No.487015

機動戦士ガンダムSEED白式 18

トモヒロさん

18話 箒、再び
しばらくオリ展開です。

2012-09-22 00:39:00 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:5571   閲覧ユーザー数:5309

 太陽が空に昇りきり、その光に照らされ、熱を帯びた砂が辺り一面に広がる砂漠で、異様な光景が一つ。それは二台のトレーラーの内、片方にはワイヤーが吊り下げられ、ワイヤーの先にはシャトルを載せた巨大な鉄板が引っ張られていた。

 そして、もう片方のトレーラーにはそのシャトルと共に降りたった一夏がポニーテールの少女に見守られ、静かに眠っていた。

 

 「うぅ…、ここは…?」

 「ッ‼、気が付いたか?一夏」

 「…え、」

 

 一夏の意識はその声の主により、一気に覚醒する。それは一夏にとって聞き覚えのある声だった。首を傾けると、すぐ自分のそばで居座る人物が目に映る。

 

 (ま、まさか…)

 

 ぼやけた視界も次第にハッキリとして、ようやくその少女の姿を捉えた。

 

 「久し…ぶりだな…一夏…」

 「…ほう、き。何か」

 

 箒の目には涙が湧いてくる。だが、箒は少し俯くと再び顔を上げた時にはニコっと微笑み…

 

 「一夏ぁあ!!」

 

 待ちに待った思い人に抱き付いた。箒はただただ泣きじゃくり、一夏の胸元を濡らす。一夏も箒を慰めるように、後ろ髪を撫でようとしたが、やめた。今、一瞬、箒を撫でようとした手が真っ赤に染まって見えたから。

 しかし、箒は泣き続ける。今までの鬱憤を晴らすかのように。

 

 「バカ、モノぉ…。この私が、どんな思いでいたか…どんなに胸が張り裂けるかと思ったか…!!」

 「悪い、箒。心配かけたな。もう大丈夫だ、もう何処へもいきやしない」

 「信用…できるかぁ…!お前は、いきなり私の前からいなくなって…それで信用などできるものかぁ…!!」

 「…ごめんな」

 「…っぐす、いや、本当は私の方が謝らなければいかんというのに、私は…。すまない…一夏」

 「いいよ別に、俺の方こそ、心配かけて…本当にダメな奴だな、俺って」

 「いや、一夏は悪くはない!悪いのは私だ!」

 「いや、俺が…」

 

 「…あのー、お取り込み中よろしいでしょうか?」

 「「?!」」

 

 突然の来客に箒は一瞬にして一夏から離れる。自分から離れといて、一夏の温もりが消えていき、少し口惜しさが残る。

 それより高揚感に入り浸り過ぎたのか、一夏と箒は、何時の間にか部屋に入ってきた短髪の少女に、全く気づかなかった。短髪の子は気づかれなかった事に機嫌を損ねたのか、少し仏頂面だった。

 

 「か、風花?!ど、どうした?」

 「む、その様子ですと、本当にわたしに気がつかなかったようですね。…まぁいいでしょう。劾がその人が起きたら、連れてくるよう頼まれたので」

 「そ、そうか。解った」

 「わざわざありがとな」

 「…その、つかぬ事をお聞きしますが」

 

 それは風花の今最も気になっている事だろう。

 

 「なんだ…?」

 「お二人は恋人どうしなのでしょうか?」

 「ッな?!なななななな何を?!?!?!?」

 

 風花の衝撃的な質問に、箒はボンっと顔を耳まで真っ赤にする。それはそうだろう。あれは、はたから見れば明らかに恋人どうしにしか見えない。しかし…。

 

 「いや?箒とはただの幼馴染だぞ」

 

 こいつに至っては、そんな物を求める事すらナンセンスだろう。

 そんな一夏の横では、握り拳を作り、ワナワナしている箒がいた。

 

 「ん?どうした箒?」

 「…いや、世界を越え久々に会っても相変わらずなお前に呆れ、さっきまでの高揚感に浸っていた自分に嘆いていただけ、ッダ!!」

 ガスッ!

 「どふッぅ?!何でいきなり殴るんだよ!」

 「ふん!」

 

 完全に蚊帳の外にいた風花は、そんな二人を交互に見て、やれやれとでも言いたげにため息を吐いた。

 

 (そう言えば、何で箒がこっちの世界にいるんだ?後で聞いてみるか)

 

 *

 

 ところ変わって、一夏はトレーラーの後ろにあるコンテナへ連れてこられた。箒は未だに不機嫌でそっぽを向きながら後から付いてくる。そして、そのコンテナで一夏が見たのは…。

 

 「な、これは…MS!?」

 

 それは、回転式ハンガーに寝かせられた、白い装甲に青いフレームのMS。ここからではよく見えないが、頭部のV字アンテナらしきものや、シャープなシルエットからして、ストライクなどのGタイプを連想させる。

 

 「来たか」

 

 コンテナ内に一夏以外の男性の声が響く。その声の主は、あの青いMSから降りてきた。その男はオレンジ色のサングラスをかけ、連合軍の制服を着ている。

 

 「お前が、織斑 一夏か?」

 「え?どうして俺の事を…?」

 「箒から大体の事は聞いた。俺は叢雲 劾。ここの傭兵、サーペントテールのリーダーをやっている」

 

 傭兵、その言葉に一夏は身構える。一夏にとって傭兵のイメージは軍から外れたやさぐれ者の集団といった感じのレッテルだ。力のある自分勝手な奴こそ弱者にとって恐いものはない。

 

 「そんなに警戒しなくていい。風花、箒、しばらくこいつと二人だけにしてくれ」

 「分かった、劾」

 「あぁ。一夏、また後でな…」

 「分かった」

 

 劾は二人がドアを出たのを確認すると、サングラスの位置を直し、再び一夏へ向き直る。だが、そこにある表情は、けして歓迎されているような。生易しい顔ではなく、その仏頂面に一層険しさが増したようだった。

 

 「それで、俺に何を聞きたいんですか?」

 「フ、話が早いようで助かる。まず第一に聞きたいのは、お前が何者なのかという事だ」

 「箒から聞いたんだろ?」

 「あぁ…だが、それだけでは納得できん事がある」

 

 サングラスの向こうに見える瞳がギロリと一夏を射抜くかのように捉える。一夏はグッとたじろぎそうになるのを堪え、未だに劾への警戒を怠らない。

 

 「……箒からは、何処まで聞いているんだ?」

 「…正確に言えば“何も”、だな。お前が突然に消えて、彼女が探し回っていた。だが、それではお前が連合のパイロットスーツを着ていた説明がつかん、お前は今まで何処へいた?」

 

 なるほど。箒は一夏達が異世界からきた事は言っていないらしい。確かに、いきなりそんな事を言っても信じてくれる人はほとんどいないだろう。キラ達はそのほとんどの人だったからこそ、早い段階で、信じてもらえたのだから。それにマリューやナタルに至っては、MS化した白式を見せてやっと信じてもらえた。そしてそれも、話して問題無いであろう人物と信じたからだ。

 

 「連合軍に、成り行き上…後は教えられない。例え教えたとしても、信じられないから」

 「…お前もか…」

 

 お前も…と言う事は箒もそう言ったのだろうか?

 

 「…まぁ、これ以上余計な詮索はしないでおくか。ところで、お前達はこれから何処か行くアテがあるのか?」

 

 ここでの『お前達』っというのはあのシャトルの人達も含んでいるのだろう。

 

 「いや、急な事態だったし、…本来ならオーブへ行くはずだったのに…」

 「オーブか…ならば、俺達がそこまで送ってやる」

 「えぇ?!いいのか!」

 「問題ない、どうせ俺達もオーブへ向かっていた所だ、気にするな」

 「サンキュ…、あ、いや、ありがとうございます!」

 「別に今更敬語なんていい、それよりもこのままだと食糧がもたないな…確かここから北に街があった筈だ。まずはそこで、食糧と水を調達するか。一夏、お前はもう行っていい、箒を待たせても悪いからな」

 「あぁ、分かった、劾。そうさせてもらう」

 

 一夏はその後、駆け足で格納庫を後にした。

 

 

 一夏は箒の待つ、部屋の一歩前まで、来ていた。だが、無意識の内にあと一歩が踏み出せないでいた。自分の手が真っ赤に染まるビジョン。そして、今になって思い出す。

 

 (俺は、人殺しなんだな…)

 

 そんな自分が箒に会う資格があるのか、正直、心の中で迷っている。だからあの時、箒の後ろ髪を撫でなかった。箒をそんな俺の手で汚したくはなかったから。

プシュー…

 だが、神は無情にも二人の対面を急かす。一夏がドアを開かずともドアは一人でに開く…いや、正確にはその部屋の内側で待つ人物が開けたのだ。

 

 「一夏か、そんな所で何をしている?立ち話もなんだ、早く中へ入れ」

 「あぁ、お邪魔します…?」

 

 一夏は流れるまま、円状のテーブルの隣に置かれた椅子の一つに腰掛ける。箒は紙コップに二人分の水を入れて持ってきた。片方を一夏に渡すと、もう片方を持ったまま一夏の対面席に座った。

 

 「……あ、あのさ」

 「な、なんだ?」

 「箒は…、あの俺知ってる箒何だよな?」

 「当たり前だ!私はお前の幼馴染であり、IS学園のクラスメイトだぞ!」

 「そ、そうか…。それじゃ箒はどうやってコッチへ来たんだ?」

 「それは…姉さんが、お前が行方不明になった後、毎日探し回っていたらしい…」

 「束さんが?」

 

 箒はコクっと頷くとそのまま話を続ける。

 

 「そして、見つけたんだ。“歪み”を」

 「?!」

 

 一夏は目を見開く。自分の通った歪みがアッチの世界に残っていた事に驚愕した。

 

 「だが、あれは不安定になりやすく、私一人しか、通れないらしい…」

 「…て事は、箒、お前…」

 

 おそらくは箒も、もう向こうの世界には戻れないだろう。だが箒はそれも分かっていながら世界を越えた。一夏に会うために。

 

 「あの世界に未練がないと言えば嘘になるが、一夏のいない世界に意味はない。だから私は後悔はしていない!千冬さんにも、お前の事を任されたからな」

 「千冬姉ぇ…。ありがとうな、箒。俺は幸せもんだなぁ、こんなにも俺の事を思っていてくれて…」

 

 一夏は照れ臭そうに、頬をポリポリと人差し指でかく、ニカッと笑う。箒にはその笑顔が眩しかった。

 

 「正直、俺…箒がコッチに来てくれてスゲー嬉しいよ」

 「ほ、本当か!」

 「あぁ、もう会えないって思ってたからな、だから箒がいてくれるだけで心強いよ」

 「そ、そうか。…そうか、私がいて心強いか…ふふふ!」

 

 急に機嫌が良くなる箒。それを見て首を傾げる一夏。この二人の関係は世界を越えようとも、このままだろう。

 箒…不憫な娘、である。


 
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