蜀では今、とある噂が広がっている。
曰、曹操軍にいるその人物は男でありながら蜀の名だたる人物を相手に一歩も引かぬ実力を持っていると。
その人物の姿かたちは一般の兵士と変わらないため、戦場にいるものは出会ったことにすら気づかず一瞬のうちに殺されてしまう。
張遼隊にいるという噂もあれば親衛隊にいるとも伝えられ、本陣にありと思えば最前線に存在し・・・と戦場ではどこにいるのかすらわからないその人物を蜀の民はこうよんで恐れた。
ーーーーー曰く、「曹操軍の伏将・荀攸」と。
さて、そんな大層な二つ名がひそかに広まっているこの荀攸・・・桂枝は今、何をしているかといえば・・・
桂枝
「214・・・215・・・216・・・」
庭で日課の鍛錬をしていた。
流琉
「桂枝兄様!何をやっているんですか!?」
今は早朝、普通の人が動き出すには少し早い時間帯。
朝食の準備を行おうと厨房に移動中に流琉が中庭をみたらそこには鍛錬をしている桂枝がいた。
桂枝
「おはよう流琉。いつもより早い・・・いや、こっちがいつもより長くやっているのかもな。」
自前で用意した布汗をふきつつ桂枝は流琉に話しかける。なるほど、たしかに普段の桂枝ならば自主錬の様子を他人に見られるようなことはなかっただろう。
流琉とて別に鍛錬をしていることに驚いているわけでもない。早朝に桂枝が一人で鍛錬をしていることは曹魏の将兵にとっては周知の事実みたいなものである。だが・・・
流琉
「長くやっているとかそういう問題じゃありません!桂枝兄様!足が治っていないのだから無理はしないでください!」
2週間前に足を折っている人間がやることかというとそれはまた別の話だ。
桂枝
「無理などしていない。逆に片足ごときのために全身の鍛錬まで怠っていたらいざというときに困るだr・・・」
流琉
「一人であんな無茶な体勢で鍛錬してたら別のところまで悪くしちゃうじゃないですか!」
ちなみに桂枝が先ほどやっていたのは片足をもう片足にのせたまま行う腕立て伏せである。ご丁寧に重りに石まで乗せているのだから流琉が心配をするのも無理は無いだろう。
桂枝
「いや、そのあたりもきっちり考慮はしているから問題は・・・」
流琉
「とにかく!今度からはもっと軽い鍛錬にするか私でもいいですので誰かと一緒に行なってください!じゃないと・・・
ーーーー私、泣きますよ?」
こうまで言われてしまえば流石の桂枝とて無理に説得を試みることはできない。
桂枝
「・・・わかったよ。」
桂枝は諦めて引くことにした。
桂枝
(これからは時間と場所を意識しないとな。誰にも見つからないようにひっそりとやらないと)
流琉
(言った所で桂枝に兄様のことだからきっとどこかで隠れてやるはずです。私は料理があるから難しいとして・・・誰か監視役を付けないと。)
まぁ表面上はという話にはなるのだが。
朝食を取り終えると桂枝は執務室へと向かう。軍師たちが集う執務室ではない。彼の向かう先は・・・
桂枝
「おはようございます。華琳さま。」
華琳のいる王の執務室だ。
華琳
「おはよう桂枝。早速だけど今日の私の予定は?」
桂枝
「はっ。本日は通常の執務を終えられた後は幾つかの面会の後、街の視察を行う予定となっております。」
数日前から華琳の補佐となった桂枝の仕事は簡単に言うならば護衛兼秘書といったところだ。
執務室での仕事は今までどおりの国の会計関連の書類に加えて、華琳に渡る予定の書類の最終確認だ。
今までと違い三人の軍師の原案時点での仕事が来ることがなくなったので仕事は減った用に感じるが・・・
華琳
「視察・・・そうだったわね。じゃあ手早くお互いに机の上にある大量の仕事を片付けることにしましょうか。」
机の上には大量の書簡の山が連なっていた。
結局全ての将の報告を完璧に確認せねば気が済まない華琳の元へと来る書簡全ての確認を行わなければならないため仕事の量は以前とそれほど変わっていない。
負担をなくすための補佐だったのではないかと普通は思うのだろうがそこは桂枝。別段きにとめることはなかった。まぁ一つ懸念があるとすれば・・・
桂枝
「御意に。では早速とりかかりま・・・」
季衣・流琉
「「お茶をお持ちしましたっ!」」
元気に飛び込んできたこの二人のことくらいであろうか。
季衣・流琉
「「・・・・・・」」
桂枝
(・・・むぅ)
華琳と桂枝は黙々と作業を行なっている。適度な緊張感を持つこの空気のなかで、季衣と流琉の二人は何故か桂枝の方向をじっと見ていた。
桂枝
「・・・・・・」
どうしたものかと考えながらそれなりに積み重なった書類を華琳の元へと届けようとすれば・・・
季衣
「これですね!?どうぞ!華琳さま!」
華琳
「ありがとう。季衣、そこに置いてちょうだい。」
素早くかっさらって行っては華琳の元へと届けるし
桂枝
「・・・・・・」
目線のみでチラリと華琳の茶がないことを確認し席をたとうとすれば・・・
流琉
「あっ!お茶がないですね。私が入れてきます!」
流琉が即座に湯のみをもって行ってしまうし
桂枝
「・・・・・・・・・」
必要な資料ができたのでそれを竹簡に書き出して書庫へと向かおうとすれば・・・
季衣
「それと同じ文字が入ったものを持ってくればいいんですよね?いってきま~す!」
季衣がそれを奪い取っては書庫へと向かって行ってしまう。
桂枝
「・・・まいったな。」
桂枝が華琳の補佐となってからはずっと二人はこんな調子だった。
華琳
「あらあら、随分となつかれているじゃない。」
桂枝
「いや・・・アレはなつかれているとはまた違うような・・・」
華琳の親衛隊長である季衣と流琉。その仕事量は多いのかと言われれば・・・実は暇な部類である。
もっぱら護衛が任務となるのだが基本王として政務を中心に行なっていることが多く、仮に外出するとなっても華琳そのものの戦闘能力も高いため、護衛任務と言うよりかは道中での話し相手程度になることも多いのだ。
だからこそ親衛隊は戦闘力以外のこともできなくてはいけないのだが・・・当然それを使う機会など早々あるものではない。
季衣・流琉二人も親衛隊長というよりかは夏侯姉妹の補佐の仕事をしている方が多いと言うのが実情だった。
だが・・・ここに桂枝という補佐官が現れたことによって状況は変わった。
二人にとって桂枝はお世話になっている兄的な存在。普段より色々とやってはもらってはいたが華琳同様たいていのことはそつなくこなしてしまう桂枝に対してできることはほとんどなかった。
だが今の彼は「王の補佐官」。つまりは親衛隊の護衛対象に値する人間となったのだ。
さらに今は足を怪我しており自由に動き回れないとなれば二人が「今までの恩を返すまたとない機会に恵まれた」と考えても不思議ではないだろう。
結果、二人は事あるごとに桂枝のもとに来ては。先ほどの用に何かをしようと動き出す前にそれを行うようになっていた。
この状況に対して桂枝は困惑している。
桂枝という人間はよくも悪くも人に使われることを日常としてきた人間だ。炊事や部屋の掃除には決して他人を挟まないし洗濯を侍女に任せるのでさえいつも申し訳なく思っているくらいに。
彼は自分の代わりに目の前の誰かが動くという感覚に未だ慣れずにいた。
華琳
「いい機会なのだからあなたはもう少し人を使うことに慣れなさい。本来あなたほどの実力者ならば万を超える兵を自在に動かす権限を与えられていても不思議ではないのよ?」
この状況を楽しみながらも華琳は桂枝を諭す。実際、桂枝はすでに一軍の将はおろか、戦場を一つ任せても問題のないくらいの功績をすでに残しているのだから。
桂枝
「頭では理解しているつもりなのですが・・・どうにも慣れません。」
そして華琳が自分を高く評価してくれているということは桂枝も理解している。しかしやはり元来の性分というものはなかなか変わるものではない。
桂枝は難しい顔をしながら筆を動かし始めた。
華琳
「まぁ、頑張りなさい桂枝。時間はまだまだあるのだから・・・ね。」
桂枝が理解している以上あとは本人の問題である。華琳のような生まれついての「人を使う者」にはわかる悩みでもないので華琳もこれ以上は口出しをしない。
ただ・・・おそらく桂枝が人を使えるようになる時はまだまだ先だろうとは考えている。
華琳
(めもを取られることまで予測して本の位置まで書いてあげているようじゃ・・・ねぇ。)
荀攸公達。どこまでも人に仕事を任せることのできない人間であった。
さて、こんな桂枝の一面を見つけた華琳だが・・・果たして見つけたのはそれだけであろうか。
答えは否、だ。華琳はここ数日桂枝を手元において観察し、何が出来なにが出来ないか。できる中でなにが得意何が苦手かなど様々なことを見抜いていた。
そしてその中の一つとして、桂枝が持つある才能を見出すことに成功した。
そしてその見出した才能を伸ばそうとしているのだが・・・
それが今、桂枝がもっとも悩ませている要因となっていた。
~一刀side~
一刀
「あとはこれを桂枝に渡してっと・・・」
丁度昼過ぎくらいになりようやく報告書の作成が終わった。
本来ならば昨日が期限のものだったんだが街で喧嘩云々が重なってしまいそっちの対応に追われていた。
とてもじゃないが書類を描き上げる体力が残らなかったので桂枝に言ってまってもらっていたのだ。
今は華琳は季衣、流琉を連れて街の視察にでているらしく、桂枝は自室にいるというのを侍女に聞いた。
これをさっさと渡して俺も凪達と街の警邏に出なくてはいけない。
俺は足早に桂枝の部屋の前へとたどり着いた。
一刀
「すまない桂枝。昨日言っていた書類ができた・・・ってうお!?」
ノックとともに桂枝の部屋を開けてみるとそこにあったのは山のように積み重ねられている大量の書簡と
桂枝
「あぁ、北郷か。すまないがその辺に・・・置かれると手間だから直接預かろう。」
その書簡の山に囲まれている桂枝の姿があった。
桂枝
「変な顔をしているが・・・どうした?」
一刀
「いや、どうしたって・・・むしろお前がどうしたんだよこの書簡。」
あまりこの部屋にはいることはないが普段は私物すらもどこにあるんだろうかと思うくらいに綺麗な部屋が今は書簡で寝所以外に足の踏み場もない状態になっていた。
桂枝
「ああ・・・流石にこの量を執務室に持ち込むわけにも行かないんでな。コレに関しては自室で処理することにしたんだ。」
そう言いながらも桂枝は俺の手にあった報告書を手に取り書簡の少ない位置においた。
一刀
「こんな量の書簡を使って何をさせられてるんだお前は!?」
桂枝
「書簡の編集さ。見ての通りの量なんでな。要らない情報を省き必要な情報を的確に少なくまとめろとの主人からの命を受けている。」
一刀
「編集・・・?」
言われてその辺りにある書簡を片っ端から手にとって見る。そこに書いてあったのは政務の案件だったり兵法だったり視察の内容だったりと多岐にわたっており共通点があまりない。
ただひとつ、そこに共通点があるとすれば・・・
一刀
「この筆跡・・・もしかして全部華琳のものか?」
筆跡が全て華琳のものだということだった。
桂枝
「察しがいいな。これを最低でも半分以下の量にまとめるようにといわれている。」
桂枝は書簡からは目を離さずにそう答える。
一刀
「半分ってお前・・・これ一体何個あるんだよ。」
部屋をうめつくさんばかりの書簡。これを半分いかにまとめろということはその内容を理解し、簡略化させ、文章に起こすというとても面倒な工程を踏まなくてはいけない。
もし俺がこれを仕事として処理しろと言われたら全力で逃げ出す自信がある。そのくらい面倒な仕事だった。
桂枝
「ざっと数えて・・・500以上はあったかな。何、お前が考えるほど難しくはない。重要なものだけ、結果として必要なものだけ簡潔に切り詰めていけばなんとかなる。」
一刀
「いや、そうだろうけど・・・」
桂枝はサラリと言うが誰が見てもこれは楽な作業では無い。それこそ一人でやるのであれば1年はかかってもおかしくない作業だ。
一刀
(こんな時期に桂枝にこんな仕事を任せる・・・?華琳は何を考えているんだ?)
気まぐれでやらせることにしてはあまりにも量も内容も大きすぎるこの案件、それを今、自分の補佐となった桂枝にあえてやらせる。
華琳のやることである以上そこには必ず意味があるはずだ。一体どういう意味がある・・・?いや、それよりこれ少しくらいは手伝うべきなのか・・・?
桂枝
「さて、・・・報告書は預かったわけだしそろそろ行ったほうがいいんじゃないか。随分と足早にこっちに向かってきていたようだし・・・何か用事があったんじゃないかと思うんだが?」
思わず考えこんでしまいそうになる俺を桂枝が現実に引き戻してくれた。
そうだった。凪たちをまたせているんだった。
速く行かないとまた何か奢らされるハメになる。少しくらいは桂枝には悪いがさっさと行くことにしよう。
一刀
「ああ、すぐに行くよ。ただ・・・あと一つ聞きたいことがあるんだ。」
ただ・・・最後に一つ気になったことを聞いておくことにする。そっとしておくべきなのかもしれないがどうしても気になったそれ。
桂枝
「ん?」
一刀
「その・・・さ。なんでお前その頭巾かぶってるの?」
桂枝の服についていて普段は隠しさえしているあの猫耳頭巾、桂枝はそれを今、頭にかぶっていた。
実際かぶっているのを見るのは初めてだったし、流石に気にするなという方が無理な話だった。
すると桂枝は指摘されて初めて気づいたかのように頭に手を当てた後、バツの悪そうな顔で頭巾を外す。
桂枝
「いや・・・普段は意識しているんだが・・・本気で集中しているといつのまにか・・・な。」
どうやら本当に無意識下の行動だったようだ。
そういえば桂花も集中してる時は大抵かぶっていたような気がする。性格はあまりにていないのにそういう変な所で姉弟なんだなぁこいつら・・・
一刀
「まぁ・・・いいんじゃないか?結構似合っているし。」
これは本当の話。もともと中性的な顔をしていることと幼少からかぶっていたのだろうその頭巾に「つけ慣れている感」があるせいで桂枝のソレはとても自然な様相であった。
桂枝
「やめてくれよ。別に嬉しくもない。」
一刀
「まぁそうだよな。」
男が猫耳頭巾を似合うと言われても嬉しくもなんともないだろう。逆に喜んでたらソッチのほうが怖い。
俺はじゃあな。と声をかけ、桂枝の部屋を後にした。
一刀
「さて・・・仕事が終わったら華琳にアレの意図を聞きに行くことにしようかな。」
そんなことを考えつつ俺は凪達の待つ中庭へと足を速めるのであった・・・
華琳
「そう。桂枝の部屋をみたの。」
一刀
「ああ。見た。すごい書簡の量だった。・・・なんだってあんなことさせているんだ?」
仕事の終わった夜。俺は華琳のもとへ行き、桂枝のことを聞いてみることにした。
華琳
「そうねぇ・・・まず、それを教えるには桂枝の才について教える必要が有るわ。」
そういって華琳は玉座に深く腰掛け直す。そしてゆっくりと語りはじめた。
華琳
「桂枝には大きく分けて3つの才能が有るわ。まずは一刀も知っての通りの「計算能力」。およそ数字を扱わせたら少なくともこの国・・・いや、もしかしたら大陸中どこを探してもあそこまでの速さと正確さを持つものはいないかもしれないくらいにね。」
それはわかる。実際俺の世界でもアレだけ速い計算をできるやつは5人といないだろうと思えるくらいにアイツの計算ははやいからな・・・
華琳
「次に目についたのは「学習能力」。桂枝は大抵のことを一度教えれば覚え、次回以降そこで間違えることは決して無い。事実、桂枝が書く政務の書類は書物などで得られる知識を適用させたものがかなり多いし、戦場でも多様な武器は使うけどそれら一つ一つの動きは天賦の才を持つ動きではなく、基本に則った正道のものばかりだったわ。
ーーーーまぁここは弱点でもあるのだけれどね。良くも悪くも頭が堅いのよ。桂枝は。」
そういえば風達もそういってたな・・・「桂枝の案はたたき台にはちょうどいいけどそのままは使えない」って。
戦闘でも巴投げなんかは俺が教えたものだったしたしかに桂枝独自の物といわれると無形くらいしかないのかもしれない。
華琳
「そしてもう一つ。桂枝は「活用能力」が非常に高いのよ。いつ、どこで、なにを、どう使うのが最適なのかを一瞬で判断する能力がね。だから桂枝からはいつでも的はずれな意見が出ない。
さっき言った「武器の基本通りの動き」の中からを一瞬で最適解を読み取って完璧に扱う。私にもできないことでしょうね。
ーーーー桂枝の無形が丁度いい例かしら?多種多様に渡る使い道を完璧に活用してみせるという点では」
活用力・・・なるほど、言われてみれば納得できる内容だ。この世界の将達にはあまりにも人外な人たちが多かったため深くは考えてなかったが使える武器は大抵が1つないし2つってところだ。
そんななか桂枝は存在するほぼすべての武器を他の将達と切り結ぶ程度には使えていた・・・なるほど。確かにそういう才能があるのだろう。
華琳
「さて、さっき言った3つの才能・・・この3つはそれだけでも素晴らしい才能だけれどももう一つ。この3つの才能をを同時に使うと桂枝にはあることができるようになるわ。ねぇ一刀。わかるかしら。
ーーーーもし、その才能を人に向けることができたら・・・どうなると思う?」
一刀
「人に向けるとどうなるか・・・?」
さっき言った3つを全部を人に向けることが出来たらってことだよな。ってことは人を学習し、計算し、活用するということになる。
一刀
「え~っと・・・人の動きを「学習」し、学習した動きを「計算」し予測する。そしてそれを上手に「活用」することができれば・・・!?」
言っていて気づいた。そうか、これってつまり・・・
華琳
「気づいたようね。」
一刀
「ああ、それってつまりはコピー・・・
ーーーー桂枝には人の模倣ができるってことだろう?」
華琳
「そう、桂枝には「人を模倣する才能」があるのよ。それも知り合いならば知り合いであるほど、より正確に、より精密に、ね。」
華琳は俺の答えに満足したように頷いた。
コピー能力・・・言われてみれば春蘭との勝負では霞の薙刀捌きを真似していたというし、桂枝ならばそういったことだできても不思議ではないなという説得力があった。
そうなるとあの大量の書簡を桂枝一人にやらせる意味もわかってくる。あの大量の書簡は政治家、曹孟徳の行ってきたことそのものだと考えれば・・・
一刀
「なぁ、もしかして華琳はお前自身を・・・」
華琳
「そうよ。あの子には今、私を学習してもらっているのよ。
ーーーーせっかく面白い才能をもっているんだもの。どうせなら最高のものを模倣できるようにしてあげないとね。」
そういって華琳はまるで最高の菓子ができるのを待つかのように楽しそうに笑った。
華琳のコピー・・・考えただけでも恐ろしい。桂枝が華琳と同じ事を考えられる従者になれれば確かにこの国には敵はいなくなるだろう。
オマケに桂枝の人を率いる能力の問題も解決するかもしれない。そうなれば桂枝が軍隊を率いる将として活躍できるかもしれない。
そうなれば皆も喜ぶだろう。実際桂枝にはみんなも将になって貰いたいと思っているだろうから。しかし・・・
一刀
「・・・そんなにうまくいくかな?」
そんな簡単に行くのならば桂枝ならば既にやっているような気もする。今まで桂枝がやらずにいたことを果たして今更できるようになるのだろうか。
俺は華琳の計画に少しの不安を覚えつつ華琳との会話を続けるのであった・・・
桂枝
「ーーーーってなことを考えている気がするんだよね。」
今はよる、私の仕事も一段落したとこで私は茶を持ち軍師たちのいる政務室へと足を運んだ。
仕事を手伝うことは禁止されているが、別にこの部屋に入ってはいけないとは言われていない。
私は自分の机に突っ伏しながら三人に近況の報告とその説明を行なっていた。
風
「なかなか面白そうなことをやっていますねー。」
稟
「ご自分を模倣させるなどと・・・いや、流石は華琳さまといったところでしょうがそれは・・・」
桂花
「ああ・・・だからアンタが珍しくソレをかぶっていたまま入ってきたのね。」
桂枝
「・・・外し忘れてたか。」
私はまたいつの間にやら付けたいた頭巾を外しながらため息を一つこぼした。
北郷には簡単だといったがさすがにアレだけの書類を延々まとめ続けるのは私としてもかなりの重労働だ。
あんなことをやらせる理由など一つしか思いつかない。要するに主人は私に過去の流れから己を読み取ってみせろ。といいたいのだろう。
私に人の模倣をする才能があることくらい自分でもわかっている。しかしそれが才能かと言われれば微妙だ。
例えば武で私がこの国の誰かを模倣したとしてそれは型と流れだけを模倣した完全な劣化となる。
一番わかり易いのは楽進だろうか。あの体術を真似しろと言われればおそらく10日も観察していればできるようにはなるだろう。
しかし私には肝心な「気弾」を放つことが出来ない。つまりはそういうことだった。
霞さんを模倣したこともあるがアレも結局本物より動きの遅い霞さんであり、仮に春蘭さんを真似しようとも膂力の足りない春蘭さんにしかならない。
政務に関してもそうだ。この三人の考えそうなことをおおよそで考えることが出来てもせいぜい「おおよそ」止まり。新しい発想を生み出せない私では「私の知っている彼女達ならどう考えるか」の再現が精一杯だ。
しかも今回学ばねばいけないのはあの覇王、曹孟徳と来ている。コレに対して私がどの程度の完成度を見せられるかというと・・・
桂花
「・・・で、どうなのよ桂枝?華琳さまのご期待には応えられそうなの?」
桂枝
「正直・・・キツイかな。主人と他じゃ物が違う。」
実はほぼ不可能だと思っている。
風
「ですねー。桂枝さんなら私達の思考を読むことはできるかもしれませんが・・・」
稟
「華琳さまは・・・さすがに無理でしょうね。あのお方は我々とは根本から違いますし。」
桂枝
「そうなんだよなぁ・・・」
大量の前情報があったことはもちろんのこと、私が模倣できる人間は大抵「人に使われる存在」であることが大前提だ。
何がその人の為に一番役に立てるか・・・そういった思考は私も常にしているところであり、根本が似通っているからこそおおよそ把握できているといっただけだ。
だが・・・主人は違う。あの人はであり紛うことなき覇王の器であり「人を使う存在」だ。
そんな器など私が持っているわけもなく、元々持っているものを形を変えて使うことはできても、持っていないものを使うことはどんな人間にだって不可能だ。
なんとなくは理解できるかもしれないがその理解度は精々3割未満といったところだろう。それくらいに主人の才気というのはずば抜けて高いものだった。
桂花
「で、どうするのよ?桂枝。このままだと余計頭を抱えることになるんじゃないの?」
一番手っ取り早いのは主人に直接話すことだろう。それは理解しているのだが・・・
桂枝
「やるしかないとはわかっているよ。主人の場合ご自分が納得されるまで諦めるとは思えないからな。」
結果として何かを残すまでは納得する御方ではない。
風
「そうですねー。華琳さまはそういう御方ですからねー。」
稟
「なるほど。華琳さまが納得する結果を出さなくてはいけない・・・答えはでているわけですね。」
桂枝
「まぁ・・・せめて主人の期待の半分くらいはなんとか応えてみせるよ。」
そう、せめて・・・半分。全体で言うならば3割といったところか。
それくらいの完成度をもたせられれば私としては上々だろう。難しいがなんとかやってみるしかない。
私は今までにないくらいに大変なこの「期待」にどう応えるか・・・最近はそれだけに頭を悩ませていた。
桂花
「まぁ・・・頑張りなさい。桂枝。」
机に突っ伏している私の頭を姉が撫でる。
その優しい気が滲んだ掌とその久しぶりに感じる温かい感触につい目を細めてしまう。
弱音も吐いたし姉の応援ももらった。あとはやるだけだ。
私は自分の中ですり減っていた集中力が戻ってくるような間隔を覚えていた。
風
「おや、桂枝さんともあろうお方が隙だらけですよ。」
そこに何を思ったのが風がモゾモゾと膝の上まで潜り込んでくる。その行動に私はつい反射的に突っ伏した状態を止め、風が座りやすいよう椅子を引き体制を整えてしまう。
風
「ふーっ。久しぶりですが・・・やっぱり落ち着きますねー。」
そんな私に風は「私の居場所」とばかりに寄りかかってきた。
桂枝
「いきなり来るなよ。驚くだろう?」
風
「良いではないですか。いつものことでしょう?」
桂枝
「まぁ、それはそうなんだが・・・」
ちゃんと治っていない左足には乗らず右足のみに体重をかけているので私としては別に構わないのだが
桂花
「ちょっと!いきなり何やってるのよ!どきなさい!風っ!」
姉が許すとは思えなかったわけで。そうなると当然・・・
風
「・・・一緒に座りますか?片方あいてますけど。」
桂花
「できるわけ無いでしょう!!!」
一悶着起きてしまうわけだ。今日は静かに追われると思ったんだけどな・・・
そうして騒がしく夜は過ぎていく。
風と姉が押し問答をしているその中心で私はまた華佗を呼んで足を早急に直してもらわなくてはな・・・と全く関係ないことを考えていたのだった。
余談だがこの翌日、私がいつも通り夜明けとともに鍛錬にでようと扉を開けると・・・
楽進
「おはようございます。荀攸様。早朝鍛錬を行うのですよね?ご一緒させていただきます。」
桂枝
「・・・む?」
何故か楽進がやけにやる気を充実させてで待機していたことを語っておくことにする。
というわけで超、久々の投稿です。呉編はしばしお待ちください。
桂枝のコピー能力判明・・・と言ってもこれが後に超絶チートになるとかそういうことはカケラもありませんのでご安心ください。作中で言っているように完全劣化しかできないんで。
次回の更新はまたもや未定です。他の方の良き作品を読みつつ「あ~そういやこいつもいたな・・・」程度で読んでくだされば幸いかと存じます。
では、また次回にお会いいたしましょう。
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・・・覚えてる人、いますか?