。
それを慌てて抱きとめる『魏の種馬』。………一刀ではない。『魏の種馬』だ。
話の最中に何度もいい雰囲気になっていた2人。しかし侍女は、いい雰囲気になろうと彼は、魏の重鎮だと、一歩線を引いていた。
片や、『魏の種馬』は侍女を可愛い女のコと見ていた。
そして、このアクシデント。
抱きとめたため、顔も近い。
彼女は彼の整った顔を直視。顔を赤らめる。その反応を見た『魏の種馬』は彼女を抱きあげ、寝台へ運んだ。
彼女は抵抗しない。───いや、むしろ嬉しそうに見える。
こうなれば『魏の種馬』は止まらない。いや、止まれない。
そして、ゆっくりと近づく、唇と唇─────
───────そこへ、覇王が珍しくノックもせずに入ってくる。
時が止まった。
そして、しばらく間があった後、侍女は脱兎の如く逃げ出す。
まだ動けぬ『魏の種馬』……いや、北郷一刀。
そして、覇王────いや、魔王、此処に降臨す。
あとは言わずもがなだろう。
そして、その出来事は魏の上層部にはすぐに知れ渡った。
その後の事も言わずもがな。
閑話休題。
流琉「当たり前でしょう。『北郷』のやることはすぐに耳に入るわよ」
一刀「ぐ…そう、だな……っていうか何で『北郷』?」
そう、流琉といえば『兄様』だったはず。先刻の桂花の様に。
流琉「…はぁ?………まさか、あたしが一刀とか、隊長とか呼ぶとか思ってんの!?絶対嫌よ!ましてや兄様、なんて『死んでも』嫌だわ!吐き気がする!」
一刀「死んでも!?は、吐き気がする!?」
本当はそう思われていたのかと、衝撃を受ける。
流琉「そうよ、当たり前じゃない。血なんか繋がってないでしょう?そして、義理という訳でもないでしょう?大体、なんであんた季衣とかに兄ちゃんと兄様って呼ばせてるわけ?妹って言葉に感じる変態!?」
これは兄様と呼ぶことに対しての不満か。
一刀「……へ!そ、そういう性癖はない!だいたい、呼び始めたのは、る…」
流琉の方じゃないか、と言おうとしたのだが、流琉に阻まれる。
流琉「それに、季衣とかにまで手を出して!あなた、道徳って知ってる?幼女趣味まで持ってるの!?」
ロリコンは犯罪です。
一刀「ぐぅ…!!なんだか2人から責められているような…いや、もっとか!?……け、けどなぁ、俺だって道徳ってものを知らない訳じゃない!最初はダメかと思ったけど、君たち意思を尊重してだな!そうだろ!」
流琉「知らないわよ、そんなの」
一刀「マジ…か…」
ガク!
本日二度目の膝をついた。
それも当然。
今一刀は、流琉に関係の全てを否定されたのだ。
ロリコンは最低だと。趣味が最低だと。一刀が嫌いだと。
信じてきたものが、全て否定されている。
流琉「はぁ、ヤダヤダ。こんな万年発情男の傍にいたら、犯されてしまうでしょうね。速くこの場から立ち去りたいわ」
流琉の罵倒は更に続く。
だが、今の一刀に反論する気力はない。
流琉「あ、そうよ。あなた、風、知らない?」
一刀「い、いや知らないけど…」
なぜ、流琉が風を探しているのか少し気になった一刀であったが、それを問わなかった。否、問う体力が無かった。
流琉「ホントに知らないでしょうね。部屋に連れ込んでんじゃないの?この全身精液孕ませ男」
一刀「は、孕ませてねぇよ!」
膣外に出さない男のいうセリフではない。
流琉「は、どうだか。…もしあなたの子を孕んだりしたら………殺すから」
魏ロリ!
一刀「ひぃぃいいい!!」
流石は武将。流石は親衛隊。纏う殺気の桁が違う。
睨まれた一刀は、本気で怯えている。
流琉「…まぁ、あなたなんかと金輪際、身体を重ねるつもりは一切ないから構わないけどね」
一刀「…マ、マジで?」
それは『魏の種馬』にとって拷問なのであろう。一刀は顔を青くする。
確かに数こそ困っていないが、それでも愛する女性と愛し合えないというのはつらい。
だが……
流琉「マジです」
キッパリと言い放つ。
一刀「は、はは…(これは、夢?夢なら覚めてほしい…)」
そんなことを思う一刀だが、これは紛れなく現実だ。────この世界が現実と呼んでいいのかが疑問であるが……。
流琉「風を知らないんだったら、用はないわ。それじゃ」
そういって、流琉は踵を返す。
一刀「ま、待ってくれ!」
精神的に大打撃を受けた一刀は必至に声を張り上げる。
流琉「………なによ?」
またも邪魔をされた流琉は機嫌が悪いらしく、一刀を睨む。
一刀「ぐ…」
その眼に怯みそうになるが、一刀は諦めない。
一刀「な、なぁ。俺のこと本当はどう思っているんだ?正直に答えて欲しいんだけど…」
聞きたいのであろう、本心を。
────それに対し流琉は。
流琉「…………最悪。迷惑。不愉快。うっとうしい。見たくもない。不快。嫌い。最低。ムカつく。吐き気がする。気持ち悪い。イライラする。目障り。消えてもらいたい。腹立たしい。死んでもらいたい……こんな感じでいい?それともまだ続ける?」
思いつく限りの嫌悪の感情だった。
一刀「…いや、いい、です。もう、やめて、ください……すいませんでした………」
そして彼は瀕死だった。
流琉「そう」
そう一言だけ告げて、彼女は部屋から出て行った。
部屋にいるのは一刀だけになった………
一刀「ふふ……ははは………」
突然、一刀は笑い始めた。
一刀「…………ははははは!……………あーはっはっはっはっはっはっはっはっは!」
壊れてしまった。
────現実に絶望した所為で。
一刀「あははははははははははははははははははははははは!」
この後の一刀がどうなったのか。
────まだ、わからない。
まだだ!まだ、終わらんよ!………多分なぁ!
~あとがき~
どうも、消防車に轢かれて1年経ったつよしです。
説明的な部分が長すぎました。……ごめんなさい。
あと、宇宙人の話いりませんね。(けど、消しませんでした)
結構急いで書いたので、誤字や矛盾、怪しい所があると思います。
その時は報告願います。
ていうか、ここで終わってもいいですよね?
でわでわ~(……ぐぅ)
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なにかが間違っている。そう、何かが…。
『声の脳内補完は絶対ですよ』
1ページが『すごく』縦に長いですが、暖かい目で見てもらえると助かります。
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