No.479134

機動戦士ガンダムSEED白式 17

トモヒロさん

17話 宇宙に降る星

2012-09-03 00:25:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:5679   閲覧ユーザー数:5468

 「……キラ…さん?」  

 「一夏…」

 「……」

 

 この時、一夏は唖然とするしかなかった。

それは一夏がロッカールームへと足を運び、ドアが開いた向こうに見えたのは、キラとフレイが唇を重ねあっている所だった。

それを見た一夏はロッカールームの入り口に立ち止まる。戦闘中だと言うのに、この部屋だけが酷く物静かに思えた。そして何より一夏を混乱させたのがフレイの姿。連合軍の軍服を身に纏い今なおアークエンジェルの中にいる。それはフレイが自ら、軍へ志願したということだ。

 

 「…なんで、ここに?」

 「あなたこそ…シャトルに乗ったんじゃなかったの?」

 「ザフトが来てるんだ。自分だけ何にもしないでなんていられるか」

「そう…」

 

 一夏とフレイの目が重なる。一夏に見えたのは、それは後悔の色だったのか、いつものフレイにしては、何か弱く見えた。

 すると。

 

 「ごめんなさい」

 「え?」

 

 フレイが頭を下げた。一夏と最も殺伐としていたフレイがだ。その行為に対し一夏はただ唖然としている。姿勢を戻すフレイの表情は今の一夏にとって、何を思っているのか解せなかった。

 

 「私、気付いたの。みんなが戦っていたのに、私だけ何もしないで、一人で引きこもって、…でも、いざとなると何をしていいのか分からなくて…だから」

 

 フレイが振り向く、そこにはキラの着ていた青いパイロットスーツがロッカーから見える。

 

 「キラも皆も、もうシャトルにいったんじゃないかって…私!」

 「でも、これは僕の役目だ」

 

 そういって、キラはロッカーからパイロットスーツを取り出す。

 キラもまた、一夏と同じく護りたい者の為に戻ってきたのだ。一夏も隣のロッカーからキラと同じパイロットスーツを取り出した。

 

 「…正直、俺にはあんたが何を考えているのか、分かってなかった。今もそうだ、だから。…帰ってきたら、色々と教えてくれ、あんたの事」

 「…ふふ、いいわよ」

 「…さぁ、早く行きましょう、キラさん!」

 「うん、一夏!」

 

 そして、二人の少年はまた戦士となって戦場を駆け巡る。

 

 

 『総員、大気圏突入準備を開始せよ。本艦は…』

 「降りる?!この状況でか?!!」

 

 メビウスで待機していたムウはハッチから上半身を出し、マードックに怒鳴った。まだ、降下時間ではないし、外ではザフトと戦闘状態だ。危険過ぎる。

 

 「俺に怒鳴ったってしょうがないでしょう!まぁ、このままズルズルよりはましなんじゃないんですか?」

 「だけどさぁ…」

 「ザフト艦とジンは振り切れても、あの四機が問題ですね」

 

 そこでムウとマードックは聞き慣れた声にギョッとする。何故ならもうココには来るはずがないと思っていた人物がそこにいたからだ。

 

 「キラ!」  

 「俺もいますよ、ムウさん」

 「一夏まで?!」

 「まだ、第一戦闘配備ですよね?ストライクで待機します!」

 

 キラはストライクへ乗り込み、一夏は白式を展開する。

 大気圏突入まで、残り10分。

 

 

 ブリッジに映るモニターには激しい戦闘が目まぐるしく展開されていた。マリューは厳しい表情でそのモニターを睨みつける。

PP!

そこへ、ムウのメビウスから通信が入る。

 

 『艦長!ギリギリまで、俺たちを出せ!あと何分ある?!』

 「何をバカな…俺たち?」

 

 そこにマリューは違和感を覚えた。今アークエンジェルに戦闘可能なのはメビウス・ゼロとストライクだけ、だが、ストライクにはもうパイロットはいないがず。…まさか!

 

 『カタログスペックではストライクは単体でも降下可能です!』

 「キ、キラ君?!」

 

 まさかキラまでもがアークエンジェルに残っていた事に驚くマリュー。先程、キラの友人である学生達が志願し、今ブリッジにいる。その友人達ですらも、キラがシャトルへ乗らないあった事に驚いているようだ。

 

(この子達が揃っているって事は、もしかして!)

 

 マリュー予想は的中する。次に通信を繋げてきたのは『白式』、つまり。

 

 『俺も出ます!』

 「一夏君!?」

 

 その事に今度はミリアリアが過剰に驚いた。しかし、その反応はこの艦のクルーなら誰でもそうなるだろう。何故なら白式の事はハルバートンのおかげで、連合には未だ知られていない。このまま地球へ降りれば、何事も無く暮らしていけるのに、一夏はそれを棒に振ろうというのだ。

 

 「あなた達、どうしてそこに?!」

 『せっかく、俺なんかの為に色々としてくれたのに、すみません艦長。でも、このままじゃ全滅しちまう!』

 『僕達も行きます、艦長!』

 「……」

 

 ここで、本当にあの子達を出していいのか。マリューは悩んでいた。確かに出撃させれば、アークエンジェルの生存率は上がるだろう。しかし、彼等は民間人で軍人ではない。

 

「分かった。だがキラ、フェイズ3までに戻って来い!スペック上では大丈夫でも、やった人間はいないんだ。一夏もだ」

 

 だが、その間にナタルがインカムを取り、承諾してしまった。

 

 「バジルール少尉!!!」

 

 だからこそマリューは信じられなかった。その民間人をも簡単に戦場へ送り出せる彼女の意が。

 

 「ここで本艦が沈めば、第八艦隊の犠牲が全て無駄になります!!」

 

 それは人分も考えた。ナタルの言い分も一理ある。だからって…。

 だが、ここで言い争っていてはますますアークエンジェルが落とされる危険性がある。マリューは歯を食い縛り、黙って艦長席に着くしかなかった。

 

 

 アークエンジェルのハッチが開き、そこから青い地球が見える。非常識にも一夏はそこで外から見た地球に感動した。だけど今は戦闘中だ。気合を入れ直し、カタパルトに着く。ストライクは既にゲートを潜り、エールストライカーを装備して発進した。

 

 『一夏君』

 「ミリアリアさん」

 『一夏君も、残っちゃったんだね』

 「はい。でもここで出ないとシャトルの人達だって危ない。それに少しでも犠牲を減らせるのなら、それに越したことはないでしょ」

 『そう、…一夏君、これだけは約束して。絶対、生きて帰って来るって』

 「そのつもりです。じゃあ次、俺の番なんで、いってきます」

 『いってらっしゃい』

 

 白式はゲートを潜ると、ビームライフとシールドを装備して、シグナルがLAUNCHに変わるのを待つ。

 

 『進路クリア、オールグリーン!』

 「織斑 一夏、白式、行きます!」

 

 *

 

 誰もが初めての大気圏近くの戦闘。嫌でもいつもより神経を集中させる。そして各々の機体は既に重力へ引っ張られ始めていた。

 

 「うわ!お、落ちる?!」

 

 一夏はいきなり感じる重さに少し焦りつつも、白式のスラスターを展開させ、フットペダルを踏む。すると、揺れは収まり、いつも通りに操縦する事ができた。

 

 「そうか、ISにはPICが搭載されていたんだった。この姿でも展開できるのか…」

 

 重力がなんのその、一夏が少し余裕を取り戻すと、アラートがなり響く。白式が接近する機影を捉えたらしい。

 

 「あれは、デュエルか!装備が増えてる?!」

 『出てきたな白いヤツ!このアサルトシュラウドが傷の礼をしてやる!!』

 

 デュエルはビームサーベルを展開させ、躊躇無く踏み込む。白式はそのビームの刃を交わしつつ、ライフルで迎え撃つ。

 

 『受け取れぇえ!!』

 「クッ!!」

 『一夏!』

 

 そこへ、ストライクが割り込み、デュエルを退けさせる。

 

 『邪魔をするな!ストライク!!』

 『君達こそ!』

 

 戦況は二対一、こちらが有利かと思われたその時、白式のセンサーがアラートを表示する。一夏は咄嗟に避けるとそこを緑色のビームが通過した。

 

 『アスラン!そいつは俺の獲物だ、手を出すな!!』

 『そんな事を言ってる場合か、もうすぐ重力から抜け出せなくなる。そうなる前に足付きを落とすぞ』

 

 イージスのサーベルを白式はシールドで受け流す。

 

 「クッ、引けよ!あの艦には、シャトルが…ッ?!」

 

 そして一夏は、メレラオスの映るモニターを見て気付く。それは自分にとって身も凍るようなモノだった。一瞬にして身体中の血の気が引く。まだシャトルの乗ったメレラオスにガモフが突っ込んで来ているではないか!

 

 「辞めろぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!」

 『お、おい!待て!!…っく、時間か…』

 

 一夏の脳裏に爆散したモントゴメリィがフラッシュバックする。そのせいで、フレイの父親が死んだ。今度はシャトルの人達が死んでしまう。あの花の折り紙をくれた女の子も。その考えが頭を過った時、何かが弾けた。一夏はヘリオポリスの時使ったあの技を発動させる。

 

 瞬時加速!!

 

 刹那、一筋の閃光が戦場を駆けた。そして、ガモフのブリッジからは、いきなり目の前に白いMSが現れたように見えただろう。そして、そのMSは太刀を構え。

 ズゥバァアアン!!!

 ガモフのブリッジを横に難なく両断した。

 その光景はザフトに恐怖させるだけでなく、連合をも奮い立たせ、両軍共、白式に鬼神の姿を見た。

 

 『君は、一夏君か?』

 「ハルバートンさん!」

 『全く、とんでもない事をしでかしてくれたな』

 「すみません、折角のご厚意を…」

 『いや、謝るのは私の方かもしれん。君の様な子供にこのような事をさせて…情けない大人だよ、我々は』

 

 白式のモニターにメレラオスの降下ハッチが開いていくのが映し出された。

 

 「ッ?!ハルバートンさん、これはどう言う事ですか?!」

 『すまないな、もうこの艦は持たない、大気圏の摩擦熱でバラバラになるだろう』

 「そんな…」

 『一夏君、最後の頼みだ。もしそのMSが大気圏突破可能なら、シャトルの民間人を、地球へ送り届けてくれ』

 「……分かり…ました!」

 

 メレラオスからシャトルが出てくると、少ししてメレラオスが爆散した。また、自分は護れなかったのか?

 横には一緒に降下するシャトルの姿があり、その窓からあの女の子が手を振っていた。

 

 (…いや、まだだ!まだ俺には護るモノがある!)

 『おのれぇえ!!よくもぉおお!!!』

 

 白式に追いつくデュエル。その手にはビームサーベルが握られており、その刃を振るおうとする。だが、今の白式には…いや、今の一夏にはあまりにも遅く感じた。

 

 ガッ!!

 『な、何ぃ?!』

 

 サーベルが振り下ろされる前にデュエルの腕が白式に掴まれる。そして、コックピット内に振動。デュエルが首根っこを掴まれたように吹っ飛ぶ。その時イザークには何が起きたのか分からなかったが、頭部のサブカメラが死んだ事が分かり、イザークは今自分が殴られたのだと自覚した。

 

 『お、おのれぇえ…屈辱だ。お母様にも殴られた事ないのに!!!』

 

 デュエルはそのまま重力に引っ張られ、地球に落ちて行った。

 

 『一夏君!もうフェイズ3を越しているの!早く戻ってきて!』

 「ミリアリアさん?…ザフトは?」

 『ザフト軍は撤退を開始したわ。私達、助かったのよ!』

 「今度は護れたのか?…良か…った…」

 『一夏…ん?!ど……たの?返…をして!い…ザ、…!!…ちか…ん!!?ザザ、ザ…』

 

 次第ノイズが酷くなり、そこで通信が途絶えた。

 シャトルを護りきれた事に安堵する一夏の意識は闇へと沈んで行き、生が戻りかけていた目は、瞼に閉ざされる。白式はそんな主を身籠り、ただ静かに地球へ落ちて行った。

 

 *

 

 その頃、地球の北アフリカ砂漠では、蛇を模したエンブレムのトレーラーが砂漠の真ん中を突っ切っていた。その一室に、仏頂面のポニーテールの少女が頬杖をついて、窓の外を眺めては、また一つため息を吐く。篠ノ之 箒はこの世界にたどり着いていた。そこに今度は短髪の女の子が部屋に入ってきた。

 

 「箒さん?」

 「風花か、どうした?」

 「はい、先程この近くに救難信号をキャッチしたので、私達はこれからそちらに向かいます。それで箒さんにもその事を知らせようと思いまして」

 「そうか、私の事は気にしないでくれ。この間も私のせいで仕事の依頼をキャンセルさせてしまって…」

 「大丈夫ですよ。私達はこう見えて結構儲かってますし」

 「…傭兵か」

 

 すると、トレーラーのエンジン音が静まる。どうやら、救難信号とやらの発信源に着いたらしい。窓からは運転席のドアが開き、この傭兵部隊のリーダー、叢雲 劾がシャトルへ赴くのが見えた。劾がしばらくシャトルの中に入り、出てくると彼の腕に何かが抱えられていた。

 

 「?!」

 

 それを見た瞬間、箒は目を見開いた。何度も目を凝らしたが、間違いない。劾に抱きかかえられた人物を見て、箒の世界は色を取り戻す。頬には、自然と涙が溢れてきた。

 それは彼女がずっと心待ちにしていた男。織斑 一夏だったからだ。


 
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