第13剣 いざ、結城本家へ
和人Side
ALOにて『聖剣エクスキャリバー』を入手した12月28日。
その日に行った打ち上げ兼忘年会の後、明日奈を美味しく頂いてから彼女を結城家へと送った。
そして12月29日、明日奈はご家族と共に京都にある結城の本家へと帰省し、
同日に景一もご両親と詩乃の4人で実家のある東北地方へと帰省していった。
3人とも実家にはVRMMOにダイブ出来る環境が無いため、嘆いていたのは覚えている。
だが景一と詩乃は大丈夫だろう、2人でいられるんだし。むしろ明日奈の落ち込み様は半端じゃなかった。
こうなんというか、暗雲が纏わりついているような感じだったな。
公輝と雫さんも次期朝霧の後継者である為、年末年始は海童さん達とともに動き回っているという。
俺の親父もアメリカから一時帰国し、夏休み以来の再会であるので色々と話しをしたりもした。
12月31日、1年の終わりの日……家族4人で年越し蕎麦を啜りつつ、
歌合戦を見て、カウントダウンを行い、2026年1月1日を迎えた。
少ししてからみんなで近くの神社へと向かい、そこで十六夜一家と月乃一家、
烈弥とそのお祖父さんとお祖母さんと合流、大所帯で初詣を済ませた。
志郎と烈弥はまた後日、里香と珪子と神社に行くとか言っていた。
なお、スグは振袖を着てきたので、刻が嬉しそうだったのはご愛嬌というやつだろう。
そして同日の午後2時、俺はある用事の為に、荷物を持って東京駅に来ていた。
「それじゃあ和人、しっかりな」
「頑張ってきなさい」
「お兄ちゃん。明日奈さんによろしくね♪」
「あぁ、行ってきます」
親父と母さん、スグの言葉に苦笑しながら新幹線に乗り込む。
俺がここに来た理由、それは……京都の結城本家へと赴く為である。
いや、実際のところは招待されているのだ、当主である結城千里氏に…。
しかも、彰三さんや京子さん、浩一郎さんどころか明日奈さえも知らないのである。
内緒にしておいてくれと言われて黙っていたのだが、向こうに着いたらなんて説明しようかなぁ。
「はぁ~……ま、僥倖としておこう…」
俺は新幹線の席に着いてから、溜め息を吐き、1人呟いた。
『そうですよ、パパ。折角早くにママと会えるんですから』
「分かってるよ、ユイ。それにしても、果たしてどうなることやら…」
携帯端末から語りかける愛娘の言葉に同意しながらも、大変そうな結城本家を思い浮かべる。
そして新幹線は京都へと向けて動き出した。
「さてさて、何が起こるのか…」
俺の呟きはユイには聞こえず、静かな車内にも行き届かなかった。
東京駅から新幹線に乗ること約2時間半、ようやく京都へと辿り着いた。
車内は人がほぼ居らず、かなり少なかったので多少はユイと話しをすることが出来た。
まぁ、あまり寝ていなかったので1時間ほど睡眠を取ったが…。
『それで、ここからどうするんですか?』
「確か迎えの人が来ているはずだが……あっ…」
イヤホンを通して端末から聞こえるユイの声に、小さな声で返す。
傍目から見れば通話をしているように見えるだろう。
その時、視界の端、駅の入り口近くにいる女性を見つけた。
なるほど、そういうことか……俺はその人に近づき、声を掛ける。
「お嬢さん、良かったら道案内をしてもらないかな?」
「すいません。わたし、用事があるので……え?」
俺の言葉に女性は断りをいれようとしたが、俺の顔をみて固まった。
「そうか、明日奈は俺を案内してくれないのか…」
「和人、くん…?」
「あぁ、俺だ」
『わたしも居ますよ、ママ♪』
「ユイ、ちゃん…? え、えぇっ、なんで!? どうして、2人がいるのっ!?」
そう、どうやら迎えというのは明日奈だったらしい。
あまりの展開に驚いてあたふたしている彼女が非常に可愛い。
クスクスと笑う俺とユイ、取り敢えずは落ち着かせてあげないとな。
「明日奈、まずは深呼吸だ。息を吸って~、吐いて~、吸って~、吐いて~」
「す~、は~…す~、は~……よし」
一応は「吸って~吐いて~吐いて~…」をやる予定だったが、やめておいた。
「えっと…3日ぶり、だね/// あけましておめでとう///」
「あけましておめでとう」
『あけましておめでとうございます♪』
親子3人で新年の挨拶を交わす。
「改めまして…どうして和人くんとユイちゃんが
「ユイは明日奈に会えるからっていうのが理由だよ。俺は結城の本家に用事があるんだ」
「う、うちにっ!? も、もしかして、これは『お孫さんを俺にください!』っていうパターンの!」
理由を話せばなにやら混乱しながら訳の分からないことを叫ぶ明日奈。
そこは娘さんを、だろ?というか彼女の脳内は現在お花畑モードなのでは?
「はい、もう1度落ち着くんだ……(ぼそっ)ま、強ち間違いじゃないけど…」
「え、なんて?」
「なんでもない。ほら、案内してくれないか?」
「う、うん…」
釈然としない様子ながらも、俺と明日奈はバスを使って結城本家へと向かった。
バスの中では明日奈とユイが話しに花を咲かせ、
俺は外の風景を眺めながらこのあと訪れることになる家にどうしたものかと考えていた。
「自宅も凄かったが、本家はそれ以上だな…」
「見た目だけだよ……中は寒いから…」
その言葉の真意は結城という家の
いや、それも繁栄の代償というべきか。
門扉を潜り敷地内へと入ったところで、玄関前に初老を超えた辺りの女性が1人立っていた…あの人は…。
「ただいま戻りました、お祖母様」
「お帰りなさい、明日奈。お客様のお迎え、ご苦労様でした」
「え…? それじゃあ、やっぱり彼が…?」
この女性とは夏のお盆の時に1度だけ会ったことがある、この人は…。
「あけましておめでとうございます。お盆以来ですね、恋さん。ご健勝でなによりです」
「ふふ、あけましておめでとう。和人君こそ、お元気そうで良かったですわ」
「どうして、和人くんとお祖母様が…?」
明日奈の父方の祖母である『
俺と恋さんとの会話に呆然とする明日奈。
「千里さんも交えてそれを説明します。明日奈も和人君も上がってください」
未だ困惑する明日奈を伴い、俺達は恋さんに連れられてある一室の前へと着いた。
「(コンコンコンッ)あなた、明日奈とお客様をお連れしました」
「うむ、はいってくれ」
ノックをした後に恋さんが言葉を掛けると、中からは荘厳な声が聞こえてきた。
そしてドアが開き、俺達3人は中へと入る。
「和人君じゃないか!? なぜ、キミがここに…」
驚きを露わにする彰三さん、呆然とした表情をする京子さんと浩一郎さんに俺は苦笑しながら一礼する。
そして、まずは掛けるべき言葉を口から紡ぐ。
「あけましておめでとうございます、千里さん」
「あけましておめでとう。久しいな、和人君」
「「「「……はい?」」」」
「あらあら…」
俺と明日奈の父方の祖父である千里さんの挨拶を聞き、首を傾げる結城家の4人、それを可笑しそうに見つめる恋さん。
「彰三さん、京子さん、浩一郎さん。あけましておめでとうございます」
「「「あ、あけましておめでとう…」」」
未だ呆然としながら俺の挨拶にしっかりと返答する辺りはさすがのお三方。
全員でソファに座ったところで、千里さんから俺と会った経緯を伝えてもらった。
(詳しくは『ALO~閃姫After story~』の『EP17 結城家当主・結城千里』を参照)
「和人君の武の師匠である時井八雲君とは懇意にさせてもらっており、
5月の連休の彼の家を訪ねた時、偶然にも和人君と会ったのだ。お盆の時には恋と共に挨拶も交わした」
「ええ、そうでしたわね」
「なるほど…」
千里さんの説明に恋さんが頷き、彰三さんも納得したように呟いた。
しかし、だ……俺の隣に座る明日奈の視線が痛いぜ。
その眼は「なんで教えてくれなかったの?」と可愛らしく訴えている……くっ、抱き締めたい。
「それで考えたのだが、和人君を正式に明日奈の婚約者として紹介しようと思う」
「「「「「……………」」」」」
あぁ、うん…ここに呼ばれた時点でそう言うだろうとは予想していたけど、まさか本当にここで言うとは…。
さて、各自の反応はと……まずは明日奈、うん顔を真っ赤にして混乱しているな。
次に彰三さん京子さん御夫妻、小さな声でなにやら話しをしているが、多分…いや、間違いなくこの後の算段だろう。
そして浩一郎さん、苦笑しながら俺を見ており、その視線は「頑張ってくれ」と、物語っている。
「儂としては和人君を婿にと思っていたが、明日奈に強いてしまった無理もある…。
それを考えると、嫁に行かせた方がいいと思う」
「当主様、僕も賛成します。明日奈には、人並みの幸せを得てほしいです」
千里さんの言葉に真先に浩一郎さんが賛同した、今までの妹を見てきたからなのかもしれない。
ま、俺もスグの兄という立場だから、大いに理解できるわけだ。
「そうだな…明日奈はどうしたい? 私はお前の気持ちを聞きたい…」
「え、そ…それは…」
彰三さんの言葉に明日奈は戸惑う。
未だ僅かにだが畏れを持つ祖父、自分の為にあらゆる手を尽くしてきてくれた両親、心休まるように接してくれた兄と祖母。
皆の想いにどう応えればいいのか、彼女自身戸惑っても仕方がない。
「どうするかは、いますぐに決めなくてもいいのよ?」
「ええ。だけど……明日奈、貴女自身の本当の気持ちをぶつければいいわ」
「わ、わたし、は…」
戸惑い……いや、明日奈自身の答えは決まっているのだと思う。ただ、あと1歩を踏み出せないでいる。
いままで彼女に圧し掛かってきた期待や重圧、勿論金銭的なものなどもあるだろう。
彼女は俺と共に居たいと言ってくれたことがあり、俺もそれに返したこともある。
だからといって、簡単に決められるわけではない。
それでも、いまこの場にいる明日奈の家族達はみんな、彼女自身の幸せを望んでいる。
ならば、俺がするべきことはただ1つ……明日奈の背中を押すだけだ。
「明日奈……俺は、キミと一緒に歩みたい」
「っ……わたし、も…。和人くんと、一緒に……歩んで、いきたいです…」
俺が心から想い、願う言葉を告げると、明日奈は涙ぐみながらもハッキリと答えた。
千里氏は満足そうに頷き、恋さんは目の端に小さく涙を溜めるも微笑を浮かべ、
彰三さんと浩一郎さんは穏やかな笑みを、京子さんは嬉しそうな笑顔である。
「決まりのようであるな。またの機会にいまの言葉を明日奈に伝えると思うが、孫のことを…よろしく頼む」
「はい!」
結城の当主、そして明日奈の祖父としての彼の言葉に、俺は強く確かに応じた。
和人Side Out
To be continued……
後書きです。
はい、今回から3話に亘って番外編の正月とは違う話を送らせていただくことにしました。
番外編の方がいいかも、と思う方もいるかもしれませんが、折角思いついたのでやっちゃってもいいですよねw
次回は和人が結城家の親族達に紹介される話になります。
それでは・・・。
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第13剣です。
番外編とは少し違う正月での話しになります。
どうぞ・・・。