No.494379

そらのおとしものショートストーリー5th あの子と海13 約束された勝利のヒロインっ子

水曜定期更新

いよいよ約束された勝利の出番を有するあの人の章。
とはいえ、割と平和な物語の展開。
海シリーズは15までです。

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2012-10-10 01:24:13 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1809   閲覧ユーザー数:1731

そらのおとしものショートストーリー5th あの子と海13 約束された勝利のヒロインっ子

 

 

「畜生……っ。どうしてこんなことになっちまったんだ……」

 楽しいものになる筈だった海でのバカンス。

 イカロスやニンフは勿論、日和や鳳凰院月乃なんかも呼んで皆でワイワイやるつもりだった。

 おっぱいボインボインお尻プリンプリンの水着の美少女達に囲まれてうっはうっはのむっひょっひょのひと時を過ごすつもりだった。

 ところがだ。

 それぞれ都合がどうとかで1人欠け2人欠け、海に到着したのは当初の予定より大幅に少なかった。

 たわわに実るおっぱいの量が減ってしまった。

 だが俺に訪れた悲劇はそれだけでは終わらなかったのだ。

 俺達は観光用ヨットに乗って大海原へと繰り出した。ところがいつものお騒がせメンバーがこともあろうに船内で喧嘩を始めた。

 そして危険指数は超1級品である奴らはお約束的な展開として船に大穴を開けてくれた。沈み行く船体。俺は水面へと放り出され……運良く浮いていた丸太に捕まって事なきを得たが、その後気絶してしまった。で、現在……。

 

「こんな無人島に流れ着くなんて俺は漫画の主人公かっての~~っ!!」

 綺麗な淡い青い色をした海に向かって大声で叫ぶ。

 何と俺は漂流してどことも知らない無人島へ流れ着いてしまったのだ。前に1度、会長達に騙されてそはらと2人きりで無人島生活体験もどきをさせられたことはある。が、今回は正真正銘の本物だ。本当に無人島に流れ着いてしまった。

 

「桜井くんのお嫁さんが本当に私で良いのですか? 私なんかで良いんですか?」

 

 俺のプロポーズを受けた日和が顔を真っ赤に染め上げながら動揺して手足をブラブラさせている。

 そう、俺と一緒にこの島に辿り着いたのは日和だった。

 俺と日和は命からがらこの島へと逃げ延びて来たのだった。

 

 

 クルージングを満喫中だった俺たちを突如フラレテル・ビーイングが潜水艦で強襲して来た。一瞬にして戦場となる船内。

 フラレテル・ビーイングの介入対象は、同組織の幹部である筈の俺だった。

『桜井くんに手出しすること……絶対に許しませんっ!』

 普段は優しい日和が俺を守る為に武器を取った。

 だが、天候を操るエンジェロイドである日和が海上で戦うのは相性が良過ぎて逆に危険だった。

 敵を倒すことに成功したものの日和の強大な力に耐え切れず船は沈没。俺は日和に抱えられて飛んで行き近くの島へと退避して来たのだった。

 

 

 で、日和と2人きりで無人島に到着した俺は……早速プロポーズしたのだった。

『日和……俺と結婚して欲しい』

 今回のクルージングは元々日和を誘ってプロポーズするのが目的だった。

 その為にアルバイトして指輪も準備しておいた。

 で、予定とはだいぶ異なる形になったのだけどプロポーズを敢行することにした。

 俺はまだ14歳だから法的には結婚できない。けれど、男のけじめとしてやっぱり結婚を申し込むべきだと思った。18歳になったらすぐに式を挙げられるように。

 で、現在日和の解答を待っている最中なのだが……。

 

「私……農作業ばかりやっているから地味で泥臭いし」

「前にも言っただろ。そんなこと気にしないって」

「でも私、桜井くんのお母様とお父様と上手くやっていけるか分からないし……」

「母ちゃんは前日和のおっぱい揉んで気に入っていただろ。父ちゃんは母ちゃん以外には優しいし。それに、日和みたいな良い子が嫌われることなんて絶対にないよ」

「だけど、私は貧乏で弟達を食べさせるのもやっとで……」

「2人で一生懸命働けばいつか生活も上向くさ」

「でも、でも……」

 日和は先ほどからプロポーズの返事を保留しようと必死だ。

「その、返事を急がせるつもりはないけれど……」

 日和の態度を見ているとどうしても不安になって来る。

「俺のことが嫌ならさ……さっさと断ってくれて良いから」

 断られたら悲しい。泣き崩れることが100%決まっているほどに悲しい。

 けれど、日和に遠慮させてずっと苦しませるのはもっと嫌だ。

「桜井くんにプロポーズされて……嫌なんて絶対にありませんっ!」

 日和はムッとした表情で怒ったような声を出した。

「桜井くんは全然これっぽっちも分かっていません」

「えっと……」

 今まで見たことがない程に怒っている日和に凄く焦る。

「私が桜井くんのことをどれだけ好きなのか、どれだけ想っているのか全然分かっていません」

「あ、あの、その、すみません」

 思わず謝ってしまう。

「桜井くんにプロポーズされてどれだけ私が嬉しいと感じているのか、智樹くんは全然分かっていません」

「重ね重ねすみません」

 砂浜に土下座して謝る。

「私があの言葉をどれだけ待ち望んでいたと思うのですか?」

「マジほんとすんませんでした」

 夏の熱い砂浜で肌を文字通り焼きながら謝る。

 

「それでその、日和さんはあっしのプロポーズを喜んでいらっしゃるということは、お受け頂けるのでしょうか?」

 下手に出ながら肝心の返答がどうなったのか聞いてみる。

「嬉しいから、困っているんです」

 日和は俯いて落ち込んだ。

「あの、日和さん?」

 日和はとても悲しげな瞳を俺へと向けた。

「桜井くんは私と結婚するということがどういうことだかその意味を分かっていますか?」

「意味って言われてもな……」

 日和の問いが抽象的過ぎて何を解答するべきなのか分からない。

「私は……エンジェロイドなんですよ。普通の人間とは違うんですよ」

 日和は凄く切羽詰った声を出して大きな問題だと表現している。だけど……。

「えと、人間とエンジェロイドの結婚に何か問題が?」

 俺には何が問題になるのかよく分からない。

「そうでした。桜井くんはもし一緒に漂着したのがニンフさんだったらその日の内に手を出して子供も沢山作って平然と結婚しているに違いない人ですもんね」

 日和が複雑そうな表情で目を瞑る。自分の言葉に落ち込んでいる。

「ちょっ、ちょっと待てよ! 俺は日和一筋なんだぞ。そんな節操なしのケダモノみたいなことは断じてしないっての!」

「何故かは分かりませんがそんな予感が強くするんです」

「根拠なしにケダモノ扱いなのかよ……」

 日和の中の俺はどれだけ駄目人間なのだろう?

「確かに桜井くんはエンジェロイドとの結婚を気にしない方なのかもしれません。ニンフさんとの結婚がそれを物語っています」

「いや、ありもしないニンフとの結婚を例に持ち出されても困るんだが、まあ分かってくれたのなら良い。俺は日和がエンジェロイドだろうと人間だろうと気にしないさ」

 爽やか好青年風に微笑みかける。

 けれど日和の不安は晴れない。

「でも、私達の子供は人間とエンジェロイドの間の子。成長過程や寿命がどうなるのか全然分かりませんよ」

「日和の想像の中の俺とニンフの子供は人間とエンジェロイドの合いの子ということで苦しんでいたか?」

「…………仲の良い両親に囲まれてとても幸せそうにしていました」

 日和はハッとして瞳を大きく開く。

「だろ。俺と日和が一緒に力を合わせて大切に育てていけば子供にきっと笑顔を与えられるさ」

 再び爽やか笑みを投げ掛ける。

 けれどそれでも日和の不安は晴れない。

「だけど私はエンジェロイドだから……桜井くんが天寿を全うしてもその後もずっとずっと生きていかないといけないんですよ。貴方を失った悲しみに囚われながらずっと生きていかないといけないんですよ」

 日和は泣きそうな顔をしている。

 その問題は、何度も考えたことがある。

 イカロスやニンフの話す自身の昔話というのは今の人類が生まれるより遥かに古代のことだったりする。

 人間とエンジェロイドでは流れる時が別物であることは事実だ。それはもうどうしようもない。だけど……。

「日和が俺と一緒になって暮らした日々のことを嬉しくて誇らしく感じられるように…俺がお前をいっぱいの幸せで包んでやるさ」

 日和を正面から抱き締める。

「だから俺と一緒に……最高に幸せになろうぜ」

 強く強く日和を抱く。

 俺のこの気持ちが全て彼女の心の奥底にまで届くように。

「…………はいっ」

 日和はとても小さく、でもはっきりとした声で返事してくれた。

「じゃ、じゃあっ!」

 日和は俺の腕を掴みながら上目目線に見上げる。

「その、私と結婚すると……私だけでなく弟達の面倒も見てもらうことになるのだけど……良いの?」

 日和が申し訳なさそうな瞳で俺を見る。

 日和の家は両親が事故で亡くなったとかで弟達の面倒を見られるのは彼女しかいない。

 即ち日和を奥さんに貰うということは彼女の弟達の扶養義務も含まれることになる。

 日和はそれを気にしているのだ。でも、そんなことは俺にとって何でもなかった。

「日和の家族ってことは俺の家族でもあるからな。全然問題ないぜ。っていうか、俺の方こそ家に未確認生物が2人もいるし……」

 イカロスもニンフも俺の家しか居場所がない。いや、アイツらの才覚は凄いから幾らでもお金なんか稼いで高級マンションでも買って住めそうだけどそれはしないだろう。

 アイツらは俺と一緒に住む桜井家での生活を気に入っているのだから。

「イカロスさんとニンフさんがどんなに可愛いからって浮気しないと誓ってくれれば一緒に住んで構いませんよ」

「アイツらとはそんな仲じゃねえし、浮気なんてしないっての!」

 日和はフフフと楽しそうに笑った。

「浮気しようとしても空からアストレアさんがいつも桜井くんを見ていますからね」

 真っ青な空を見上げてみる。

 

(桜井智樹が浮気しないかは365日24時間私が見守っていますから安心ですよ~)

 

 1行の描写もないのに既に大空に笑顔でキメているアストレアが確かに俺を見守っていた。

「そんな心配なんかしなくても俺は日和一筋だっての」

 抱き締めている手に改めて力を込めてより密着状態を作る。日和の顔がより一層真っ赤になった。

「日和こそこんなに可愛いんだからすぐに男が群がって来るんだぞ。浮気すんなよ」

「私はずっと桜井くんにメロメロですから。浮気なんてしませんよ」

 嬉しいことを言ってくれる日和に手に篭る力が一層増す。

「じゃ、じゃあ、改めて言うぞ」

「はい」

 唾を飲み込んで緊張しながら言葉を切り出す。

「日和……俺と結婚して欲しい」

 日和は頬を染めながら

「はい。ふつつか者ですがよろしくお願い致します」

 笑顔でオーケーをくれた。

 そして彼女は照れ臭そうに

「智樹くん……2人で、幸せになりましょうね♪」

 俺にキスをプレゼントしてくれたのだった。

 

 こうして俺は日和と結婚し幸せな日々を送ることになった。

 

 俺達のこれからの幸せを太平洋のどこぞの島の大空からアストレアが優しく見守っていた。 

 

 了

 

 

 

 

 

 

 

 ……と、あっさりとはハッピーエンディングにならなかった。

「どうやって帰ろうか?」

「私の羽が使えたら良かったのですが、すみません」

 砂浜に2人並んで座って途方にくれる。

 俺達には空美町に帰る手段がなかった。

 日和が先程の戦闘で翼を傷めてしまい現在飛行することが適わない。

「3、4日もあれば修復できるのですが……弟達には明日帰ると言ってしまっています。食事の作り置きも明日の分までなので、明日までには帰らないといけません」

 日和が落ち込んだ表情をみせる。

 結婚を誓い合ったばかりの俺達に早くも試練が訪れていた。

「陸地の方角が分からないんじゃむやみに船を作って漕ぎ出す訳にもいかないしなあ」

 見渡せば見えるのは空と海だけ。

「一刻も早くこの島から脱出しないといけないのに困った……」

 この島の近海は魚が豊富で、島の内陸部は緑が豊かで水もありそう。だからサバイバル生活をするのには適している。

 けれど、脱出を前提とした場合、この島は厄介極まりなかった。

「せめてイカロスかニンフに連絡が取れたらなあ」

「2人共今はメンテナンスの最中なのでそれは難しいと思います」

 そうなのだ。

 今回の旅行にイカロスとニンフが不参加だったのもシナプスで健康検診を受けているからだった。検査は1週間ほど掛かると言っていた。

「イカロスもニンフも明日までには間に合わないか」

 打つ手がなくなって空を見上げる。

 アストレアが笑顔で俺を見ている。日和の言葉通りに俺を見守る、というかむしろ監視しているようだ。

「なあ、アストレアはこの状況を何とかできる方法を知らないか?」

 駄目元で聞いてみる。

 するとアストレアは笑顔のまま島の中央を見た。

 俺もアストレアの視線の先を追ってみる。するとそこには幅5m、高さ3mほどの円柱状の岩があった。その岩にはプレートのようにも見える黒色の石がついており、文字が彫られているようにも見える。

「あれが一体何だってんだ?」

 俺にはよく分からない。けれど、その岩を見た瞬間に日和が驚きの声を上げた。

「あれは、古代シナプス超技術研究所入口って書いてありますよ!」

 日和はプレートらしきものを見ながら興奮している。

「シナプスの研究所か」

「はい。もしかするとこの島を脱出できるアイテムや乗り物があるかも知れません」

 目を瞑って考える。

 きっと危険が待ち構えているに違いない。流れ的に。

 けれど、あの研究所に入らずして脱出の方法がみつけられないのもまた事実だった。

「じゃあ、行ってみるか」

「はいっ」

 2人並んで立ち上がって研究所を目指す。

「アストレアも重要な情報をありがとうな」

 大空に浮かんでいるアストレアはドヤ顔を返してみせた。

 

 元々シナプスの住民だった日和がいたおかげで研究所の中には簡単に開いた。

 岩に偽装した入り口があっさりと開いたのだった。

 研究所は地下へと伸びていた。

 特殊な塗料でも使われているのか研究所内は電灯があるわけでもないのに明るかった。

 そのおかげでスイスイ進むことは出来たのだが、障壁なく進めるということはボスキャラの所まであっという間に辿り着いてしまうことも意味していた。

 

「私はシナプス四天王の1人、お利口のプロト・アストレアっ! この先にある世界中好きな所に瞬時に移動できる瞬間移動装置が欲しければ私と戦って勝ってみせなさい!」

 髪の毛を黒く染めたアストレアそっくりの少女が俺達の前に立ちはだかった。本当にアストレアそっくりだ。だが……。

「えっと、お前はニンフのパチモンキャラかなんかか?」

 プロト・アストレアは絶望的なまでに胸がなかった。まるでニンフのようだ。

「胸に行く栄養があったら脳に回して賢くなるのが正しいあり方というものでしょう」

「ああ。だからアストレアは栄養が全部胸に集中してヴァカなんだな」

 ダイダロスはお利口よりも外見を重視してアストレアを巨乳馬鹿にしたと。なるほど。ニンフが貧乳なわけもよく分かった。

「さあ、無駄口はここまで。プロト・アストレアと最初に相対してしまった不幸を呪いながら死になさい!」

 貧乳アストレア、もといプロト・アストレアが剣を構えて襲い掛かって来た。

 お利口を名乗るだけあってアストレアのように自滅を期待することは難しそうだ。

 相手は近距離戦闘最強のエンジェロイドのプロトタイプ。一体俺はどうすれば良い?

「えいっ♪」

 一方俺の隣では日和がバナナの皮をプロト・アストレアの前方に投げた。バナナは旅行の参加者の1人であった鳳凰院月乃が俺に投げつけて遊んでいたものだった。

「侵入者覚悟~~~~っ! ……って、きゃぁああああああああぁっ!?!?」

 プロト・アストレアは盛大にすっ転び、剣の柄で自らの頭を強く打った。

「むっ、無念です~~っ!」

 その言葉を最後にプロト・アストレアは動かなくなった。

「えっ? これで終わり?」

 よく分からない間に勝利を収めてしまった。

「智樹くん。知っていますか?」

「何を?」

「0に何を掛けても0なんですよ♪」

「…………俺の嫁さんは逞しくて便りになるなあ」

 プロト・アストレアに合掌する。

 そして改めてダイダロスがアストレアを巨乳に調整した意味を理解したのだった。

 

「プロト・アストレアお姉さまがやられたみたいだね」

「フッフッフ。奴はシナプス四天王の中でも最弱なのよ」

「……人間如きにやられるとはエンジェロイドの面汚しよ」

 角を曲がった先から声が聞こえて来た。

 よくは分からないが残りの四天王がいるらしい。

「よし、日和。こっそり様子を窺って隙を見て先制攻撃を仕掛けよう」

「はいっ」

 忍び足で曲がり角に近付きながらこっそりと四天王の様子を窺う。

 

「ごはんはすごいよ なんでも合うよ ホカホカ ラーメン うどんに お好み焼き これこれ」

 偽カオス、多分プロト・カオスはゴツいギターを持ったやる気なさそうで人の良さそうな女子高生の姿をして歌っている。

「違うっ! 俺のカオスはこうじゃないんだ! もっとちっこくて金髪で俺のことをお兄ちゃんと慕ってくれる奴じゃねえと、カオスだなんて認められないんだ!」

「智樹……くん?」

 日和が白い目で俺を見ている気がするが無視する。

 次はニンフだ。

「ああ~巨乳って毎日毎日肩が凝るから本当に嫌になるのよね~」

 プロト・ニンフは姿かたちはほとんど今のニンフと一緒。ただ一つ、小さな身長にそぐわない巨乳であることを除けば。そはらよりもでかそうな胸を反らして誇っていた。

「俺はコイツだけは許せないっ! 貧乳でこそのニンフだろうが!」

「智樹…………くん?」

 日和の目がますます厳しくなった気がするがやっぱり無視。

 そして最後はイカロス。

「……最高のBLを奏でるには、私が直接総攻めとなれば良い。全ての美少年のお尻を征服すれば最高のBL漫画が描けます」

 プロト・イカロスは美少女ではなく美少年になっていた。

「最悪だぞ、コイツは~~っ!?」

 ダイダロスがイカロスに感情制御能力をあまり持たせなかった理由がようやく分かった。

 感情が豊かだとイカロスは最初の欲求であるBLを満たそうと狂気に走るからだ。

「智樹くんはプロト・イカロスさんにお尻でお説教されれば良いと思います。フンッです」

 日和はとってもご機嫌斜めになっていた。

「だが、油断しきっている今がチャンスっ!」

 俺は穿いていた海パンを脱いで下半身を曝す。

「と、智樹くんっ!?」

 日和が顔を真っ赤にして硬直している横をすり抜けて3人の前へと躍り出る。

「次はカレーのちライス行くよ~」

「次生まれ変わる時は貧乳がいいわね~」

「……早くこの島の警護任務を解かれて世界中の美少年を食い散らかしたいです」

 いまだ俺の存在に気付いていない3人に向かって必殺技を発動する。

「股間超電磁砲(ORENOBELLGANARU)発射~~っ!!」

 股間から超高電圧砲を発射して3人を同時に攻撃する。

「「「(……)ぎゃぁあああああああああああぁっ!?!?」」」

 3人は黒コゲになって倒れた。

「やった。これでシナプス四天王をみんな倒したぜ」

 笑顔で日和へと振り返る。

「と、智樹くん!? パンツを穿いて早くそれをしまって下さい~~!?!?」

 日和は顔を真っ赤にして体を硬直させたまま痙攣させながら声を絞り出した。

 日和の視線の先には俺が先程必殺技を出した発射口があった。

「おいおい。俺達は夫婦になったんだぜ。これから毎日見るものなんだから慣れてもらわないと~」

 腰を左右に振って日和により一層激しく見せ付ける。

「そ、そういうものは……そういう雰囲気になった時に……プシュ~~」

 言葉の途中で日和は茹で上がってしまった。

「日和は純情だなあ~」

 新大陸部入部テストの時を思い出してちょっとだけ和んだ俺だった。

 

 

 四天王を全員倒して遂に俺は研究所への最奥部へと到達した。

 俺達の目の前には大きな扉が待ち構えていた。

「お約束的な展開から言うと……この先に大ボスと瞬間移動の装置がある筈だ」

「出来ることなら平和裏に装置を使わせてもらえると良いのですが……先程の四天王の好戦的な様子を見る限り難しいでしょうね」

 ニンフ以上の電子戦仕様になっている日和が扉のロックを解除する。

 扉は1分も掛からずに開いた。

「じゃあ、乗り込むぞ日和」

「はいっ」

 プロト・アストレアが落とした剣を握って内部へと突入する。

「討ち入りじゃあぁあああああああああぁっ!!」

 勇ましく飛び込んでいったその部屋の中には

「何故この俺がダイダロスに代わりこんな利用目的もない老朽化した研究所のメンテナンスを担当しなければならないのだ? これも全てあの女が過去の恥ずかしい写真を公開すると俺を脅してきたせいで……ブツブツ」

 雑魚が1匹いるだけで大ボスの姿はどこにもなかった。

「おい、シナプスのマスター。お前邪魔なんだよ。どっか行け」

 プロト・アストレアが持っていた剣で殴りつける。脱衣(トランザム)モードを使うまでもない。

「おらっ! おらっ! おらあっ!」

「ぎゃぁあああああああああああああああぁっ!!??」

 ダイダロスみたいな超科学者がラスボスとして控えているのかと思ったらいるのは留守を任されているっぽい雑魚だけ。期待はずれも良い所だ。

「私……勝手にエンジェロイドに改造されたこと、忘れてませんから♪」

「まっ、待て、ゼータよっ!? その錫杖は決して鈍器でもまして尻の穴に入れて台風を起こすもので……ぎゃぁあああああああああああああああああああぁっ!?!?」

 小悪党は滅んだ。

 シナプスのマスターは羽を毟り取って樽に詰め込んで海に流しておいた。流した後に日和が近海を大しけに変えるおまけ付きで。

 こうして戦いは俺達の勝利に……

「智樹くんっ! 真のラスボスGが出現しましたっ!」

 終わると見せかけて最後の敵が現れた。

 奴の名はG。別名ゴキブリ。

 体長5cmほどのそいつは先程のシナプスのマスターよりは厄介そうな相手だった。

 何しろ女の子はGを嫌がるもの。

 日和もゴキブリが嫌いに違いない。

 だが俺は学校の女子からゴキブリ桜井と呼ばれるぐらいにゴキブリとは相性が良い。

 奴に対する嫌悪感がない以上、体が大きくてプレス攻撃が使える俺の方が優位な筈!

「勝負だ、ゴキブリっ!」

「えいっ♪」

 そしてゴキブリは……俺の目の前で日和の錫杖によって叩き潰された。

「えっと……日和はゴキブリ平気なわけ?」

「農業やっていると……虫が怖いなんて可愛いことは言ってられませんよ♪」

 ゴキブリを叩き潰した日和はとても良い表情で微笑んでいた。

 俺の嫁さんは本当に頼もしいなあ。

 

 

「どうだ? 瞬間移動装置は使えそうなのか?」

「ガタッさんがメンテナンスしていたおかげで使用は問題なさそうです。プログラム言語が古代のもので完全に調整するには後1時間ぐらい掛かりそうですが」

 今は亡きシナプスのマスターが使っていた椅子に日和が座りながら作業を進めている。目の前のどこでもドアみたいな道具のプログラムを弄っているらしいのだが俺にはさっぱり分からない。

 まあこういうのは得意な嫁に任せよう。

 仮眠用のベッドがあったのでそれに横たわりながら日和の作業が終わるのを待つ。

 うつらうつらとして、何度か目を開いてまたうつらうつらして……。

「智樹くん。調整が終わりましたよ」

 日和の声で起こされた。

「そっか。調整終わったのか」

「はい。これでいつでも空美町に帰れます」

 日和は満面の笑みを見せた。

「そっか」

 漂流生活も1日で終わらせられそうでホッとしている。

「ところで、今何時なんだ?」

「現地時間だと午後11時半。日本の時間だと午前12時半ですね」

「もう完璧に夜中なんだな」

 ここは地下の奥なので時間の概念が希薄。しかし知らない間に真夜中になっていたらしい。

「こんな時間に空美町に戻るのもなんだし、今日はこの島に泊まって行こうぜ」

 日和の顔がいつにない程に真っ赤に染まった。

「と、と、泊まるって……た、確かに私達はもう結婚の約束も交わしましたけど……」

 モジモジして俺の顔とベッドを交互に見ている。そんな日和の手を取って立ち上がる。

「とりあえず砂浜に戻って貝でも拾って焼いて食べようぜ。それから満天の星空を見てれば新婚旅行の思い出にはなるんじゃないか」

 我ながら良いアイディアだと思い日和の手を引きながら地上を目指す。

「新婚旅行……」

 日和も顔を俯かせながら大人しく俺に付いて来ている。

「どうしたんだ?」

「綺麗な星空を見てそれ以上の思い出が作れるかどうかは智樹くん次第だなあって思いまして♪」

 日和は強く手を握り返してきた。

 その手はとても温かくて、俺は体全身が熱くなっていくのを感じていた。

「もっとスピードを上げるぞ」

「はいっ」

 2人で研究所の中を駆け抜けていく。

 駆け抜けて駆け抜けてあっという間に入り口へと戻ってきた。

 天を見上げると、満天の星空とアストレアが星座となって輝いていた。

 

「そのさ……大好きだぜ」

「私も、大好きですよ」

 

 

 了

 

 


 
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