第14剣 婚約者
和人Side
しっかりと自身の思いを伝えた明日奈。
そこで話しはお開きとなり、俺は明日奈に連れられて彼女が使用している客間へと通された。
明日奈はそのままベッドに仰向けになり、俺はその隣に座る。
「はぅ~…まさか、和人くんが正式にこ、ここ、婚約者に、なるなんて…//////」
「俺も…1週間前に千里さんからその話しを電話で聞いた時、さすがに端末を手から落としたよ。
母さんとスグも、呆然としていたし…」
苦笑しながら思い出すのは、その時の母と妹の今までに見ない程、呆然としていた表情である。
まぁ、俺も似たようなものだったとは思うが…。
「それよりも、今日はホントに驚いてばかりな気がする///
和人くんとユイちゃんが現れるし、和人くんとお祖父様とお祖母様は知り合いだったし、
真剣な話しになって、婚約の話にまで…//////」
「しかも夜の会食で紹介する、だもんな」
明日奈にとっては確かに驚きばかりだからなぁ~、さらに千里氏から告げられた言葉は俺にとっても驚愕のものだったし。
いいのかねぇ~、俺なんかを元旦の会食で紹介したりして。
「そうだよね、夜の会食で…はぁ~。憂鬱だなぁ、何も言われないかなぁ…?」
「大丈夫だろう、心配するなよ。ご両親も浩一郎さんも賛成してくれたし、何より千里さんと恋さんが居るんだから」
不安げに言った彼女に俺は安心させるように言ったのだが、明日奈は違うと言わんばかりの視線を向けてきた。
「ど、どうした?」
「わたしが心配してるのは、和人くんが何か言われないかっていうこと!」
「な、なんだ…そんなことか「“そんなこと”なんかじゃないもん!」そ、そうか…」
「わたし、和人くんが嫌なこと言われるの、嫌だもん…」
そういうことか…自分が言われる事ではなく、他の人が言われるのが嫌ということか。
確かのその気持ちは解かる、俺も自分が言われる分には大丈夫だが、
明日奈に対して何か言う者が居ればタダで済ませるつもりはない。
「別に僻みや妬みといったものに慣れてないわけじゃない。
SAOでもALOでも、そういう負の感情には何度も対面してきたからな。
問題無い…というよりも、気にするだけ無駄さ。それに…」
「それに?」
言葉を区切ると聞き返してきた明日奈。そんな彼女に向かって笑みを浮かべてから、こう告げる。
「その時はケチ付けられないように実力を見せつけるだけだ」
「………あ、あはははっ! そうだよね…和人くんはそういう人だもんね♪」
眼をパチクリさせながら間を置き、笑いながら納得してくれた。
そこで俺は切っていた端末の電源を入れ、愛娘に報告することにした。
「ユイ、最初はなんとかなった『パパ、大変ですよ~!』ど、どうしたんだ、ユイ?」
声を掛けてみればいつもと違い、焦り…いや、驚きの声を出しながら俺の言葉を遮った。
「一体なにがあったの?」
『結婚が、出来るようになったんです!』
「「?」」
『どうやら今日の3時に行われたメンテナンスで、ALOに結婚システムが導入されたようなんです!』
明日奈が聞いてみれば、いきなり結婚という単語が出てきた……が、次にユイが告げた言葉を聞き、俺達は固まった。
「………マジ?」
「マジです!」
「ほ、ほんとうに…?」
「本当です!」
「「嘘じゃない?」」
「嘘じゃないです!」
三度聞いても彼女の返答は変わらず。つまり、ALOで、SAOの時のように、結婚が可能になった、と…。
『どうやら、現在ALOを運営している人達がSAOで使用されていた結婚システムのことを思い出して、
元旦にサプライズとして導入することを決めていたようなんです。先程、MMOトゥモローにて正式発表したそうです』
呆然としている俺と明日奈の為にユイは解説してくれた。
「すごい…凄いよ、和人くん! すっごい偶然だよ!」
「これは、運営に感謝しないとな…」
やや興奮気味の彼女、俺はなんとか声を抑えつつも、やはり嬉しさが込み上げてくる。
「あのな、ユイ。実は今日のことが上手くいって、俺と明日奈は一応だけど婚約者っていうことになったんだ」
『わぁ~、おめでとうございます! パパ、ママ!』
「ありがとう、ユイちゃん♪」
「ありがとな」
愛娘の祝いの言葉に俺達は揃って礼を言う。
まさか正式に俺達の仲が認められた日に結婚システムまで導入されるのだから、ユイの喜びも一入だろう。
ALOでアスナと結婚が出来るようになったのは嬉しいが、向こうのプロポーズは何時行うかだな…。
指輪とか、出来れば結婚式とかもやりたいし、SAOの時とは違って表立っても行えそうだから、なんとかしてみるか。
「会食…というか、夕食までまだ時間があるから、ゆっくりするか…」
「『は~い♪』」
俺の言葉に明日奈とユイは気前よく返事をし、俺達は心行くままに静かな時を過ごした。
そして夕食である会食が始まる午後6時半前、俺は用意された黒のカジュアルスーツに着替えた。
「あまり堅苦しいのは好きじゃないんだが、仕方がないか」
「だけど、スーツ姿似合ってるよ///」
「そういう明日奈もそのフォーマルワンピース、似合っているよ」
「えへへ、ありがとう///♪」
着替え終えたあとで姿を明日奈に見せてみると、頬を僅かに染めながら彼女はそう言ってくれた。
勿論、俺も彼女の白と赤のワンピース姿を褒める事を忘れない。そこに彰三さん達もやってきた。
「おぉ、2人とも似合っているよ」
「ありがとうございます」
お褒めの言葉を頂き、しっかりと受け取っておく。そして会食の場へと案内された。
会食の場には長い長方形のテーブルがあり、椅子のほとんどに既に人が座っているので埋められている。
そして一番奥の上座、そこはまだ空いているが間違いなく千里氏の席であり、その右側の席5つが空いている。
彰三さんが着いてくるように促し、そのまま続く。
僅かに静かになる広間、俺に向けられる視線は訝しいものだが、
なるほど……明日奈に向けられている視線は同情や憐みが多いな。
彼女の表情が寂しく、それでいてSAO時代の血盟騎士団副団長のアスナという雰囲気を纏っているのを感じる。
だから俺は、明日奈の手をそっと握り、手を繋いで歩くことにした。
「和人くん…///」
俺の名前を小さく呟いた彼女、その雰囲気が優しいものへと変化したのが分かる。
これなら大丈夫だろうと、安心した。しかし、だ……彰三さんに着いて移動した結果、俺が座らされた席は…。
「あの、ここって本来は恋さんか彰三さんが座る場所のはずでは?」
「父が今回はキミに座って欲しいと言っているから問題無いよ。大丈夫だ、隣には明日奈が座るからね」
「え…?」
間違いなく聞かされていなかったのだろう、明日奈は間の抜けた声で反応してしまい、そのまま座らされている。
さらに俺達に対する視線の嵐は増すばかり、これは明日奈じゃなくても嫌になるはずだ。
むしろ今まで良く頑張ったと褒めてあげたい、後で頭を撫でてあげよう。
その後も面倒な視線に晒されながらも、全員が揃ったところで千里氏がやってきた。
上座に最も近い右側の席に俺が座っていることを確認すると、表情を僅かに緩めて声を掛けてきた。
「すまないな、和人君。今回ばかりはそこで頼む」
「いえ。さすがに今後の事を考えれば、これくらいは甘んじて受け入れます」
千里氏と俺の会話を聞き、明日奈や彰三さん達を除いた結城家と親族などの人達の反応は様々なものだ。
呆然としたり、驚愕に眼を見開いていたり、飲んでいた飲み物で咽たりするなどという感じ。
そして席に着いた千里氏が話しを始めた。
「さて、みなが気になっていると思うので、先に彼について紹介させてもらう」
千里氏が俺を示し、集まった者達の視線が一斉に俺に向く。
「彼の名は桐ヶ谷和人君。明日奈の婚約者だ」
「「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」」
お~お~、さっき以上の驚きだな~。
隣に座る明日奈は顔が真っ赤だし、彰三さんと京子さんと浩一郎さんは微かな笑みを浮かべている。
俺は少しだけ苦笑してから、表情を元に戻す。
「桐ヶ谷和人です。よろしくお願いします」
椅子から立ち上がり、真剣な面持ちを残したままに俺は不敵な笑みを浮かべる。
目で着席を促され、再び椅子に座る。すると1人の男性が挙手をしたので、千里氏が促した。
「失礼ですが、家のほうはどのようなものなのですか? 特に桐ヶ谷とは聞かないもので…」
「一般家庭です」
聞いてきた男性の問いに千里氏が答えようとしたが、俺はそれを制して普通に答える。
それだけで既に侮蔑のような視線へと変化している。
一応、前例としては京子さんが今の俺と同じ位置にいたはずだ。
彼女は一般家庭からこの結城家へと嫁いだのだから。そこで今度は女性から手が上がった。
「ならば実績の類はどうなのでしょうか?」
「それに関しては問題無い。彼は去年の全統模試(全国統一模擬試験)、高3の部を全てトップの成績で収めている。
計3回とも、全てだ。それに剣の腕も、儂のような人間では到底届かない域におる」
今度は俺を制して千里氏が楽しそうにそう語り、みな一様に驚いている。
彰三さん達もさすがにそのことは知らなかった為か、唖然としている。
ちなみに明日奈の反応はというと…。
「ふ、ふふふ…わたしの方が年上なのに、年下の和人くんに勉強教えてもらっているなんて…ふふ…」
駄目だ、微妙に卑屈モードになってしまっている。
「実績などこの際はどうでも良かろう。明日奈は嫁に出すのだからな」
「しかし……そうは言われますが、只の家庭に彼女を送り出すなど…」
千里氏の言葉に対し、新たに反論をするように他の男性が挙手してそう述べた。
彼が懸念しているのは明日奈の身ではない、その一般家庭が結城との繋がりを利用しないかという方が懸念事項なのだろう。
そして明日奈は聡く、そういったことにもすぐに気が付く。
俺が手を握っているから問題無いが、掴みかからんとしそうなほどに怒っているのが解る。
あまり彼女を刺激しないでほしいものだ。
「只の家庭、か…。果たしてそう呼べるものか、言っても問題ないかね?」
「構いませんよ。知られたところで、関係をどうするか決めるのは先方ですからね」
苦笑してから俺に訊ねてきた千里氏、それにまたもや不敵に笑みを浮かべて返す俺。
そう、語るべきは俺の背後関係。
「彼の友人の1人は朝霧財閥の御令嬢、しかも親友の1人がその御令嬢の婚約者にして次期後継者である。
さらに親友の1人の父親は警視庁の警部らしい。加えて、彼の武の師匠は彼の【剣神】と名高い時井八雲氏だ」
「あ、朝霧の令嬢とその婚約者の友人…?」
「友人の父が、警視庁の警部…」
「あの、剣神の弟子…」
千里氏から語られた俺の背後関係にどよめきが起こる。
まぁ、実際のところは総務省に出向している防衛省の菊岡誠二郎二等陸佐なども、背後関係の内に入るのかもしれないが。
そして結城家の親族達の眼の色が変わった事にも簡単に気が付ける。
正直というか、現金というか、ここまでくれば呆れてくるな…。
ついには反論する者はいなくなり、まだ一部の者は納得していなさそうだが、多分彼らの目当ては明日奈なのかもしれない。
「和人君…キミに明日奈を守りきれるかね?」
当主として千里氏が放った言葉、これは俺の覚悟を聞く為というよりも、ある種の本気を見せてみろ、というものだと思う。
なら当然、多少の本気は見せるしかあるまい。
俺は本質を解き放ち、覇気を解放…周囲に僅かな悲鳴や呻き声が漏れた。
明日奈は依然として毅然としており、むしろ俺に合わせるかのように強い意思を感じる。
「俺は…明日奈や家族、仲間や友人、俺の周りの大切なものを守る為なら、どんな力も惜しみません。
それに俺の周りを害そうとするのなら、正攻法で徹底的に叩きのめす! それだけですよ…」
最後に言葉を区切って、俺は覇気を収めた。一同、大きく深呼吸をした。素人には相当にきつかっただろうな。
平然としていた明日奈はさすがというか、もう完全に俺に馴染んでいるんだな。
いまの俺を見た周囲の親族達は完全に
彰三さん達も安堵と共にまた息を吐いた、さすがにやりすぎたか…。
「それでは、時間が掛かってしまったが夕餉としよう」
とにかくにも、ようやくと言っていいほどに夕食となった。
「はぁ~……どっと疲れた…」
「そ、そうだね…」
会食を終えて明日奈の客間に戻ってきた俺と明日奈は揃ってベッドに身体を沈めた。
食事自体はもう恙なく進み、大人達に酒が入り始めた頃から空気も穏やかなものになった。
まぁ1人の娘の婚約が決まったのだ、めでたくないわけがなかったのだろう。
後半にはなんか一部が酔っぱらってか高笑いしていたり…。
さらに問題なのは俺の背後関係を知り、是非とも取り入ろうとする人達からの酌だったりするのだが、逆に酔い潰したり…。
もうカオスになりつつあったので抜けてきたわけだ。
「和人くん、本当にお酒に強いんだね…」
「正月っていうことで助かったというか、無礼講とは便利な言葉だ…」
明日奈の言葉に対し、俺は苦笑しながらそう応えた。真面目にアレ以上注がれていたら、危なかったかもしれない。
『パパもママも、大丈夫ですか?』
「「ユイ(ちゃん)の声を聞いたら少しは元気になった」」
再び端末に電源を入れて愛娘の声を聞くことが出来れば、真面目に少しは元気が出て、かなり癒された。
ここではALOにダイブ出来ないからユイと一緒に眠れないのが悔やまれる…。
「今日はシャワーで済ませようかなぁ…」
「一緒に浴びるか?」
「…うん///」
明日奈の呟きに問いかけてみれば、恥ずかしそうにしながらも頷いた。
この後、2人で一緒にシャワーを浴びて、かなり早めだが10時頃に就寝することになった。
言っておくが、今回は普通にシャワーを浴びて、普通に一緒に寝ただけだからな。
和人Side Out
To be continued……
後書きです。
はい、こんな感じの和人の紹介話になりました~。
やはり番外編とは少々内容を変えさせていただき、和人の詳細をより詳しくしました。
次回は京都でのイチャラブ回になります、コーヒーを用意して待機せよ!
それでは・・・。
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第14剣です。
和人さんが結城家の親類に紹介されます。
どうぞ・・・。