No.59230

曹魏アフター・封神伝01

上弦さん

前回の封神伝00の続きです。
まだ曹魏メンバーが出せなかったことに後悔しつつ投稿しました。

2009-02-20 15:52:41 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:8049   閲覧ユーザー数:6374

「え~。それで、ここは何処?」

「ふむ、どこかと言えば…どこでもない」

 

 意味が分からない。

 東京でもなければ、許昌でもない、まさか死後の世界とでもいうのだろうか。

 それなら500年(元の世界から考えると3000年)以上前の人物が自分の目の前であんまんを食べていてもおかしくないかもしれない。

 そんなことを考えると途端に気分が落ち込んでくる。

 

「その様子からすると死後の世界とでも考えたか?」

 

 すぐに一刀の表情を読み取った太公望は意地の悪るそうな笑みを浮かべて言う。

 

「違うの?」

「違うな。余は勿論、お主もちゃんと生きておる」

「じゃあ、周?それとも斉?」

 

 記憶の中で覚えている太公望が登場する歴史を紐解く。

 確か太公望は周で軍師をした後、斉を立てたことになってる。

 

「ふむ、顔に似合わず博識じゃな。加えて言うなら周の前には殷にもいたな」

「顔に似合わず…って」

「じゃが、周でも斉でもないし、殷でもない」

「じゃあ、どこ?」

「だから、どこでもないと言っておろう。意味が分からんのであれば、もっと頭を使って考えよ」

 

 若いうちは使えるだけ頭を使っておけと付け加えると、あんまんを食べ終えたのか、紙袋を丸めて捨てて、今度は茶を淹れ始める。

 そして、また椅子に座ると「悩め、悩め」と笑いながら茶を飲みながら一刀を見る。

 どうやら、素直に教えてくれる気はさらさら無いらしい。

 

(三国時代でも周でも斉でもない。じゃあ…)

 

「ちなみに他の時代でも南蛮でもないぞ」

 

 考えようとしていたことを先読みされて否定された。

 元の世界も違う、三国志の世界でもない、太公望が登場する周や斉でもない。その上、他の時代でもない。

 これは実質、答えを全て叩き潰されたことになる。

 これで、答えを教えずに答えを考えろと言うのだから性格が悪い。

 

「う~~~~~ん」

「頭が硬いの。もっと単純に考えられんのか?」

「いや、考えられる答え全部否定した人が言うことか」

「何を言っておる。余はどんどん答えを簡単にしておるぞ。これで分からんのならお主が馬鹿だ、ということじゃ」

「な!?」

 

 そりゃ、名軍師と言われた太公望と比べたら頭は良くないかもしれないけど、こんな答えのないような問題、分かるはずがないじゃないか。

 一刀は太公望の言葉にむっとしながら、再び考えはじめる。

 

「……太公望の部屋?」

「ふぅん、やっと分かったか。少しばかり時間が掛ったが、合格としてやろう」

 

 太公望は残っていた茶を飲むと机に置いた。

 

「世界とは認識されて初めて存在する。井の中の蛙にとって、例え外に無限の大地や海があっとしても、それを認識できていなければ蛙にとっての世界は井の中だけということじゃな」

「でも、さっき太公望が入ってきた扉の外にはちゃんと世界があるんだろ?」

 

 そう言うと太公望は水色の目を細めて笑みを浮かべると、何も言わずに入ってきた扉の方へ歩いて行く。

 そして、扉を開け放ち、扉の外を部屋の外の光景を俺に見せた。

 

「な…」

 

 扉の外の光景に一刀は絶句した。

 扉の外には何もなく、明るいとも暗いとも言えない空間が続いていた。

 よくよく部屋を見渡せば扉はあっても外の景色が見える窓は一つも存在していない。

 

「この部屋の外にも世界は存在する。しかし、この世界はこの部屋一室だけ」

「ちょっと待ってくれ!なら、あのあんまんは…」

「感謝しろよ。余が釣ってやらなければ、お主はこの空間で意識が霧散して消えてしまっていたところなのだからな」

「う…マジですか」

 

 何気に死にかけていた事実に驚く。

 しかし、釣ってって…。

 

「さて、ここが何処だか分かったところで本題に入るとしよう」

 

 

「北郷一刀、お主は曹操たちの元に戻りたいか?」

「戻れるのか?」

「戻れる」

 

 太公望は即答する。

これまでと同じ底意地の悪そうな笑みを浮かべているが、からかいの言葉がないところを見ると嘘や冗談ではなく、本当に華琳たちのいる世界に戻る方法があることが分かる。

ならばさっきの問いの答えは、すでに決まっている。

 

「戻れるなら皆の、華琳たちの元に帰りたい」

 

 一刀は迷いなく答えた。

 守るべき約束がある、果たすべき約束もある。

 なら、この答えに何の迷いもない。

 

「いいのか?戻ったら元の生まれた世界に帰ることはできなくなるぞ?」

「う……」

 

 太公望に言われ、脳裏に父や母、祖父に学園の悪友の顔が浮かんだ。

 いい息子でいたが分からないが、ここまで自分を育ててくれた父母、剣術を教えてくれた祖父、なんだかんだで仲のよかった悪友の及川。

 あの世界にいるときは戦戦で生きることに必死で考える暇がなかった。

 それでも…。

 

「それでも、華琳たちのいる世界に帰りたい」

「後悔しないのか?」

「後悔はすると思う。けど、それは元の世界に帰っても同じだと思う」

 

 そう後悔する。

 それでも、同じ後悔をするぐらいなら、今の自分の心が赴くままに生きたい。

 

「そうか。ならば、何も言うまい」

 

 太公望は短く息をつくと、扉を閉めた。

 

「ふむ、実の親より愛した女達を選ぶか」

「う…。やっぱり、親不孝者かな」

「否定はすまい。しかし、ウジウジ悩むよりはよっぽど良い」

 

 太公望はカカカと機嫌よさそうに笑う。

 

「では、とっとと行くとするか」

 

 ひとしきり笑ったあと、そう言うと太公望は壁に掛けてあった白い鞭を掴み、それを腰に装備すると懐から何か書いてある札を取り出した。

 

「ほれ、いつまで寝ているつもりだ。とっとと出発するぞ」

「ちょっ…いきなり、どこに」

「どこもかしこもあるか、帰るのだろう?愛しい女達がいる世界に」

「お、おう!」

 

 行き先を聞いて一刀の顔に笑みが浮かべると、大きく頷いた。

 

「しかし、丸腰で戻るのでは格好がつかないの」

「いや、別に戦いに行くわけじゃないんだし」

「なにを言う。愛しの女達の元へ帰るのなら少しでも着飾るのは当たり前であろう」

 

 そう言うと太公望は床に這いつくばって寝台の下を漁り始める。

 すると下からは何だかわからないものがゴロゴロと出てきた。

 目が少女漫画風のダルマに足を入れる口のない長靴、桃色の表紙の本に其処ら中にこぶのある瓢箪…etc、etc。

 中にはアンモナイトの化石のようなものまで転がって出てくる。

 

(四次元ポケット?)

「余の趣味は釣りでの。釣ったものは全部この下にいれているのだ」

「釣ったって…。どこに釣りに行けば、こんなもんが釣れるんだよ」

「そこの扉の外じゃ」

 

 一刀におしりを向けたまま、太公望は先ほど開けた扉を指差した。

 

「お主もそこで釣れての。もし余が帰ってきてまだ寝ておったら、お主もこの中に入れる予定だったからな」

「ちょ、冗談だろ?」

「クク…。どうであろうな」

 

 どうやら本気だったようだ。

 わけのわからないものに囲まれて寝台の下で目覚めるなんて冗談じゃない。

 

「お、あったあった」

 

 目的のものが見つかったのか、太公望は這いつくばったままバックしながら寝台のしたから出てくる。

 寝台の下から出てきた太公望の手には一振りの刀が握られていた。

 

「銘は分からないが大きさ的にお主に調度よかろう。これを腰に指しておけば少しは見栄えがするじゃろう」

「えぇ!いいのかよ」

「良い。どうせ余が持っていても意味がないからな」

 

 一刀は刀を腰に差すと寝台の下から出した物を片付けている太公望を見る。

 片付けるといっても再び寝台の下に入れているだけなのだが、一体あの寝台の下はどうなっているのだろうか。

 明らかに寝台の下に収まるはずのない量の物体が突っ掛かることなくスムーズに入っていく。

 あんな未知の領域に入れられそうになっていたかと思うと一刀は血の気が引いた。

 

「ふむ、これもお主にやろう」

 

 あらかた片付くと太公望は床に一冊残った桃色の本を拾いあげると一刀に手渡した。

 渡された本を開いて見ると、そこには濃厚な桃色の世界が広がっていた。

 

「どうじゃ、すごいじゃろ。殷の紂王も愛読して逸品じゃ、そこの最初に載っている娘が自称女媧を名乗っていての。まさか自分が原因で殷が滅びようとは思わなかったんじゃろな」

 

 太公望は実に楽しそうに語っている。

 しかし、一刀は濃厚な桃色の世界に夢中でほとんど聞こえていない。

 

「な、なんでこんなものがここに」

「ふむ、殷を抜ける際に何か面白いものはないかと思っての。まぁ、紂王本人は妲己がいたから困りはしなかっただろうしの」

 

 一刀は無言で本を閉じると突き返す。

 稟ではないが、これ以上見ていたら今にも鼻血を吹きそうだった。

 

「なんじゃ、いらんのか?復刻版は諸葛亮や董卓も愛用していたほどのものだぞ」

「いや、それは嘘だろ」

 

 

「さて、準備も整ったところで本当に行くするか」

 

 太公望は扉に先ほど取り出した札を一刀に手渡した。

 

「これを扉に貼ってみよ」

 

 太公望に言われたとおりに渡された札を張ると扉が鏡へと変化する。

 

「よいか、帰りたい世界を心に思い描け」

 

 言われたとおり、華琳たちのいる世界を思い描く。

 部隊を率いた大地を、彼女らと歩いた街を、そして城を…。

 すると、それまで一刀を映していた鏡面に変化が起きて、見覚えの風景が映し出された。

 

「これは…許昌」

 

 見間違えるはずのない光景だった。

 華琳と本を探して回った本屋、春蘭や秋蘭、季衣や流々といった飯屋、凪たち3人とよく立ち寄った店、張三姉妹の事務所。

 許昌の街中に思い出があった。

 

「うまく思い描くことができたようじゃな」

「みたいだけど、これでどうすればいいんだ?」

「ふむ、あとは…」

 

 太公望は何故か一刀の背後に回る。

 この何故かに嫌な予感しか感じないのは思いすごしであることを願う。

 しかし、嫌な予感はすぐに実現した。

 

「勢いよく飛び込めッ!!」

 

 振り向こうした一刀の背中を太公望は思いっきり蹴り飛ばした。

 突然の強襲に一刀は前のめりになって許昌の風景を写した鏡に頭から突っ込んだ。

 

「ウオッ!?」

 

 すると鏡が割れる音と共に鏡の中に飲み込まれた。

 

「うまく世界と繋がったようじゃな」

 

 一刀が飲み込まれた鏡の穴をみて、太公望は感心したような声を洩らす。

 

「少しばかり荒業だったが、うまくいったのであれば良いか。本人の力か、英雄たちとの絆が織り成した奇跡か。クク…実に面白いな」

 

 そう言うと太公望もまた一刀が入って行った穴へと近づく。

 

「余が動いたとあれば、ムッツリチビやホモメガネも何かしてくるだろうな」

 

 穴の淵に手をかけたまま、真剣な表情する太公望。

 

「まぁ、その時はその時でよかろう」

 

 そう言って太公望は穴に入って行った。

 

 

 突然、背後から太公望に蹴られ鏡に突っ込んだあと、一刀が感じたのは勢いよく通り過ぎていく空気の音と思いっきり落ちているということがはっきりと分かるほどの落下感だった。

 

「うぎゃ――――――!!」

 

 迫ってくる地面を見て叫ばずにいられない。

 明らかにベッドから落ちるとか、そんなレベルの高さからの落下じゃない。

 もうなんて言うか紐無しでバンジーをやっている気分、これは冗談抜きで確実に死ねる高さなのが無意識で分かる。

 そして、勢いよく一刀は地面に叩きつけられた。

 

「ゲホッゲホッ。い、生きてる?生きてるよな?よかったぁ~」

「なんじゃ?まだ、自分が死んでいるとでも思ったのか?」

 

 何で生きているのかとか、なんで落ちたのかとか分からないこともあるが、とりあえず生きていることに喜びを感じていると、隣に太公望がスタッと綺麗に着地してきた。

 スタッ…って、同じ高さから降りてきたと思うのだが、何故そんなにも普通に降りてこれるのか。

 とりあえず、気になることが多いが聞いていたらきりがないのやめた。

 

「それで、ここってどこ?許昌じゃないみたいだけど」

「ふむ、どうやら正確に場所を指定することはできなかったみたいじゃな」

「じゃあ、太公望にもここがどこか分からないってこと?」

 

 立ち上がり周囲を見渡すと三国志の世界であるとこは分かるが、ここが魏なのか呉、まは蜀なのか分からない。

 

「一応お主がいた三国志の世界から1年後の世界ではあるがな。それとな…」

「ん?」

「余のことは久遠でよい」

「久遠?それって太公望の真名」

「うむ、お主はなかなか面白いからな余の真名を許そう」

「面白いって…。まぁ、とりあえずよろしく久遠。俺のことも一刀でいい」

「そうか。では一刀よ、お主の女たちが待つ魏へと向かうとするか」

「おう」

 


 
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