No.541259

いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生した

たかBさん

第百五話 我の勝利は揺るぐこと無し!

2013-02-07 22:06:18 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:5184   閲覧ユーザー数:4710

 第百五話 我の勝利は揺るぐこと無し!

 

 

 

 ユーリ視点。

 

 『偽りの黒羊』のスフィアを『傷だらけの獅子』に抜き取られてからエグザミアが正常に作動していると感じ取ったのはあの戦いの後だった。

 あのアサキムがいなくなってから気を失った『傷だらけの獅子』の傍で私はボロボロになりながらも助けてくれたディアーチェ。彼女達のオリジナルの皆さんのおかげでこうして平和に過ごせている。

 抜き取られたスフィア。『偽りの黒羊』の残滓でエグザミアの異常部分があった回路を改修し、『紫天の書』を持つディアーチェが私のエグザミアを管理している間、私が暴走することはない。

 それを一手に引き受けた『傷だらけの獅子』の彼にお礼を言いたかったのだが…。

 

 「一番風呂は俺が貰ったぁあああああ!」

 

 「そうはさせるもんかっ、僕が一番だぁああああ!」

 

 「だが甘い!運動能力では劣るが最短距離のルートを把握している私が、一番だぁああああ!」

 

 

 「「「おおおおおおりゃああああああああ!!」」」

 

 

 ずどどどどどどどっ!

 

 と、足音を立てて廊下を走っていく三人。

 一人は『傷だらけの獅子』。もう一人はレヴィ。最後の一人はレヴィにもよく似た少女アリシアだった。

 

 「元気ですね、レヴィは…」

 

 「フェイトの半分ぐらいに落ち着きがあればいいのだが…」

 

 「お姉ちゃん…」

 

 「…タカ。貴方がそういう事をするからアリシアまであんな風になるのよ」

 

 私達は部屋に荷物を置いて、浴衣を持って温泉に向かおうとすると三人が声を上げながら温泉に向かう声を聴いた。

 

 「温泉ってそんなに争わなければいけない物なの?」

 

 「にゃはは…。ゆっくり入るものだと私は思うんだけど…」

 

 「リリィさん。気にしないでください。あの三人はきっと誰かと勝負したいだけなんですから。私達はゆっくりいきましょう」

 

 「そう言うアリサちゃんも少し前までは一番最初に入ろうとして意気込んでたことがあったよね」

 

 「ちょ、すずか」

 

 「…勝負」

 

 「アインハルトさん?!」

 

 やや、駆け足になりかけていたアインハルトを慌てて止めるヴィヴィオ。

 その後ろからも他の女性陣が出てくる。

 それからやや遅れて男性陣の方も…。

 

 「しかし、俺達をこの温泉に招待するなんて…。結構な額があったんじゃないかい?」

 

 「一部とはいえ、高志君もこれに出資しているんだろう?管理局員とはそんなにも大変な職場なのかい?」

 

 「…いえ、それほどでは。それにこれぐらいはさせてください。なの…、貴方達のご息女にはお世話になっていますから」

 

 「それ云うぐらいだったら、少しは僕も労ってよ」

 

 「…僕は『お願い』しただけだ。仕事を『依頼』したつもりはない」

 

 と、言い合っているところに保護者組の皆さんも合流していく。

 

 「あらあら。駄目よ、クロノ。陰ではユーノ君の情報処理を褒めているくせに…」

 

 「そうだよね。私以上だっていう事もあるしぃ♪」

 

 「母さん!エイミィ!」

 

 「…まるで恭也みたいね」

 

 「…俺はちゃんと相手のことは認めているぞ忍」

 

 「本当?」

 

 「………ああ」

 

 「嘘だよ!恭ちゃん!この間、私が稽古で一本取りかけたのに「まだまだだな」とかいって苛めたくせに!」

 

 「そういう事は一本取れてからにしろ」

 

 「意地悪だ!」

 

 「みんなー、この旅館には私達以外の人がいることを忘れないでね~」

 

 ちなみにこの旅館は私達以外のお客さんは一組いるらしいので、貸切り状態。とはいえ、完全な貸切りではないので、それをシュテルのオリジナル。なのはの母親に注意された皆は少し顔を赤らめながら温泉に向かって行った。

 そんな平和な表情を見ていると私は本当にこの場所にいていいのかと考え込んでしまうことがある。

 

 

 私はスフィアから解放された。その時。私がまだ領主だった頃を思い出した。

 『偽りの黒羊』のスフィアを発掘した私達の一族はそこから疑似スフィア。『エグザミア』を作り上げた。

 だけど、それは不完全な物。だけど、それを公表すれば私達を頼ってきた民衆を不安のどん底に落としてしまう。

 当時から『偽りの黒羊』を扱えた私はその『嘘』を『本当』にする力を用いて不完全な『エグザミア』を使っていた。

 だけど、スフィアを使い続けた私の心はボロボロになっていき、そして…。

 暴走させたエグザミアで自分の世界を灰にした。

 その後、エグザミアを取り込んだ『偽りの黒羊』はいつの間にか『闇の書』に変化した夜天の書にいつの間にか取り込まれていた。

 ずっと、この闇の中で眠り続けていればいい。

 そうすれば誰も、世界も壊すことはないから…。

 

 

 だけど…。

 

 「…ユーリ。そんな顔をしては『傷だらけの獅子』に心配されますよ」

 

 『悲しみの乙女』を所有するリインフォースさんに声をかけられた。

 

 「…え、あ、その。わ、私は」

 

 「そんな顔をしないでください。私は『悲しみの乙女』を持っているんですよ。貴女が悲しんでいるのはわかります」

 

 優しく、そしてどこか悲しそうな笑顔を浮かべる。

 

 「過去がどうであれ、過去は過去。今は今です。悔やんでも仕方が無い事だし、償うことも出来ない。それなら、犠牲にしてしまった者達の分まで誰かを幸せにしていこうじゃないか」

 

 「…貴女は」

 

 闇の書だった頃を思い出したのか少し顔を俯かせながらも笑顔を絶やさず私に話しかけてくるリインフォース。

 

 「それに、私達はあの不器用な『傷だらけの獅子』が本当に傷だらけになってボロボロになって作ってくれた未来だ。彼の為にも私達は幸せにならねばならない」

 

 「でも…」

 

 「笑うんだユーリ。心の底からこの幸せを噛みしめて彼に笑ってやれ『私は幸せです』と。きっと彼もそう望んでいる。…もっとも私も言えてないがな。でも必ず伝える。この想いを…」

 

 「どうして今まで言ってあげてないんですか?」

 

 私の質問に彼女は頬を少しだけ赤く染めて呟くように答えた。

 

 「…だって、恥ずかしいではないか」

 

 それは同じ女の私から見ても魅了されそうな表情だった。

 

 

 高志視点。

 

 さあ、レースも終盤!

 最初に温泉の湯船に身を鎮めるのは誰だ!

 

 先頭はレヴィ選手!魔法を使わなくてもこの三人の中では一番足が速い!

 次にアリシア選手!コースの下取りが功を制したのか!三人の中では一番足が遅い!とは言っても俺と比べてもそんなに変わらない速度で走り抜けている!

 そして最後尾に俺!これといったところの特徴のない俺!しかし、諦めない!世界中の地味メン達よっ、俺に力を分けてくれ!

 

 さあ、ゴールフラッグ(のれん)に続く最終コーナーに入ったぁああああ!

 

 「のわっきゃあああああ!」

 

 「うにゃああああああ?!」

 

 とぉっ、ここでアリシア選手、T路地になった廊下で右に曲がり温泉(ゴール)へと続くコーナーで減速することなく無謀なアウトコースをとろうとした所為かレヴィ選手とクラッシュゥウウウ!

 二人は仲良く団子になって廊下の向こうに転がっていくぅううううう!

 が、二人はすぐに起き上がってゴールに向かって再スタートし始めるぅうう!だが、その間に俺は男湯(・・)のれんをくぐり抜けたぁあああああ!!

 

 「一番風呂は俺が貰ったぁああああ!」

 

 「待てぇええええ!」

 

 「私もぉおおおお!」

 

 続いて(・・・)レヴィ選手、アリシア選手も脱衣所に飛び込んだぁあああ!

 三人は素早く脱衣を済ませ、洗濯籠に来ていた服を入れ、温泉のある硝子戸を開けるぅうう!

 だが、ここから先は滑りやすい濡れた路面!転ばないようにそれでいながら素早く温泉に飛び込もうとするのはぁああ!

 

 「一番は僕だぁああああ!」

 

 「まだまだぁああああ!温泉は肩までつかってこその温泉だぁあああ!」

 

 レヴィ選手だぁあああ!そして、その後ろにアリシア選手!

 

 …え、俺?二人が脱ぎ散らかした服を籠に入れていたらいつの間にか追い抜かれていた。だが、逆転の一手は我にあり!

 

 「二人共、体を綺麗に洗ってからでないと湯船には入れないんだぞ!」

 

 それが温泉のマナーというものだ!

 

 「「な、なんだってぇええええええ!」」

 

 俺の一声に二人は慌てて等間隔でシャンプーや石鹸。シャワーが設置されている場所に座る!

 ふはははは。髪の長い二人には、その分長い髪を洗いきるだけの時間が必要であろう!

 特にアリシア!

 レヴィは知らんが、お前は俺に髪を洗わせていたからな!存分に時間をかけて髪を洗うといいよ!

 

 「…うう」

 

 「…?体を洗うってどうすればいいの?」

 

 アリシア!は涙目になりながらもシャンプーハットを装着!

 レヴィはマテリアルで初めてのお風呂の所為かアリシアの真似をして後を追おうとするぅううう!

 

 「ふぅわははははははははは!世界は俺の勝利という形に再構築されるぅうううう!」

 

 俺は体をシャワーから流れるお湯で濡らし、シャンプー・リンスでキューティクル保全を行い、垢こすりに石鹸を擦って泡立てて体を洗うぅうううう!

 アリシアの方は未だにおっかなびっくりで髪を洗っている。その長くて綺麗な髪を洗っている。だが、それが終わる頃には俺は体中の泡を綺麗に流し終えて湯船につかる!

 我の勝利は揺るぐこと無し!

 そう確信した瞬間。事件は起こった。

 

 「みぎゃああああ、目が、目がいたいよぉおおおおお!」

 

 アリシアの真似をしていたレヴィの目にシャンプーの泡が入り込んだようだ。

 ちょうど俺は体の泡を洗い流した後だった。

 

 「ああ、ほらほら。暴れないで洗面器にお湯を張って…。ほら、これで顔を洗え」

 

 「あうあう…」

 

 それから未だに目が痛いのかシャンプーするのに躊躇しているようだったので、俺はレヴィの髪を洗う為に彼女に手桶の上に座ってもらい、髪を洗う。

 

 「~~~気持ちいいぃいいい♪」

 

 「今度からは一人でするんだぞー」

 

 「えー、これからもやってよー」

 

 と、文句を言いながらもレヴィは気持ちよさそうに目を細める。というか、閉じている。

 さて、シャンプーも終えたことだし、次はリンスでキューティクル保全だ。

 それも終えたので湯船に再度向かおうとしたら、今度はアリシアにも要求された。仕方がないのでアリシアの分までやってあげる。レヴィは体を泡だらけにした後アリシアとふざけ合いながら体を洗いっこしていた。

 

 結局、三人仲良く湯船につかることになった。

 

 「今回は引き分けだね。レヴィ」

 

 「むー、次は僕が勝つもん!」

 

 「俺はもう頭を洗わんぞ」

 

 「「それはやだ!」」

 

 二人そろって俺の言ったことを否定する。が、

 

 「二人共あんまり温泉で大きな声を出さないことだ。これもマナーのうちの一つな」

 

 廊下を猛ダッシュしていたやつが何を言うか?というツッコミはうけつけません。

 

 「そして、肩までお湯につかって百数えるんだぞ」

 

 「「うん」」

 

 二人が数をカウントしている間に俺はある事に気が付いた。

 

 「「いーち・にぃー・さーん」」

 

 「あと、それから…」

 

 「にゃ?」「んう?」

 

 「女湯に入れやぁあああああああ!」

 

 「「わにゃあああああああ!」」

 

 五に達した瞬間に俺はレヴィとアリシアを塀伝いになっているだろう女湯の方に放り投げる。

 

 どぼどぼーんっ。二人が湯船に落ちたことを確認した後俺もカウントをする。

 

 「6・7・8」

 

 「お兄ちゃん、酷いよいきなり放り投げるなんて!」

 

 「そうだよ!僕たち何も間違っていないのに!」

 

 「だったら男湯と女湯を間違えてはいるなぁああああ!それに百数えなさい!」

 

 「ぶー」

 

 「にゃううう」

 

 俺の声にレヴィとアリシアは文句を言いたげではあったが俺のカウントする声に追従するように数を数える。

 

 「11・12」

 

 「13・14」

 

 「15・16」

 

 と、3人でカウントを取りながら湯船に身を沈めていた。それが100になるまで俺は温泉の塀の向こうに広がる山の風景を見ながら温泉を堪能していた。

 

 「ああああああ。…い、癒されるぅうううううう」

 

 と、今までの疲れが溶け出してきたのか俺は風呂のふちに設置された石にもたれかかって最大のため息をついた。

 でも、俺は。

 転生して最大の癒しを堪能している。そう感じた。

 それからしばらくして女湯側が騒がしくなった。

 

 「レヴィちゃん。大丈夫、ゆで上がってない?」

 

 「湯あたりしたのね。アリシア大丈夫?ちゃんと体は洗った?」

 

 「…うん。お兄ちゃんに洗ってもらったから」

 

 ビシィッ。

 

 と、空気が冷え込んだ気がした。そして俺はそれ以上聞きたくないので早めに上がろうとしたが、プレシアの放つオーラで足が上がらない。

 

 「僕も洗ってもらったよー」

 

 「…ほう」

 

 プレシアのオーラにディアーチェさんのオーラが混ざりましたぁあああ!

 

 「まあ、この温泉を血の池にするのも無粋と言った物よね。とりあえず、湯船に入って100数えるわよディアーチェ」

 

 「そうじゃのう、『傷だらけの獅子』にも100は数えてもらわんとの」

 

 ひぃいいいいい。魔王様が二人にぃいいいい。な、何をさせられるんだろう?!

 辺りを見渡すと、サウナと今入っているふろ。そして、もう1個のドラム缶のような風呂桶があった。

 名前が五右衛門ポーク。いかん、これに入ったら俺は燻製になる。

 

 「温泉といったらやっぱりいろんな温泉に入るのが通よね」

 

 「そうさの、全種を攻略するのが楽しいからの」

 

 あの二人は知っている、俺が燻製されるお風呂の存在に…。

 どうする。…どうする俺!

 と、希望の光が見えた五右衛門ポークの裏に人一人入れる桶を発見俺はそれに飛び込んだ。

 それからプレシアとディアーチェが100数え終えてすっきりしたのか二人はオーラを沈めてくれた。

 そして、俺はというと…。

 

 「おや、高志君どうしたんだそんなに震えて…」

 

 「ちょっと水風呂に入ってしまって」

 

 「気をつけて入れよ」

 

 「でも、すごい震えようだね。何かあったの?」

 

 「魔王様二人からの制裁を躱すために冷水で体を清めていました」

 

 「まあ、ここには男同士しかいない。愚痴なら聞くぞ」

 

 「ありがとうございます恭也さん。実はですね…」

 

 それから士郎さん、恭也さん、トーマ、クロノ。ユーノ。ザフィーラ。そして俺。の7人でお互いの愚痴合戦が始まった。

 この時の連帯感に少しだけ癒された俺がいた。

 

 


 
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