No.482415

真・恋姫無双 EP.103 撤退編(1)

元素猫さん

恋姫の世界観をファンタジー風にしました。
更新が遅くなって、すみません。
体調が悪く、どうにも上手くまとまりませんでした。
楽しんでもらえれば、幸いです。

2012-09-10 22:41:37 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:3180   閲覧ユーザー数:2864

 桃香は、街で会った人々の顔を思い浮かべた。最初は固く険しかった表情も、徐々に柔らかく笑顔に変わっていく。それは、彼女にとって喜びであり、自信にも繋がった。

 

(私は、あの笑顔を守らなくちゃいけない)

 

 それが、長安を託された責任だった。

 

(どうすればいいのかな……)

 

 自分が決断しなければならない。見守る仲間たちの視線を受けながら、桃香は迷いを断ち切ることが出来ずに眉をひそめた。そんな時である。

 

「劉備様に申し上げます! ただいま、天の御遣い様がお越しになられました!」

「えっ!?」

 

 突然のことに驚いて言葉が出ない桃香に変わり、桔梗が兵士に問いかける。

 

「その者は本当に天の御遣いなのか?」

「はい。あの、呂布様がそうだとおっしゃってまして、ただいま一緒にこちらに向かわれています」

 

 その言葉に、星が納得したように頷く。

 

「恋は天の御遣いと共に旅をしておったようだし、信用してもよさそうだな」

「ふむ、どういたしますか桃香殿?」

 

 再び全員が桃香を見る。しばらく考えるようにうつむいていた彼女は、何かを決意するように顔を上げた。そして全員の顔を見渡して、こう言ったのである。

 

「私、決めたよ。長安のみんなを連れて、ここを離れる。撤退するよ」

 

 

 異議を唱える者はいなかった。しかし、桔梗は理由を聞いてみたかった。

 

「なぜ、決断されたのですか?」

「天の御遣い様が来たと聞いて、思い出したんです。長安の人たちは、元は洛陽の人たちだっていう事を――」

 

 その事件は、桔梗も耳にした事がある。確かに長安は元々、うち捨てられた場所だった。それを袁紹が人の住める場所に戻したのである。

 

「私たちが本当に守らなくちゃいけないのは、何だろうって考えたの。確かに洛陽や長安といった歴史ある場所、自分たちの先祖の土地は大切だけれど、一番は今を生きる人たちなんじゃないかって思ったんだ」

「……」

「でも、これは強制は出来ない。ようやく安息の場所が見つかったと思っている人たちに、また移動しますとは簡単に言えないもん。だから説得はするけど、最終的な判断は本人に任せるつもりだよ。みんなは、どう思う?」

 

 桃香が全員を見回すと、星が口を開いた。

 

「ここに残れば、確実に命の保証はありますまい。万が一、生き残っても惨めな奴隷生活でしょう。だがかといって、無理強いも出来ますまい。桃香殿の案で良いかと思います」

「うむ、そうじゃの」

 

 桔梗が同意し、諸葛亮と鳳統の二人は安堵したように顔を見合わせた。

 

「問題は誰が殿を務めるかということじゃのう。住民を連れて行くとなれば、行軍は遅々として進まぬじゃろう。時間稼ぎも必要になる」

「先程お話ししたように、追撃部隊は少数だと予想されます。それ自体はさほど驚異ではないはずです。むしろ我々が撤退するという事を悟らせないよう、時間稼ぎをする方が重要でしょう」

 

 諸葛亮がそう言うと、先を争うように星、桔梗、焔耶が手を上げた。だがそれを制するように、突然、天幕の中に入ってきた人物がいた。

 

「その役目、俺に任せてもらえないかな?」

「えっ?」

 

 全員が驚いて振り向いた先には、恋に腕を掴まれた北郷一刀の姿があった。

 

 

「悪いと思ったけど、話が聞こえたんだ。天幕の外で終わるのを待とうと思ったんだけど、丁度、こっちの目的とも一致するかなあって」

「目的ですか? あの、あなたが天の御遣い様?」

 

 桃香がおずおずと訊ねる。実際は黄巾の戦いの際に変装した一刀と会っているのだが、気付いてはいなかったようだ。

 

「えっと、劉備さんだよね? 初めまして、北郷一刀です。天の御遣いなんて呼ばれたりすることもあるけど、出来れば名前で呼んでもらえると嬉しいかな」

「あ、はい。それじゃ……北郷様?」

「……」

 

 一刀は黙って首を振る。

 

「えっと……一刀、さん?」

「うん、よろしく」

 

 にっこり微笑む一刀を見て、桃香はわずかに頬を染めた。

 

「それで一刀殿、目的について聞きたいのだが」

 

 待ちきれぬ様子で星が訊ねる。それに頷いた一刀は、隣の恋を見た。

 

「長安が落ちれば、涼州は孤立する。もしもここで何進軍を防ぐことが出来ればそれが一番なんだけど、もしも無理なんだとしたら俺たちは涼州に向かうつもりなんだ」

「涼州に? でも、一刀さんが言うように孤立することになるんじゃないですか?」

「だからだよ。俺たちが行くことで少しでも、力になれればって思ったんだ」

 

 すると、恋が一刀から腕を離し、桃香を見た。

 

「馬超と馬岱……恋の家族を守ってくれていた。だから今度は……恋が守る」

「まあ、そんなわけで恋とねねは残るつもりらしいからね。俺もそのつもりで来たからさ、劉備さんが気に病む必要もないし、俺たちだって死ぬつもりはないよ」

「一刀さん……」

 

 一刀の決意に、桃香はそれ以上何も言うことが出来なかった。

 

 

 撤退作戦は、諸葛亮と鳳統の指示によって速やかに進められた。星や桔梗たち武将は殿として残ることを希望したが、一刀がそれを断った。

 

「関羽さんと張飛さんがまだ動けない今、一人でも多くの武将が劉備さんのそばにいた方がいいと思う。それに俺たちは、時間稼ぎをしたら馬超さんの所に行くつもりだしさ」

 

 また、諸葛亮の提案もあった。

 

「一刀さんたちが涼州にいれば、長安を二方向から攻めることが可能です。戦略の幅も広がりますので、こちらにも十分な兵力が必要なんです」

 

 共に逃げる住民の護衛もおろそかにするわけにはいかない。仕方なく、殿は一刀とその仲間たちに任せることとなったのである。

 作戦は、まず住民の避難から始まった。街の中に住民を、外に出すのである。こちらの動きがバレないよう、散発的な攻撃を仕掛けて注意をひいた。幸いにも敵は森の中に陣を張ったため、街の動きはわかりにくい。劉備軍の陣が長安の外に展開しているので、それが目隠しにもなった。

 

「明日の早朝、日の出と共に本隊が動く。それに合せて、作戦通りに奇襲を仕掛ける」

 

 一刀が集まった仲間たちに告げる。恋、音々音、霞、真桜、凪、沙和の6人が彼の頼れる仲間たちだ。

 

「こちらの人数を知られないように、森の中で隠れながら攻撃する。合図があったら撤退だ。出来るだけ敵を混乱させるんだ。ただ、火には気をつけて欲しい。長安を一度は手放すが、必ず取り戻す。その時に森が焼けていたら、困るからね」

「うん……」

「わかった!」

 

 恋と霞が一刀の言葉に応える。

 

「隊長、旅をしながら調整したとはいえ、実戦は初めてや。義手の調子に気をつけるんやで」

「わかってるよ。凪に武術を習ったしね」

「教えたのは簡単な動きだけですが、隊長の身体能力なら問題ありません!」

 

 一刀は義手の腕を軽く動かす。さすがに以前のようにはいかないが、それでも長安までの旅の間で訓練を繰り返した成果はある。後は、真桜の技術と自分を信じるだけだ。

 久しぶりの戦闘に、一刀の心は震えた。


 
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