No.548966 IS インフィニット・ストラトス ~転入生は女嫌い!?~ 第五十九話 ~クロウ、誘われる~Granteedさん 2013-02-26 19:00:03 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:7009 閲覧ユーザー数:6567 |
話している間に二人は食堂にたどり着いた。食堂にも煌びやかな装飾が施されておりクロウは内心閉口していたが、決して顔には出さない。
「随分遅かったですね、お嬢様」
準備をしていたチェルシーが二人に歩み寄って来る。何故かチェルシーの言葉を聞いたセシリアは慌て始めた。何の事か分からないクロウは勿論疑問を口にする。
「遅かった?俺とセシリアはすぐに来たんだが」
「いえ。お嬢様がブルースト様を呼びに行ったのは十五分も前です」
「だが俺はセシリアに起こされてからすぐにここに来たぞ?」
「寝てらしたんですか?」
「ああ、少し疲れたんでな」
「成程……」
チェルシーの視線はクロウから外れて隣で慌てているセシリアに移る。そしてセシリアの表情を見て納得した様に一度顔を上下させると、何も言わずにセシリアの隣を通り過ぎようとした。が、去り際にぽつりと囁く。
「お嬢様。ブルースト様の寝顔を堪能されるのは結構ですが、程々に」
「ッ!!!」
チェルシーの言葉を聞いたセシリアは今度こそ顔を真っ赤に染め上げてしまった。隣にいるクロウが心配するレベルで。
「おいセシリア、風邪か?」
セシリアの顔を覗き込みながら、右手をセシリアの額に当てるクロウ。チェルシーのピンポイント攻撃を、クロウの止めの一撃を受けてセシリアはなされるがまま、慌てふためく事しか出来なかった。
(はわわわわ……)
「……まあ、熱は無いみたいだな。気分はどうだ?」
「天にも登る気持ちですわ……」
「何言ってんだ?」
「……ハッ!な、何でもありませんわ!さあ、席についてください!」
これ以上の事をされたら文字通り天国に行ってしまう、そう感じたセシリアは慌ててクロウに席を勧めた。二人が席に着くとメイド達が順番に料理を持ってくる。そこから先は二人にとって久々に静かな、楽しい時間だった。
「そこで、ラウラさんが──」
「あいつ、そんな事してたのか。意外だな」
IS学園での思い出を二人で語る。たった数ヶ月にも関わらず様々な思い出が心に刻まれている事に驚きつつも、時間は矢のように過ぎていった。食後のデザートを食べ終えた所で、チェルシーが近寄ってくる。
「お嬢様、明日に響きますのでそろそろこの辺りに……」
「そうですわね。クロウさん、ご満足いただけましたか?」
「ああ、美味かったぜ。ありがとな」
「料理人達も喜びますわ」
「それではお嬢様、ブルースト様。良い夢を」
チェルシーに見送られながらクロウとセシリアは席を立って、食堂を出る。向かうはそれぞれの部屋だった。
「それよりもクロウさん、ラウラさんの所で何をなさっていらっしゃったのですか?」
「あいつの部隊で少しばかり教官の真似事をな。それもそれで楽しかったが」
「そうですか。それではクロウさん。おやすみなさいませ」
背中を向けたセシリアが徐々に離れていき、角を曲がって見えなくなる。こんな平和
な日々に少しばかり違和感を感じなくもないが、自分の中で結論を付ける。
(まあ、こんな時間があってもいいか)
部屋の扉を開いてクロウが部屋の中に入る。時刻は午後八時。浮かび上がった月が、先程まで笑い声で溢れていた廊下を静かに照らしていた。
翌朝、チェルシーに起こされたクロウは促されるままに食堂へと向かった。中に入ってみれば既にセシリアが食卓に座って朝食を食べている。クロウもメイドの一人に勧められた席に座って、朝食を頂いた。
「クロウさん。おはようございます。よく眠れましたか?」
「ああ、ぐっすりだぜ。静かな朝ってのもいいもんだ」
談笑を交わしながら気兼ねもせずに食事を頂く。十分もすればクロウの胃袋は満タンになっていた。大きく伸びをして眠気を覚ましていると、横からチェルシーが近づいてくる。
「失礼ですがブルースト様、今後のご予定は?」
「本当なら今頃IS学園のベッドの上だからな。こちに来たのは本当に偶然だし、予定なんか一つも無いぜ」
「あ、あのー、それでしたら」
おずおずと手を挙げたのはセシリアだった。揺れる瞳と共にいつもの彼女らしかぬ口調で語る。
「何だ?セシリア」
「も、もしご迷惑でなければ……私と一緒に観光でもいかがですか?」
「観光?イギリスをか?」
「は、はい。元々私も休暇を楽しむつもりでこちらに帰ってきたので。も、勿論、クロウさんがお嫌でなければですが……」
「そうか……」
しばし椅子に座ったまま考え込む仕草を見せるクロウ。セシリアはまるで判決を待つ被告人の様な心境でクロウの次の言葉を待っていた。そしてとうとうクロウが結論を出す。
「……そうだな。いっちょイギリス旅行と洒落込むか」
「ほ、本当ですの!?」
「ああ。むしろこっちから頼みたいくらいだぜ」
「い、いいえ!このセシリア・オルコット!クロウさんの頼みとあらば火の中水の中!!」
どこでそんな言葉を覚えてきたのやら、音を立てて椅子から立ち上がったセシリアが言い放つ。余りの勢いにクロウが呆気に取られる中、一人冷静なチェルシーが粛々と口を開く。
「それではブルースト様。お部屋の方で準備をお願いします。支度が整いましたらこちらから呼びに行きますので」
「ああ。悪いな。じゃあ部屋に戻ってるぜ」
そう言い残して一人食堂から出ていくクロウ。チェルシーはそれを見届けると、今だ妄想の彼方にいる主へと近寄った。
「お嬢様」
「ひゃいっ!?」
「勇気を出してブルースト様をお誘いした事は素晴らしいでしょう。しかし、本当の勝負はここからですよ」
冷静に諭されたセシリアは頭を冷やして椅子に座りなおす。両肘をテーブルの上に突きながら、両手を組んでその上に顎を置いた。
「そうですわね。ここからが本当の勝負ですわ……」
「私たちも全力でバックアップを致します。お嬢様は彼の事だけをお考え下さい」
「……皆さん!!」
セシリアが食堂に鳴り響いた瞬間、左右の扉から何十人ものメイド服の女中が入ってきた。ブリジットを先頭にした人の列は左右の壁に沿って綺麗に並んでいく。
「お嬢様、何時でもどうぞ」
ブリジットの言葉と共に、ゆらりとセシリアは立ち上がった。その隣では、チェルシーが己の主に向かって叩頭している。
「とうとうこの時がやってまいりましたわ。クロウさんと二人きりで一緒に過ごせる機会は、夏休みではこれが最初で最後でしょう」
「「「「……」」」」
「しかし、私はこのチャンスを逃す気は更々ありません。この機会に私は全力を掛けますわ。皆さんも協力して下さい!」
「「「「はい!!」」」」
左右のメイド達がはきはきとした声で返事を返す。セシリアは天へと拳を振り上げながら、堂々と宣言した。
「ここに、“オペレーション・キャプチャ・ブルースト”の発動を宣言致しますわ!!」
うおおおおっという鬨の声が食堂に鳴り響く。対象のあずかり知らぬ所で、穴の無い包囲網は着々と準備を勧めていた。
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第五十九話です。
いやぁ、思った以上に筆(指)が進まないこと進まないこと。
こりゃあ完結までに何年かかることやら……
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