第12剣 今年は色々ありすぎた
和人Side
ALOでついに『聖剣エクスキャリバー』を入手し、
トンキーに送ってもらい世界樹の根の階段を駆け上り、
ハクヤ達にメッセージを送り集まってもらった。
4人に上手く入手することが出来たのを伝えると、自分事のように喜んでくれた。
それとリズには『雷鎚ミョルニル』を渡し、思い切り驚いていたのが印象深い。
オリハルコン・インゴットにするも佳し、そのまま持っておくのも佳しと言うと、
本人は折角の
そして打ち上げ兼忘年会を行う旨を伝えると、4人も賛成してくれた。
明日、12月29日から1週間の間、明日奈は京都にある結城家本家に滞在しなければならないので、
ベッドで起き上がり、エギルに連絡を入れ、少々渋る様子の声が聞こえたが、
やめようかと言うと即座に「勿論OKだ」という声が返ってきた、現金なやつめ…。
これで『Dicey Cafe』で行うのが決定し、俺はみんなにOKだという旨を伝えた。
天気予報では夕方から雪、そして俺はある道具を一式持っていく為にバイクでの移動はやめておき、
ハードケースに荷物を纏めてスグと共に家を出る。
「やっほ~」
「……準備出来たか?」
「ああ。悪いな、待ってもらって」
「問題無いって」
「こちらが早く来てしまいましたから」
「スグ、寒くないっすか?」
「うん、平気」
家の前で詩乃と景一、志郎と烈弥、刻が待っていた。
何故詩乃が?と思ったが、景一の家で一緒にダイブしていたとしてもおかしくないか。
5人は俺達が出てきたのに気付いて歩み寄る。
「それじゃあ行くか」
俺は6人にそう言うと、連れだって駅へと向けて歩き出す。
俺達の住む埼玉県川越市からエギルの店がある東京都台東区御徒町までは、
急行電車を使えば1時間も掛からずに着くことが出来る。
2時過ぎに店に着き、料理に忙しいエギルと奥さんに軽く挨拶を交わし、
俺はハードケースから4つのレンズ可動式カメラと制御用のノートパソコンを取り出す。
「お、キリトさん早速テストっすか? ボク、手伝うっすよ!」
「……私も設置くらいなら手伝える」
「それじゃあ僕も」
「なら頼む…あ、スグ。それはそこに」
「ん、ここだね」
「和人、コードはここでいいよな?」
カメラの設置に刻が率先して申し出、みんなにも手伝ってもらい、店内の4ヶ所に設置する。
市販のマイク内蔵ウェブカメラを大容量バッテリー駆動、及び無線接続できるように俺が改造を施したものだ。
カメラをノートパソコンで認識し、動作確認を取り、川越に自宅にあるハイスペック据え置き機にインターネット経由で接続、
小型ヘッドセットを装着、準備はOK。
「なんなの、ソレ?」
「見てのお楽しみだ…ユイ、様子はどうだ?」
詩乃にそう訊ねられるが、俺は微笑を浮かべてそう言い、この場にはいないはずのユイに声を掛けた。
すると、パソコンのスピーカーから声が聞こえてきた。
『見えます…ちゃんと見えて、聞こえていますよ、パパ♪』
「なら、今度はゆっくり移動してみてくれ」
『はいです♪』
ご機嫌な様子である愛娘の可憐な声が耳のイヤホンとスピーカーから聞こえた。
そして彼女に状況を確かめてもらう為に、次いで
現在のユイの状況、それはこのダイシー・カフェのリアルタイム映像を疑似3D化した空間で小妖精のように飛翔しながら、
彼女なりに自由に過ごしてもらっているはずだ。
一応、画質や応答性が低いので、そこら辺は今後の課題であるが…。
「つまり、そこのカメラとマイクはユイちゃんの端末……感覚器に当たるってとこかしら?」
「……その通りだ。和人は学校でメカトロニクス・コースを選択していてな」
「その課題ってことで、作っているらしいっすよ」
「完全にユイちゃんの為ですよね~」
『ガンガン注文してます!』
詩乃の言葉に景一と刻が答え、スグがおどけたように言えば、ユイもノリノリで応える。
「ユイの為というのは当たり前だ。第2目的として、身体を自由に動かせない人に適応出来るようにするつもりだ。
その為に、まずはカメラの小型化と肩部や頭部への装着も可能にしないといけない」
「さすが、色々考えてるな」
「明日奈の父親の彰三さんやVR研究をしている人からは、完成したら特許を取ってみないかと言われてる。
まぁ、まだまだ完成にはほど遠いけどな」
「そんな話まで出ているんですね…」
愛娘の為と聞かれればNOと言えるわけがない! 志郎は感心しながら呟き、
彰三さんや凜子さんから特許の話を上げられていることも言うと、烈弥も驚き混じりに感心している。
そうこうしていると、明日奈がドアを開けて店内に入ってきた。少し遅れて
取り敢えず、これで午前のメンバーは全員集合だな。
エギルが料理を持ってきたので全員でそれを手伝い、感謝を込めて拍手。
そして全員で席に着き、各自飲み物が入ったグラスを持ち上げ、
「祝『聖剣エクスキャリバー』&『雷鎚ミョルニル』GET! 2025年、今年もお疲れ様! 乾杯!」
「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」
俺の音頭の後にみんなが唱和した。
「しっかし、今年は色んなことがあったよな~」
談笑しつつ料理に手を付けていると、クラインがしみじみと言葉にした。
「そうだな…。丁度1年前くらいにSAOをクリアして、そのあとALOに捕まって、仮想世界だが肉体的と精神的暴行を受けて、
なんとか解放されたと思ったら地獄のリハビリで、夏には厳しい修行、そのあとは間が空くけど今度は死銃、
俺この1年で一体何回悲惨な目に遭ってるんだろ…? 一体俺が何をしたっていうんだ…」
「「「「「(ホロリ)」」」」」
「あ~元気だせ、和人」
女性陣の一筋の涙と志郎の気遣いの言葉が心に染み渡る…ふっ、虚しいぜ。
「なにも悪いことばかりじゃなかっただろ?」
「良い事の方がたくさんありましたよ、和人さん」
エギルと烈弥の言葉は実に的を得ている。
SAOをクリアしたこと事態が喜ばしいことだし、ALOに囚われたのも明日奈を守る為、
そして現実世界での彼女と仲間達と家族らとの再会、新生活として学校生活、
結城夫妻と千里氏によって認められた明日奈との仲、VRMMOの復活と新生アインクラッド、
『ザ・シード』の芽吹き、
そしてエクスキャリバーの入手、確かに良い事の方が盛り沢山だな…。
「そうだな…その通りだ(ニカッ)」
―――ずっきゅーーーん!
笑みを浮かべてそう言えば、何処からか不思議な擬音が聞こえてきた。
隣を見れば、俺の顔を見たまま自身の顔を真っ赤にしている明日奈。
これは、あれか? 射抜いてしまったか?
「ま、明日奈が和人に見惚れているのは置いといて……かなり濃い1年だったのは間違いないわよね」
「辛いこともあったけど、凄く楽しい1年でした」
里香と珪子の言うことも当たっている。激動の1年は濃く、様々な出来事が起こった。
それは僥倖と言えるだろう。
「そう言えば、思ったことがあるんだけど…」
「……どうした?」
詩乃が何かを考えたようで、景一が彼女に訊ねる。
「どうして“エクスキャリバー”なのかしら? 大抵は“エクスカリバー”じゃない?」
「詩乃さん、その手の小説とか読むんですか?」
「中学の頃とか、図書室のヌシ状態だったのよ。それで大体の訳はカリバーだったと思って…」
「そういえば、他のゲームとかでもそうっすよね~」
なるほど、そういう疑問か…。詩乃の言葉を聞き、スグが訊ねてみれば、本を良く読んでいたからであり、
彼女の意見に同意するように刻も言葉にした。
「ALOのアイテムを設定したデザイナーの趣味とかじゃねぇのか?」
クラインの言い分も外れてはいないだろうが、さすがに俺は苦笑してから言うことにする。
「あの剣は色々な呼ばれ方があるぞ。
まずは基本的に呼ばれる“エクスカリバー”、ALOで使われた名称の“エクスキャリバー”、
『大公スィアチ』のクエストで偽物扱いされていた“カリバーン”または“キャリバーン”、
『鉄、鋼、木を斬るもの』の意を持つヘブライ語の“エスカリボール“または“エクスカリボール”、
ラテン語の偽史『ブリタニア列王史』における“カリブルヌス”または“カリボール”、
異称としても使われる“コールブランド”、そして“カレドヴルフ”または“カレトヴルッフ”などがあるな」
「た、たくさんあるんですね~…」
次々に例えを上げていくと、珪子が驚いた様子を見せる。
他のみんなの反応も似たようなもの、感心や感嘆、種類の多さに対する呆れなどなど。
「ただ“カレドヴルフ”と“カレトヴルッフ”にはもう1つの意味合いの方が強いかな」
「それって、どんなものなの?」
「意味は『硬い溝の意』。その2つと同一視される名が“カラドボルグ”と“カラドコルグ”、
前者の意味は『硬い稲光』もしくは『硬い鞘』、後者の意味は『硬い刃』。
これらはエクスカリバーの原型とされるものだ」
さらに意見を述べようとすれば、明日奈が聞いてきたのでそれに答える。
改めて思うとこの系統の話はかなり細々としているうえに、変なところで大雑把なのだ。適当に限る。
「まぁ、その“キャリバー”なんだけど、私には別の意味に聞こえるのよ」
「……もしや、銃の口径のことか? 英語で『caliber』の綴りだったはずだが」
「そ。剣のエクスキャリバーとは綴りが違ったと思うけど…」
詩乃が言えば景一がその言葉の意味を繋げる。
剣の方のキャリバーは『calibur』だったはずだと、俺は頭の中で字を変換した。
最後の言葉を一度切ってから、俺の方を向いて紡いだ。
「そこから転じて『人の器』って意味もあるの。
『a man of high caliber』で『器の大きい人』、『能力の高い人』になるわね」
彼女の言葉を聞き終わると、この場にいるメンバーが一斉に俺を見る。カメラを通しているユイも同じく、だ。
「な、なんだ?」
「和人くんにピッタリだね」
「「「「「「「「「「同感(です)」」」」」」」」」」
明日奈がそう言うと全員が声を重ねて彼女の意見に同意した。
ふむ、そう言われて嫌な気がするはずはないが…存外、人からそんな風に評価されるのはむず痒いものだ。
俺はそれを隠すように苦笑し、誤魔化す。
「なら今日は俺の奢りだ。アルバイト代が入ったからな」
「お、太っ腹じゃねぇか!」
本日の支払いを請け負うとクラインが乗り気で言い、みんなも拍手や口笛を吹いたりする。
まぁ、プローブや他のものに必要なパーツは発注済みだし、スグのナノカーボン竹刀も購入済だが、まだ余裕はある。
菊岡からのアルバイトはそれなりに請けているからな。
そんな中で俺が考えるのは、1人では何も出来るはずがないということ。
確かに1人でも生きて進むことは出来るだろうが、いずれ必ず心が折れてしまうはずだ。
愛する人がいて、家族がいて、仲間がいて、友がいる……それらがいてくれたからこそ、
俺はあの剣を、仲間達との
『聖剣エクスキャリバー』は、仲間達の大切な時に使おう…そう、心に決めた。
「折角だからもう一度……乾杯!」
俺の2度目の乾杯の声に、みんなもグラスを持ち、各々でぶつけ合った。
そのオフ会終了後…、
「それじゃあ明日奈、イコウカ?」
「にゃ、にゃあ~~~/////////!?」
彼女の事情も考えつつ、加減をしながら美味しく頂いた(笑)
和人Side Out
To be continued……
後書きです。
というわけでして、今回でキャリバー編は終了となります!
最後の最後で明日奈が和人さんから例の可愛がりを受けましたが・・・w
次回からは以前の番外編であった、正月に和人が結城本家を訪れる話を2話くらいに亘ってお送りしようと思います。
番外編とは少し違った内容になるので、色んな意味で楽しめると思います。
ま、どちらが本当ということはないのでお気軽に呼んでくださいね。
それではまた・・・・。
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第12剣です。
打ち上げ兼忘年会の話になります。
どうぞ・・・。