No.590404

ソードアート・オンライン 黒と紅の剣士 第十話 ボス争奪戦

やぎすけさん

初の挿絵ありです。

2013-06-23 14:35:28 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2310   閲覧ユーザー数:2261

デュオ視点

帰宅後すぐにナーヴギアを起動させ、俺はALOへとダイブした。

ログイン直後、俺はウインドウを開き所持品の中に“あれ”があるのことを確認してから、22層のホームを飛び出し、飛翔して訓練場を目指す。

22層の森の奥、ちょうどキリトとアスナがユイを見つけたという場所の近くに、開けた場所がある。

プレイヤーはほとんど来ることがなく、邪魔する物もないので、俺とキリトが隠し技を練習したり、全力でデュエルする際に使用している。

目的地に着くと、そこには何やら複雑な表情のキリトが立っていた。

 

デュオ「待たせたなキリト。さて始めるか。」

 

ウインドウを開き、背中の剣に手をかけて言うと、キリトがそれを遮った。

 

キリト「デュオ、悪いが練習する時間はない。スキルを渡したらすぐに27層に向かうぞ。」

 

そう言うと、キリトはウインドウを開き【剣技伝承】を行う。

 

デュオ「何かあったのか?」

 

キリト「さっきリズに聞いたら、アスナたちはもうボス攻略に出たらしいんだ。」

 

俺の問いに、キリトはウインドウを操作しながら答える。

 

デュオ「なるほど。そうなると、アスナたちがやられる前にゴキブリ退治(おおそうじ)を終わらせないと、また横取りされるから急がないとならないわけか。」

 

キリト「そういうことだ。」

 

そこまで話したところで、キリトが操作を終わらせてウインドウを閉じる。

 

デュオ「了解。それじゃどっちが先に着くか競争といこうぜ。」

 

キリト「いいぜ。負けたら何か奢れよ。」

 

デュオ「勝てたらな。」

 

俺たちはお互いに顔を見合わせて不敵に笑うと、同時に翅を広げて飛び立った。

アスナ視点

わたしたちがボス部屋の前に到着すると、そこには大勢のプレイヤーたちが集まっていた。

種族はバラバラだが、全員カーソルの横に同じギルドエンブレムがついている。

 

アスナ〈間に合わなかった・・・!?まさかこんなに早くメンバーを集めるなんて・・・〉

 

と、そこまで考えて内心歯噛みしてから、わたしはあることに気付いた。

よくよく数えてみると、プレイヤーの数はおよそ20人といったところで、連結部隊(レイドパーティー)の上限である49人の半分以下しかいない。

ということは恐らく、まだ参加メンバーが集まり切っていないのだろう。

わたしはさすがに口許を結んでいるユウキの隣に歩み寄ると、紫紺のロングヘアに隠された耳に口を寄せた。

 

アスナ「大丈夫、1回は挑戦できる余裕はありそうだわ。」

 

ユウキ「・・・ほんと?」

 

ほっとしたような顔を見せるユウキの肩をぽんと叩き、わたしはつかつかと集団へ歩み寄った。

全員がまっすぐ視線を注いでくるが、彼らの顔に驚きや緊張はない。

それどころか、展開を楽しんでいるかのような弛みが見て取れる。

それを無視して、わたしは集団の手前に立ち、ひときわ高級そうな武装をまとったノームの男性プレイヤーに話しかけた。

 

アスナ「ごめんなさい、わたしたちボスに挑戦したいの。そこを通してくれる?」

 

だが、太い腕を見せつけるように前に組んだノームは、わたしが予想だにしなかったひと言を口にした。

 

ノーム「悪いな、ここはいま閉鎖中だ。」

 

アスナ「閉鎖・・・って、どういうこと・・・?」

 

唖然として訊き返すと、ノームは大げさに眉を上下させ、何気ない口調で続けた。

 

ノーム「これからうちのギルドがボスに挑戦するんでね。いま、その準備中なんだ。しばらく待っててくれ。」

 

アスナ「しばらくって・・・どのくらい?」

 

ノーム「ま、1時間てとこだな。」

 

事ここに至って、ようやくわたしは彼らの意図を理解した。

彼らは、ボス部屋前に偵察隊を配置して情報収集に当たらせるだけでなく、攻略に成功しそうな他集団が現れた時には、更に多人数の部隊でダンジョンを物理的に封鎖するということを行っているのだ。

それに気付いたわたしは、自然に口が尖がりそうになるが、それをどうにか堪えて言った。

 

アスナ「そんなに待っている暇はないわ。そっちがすぐに挑戦するっていうなら別だけど、それができないなら先にやらせてよ。」

 

ノーム「そう言われてもね。こっちは先に来て並んでるんだ。順番は守ってもらわないと。」

 

アスナ「それなら、準備が終わってから来てよ。わたしたちはいつでも行けるのに、1時間も待たされるなんて理不尽よ。」

 

ノーム「だから、そう言われても、俺にはどうにもできないんだよ。上からの命令なんでね、文句があるならギルド本部まで行って交渉してくれよ。イグシティにあるからさ。」

 

アスナ「そんなとこまで行ってたら、それこそ1時間経っちゃうわよ!」

 

悪びれる様子もなく言うノームについ大声で言い返してから、わたしは唇を噛んだ。

とりあえず深呼吸して、自分を落ち着かせる。

何とかして彼らに道を譲ってもらう方法を考えるが、何も浮かばず立ち尽くしてしまう。

その様子をノームは交渉終了と見たのか、こちらをじろりと一瞥してから、身を翻して仲間の方へ戻ろうとした。

すると、その背中に向かって、わたしの斜め後ろにいたユウキが言葉を投げかける。

 

ユウキ「ね、君。」

 

立ち止まり、肩越しに振り返るノームに、ユウキはいつもの元気な声で訊ねた。

 

ユウキ「つまり、ボクたちがこれ以上どうお願いしても、そこを退いてくれる気はないってことなんだね?」

 

直截なユウキの物言いに、ノームもさすがに1度瞬きしたが、すぐに傲岸な態度を取り戻して頷く。

 

ノーム「ぶっちゃければ、そういうことだな。」

 

ユウキ「そっか。じゃあ、仕方ないね。戦おう。」

 

ノーム「な・・・なにィ!?」

 

アスナ「ええっ?」

 

にっこりと笑みを浮かべて言ったユウキの短い言葉に、驚きの声が漏れた。

 

アスナ「ゆ・・・ユウキ、それは・・・」

 

わたしが言葉を詰まらせると、ユウキは笑みを消さずに、わたしの背中を、ぽん、と叩いた。

 

ユウキ「アスナ。ぶつからなきゃ伝わらないことだってあるよ。例えば、自分がどれくらい真剣なのか、とかね。」

 

ジュン「ま、そういうことだな。」

 

背後で、サラマンダーのジュンが相槌を打つ。

振り返ると、スリーピング・ナイツの全員が平然とした態度で、それぞれの武器を握り直している。

 

アスナ「みんな・・・」

 

ユウキ「封鎖してる彼らだって、覚悟はしているはずだよ。最後の1人になっても、この場合を守りつづける、ってね。」

 

ユウキはノームに視線を戻すと首を傾げる。

 

ユウキ「ね、そうだよね、君。」

 

ノーム「あ・・・お、俺たちは・・・」

 

まだ驚き覚めやらぬ様子の男の正面で、小柄なインプの少女は腰の長剣を音高く抜き、ぴたりと切っ先を宙に据える。

口許の笑みを消し、瞳に真剣な光を浮かべて。

 

ユウキ「さあ、武器を取って。」

 

ユウキのペースに呑まれたように、ノームは腰から大ぶりのバトルアックスを外すと、ふらりと構えた。

次の瞬間、小柄なインプの少女は、一陣の突風となって回廊を駆けた。

 

ノーム「ぬあっ・・・」

 

ようやく状況を理解したらしいノームが鼻筋にシワを寄せて太く唸ると、すぐに巨大なバトルアックスを振りかぶる。

だが、その動きはいかにも遅すぎた。

黒曜石の剣は闇色の軌跡を残して跳ね上がり、男の胸の真ん中を捉える。

 

ノーム「ぐっ!」

 

ユウキより遥かに体格のいいノームは、その一撃だけでぐらりと体勢を崩した。

そこに、真っ向正面の上段斬りが襲いかかる。

重い音を立ててノームの肩口に剣が食い込み、HPゲージを派手に削り取る。

 

ノーム「ぬおおおお!!」

 

ついに男は怒りの雄叫びを上げ、両刃の大斧を右斜め上からユウキに叩き付けようとした。

さすがに有名ギルドのパーティーリーダーを張るだけあって、そのスピードは中々のものだったが、【絶剣】は慌てる様子もなく剣を一閃。

キィン!

と甲高い金属音が響き、斧はわずかに軌道を逸らされて、ユウキの赤いカチューシャの数㎝上を通過した。

全力の攻撃をいなされ、たたらを踏むノームを、水色の輝きを帯びたユウキの剣が追撃する。

面打ち、斬り下ろし、斬り上げ、全力の上段斬りの垂直4連撃【バーチカル・スクエア】。

 

ノーム「ぐはっ・・・!」

 

悲鳴とともに巨漢は数m吹き飛ばされ、床に倒れ込んだ。

HPは一気にレッドゾーンまで到達している。

自分でもそれを確認したのだろう、一瞬右上を見た両眼が零れんばかりに丸くなった。

その視線が再びユウキに戻ると、驚愕の表情が、たちまち憤激に変わる。

 

ノーム「きっ・・・たねぇ不意打ちしやがって・・・!」

 

やや的外れな罵りとともにリーダーが立ち上がった段階で約20人の仲間たちもようやく意識を戦闘モードに切り替えたようだった。

前衛職がばらばらっと回廊いっぱいに広がり、次々に武器を抜く。

反射的にわたしも、世界樹のワンドを握りしめながら、先刻のユウキの言葉をリフレインさせる。

 

アスナ〈ぶつからなきゃ伝わらないこともある・・・か。そうか・・・そうだよね・・・〉

 

心の中でそう呟いた時、わたしは無意識の微笑みを浮かべていた。

わたしはブーツの踵に決意を込めて一歩踏み出し、ユウキの隣に並んだ。

更に、ジュンとシウネーが右側に、テッチ、ノリ、タルケンが左側に立つ。

たった7人のパーティーが放つ何かを感じたのか、3倍の敵勢が一歩下がった。

ボス部屋前の回廊に、静寂と緊迫した空気が広がる。

それを破ったのは、後方から殺到してくる無数の靴音だった。

わたしたちの頭越しに回廊の後方を見たノームが、にやりと勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 

アスナ〈そんな、このタイミングで・・・!?〉

 

息を詰めながら振り向いたわたしの視界に、無数のカラーカーソルが重なって表示された。

ギルドタグは、大半が【三日月に矢】という目新しいものだが、一部に例の【盾に馬】が混じっている。

ということは、やはりノームたちの待っていた連結部隊(レイドパーティー)のもう半分だ。

人数は恐らく、30近いはずだ。

いくらスリーピング・ナイツが強力なギルドでも、7倍の相手に挟撃されたら勝ち目はない。

 

アスナ〈わたしが、くよくよ迷ってたから・・・〉

 

わたしは悔悟の念とともに強く唇を噛んで、「ごめん」と口にしようとしたその時、ユウキがそっと手を触れさせた。

仮想の肌を介して、ユウキの気持ちが伝わってくる。

 

ユウキ〈ごめんね、アスナ。ボクの短気に、アスナも巻き込んじゃって。でもボク、後悔はしてないよ。だってさっきアスナ、出会ってからいちばんいい顔で笑ったもん。〉

 

脳内に直接響くようなその囁き声に、わたしはユウキの手を握り返して応じた。

 

アスナ〈わたしこそ、役に立てなくてごめん。この層は無理かもしれないけど、次のボスは絶対みんなで倒そう。〉

 

わたしたちのやり取りは、シウネーたち5人にも伝わったようだった。

全員がぐっと頷き、円陣を作って前後に構える。

後方の30人はすでにギルドメッセージか何かで状況を伝えられているらしく、全員が抜剣済みだ。

かくなる上は、戦えるところまで戦うだけ。

そう覚悟を決め、攻撃スペルの詠唱を始めるべくワンドをかざした。

それを見た、敵集団最前列を走るケットシーの鉄爪(クロー)使いが、肉食獣めいた笑いを浮かべて叫んだ。

 

ケットシー「往生際悪ぃん・・・ぐわっ・・・!?」

 

だが、勝ち誇ったその台詞が最後まで発せられるより早く、どこからともなく飛来した2本の直剣がケットシーの両脇腹に突き刺さった。

そして、またしてもわたしを含めこの場の全員が想像もしていなかった事象が出現した。

 

ノリ「あっ・・・あれは・・・!?」

 

最初にそれに気付いたのは、暗視能力に長けたノリだった。

1秒後、わたし自身もそれを目視する。

わずか20m先まで迫っていた敵増援部隊の更に後方。

回廊の、ゆるく湾曲する左右の壁面上を、誰かが横向きになって疾駆してくる。

あまりのスピードゆえに2つの人影は黒と赤に霞んでいる。

あれは、軽量級妖精の共通スキル、【壁走り(ウォールラン)】だ。

使えるのは、シルフ、ウンディーネ、ケットシー、そして、インプとスプリガン。

だが、普通はせいぜい10mが限界なのに、人影はすでにその3倍は走っている。

そこまで認識した時点で・・・いや、もしかしたら朧な影を眼にしたその瞬間から、わたしは乱入者が誰なのかを確信していた。

人影は、超高速の壁走りで増援部隊を丸ごと追い越すと悠々と床に飛び降り、靴底のスパイクから盛大に火花を散らしながら制動。

敵主力とスリーピング・ナイツの中間地点で、お互いに背中を合わせるようにして停止した。

1人はぴったりとしたレザーパンツに、同じく黒のロングコート。

レイヤーの効いた短い黒髪と、背にはやや大振りな片手用直剣。

これまた黒革の鞘には、純白の飛竜(ワイヴァーン)が箔押しされている。

もう1人の方は黒いシャツと茶色のレザーパンツ、その上に紅いロングコート。

背に吊るされた両手剣は、鞘に収まっておらずベルトで留められている。

漆黒と真紅の剣士は、全く同じ動作で背中からそれぞれの剣を引き抜くと、じゃりいぃん!と盛大な音を立てて足元の石畳に突き立てた。

気迫に呑まれたかのように、30人の手練れたちがばらばらと立ち止まる。

続けて発せられた台詞は、偶然にも、先刻ノームの戦士がこちらに対して放ったものと酷似していた。

 

キリト「悪いな、ここは通行止めだ。」

 

気負いは皆無だが、びんと響くその声に、新参の30人のみならず、先に来ていた後ろの20人、そしてスリーピング・ナイツの面々までもが絶句した。

余りにも不遜なその振る舞いに、最初に反応したのは増援部隊の先頭に立つ痩身のサラマンダーだった。

暗赤色の長髪を揺らしながら、信じられないとばかりに大きく頭を振る。

 

サラマンダー「おいおい、【黒ずくめ(ブラッキー)】先生に【血の色(ブラッディー)】先生よ。幾らアンタらでも、この人数をデュエットで食うのは無理じゃねぇ?」

 

キリト「どうかな、試したことないから解んないな。」

 

ひょいと肩をすくめて発した、人を食った言いように、サラマンダーは苦笑しつつ右手を軽く持ち上げた。

 

サラマンダー「そりゃそうだ。ほんじゃ、たっぷり味わってってくれ。・・・メイジ隊、焼いてやんな。」

 

パチン!と指が鳴らされると、集団の後方から、スペルワードの高速詠唱が聞こえてくる。

咄嗟に回復魔法を唱えたくなるが、後ろでじりじりと間合いを計る先遣隊がそれを許さない。

その時、スプリガンの闖入者が初めてわずかに振り向いた。

左頬に浮かぶ不敵な笑みは、アバターこそ変われど、出会ってから今日まで数限りなく見せたものとまったく同じだった。

直後、人垣の奥で発生したスペル射出の輝きが、笑みをシルエットに変えた。

キリトくんは、向かってくる高レベルの攻撃魔法に動じることなく、床から剣を引き抜く。

右肩に担いで構えた長剣が、その刃に深紅色のライトエフェクトを宿した。

次の瞬間、色とりどりの閃光と轟音、そして50数人分の驚愕が狭い回廊を満たした。

キリトくんが放った7連撃【デッドリー・シンズ】が、殺到する攻撃魔法を全弾空中で迎撃、いや《斬った》のだ。

あれはキリトくんが独自で編み出したシステム外スキル、【魔法破壊(スペルブラスト)】。

ほとんどソリッドな実体を持たない攻撃魔法を、ソードスキルで斬るという離れ技。

わたしやリーファちゃん、クラインさん、エルちゃんもキリトくんに付き合って練習したが、3日でギブアップさせられたほとんど使用不可能な神技である。

これは、キリトくんが【ガンゲイル・オンライン】という異世界にコンバートし、そこで得た《銃弾を剣で斬る》実戦経験から習得したものだ。

「どんな高速魔法も対物ライフルの弾丸よりは遅い。」と真顔で宣う彼に、わたしは久々に3秒以上絶句させられた。

以上のような理由で、魔法破壊(スペルブラスト)使えるのは、キリトくんとその相棒であるデュオくんの2人だけ。

 

サラマンダー「・・・なンだそりゃ・・・」

 

プレイヤーA「魔法を斬ったぞ。」

 

プレイヤーB「偶然じゃなくて?」

 

プレイヤーC「これだから・・・」

 

回廊の前後から、驚きの声が沸き起こる。

しかしさすがに攻略ギルドを名乗るだけあって、反応は素早かった。

サラマンダーの指示で前衛たちも武器を抜き、遊撃が弓矢や長柄を構え、後衛が再度スペルの詠唱を始める。

今度は【単焦点追尾(シングルホーミング)】だけでなく、【多焦点追尾(マルチホーミング)】型や【広範囲曲弾道(エリアバリスティック)】型まで含まれているようだ。

キリトくんはもう一度振り向くと、左手の指を3本立ててみせた。

「3分間は防いでおく。」という意味なのだろう。

ここでやっと、わたしは2人がなぜここに現れたのかを悟った。

彼らは、わたしたちがボス攻略に挑むと聞いた時点で大手ギルド同盟の妨害が入ることを予想していたのだ。

3分。

180秒。

森の家では瞬きする程の速度で過ぎてしまう時間だが、対人戦では途轍もなく長い。

あの2人の実力が驚異的なのは知っているが、これだけの人数を相手してそれだけの時間食い止められるのだろうか。

わたしは、2人に援護を回すべきかと思ったが、その迷いをつの出来事が断ち切った。

まず、2人が左手も背に回すと、そこに実体化した2本目の剣の柄を握り、澄み切った音を響かせて引き抜いた。

深い黄金色の刀身を備える、空恐ろしいほど流麗なロングソード。

地下世界ヨツンヘイムの空中迷宮最深部に封印されていた伝説級武器(レジェンダリーウェポン)、【聖剣エクスキャリバー】と、そのレプリカ【偽剣カリバーン】。

久々に二刀流を装備したキリトくんと、初めて見るデュオくんの二刀流は、この上ない頼もしさを漂わせている。

黄金の長剣が放つ圧力に、増援部隊がじりっと下がった。

その動揺を狙い撃つかのように、隊列の最後方から、威勢のいい雄叫びが上がった。

 

クライン「ウオリャアアア!オレもいるぜェ、見えねーだろうけどな!!」

 

あまり品が良いとは言えない胴間声は、間違いなく古なじみのカタナ使い、クラインさんのものだ。

思わずつま先立ちになると、プレイヤーたちの頭の向こうに、悪趣味なバンダナと逆立てた赤い髪だけがギリギリ見えた。

 

キリト「遅いよ、何やってたんだよ!」

 

クライン「悪ぃ、道迷ったわ!」

 

よろり、と傾きそうになってから体を立て直したわたしは、最後にキリトくんの胸ポケットからこちらに手を振っている小さな人影に気付いた。

ナビゲーション・ピクシーにして、わたしとキリトくんの娘のユイだ。

愛らしい笑顔が、胸に温かくしみ込む。

 

アスナ〈ありがとう、ユイちゃん。ありがとう、クラインさん。ありがとう、デュオくん。大好きだよ、キリトくん。〉

 

言葉に出さずにそう念じてから、わたしは隣のユウキに囁きかけた。

 

アスナ「あっちは任せておいて大丈夫。わたしたちの仕事は、後ろの20人を突破してボス部屋に入ること。」

 

ユウキ「うん、解った。」

 

ぱちぱちと何度も瞬きを繰り返していたユウキは、すぐに歯切れのいい声を返した。

くるりと振り向くと、いきなりソードスキルで仕掛けるらしく、長剣を大上段に振りかぶる。

紫色のライトエフェクトを受けながら、右翼のジュンとシウネー、左翼のテッチ、ノリ、タルケンも武器を構える。

状況を把握しきれていない様子だった先遣隊20人とそのリーダーのノーム戦士も、こちらのアクションに気付き、さすがの即応力で迎撃態勢を取った。

 

サラマンダー「発射!!」

 

デュオ「ファイヤーウォール!!」

 

背後で、さっき以上の大音響が轟いたのを合図に、わたしも叫んだ。

 

アスナ「・・・行くよ!」

 

ユウキを先頭にくさび形フォーメーションを作ったわたしたち7人が一気に床を蹴ると、ノームたちも雄叫びを上げて突っ込んでくる。

双方が激突した瞬間、ががぁん!!という衝撃波が炸裂し、立て続けに幾つものライトエフェクト弾けた。

たちまち秩序なき混戦が始まり、回廊のこちら側もまた剣戟の音に満ち溢れた。


 
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