No.614889

魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第九十三話 運動会、始まります(中学1年生・前編)

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2013-09-01 16:55:45 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:24807   閲覧ユーザー数:22135

 「運・動・会!!!」

 

 声高らかに宣言するのは我が家のアホッ娘(レヴィ)さん。

 

 「ユウ、今失礼な事思わなかった?」

 

 「いや、何も…」

 

 勘が鋭いな。

 

 「レヴィは元気だね」

 

 「そうね。今日は貴女の活躍に期待してるわよレヴィ」

 

 「任せてよ♪」

 

 苦笑するフェイトとレヴィを激励するテレサ。

 その言葉に応えるレヴィはテンションMAXのやる気満々。

 

 「運動会なんて初めての経験だから楽しまないといけないわね」

 

 「???ハラオウンさんは小学校の時に運動会を経験した事が無いので?」

 

 「謙介、リンディさんは小学校には通ってないんだ。家で専属の家庭教師を雇って勉強を見て貰っていたらしいから」

 

 「そうなのかい?勇紀、随分詳しいね」

 

 「本人に聞いたからな《リンディさん、迂闊な発言には気を付けて下さいよ》」

 

 「ええ、以前勇紀君には教えた事があるのよ《ゴメンなさいね♪》」

 

 咄嗟の捏造設定に話を合わせてくれたリンディさん。

 当人は子供の頃から管理局で働いていたらしいからな。

 

 「しかし海中の運動会……一体どんな事をする(・・・・・・・)んだろうね?」

 

 謙介の疑問はもっともだ。

 何故なら運動会にどんな競技があるかなんて一切俺達生徒は知らされていないし、プログラムが載っているボードの類も無い。

 どんな競技があるか知っているのは先生一同と先輩達、それと正門前でプログラムの一覧が載っているパンフレットを貰っていた保護者、一般人の方々だけだ。

 俺達1年生は誰1人として詳細を知らない。

 

 「……何だかスゲー不安になってきた」

 

 「ユウ、まだ始まっても無いのに不安がってもしょうがないよ?」

 

 「レヴィは逆に不安を感じて無さそうだな?」

 

 「何も分からないからって不安がってもしょうが無いじゃん!!僕は思い切り楽しむつもりだし!!だからユウも楽しもうよ!!」

 

 「…それもそうだな」

 

 ついさっきまで不安がっていたのがアホらしくなった。

 レヴィには感謝の意味も込めて頭を撫でてやる。

 

 「にゃっ!!?………えへへ////」

 

 おーおー、目を細めちゃって。

 

 「「「「「「「「「「……………………」」」」」」」」」」

 

 ……何だか凄いプレッシャーが俺に向かって放たれている様な気が。

 プレッシャーの出所はフェイト、リンディさん……それに他のクラスの見知った連中……シュテル達からみたいだ。

 

 「(俺が何やったのさ?)」

 

 心の中で『ハア』と溜め息を吐き、ひとしきり撫でたレヴィの頭の上から手を離す。

 と、同時に先生から声が掛かる。

 遂に海中運動会の開幕だ………。

 

 

 

 開会式、ラジオ体操が終わりそれぞれのチームに分かれる。

 チーム分けは海小の時と同様で各学年の1組(赤組)、2組(白組)、3組(青組)となっている。

 ていうか銀髪トリオが管理局の任務でここにいないからシュテル達は大喜びだ。

 

 「で、最初の競技なんだが…アレを見ろ!!」

 

 俺達1組を統率する3年生の先輩がビシッと指を差すので皆が一斉に振り向く。

 するといつの間にか運動会の運営委員本部があるテントの横に電光掲示板が設置されていた。

 ……全然気付かなかったんだが?

 ていうかラジオ体操の時点では無かったぞ。

 電光掲示板には文字が表示されている。

 

 『400メートルハードル走』

 

 ……まともだ。

 やっぱ俺の不安は杞憂だったのか。

 

 「400メートルハードル……戦争(うんどうかい)最初の競技にしてチームのテンションを上げるには丁度良いな」

 

 ん?

 気のせいか?今、先輩が発音した『運動会』の言葉に違和感を感じたんだけど?

 

 「とりあえず……最初の犠牲者は誰にするか…」

 

 「「「「「「「「「「犠牲者!!?」」」」」」」」」」

 

 俺達1年は声を揃えて大声で言う。

 何だよ犠牲者って!!物騒過ぎるだろ!!

 

 「(やっぱり俺の不安は正しかったのか…)」

 

 嫌な事実に気付いちまったなぁ。

 

 「あの…」

 

 控えめに手を上げながらフェイトが先輩に質問する。

 

 「何で400メートルハードル走で犠牲者が出るのですか?」

 

 「良い質問だテスタロッサ嬢。それは今から行われるのが『戦争(うんどうかい)』だからだ」

 

 「「「「「「「「「「いや!!意味分かんねーし!!」」」」」」」」」」

 

 運動会だから犠牲者出るってどんだけ怪しい競技なんだこの400メートルハードル走は!?

 

 「まあ、その意味は競技が始まれば分かる。とりあえず…お前、行ってみ」

 

 「僕ですか!?」

 

 先輩が指差した先にいたのは謙介。

 

 「ていうか出場選手勝手に決めていいの?」

 

 レヴィが先輩に尋ねる。

 

 「海中の戦争(うんどうかい)は自薦、他薦で決めるんだよレヴィ嬢。出場選手の出場回数や学年別といった制限は基本無い」

 

 ふむふむ。

 例えばレヴィが『全部出たい』と言って他に立候補者がいなければ全競技に出る事も可能なのか。しかも同じ競技に何回も出場するのもありらしい。体力が続くなら…だが。

 

 「じゃあ僕出ようか?謙介、出るの嫌そうな顔してるし」

 

 「いや…レヴィ嬢も最初は見ておけ。海中の戦争(うんどうかい)がどんなものなのかを」

 

 「えー…」

 

 先輩に止められ、やや不満そうだ。

 

 「じゃあ僕は辞退しm「お前は逝け」……そんなぁ」

 

 謙介には辞退すら許されない様だ。しかも『行く』の字が違う。

 本人の意見を反映させる事無く400メートルハードル走の第1走者が決まった瞬間だった。

 

 「ていうか400メートルハードル走って事はトラックを2周しなけりゃいけないんだよな」

 

 海中のトラックは1周200メートル。

 

 「馬鹿を言うな長谷川少年。400メートルハードル走は直線コース(・・・・・)で行われるぞ」

 

 「はい?」

 

 直線って……無理でしょ?

 海中のグラウンドを端から端まで測っても400メートルは無いぞ?

 

 「まあ見とれ………ほら、校長が準備をするぞ」

 

 先輩の言葉を聞いて俺達は運営本部にいる校長に注目する。

 校長は学校の校舎に向かって何かを向けている。

 

 「あれって……リモコン?」

 

 フェイトが言う様に校長の手にあるのはリモコン。

 俺達が首を傾げていると校長がリモコンのボタンを押したみたいだ。

 

 ピッ

 

 ボタンを押し、数秒経つと

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ…

 

 何やら地鳴りが鳴る。

 何だ?何なんだこの地鳴りは?

 

 「っ!!見てユウ!!校舎が地面に埋まっていくよ!!」

 

 「は?」

 

 『何言ってんだ?』と思いつつレヴィが指差してる校舎を見ると

 

 ズズズズズズズズ…

 

 レヴィの言う通りに校舎が沈んでいく(・・・・・・・・)

 いや、校舎だけじゃなく体育館や倉庫も一緒にだ。

 

 「「「「「「「「「「はあああああぁぁぁぁぁっっっっ!!!?」」」」」」」」」」

 

 大声を出した後、俺達1年は口を開けたまま固まっている。

 何この機能!?

 何で校舎が地面に沈むんだよ!!?

 

 「戦争(うんどうかい)では広い敷地がいるからな。周りを見てみろ。周囲の家も何軒か沈んでるだろ?」

 

 言われて辺りを見渡すと学校の塀と周囲の家が確かに無くなっていた。

 

 「この辺りの土地は校長の物らしいからな。やりたい放題って訳だ」

 

 いや、やり過ぎだろ!!秘密基地じゃねえんだからこんな機能いらねえだろ!!

 そもそも他人の家も巻き込んでるじゃねえか!!地下に家が潜って電気とか水道はちゃんと通るのか!!?

 

 「その辺りは俺に言われてもな…。校長曰くでは『話はついている』との事らしいから大丈夫だろ」

 

 ……何て非常識な。

 俺がそんな事を思っている間に沈んだ校舎や家はいつの間にかグラウンドと同じ砂地になってるし。

 体育委員や先生がコースのライン引きやハードルを設置していく。この変化に全く気にした様子が無さそうだ。もう慣れたって事か?

 ますます混沌(カオス)だな海中よ………。

 

 

 

 「位置について…」

 

 スタートラインに並んだ謙介。

 白組、青組の走者はお互い2年生の先輩だ。

 果たしてどんな結果になるのやら…。

 

 「よーい……」

 

 パアンッ

 

 始まった!!

 

 「だあああああぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!」

 

 全力で走る謙介。

 2年生の先輩よりも前に出る。出だしは良い感じだ。そして1つ目のハードルを飛び越えた。

 

 「このままトップを…」

 

 パカラッ…パカラッ…

 

 謙介の言葉は最後まで続かなかった。

 白組の先輩はあろう事か馬に乗って(・・・・・)競技に参加してたのだ。

 …あの馬、スタート時点ではいなかったんだが、いつの間に?

 

 「(……まさか召喚魔法?)」

 

 ……はは、んな訳無いか。

 って、問題はそこじゃねえ!!

 

 「何で馬に乗ってんのあの人!!?」

 

 訳ワカメなんだけど!?

 てか反則だろ!!?あんなんで勝っても失格確定じゃん!!

 

 「ぐはははは…ウィグル先生直伝『蒙古覇極道』!!」

 

 ボゴオン!!!

 

 「「「「「「「「「「えええええええええっっっっっっっ!!!!?」」」」」」」」」」

 

 青組の先輩は何とショルダータックルでハードルそのものを粉砕した。

 これもルール違反じゃねえか!!跳び越えろよ!!

 

 「くっくっく……食らえい!!」

 

 「っ!?避けろ謙介!!」

 

 「え?…たわば!!」

 

 青組の先輩…粉砕したハードルの破片を拾い、謙介に向かって投げつけた。

 俺が声を出し、振り返った謙介の顔面にハードルの破片が直撃する。

 謙介はそのまま仰向けに倒れ、気を失った。

 

 「ゴーーーーール!!!!」

 

 そんな声が聞こえてきたのでゴールの場所を見ると1位の旗を掲げて白組にアピールする先輩。

 それからしばらくして青組の先輩がゴールし、謙介は途中で走れなくなったので失格扱いに。

 これは抗議せなアカンな。

 俺は早速運営本部へ向かう。

 途中で白組、青組からも誰かが出て来た。

 はやてとアリサだ。

 

 「2人共、抗議か?」

 

 「「そうよ(せや)」」

 

 俺の問いに頷く。

 そして運営本部にいる校長先生の元へ。

 

 「「「校長先生!!アレは一体何なんですか!?」」」

 

 「アレ?一体何の事かね?」

 

 「「「さっきの400メートルハードル走の事です!!」」」

 

 「???何か問題でも?」

 

 「大ありです!!どう見ても反則でしょう!!」

 

 「ハードルを壊して破片を投げつけるわ、馬に乗って参加してるわ…」

 

 「正直、あんなメチャクチャなやり方で勝っても嬉しくも何ともないです!!」

 

 俺、アリサ、はやてが口々に抗議する。

 

 「別に問題は無いが?」

 

 「「「だから大ありです!!」」」

 

 本気で言ってんのかこの人は?

 

 「しかしこれが海中の戦争(うんどうかい)なのだ」

 

 当然の様に言う校長先生。

 

 「というか毎年1年生相手にこの質疑応答する事が最早恒例になってるから今年も言っておこう」

 

 そういって校長先生は胸ポケットから取り出したメモ帳の空きページに何か書き始めた。

 

 「………よし、お前達はこの文字が何て読むか分かるか?」

 

 そこには漢字が二文字…『戦争』と書かれていた。

 

 「『せんそう』ですよね?」

 

 「うむ。そして海中では『戦争』と書いて『うんどうかい』と読むのだよ」

 

 「「「はあ…」」」

 

 だから何なんだ?

 

 「『せんそう』にルールなんて必要か?『こうやって決着を付けよう』とか『一騎打ちにしましょう』とか……答えは『否』だ!『せんそう』には卑怯もクソも無い。勝てばいいのだ勝てば。結果こそが全て!過程等どうでも良い!!正々堂々?そんな言葉はドブにでも捨ててしまえ」

 

 マイクを握り力説する校長先生。全校生徒や応援に来た保護者に聞こえる様にハッキリと言っちゃった。

 

 「つまり海中の運動会には優勝するためならあらゆる手段を用いる事が許されるんだ。理解出来たかい?だから先程の他チーム生徒への攻撃や乗馬なども問題無い行為と言う訳だよ」

 

 校長先生の隣にいた教頭先生が補足する。

 

 「「「無茶苦茶だな(無茶苦茶ね)(無茶苦茶やね)」」」

 

 俺、アリサ、はやてが嘆息する。

 その後、自分のクラスに戻ると第2走者が決まっていた様だった。今度は3年生の先輩だ。

 

 「ん?戻ったか長谷川少年」

 

 「はい。………無茶苦茶ッスねウチの運動会って」

 

 「慣れれば意外に楽しいぞ」

 

 そんな楽しみは覚えたくは無いなあ。

 正々堂々と戦ってこそなんぼだろ。

 スタートラインに着いた第2走者を見る。

 我等が赤組の先輩は運動靴に加え、ローラースケートを装着していた。

 

 「……上手く跳べるのか?」

 

 「愚問だな長谷川少年。彼は『ローラースケートをこよなく愛する部』の部長だぞ。ローラースケートを履きながら跳ぶなんて朝飯前だ」

 

 そんな部活ありましたっけ?

 相変わらずこの学校の全てを把握する事は難しい。

 そして第2レースが始まる。

 トップは赤組…俺達の先輩が凄まじい勢いで駆け、ハードルを跳び越える。

 

 「どすこーい!!」

 

 ボゴオン!!!

 

 白組の走者は相撲部の先輩っぽい。張り手でハードルを潰しながらゆっくりと進む。

 青組の走者はスライディングでハードルの下を潜り抜けて前へ進む。

 …だからちゃんとハードル跳び越えて進めよ。

 

 パアンッ!

 

 「ぐはっ!」

 

 突然音が響いたかと思うと先頭を怒涛の勢いで進んでいた先輩が倒れた。

 

 パアンッ!

 

 「あばっ!?」

 

 続いて相撲部の先輩もゆっくりと身体が傾いていき、うつ伏せで地に伏す。

 

 「っ!!しまった!!狙撃兵か!」

 

 「「「「「「「「「「狙撃兵!!?」」」」」」」」」」

 

 そこまでやって勝ちにいくのか!!?

 

 「ああ、俺達の同学年に『狙撃で撃ち抜いて快感を感じる部』の部長を務めている男がいる。ソイツの名は『ミハエル・ブラン』っつー留学生で『ミシェル』の愛称で呼ばれてんだ。奴は3組だった筈だ」

 

 ……その人、スカル小隊に所属してる少尉さんじゃないよな?

 

 「しかし困ったな。おそらくゴム製の銃弾だろうが狙撃されてはコッチは一方的に不利だ」

 

 「ていうか何処から狙撃してるのかしら?」

 

 リンディさんが疑問に思う。

 

 「同じチームの応援席からじゃないですか?」

 

 「でもそれらしい銃を持ってる人なんていないよ?」

 

 少なくとも見える範囲にはいないな。

 

 「去年同様の場所から狙撃したとしたら……あそこの屋上だな」

 

 先輩が指差したのは一つの高層ビル。

 

 「あそこの屋上から…ですか?」

 

 「おう!ミシェルの狙撃可能な最大射程距離は300メートルだと本人が言ってたからな」

 

 確かにあのビルの屋上からこのグラウンドまでの直線距離はそれぐらいありそうだけど。

 

 「…寸分違わずターゲットを狙うとはプロじゃん」

 

 ゴムの銃弾をここまで飛ばせるその腕前には称賛すべきものがある。管理局に一流の狙撃兵としてスカウト出来るんじゃないだろうか?

 

 「どちらにせよ狙撃兵はどうにか出来ないかしら?」

 

 「今からあのビルの屋上まで向かうのは?」

 

 テレサとフェイトが唸りながら言う。

 ていうかあのビルは学校の外なんだから治外法権じゃん。

 狙撃なんてしてたら普通に捕まるぞ。

 

 「ビルに近付くまでに狙撃されてやられるのがオチだ。止めとけ」

 

 …ホント、どうしよう?このままだと青組が超有利過ぎる。

 堂々と魔法が使えるなら逆にここからアポロンで黙らせる事が出来るんだが…。

 

 「あっ、次の走者はどうしましょうか?」

 

 「誰か出たい奴は?」

 

 シ-ン……

 

 だよねー。狙撃されるのが分かってて出たい奴なんていないよね。

 

 「相手の走者は……アリシアとディアーチェか」

 

 まさかの顔見知り達だった。青組のディアーチェはともかく、アリシアは狙撃が怖くないのかねぇ?

 

 「成る程…そういう事か」

 

 先輩は1人頷いている。

 

 「何が『成る程』なんですか?」

 

 「ミシェルの奴は女に手荒な事は絶対にしない奴だ。だから白組は女生徒を選手として出してきたのだろう」

 

 「ならこっちも女子で参加させれば…」

 

 「狙撃はされなくて済むって事だ」

 

 じゃあ女子を代表として参加させないと。

 問題は誰を参加させるかだが…。

 

 「あの……私が行こうか?」

 

 フェイトが遠慮がちに手を上げて立候補し、皆の視線がフェイトに集まる。

 

 「テスタロッサ嬢…勝てる自信は?」

 

 「狙撃の妨害が無いんだったら自信はあるよ」

 

 確かに君は足速いもんね。戦闘スタイルもスピード重視だし。

 

 「よし、テスタロッサ嬢に任せる」

 

 先輩の一声で俺達の代表選手はフェイトに決定し、当人はゆっくりグラウンドへ向かう。

 

 「あれ?フェイトが来たんだ?」

 

 「ふん!テスタロッサ姉妹まとめて我が前に屈服させてやるぞ」

 

 「負けないよ姉さん、ディアーチェ」

 

 やる気に満ちているねぇ3人共。

 それぞれスタートラインに横一直線に並び

 

 「位置について…よーい……」

 

 パアンッ

 

 一斉に3人は走り出す。

 今の所は横並びでハードルを次々と跳び越え、狙撃の妨害も無いまま丁度半分…200メートルを過ぎた頃だ。

 

 「おお!先輩の予想通りだ!狙撃の妨害は無い!!」

 

 後はフェイトが1位を取ってくれる事を願うだけ。

 そんな矢先に悲劇が起きた。

 

 パアンッ!…パアンッ!…

 

 「あぐっ!?」

 

 「みぎゃっ!?」

 

 フェイトとアリシアが狙撃された(・・・・・)のだ!

 

 「「「「「「「「「「テスタロッサさーーーーーーん!!!?」」」」」」」」」」

 

 赤組と白組の男子達が叫ぶ。

 

 「ちょ!?先輩どういう事ッスか!?狙撃されましたよ!!?」

 

 「俺とした事が迂闊だった!おそらく狙撃したのはミシェルじゃねぇ。『狙撃で撃ち抜いて快感を感じる部』顧問の『デューク東郷』先生だ!!顧問も狙撃兵としてスタンバっているとは予想外だった!!」

 

 顧問まで妨害工作に手を貸すのかよ!!!

 しかも『デューク東郷』ってアレか!?『ゴルゴ13』の御方か!?とんでもない先生がいるなこの学校は!!最早世紀末だけじゃねえ!!

 先輩が後悔し、表情を歪ませている間にディアーチェはゴールしたが、アイツの表情を見ると今回の結果に満足いってなさそうだな。

 

 「くっ…この様な事をせずとも我ならあの2人に勝てたのだ」

 

 おーおー、愚痴ってる愚痴ってる。

 それはそうとコース上で倒れたままの状態になっているフェイトとアリシア。

 どうしたんだろ?起き上がれないのか?

 

 「《フェイト、いつまで寝てるんだよ?》」

 

 「《うう…起き上がれないんだよ》」

 

 起き上がれないって…。

 ……さっきの銃弾に痺れ薬でも塗られていたのか?

 仕方ない。このまま寝かせていたら次の走者の邪魔になる。

 俺はグラウンド内にるフェイトを回収するため近付く。

 

 「フェイト…起こせば自分で歩けるか?」

 

 「……………………」(フルフル)

 

 力無く首を左右に振る。

 まあ、そうですよね。

 

 「んじゃあ、ちょいと失礼…」

 

 「っ!?」

 

 うつ伏せで倒れていたフェイトを仰向けにしてお姫様抱っこで持ち上げる。

 見た目の割に軽いねこの子。運ぶのが楽でいいけど。

 

 「《ななな、何してるの!!!?》////////」

 

 「《いや…いつまでも放置してたら次の走者の邪魔になるだろ?》」

 

 もしかしてあそこで寝ていたかったのか?

 …んな訳ねーか。

 顔が赤いって事は人前でお姫様抱っこされてるのを見られるのが恥ずかしいってとこだろうな。

 

 「《んー、おんぶで運んだ方が良かったか?》」

 

 「《そ、そんな事無いよ!!このままでお願いします!!》////////」

 

 「《そ、そうですか…》」

 

 そこまで力強く言わんでも。

 

 「《うー…フェイトだけズルい。勇紀ー、私も運んでー》」

 

 未だに倒れているアリシアからも念話が飛んできた。

 

 「《心配しなくても俺の代わりが向こうから来るじゃないか》」

 

 「《え?》」

 

 「アリシアアアアアアァァァァァァァァァァッッッッッッッ!!!!!!!!!!フェイトオオオオオオオオオォォォォォォォォッッッッッッッ!!!!!!!」

 

 砂塵を巻き起こし近付いてくるのは自分の娘達と同い年にまで若返ったプレシアさんである。

 

 「2人共大丈夫!!?ああ、何てこと……私が付いていながらアリシアとフェイトがこんな目に…」

 

 プレシアさんの慌てっぷりは半端無いな。

 まあ、愛娘が揃って狙撃されたもんなぁ。

 あ、ちなみにプレシアさんの学校での立場は『フェイトとアリシアの従姉妹』という事になってるよ。流石に姉妹はキツ過ぎるからな。1人だけ髪の色が黒色だし。

 

 「許せない…許せないわ!!一体何の恨みがあって2人にこんな事を!!」

 

 「プレシアさんプレシアさん、とりあえずこの場を離れましょう。あそこからまた狙われるかもしれませんから」

 

 俺は狙撃兵達がいるらしいビルを指して言う。

 

 「そう……アソコニコンナコトヲシデカシタクズドモガイルノネ」

 

 「《お…お母さん?》」

 

 地の底から響く様な低い声を発し、光の消えた瞳でビルを見るプレシアさん。

 ……あるぇ~?

 もしかして俺、やっちゃった?

 

 「アリシアヲアンゼンナバショニハコンダラ……ウフ、ウフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ」

 

 「《勇紀助けて!!お母さんが、お母さんが怖すぎるんだけど!!?》」

 

 確かに怖いね今のプレシアさんは。フェイトは震え、アリシアは涙目だ。

 そんなフェイトを俺が、アリシアをプレシアさんが救護テントまで運ぶ。

 プレシアさんは何やら用事があるらしく俺に2人の看病を任せて一足先に去って行った。

 それから数十秒後にとあるビルの屋上に謎の雷が落ちたとか。

 ……俺知ーらね。

 そうだ、これは正々堂々と競い合ってる人達を狙撃をした連中が悪い。天罰が落ちたんだ。

 この一件以降、400メートルハードル走では狙撃される事無く順調に競技が行われた………。

 

 

 

 「さて…次の競技だが……」

 

 あれからフェイトとアリシアの体調も戻り、俺とフェイトは赤組の皆がいる場所まで戻って来た。ただ、戻って来た時に、レヴィとリンディさんにメチャクチャ睨まれたけど。

 先輩はそんな事気にせず皆に次の競技について意識を向けさせる。

 電光掲示板には『闘球』と表示されていた。

 

 「競技名は『闘球(ドッヂボール)』だ」

 

 ドッヂボール……ねぇ。

 

 「ルールは皆も良く知るドッヂボールと同じだ。各チームの代表者を7人選抜し、内野4人、外野3人の状態から始まる。1試合の制限時間は10分」

 

 ふむふむ。

 

 「それと普通のドッヂボールと違って一度ボールに当たって外野にいけば例え相手の内野に当てたとしても復活は出来ないからそこん所は頭に入れておいてくれ」

 

 成る程。一度当たれば復活は無しって事か。

 

 「あと、顔面や急所への攻撃も許されるからソコを重点的に狙うのもありだ。特に男子に対してチ〇コへの攻撃は……な」

 

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべて先輩は言うが男子生徒一同は内股になり、男の象徴とも言える部分を手で押さえる。

 てかもうちょっとオブラートに言葉を包めよ先輩。ダイレクトにチ〇コって言っちゃってるよ。

 

 「わわ…!!大変だ!!ユウが不能になっちゃうよ!!男として終わっちゃうよ!!(ソレは困るよ!!)//」

 

 「おいレヴィ!!その言葉は流石に心にグサッてくるぞ!!」

 

 ていうか不能とか言うなや。

 

 「だ、大丈夫だよ!!勇紀は私がちゃんと守ってみせるから!!勇紀は心配しなくていいよ!!(しょ、将来結婚しても使えないなんて事になってたら…)//」

 

 「あらあら…(もしそうなったら非常に由々しき事態よね)//」

 

 「いやいやいや!!俺ドッヂボールに参加するなんて一言も言ってないから!!」

 

 あとレヴィにフェイト、リンディさんや。チラチラと人の下半身見るなや。アンタ等に心配される必要は無いんだけど!?

 

 「ん?長谷川少年は参加決定だぞ?」

 

 「何で!!?」

 

 「男が参加したらチ〇コ狙われるじゃないか」

 

 「俺も男なんですけど!!?」

 

 容姿だって普通に男だよ!!女子っぽく見える『男の娘』要素なんてこれっぽっちも無いよ!!

 

 「大丈夫だ。もし戦場で死んだら骨ぐらいは拾ってやる。後、医者も紹介してやる」

 

 先輩いいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっっっっっっっっ!!!?

 

 「じゃあ残りの面子も決めるぞー」

 

 俺の抗議を無視して先輩は他の皆に声を掛ける。

 

 「あっはっは…大変だね勇紀。まあ頑張って生き残れ」

 

 他人事だからってお笑いする謙介に殺意を抱く。

 それからは運動神経の良い女子を中心にメンバーが選出され、赤組代表で男子は俺だけだった………。

 

 

 

 「死ねえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっっ!!!!長谷川あああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!!」

 

 「危なっ!!?」

 

 俺はコート内で必死にボールを避ける。

 現在、グラウンドでは赤組と白組との激戦が繰り広げられている。

 

 「クソ!すばしっこい猿野郎め!!」

 

 「いい加減当たれやオラ!!!」

 

 「テメエ1人だけ男の代表で良い思いしやがって!!!ハーレム築けて幸せかコンチクショーーーーーーーーー!!!!!」

 

 「普通のヒットだけじゃ我慢出来ねえ!!!顔面だ!!顔面を狙って行け!!!!」

 

 「馬鹿!!!チ〇コ狙え!!!将来、役に立たねえようにしてやれ!!!」

 

 「「「「任務了解!!!!」」」」

 

 了解じゃねえよ!!!俺だっていたくてこの場にいる訳じゃねえんだよ!!!

 

 「くらいやがれ!!」

 

 「させないよ!!」

 

 俺を狙ってきたボールを避けようとするとレヴィが割り込み、キャッチする。

 すかさず、相手に向かって投げ返す。

 

 バシイッ!!!

 

 「ぐはっ!!」

 

 わ、顔面直撃だ。痛そうだなぁ。

 相手の男子はそのままうつ伏せで倒れ、仲間の選手によって外野へ引き摺られていく。

 

 俺達赤組は誰1人ヒットしておらず、白組はシュテル、亮太の2人になっていた。

 コート内のボールを亮太が拾う。

 

 「勇紀、君相当皆に恨まれてるね」

 

 「俺には何一つとして非は無いんだけどな」

 

 全ては代表に選んだ先輩が悪いと思う。

 

 「まあ、僕は別に恨んではいないから安心してくれていいよ。けど勝負である以上は非情に徹して全力で君に挑むけどね」

 

 いやいや、理不尽な恨みを抱いてくれていない分だけで充分ですよ亮太君。

 

 「せいっ!!!」

 

 助走をつけ、ラインギリギリの位置からボールを投げてくる。

 球速もなかなかのもので武装色の覇気というオマケ付きだ。

 …………ん?

 

 「って、覇気いいいいぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっっっっ!!!?」

 

 ゴオオオオオオッッッッッ!!!!

 

 凄まじい勢いでボールが向かってくる。

 慌てて避けたため、バランスを崩して俺は転倒する。

 

 「へ?……………うわああああああらばっ!!!」

 

 さっきまで俺を狙いまくっていた外野の男子生徒の一人が顔面でボールを受ける。

 が、ボールの勢いを止められず、そのまま吹き飛ばされ、何度か地面にバウンドしてようやく止まる。

 

 ピクッ…ピクピクッ…

 

 今の一撃で虫の息と化した男子生徒は保健委員によってタンカに担がれ、退場する。

 

 「亮太、流石にやり過ぎでは?」

 

 シュテルも呆れてるし。

 

 「うーん…けど、彼は勇紀を亡き者にしようと率先してた人物だし……勇紀の下半身を集中して狙ってたからね。もし勇紀が不能になったらシュテルさんも困るでしょ?」(ボソボソ)

 

 「あれぐらいの球を受け取れない彼の自業自得ですね。亮太に非はありません!(そうですね!ユウキの貞操は将来私が貰うまで死守しなければ!!)//」

 

 途中から亮太が何を言ったのか聞き取れなかったがシュテルのあの態度の変わり様は一体何だ?

 心配したかと思ったら突然突き放すなんて……タンカで運ばれた彼は可哀相だな。

 

 「しかし覇気は控えて下さい。万が一ユウキのあ、あそこに当たったら大変な事になります////」

 

 …おい、顔赤らめて何言ってんだお前は。

 

 「(…コイツ等も思春期って事か?)」

 

 異性の身体に興味持つのは分からなくもないけどチラチラと盗み見る様に視線を向けてくるのは勘弁願いたい。俺が恥ずかしい思いをしてしまう。

 そういうのは好きな人のモノに向けておいて下さい。

 

 「しょうがない。覇気は控えるよ。普通の全力でいくとしよう」

 

 「そうして下さい」(パシッ)

 

 外野からのボールをシュテルが受け取る。

 

 「残り時間が少ない上に7対2…ですか。しかしまだ逆転は可能ですね」

 

 シュテルが不敵な笑みを浮かべる。

 

 「ユウキ、レヴィ。ここからは私も全力全開でいかせて頂きます。覚悟して下さい」

 

 シュテルから凄まじい気迫が放たれる。

 

 「シュテル!!全力全開は私専用の台詞だよ!?」

 

 白組の応援席からなのはが何か言ってるがシュテルの耳には届いていない。それほどコチラに集中しているのだ。

 

 「この一撃に…私の魂を込めます!!」

 

 「まさか!!シュテるんはあの技を!?」

 

 「『あの技』?何か知ってるのかレヴィ?」

 

 ボールを真上に投げ、自らも高く跳躍したシュテル。普通の人間では飛び上がれない程の跳躍に対して誰も突っ込まないのは何故?

 そして、その様を見たレヴィは驚愕の表情で目を見開く。

 一体どんな技だというのか?

 

 「いきます!!!!」

 

 そしてシュテルは空中で思いきりボールを………

 

 ドゴオッ!!!

 

 蹴った。

 

 「あれこそシュテるんのドッヂボール専用必殺技!!その名も……『星光裂蹴拳』!!!」

 

 「何その技名!?」

 

 裂蹴拳って…『どこの元霊界探偵だ!!』と突っ込みたい。

 

 「レヴィ、勝手に技名を付けないで下さい」

 

 ゆっくりと地面に向かって落下しながらシュテルが言う。

 …お前が命名したのかよ。

 

 「まあまあユウ。そんな事より凄い球速だよ」

 

 「そうだな。回避回避ー」

 

 俺は指示を飛ばすが

 

 バシッ!!

 

 「きゃっ!?」

 

 バシッ!!

 

 「痛っ!?」

 

 ボールは俺とレヴィの前にいる1人の女子生徒に直撃し、そのまま弾かれたボールがもう1人の女子生徒に当たる。

 まさかのダブルヒット。そしてボールはそのまま外野が捕球し、再びシュテルにパスが回される。

 

 「どうですかユウキ?これが私の全力です」

 

 「うん、正直凄いと思う。けどな……ドッヂボールなのにボールを蹴る(・・・・・・)のは反則じゃね?」

 

 サッカーじゃないんだよサッカーじゃ。

 

 「今更何言ってるんだい勇紀?校長先生も言ってたじゃないか。『勝つためなら何してもいい』って」

 

 亮太の冷静な返答で俺は不本意ながら納得せざるを得なかった。

 そうでしたね。これは戦争なんですよね。

 

 「そういう事です。と言う訳で再びいかせて貰います」

 

 シュテルがボールを真上に…

 

 「させるかあっ!!?」

 

 「っ!!?」

 

 真上に投げたボールをレヴィが跳躍し、奪い取ろうとする。

 一歩遅れてシュテルも飛び上がるがレヴィの方が僅かに速い。

 …だから少しは身体能力を自重しろお前等。

 2人はそのまま空中で跳び蹴りの体勢になりお互いの身体が交差し、すれ違う瞬間

 

 「だあああぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!」

 

 「はあああぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!」

 

 レヴィは蹴り、シュテルは突きの連打を放つ。

 ……あれってケンシロウの『北斗飛衛拳』とシンの『南斗獄屠拳』じゃね?何であの2人が使えるんだ?

 ……偶々だよな?お互い秘孔を狙い合ってはいなかった。純粋に蹴りと突きの連打だったし。

 

 スタッ…スタッ…

 

 そのまま2人はボールを取らず、相手のコート内に降り立つ。

 で、お互いに向き合う。

 

 「「……………………」」

 

 そのまま重力に引かれ、落ちてきたボールは亮太が取る。それと同時に

 

 「「…………ううっ」」

 

 ドサッ…ドサッ…

 

 同時に崩れ落ちる。

 

 「不覚だよ……シュテるんにクロスレンジで相討ちなんて…」

 

 「私としては一方的に潰すつもりでいったんですが…」

 

 「ていうかドッヂボールをやれよお前等」

 

 俺は呆れるしかなかった。

 他の生徒や教師、保護者や一般客の方々は歓声を上げている。

 解せぬ。まずは色々と突っ込み所があるのにまるで気にしていない様だ。面白く盛り上がればどうでも良いのだろうか?

 

 「ゆ、ユウキ…」

 

 「ん?」

 

 俺の足元まで息も絶え絶えといった感じでシュテルが身体を引き摺って近付いて来た。

 

 「私はもうクタクタです」

 

 「そうだな。それは見たら分かる」

 

 「もう立ち上がる力すら残ってないんです」

 

 「それで?」

 

 「わ、私もフェイトみたいに運んでくれませんか?////」

 

 「………………ハア」

 

 ちゃんとドッヂボールをやってたらそんな目に遭わずに済むんだがなぁ。

 けどこのまま家族を見捨てる訳にもいかんので俺はシュテルを抱き上げる。

 

 「とりあえず運んでやるからジッとしてろよ」

 

 「////////」(コクコクコク)

 

 「シュテるんズルい!!ユウ、僕も僕も!!」

 

 「はいはい、少し待ってろ」

 

 パコン

 

 「いてっ!」

 

 シュテルをお姫様抱っこして持ち上げた瞬間、俺の後頭部に何かが当たる。

 振り向いた先には何かを投げたポーズを取っている亮太。で、俺の足元にはコロコロと転がるボールが。

 

 「勇紀、まだ試合は終了してないんだよ」

 

 制限時間は丁度1分を切ったところだった。

 …………うん、普通に試合はもう終わったもんだと勘違いしてたよ。

 

 「……とりあえず外野にいかないと」

 

 シュテルは……どうしよう?

 

 「私の事ならご心配なさらず……このまま外野に行ってくれればいいですよ////」

 

 つまりお前は試合が終わるまでこのまま抱き抱えていろと?

 

 「これも鍛錬だと思えば良いじゃないですか////」

 

 「鍛錬って…」

 

 一体何の?

 

 「シュテるん甘え過ぎだよ!!自重しなよ!!」

 

 未だに倒れたままのレヴィが俺達を見て叫ぶ。

 

 「無理ですよ。レヴィの攻撃が凄過ぎたせいで私はもう動く事すらままならないんです////」

 

 そう言って俺の首に手を回してくるシュテル。『離すまいか』っていうぐらいに力強くしがみつく。

 …お前まだまだ元気あるじゃねーか。

 

 「ううううう……ユウ!!シュテるんなんか突き落としちゃえ!!」

 

 コイツはコイツで超お冠だし。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 そしてコッチに向かって飛んでくる殺気の篭もった数々の視線。

 特に顔見知りの女性陣から飛んでくるものは段違いにキツい。

 

 「ハア…(…俺は無罪だ)」

 

 とりあえず一旦コート外に出てシュテルを置いてからコート内のレヴィを抱え上げ、再びコート外に出てシュテルの横に並ばせる。

 それから試合は再開される。

 白組は亮太1人で奮闘するも1分以内で全員当てる事は叶わず、結果は3対1で俺達赤組が勝利した。

 ……実際にはレヴィは当てられていないから4対1なんだけどね………。

 

 

 

 ~~あとがき~~

 

 ちょっと長くなったので前後編に分けます。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
29
11

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択