No.607728

第1話「あ、あの・・・女子公式野球部の監督になって下さい!!」

虎命!さん

これは、プロの球団から戦力外になった1人の選手のお話。

2013-08-11 18:06:55 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:5622   閲覧ユーザー数:5434

俺の名前は森本飛憲。つい先日までプロ野球選手だった。しかし、ここ数年結果が残せずそして球団から通知された戦力外通告。球団オーナーも社長も我慢してくれていた。

 

オーナー「森本君・・・我が球団も君の復帰に大いに期待した。しかし、その肩はまだ治らない。」

 

社長「我々も、色々サポートしてきたが、これ以上君を置いておくのもね。」

 

森本「そうですか・・・」

 

それもその筈だ。俺はここ数年守備は勿論、打席にすら満足に立ててない。数年前に肩を痛めてから、バッティングにまで影響が出ていた。そうなると、目に見えるように成績は下がり二軍暮らしが続いた。オーナーと社長の判断は当然である。

 

オーナー「そこでだ、森本君・・・出来れば来年はうちのチームのバッティングコーチをお願いしたい。」

 

社長「既に監督には伝えて了承をもらっている。どうかな?君さえ良ければ・・・だが。」

 

精一杯の配慮をしてくれるオーナーと社長。しかし、俺はどうしてもまだ野球をしたかった。

 

森本「せっかくですが・・・俺はトライアウトを受けるつもりです。まだ引退と言う2文字は納得出来なくて・・・それでもし、オーナーや社長が来年も読んで頂けるなら、その時は喜んでコーチのお話をお引き受けします。それでは。」

 

俺はオーナー達に一礼をして部屋を後にした。そして、トライアウトまで俺は出来る限りの練習をした。球団の仲間も手伝ってくれた。そして、迎えたトライアウト当日。

 

審判「それではトライアウトを始めます。」

 

いよいよ始まった。ルールはいたってシンプル、打者は4打席立って投手4人と勝負。投手は打者4人と勝負。お互いもう後がないから当然だが真剣勝負。そして、俺の打席を迎えた。相手は去年二桁勝利をしている投手。今年は思うように成績が残せず戦力外になった。

 

森本(この投手はスライダーが武器だったな。それを上手く叩ければ・・・)

 

俺の読み道理スライダーを決め球に投げてきた。それを上手く救い上げライトスタンドに放り込んだ。続く残りの3打席は凡退。

 

森本(・・・顔を上げろ!!やれることはやった。悔いはない!!後は球団からの連絡を待つだけだ。)

 

トライアウトは終了した。後は1週間以内に連絡がくる。連絡がくれば当然その球団にお世話になるのだが、こなければ俺の野球人生はそこまでだ。そしてあっという間に1週間が過ぎてしまった。連絡も無く途方にくれていた。

 

森本「・・・仕方ないか。けど、練習は怠ってはいけないからな。母校にでも行くか。」

 

俺はかつて在籍していた母校に練習をしに行った。俺の母校は当時は物凄い強豪で、甲子園にも夏は三回連続で出場した。しかし、ここ数年前から名前は聞かなくなっていた。

 

森本「久しぶりだな。ここ暫くは怪我の影響でなかなか来れなかったからな。さて、挨拶に行くか。」

 

母校に入り、校長に挨拶をしてグラウンドを使わせてもらった。しかし、残念な事に俺が所属していた野球部は一昨年に廃部になったそうだ。何でも、部員が集まらず監督もいなく廃部となった。その代わりに出来たのが女子公式野球部だそうだ。ここ数年男子より女子の人数が増えたからだそうだ。さて、グラウンドにやって来たしまずはランニングでも始めるか。

 

森本「懐かしいな。ここをこうやって走るのも。」タッタッタ

 

ランニングをしていると、向こうからユニホームを着た女子達がやって来た。野球部のメンバーだろうか?

 

??「あれ?誰かいるよ?」

 

??「ホントだ・・・誰だろう?怪しいな。」

 

??「でもあの人何処かで見たことあるような・・・」

 

向こうでこちらを見ている女子達。俺は彼女達に近づき挨拶をした。

 

森本「ごめんね、練習の邪魔かな?」

 

着けていたサングラスを外す。すると、途端に彼女達は叫び始めた。

 

??「あぁ~!!あ、貴方は広神タイガースの森本飛憲選手!!」

 

??「本物だ~!!わ、私達ファンなんです!!」

 

森本「ありがとう。けど、よく俺を知ってるね。ここ数年は怪我で試合には出てないのに。」

 

??「試合に出て無くても、知ってますよ。だって広神の優勝請負人と言われてるんですから。でも、森本選手は何でここに?」

 

森本「ハハハッ、恥ずかしい話だけど、もう俺は選手じゃないんだ。つい最近に球団から戦力外を受けてね。で、トライアウトにも受けたけど、残念ながらそれもね。でも、練習を続けて来年も受けるつもりなんだ。」

 

??「そうなんですか・・・宜しければ一緒に練習しても良いですか?」

 

森本「えっ、でもそれじゃ皆の迷惑になるんじゃ。」

 

??「そんな事ないです。でも、出来れば少し教えて頂きたいなと・・・」

 

森本「ん~教えていいのかな?元プロが教えたら駄目だからな~・・・なら、俺のバッティングや守備を見て参考にして欲しいな。」

 

??「ホントですか~!!うわ~森本選手のバッティング生で見たかったんです!!」

 

森本「それは良かった。所で、皆の名前教えてもらっていいかな?」

 

??「すみません!!申し遅れました。私はキャプテンの山中サエです。それでこっちはピッチャーの緒方ミレイです。」

 

ミレイ「始めまして。出来ればこの後勝負してください。」

 

サエ「はいはい、後でね。で、キャッチャーの岡崎風花。ファーストのカレン・ポーラ、セカンドの佐藤海理、サードの堀越ゼラセ、外野の上原優奈、倖田ゆかり、倖田シオンです。二人は姉妹なんです。」

 

森本「宜しくね。それじゃ練習しようか。早速バッティングさせてもらってもいいかな?」

 

ミレイ「それじゃあ勝負してもらって良いですか?」

 

ミレイは目をキラキラさせていた。これは元プロとして実力を見せなきゃな。

 

森本「さて、それじゃお手柔らかに。」

 

一同「!?」

 

サエ(やっぱりプロの選手は違うわ。ここまで威圧がくるなんて・・・)

 

風花(さてミレイ、折角プロの選手と対戦出来るんだから、持てる力を存分に出すよ。)

 

ミレイ(そうだね。ここは一番自信のあるボールを投げる。)

 

初球は外角一杯にストレート、次はワンバウンドのフォーク、更に内角にカットボール、高目のストレート。カウントはツーボールツーストライク。

 

風花(ここまで森本選手は一球も手を出してない。)

 

ミレイ(しかし、こちらは追い込んでる。ならここは私の最も自信のあるボール。)

 

ミ・風(スライダー!!)

 

バッテリーの考えは一致していた。そして、次の一球・・・

 

ミレイ(これで決める!!)

 

森本(おっ!?ここでスライダーか。しかも凄いキレだ。しかし、これくらいなら・・・)カキーン

 

響く打球音、打ったボールは校舎のフェンスを軽々越えて、向こうの池にボールが消えていった。

 

サエ「あのミレイの球を・・・やっぱり森本選手は凄い。」

 

森本「思ったより飛んだな。流石金属バットだな。普段使ってるバットでしかもこの状態であそこまで飛んだかどうか。えっと・・・ミレイちゃんだったかな?」

 

ミレイ「はい・・・」

 

森本「そんなに落ち込まないで。今はまだ一年で、4月には二年でしょ?それでこれだけの球を投げれるのは凄いよ。これからもしっかりとトレーニングすれば、まだまだ伸びるよ。」

 

ミレイ「あ、ありがとうございます!!」

 

森本「キャッチャーの風花ちゃんも、ピッチャーをいい形でリード出来てるね。でも、少しだけリードが甘いかな?そこはこれから勉強すればいい。」

 

風花「成る程・・・とても勉強になりました。」

 

森本「どういたしまして。さてと、そろそろ帰るかな。」

 

サエ「もう帰ってしまうんですか。」

 

森本「そうだね、流石に長く居すぎたかな?君達試合とかしないの?もし試合があるなら、時間があれば見に行きたいな。」

 

一同「・・・・・・」

 

試合の話題を出した途端に、彼女達は皆伏せてしまった。俺何か悪い事でも行っただろうか?そう考えていると、後ろから声をかけられた。

 

??「残念ながら、この娘達は試合に出場出来ないんじゃ。」

 

振り替えると、そこには懐かしい人物がいた。何と俺が在学中の監督だった。

 

森本「金川監督!!お久しぶりです。」

 

金川「森本も元気そうじゃな。記事を見たよ、残念じゃったな。」

 

森本「いえ・・・来年受けて駄目なら引退するつもりです。ですので、またこちらを借りたいと思って来たんです。」

 

監督と話していると、彼女達は驚くべき言葉を口にした。

 

ポーラ「理事長、イラシテタンデスカ。」

 

森本「り、理事長!?監督、この学校の理事長なんですか!?」

 

金川「そう言えば言ってなかったな。一昨年から就任したんじゃ。」

 

森本「そうだったんですか。・・・そう言えば、先程彼女達は試合に出場出来ないと言ってましたが?」

 

金川「そうじゃったな。実は、見ての通り監督が不在なんじゃ。最初はワシが引き受けようと思ったんじゃが、立場上そう言う訳にはいかんのじゃ。可愛そうにの・・・彼女達の実力は、全国にも負けないんじゃが。」

 

森本「そうですね・・・」

 

金川監督は、悲しそうな表情で彼女達の練習を見つめていた。

 

金川「誰かここの監督を引き受けてくれる人はいないかの。」チラッ

 

森本「俺は・・・駄目ですよ。元プロが高校野球の指導者になるには、1週間の講義が必要ですから。流石に今の俺には厳しいです・・・」

 

金川「・・・そうか。」

 

金川監督は、一言言うとそのまま黙って練習を見ていた。そして、休憩に入った彼女達は、俺と監督の元に戻ってきた。

 

サエ「・・・・・・」

 

ミレイ「・・・試合したいな。」

 

風花「そうだね・・・やっぱり試合したいよ。」

 

ポーラ「デモ、カントクガイナイデス!!」

 

ゼラセ「どうにかならないのか?」

 

優奈「う~ん・・・」

 

皆それぞれ複雑な表情だ。どうにかしてやれないかな・・・

 

ゆかり「ねぇ森本選手、森本選手が監督になってよ♪」

 

シオン「お姉ちゃん!?何言ってるの!!」

 

風花「流石に、森本選手に頼むのは無料だよ。」

 

ゆかり「でも・・・」

 

サエ「・・・・・・」

 

どうにかして救ってやりたい。正直講義を受けるんはそれほど問題はない。しかし、仮に監督を引き受ければ、俺の練習時間が削られてしまう。来年勝負するには、今以上の練習が必要だ。頭の中で色々考えてるいると、山中サエが話しかけてきた。

 

サエ「森本選手・・・私達の、野球部の監督になって下さい!!」

 

優奈「ちょっとサエ、貴方までなに言ってるのよ。すみません森本選手、気にしないで下さい。」

 

森本「あぁ・・・」

 

驚きを隠せなかったが、すぐに落ち着いた。そして、時間も過ぎ彼女達は帰っていった。

 

森本「監督、俺もそろそろ帰ります。」

 

金川「そうか、何時でも来るがいい。練習場所は提供しよう。」

 

森本「ありがとうございます。それでは失礼します。」

 

車に乗り、俺は自宅へと戻った。自宅につくと、夕飯もそこそこにTVをつける。しかし、TVの内容は全く頭に入ってこない。彼女達の言葉と金川監督の言葉、それが頭から離れなかった。

 

森本「・・・彼女達、本当は思いきり試合をしたいんだろな。」

 

そう考えていると、俺はある行動をとった。ある場所に連絡をした。

 

森本「もしもし・・・あの、実はですね・・・」

 

それから1週間後、俺は再び母校を訪れた。向かうのは理事長室、前もって金川監督に連絡は入れてある。理事長室の扉をノックした。

 

金川「誰じゃ・・・」

 

秘書「理事長、森本さんがお見えになりました。」

 

金川「そのまま入ってくれ。」

 

森本「失礼します。監督、お久しぶりです。」

 

金川「何が久しぶりだ!!1週間もここに来んくて!!一体何をしてたんじゃ。」

 

森本「えぇ、実はですね・・・」

 

俺はこの1週間やっていた事を監督に話した。すると監督は、表情を柔らかくして言った。

 

金川「本当なんじゃな。」

 

森本「えぇ、その為の1週間です。この条件を呑んで頂ければ幸いです。」

 

金川「そんなもんOKに決まってるじゃろ。それじゃ早速皆の所に行こうかの。」

 

俺と監督は、彼女達が練習しているグラウンドに向かった。グラウンドにつくと、威勢のいい声が響いていた。

 

金川「森本はあそこの影で待っててくれんか?彼女達を脅かしたいんじゃ。」

 

森本「ハハハッ、分かりましたよ。」

 

俺はそう言って、柱の影に身を潜めた。

 

サエ「次、セカンド!!」キン

 

海理「とりゃ~!!」ズザー

 

サエ「ナイスセカン!!次、ファース・・・理事長。」

 

金川「練習している所すまんが、皆を集めてくれんか?」

 

サエ「わかりました。全員集合!!」

 

キャプテンの一言で、すぐに一同は揃った。

 

ミレイ「どうしたんですか理事長?」

 

理事長「実はな、皆に良いニュースを持って来たんじゃ。」

 

風花「良いニュース?一体何ですか?」

 

金川「実はな・・・監督が見つかったんじゃ!!」

 

一同「ほ、本当ですか!!」

 

金川「これこれ、落ち着きなさい。実はもう既に来てもらっている。」

 

海理「もう来てるの!?凄く緊張します~!!」

 

金川「それじゃあ呼ぶぞ。こっちに来てくれ。」

 

ようやく呼ばれた。監督は話が昔から長い。でも、今回ばかりは気持ちが分かる。何せ俺も皆がどんな反応や表情になるか気になってるからだ。

 

森本「本日より、野球部の監督をやらせてもらう森本です。宜しく。」

 

一同「・・・えぇ~~~~!!!!!!」

 

いいねいいねその反応。期待通りの反応に俺と監督は、笑いをこらえるのに必死だった。

 

サエ「森本選手、どういう事ですか!?」

 

ミレイ「キチンと説明して下さい!!」

 

風花「そうです!!納得のいく説明を要求します!!」

 

森本「分かった、分かったからとにかく落ち着いて。実は君達と会ったあの日に俺は考えたんだ。練習は出来ても試合が出来ないんじゃ意味がない。それで、俺はこの1週間講義を受けてたんだ。そして、やっと高校野球の指導をOKしてもらったんだ。」

 

サエ「そうなんですか・・・本当にありがとうございます。」

 

一同「ありがとうございます!!」

 

森本「いいよ、俺は見るのを我慢出来なかっただけだから。ただ、1つだけ条件があるんだ。俺は前にも言った通り、来年のトライアウトを受けるつもりだ。そこで、俺も練習させてもらう。それが監督になる条件だ。それで良いなら、俺はここの監督を引き受ける。」

 

一同「勿論大歓迎です!!」

 

金川「それじゃワシは戻るかの。後は任せたぞ、森本選手兼監督さんよ。」

 

金川はそう言い残すと、校舎に戻っていった。さてと、これから忙しくなるな・・・

 

森本「それじゃ、早速練習するか。やるからには、厳しく行くぞ!!」

 

一同「はい!!」

 

こうして俺の野球部監督としての、新しいスタートをきった。


 
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