「嵐の前の・・・」
ここは、陳留へと至る街道の一つ、そこに何やら賑やかな三人の少女たちがいた。
「あれが陳留か・・・」
「やっと着いたー・・・凪ちゃーん、もう疲れたの」
「いや、沙和・・・これからが本番なんだが・・・」
「もう竹かご売るの、メンドくさーい。真桜ちゃんもメンドいよねぇ」
「そうは言うてもなぁ・・・全部売れへんかったら、せっかくカゴ編んでくれた村の皆に合わせる顔が無いやろ?」
「そうだぞ。せっかくこんな遠くの街まで来たのだから皆で協力してだな・・・」
「うっうー。分かったよぅ・・」
どうやら、陳留にカゴを売りに来たようだ。しかし、メガネの少女は街に入る前からぐずっている。それを顔に傷を持つ少女と刺激的な格好をした少女が諌める。
「最近は何や、立派な州牧様が来たとかで治安も良うなっとるみたいやし、いろんな所から人も来とるからな。気張って売り切らんと」
「・・・・・そうだ!人の多い街なら皆で手分けして売った方が良くないかな?」
「・・・なるほど、一理あるな」
「それじゃ、三人で別れて一番売った奴が勝ちって事でええか?負けた奴は晩飯、おごりやで!」
「分かったの!」
「はぁ、やれやれ、仕方ないな。なら、夕方には門の所に集合だぞ。解散!」
三者三様に街に入っていく、果たしてカゴは売れるのだろうか・・・・
「はいッ!それでは、次の一曲聞いていただきましょう!」
「姉さん、伴奏お願いね」
「は~い」
街の視察に来ていた華琳一行の前で旅芸人の姉妹が歌を歌っていた。
「ほぅ。旅芸人も来ているのか」
秋蘭の言葉に一緒に視察に来ていた・・もとい連行された、政宗が意外そうに尋ねる
「Ah? 別に珍しくもねぇだろ、今までも結構いたしな」
「芸人自体はさして珍しくもないが、あれは南方の歌だろう。南方からの旅人は今まで、こちらには来なかったからな・・・」
秋蘭の答えに納得する。政宗はこちらの音楽には詳しくないが、確かにあの姉妹の歌はここらじゃ聞いたことのないものだ。
「なるほどな・・・。だとすると、俺らの働きで大分、ここらも平和になったって事だな」
「そうね、特に彼女らは、女だけのようだし、余程、武芸に自信があるか、安全な道があるかしないとここまでは来ないでしょうね」
政宗の言葉を華琳が肯定する。ここ、陳留の刺史だけでなく、最近この辺り一帯の州牧となった華琳としては、自分たちの労力が無駄になっていない事がわかるだけでも嬉しいのだろう。
「ありがとうございましたー!」
「次、もう一曲、いってみましょうか!」
旅芸人の歌が一曲終わったところで華琳は顔を引き締める。
「まぁ、腕としては並と言うところね。それより、私たちは旅芸人の演奏を聴きに来たわけではないのよ?」
そうだ、今日は視察に来ているのである。無理やり連れてこられた、政宗としては面倒な事この上ないが、華琳はテキパキと指示を出していく。
「狭い街でも無いし、時間もないわ。手分けして見ていきましょうか・・・・」
「では、私は華琳様と・・・」
「政宗は私についてきなさい」
「What's? なんでだよ?」
「あなたから、目を離すと、どうせサボるか、ろくでもない事しかやらないでしょうからね・・・」
華琳の言葉が図星であったがため、政宗は黙って頷くしかなかった。
「・・・伊達、たまにお前の破天荒ぶりが羨ましく思える。どうしたらそんなに・・・」
「・・・・春蘭、お前も十分、破天荒な部類だよ・・・」
うらめしそうに言う春蘭に頭を押さえつつ返す政宗であった。
「では、華琳様、私は街の右手側を、姉者には左手側を回らせます。それでよろしいですか?」
「問題無いわ。では、突き当りの門の所で落ち合いましょう」
「はっ」
「はぁ・・・」
こうして、政宗は華琳と共に、街の中央を見て回ることになり、逃走のチャンスを逃したのであった。そんな、渋々とついて来る政宗に華琳が聞く。
「もう、諦めなさい、それより、政宗。この辺りを見て、あなたはどう思う?」
「・・・賑わってるな・・」
政宗の適当な答えに、思わずため息をつく華琳。しかし、気を取り直し、もう一度訊ねる。
「そんな事、見れば分かるわよ。もっと他に気付く事は無いのかしら?」
これは、ちゃんと答えないと終わらないパターンだと悟った政宗は、面倒だと思いつつも真面目に答えることにした。
「はぁ・・、じゃあ、言うが。ここらは食材や料理の店が多くあるが、その反面、それらに使うであろう道具屋や、鍛冶屋が極端に少ねぇな。逆にここから、三つ程向こうの通りは鍛冶屋や道具屋なんかしか無ぇ。ようするに俺が言いてのはBalanceが悪いんじゃねぇかと言うことだ」
「あら?随分、真面目に答えてくれたのね・・・。それに三つ先の通りのことも知っていたということは、地図の方もちゃんと読んでいたのかしら・・・?」
真面目な回答に初めは面食らった様子の華琳であったが、すぐにイタズラめいた顔になり、政宗を茶化す。
「なんだよ・・・。真面目に答えちゃ可笑しいか?」
「あら、ごめんなさい。まさか、ちゃんと答えるとは思わなくて、少し意外に思っただけなの。気を悪くしたかしら?」
ムッとして返す政宗に華琳は、微笑みながらそう返す。あまり見せない無邪気な顔に、毒気を抜かれた政宗はもはや怒る気にもなれなかった。そんな二人の耳に威勢の良い声が聞こえる。
「はいッ、よってらっしゃい、見てらっしゃーい!」
猫の額ほどのスペースで、少女が竹かごを売っている。その横に置かれた謎の物体を、食い入るように見つめる背中に華琳と政宗は見覚えがあった。
「おい・・、西海の鬼・・・。何やってんだ?」
「・・・元親?あなた仕事もしないで、何をやっているの?」
そこにいたのは、西海の鬼こと、長曾我部元親であった。大きな体を小さく丸めて、熱心に何かを見ている。
「おお・・・?ってなんだ、あんたらか。いやな、季衣の見回りの手伝いをしていたんだが、面白いモンを見つけてなぁ。まさかこっちの世界でもコレがあるとは思わなくてなぁ、ついつい見入っちまったのよ」
「・・・コレ・・・?」
「やれやれ・・なるほどな・・」
元親の言うコレに、訳が分からないといった様子の華琳と、何かを納得する政宗。その時、カゴ売りの少女が親しげに声を掛けてきた。
「なんやぁ、あんたら、この兄さんの知り合いかいな?この兄さんってば、さっきから、ウチの発明した全自動かご編み装置にメッチャ興味を持ってくれんねん」
「「「全自動かご編み装置?」」」
少女の言葉に三人とも頭に疑問符が浮かぶ。そんな三人を満足気に見る少女は使い方を自慢げに教えてくれる、華琳は少し驚いたように見ているが、残りの二人は特に驚いた様子もなく少女に言う。
「Hey・・。全然、全自動じゃ無ぇじゃねぇか」
「なるほどな・・・こりゃ四国で十年くらい前にはもう出来てたな・・・だとすると、あそこをこうして・・・」
「青い兄さん・・・ツッコミ厳しいな。ここは雰囲気重視っちゅうことで一つ・・・。紫の兄さんは何をぶつぶつ言うてんの?」
政宗の言葉と元親の様子に苦笑いしつつも少女は、絡繰りのハンドルを回し続けている。
「ねぇ・・・?なんだか様子がおかしいけど・・・」
「あ、アカンッ!?ちょっ、皆、離れて!」
異変を感じ取った華琳の言葉で、少女は慌てて三人に避難を促す。
「この絡繰り、まだ試作段階で竹のしなりに強度が追いついてへんのよ・・・、せやから、下手するとコレ、爆発してまうねん!」
煙を吹き出し始めた絡繰りを指して照れたように笑う少女に呆れる華琳と政宗だったが、元親はどこからともなく取り出した工具で絡繰りをいじり出す。
「ちょっと兄さんッ!?危ないってぇッ!」
「まぁ待て、ここをこうして・・・、それをああすりゃ・・・」
突然の行動に唖然とする少女を尻目に、真剣な面持ちで絡繰りに何かをする元親、やがて絡繰りから煙が治まり、正常に動き出す。
「に、兄さん・・・、何をしたん?」
何事も無く動きだした絡繰りに驚きながら元親に訊ねる少女
「ん・・・?いや、なに、俺も絡繰りにはうるさくてな・・・嬢ちゃんの絡繰りに少々細工をしただけさ・・」
事も無しに言う元親に尊敬の眼差しを送る少女、それから始まった濃厚な絡繰りトークに華琳と政宗はついていけずその場を後にするのであった。
視察を済ませて突き当りの門で落ち合った一行だったが、春蘭は大量の衣服をカゴに詰め込み、秋蘭もカゴを持っている。
「なぜ、姉妹揃って竹かごなんて持っているのかしら?」
「実は部屋のカゴの底が抜けておりまして・・・・」
「こ、これは・・・そうッ!季衣の土産です!」
華琳の問いに冷静に返す秋蘭と明らかに動揺している春蘭、怪訝な顔をする華琳であったが、まぁ良いでしょうとカゴに対する疑問を終わらせる。
「カゴや土産も良いけど、本来の目的である街の視察は怠ってはいないでしょうね?」
「はいっ!」
「無論です」
二人の答えに満足し、後で報告書を持ってくるようにと言いつける。もちろん政宗にも。
そんな時であった。
「そこの若いの・・・」
「誰ッ!?」
唐突に声を掛けてくる者がいた。頭巾を目深に被り、その声は、老婆のようにも若い男が無理やり作っているようにも聞こえる。
「何だ?貴様は」
「占い師か・・・」
「華琳様は占いなどお信じにならん、慎め!」
守るように立つ二人の臣下に、控えるように促す華琳。戸惑いながらも二人は従う。それを確認した占い師は話し出した。
「強い相が見えるの・・・希にすら見た事のない、強い強い相じゃ・・・」
「一体、何が見えると?言ってごらんなさい」
占い師の言葉をさらに促す華琳
「力の有る相じゃ・・。兵を従え、智を尊び・・・・。お主が持つは、この国の器を満たし、繁らせ、栄えさせる事の出来る強い相。・・・この国にとって、稀代の名臣となる相じゃ」
「ほほぅ。よく分かっているではないか」
満足気は春蘭だったが、占い師の話はまだ、終わらなかった。
「・・・この国にそれだけの器があれば・・・・じゃがの・・・」
「・・・どういう事だ・・」
意味深な言葉に思わず秋蘭が声を上げる
「お主の力、今の弱った国の器には収まりきらぬ。その野心、留まることを知らず・・・・あふれた野心は国を犯し、野を侵し・・・・いずれ、この国の歴史に名を残すほどの、類い稀なる奸雄となるであろう」
「貴様ッ!華琳様を愚弄する気か・・・!」
激高する秋蘭であったが華琳に諌められる。不服そうな秋蘭の隣で泰然と訊ねる華琳
「そう。乱世においては、奸雄となると・・・?」
「左様、それも、歴史に類を見ない程の・・・」
「・・・ふふ・・・。気に入ったわ。秋蘭、この占い師に謝礼を・・」
奸雄となる。そう予言した占い師に礼をと言う、己の主に唖然としつつ、不服の色を隠さない秋蘭に見切りをつけたのか、政宗に声を掛ける。
「・・・政宗。この占い師の幾ばくかの礼を・・」
「・・・・後でちゃんと返せよ・・・」
金をせびられた政宗は、ちゃんと返金することを確認し占い師の金を渡す。
「乱世の奸雄、大いに結構。その程度の覚悟もないようでは、この乱れた世に覇を唱えることなど出来ない、そういうことでしょう?」
大見栄を切り、この場から立ち去る華琳たち。後を追おうとする政宗に占い師が声を掛ける。
「それから、そこのお主・・」
「Ah? 俺もか?」
「そう、魔の者が滅び、覇の者は倒れた世界で、お主は結局、天道の守護になってしまったな・・・」
占い師の言葉に耳を疑う
「てめぇ・・・何者だ・・・」
「そんなことはどうでもいいじゃろ。竜がこの世界で果たして天道すらも凌駕するのか、はたまた、翼虎に喰らわれるか、それとも、あの娘の覇に準ずるのか・・・どうなるのか、楽しみじゃのう」
不気味な占い師に謝礼を放り投げその場から立ち去る。しかし、占い師の言葉がいつまでも耳から離れない政宗であった。
その夜のこと、とある姉妹の下に、とある本が渡る。これが大乱の産声になることを、まだ、誰も知らない・・・
すいません、少し忙しくて更新が遅れました。
どうでしたか?物語が徐々に動いてきた感が・・・しませんかね?
それでは、ここまで読んで下さった方には最大級の感謝を・・・
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ここ最近忙しくて更新少しばかり遅れました。
また、そこそこのペースで更新できると思います。
それではどうぞ・・・