No.557652

IS インフィニット・ストラトス ~転入生は女嫌い!?~ 第六十話 ~クロウ、楽しむ~

Granteedさん


メイド1「網よ!網を持って来て!」

メイド2「いや、それよりも麻酔銃よ!急いでクロウ・ブルーストをキャプチャーするわ!!」

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2013-03-21 21:11:53 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:7327   閲覧ユーザー数:6832

 

「こちらアルファ1。対象はお嬢様と一緒に大英博物館から出てきました」

 

『こちらHQ、了解。追跡を続行せよ』

 

通信が完了すると無線を切る。普段着で一般人を装いながら人影に隠れたまま、隣にいる相棒へと声をかける。

 

「お嬢様、幸せそうね」

 

「ああ、私の前にもいい人現れないかなぁ……」

 

そんな二人の視線の先にいたのは学生風のサマードレスを優雅に着こなす女性と、膝下まで届くロングコートを羽織った男性だった。

 

 

 

(ゆ、夢の様ですわ……)

 

セシリアは隣のクロウを見上げながらゆったりと歩いていた。脇を歩く私服姿のクロウはその雰囲気も相まって、とても同学年とは思えない。

 

「どうしたセシリア、何か考え事か?」

 

「い、いえ!何でもないですわ!!」

 

クロウが立ち止まってセシリアの顔を覗き込んできた。思わず顔を背けてしまうが、すぐさま後悔する。

 

(ああ!折角クロウさんが気にしてくれたと言うのに……)

 

自分でも分かる。今頃自分の頬は林檎の様に真っ赤になっているだろう。学園では問題無く顔を突き合わせて会話が出来たと言うのに、今はクロウの一言一言に過剰なまでに反応してしまっている。

 

「次はどこに行くんだ?」

 

「え、ええ。それでは──」

 

頭の中にロンドンの地図を思い浮かべる。既に出る前に目星をつけていた所は回り終えていた。概ねはクロウに好評で、学園では見られなかった彼の表情を見て、少しばかり満足感を得ている自分がいる。

 

「まあ、行き先が無いならないでいいさ。ぶらぶら散歩としゃれこもうか」

 

「は、はい」

 

古都の町並みをゆっくりと歩く。都会の喧騒を保ちながらも、何処かのんびりとした空気を持つ街路を、二人揃って歩いていく。

 

「そういや、俺が来る前は何してたんだ?」

 

「ええ。代表候補生としての仕事を幾つか。後はバイオリンのコンサートに出たりしていました」

 

「おお。お前バイオリンなんて演奏出来るのか」

 

「ええ。自分で言うのも何ですが、それなりに腕はある方ですのよ?」

 

「それじゃあ、今度聴かせてくれ」

 

「ふえっ!?」

 

「俺の周りには、バイオリンなんて演奏出来る奴はいなかったんでな。学園に戻った時にでも、聴かせてくれ」

 

「ク、クロウさんが望まれると言うのであればやぶさかではありませんが……」

 

二人はいつの間にか、日本で言う商店街の様な場所に来ていた。両脇には色鮮やかな小物や、土産物が所狭しと並べられている。

 

「そ、そんなに期待しないでくださいまし。クロウさんのお耳汚しになるかもしれませんし……」

 

「いやいや。そんな事はないさ。それに頼んでんのは俺の方だ。楽しみにさせてもらうぜ」

 

「……帰ったら、特訓ですわね」

 

「ん?何か言ったか?」

 

ぽつりと漏らした一言はクロウの耳には届かなかったようだ。慌ててセシリアはかぶりを振って否定にかかる。

 

「い、いえ!何でも無いですわ!」

 

「そうか、それならいいんだが……」

 

セシリアの言葉を聞きながら、クロウは辺りに目を配っていた。疑問に思ったセシリアは思わず問いかける。

 

「クロウさん、どうかなされましたか?」

 

「いや……何でもない」

 

一瞬前までは険しかった表情も、今はすっかり元のへらへらとした笑顔に戻っていた。

 

「お、こりゃいい酒だな」

 

自分の言葉を誤魔化す様に、クロウが脇の商店のショーウィンドゥに飾られている酒瓶を凝視する。深い緑色の瓶の中には赤いワインが満ちていた。

 

「……クロウさん?」

 

「……今はあるんだ。少しばかり使っても誰も文句は言わねぇ……となれば──」

 

「クロウさん!」

 

「うおっ!?」

 

セシリアはぶつぶつと呟いていたクロウの耳元で大声を出す。若干かがみ込んでワインを眺めていたクロウは文字通り飛び上がった。

 

「クロウさん。元はともかくあなたは今、未成年ですのよ?」

 

「……ダメか?」

 

「ダメです」

 

「……ほんのちょっとだけは?」

 

「ダメですわ」

 

「……セシリアの見てない所で飲むから──」

 

「ほら、行きますわよ!!」

 

セシリアは尚も口上を並べるクロウの右手を左手で掴んで、店の前から離れた。そのまま商店街を抜け出した所で、正気に戻る。

 

(ク、クロウさんと手を……)

 

「セシリア?」

 

「さ、さあ行きましょう!」

 

クロウの言葉をぶった切って、セシリアは歩き出す。クロウは怪訝な顔をしながらも、抗する様な事はしなかった。駆け足気味だったセシリアが落ち着いた所で、再び落ち着いた会話が始まる。

 

「やっぱのんびり街を楽しむってのもいいもんだな」

 

「この様に街を散策した事が無かったのですか?」

 

「まあな。上司にこき使われて世界を彷徨う毎日だったからな。ある意味、こっちに来れたのは幸運だったかな」

 

「そ、そうですの?」

 

「ああ。お前らに会えて良かったよ」

 

「へえっ!?」

 

クロウの告白を聞いて、乙女にあるまじき声を出してしまうセシリア。クロウはそんなセシリアを奇異の視線で見るが、セシリアはそれどころではなかった。

 

(ク、クロウさんが“会えて良かった”と……どどどどう返答するのが正解なのでしょう!?)

 

「……おーい、セシリア?」

 

(“私もですわ”……いえ、普通過ぎですわ。それより“ずっと一緒に”とか……)

 

「セシリア?」

 

「ひえっ!?」

 

先程からまともな返答を返していない気もするが、取り敢えずクロウの一言でセシリアは正気を取り戻した。

 

「落ち着け。深呼吸しろ」

 

「も、もう大丈夫です……」

 

「本当に大丈夫か?家に戻った方が──」

 

「さ、さあ行きましょうクロウさん!まごまごしていたら日が暮れてしまいますわ!」

 

「お、おいおいセシリア!引っ張るなって!!」

 

セシリアがクロウの右手を引っ張って、街路をツカツカと音を立てながら早足で駆けていく。程なくして落ち着いた二人は、ふと道の脇にあったアイスクリームの露店へと目を向ける。

 

「クロウさん。ちょうど良い時間なので、あそこで休憩しませんか?」

 

「ああ、いいぜ」

 

遠目に見える店に、信号を渡って近づいていく。すると、店の前に数人の少女達がたむろしているのが二人の視界に映りこんだ。

 

「あれは……」

 

先程より店に近づいたからはっきりと見える。チャラチャラとした服で店の前にあるテーブルをいくつも占領して、大声で哄笑を上げている。道行く人々はちらちらと目を向けるだけで男性はおろか、女性ですら誰も注意をしようとしない。

 

「珍しいな。ああいう役回りは普通、男のガキと相場が決まってんだけどな」

 

クロウの言葉を背中に受けながら、セシリアは少女達を凝視していた。この世界は女尊男非の世界である。そのため、男性は女性より社会的地位が低く、女性は増長し、男性は卑屈な考え方をする者が多い。セシリアの視線の先にいる少女達も、その様な環境が生み出した人間達だろう。

 

「この世界だからって訳か。さてと、それじゃあ──」

 

「クロウさん。少しここで待っていてくださいまし」

 

「セシリア?」

 

クロウの方からはセシリアの表情は見えない。だが、顔を見なくても心に渦巻いている激情が分かる程、その声には感情が乗っていた。ヒールを鳴らしながら、セシリアは一人で群衆を突き抜けて少女達に駆け寄る。

 

「お、おいセシリア!」

 

クロウの静止の声も振り切って、セシリアは少女達の前にたどり着く。笑っていた少女達は闖入者の存在に気づき、威嚇の声を上げた。

 

「あぁ?何だお前」

 

「……周囲の方と店の方に迷惑ですわ。即刻、立ち去りなさい」

 

「……もう一回言ってくれねえか?ちゃんとした言語で話してくれよ」

 

「恥を知りなさい!それでも英国の淑女ですか!」

 

セシリアが言葉を荒げた途端、少女達から笑いが巻き起こった。そしてそれぞれが立ち上がってセシリアを舐めるように見定める。

 

「なあ、俺たち迷惑か?」

 

「当たり前でしょう!」

 

「……なあおい、俺たち迷惑か?」

 

リーダー格の少女は周囲にいる群衆の一人に問いかける。それはいかにもサラリーマンと言った風貌をしている男性だった。

 

「……い、いえ、別に……」

 

「なあ、迷惑か!」

 

「な、何でもないです……」

 

恫喝混じりの疑問を再び群衆に向かって投げかける。周囲の群衆は遠巻きに眺めるだけで、誰ひとりとしてセシリアに手を貸そうとしない。

 

「ほら、誰も迷惑だなんて感じてねえだろ?だったらいいじゃねえか」

 

「そうやって力で何でも思い通りになると思ったら、大間違いですわ!!」

 

「ああっ!?」

 

「テメェもう一度言ってみろ!!」

 

リーダーの後ろにいる少女達が怒気をあらわにしてセシリアを威嚇する。正直言って一昔前のセシリアであれば、見向きもしなかっただろう。“反論しない人間達が悪い”と思って目もくれなかったかもしれない。だが今の自分は、少し前の自分とは違う。

 

「何度でも言って差し上げますわ!」

 

彼女達を許せなかった、一昔前の自分を見ているようで。

 

「あなた達は周りの意見を自分の力でねじ伏せているだけです!」

 

あの頃は自分の力で出来ない事なんて無いと思っていた。力の無い男を見下してもいた。

 

「ただ自分達の気に入らない言葉を無視し、他人を威嚇し、声を荒げて!」

 

でも自分は変われた。彼のおかげで。

 

「周囲に迷惑を振りまき、自分のルールを押し通す事が良いことだとでも思っているのですか!?」

 

正直言って足が震えそうだった。相手は五人。いくら自分が代表候補生で軍の訓練をある程度受けているとしても勝ち目は薄いだろう。だが自分を変えてくれた本人の目の前で、自分を偽りたくなかった。

 

「もう一度言いますわ。貴女方、恥を知りなさい!」

 

これが私だと大声で叫んでいる気分だった。これがイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットだと。まだまだ彼に比べればちっぽけで何の力も無い少女に過ぎないかもしれない。しかし、決めたのだ。自分を偽る様な事は、もうしないと。

 

「テメェ……上等じゃねえか……」

 

ゆらりゆらりと一人、また一人とセシリアに近づいてくる。セシリアは思わず逃げ出そうと思いもした。だが、己の中に残っている矜持がそれを許しはしない。逃げ出そうと思ってしまった心を意思でねじ伏せて、少女達を相対する。

 

「寝言は夢の中で言いなっ!!」

 

一歩でセシリアの眼前まで迫ったリーダーの少女は握り拳を振り上げた。勿論それが振り下ろされる先はセシリアだ。直感的にセシリアは両腕をクロスさせてその拳を防ごうとしたが──

 

「ストップだ」

 

「ク、クロウさん……」

 

その拳がセシリアに届く事は無かった。いつの間にかセシリアの背後に立っていたクロウが長い手を伸ばして、少女の拳を受け止めていたのである。更なる乱入者にリーダー格の少女が恫喝の声を上げた。

 

「はっ!ナイト様のご登場ってか!?」

 

「そんな大層な役は俺には似合わねえよ。精々、端役のピエロって所だな」

 

「うっせえっ!」

 

横から別の少女がクロウめがけて殴りかかってきた。クロウは慌てずに左手だけで少女の拳を受け流し、そのままセシリアと一緒に距離を取る。

 

「ク、クロウさん……」

 

「セシリア、下がってろ」

 

「ハッ!女を守るってか?残念だったな。そんなスタイル、今じゃ通用しねえんだよ!!」

 

「さて嬢ちゃん達、少しばかり付き合ってやるぜ」

 

「ほざけっ!!」

 

少女達が白いテーブルと椅子を蹴散らしながら、クロウに向かっていく。セシリアは群衆の傍まで下がっていた。

 

「よっ、ほっ!!」

 

「ちっ!ちょこまかすんな!!」

 

クロウの行動は、攻撃を避けるか受け流すかの二択だけだった。まるで演武の様な動きにセシリアが見とれていると、肩が叩かれる。後ろを振り向くと、先程少女に詰問されていた、サラリーマン風の男性だった。

 

「な、なあ、アンタの彼氏、止めた方がいいんじゃないのか?」

 

「何故ですの?」

 

「だ、だって、あんなに数が違うし……」

 

「あの人は数が違うだけで尻込みする様な人ではありませんわ」

 

「くっ、この!!」

 

「どうしたお嬢さん。肩で息してるぞ?」

 

「うるっせぇ!!」

 

セシリアの視線の先では息を荒げながらパンチを繰り出す少女達と、飄々とした口調を崩さない男が舞っていた。一分もしないうちに、少女達が息を切らせて地面にへたりこんでしまう。

 

「クロウさん!」

 

群衆からセシリアが飛び出して、クロウに駆け寄る。クロウは若干乱れた服装を正して、セシリアめがけて笑みを浮かべていた。

 

「おう。待たせたな」

 

「いえ、私の方こそ──」

 

言葉を継ごうとしたその時、風に乗ってサイレンの音が聞こえた。反射的に苦い顔をするクロウ。

 

「マズイな。騒ぎ過ぎたか?」

 

「わ、私がいれば……」

 

「いや、逃げた方が早え!急いで──」

 

「おいボウズ!!」

 

クロウが顔を向けると、アイスクリーム屋の店主が手招きしていた。その両手には一つずつ、コーンに乗ったアイスが握られている。

 

「いいもん見させてもらったぜ!今の世の中、お前みたいな奴もいるんだな!!」

 

「いや、俺は──」

 

「こいつは礼だ!彼女さんと一緒に食いな!!」

 

二人が店主に駆け寄ると問答無用で店主はセシリアとクロウ、それぞれにアイスを一つずつ握らせた。

 

「クロウさん。お早く!」

 

「親父、こいつはテーブルの修理代だ!釣りは要らねえ!!」

 

まとめて紙幣を懐から抜き出すと、アイスと入れ替わりに店主に握らせた。目を見開いた店主は自分の手の中の金と、クロウの顔を交互に見る。

 

「じゃあな!」

 

「し、失礼しますわ!」

 

クロウがアイスを握っていない手で、セシリアの手を取る。二人が群衆に駆け寄るとモーゼが海を割るかの如く、群衆が道を開ける。クロウとセシリアはそのまま現場から逃走していく。

 

「しかしセシリア、無茶するな!」

 

「誰かさん程ではありませんわ!箒さんを助けて死にかけたのは、どこのどなたですか?」

 

「それは言ってくれるなよ!!」

 

まるで本当の同年代の様に遠慮なしの言葉をぶつける。早足でかけるセシリアの表情は、学園でも見た事が無い程、輝いていた。

 

 

 

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後書き

 

……何か後半が投げっぱなしになってた様な気がしないでもない。

 

どうも皆さん、作者のGranteedです。

 

まずは申し訳ありません。少しばかり時間を開けてしまいました。

 

理由を説明させていただくと……スパロボUXをやっていたからですよ!

 

寒空の中列を作って並び、朝一番で同梱版を手にしたときのあの感動は凄かった……

家に帰って即起動、そしてそのまま六時間以上ぶっ続けでやってましたよ。ええ、ずっと家に引きこもってやってましたとも。

 

現在、二週目に突入中であります。自分としてはラインバレルが原作版なだけで買う理由は十二分ですよ。心残りはファフナーの映画見る前にUXやっちゃったな~とか、デモンベインの原作、結局見ないままやっちゃったな~とかその程度です、はい。

 

ここでクロウの一言

 

クロウ「一回言ってみたかったんだよな……」

 

セシリア「何をですか?」

 

クロウ「……“釣りは要らねえ”」

 

セシリア「そ、そうですか……」

 

グダってきている夏休み編ですが、これからもどうぞよろしくお願いします。

 

 

 


 
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