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No.491490
俺妹 パンツの日記念作品集2012-10-03 00:18:27 投稿 / 全4ページ 総閲覧数:3767 閲覧ユーザー数:3632 |
桐乃編 兄の生態観察日誌
世の中には時に日常から突如奇怪な空間に人間が引きずり込まれてしまう時がある。神隠しなんかはその典型例と言えるだろう。
俺の目の前に広がる空間も、高坂家の廊下にして日常とは異なる空間に変貌していた。
「何で桐乃のパンツがこんな所に落ちているんだ?」
妹の部屋の前に無造作に置かれているもの。真っ白い三角形の布に赤いリボン施されたそれはパンツと呼ばれる衣類だった。特殊な趣味の人々はかぶったり汗拭きに使ったりするが普通は地肌に穿く下着だ。
「お袋め。なんつーえげつないうっかり属性を発揮してくれやがる」
状況的に見て、桐乃の洗濯物を部屋へと運び込んだお袋がパンツが1枚落ちているのに気付かずにそのまま1階に戻ってしまったのだろう。
30を遥かに過ぎたオバさんのドジッ娘属性はちっとも可愛くない。というかこの物体がここに落ちていることは場合によっては俺に死をもたらしかねない。
「さて、俺はこの危険物に対してどう対処するか、だ……」
目の前に置かれている妹のパンツに対して俺は様々な対処をすることが出来る。だが、同時にその対処法を間違えば俺は変態兄の烙印を押される可能性も否定出来ない。
まず一番し易い対処法は見なかったことにすることだ。桐乃のパンツなんか見なかった。知らなかった。そう押し通すことが出来れば俺の社会的ステータスに傷が付くことはない。
だが、それはハッキリ言えば不可能そうだった。何故か?
答えは簡単だ。桐乃のパンツが廊下の中央にあまりにも堂々と鎮座しているからだ。こんな廊下の中央に置いてあるものを知らなかったと押し通すのは難しい。妹は俺の部屋に乗り込んで来て俺に散々いちゃもんを付けた上に処刑を実行するだろう。
加えて、だ。確か今日妹はあやせや加奈子を家に呼ぶと言っていた。俺が知らぬ存ぜぬをした場合、桐乃はあやせや加奈子にパンツを見られてしまう可能性が非常に高い。
そして妹は無茶苦茶プライドが高い。廊下に落ちているパンツを見られた恥を俺への怒りへと変換するに違いない。俺がパンツを人目に付かない所に移動させなかった非を責めあげた挙句に死刑に処すだろう。
つまり、見なかったことにするのは俺の人生の危機を招来する行為となる。
では、どうするべきか?
次に考えるべき点としては、俺はいきなりこのパンツに触るべきではないというポイントを守るということである。
あの気位の高い桐乃のことだ。親切からとはいえ俺がこのパンツに少しでも触れたことを知れば烈火の如く怒り、妊娠させられたと大騒ぎするに違いない。
それを避ける為には俺はこのパンツに触れずに解決出来ればそれに越したことはない。だが、ここで問題が1つある。
「お袋もオヤジも不在、なんだよな」
俺が数分前に家に戻った時、両親の姿はなかった。桐乃のパンツに触れても免罪符が与えられる人物達は今この家にいない。
後は、本人がこの事態に気付いて収拾してくれれば良いのだが……。
「やっぱいねえか……」
妹の部屋を何度かノックしてみたものの返事はなし。扉には鍵が掛かっていて中にも入れない。まだ帰っていないようだった。
「となると、俺が手に持って処理しないといけない訳か」
この瞬間、俺はある程度桐乃怒りを甘受しないといけないことが決定した。後はどんな種類の怒りをどの程度受けるかという問題になる。
「桐乃のパンツをどこに移動させるか。次の問題はそこだな」
恐る恐る妹のパンツを手に取りながら考える。妹の部屋に鍵が掛かっていないのなら、ポイッと投げ込んでしまうなり、他の洗濯物と一緒にベッドの上に積んで置くことも可能だった。
だが、妹の部屋には入れない。ならば、俺はこのパンツの保管場所を他に求めなければならない。
「指し当たっての候補は……リビングか廊下の隅か俺の自室のどれかだな」
お袋が洗濯物を畳むのは1階のリビングだ。リビングに置いておけば運び忘れたという偽装を施し易い。だが、これにも問題がある。
「桐乃は自分の部屋に通す前に恐らくあやせ達をリビングに通して飲み物でも振舞うだろうからなあ……」
するとリビングに移動した3人は1枚だけ残されているパンツを発見することになる。後は恥ずかしさを俺への八つ当たりと変えた桐乃が襲い掛かって来るだろう。
よってリビングはお袋の方が先に帰って来るという保証がない限り却下。
「次に、廊下で人目に付きにくい場所だが……下手をすれば俺の社会的生命が終わりかねないぞ、これは」
あやせや加奈子の目に触れない場所に移す。これは間違っていない。だが、あまりにも凝った場所に置いてしまった場合、このパンツが発見された時に大変危険な別の解釈が施される可能性がある。
言い換えれば、俺が桐乃のパンツを盗み出していかがわしいことに使った末につい誤って廊下に落としてしまったと解釈される可能性だ。
桐乃やお袋にあらぬ疑いを抱かれぬ為にはパンツが落ちていても不自然でない位置に置いておかなければならない。だが、階段から妹の部屋は最も近い地点にあり、適度な遮蔽物によりパンツが落ちていることになかなか気付かなかったというシチュエーションを再現することは出来ない。従ってこの状況から言えることは……。
「なるほど。俺が自室でこのパンツを保管するしかない訳だな」
俺は、自身の社会的生命と生物学的生命を守る為に自室に妹のパンツを運び込んだ。
「さて、妹のパンツを自室に運び入れてしまった。次に問題になるのは……どのタイミングでこのパンツを妹に返すかだな」
両手で広げて妹のパンツを眺めながら考える。意外とシンプルというかお子ちゃまっぽいこのパンツをどう返却するかで俺の今後の人生は大きく変貌してしまう。
「可及的速やかに、尚且つ妹に知られることなく返却することが望ましい。これは絶対条件だ」
改めて目標を口にする。もしこのパンツを返却するのが遅延した場合、何が起きるか考えてみる。
俺はきっとパンツの存在を段々と忘れてぞんざいに扱い、俺の部屋を訪れた妹によってこれを偶然にも発見されて変態兄の烙印を押された上で死刑にされるだろう。
そうでなくても、妹の方がパンツが1枚なくなっていることに気付くかも知れない。そして妹のことだから俺を犯人だと疑って家捜しを行いこのパンツを発見、死刑執行が始まるかも知れない。
そんな事態を避ける為に、可能な限り早くこのパンツを妹の部屋の中へとこっそり返す必要がある。
「最も良いタイミングは……あやせ達が帰る際に玄関まで見送りに行って部屋が無防備になっている瞬間か」
桐乃は外出時には鍵の掛け閉めを厳格にしている。俺が妹に気付かれずに室内に侵入するには玄関に出向いている僅かな隙しかないだろう。
「となると、勝負は一瞬。パンツのことを常に意識から離さない様にしないといけないな」
受験勉強に集中していたり、音楽をのほほんと聴いていたりすると桐乃の部屋の動向を読み間違えてしまうかも知れない。真剣勝負の最中の侍の様に神経を研ぎ澄ませておかないといけない。
「その為には常にこのパンツに意識を集中させる体制を作り上げておかないとな」
俺は手に持っていたパンツを頭にかぶせた。
パンツのゴムが頭を締め付けることにより俺の意識は常にパンツを向いている。実に画期的で効率的な意識の高め方だった。
「後は桐乃達が帰って来て、あやせ達が帰るタイミングを待つだけだな」
目を瞑り、精神を集中させながらその時が訪れるのを待つ。
精神集中…………ク~……スピ~……
「アンタにあやせと加奈子が挨拶したいんだってさ」
俺の意識が覚醒するのと妹がノックもなしに俺の部屋の扉を開けるのは同時だった。
「あっ、あっ、アンタッ!! 何てものをかぶっているのよぉっ!?」
ノックもしないで入って来た無礼な妹は俺を指差しながら大層お怒りになっていた。
「それっ! アタシのパンツじゃないのよっ!! 何でアンタがかぶってるのよ? この変態っ!!」
桐乃の指摘に俺は今現在自分がどういう状況なのかようやく理解した。
「桐乃……お兄ちゃんはな、いっぱいいっぱい頑張ったんだ」
「何を頑張ったって言うのよっ!? この変態っ!!」
妹は机の横に置いてあるゴミ箱を見ながら顔を真っ赤にしている。そういう意味じゃ決してないんだがなあ。
そんなことを考えながら俺はお怒りになった妹によって処刑となったのだった。
黒猫編 ガール・ミーツ・パンツ
「京介のパンツのデザインについてちょっと一言述べたいのだけど……」
両親が泊まり掛けで出掛け、桐乃も陸上部の合宿で出掛け、代わりに恋人の瑠璃が俺の部屋に泊まっていった翌朝。瑠璃はパンツを履こうとしていた俺の行動を制した。
「あの、それはパンツを履いてから聞いてはダメな話なのでしょうか?」
「駄目よ」
瑠璃は俺にベッドの上に正座するように指で示した。
素っ裸のままベッドの上に正座する俺。瑠璃も姿勢を正して正座し直す。ちなみに瑠璃も素っ裸だ。何だ、この光景?
夜にこういう光景はドキドキするのだが、実際昨夜はお楽しみだった訳だが、お日様の光が差し込む中素っ裸で向かい合って座っているとかなりシュールな光景になる。
「私も高坂家の嫁として夫には相応しい衣類を身に付けて貰いたいと常常思っているのよ」
瑠璃は淡々と述べた。
「その、わたくしもいずれ瑠璃さんを正式な妻として迎えたいとは思っています。が、既に妻という過程で話を進めるのは少しまだ時期尚早ではないかとも……」
瑠璃が高校を卒業するにはまだ半年残っている。俺が大学を卒業するのも考えるとまだ2年半も残っている。今夫婦になるのは世間的にもちょっとまずいのではないかと。
「あらっ? 出来ちゃわないとは限らないわよ。例えば昨夜とか。フフフ」
瑠璃はニヤッと笑いながら意味ありげにお腹に右手を当てて押さえた。
「あの、昨夜は大丈夫だって……」
「ええ。産む覚悟はもう出来ているから大丈夫って意味よ」
瑠璃はとても爽やかな顔でそう言った。
「という訳で私は貴方の妻として、貴方の身につける衣服に一言あるのよ。文句ある?」
「ありません……」
俺は心の中で何かに別れを告げながら改めて背筋を伸ばした。
「京介は私の夫なのに着ているものが地味過ぎる。ファッションセンスが感じられないわ」
現在形で妻を名乗る瑠璃からファッションセンスに関して駄目出しが来た。
まあ、大概のことは俺が悪いと受け入れることも出来る。実際に瑠璃は俺より遥かにしっかり者な自慢の嫁だから。
けれど、ファッションセンスに関してはちょっと同意出来ない。
「いや、俺もファッションには疎いが……黒猫だの神猫ファッションを世間に堂々と披露する瑠璃に言われるのは夫としてちょっと納得できない」
瑠璃が妻を名乗るなら俺も夫を名乗ることで攻防戦の地平を決めたいと思う。即ち俺と瑠璃で作る新しい家庭における衣服に関する主導権争いなのだ、これは。
「京介は私のファッションセンスが気に入らないの?」
瑠璃はベッドの下に綺麗に脱いで畳まれている白猫……ではなく、神猫ハイパーモード服を見ながら低い声を出した。
「俺は白猫モードの方が好きだ」
瑠璃は凄い美人だ。白いワンピース姿や浴衣姿の時は世界で一番可愛いって自信を持って言える。大声でご近所さんにも訴えかけられる。
けれど、瑠璃自身はそういう皆から可愛いと思われるファッションよりも、ゴーイングマイウェイな道をすぐに進みたがる。そういうのは出来るだけ抑えて欲しい。コミケ会場とかだけにして欲しいと最近はよく思う。
「あのワンピースは貴方の妹が選んだものよ。……結婚早々に夫がマザコンならぬシスコンであることをこんなにも明確に突き付けられるなんて。はぁ~」
あからさまな溜め息を吐かれた。何か事実無根の属性まで付けられて。
「じゃあ、瑠璃は俺がどういうパンツを履いていたら認めてくれるんだ?」
シスコンで争うのは時間の無駄だろうと考えて、今回の争いの中心に争点を移す。
俺は自分の脱ぎ捨てたパンツを見る。普通のトランクスタイプで色は灰色。目立つような要素は何もない。が、コンビニとかでもよく売られている無難な一品だ。
「そうねえ……」
瑠璃は俺のパンツを見ながら首を捻った。
「真っ赤なTバッグとかよく似合うと思うわ。限界ギリギリが素敵ね」
「俺はそこまで自分に自信過剰になれねえよっ!」
「バタフライも素敵そうね。限界ギリギリの青なんて素敵よ」
「瑠璃は一体俺に何を求めているんだっ!?」
夏の暑さにやられてしまえば「チョー最高~♪」とか悦に浸りながらそういう下着を履くこともあるかも知れない。
だが、揺るぎない常識人を目指す俺にそんな過激なものは履けない。
「何よ。私にはスケスケとか、中央に穴の空いているのを履いてって泣いて拝むのに。私のお願いは聞いてくれないの?」
瑠璃は拗ねたように俯いた。
「ごめんなさい。調子に乗ってました」
俺は深々と土下座して謝った。揺るぎない常識人だと思っていたのは俺の思い込みに過ぎなかった。
「私が今持っている下着はほとんど京介の趣味だってことを忘れないで欲しいわね」
「重ね重ね申し訳ございません。俺は可愛いくてセクシーな瑠璃さんが見たいんです」
どうやら俺は1度近い内にバタフライパンツを履いてフィーバーしなければならないようだった。
「じゃあ、遅くなったけれど、そろそろ着替えて朝食にしましょうか」
瑠璃が立ち上がろうとする。しかし、長い時間正座していたので足を痺れさせたのか俺の胸の中へと倒れ込んできた。瑠璃の体の柔らかい感触が伝わってくる。感動→欲情。
「提案です。今日は1日中服を着ないでベッドの上で過ごすのはどうでしょうか?」
「好きになさい。貴方が性欲の塊なのはもう諦めたわ」
瑠璃はそう言いながら俺の背中へと手を回して抱きしめてきた。どうやら今日俺のパンツは出番がなさそうだった。
あやせ編 あやせのお洗濯がんばるぞ
色々あってしばらくの間独り暮らしすることになり、色々あってその間あやせに身の回りのお世話をしてもらうことになった。
あやせは昨今の女子中学生らしからぬ高家事技能を駆使して俺の生活を快適に、そして豊かにしてくれた。
あやせの作る料理は何でも美味しく、そして彼女の掃除はいつも完璧だった。
だが、そんな完璧な筈のあやせも1つだけ不得意としているものがあった。不得意というか戸惑っているもの。それが洗濯だった。
「なあ、下着は俺が別に洗うからあやせが気にする必要はないって」
「いえ。そんなことをすれば水道代が勿体ないですから、わたしが一緒に洗います」
そう。あやせは俺のパンツやシャツに触ることを大の苦手としていた。汚物扱いされていることにちょっと傷つくが、女子中学生に男の下着を洗えとは酷い話でもある。
だから下着だけを別に洗濯することを俺は提案している。しかしあやせは不経済だからと認めない。だが、不経済と言いつつあやせのとっている対策は不経済という概念を遥かにぶち破るものだった。
「お兄さんの下着はわたしがビニール袋にくるんで捨てておきます。代わりに新品の下着を今日も置いておきますね」
あやせは俺の下着を箸で掴んでビニール袋に入れて捨ててしまい、代わりに毎日新品の下着を代わりに準備しているのだ。
「あのさ、いつも言っていることだけど……1回の洗濯に掛かる水道代よりもあやせが毎日準備している下着の方が絶対金額かかってるよね?」
俺達は砂漠のど真ん中にいる訳ではないのだから。
「何を言っているのですか? わたしの不甲斐なさのせいで高坂家に経済的にご迷惑をお掛けする訳にはいきません」
あやせの口調はいつも通りにはっきりとしている。
「いや、そうだとしてもあやせに経済的に迷惑を掛けるのはもっと違うだろう?」
「わたしが何の為にモデルのお仕事をしてお金を稼いで来たと思っているのですか?」
「少なくとも俺の下着を買え揃える為ではないだろう」
「………………っ」
あやせは急に押し黙った。
「とにかく、お兄さんの下着をダメにしてしまっている代償はわたしに用意させて下さい」
「あやせの心意気は分かった。でも、同じ意気込むなら、俺の下着を洗濯機に放り込む方に傾けたらどうだ?」
「お兄さんの下着に直で触ったら妊娠しちゃうかも知れないじゃないですかっ! そうなったらお兄さんはわたしと子供の一生をちゃんと面倒見てくれるのですか?」
「んな無茶苦茶な」
下着に触っただけで妊娠した人間が実際にいたら見てみたい。
「…………………チッ! イエスって言えば全てが丸く収まるものを。このヘタレが」
「うん? 何か言ったか?」
「いいえ。何も」
あやせとの日常はこんな風にして過ぎていった。
俺があやせの日用品に対して疑問を持つようになったのは本当に偶然からだった。
料理で火を扱っているあやせがハンカチで汗を拭った。その何気なく目に入ったハンカチが俺にとっては非常に衝撃的だった。
「えっ? あれって、俺が履いていたパンツと同じ柄じゃねえか。どういうことだ?」
黄色と青の組み合わせのそのモザイク模様はどう見ても俺のパンツの柄と同じデザインだった。あんな奇妙なデザインがハンカチとして、しかもファッションセンスが抜群のプロモデルであるあやせが持つ訳ないし、どういうことだ?
けれど俺にはそれ以上のことは分からなかった。その日は疑問を抱いただけで終わった。
だが、次の日、俺が抱いた疑問はひとつの確信の形を取ることになった。
あやせが持ってきた本日のハンカチがまた俺のパンツと全く同じデザインだったのだ。
2日続けてあやせの持っているハンカチが捨てられた筈の俺のパンツと同じデザイン。これで疑問を持つなという方が無理だった。
「あのさ、あやせ……っ」
「はい、何でしょうか?」
料理をしながら振り返るあやせ。その手に握られていたのは……菜箸だった。包丁でなかったことに安堵しながら続きを訊いてみる。
「そのさ、あやせが持っているハンカチについてなんだけど……」
「今日の御夕飯は試験も近いということで、頑張ってもらう意味も込めましてわたしの方でステーキを準備させてもらいました」
「あっ、ありがとう」
あやせの全開笑顔に話を打ち切られてしまった。
「あの、あやせは俺のパンツをちゃんと捨てたんだよな?」
「さあっ、お肉が焼きあがりましたよ。2人で御夕飯にしましょう♪」
あやせはフライパンを持って振り返って焼きあがった肉を俺に向けて見せた。
「あっ、ああ……っ」
俺はそれ以上何も聞けなかった。
あやせの満面の笑みはそれ以上の追究を俺に不可能にさせた。
それから数日が過ぎた。いよいよ明日は模擬試験日。言い換えれば今日であやせがお世話してくれるのも最後になる。
「お兄さん。明日の模擬試験には絶対に遅刻できませんよね?」
あやせがカレンダーを見ながら問い掛けて来た。
「ああ。明日の模擬試験でA判定を取らなかったら実家にはもう戻って来るなと言われている。絶対にいい点取らないとな」
ここまでの勉強の進度は順調。明日の試験で余程のことがない限りはA判定は取れるだろう。
「じゃあ、明日の朝にお兄さんが寝坊しないようにわたしは今日この部屋に泊まっていきますね」
あやせはとんでもない無茶なことを言い始めた。
「女子中学生が男子高校生の部屋、しかも独り暮らしの部屋に泊まるなんてとんでもない」
「大丈夫です。お兄さんにはちゃんと手錠も足枷もしてもらいますから何か間違いが起きることなんてありませんよ♪」
「へっ?」
気づけば俺の両手両足は鉄の輪っかにより拘束されていた。
「あの、あやせさん? これは一体?」
「それじゃあわたしはパジャマに着替えますからお兄さんは目を瞑っていて下さいね」
言うが早いかあやせは着ている服を脱ぎ始めた。見てはいけないと思い、慌てて顔を逸らして目を瞑る。あやせの奴、一体どうしたって言うんだ?
「着替え終わりましたからもう目を開けて良いですよ♪」
あやせの声に導かれて恐る恐る目を開ける。すると俺の目の前にはカラフルなパジャマ姿のあやせの姿があった。
服を着てくれているのは良い。けれど、問題はそのパジャマの柄にあった。
「あやせ……それ、捨てた筈の俺のパンツを縫い合わせて作ったパジャマ……だよな?」
パジャマの柄の一々に俺は見覚えがあった。だってかつては俺が履いていたパンツの柄と全く一致しているのだから。
「わたし、このパジャマを作ってからすっごく安眠出来るようになったんです。特に、今日みたいに下着を付けずに直にこのパジャマを着ている時は特に♪」
あやせはパジャマの裾という名の俺の元パンツを鼻の所へと持っていくとスンスンと臭いを嗅いだ。
「それじゃあ明日は早いですし、今日はもう寝ましょうか」
あやせは拘束されて動けない俺の元へと来ると俺の手を器用に動かしながら腕枕させた。
そして体を密着させながら目を瞑った。
「あの、あやせさん……」
「じゃあ、御休みなさい」
あやせは目を瞑ったきり俺の質問に全く答えなかった。
そして翌朝……
「あやせ、いい加減に目を覚ましてくれぇっ! 試験に遅れてしまうっ!」
あやせは目覚めてくれなかった。彼女が目を覚ましたのは夕方になってからだった。
「わたしのせいで試験を受けられず、実家に戻る機会を失ってしまうとは何たる失態」
俺のパンツを縫い合わせたパジャマ姿であやせは泣きそうな表情をしていた。
「ですが、ご安心ください。実家に戻れなくなった責任を取ってわたしが一生お兄さんの身の回りのお世話をしますから。これからずっとよろしくお願いしますね、京介さん♪」
あやせはとても良い笑顔で俺に向かって頭を下げたのだった。
加奈子編 下着ファッションショー
「それじゃ京介。あたしに似合う一番似合う下着はどれか選ぶのを手伝ってもらうからな。とびっきりすっげぇ~下着を選び抜いてやるぞ♪」
「へいへい」
ゲッソリしながら更衣室の前に山と積まれた下着を見ながら返事する。
「スケベで女への欲情しか頭にない京介の為にあたしがわざわざ下着ファッションショーをやってやるんだから感謝しろよな。にっひっひっひっひ」
制服姿の加奈子はエッヘンと胸を反らした。
「そんな小学生体型で偉そうに言われてもなあ……」
思わず溜め息がこぼれそうになる。加奈子がブリジットちゃんや日向ちゃんにも劣る幼児体型でなければ俺はこのシチュエーションをもっと喜んでいたであろう。
でも、少なくとも小学校5、6年生の少女よりも涙を誘う体型の中学校3年生じゃなあ。
「何言ってんだ、オメェは? 京介はいつも、小学生は最高だぜっ!って大声で叫んでいるじゃねえか。ガキっぽいのが本当は好きなんだろ? このロリコン野郎が」
「分かってないな、加奈子は」
首を横に振って答える。分かってないお子ちゃまにレクチャーしてやる。
「小学生は最高だぜって言葉はなあっ! 小学生がJSだからこそ輝く言葉なんだっ! もうすぐ義務教育を卒業しそうな加奈子が小学生風に若作りした所で、それはイメクラのお姉ちゃんが中学生や高校生のフリをするのと同じ所業。所詮はまやかしだっ!!」
指をビシッと突きつける。気分は推理を披露した名探偵。
「じゃあ京介はそういうお姉ちゃんがブルマ姿でいても少しも喜ばねえんだな?」
「ごめんなさい。俺は自分に嘘をついていしました。本物か偽物かなんて大して重要じゃありませんでしたあっ!」
土下座して加奈子に頭を下げる。俺の完璧だった筈の理論構築は加奈子の指摘の前に敢無く崩れ去った。
「分かればいいんだよ。で、京介はどんな下着が好みなんだよ?」
「好みとは?」
加奈子はちょっとムッとした表情を見せた。
「あたしが大好きなオメェの為に下着を選ぶんだから、オメェがどんな下着をあたしに着て欲しいか言ってくれなきゃ困るだろうがっ!」
「あっ……今日の趣旨ってそうなんだ……」
加奈子の言葉に俺の顔も熱を持つ。加奈子には最近何度も好きだと言ってもらったことがある。俺も最近は素直になって来た加奈子のことを可愛いと思うようになってきている。
俺達の仲はまあそんな感じだ。
「それで京介はあたしがどんな下着姿だったら嬉しいんだ? グっと来るんだ?」
「いや、グっと来るって言われてもなあ……」
最近素直になった加奈子はかなり可愛いとは思う。けれど、その小学生ボディーを見るとやっぱりそっちの方面に踏み切るのは犯罪じゃないかって気分が心を満たす。
「あたしがどんな下着だったら押し倒したくなるのか聞いてんだよ」
「押し倒すってあのなあ……っ」
無茶苦茶言ってますよ、この子。俺を犯罪者にしたいんすか?
「京介は頭も中身も冴えない癖に女とフラグ立てる能力だけは一級品だからなあ。早く正妻の座を射止めないと振られ捨てられる羽目に陥るから手段なんか選んでられねえんだよ」
「ここだけ聞いていると俺がどうしようもない最低人間に聞こえるんだが?」
「自覚なしなのかよ」
加奈子への抗議を諦めて、コイツに似合いそうな下着がどんなのか考えることにする。
いや、誤解するなよ。別に俺は加奈子を押し倒す為に下着を選ぶ訳じゃないんだからな。そこんとこは間違えるなよっ!
「まず、始めに。黒かったりスケスケだったりあんまり大人っぽいのは止めておけ。お前の体型でそういうのはちょっと無理が有り過ぎる」
加奈子の場合、体型だけでなく言動や雰囲気のその全てがあんまり大人っぽくはない。だからそういう下着を付けても違和感を覚えるだけだろう。
加奈子は山の中から大人っぽい下着を隅へと追いやった。
「それから次に。反対にクマとかパンダとかそういう動物プリントもので子供っぽさを演出するのも止めておけ。そういうのは天真爛漫な子が身につけるには萌えかも知れないが、お前がやるとあざとすぎて引く」
加奈子には確かにガキっぽい面がある。けれどそれは、悪ガキっぽいと表現出来るもので子供=純真無垢と結び付ける為のベクトルとは別方向のものだ。よって子供を無理にアピールするのも逆効果でしかない。
加奈子は山の中から如何にも子供っぽい下着を隅に置いた。
「後、それからな……」
「まだ注文があるのか?」
首を捻る加奈子に向かって告げる。
「加奈子は元が可愛いんだから、奇をてらったおかしな下着さえ選ばなければ普通に可愛い筈だぞ」
「………………バカ」
加奈子の顔が真っ赤に染まった。
「じゃあ、京介が好きな普通に可愛いあたしってのを確かめる作業を今から始めるからな」
「ああっ。そっちの白いのとかピンクのとか加奈子によく似合うと思うぞ」
きっと加奈子には普通の中学生っぽい下着が一番良く似合う。事務所ではメルルとか色物扱いされてばかりだけど、コイツは多分“普通”の中学生しているのが一番可愛いのだと思う。
「そんなにあたしのことを理解しているのなら……ちゃんと普段から言えよな」
「以降気を付けるようにするよ」
こうして加奈子主催の下着ファッションショーが始まりを告げたのだった。
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