No.466933

俺妹 彼女を水着に着替えさせたら あやせ編

水着回大サービス

とある科学の超電磁砲
エージェント佐天さん とある少女の恋煩い連続黒コゲ事件
http://www.tinami.com/view/433258  その1

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2012-08-08 01:39:20 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:3492   閲覧ユーザー数:3314

彼女を水着に着替えさせたら あやせ編

 

 

『おめでとうございます。3等の全天候型レジャープール招待券ペアチケットが大当たりです』

『はあ……ありがとうございます』

 

 何の気もなしに商店街で福引をしたら何とも厄介な商品を引き当ててしまった。

 プールのペアチケット。

 プールという存在は受験生にとってはあまり嬉しいものではない。時間は食うし、全身運動の疲れで勉強計画が長期に渡って狂ってしまう可能性がある。

 しかもペアってことは誰かと一緒に行かないといけない。

 1人で行くと惨めな奴になるし、誰か誘うのはおっくうだ。受験生の夏休みは誰かを誘ってどこかに出掛けるには不向きなように作られている。

「俺に彼女でもいれば一緒に行くように誘えるのだが……そんな存在はいないしなあ」

 残念ながら俺には一緒に出掛けてくれるような超親密な女の子が存在しない。

 少し悲しいが、赤城の奴でも誘って都合がつく時に出掛けるとするか……。

「うん? あれは……」

 とその時、俺の目の前によく見知った少女の姿を発見した。

 あの子に声を掛ければ男と2人でプールという悲しい事態に陥らずに済むんじゃないか。

 希望の光が突如俺へと差し込んで来たのだった。

 

「ここでマイ・ラブリー・エンジェルと巡り会えるとは何たる僥倖♪」

 正面から歩いて近付いて来るのはあやせだった。

 本物の超美少女読者モデル様に巡り合えた幸運を感謝する。

 あやせを誘ってプールに行ければ俺って人生最大の勝ち組になれるんじぇねえ?

 ていうか勝ち組決定だろ。

 よしっ!

「お~い、あやせ~~っ!」

 学校帰りらしい通学鞄を手に持ち制服姿のエンジェルに向かって手を大きく振る。

 良い所のお嬢様って感じの清楚なエンジェル様は道を歩いているだけでもよく目立っていた。

「………………っ」

 そしてあやせは俺の存在を空気か何かのように完璧に無視して横を通り抜けていった。

「……って、無視するなぁっ!!」

 エンジェル様は一時期の様に完全無視をかましてくれた。慌てて振り返ってあやせの肩を掴む。

「あの……っ」

 あやせは俺の手を勢い良く振り解きながら振り返ると、怒りに満ちたいつものあやせさん視線を浴びせ掛けてくれた。

「お兄さんと仲睦まじい新婚ラブラブ夫婦だと誤解されるような行為は止めて下さいっ!」

「声掛けただけで夫婦扱いされる訳がないだろうがぁっ!」

 本気で怒っているマイ・エンジェルに大声で抗議する。

「それじゃあお兄さんが変態なせいで変態マニアック夫婦扱いされているって言いたいんですかっ!? わたしまで変態として世間に見られていると!?」

「だから、夫婦にも見られてないし、俺は変態でもねえっ!」

「…………何でそんなにわたしと夫婦扱いされるのを嫌がるんですか? もぉ」

 まったく、毎度のことながらあやせたんは俺を超級の変人扱いしてくれる。

 俺に責任がない訳でもないが、この傲慢不遜な態度はどうにかならんもんかね?

「それで、何の用ですか? もしいつもの様につまらないことでしたら……お兄さんのことを警察に通報しますからね」

 あやせはヤンキーも真っ黒なヤバく尖った瞳で俺を睨んでくれた。100%ヤンデレの瞳。そして右手には防犯ブザー。完璧だ。

「お前、そんなに俺と関係者だと思われるのが嫌か?」

「はい。嫌です。桐乃がオタクと知って軽蔑した時の反応ぐらいに拒絶したいです」

「そこまで嫌なのかよっ!」

 あやせは最上級形で語らなければならない程に俺と無縁でいたいらしい。分かってはいるのだけど予想通り過ぎるこの反応……。

「あやせと一緒にプールに行こうかと思ったけど……こりゃあ無理だな」

 仕方ない。他を当たろう。

 そう見切りを付けた瞬間だった。

 あやせはやたら強い力で俺の肩を掴んで来た。

 

「つまり、お兄さんは……このわたしをプールに誘いたい。そういう訳ですね?」

 あやせの瞳は大きく開かれ血走っていた。

 やべぇ。本気で怒っていらっしゃる。

「まあ、そんなことを考えていた季節もありましたが…若気の至りってやつでした」

さあ、帰ろう。回れ右してさっさと帰ろう。

 声を掛けただけでも俺の存在を完全否定するエンジェル様をプールなんて誘ったらどれだけのお怒りに触れることになるのか分からない。

「………………明後日で、良いですか?」

「あの……?」

 俯いたあやせの声は小さ過ぎてよく聞き取れなかった。

「だからっ! プールに行くのは明後日で良いですかって聞いているんですっ!」

 あやせ様が大きく口を開いて威嚇してきた。

「その、あの、特に、いつ行くかは決めていませんでしたです。はい」

 首を横に振りながら答える。そもそもあやせを誘ったのだって、偶然見かけたから声を掛けただけのこと。計画性なんてありはしない。

 だが、エンジェル様はそんな俺の態度が大層気に入らなかったらしい。

「お兄さんは計画性がなさ過ぎですっ! 仮りにも女性をプールに誘うのですから、綿密なエスコート計画を持って頂かないとわたしが困るじゃないですかっ!」

 あやせは怒り心頭中。

 何ていうかこのモードになってしまったあやせたんとはもう話が通じないことは過去の経験から分かっている。

「相も変わらず無作法な男で悪かったな。他を当たるからもうこの話を止めようぜ」

 お怒りモードのあやせとこれ以上話をしても俺のストレスが溜まるだけだ。

 さあ、帰ろう。

 

「ちょっと待ってくださいっ! 他を当たるって誰を誘う気なんですか?」

 桐乃様は今日最上級に怒りに満ちた瞳で俺を睨んでくれている。

「いや、別に候補はいないけれど……」

「桐乃ですかっ!? それとも黒猫さんですかっ!? お姉さんですかっ!? まさか加奈子じゃありませんよねっ!?」

 尋ねるあやせたんの瞳は盛大にヤンデレっている。怖いを通り越してもはや絶望だ。

「お兄さんはわたしの友達を妊娠させるつもりなんですねっ! そうに決まっています。この鬼畜変態っ!」

「………………何でそうなる?」

 JC美少女モデル様の思考回路は謎過ぎる。

 プールに女の子を誘うと何故妊娠させることになるのか少しも因果関係が分からない。

「わたし知っているんですよ。男の人が、女の子をプールに誘う真の目的をですっ!」

 あやせたんは顔を真っ赤にしたまま吼えた。

「目的って何だよ?」

「腕を組ませてプールに行き、他のお客さん達に自分の女扱いして見せびらかすに決まっています。そしてプールから出たら、全身が疲れたので少し休もうとか言って強引にホテルに連れ込むに決まっているんです。そして、何もしないからと言いながら部屋に入った瞬間に野獣に変貌して襲い掛かるんです。そして嫌がる女の子を力尽くでモノにして、しかも何度もその体を貪りながら悦に浸るつもりに決まっています。更に更に、その時の映像をネタにして何度も呼び出して妊娠させるまで弄ぶつもりなんですよね? この変態っ! 犯罪者っ! 死んじゃえっ!」

 あやせが頬を染めて首を左右に振り回しながらスタンガンを放ってきた。

「あやせの通う学校のJC達はプールに対してどんだけ偏見持ってんだ?」

 あやせの手の動きに注意していた俺は咄嗟の所で避ける。

 まあ、あやせにこんな偏った知識を植え付ける奴なんて1人しかいない。桐乃だ。桐乃がエロゲーを通じて得た知識を割と騙され易い単純なあやせに吹き込んだのだろう。

 俺は今、とても後悔している。親父が桐乃のエロゲーを捨てようとした時にそれを止めさせたことを。あやせがエロゲー愛好者と犯罪者を結びつけて考えた時にそれを全力で否定してしまったことに。

「…………だからわたしはお兄さんにいつプールに誘われても良いように毎日お肌をピカピカに磨きあげているのに……他の女と一緒にプールだなんて……その泥棒猫を八つ裂きにしてお兄さんも微塵切りにしてあの部分だけはホルマリン漬けで保存して毎日抱いて寝るしか……」

 そして今度はまた何か怖いことを呟き始めた。

「とにかくっ! お兄さんがわたしの大切な人たちを妊娠させるなんて絶対に許しませんからねっ!」

「もう分かったからこの話は止めよう。なっ」

 あやせを宥めて話を打ち切りに掛かる。もうプールは赤城か御鏡と一緒に行くことにしよう。

 けれど、エンジェル様はまた俺の思惑とは違うことをのたまってくれた。

「明後日にお誘い頂いたプールに行きます。良いですね?」

「あの、あやせさんは俺が女性とプールに行くことに激しく反対していたのでは?」

 冷や汗を掻きながらお伺いする。もう訳が分かりません。

「一緒にプールに行く相手がわたしでは不満ですか? そんなに桐乃や黒猫さんを妊娠させたいんですか? 鬼畜ハーレム王っ!」

 あやせの視線には有無を言わさない迫力に満ちていた。瞳の中に“殺”の字が見える。

「いえ……あやせとプールに行けてとっても嬉しいなあ」

 とっても棒読みで感謝の言葉を表す。とても逆らえる雰囲気じゃない。

「まったく、お兄さんは本当にどうしようもないですね。やっぱりダメダメなお兄さんにはこのわたしが必要なんです♪」

 あやせは急に顔をデレデレと締りのないものに変えた。

 こうして俺は訳が分からないがあやせとプールに行くことになった。

 ていうか……すっげぇ疲れた。

 

 

 

「お兄さん♪ お待たせしました」

 あやせが息を少しだけ切らせながら公園へと駆け込んで来た。可愛らしい女の子走りで。

「いや、まだ約束時間から5分しか経ってないぜ。気にすんな」

 マイ・エンジェルが俺とのお出掛けに応じて本当にやって来てくれたことに笑みが溢れる。ヤンデレ分はともかく他は外見内面共に超ド級の美少女お嬢様だから嬉しいに決まっている。

「両親にはどんなことであれ約束時間には絶対に遅れないように厳命されているのですが、遅れて申し訳ありません」

 あやせは俺の元へ辿り着くなり深々と頭を下げた。

「いや、俺は全然待ってないからそんな風に畏まらないでくれ」

 手を左右に振りながら何でもないことをアピールする。

 これが桐乃だったらきっと1時間ぐらい遅刻しても平然としているに違いない。

『女が出掛けの支度に時間が掛かるのは当然のことでしょ? 1時間ぐらい我慢しなさいってのよっ!』

 こんな風にほざきながら。しかも俺に怒りをまき散らしながら。

 それに比べるとあやせは実に礼儀正しい。

「その、約束時間に絶対に遅れないようにと思って早起きしたのですが、今日着ていくお洋服をどうしようか迷っている内に遅くなってしまいまして……」

 あやせは俯き加減に恥ずかしそうに喋っている。

「その、生まれて初めてのデート体験となるので……どんな服装にしたら良いのか分からなくて……」

 あやせはチラッと俺を上目遣いに見た。何かを期待している目。女の子がこんな目をする時は確か……。

 

『きょうちゃん。私服の女の子とお出掛けする時はまずその子の服装を褒めないと駄目なんだよ。女の子はいつも一生懸命考えてお洒落しているんだからね~』

『なるほど。麻奈実のその紫と茶の組み合わせの地味な格好は如何にも上品なおばあちゃんぽくてよく似合ってるぞ』

『もぉ~。きょうちゃん。それは全然褒め言葉になってないよ~。女の子はいつも男の子の視線を気にしているんだからちゃんとしないとダメなんだからね~』

 

 気分的には俺の4倍ぐらい生きている気がする麻奈実との対話を思い出す。

 そうか。今俺に求められているもの。それは……。

「そのひざ丈のプリーツスカートってんだっけ? 白があやせの清純なイメージと似合っていて凄く可愛いぜ。勿論ノースリーブとカーディガンの白づくしの組み合わせも可愛い。うん」

 少ない女の子用のファッション言葉を思い出しながら服装を褒めてみる。

 あやせは何もしなくても可愛いので可愛いとだけ言えば良いのかも知れない。でも、それでは特に服装を褒めたことにはならない。という訳で最大限頑張ってみた。

 プロモデルのあやせのことだ。きっと俺には計り知れないような深い考えがあるのだろう。でも、俺からすると白づくしファッションのあやせたんマジ可愛い、となる。

「あっ、ありがとうございます」

 あやせは顔を真っ赤にした。どうやら拙い言葉でも褒めることに成功したようだ。

「でも……さっきから視線がスカートとか脚の方ばかり向いています。それは、ちょっと恥ずかしいです……」

 あやせは恥ずかしがったまま俺から目を逸らした。

「あっ。それはその……スマン」

 あやせに向かって頭を下げる。女の子は男の視線に敏感だとおばあちゃんの知恵袋から教わっていたのについヘマをしてしまった。

「…………お兄さんはわたしに魅力を感じてくれている。よしっ」

 あやせは俯いたまま小さくガッツポーズを取っている。よく、分からない。うん。

 

「さあ、お兄さん。プールに向いましょうか」

「あっ、ああ」

 よくは分からないがあやせは笑顔になっている。それに戸惑いと安堵を覚えつつ出掛けることにする。

「しっかりエスコートをお願いしますね」

 あやせはニコッと笑いながら俺の隣に寄り添うと自分の右腕を俺の左腕に絡めて来た。

「へっ?」

 マイ・エンジェル様は一体何をしていらっしゃるのでしょうか?

 これは世間一般で言う腕を組んでいる状態ではないのでしょうか?

「先程も言いましたが今日はわたしにとっての生まれて初めてのデートです。お兄さん……京介さんにはわたしを1日引っ張って貰いたいですから♪」

 あやせは実に楽しそうだ。

「その……あやせは初めてのデートの相手が俺で良いのか?」

 むしろ俺は女の子と一緒にプールに行くという行為をあまりデートとして捉えていなかった。麻奈実と2人で出掛けてもデートとは考えないように。

 だからあやせにデートという言葉を使われて実は戸惑っていたりする。

「京介さんはわたしがデート相手では不満なのですか?」

 あやせは頬をプクッと膨らませた。

「えっ?」

 あやせの行動の意味が分からない。

「京介さんはわたしみたいな中学生の子供じゃなくて、黒猫さんや沙織さんのような高校生の大人の女性じゃないとデートしたくないんじゃないですか?」

「えっと……いや、そんなことは全然ないですよっ」

 アイツらはカテゴリーオタク仲間だからなあ。あんまり大人子供で見たことはない。

「じゃあ、わたしとのデートに不満はありますか? ありませんか?」

 あやせが顔を覗き込んで来た。ちっ、近い……。

「あやせさんのような優しい美少女とデート出来て恐悦至極に存じますです」

 何か訳が分からないことをほざきながら頭を下げる。

「ならわたしも、京介さんとデート出来てとても幸せですよ♪」

 とっても素敵スマイルを見せてくれるマイ・エンジェル。

 えっと、この人、昨日俺のことを変態と散々罵ってくれた少女と同一人物なのでしょうか?

 正直、俺には何が何だか分かりません。

 あやせたんは二重人格か何かなのでしょうか?

「さあ、行きましょう」

 左腕に感じるムニュっとした柔らかい感覚。

 これって……もしかしなくても。

「それじゃあ、出発です」

「はい……っ」

 あやせたんの胸の感触を知った初めての男という幸せを噛み締めて腑抜けになりながら俺達はプールへと向かった。

 

 

 

 

「お待たせしました」

 真夏のプールサイドに女神が降臨した。

 俺の前に現れた水着姿のあやせを見てそんなことを半分上の空で考えていた。

「すげぇ……可愛いぜ」

 誉めようと思い脳内にストックしていた全ての語彙が吹っ飛んでしまった。ただ目の前の美少女がプロのモデルであることにいとも容易く同意してしまう可愛さだけが俺に認識可能なことだった。

 あやせは水色のセパレートタイプの水着。俺の知る新垣あやせという子から考えるとかなり大胆な面積の少ない三角ビキニタイプの水着だった。

「あっ、ありがとうございます。昨日、慌てて買いに行ったものなのですが……気に入って貰えてわたしも嬉しいです」

 あやせは俯きながら顔をサッと赤くした。その仕草がまた可愛い。

「その……手を繋いで貰って良いですか? 1人で歩いていると、その、男の人達に声を掛けられてちょっと怖いので」

「あっ、ああ。勿論良いぜ」

 あやせの右手をそっと握る。

 確かにこんな美少女が1人で歩いていたらナンパしない方が失礼ってもんだ。

 なら、今日はデートの相手役でも俺があやせをナンパ男達から守ってやらないとな。

「京介さんの手、大きいですね。やっぱり男の人の手って感じがします」

「そっ、そうかな? アハハハ」

 あやせが可愛過ぎて困る。そして恥ずかし過ぎて何か調子が狂う。

 何でこんなボーイ・ミーツ・ガールみたいな展開になっているんだ? 何でこんな甘酸っぱい展開なんだ?

 おかしい。この後一体どんな理不尽展開が俺を待ち受けていると言うんだ? 

 俺はどんな惨たらしい最期を迎えることになるんだ? 水死か? 刺殺か? 感電死か?

「京介さん。わたしに泳ぎを教えてくれませんか? 実は、泳ぐのが得意ではなくて」

 あやせが俺の手を握る力を強めた。あやせの手の感覚が余りにも心地良過ぎて俺の感覚があっという間に麻痺していく。複雑なことが考えられなくなる。

「ああ、いいぜ。せっかくプールに来たんだし水の中で遊ばないとな」

 俺とあやせは手を繋いだままプールに向かって歩いていく。

 そして、夢のような時間が過ぎていった。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

「京介さんは泳ぐのも教えるのも上手ですね。わたし、見直しちゃいました♪」

「桐乃がハイスペック過ぎてよく勘違いされるが……俺は一応何でも人並みには出来るぞ。それに昔、桐乃に泳ぎを教えたのは他ならぬ俺だからな」

「じゃあ、京介さんにはこれからずっとわたしの人生の指導教官になってもらおうかな? 色んなこと教えて下さいね」

「ああ。あやせの苦手なことで俺が教えられることなら何でも任せてくれ」

「そういう意味じゃないんですけどね……鈍感」

「わっ、わわっ!? ブ、ブラがっ!?」

「あやせの水着ならここに浮かんで……あっ」

「みっ、見ないで下さいっ。京介さんのエッチっ!」

「わっ、悪い。その、あの、悪気はなく……へっ? あの、あやせさん? 俺の背中に密着して何を?」

「密着していないと誰かに見られちゃうかも知れないじゃないですか」

「いや、だけどな……その、あの、だから、当たっていて……」

「あの、着け直しますからブラを早く渡して下さい」

「あっ、ああ…………っ」

「その……着け終わりました。もう振り返っても大丈夫ですよ」

「スマン。諸事情により俺は今どうしても振り返れない。動けない。男の尊厳に関わる問題なんだ」

 

 

「アーチボルト家⑨代目頭首ロード・エルメロイがここに仕る。そこの女よ私の嫁に……何だ。JCのババアではないか。女性はJSまでが限界だ。そして最高だ。ババアに用はないので去る」

「京介さん。わたしって……ババアなんでしょうか?」

「あんなペド野郎の言葉で落ち込むことないって。あやせはこれからまだまだ魅力的になっていく可愛い女の子だよ」

「本当ですか? わたしはお兄さんのストライクゾーンに入っていますか?」

「ストライクゾーンど真ん中だって」

「本当ですか?」

「ああ、俺の女性の理想はあやせだからな」

「なら……信じます。わたしも……京介さんみたいに優しくて頼りがいがある格好良い年上の男の人がストライクゾーンのど真ん中ですから」

「えっ? 後半何て言ったんだ?」

「さあ? 何て言ったんでしょう? …………京介さんが選んでくれるのなら、わたしはいつだってお嫁さんにして貰いますけどね」

 

 

 …

 ……

 ………

 

 

 嬉し恥ずかし楽しい時間はあっという間に過ぎていく。そして後に残ったのは残酷な展開の始まりだった。いや、そうなるのは分かってはいたんだけどさ。

 

「筋肉がっ! 筋肉が火照るぞ、桐乃っ!! プールの客達の視線が俺の筋肉を火照らせるっ!」

 休憩の為にあやせと共に水から上がると、プールサイドから大きな声が聞こえて来た。

 声のした方を見ると人だかりが出来ており声を発した人物を見ることは出来ない。でも、その中年男性の声の特徴には聞き覚えがあり過ぎた……。

「……お洒落で可愛いアタシが囚人服なんて嘘なのよ……今日こそは京介を悩殺して……するつもりだったのに……」

 そして俺の耳に届いてしまった小さな怨嗟の声。その少女の声にも余りにも聞き覚えがあり過ぎたのだった。

「この声は……」

「あの、京介さん。今聞こえて来た女の子の声って……」

 あやせも心当たりがあり過ぎるのか引き攣った表情を見せている。

「ほぉおおおおおおおぉっ! 裸力を最大限に開放だぁあああああぁっ!」

 人垣の中央から再び獣の咆哮が聞こえた。もう、間違いようがなかった。

「そう言えばオヤジ……今日桐乃を連れてプールに来るって言っていたような」

「そう、ですか……」

 あやせは話しながら体が固まってしまっている。

 一方で俺は昨夜の自宅内での会話を思い出していた。

 

 

『京介、桐乃。明日プールに行くぞっ!』

 出前で済ませた夕飯が終わるや否や、赤褌一丁で仁王立ちしたオヤジはいきなりそんなことを告げてきた。

 半裸というオヤジの格好、そして数日前から突如旅に出ると言って消息を絶ったお袋。それで俺は今がどんな季節なのか思い出した。

『ああ、俺は明日朝から出掛けて忙しいんで同行はパスだ』

『ちょっと、京介っ!? 何、アンタ1人だけ逃げようとしてるのよ』

 オヤジの話の意図にまだ気付いていない愚かな妹が焦り始める。だが、もう遅い。

『裸(ら)か? 裸(ら)全開のイベントなのか?』

『ああっ。徹頭徹尾裸(ら)だ。裸(ら)を極めたイベントだ』

『京介。お前ももう18歳。昔であればもう立派な成人だ。よしっ、行って来い。自分の人生は自分で切り開くが良い』

 こうして俺はオヤジの裸イベントに巻き込まれるのを避けたのだった。

『あっ、あの……ちっとも訳が分からないんだけど? 説明してよ……』

 そして妹は愚かであり続けた。

『俺は1年に1度裸力(らりょく)を公衆の面前で開放しなければ、裸力が抑えきれなくなり裸王として完全に覚醒してしまう。裸王として覚醒した俺は服を着られなくなり、当然警察の制服も着られなくなる』

『それってつまり……明日プールに行かないと、警察をクビになるってこと?』

『そうだ』

 オヤジは仰々しく頷いた。

『そういう訳で明日プールに行くぞ。俺が服を着ていられるのも明日がタイムリミットだ』

『もう既に半裸だけどな』

 こうしてオヤジは桐乃を伴ってプールに出掛けることになったのだ。桐乃に若い娘が肌を晒してはいけないからと囚人服水着を手渡しながら。

 

 

「なあ、あやせ。俺としてはあの一角に近付かない方が良いと思うんだが……」

「偶然ですね。わたしもそう思っていた所です」

 2人で回れ右してこの場を離れようとする。ボーイ・ミーツ・ガールな展開を続けたいのならあの2人との接触は避けなければならない。

 それだけは確かなことだった。

 だが、俺達を待ち受けていたのは甘酸っぱい展開ではなく、胃酸が込み上げて来る酸っぱいものだった。

「アタシ……トラウマ抱えている。も、もうっ、嫌ぁあああああああああぁっ!」

 桐乃の悲鳴が上がった。それから人垣の中央が割れ、衆人服姿の茶髪少女がこちらに向かって走って来るのが見えた。

 そして、俯いたまま走り続ける少女は狙っているとしか思えない方向性で舵を取り……俺の背中へとぶつかって来たのだった。

 俺の不幸の幕開けだった。

 

 

 

 

「痛たたた……あの、大丈夫、ですか?」

 背中にぶつかって来た桐乃は余所行きの声を出した。

 声を掛けられてしまった以上もうこれ以上白を切る訳にもいかなかった。

「よぉ………………桐乃」

 ぎこちなさを理解しながら振り向いて声を掛ける。案の定背中にいたのは俺の妹高坂桐乃だった。

「えっ………………京介?」

 信じられないと言った抑揚の抜けた声を出す桐乃。

 更に桐乃は首を横に回してみせた。

「えっ………………あやせ?」

 そして俺の隣にいたあやせを発見して目を真ん丸くしてみせた。

 瞬間、俺はとても血生臭いものを感じた。

 妹と俺の共通の知り合いの女の子と一緒にプールに来た。ただそれだけの筈なのに何だかとても命の危機を感じる。そう、命に関わる修羅場の中にいるようなそんな錯覚を。

 相手は妹と俺を変態と罵り嫌う息の合った美少女JCコンビなのに。

 

「何で、あやせが京介と一緒にプールに来ている訳?」

 事態を把握した桐乃は瞳を鋭く尖らせた。そして怒りの矛先を俺ではなくあやせに向けていた。

「お兄さん……ううん、京介さんは桐乃じゃなくてわたしを選んだ。ただそれだけのことだよ」

 あやせも先程までのピンクっぽい雰囲気を一掃。ヤンデレモードの瞳で桐乃の視線を迎え撃っている。胸と下腹部に手を意味ありげに添えながら。

 何、これ?

 いつもだったら俺が桐乃に蹴り入れられて終わる所なんじゃないの?

「京介がアンタを選んだですって? そんな訳がないでしょう。だって、コイツは正真正銘のシスコン。妹のことしか目に入らない、妹しか性欲の対象に出来ない混じりっ気なしの変態野郎なんだからっ! アンタなんか相手に反応する訳がないでしょう!」

「あの……桐乃さん。事実無根のすっごい言い掛かりを述べられておられる気がします」

 周りを遠巻きに囲んでいる野次馬達の俺への視線が痛い。痛過ぎる……。

「たとえ京介さんが昔は頻繁に桐乃のパンツを盗んでは夜にゴソゴソ利用していたとしてもそれはもう過去のことっ! 今はもう京介さんはわたしの下着に夢中なんだからっ!」

「そんなことは今も昔も絶対にしてませんからねっ! 誤解しないで下さいよっ!!」

 桐乃でもあやせでもなく野次馬達に向かって叫ぶ。野次馬の視線が更に厳しくなって痛いというか思い切り刺さって来る。

 何で俺、桐乃とあやせに不当に変態扱いされているの?

 何、この展開?

 

「とにかく京介さんはこのわたし、新垣あやせをプールに誘ったのよ。桐乃じゃないのよ。まずそこを理解してもらわないと」

 あやせは俺の腕を両腕でホールドしながら桐乃にドヤ顔をして見せた。俺の右腕、あやせの胸で思いっ切り挟まれちゃっている。

 嬉しいイベントの筈なのに…………冷や汗、っていうか死の香りしかしない。何故だ?

「あやせはまだ、アタシと同じ中学生じゃないのよ。自分がしようとしていることの意味を分かってるの? あやせのご両親が認めてくれると本気で思ってるの!?」

「それがどうしたの? わたしは自分の最終学歴が中卒だって何も構わない。愛する人と子供と一緒にいる方がずっと大事だもの。両親に認められない? 家を追い出される? それが何だって言うの? 京介さんがわたしを選んだ事実に比べればどうでも良いことよ」

 売り言葉に買い言葉。ていうかこれ、何のバトル?

「中学生がプールだなんて不潔だってのよっ!」

 何が不潔なの?

「わたしは女で京介さんは男。若い男女でプールに行くことに何か問題でもあるの?」

 だから俺とあやせはプールに来ただけですよね?

 ちょっとドキドキするイベントも起きることは起きましたけど。

 何でこの子達、争ってるんだ?

「京介さんはわたしを選んだ。わたしだけを見ることに決めたの」

 あやせが腕を引っ張って俺の顔を引き寄せた。顔が、近い。ていうか、何なんだよ、これは?

「桐乃は早くわたしのことをお義姉ちゃんと呼ぶ練習をしたらどうなの?」

 そして必殺のドヤ顔を披露。

「あっ、アタシはアンタ達の仲がどうなろうと知ったこっちゃないけどさ……」

 桐乃は悔しそうに俺たちから瞳を逸らした。よくは分からないがこの喧嘩、ここに至って桐乃の劣勢が決定的になったらしい。

「そうだよね。桐乃は京介さんのこと大嫌いだって事あるごとに公言してきたもんね。なら、わたしが京介さんとプールに行こうが、強引にホテルに連れ込まれて酷いことされようが、妊娠しようが、可愛い赤ちゃん産もうが、親子3人で仲良く幸せに暮らそうが関係ないってことだよね?」

「ちょっと待てっ! その理屈は飛躍が過ぎるだろうが」

 何でプールに行くだけで親子3人で仲良く暮らす未来まで設定されにゃならんのだ?

 ていうかこの2人、何を売り言葉に買い言葉で心にもないことを大声で言い合っているんだ?

 おかげで俺は今にも警察を呼ばれそうな酷い視線で軽蔑されている。何かこれじゃあ俺は妹とあやせの両方に手を出している鬼畜変態野郎みたいじゃねえか。

「…………それでも、あやせはまだ中学生なのよっ! 義務教育を卒業するまで後半年もあるんだからねっ!」

「わたしは卒業式に大きなお腹で出席しても構わない。卒業を認めてくれないと言うのなら別に中退でも構わない。真実の愛に生きるとはそういうことなのよ」

「そっ、そんなぁ……っ」

 よろめく桐乃。どうやら勝負あったらしい。何の勝負だか分かりたくもないが。

「アタシも京介と血の繋がりがなく生まれたかった。そうすればアタシが赤ちゃんを……馬鹿ぁああああぁあああああああぁっ!」

 桐乃が天を突くような大声を上げた。その瞬間だった。

「とぉおおおおおぉっ!!」

 肉の塊が空から降って来たのは。そう、筋肉の塊が空中から真っ直ぐに俺達の元へと落ちて来た。

「オヤジっ!?」

 空中から降って来た肉の塊はオヤジだった。高く高く跳躍したオヤジが足と首だけで全身を支えるブリッジの姿勢で地面に落ちてきたのだった。

「何やら面白いことになっているようだな、京介よ」

 オヤジは俺に語り掛けて来た。だが、俺の方を向いているのは赤い褌が眩しい股間の方だった。

「面白くも何ともねえよ。妙な言い掛かりばっかり付けられて、俺の社会的なステータスがどれだけ株価ストップ安になっていると思ってるんだ?」

 桐乃もあやせも喧嘩するのに俺を妙な道具として利用しやがってぇ……っ。

「そんなことを言って妹を使って騒動を引き起こし、俺のマッスル・カーニバルを邪魔をして、お前の貧弱・カーニバルに客の目を集中させるつもりだろう。俺の目は誤魔化せん」

「オヤジって警官の癖に観察眼がまるでないんだな」

 どうしたら俺が羞恥プレイを楽しもうとしているっていう頭の狂った前提が湧き出て来るんだ?

「隠すな。貴様とてこの裸王(らおう)の息子。本当は人前に肌を晒したくて仕方がないのであろう? その海パンを脱げないことを口惜しく思っているのであろう?」

「いや、全然」

 手と首を横に振って答える。だが、オヤジは聞いちゃくれない。

「桐乃がモデルなんぞをやりたいと言い始めたのも全ては裸王の血の宿命。全ては人に肌を見られたくて堪らない業(カルマ)を抱えているからの仕業。だが、若い娘が肌を露出するなど俺は許さん。よって桐乃には水着撮影を認めさせていない」

「桐乃がモデルになった理由をこんな最低な風に解説してくれたのはオヤジが初めてだよ」

 このオヤジにこれ以上喋らせると俺の過去がどんな風に捏造されるか分からない。

 誰か助けてくれ。プリーズ。

 

「お義父さま……ご相談があります」

 救いの手を差し伸べてくれたのは意外や意外騒ぎの張本人の一角でもあるあやせだった。

「君は?」

「京介さんと一緒にプールに来る仲の新垣あやせと申します。以降お見知りおきを」

 あやせは頭を下げた。

 っていうか、何だその自己紹介の仕方は?

 何故桐乃の親友だと名乗らない?

「つまり君は……」

 俺に股間を向けたままシリアスに話すオヤジ。本気で辞めて欲しい。

「はいっ。お義父さまの未来の娘となる予定の者です」

「何故そうなるっ!?」

 俺達は一緒にプールに遊びに来ただけだろうが。あやせの奴、桐乃との喧嘩から意地になって意味の分からないことばかり言ってやがるな。

「なるほど」

 オヤジはブリッジの姿勢のまま腕を組み直した。

「君が将来俺の娘となるという訳か…………だが、断るっ!!」

 オヤジは大声で叫んだ。相変わらず股間で。

「何故、ですか? わたしが県議の新垣議員の娘だからですか?」

「それもある。新垣議員は我々警察を便利なタクシー代わりと勘違いしているので腹が立つ!」

「後で裏帳簿をお渡し致します。父が捕まればわたしがお嫁に行く際の阻害要因が1つなくなりますので」

「ありがたく受け取ることにしよう。嫁許容ポイント+1だ」

「ありがとうございます」

「もしも~し。どなたか他に警官はいませんか~? 今ここで物凄い悪巧みをしている2人がいますよ~」

 警官を名乗り出てくれる人はいなかった。

「だが俺が君を息子の嫁として認められない本当の理由は馬鹿息子自身にある」

 赤褌が俺の顔の方へと向く。

「って、話を俺に振るのかよ!?」

 そもそもあやせが嫁云々ってのは桐乃との喧嘩から出た売り言葉買い言葉に過ぎないってのに。何で俺を巻き込む?

「奴はこの裸王の息子。だが奴はいまだ裸王として覚醒を遂げておらぬ。そんな状態で嫁を娶ることなど断じて認められんっ!」

「そんな覚醒したくねえし、必要ないだろうがっ!」

 この裸(ら)は何で毎年この時期になるとお袋が姿を消して他人のふりをしようとするのかまだ分かっていないのか。

「つまり京介さんがお義父さまとの肉弾戦に勝利し裸王として覚醒すればわたし達の仲を認めてくれるということなのですね」

「何でそういう解釈になるんだ!?」

「ああ。そういうことだ。そういう風にしか解釈出来ん」

「どうしてだあっ!?」

 オヤジは武道全部合わせて何十段の猛者中の猛者だぞ。肉弾戦なんかやったら死んじまう。裸王になんぞ覚醒したら世間様への恥ずかしさから舌を噛んじまうっての。

「京介、あれで決着をつけるぞ」

 オヤジの赤褌が1枚の横断幕を向く。その横断幕には大きな文字でこう記されていた。

 

『本日 第1回 ベスト・パートナーコンテスト開催  男女2人1組であればどなたでも出場可能』

 

「俺は桐乃と出る。親子で出てはいけないとは書いてないからな」

 オヤジの赤褌が俺を威圧して来る。

「ええっ!? アタシまで巻き込まれるの!? この囚人服で脚光を浴びろっての!?」

「世の中とは理不尽なものだな」

「理不尽を押し付けているのはお父さんじゃないのっ!」

 俺の場合と違って思い切り逆らうことが出来ない桐乃。

「出場しないとお前の部屋のヲタグッズは全て処分する」

「おっ、鬼ぃ~~~っ!!」

「俺は筋肉だ」

 こうしてオヤジは桐乃とコンテストに出場することを一方的に決めてしまった。

「京介、お前もその子と参加しろ」

「嫌なこった。何で俺がそんな面倒臭いことをしないといけないんだ」

 俺のモットーはやらなくてもいいことならやらない。やらなければならないことなら手短になのだ。

「京介さん。わたし達の未来の為にお義父さまと戦って下さい」

 あやせが瞳を潤ませながら俺の手を握って来た。漫画だったら感動のシーンになるのかも知れない。が、現実的にそれはオヤジと戦って死ねと懇願しているだけに過ぎない。

 よって聞く義理はない。

「出場しなければ貴様の部屋に隠されているメガネもののエロ本を全て焼き払う」

「アンタ本当に鬼だぁあああああぁっ!!」

 あまりの鬼畜な提案に思わず絶叫してしまう。

「……そんなにメガネが好きなら幾らでもわたしがメガネを掛けたまましてあげるのに」

 ぷくっと頬を膨らませるあやせ。

 こうして様々な思惑が渦巻くまま俺達はベスト・パートナーコンテストに出場することになった。

 

 

 

「第1回ベスト・パートナーコンテストもいよいよ大詰め決勝戦を迎えました」

 司会者のお姉さんのアナウンスに観客達から大きな歓声が上がる。

「決勝に勝ち残った2組を紹介したいと思います。まずは現役警察官の高坂大介さんとその娘さんの高坂桐乃さんのビッグ・ボンバーズペアっ!」

 ゲンナリした表情で手をお義理で振る桐乃に向けて一際大きな歓声が上がる。

「そしてもう1組はその高坂桐乃さんのお兄さんである高坂京介さんとその婚約者の新垣あやせさんのモースト・デンジェラス・コンビペアです」

 あやせは誇らしげに胸を逸らしながら俺と腕を組んで、観客たちに向かってニコやかに手を振っている。

 現役プロモデルの微笑みだけあってその笑みは洗練されたもので男達からの反応は最も大きい。

 ……ていうか、俺の婚約者って何なんだ? 俺達はいつ結婚を誓い合ったと?

「それでは決勝戦を始める前に両チームに意気込みを聞いてみたいと思います」

 お姉さんはマイクを赤褌で仁王立ちしているオヤジへと向けた。

「1回戦から準決勝まで全て筋肉で威圧しての勝利。決勝戦の戦略は如何でしょうか?」

「無論、決勝戦でも何も変わらない。俺の裸(ら)と筋肉の力を馬鹿息子に叩き込むのみ」

 オヤジは当然とばかりに澄まし顔で応えた。

 

『俺が筋肉だっ! そしてこれが裸力(らりょく)の輝きだっ!』

 

 オヤジは圧倒的な筋肉を見せ付けて準決勝までの相手を全て恐怖により降参させて勝ち進んで来た。桐乃は何もしていない。

 ぶっちゃけどこにベスト・パートナーの要素があるのかまるで分からない。

 そんな俺の疑問を他所にお姉さんは今度はマイクをあやせへと向けた。

「同じく1回戦から圧倒的パフォーマンスで勝ち上がって来られた訳ですが、決勝戦はどうでしょうか?」

 お姉さんの質問の仕方は間違っていない。

 俺達は1回戦から準決勝まで全てあやせの力で勝ち上がって来たのだから。

 

『膝まづいて地面に額を擦りつけて下さい。そうしたら特別に足で踏んであげますよ』

 

 あやせは相手チームの男を悉く隷従させて勝利して来た。俺は何もしていない。

ぶっちゃけどこにベスト・パートナーの要素があるのかまるで分からない。

 そんな俺の疑問を他所にあやせはハキハキと返答してみせた。

「決勝戦ではわたしの自慢の夫がお義父さまの覇道にストップを掛けてくれると固く信じています」

 あやせはいい顔でそう宣言してくれた。間違いなく俺に死をもたらすであろう内容を。

 ていうか何で俺は勝手に夫に昇進しているんだ? 未亡人ごっこでもしたいのか?

「それでは決勝戦ではペアの絆の深さを見せて頂きたいと思います。決着方法はどうしましょうか?」

 お姉さんは再びマイクをオヤジへと向けた。

「我ら親子の決着は何でもありの総合格闘技バーリトゥードによる完全K.O.以外には有り得ん」

「その決着方法には欠片もペアの絆の深さは重視されていないよな?」

「夫は常日頃、高坂家の男は拳を通じてしか分かり合えない不器用な人間なのだと豪語して憚りません。お義父さまとの本気バトルによる決着しかないと思います」

「俺、そんなことは一言も喋ったことないよな? ていうかあやせは俺に死んで欲しいのか?」

「なるほど。父と息子の何でもありのバトルによる決着を両チームが選択しました」

 俺のツッコミという名の異議申し立てはあっさりとスルーされた。

 畜生。人間って孤独だぜ。

「それでは両チームに戦いが始まる前に勝利に対する意気込みを聞かせて頂きたいと思います」

 マイクがあやせへと向く。

「京介さんは必ず勝利します」

 自信を持って言い切るあやせ。その自信は一体どこから来るんだ?

「もしも京介さんが負けたら……ちょっと恥ずかしいですが」

 頬を赤らめて俯くあやせに観客たちがざわめき始める。

「現役女子中学生妻のわたしと京介さんの間に起きた恥ずかしい話を皆さんに赤裸々に披露したいと思います」

 あやせが恥ずかしそうに言うものだから勘違いした観客達から大歓声が上がる。けれど俺は知っている。

「それって絶対俺だけが恥ずかしい思いをする話だよな?」

 俺のツッコミは大歓声にかき消された。

「では高坂桐乃さんからもお父さんとお兄さんが戦うに当たって一言」

 マイクが桐乃に向かう。

「勝負にはならないと思うけどさ。万が一馬鹿兄貴が勝つなら高坂家の恥ずかしい話を披露するのをやめてあげても良いっていうか」

 赤くなった桐乃の言葉に勘違いした観衆達がまた妙な期待の声を上げる。でも、それも違う。

「それって、俺が負けた瞬間にあやせと桐乃の口から俺に関する恥ずかしい話が暴露されるってことじゃねえかっ!」

 俺のツッコミはまたしても大歓声にかき消された。

「でも、まあ、あやせと桐乃から絶対に負けるなってメッセージは頂いた訳だし……やってやっかっ!」

 あやせの為、桐乃の為、そして何より自分自身の為に俺はオヤジと本気で戦うことになった。

 

 

 

「つっ、強ぇっ! これがオヤジの力って訳かよ……っ」

「どうした京介? 裸力(らりょく)を自在に操ることが出来ねば俺には決して勝てん」

 俺とオヤジの実力差は圧倒的だった。

 オヤジは筋肉の塊で尚且つ武道の有段者。そして裸力を操り人間離れした力の持ち主。

 対する俺は普通の高校生で武道の心得なんかない。そして裸力を操ることも出来ない。

 打撃戦も組合も勝負にならない。

 だけどそんな俺が何とかオヤジの猛攻を耐えていられる理由。それは──

「京介さんっ。負けないで下さいっ!」

「アタシの兄を名乗りたいのならもっと意地を見せてみなさいよっ!」

 あやせと桐乃、2人の年下少女の声援に支えられてのことだった。

 妹や妹系少女の為ならどんな苦境も無限に耐えられる“お兄ちゃんパワー”の発動により何とかK.O.されるのだけは耐えていた。

 だが、お兄ちゃんパワーは耐えることは出来てもオヤジの圧倒的な筋肉と裸に対抗する武を持ち合わせてはいない。

「やっぱり裸力がなければオヤジに対抗することは出来ねえってのか」

 裸力には多く分けて2つの効力がある。

 1つは裸になって身軽になることで超神速移動を可能にすること。

 そしてもう1つは裸を他人に見られて興奮することで無限とも言えるパワーを体内から溢れ出させることがそれだ。

 1つ目については俺とオヤジは同じ半裸。条件に差はない。だが、後者に関して言えば……。

「あやせや桐乃、他にも女子中学生や女子小学生が沢山観客にいるこの中で裸(ら)を晒して興奮しろって言うのか!? 俺にそんな変態になれとっ!?」

 妹や妹分の少女達を前にして全てを曝け出す。

 もしそんなことをしてしまえば……。

 

 

『きょっ、京介さん。立派で素敵……です。ポッ』

 恥らいながら顔を俺の全裸から背けるあやせ。だがその視線だけは俺の体、しかも足の付け根の辺りを向いたままでいることに俺は気付いていた。

 そう、あやせは俺の下半身に釘付けだったのだ。

『おいおいあやせ。どんなに美しい芸術であろうと、JCがそんなものに興味を持ってはダメだぜ』

 口ではダメ出しをしながらも優しい俺はそっと上半身を逸らして下半身を強調する姿勢を取ったのだった。

 

『ばっ、馬鹿兄貴っ! その大きくてグロテスクなものを早くしまいなさいってばっ!』

 妹は顔を真っ赤にしながら俺にいつものように怒りをぶつけている。だが、その視線は俺の下半身をロック・オンしたまま離れない。

『桐乃は俺に対してもっと素直にならないとダメだぞ』

 俺はフラフープを回す要領で腰を前後左右に振ってみせる。

『馬鹿兄貴っ! アタシはそんなことを全然望んでないってのっ!』

 桐乃からの文句は尽きない。だが、妹は正座して姿勢を正しながらじっと俺の股間を凝視し続けたのだった。

 

『おいおい、子猫ちゃん達。君達は花も恥じらう可憐な乙女なのだから、幾ら究極の美であっても俺の全裸に釘付けになってしまってはダメだぜ。フッ』

『きゃぁ~~~~っ♪ 京介お兄様~~~~♪』×多数

 うら若きガール達は俺の美しき全裸に夢中だった。

 けれど純情可憐な乙女達が男の体に夢中になってしまうのは教育上良くない。

 だから俺は彼女達の好奇心と羨望の瞳を全面的に受け入れる訳にはいかない。

 だが、美しいものに夢中になりたいという彼女達の欲求を完全に潰す訳にもいかない。

 だから今日だけ、今だけ彼女達にちょっとサービスしてあげることにした。具体的にはラジオ体操を披露することにした。腰の辺りを激しく振りながら。

 まったく、俺も罪な男だぜ。

 

 

「体がっ、体が奥底から熱く滾りきって来やがったっ!!」

 年下の少女達に裸を余す所なく見られる。

 それを考えただけで俺の体はマグマよりも熱く滾って来た。

「熱いっ! 熱くて服なんて着ていられないっ!!」

 俺が現在身に纏っているものは海パン1枚のみ。

 だが、その海パン1枚が十二単を羽織っているよりも重く厚いものを着ている気がしてならない。海パンを履いていることが邪魔で邪魔で仕方ない。

「京介……貴様っ! この戦いの最中に全裸に目覚めたのか!?」

 オヤジが驚愕の表情で何かを言っている。だが、体が火照りきった俺にとってオヤジの言葉なんか今はもうどうでも良かった。

「うぉおおおおおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!!」

 体の奥底から湧き上がる熱を言葉に変えて叫ぶ。

 そしてその瞬間、俺の脳裏に魔法を発動させる呪文が突如思い浮かんだ。

 裸(ら)を極めし者しか扱えない究極の魔法を発動させるその呪文が。

 

「脱衣(トランザム)ッ!!」

 

 知らず俺はその魔法を発動させる呪文を大声で叫んでいた。

 俺の全身が眩い光で包まれ、光の中に海パンが消失していく。

 魔法少女が光の中でコスチュームという正装に変身を遂げるように、俺は光の中で全裸という正装に変身を遂げた。

「裸王(らおう)高坂京介。ここに見参っ!!」

 変身を遂げた俺は全世界の妹、妹分の少女達に向かって名乗りを挙げていた。

 

「きゃぁああああああああああぁっ! きょ、京介さんっ!? 公共の場で一体何を晒しているんですかぁっ!!」

 あやせが顔を真っ赤にしながら俺を見ている。

 裸王と化した俺の放つオーラの凄さに恐怖と恥じらいを覚えながら。

「そ、そんなおぞましいものを早くしまって……えっ? ち、小さい!? 桐乃から借りた薄い本だと男の人のってもっとこう……大きくてグロテスクで醜悪な……あれ?」

 あやせは俺のリヴァイアサンを目にして戸惑っている。当然のことだろう。リヴァイアサンと言えば超巨大海獣。少女をパニックへと導くものだからな。

「アンタっ! 何て気持ち悪いものを晒しているのよ!? 早く隠しなさいよっ! ……あれっ? 1円玉1枚で十分に隠せそうなそれを……」

 ビッチぶっても根っこは純情ガールな妹も俺の海獣に恐れ慄いている。

「何が晒されているの? 全然見えないんだけど」

「ちょっと。そんなこと言ったらあのお兄さん、傷ついちゃうわよ」

「いや、でもあの大きさじゃ隠すまでもなく見えないし……」

 他の年下少女達も俺の裸(ら)を前にしてパニック状態だ。

 全ての年下少女たちの視線を俺が、俺の全裸が独り占め。

 これこそが、これこそが俺が求めていた瞬間だったのだっ!!

「うぉおおおおおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!!!!」

 際限なく闘気が高まっていく。

 先程まで恐ろしいと思っていたオヤジが貧弱なおっさんに見える。

 今の俺は、そう、無敵だ。

「この状態で裸王として覚醒するとはやるな」

 オヤジは短く息を吐き出した。

「その根性は誉めてやる。だが、裸力を自在に操れるのが貴様1人だと思うなよ」

 オヤジは息を大きく吸い込み、そして──

「脱衣(トランザム)ッ!!」

 俺と全く同じ呪文を唱えたのだった。

 そして全身を眩い光に包まれて全裸戦士として降臨を果たした。

 

「中年があんまり無理しない方が身の為だぞ」

「ほざけ。全裸になりたての貴様に心配される謂れはない」

 プールサイドの特設会場に聳え立つ2つの全裸。

 俺達にもう言葉は要らなかった。

 全裸を極めた者同士は全裸を通じて語ればそれで良いのだから。

「行くぞ、オヤジッ!!」

「来い、京介ッ!!」

 下半身にとてつもない開放感を感じながらオヤジの顔面に向かって拳を繰り出す。

 俺達の勝負は両者ダブル・ノック・アウトになるまで続いたのだった。

 

 

 

「今日は本当に素敵でしたよ、京介さん」

 着替え終えて施設の外に出て来ると先に着替え終わっていたあやせが待っていた。

 夕日を背中から浴びているあやせはとても優しい表情で俺を見ていた。

「ありがとうな」

 あやせに褒められるなんて本当に珍しいことで何と返すべきなのかちょっと迷う。

「俺としては……俺とオヤジの恥を世間に撒き散らしただけの気もするんだがな……」

 最終局面は2人とも全裸だった。観客達に超神速で動く俺達の動きは見えていなかっただろうけど、恥ずかしいことには変わりがない。

「最後は2人とも仰向けで気絶しちゃいましたしね。クスッ」

 あやせは楽しそうに笑った。

「やっぱ軽く死んで来る」

 回れ右して暗い路地へと体の向きを変える。

 俺とオヤジの痴態はあやせや桐乃、司会のお姉さんやその他観客全てに見られた。

もう、どこか路地裏で舌を噛み切るしかなかった。

「待って下さい。京介さんに死なれたらわたしが困ります」

 あやせは俺のシャツをギュッと掴んだ。

「せっかくお義父さまにわたし達の仲を黙認して貰えるようになったのですから。だから京介さんには長生きして貰わないとわたしが困るんです」

 あやせが背中から抱き着いて来た。

「あの……プールでの一連の出来事は桐乃との対抗心から出た言葉で本気じゃないんだよな?」

 首だけ振り返りながら確認する。だって、あやせが俺のことを本気でなんてある訳が……。

「わたしじゃ、京介さんのパートナーには不足ですか? 貴方の恋人には相応しくないですか?」

 瞳を潤ませちょっと泣きそうな表情であやせは尋ね返してきた。

「いや、そんなことは……」

 言葉に詰まる。あやせのいつもとは違うしおらしい言動に驚いてどう反応したら良いのか分からない。

「わたしは、京介さんの一番の存在になりたいです。ずっとずっと一番の存在でいたいんです」

 あやせのその一言を聞いて俺の心臓は大きく跳ね上がった。頭がクラクラした。

「その、言葉で無理に返答して下さらなくて結構です。でも、わたしのことを選んでくれるのなら……」

 あやせは目線を俺から大通りから1本奥に入った路地へと移した。

 そこには『HOTEL』だの『ご休憩』だの『宿泊』だのの文字が大きく掲げられた建物が幾つも並んでいた。

「あっ、あやせっ!?」

 あやせの提案の意図を察して思い切り驚いてしまう。だって、性的なものに関して潔癖性とも言えるあやせが自分から、しかも俺をあんな所に誘うだなんて……。

「わたし、本気ですから。京介さんの為なら何だってしてあげられますから」

 あやせが瞳を潤ませたままつま先立ちになって段々と俺に顔を近付けて来る。俺は彼女の綺麗な瞳に意識を吸い込まれてしまい動くことが出来ない。

「京介……さん……」

 あやせの唇が俺の唇へと近付いて来る。後5cm、4cm、3cm……そして……

 

「京介、裸に目覚めた感覚はどうだ?」

 

 唇が重なる直前、オヤジに声を掛けられた。

「オヤジッ!?」

「お義父さまっ!?」

 慌てて離れる俺とあやせ。

「アンタ達、天下の公道で何をしようとしてたのよ?」

 オヤジの後ろでは桐乃が非難の視線を送って来ていた。

「いや、これはだなっ! ち、違うんだっ!」

「そっ、そうです。これは誤解なんですっ!」

 慌てて否定する俺とあやせ。何が違くて誤解なのかは俺達にもよく分からないが。

「お前達が何をそんなに慌てているのかは知らん。だが、京介は裸(ら)に目覚めて心が熱く滾っておるだろう」

「心が滾る時間はそんな長続きしねえっての」

 首を横に振ってオヤジの言葉を否定する。年がら年中滾ってたまるかっての。

「京介はまだ裸(ら)初心者だからな。まあ良い。いずれはお前も筋肉と裸(ら)の良さに心躍る日々を……クウっ」

 オヤジは突然よろめいた。

「おいっ? オヤジっ?」

 慌ててオヤジの体を支える。

「どうやら年甲斐もなく裸力を開放し過ぎた半動が出ているようだ。どこかで休憩しなければ」

 右手で頭を押さえながらオヤジは周囲に視線を動かしていく。

 そしてオヤジは先ほどあやせが見ていたホテル街の一角を発見した。

「よしっ。あそこでご休憩するぞ京介」

「「「えっ?」」」

 オヤジの提案に俺達3人の顔が一斉に引き攣った。

「ホテルで休憩がてら、裸の何たるかをじっくりたっぷりねっとりと京介に体で教え込んでやろう。男同士でたっぷりとな。桐乃とあやせくんはもう遅いから家に帰りなさい」

「オヤジ、その言い方はわざとなのか? 俺に対する嫌がらせか!?」

 オヤジの世迷言にどんな勘違いをしているか分からない妹達をゆっくりと振り返る。

「サイッテェッ!!」

 桐乃は電柱の下に吐き散らかされて嘔吐物を見るような蔑んだ瞳で俺を見ている。コイツの瞳は俺がオヤジをホテルに誘導しているように捉えていることを物語っている。

 全部、事実無根の言い掛かりなのに。

 大体、オヤジは文字通り俺に裸の良さをレクチャーするだけだ。桐乃が考えるような気持ち悪い展開になる訳がない。

 だが、桐乃がこれだけ勘違いしているということはそれよりもっと思い込みが激しいあやせの場合は……。

「変態っ! 近寄らないでっ!!」

 完全無欠に誤解に満ち満ちた憎悪の視線で俺を見ていらっしゃった。

「妹である桐乃と近親相姦の日々を送るだけでは飽き足らず、実の父とも爛れた関係を築いていただなんて……っ!!」

 あやせたん怒り100%モード。

「一応言っておきますと、全部あやせさんの誤解ですからね……」

「言い訳は見苦しいですよっ! 近親相姦でしか反応しない変態野郎がぁッ!!」

 やっぱりあやせたんは俺の話を少しも聞いてくれません。

「京介さん……変態は男同士、親子同士で仲良くしていれば良いんですっ! もうわたしに二度と話し掛けないで下さいっ! 変態変態変態変態変態ッ!!」

「言いたい放題ですよね……」

 ほんの数分前までとても甘い雰囲気だったと思ったんだけどなあ。

「行こっ。桐乃」

 あやせは桐乃の手を掴んで俺に背を向けて歩き始めた。

「うっ、うん」

 桐乃は1度だけ俺達の方を振り返ると、何やらとても複雑な視線を送って来た。それからあやせへと振り返るとあやせと共に自宅のある方角へと向かって夕日の街の中を消えていった。去年の夏の終わりを彷彿とさせる光景だった。

 

「あやせと桐乃は仲直りさせられたんだから……予定通り、だよな……」

 何かすっごく視界が溢れ出したしょっぱい水で歪んでいた。

「さあ、京介。この裸(ら)で疲れきった体を休めにホテルへ入るぞ」

「畜生っ! 俺は不幸だぁ~~~~~~~~~~っ!!」

 

 こうして俺の夏は終わりを告げた。

 オヤジの全裸インパクトと共に。1人の美少女とのお別れと共に。

 あやせの着信拒否状態がまた半年ほど続いたことは言うまでもないのであった。

 

 教訓 公共の場所で全裸になっちゃ絶対にダメだぞ。京介お兄さんとの約束だっ!

 

 了

 

 


 
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